読切小説
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大賀さんなんてタイプじゃない
 俺の名前は、飯田恭平。ごく普通の高校生だ。

 学校の成績も中の中。運動神経も中の中。体格も中肉中背。顔も平凡。よくモブ顔とか言われるぐらい特徴がない。口の悪い友達は、特徴がないのが特徴とか言いやがる。まったく、失礼な奴らだ。
 でも、俺自身、だからと言って、何か頑張っているわけじゃないからあんまり偉そうな事は言えないんだが。

 正直なところ、ぱっとしない自分に早々に見切りをつけたという感じだ。

 自分の中に何か特別なものが眠っているなんて可能性を信じてあがいたのは中一ぐらいまでだった。中二になるまでに中二病を完治したわけだ。

 だけど、これでも、子供のころは子供相応に大それた夢を持っていたんだ。

 子供の頃に、勇者が囚われのお姫様を助け出し、魔王を倒すというRPGが流行った。今思えば、かなりチープなストーリーだが、俺は将来、勇者になって、お姫様を助け出すんだって、夢と希望に燃えていた。
 と言っても、結局のところ、俺がやったのは、新聞紙を丸めた剣と、ダンボールで作った鎧を着て、家の中のタンスを開け回ったぐらいだ。それを母ちゃんに思いっきり怒られて、ゲームオーバーだ。それ以来、勇者の俺は教会で復活もされず、冒険の書は封印されている。

 この世界には現実に魔王がいるし、魔物の住む魔界もある。人間の住む世界にも数は少ないが魔物はいる。でも、魔物が人を襲うようなことは――性的な意味で以外はない。
 魔物は人間に非常に友好的だ。大昔は魔王や魔物を排除しようということがあったらしいが、今はそんな魔王を倒すなんて、時代錯誤もはなはだしい。今でもそんな事を言っているのはごく一部の過激思想のカルト教団ぐらいだ。
 だから、魔王を倒す勇者なんて子供だましの話としても、馬鹿げている話だ。
 そう考えると、子供のころに流行ったRPGなんて、よく販売できたなと思う。

 ともあれ、世の中というのを知ってしまって、俺の夢は終わった。まあ、始まってもいなかったんだが。

「恭平! いつまで寝てるの! いい加減に起きないと、学校に遅刻するわよ!」

 ラスボスの声がして、俺は時計を見た。

「7時……52分? やばっ!」

 俺はベッドから飛び起きて、ハンガーにかかっているカッターシャツを着た。

 8時に家を出ないと学校に遅刻する。なにより、こんな時間に起きたら、キキーモラのMof’sキッチンもゆっくり見れないじゃないか!

 俺は制服を着ると、急いで歯を磨いた。髪の毛をセットする暇はないから、とりあえず、寝癖だけを直した。

「恭平。朝ご飯は?」
「遅れるから、今日はいい」
「だめよ。朝をちゃんと食べないと。ほら! トースト焼いてあるから、これをかじりながら学校行きなさい」

 ジャムとマーガリンをたっぷり塗ったトーストを差し出された。確かに、朝を抜くと腹が減って、二時間目でガス欠になるが、だからと言って――

「そんな、みっともないことできるかよ」
「学校着くまでに食べればいいのよ。男子高校生なら余裕余裕」

 余裕とか、そういう問題じゃない。だけど、ここで押し問答してても、仕方ない。俺はトーストを受け取ってくわえると家を飛び出した。

 腕時計を見ると8時を2分も過ぎてる。走らないと間に合わないな、こりゃ。

 生まれてはじめて、トーストくわえながら走ったが、食べれない。走りながらものを食うのが、こんなに難しいなんて知らなかった。人生、なんでも経験が重要だな。

 トーストはほとんど食べれないまま通学路を半分ほどきたところにある、曲がり角を曲がった。

 曲がり角を曲がった俺の目の前に、突然、大きな人影が現れた。

「う、うわっ!」

 俺はその人影を避けきれずにぶつかってしまった。柔らかい感触がしたが、俺の体当たりにもびくともせず、俺だけが弾き飛ばされた。

「いてて……」

 俺が尻もちをついて、思いっきり打った腰をさすっていると、俺がぶつかった何かが覆いかぶさるように影を落としてきた。

「な、なんだ?」

 俺が見上げると、そこに立っていたのは魔物娘だった。

 実際に生で見るのは初めてだが、すぐにわかった。緑色の肌をして、額に角を生やしている人間なんていない。

 身長は俺よりも頭一つは高い。言っておくが、俺の身長も平凡だ。だけど、俺よりも大きな女なんてそうそう見ないから、かなりでかく見える。圧迫感、半端ねー。
 だけど、魔物娘は美人、美少女ばかりという話は本当のようだ。でかい女で、不良っぽい感じがして、正直俺の好みじゃないが美人なのは間違いない。肌の色や角とかあるのに、それが変に思えないぐらい美人だ。

