読切小説
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sakura fever(gel+)
 春うららな、3月下旬。あたりには蝶が飛び交い、周りからは様々な鳥の鳴き声がする。桜もすでに満開になっており、まさに春といった雰囲気だった。…但し、天気を除いては。

「畜生、何で降水確率20パーセントなのに雨が降るんだよ!」

そう言いながら、私は公園にある東屋まで全力で走る。折角春を満喫しようと、自宅からちょっと遠く離れた公園に来ていたのがこのざまである。さっきまで薄曇りだった空は一変し、急に雨が降って来たのである。もちろん、雨が降る事は予想していない訳で、雨具は無い。つまり、ずぶ濡れで帰らなければなら無いという事だ。

「何で、こうも走らにゃならんのだ!」

そう言いながら私は、全速力で近くの東屋に走って行った。

 雨に濡れながらも東屋に着くと、そこには先客がいた。どうやら女性の様で、彼女もまた雨宿りの為にここに来たのだろう。私は息を切らせながら、雨宿りしている彼女の反対側にあるベンチに座った。

「はぁ…何で雨なんて降るんだよ…」

そう小声で独り言を言うと、それに彼女が反応した。

「あら、どうされたのですか?」

彼女が、微笑んで私に話しかけて来た。彼女の顔は少し色白いものの、とても綺麗だった。ただ、ちょっと服が濡れ透けているのが目の毒だが。

「いやー、ちょっと公園を散歩していたら、いきなり雨に降られましてね…」

「そうですか…」

「「…」」

私は、彼女との会話に詰まった。今まの女性経験の無さからか、私は何を話してていいかわからず、そのまま気まずい沈黙が続いて行った。この気まずい沈黙から抜け出すべく、私は一刻も早く東屋から出たかった。しかし、現在雨は土砂降りで、止む気配は一向に無い。さてどうしたものか。私は沈黙を紛らわすべく、景色を楽しむことにした。東屋の周りではソメイヨシノが咲き乱れ、雨の日に映る桜はどこか幻想的な雰囲気を醸し出していた。

(こうした桜もいいなぁ…)

そう思っていると、ある事に気付いた。彼女が、さっきの場所から私の方に近づいているのだ。どうもおかしいと思い、一旦彼女から視界を外し、もう一度見てみると、やはり近づいている。その証拠に、さっきまでいた場所がびしょびしょに濡れていた為である。それに、雨が降り出したのはつい数分前の話である。しかし、彼女の服はかなり濡れている。こんな短時間で服が濡れる事なんてあり得るだろうか。いや、この公園にはそうした原因となり得る池や川は無い。だとしたら考えられる事はただ一つ、このあたりで噂になっている、変出者である。と言うのも、ここ最近、このあたりでは雨の日に変出者が出るという噂が流れている。もしかすると、この美女がそうかもしれない。私は、変出者から何かされるのではないかと考えるとゾッとした。

「あ、あの…私、もう行きますね。さよなら。」

「あっ、あの…」

彼女が何か話したそうだったがそれを無視し、私は雨の中、自宅まで全力疾走した。

 走り続ける事約15分、私は家に着いた。家に着くころには服はびしょびしょで、全力で走ったという事もあってか、結構疲れていた。

「全く、休日だと言うのにこんな目に合うとは…」

そう愚痴りながらも、私は濡れた服からTシャツとジャージに着替え、自分の部屋にあるパソコンの電源を入れ、動画サイトで動画を見始めた。

 …が30分後、私は頭痛と悪寒を感じた。もしかしたら風邪を引いたのかもしれない。そう思うと、パソコンの電源を消し、ベットで横になる事にした。すると案の定、体が熱っぽくなり、体の節々がだるくなるのが実感できた。

(あ…これあかんやつや…)

そう思うや否や、私は睡魔に襲われそのまま寝てしまった。





 2時間後、私は頭の上に何か冷たい物が有るのを感じながら目覚めた。熱が出ている私にとって、とても気持ち良かった。

(ん?俺、ひえ○タ張った覚えは無いぞ?)