 ていうか、この魔物娘が着ているのって、セーラー服の袖が引きちぎられてノースリーブになっていて、今まで気づかなかったけど、うちの学校の制服じゃないか? うちに魔物娘とかいたっけ? しかし、スカート短すぎだろ! パンツが見えるぞ。

 俺は変態紳士だから、ラッキースケベでパンツを見ようとは思わない。なので、視線を上げて魔物女の顔を見つめていた。

「なに、人の顔ジロジロ見てんだよ?」

 女にしてはかなりドスの効いた声が降ってきた。

「え? いや、その……」

 まさか、パンツが見えそうだからとか言えるわけがない。

「こっちじゃ、人にぶつかっておいて、ガンつけるのが流儀なのかよ?」
「ご、ごめんなさい」
「なんだ。ちゃんと喋れるんじゃネーか」

 そういうと、魔物娘はニカッと笑った。くそ。美人なだけに、結構、まぶしい笑顔をする。

 笑った後に手にしたトーストをかじっていた。……トースト?

 俺は自分がくわえていたはずのトーストを探したが、地面のどこにも落ちていない。そして、魔物娘の手にあるマーガリンとジャムのたっぷり塗ったトーストはすごく見覚えがある。

「これはぶつかってきた慰謝料にもらっとくぜ。じゃあな」

 意地悪そうに笑って、ジャンプすると塀の上に乗って、そこからさらにジャンプして屋根の上に乗ると、そのまま走り去って行った。

 漫画でしか見たことのない光景に唖然としていたが、はっと我に返って、時計を見た。

「ぐあっ! 遅刻だ!」

 不幸中の幸いというか、俺はトーストという口枷が取れたことで、100パーセントの能力を発揮して走って学校に向かうことができた。ただし、平凡な足の速さなので大したことはないので遅刻は確定だった。





「おはよー、飯田。今日はずいぶんとゆっくりだな」

 俺が朝一番から疲れきった顔で教室に入ると、悪友の宇都宮が清々しい笑顔で声をかけてきた。こいつは、おもしろそうなことが大好きな奴だから、どうせ、俺の遅刻ぎりぎりのことも面白話として聞き出そうというつもりだろう。

「朝、起きたらギリギリで、走ってきたんだよ。予鈴に間に合うはずだったのに、途中、変な奴にぶつかって、反省文、書くことになった」

 予鈴が鳴ってからあとに校門をくぐると、準遅刻とかで、ノートに学年とクラスと名前を書かされて、あとで反省文を提出しなくてはいけない。まったく、ついてない。

「そりゃあ、災難だったな」

 意外と反応があっさりとしていたので拍子抜けした。

「それよりさ、今日、このクラスに転入生が来るらしいんだ。女子だといいよな。かわいい子限定で」

 宇都宮のセクハラ発言にクラスの女子の視線が少し痛い。こいつ、こういうの気にしないから、一緒にいる俺はいい迷惑だ。

「こらー。もう、予鈴はとっくの昔に鳴ってるぞー」

 担任の若林先生が入ってきたので俺たちは席に着いた。

 平凡で特徴がないからといっても、悪い意味で目立つ特徴なんていらない。平凡なら平凡の特徴を生かして目立たずに生きる。大勝ちもしないのが、大負けもしない。これが俺の平凡処世術だ。

「朝のホームルームを始める前に転入生を紹介するぞ」

 先生は入り口の方に顔を向けて頷いた。

「女子だといいな」

 隣の席の宇都宮が俺の肩をつついて話しかけてきた。俺はつい、入ってくる転入生の方ではなく、宇都宮の方を向いて苦笑を浮かべた。

「ん?」

 転入生が入ってきた気配がすると、途端に宇都宮の顔が硬直した。宇都宮だけでなく、他のクラスメイトの顔も硬直していた。
 俺は何かあったのかと振り返ると、教壇の方へと歩いていく転入生の姿に目を疑った。

 転入生は、教室の入り口を身を屈めなくては頭をぶつけるほど背の高い、緑色の肌をした大女だった。頭に角まで生えている。学校指定のセーラー服は袖が引きちぎられていて、普通にしていてもパンツが見えそうなほど超ミニのスカートだ。

 大女が正面を向いて、俺たちに顔を見せた。その顔に俺は見覚えがあった。

「あーっ! お前!」

 俺は思わず大きな声を上げてしまった。

「ん? なんだ。また、お前か」

 大女が大声を上げてしまった俺に気付いて、何か勝ち誇ったように笑っていた。

「飯田。お前、大賀と知り合いか?」

「い、いえ、違います。今朝、たまたま見かけただけです」

 先生が俺たちのやり取りに勘違いしたので、すぐに否定した。

「だが、初対面じゃないようだし。飯田、大賀さんの学校の案内を昼休みにでもしてやってくれ」

 先生は俺に転入生のお世話係を押し付けてきた。この先生はいつもこんな感じで、面倒なことは俺たちに押し付けてくる。

「あー、このクラスに転入することになった大賀さんは、見ての通り、魔物と呼ばれている人種だ。種族はオーガというらしい。両親の都合で人間界の学校に通うことになった。魔物と言っても、人間と変わらない。みんな、仲良くするように。それじゃあ、自己紹介してくれるか?」

 先生はあっさりとした説明で転入生に丸投げした。

「大賀キャサリンだ。よろしく」

 その先生よりもあっさりしている。簡素すぎるだろう! 自己紹介、名前だけかよ!

 俺以外もそう思っただろうが、なにしろ、美人だけどでかいし、美人だけど怖そうだし、美人だけど凶暴そうだから、誰も何もツッコミを入れない。

「席は後ろの空いている席に。それじゃあ、ホームルーム、始めるぞ」

 先生はもう、自分の手を離れたと平常運転モードになった。いい加減すぎる。

 俺は、昼休みに大賀さんを案内しないといけないということに、朝から気を重くした。







 普通は、転入生が来れば、その周りを囲んで質問責めにするものだ。しかし、今回に限ってはそれはなかった。

 なにしろ、相手は魔物だ。人間界に来れたのだから、一応、無闇に人を性的に襲わないという審査はパスしたはずだが、それでもやっぱり警戒する。それに加えて、大賀さんの見た目である。

 美人だけど、大きいし、顔つきもきつそうなので、威圧感がある。話好きの女子も外見から敬遠しているようだ。女好きの男子も「軟弱者」と一蹴されそうで、なかなか話しかけられずにいる。

 そうこうしている間に、午前中の授業が終わってお昼休みになってしまった。

「ええと、大賀さん」

 正直なところ、案内役はしたくないが、しなかったことがわかると内申書とか容赦なく悪く書く先生なのでしないわけにはいかない。

「なんだよ?」

 愛想のかけらもないな。美人なんだから、もう少し、そういうのがあればモテそうなのに。まあ、俺には関係ないけど。

「えーと、自己紹介がまだだったよね? 俺、飯田っていいます」
「で、何か用かよ、飯田?」

 いきなり呼び捨てか。怖いから文句は言わないけど。

「あー……先生に学校案内するように言われているんだけど、お昼はお弁当? それとも、学食?」
「弁当だよ。どこか食べる場所はあるか?」

 水兵が持っているようなズダ袋から巾着に入った弁当箱を取り出した。サイズはでかいが、オレンジと黄色の巾着はちょっとかわいい。

「え? えーと、教室でもお弁当を食べていいけど……外の方がよければ、中庭とかにベンチがあるよ」
「じゃあ、そこに行く。案内しろ」

 大女が立ち上がって、案内しろと言った割には、すたすたと教室を出て行った。俺はそれを慌てて追いかけた。横目に見ると、宇都宮が俺に合掌している。あいつ、あとで殺す。想像の中で。

 うちの学校は、校舎のA棟とB棟の間が中庭になっている。ベンチとか花壇とかがあって、一応は憩いの場というつもりらしいが、昼休みはほぼ校舎の影になっているし、花壇もあまり力を入れて整備されていないから人気がない。