そう思いながらを向くと、そこにはあの東屋で出会ったあの女性が、私のでこに手を当てていた。

「あら、起きたのですね。」

彼女が、柔らかい声で私に話しかける。

「何で、あなたがここにいるんですか?」

「え?だって…熱出てて苦しそうだったし、私の体で冷ましてあげようかなって…」

話が飛んでいるのにも程がある。普段の私なら、不審者扱いして家から蹴飛ばしているが、今は熱が出ていて寂しいという事もあってか、別に咎めはしなかった。

「君は…誰だい?」

「私…ですか?私はぬれおなごの葵と言います。どうか、宜しくお願いします。」

驚いた。彼女は、魔物であるぬれおなごだったのだ。…しかし、なぜ私の所なんかに来たのだろう。もっといい男はいるはずなのに。

「葵さ。何で、私のとこに来たんだい?」

「だって…あなたが話しかけてくれたから。みんな話しかけたり、笑ったりすると、逃げ出すんですもの…」

「そうだったのか…」

どうやら、例の不審者の正体は葵の事だったようだ。ただ、ちょっとした事で逃げ足す人達に、私は少し怒りを覚えた。

「だけど、笑ったり、話しかけられたりしただけで逃げるなんてちょっとひどいよね。」

「あら、あなたもそれと似たような事をしましたけど?」

「うっ…ご、ごめん。」

「ふふっ、気にしていないから大丈夫です。」

今で言うブーメラン発言と言うやつか。私はちょっと罪悪感を覚えた。しかし、そんな私を彼女は許してくれたのだった。何て心が広い人なのだろう。そう思っていると、お腹が空いていたのか、私の腹の虫がグーッと大きな声を上げた。

「あらあら…何か食べる物、作ってきますね。」

「あっ、そんな事、俺がやるでいいよ。」

「大丈夫ですわ。それに、病人は寝ていなきゃ治りませんよ。」

そう言うと葵は、台所へと入って行った。…今日ばかりは、葵に甘えるとしよう。

 数十分後、葵は土鍋に雑炊を作って持ってきた。土鍋からは、美味しそうな匂いがしている。

「さ、どうぞ召し上がれ。」

そう言うと葵は、スプーンで雑炊をすくい、口でフーフーして冷ますと、私の口元に持って行った。

「これは…あの、アーンってするやつかい?」

「ええ、そうよ。嫌だったかしら。」

「いや、素直にやるとするよ。」

そう言うと私は、口を開け、葵の作った雑炊を食べた。味は、とても美味しく、味付けも丁度良かった。

「美味しいよ、葵。」

「良かった。」

そう言うと二人は、微笑んだ。何だが本当の夫婦みたい。いや、葵と結ばれたい。私は内心で、そう思っていた。

 雑炊を食べ終わり、2時間ほどした後、私は寝ることにした。風邪を引くと、いつもは寂しい気分になるのだが、今日ばかりは葵がいるから大丈夫そうだ。ベットに入り、もう寝ようとした時、葵は思いがけない事を私に問いかけた。

「あの…風邪が治っても、このまま家にいてもいいですか?」

「…いいけどその代わり、家の家事をやってくれるかい?」

「はい、喜んで。」

そう言うと葵は、涙ぐんだ声で私に答えた。そして、ベットで寝ている私の頭を撫で始めた。その気持ち良さに私は、すぐに眠りに落ちて行った。これから葵とどう過ごそうか、子供は何人作ろうか、仕事も人一倍頑張らないと…葵とのこれからの事を思いながら、私は夢の世界へと旅立っていった。傍らにいる愛しき妻と共に。

13/03/31 22:51更新 / JOY

■作者メッセージ
 今日東海地方降水確率20パーセントって行った奴、後で表に出ろ。

はい、見事に雨で濡れてしまい、現在風邪気味の作者です。皆さんも体調管理だけは気を付けてください。

ご意見、ご感想、お待ちしております。

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