「ここが中庭だけど、お弁当を食べるなら学食の方がいいかもよ」

 俺はC棟にある学食を指さしたが、大女は首を振った。

「ここでいい」

 そういって、ベンチに腰を下ろした。俺も仕方なくベンチに座ろうとすると――

「案内は結構だ。もう飯田は教室に戻っていいぞ」
「いや、でも、学校の設備の場所とか」

 俺は先生に言われたからには案内しないわけにはいかないと言い返すと、大女はすっとある場所を指さした。そっちを見ると、学校の構内地図が書いてある看板があった。

「あれを憶えていれば問題はないんだろ?」

 俺はぐうの音も出ない。

「だ、だけど、体育の時、使う女子更衣室とか、どっちのを使うとか」
「飯田は女子更衣室の使用ルールを男子なのに知っているのかよ?」

 知ってるけど、知ってるって言ったら変態になる。

「センコーにはアタイが案内を断ったと言っておくからさ」

 大女がふっと笑って言ったのに、俺はなぜだか腹が立った。

 先生に言われたから仕方なく案内役を引き受けたし、はっきり言ってやりたくはなかった。だけど、先生に言われたことを、反抗もしないくせに嫌々やっている態度を隠さないことを笑われている気がした。

「そんなわけにはいかないだろ」

 俺は強引にベンチに腰かけて自分の弁当を広げた。

「アタイなんかに関わってもいいことなんてないのに、変わったやつだな」

 大女が珍獣でも見るような目で俺のことを見ていたが、俺は気にしない。

 ふと、俺は魔物娘がどんな弁当を持ってきたのかが気になった。ちらりと横目で見ると、大きさこそでかいが、サラダや果物なども入った彩りのいい、おいしそうな弁当だった。

「な、なんだよ。人の弁当をジロジロ見やがって」

 俺の視線に気づいて大女があわてて弁当を手で隠した。

「いや、美味そうな弁当だなと。お母さん、料理が上手いんだな」

 俺が弁当を褒めると大女が顔を真っ赤にした。やっぱり、不良みたいな外見でこの弁当は恥ずかしいのか? 美味そうなのに。ああ、それで教室で食べなかったんだな。

「おかん、初日だからって、妙に気合入れちゃってな」

 顔を赤くしたまま、威勢悪く、小さい声で恥ずかしそうに言った。その姿は妙に可愛かった。うん。多分、ギャップのせいだ。勘違いするなよ、俺。

「いいじゃん。大賀さんのお母さんって、やっぱり、オーガなんだよね?」

 前にネットの魔物娘マニアのサイトで見たとき、オーガという種族はお世辞にも家庭的とは言えないとか書いてあったのを思い出した。まあ、家庭的な鬼って、イメージ違うしな。

「そうだよ。なんか、うちのおとんと一緒になってしばらくして、家事の講習会に行って目覚めたんだって言ってた。それまでは、おとんに生肉食わせようとしてたって」
「そ、それは、すごいね」

 生肉が食卓に並ぶ方がオーガらしい気がするが、少なくとも、旦那さんは家事に目覚めてくれてラッキーだよな。

 そんな話をしているうちに弁当を食べ終わり、俺はもう一度案内を申し出ようと思った。

「大賀さん」
「てめえが、大賀ってのか?」

 俺の言葉にドスの利いた声が重なった。俺がその声がした方を見ると、三年のスケバングループの先輩が三人立っていた。

 今時、スケバンかよ。って思うんだが、ロングスカートとかじゃなくて、見た目はギャルっぽい。でも、暴走族の彼氏がいたりして、それをバックにカツアゲとかしている。はっきり言って、関わりあいになりたくない。

「大賀さん、この人たち、三年の先輩で、彼氏が暴走族で、あんまり逆らわない方がいいよ」

 俺はそこらの事情を知らないのはかわいそうと思って耳打ちした。

「なに、ごちゃごちゃ言ってんだよー。えっ?」

 スケバンギャルの一人が俺を蹴った。理不尽だし痛いけど、逆らったらどんな目に合うかわからないから、俺はとりあえず謝った。

「ちょっと、ツラ貸せよ。このガッコーのルールってのを教えてやるからよ」
「そうかよ。それはありがたいね」

 大女が立ち上がって応じた。スケバンギャルたちが、大賀さんが平均的な男子よりも頭一つ高い身長なのにちょっとビビったのがおかしかったが、笑ったりしたら、また蹴られると我慢した。

「そういうわけらしいから、案内は十分だよ」

 大女は俺にそう言って、スケバンギャルたちと一緒に校舎の裏に消えていった。

 結局、大女は午後の授業が始まる直前に戻ってきた。怪我とかはしていない様子だったけど、少しだけ制服のダメージが増えている気がした。

 やっぱり、不良は不良同士。俺とは住む世界が違うと思った。







「大賀さん、また一人で中庭で弁当食べてるぜ」

 宇都宮が教室の窓から中庭を覗いて俺に言ってきた。なんで、俺に言うんだよ?

「クラスで孤立して、イジメとか思われたらどうするんだよ?」

 それをなぜ、俺に言う?

「そうよ。ちゃんと相手してあげなさいよ」

 それを言うなら、女子。お前らがしろよ。

「飯田君が大賀さん係でしょ」

 なんだよ、その生き物係みたいなノリの係は?

 大女が転校してきて二週間ほど経った。

 初日にスケバンギャルグループから呼び出しを食らって、どうやら、それを撃退したらしい。だが、バックの暴走族の彼氏に泣きついて、そいつらに待ち伏せされたらしい。

「暴走族、壊滅したらしいよ」

 襲撃したと思われる翌日、暴走族のメンバーは警察に解散届を出して、解散したらしい。メンバーの何人かが行方不明になっているという噂があるし、スケバンギャルたちも後ろ盾を失ってしまったので学校にも来ていない。

 学校としては平和になっていいのだが、今や「大賀キャサリン」の一人天下という状態なのだ。

 最近は学校には来ているが、授業も出たり出なかったりが続いている。

「大賀さんと話せるの、飯田君だけなんだから」

 そんな理由で俺は昼休みの終わり教室を追い出され、探しに行かされるのが、ここのところの定番だった。

 大女が行きそうなところはだいたいわかっている。

 体育館裏と校舎裏と屋上。定番の不良のたまり場ばっかりだ。複数、まわるのは無理だから、どこか一か所だけ探しに行くことにしていた。

 今日は天気がいいから屋上に決めた。ABC棟と三つあるが、面倒だから今いるA棟にした。

 屋上に出ると、少し風があって、俺は顔をしかめた。確かに天気がいいから気持ちいいが、好き好んでこんなところに来る奴の気が知れない。

「大賀さん。いるんだろ?」

 俺はペントハウスの上に向かって声をかけた。いなかったら恥ずかしいが、なんとなくいるかどうかが最近、わかる気がしてきた。
 あー、中二じゃないからな。大女がいるといい匂いがするんだ。たぶん、家事に目覚めたという母親がいい柔軟剤を使っているのだろう。

 返事はなかったが、俺はペントハウスの屋上に上がるハシゴを登った。

 頭が屋上の上に出て見渡すと、大女はいた。しかも、こっち側に足を向けている。ただでさえ、スカート短いんだから、見えるじゃないかって。

 そういえば、こいつのスカートって、こんなに短いのに、今までこいつのパンチラを見たって奴いないな。どうやってるんだろう?

「大賀さん」

 俺はしょうもないことを考えるのを止めて、もう一回声をかけた。

「飯田か。何か用かよ?」

 眠たそうな声で応えながら上半身を起こした。少しめくれ上がったセーラー服の裾から縦長のかわいいおへそが見えた。

「よ、用っていうか、とりあえず、その、おなかが丸見えだから隠せよ」

 俺はハシゴにしがみついたまま顔をそらせた。

「ああ……見せても減らないんだから、隠す必要はねぇ」

 俺をからかうようににかっと笑って言った。こういう顔をクラスメイトに見せれば、みんなも誤解せずに打ち解けてくれると思うのに、もったいない。

「で、アタイのスカートの中でも覗きに来たのか?」

 短いスカートをつまみあげるから、俺は手を離して「違う」と言いかけた。ハシゴを持ていたのを忘れて。

「あぶねっ!」

 大賀が機敏な動きで俺の腕をつかんで、落ちないように引っ張ってくれた。

「あ、ありがとう、大賀さん」

 俺は心臓をドキドキさせながら、自分の手でハシゴを掴みなおした。

「飯田はどんくさいんだから気をつけろよ。こんなところに登ってきたら危ないだろう」
「誰のせいでだよ」
「あ、そうか。わりぃわりぃ」

 俺の反論に悪びれることなく答えると、ペントハウスの屋上からそのまま飛び降りた。俺が「あっ」と声を上げる間に、ちょっとした段差を飛び降りたかのように平気な顔で屋上に立っていた。

「あ、危ないだろ!」
「アタイは鍛えてるから大丈夫なんだよ」

 俺もハシゴをちゃんとしっかり降りて、屋上に着地した。

「それでも怪我したらどうするんだよ」
「心配してくれてんの? それとも、自分が先に降りて、下から覗きたかったのか?」

 俺は顔を真っ赤にした。恥ずかしいのじゃなくて、怒りでだ。

「悪かった」

 大賀は珍しく神妙に俺に謝った。俺は逆になんだか拍子抜けしてしまった。

「わかってくれたら、いいよ、大賀さん」
「キャサリンだ」

 俺は何のことかわからずに首を傾げた。

「大賀というのは、おとんの苗字だから、いいんだけど、オーガと音が似てるだろ? 種族名を呼ばれてるみたいで、なんか落ち着かないんだよ」

 そっぽを向きながら俺に言った。

「……わかってるよ! キャサリンなんてかわいい名前が似合わねぇのは」

 急になんで怒ってるのか意味がわかんねー。魔物娘心は女心よりも複雑だ。童貞の俺にはわからん。

「じゃあ、略して、ケイトとかじゃダメなのか?」

 キャサリンに抵抗があるなら略称ならいいんじゃないかと提案してみた。

「どこをどう略してだよ?」

 大賀が吠えた。結構迫力があるんだが、なんだか、今は子犬に吠えられた気分だった。

「アルファベットの綴りからだろ? 英語圏だと、そういう風に略すんだって、前に英語の先生が言ってたぞ」
「そうなのか? ケイトか……」

 大賀が考え込んでいた。横顔を見ている限り、悪い気はしていないみたいだ。

「気に入ったか? じゃあ、これから、ケイトと呼ぶな」
「ちょ、勝手に決めんな」
「じゃあ、別のがいいのか? 他は何があるんだろうな?」

 俺は他の略し方は知らないからスマホで調べようかとポケットをまさぐった。

「いや。ケイト。ケイトでいいよ。しょうがないから、そう、呼ばせてやる」

 俺がスマホを取り出そうとするとケイトが妥協してきた。というか、気に入ったなら、最初から素直に言えよ。

「で、何しに来たんだよ?」
「何って……ああ! 授業始まってる!」

 俺は時計を見て、もうとっくに午後の授業が始まっているのに気づいた。

 二人そろって盛大に遅刻して教室に戻って、ほんと、最悪だった。







 いつのまにか、俺とケイトは教室以外で一緒に弁当を食べるようになっていた。

 探しに行かされるのが面倒なのもあるが、だんだん、ケイトと仲がいい俺は、舎弟か何かみたいに思われているらしい。クラスメイトから距離を置かれているのに気づいたからだ。

 イジメというわけではない。まあ、俺も逆の立場ならそうしていたからな。

 それに、ケイトは、食べた後は昼寝するのが日課らしい。俺はその近くでスマホゲームとかして過ごしている。

 会話するわけではないが、ケイトとのこの時間は妙に居心地がいいので、クラスを追い出されたのも気にしてない。

 今日みたいに雨の日は、体育館の外通路で放置された傘立ての上に板を渡して、ベンチにしてそこで食べていた。

「いただきます」

 ケイトの弁当は、さすがに初日のように気合は入っていなかったが、いつもおいしそうだった。

「なあ、何かおかず交換しないか? こっちの好きなおかず取っていいから、そっちの一つくれないか?」

 俺はついに我慢できずにケイトに交換を持ちかけた。

「な、なんだよ! いきなりだな」

 ケイトは弁当を避難させて牙をむいた。

「前から美味そうな弁当と思ってたんだよ。だから、ちょっと味見したくって」

 俺が手を合わせて拝んだ。

「そ、そういうことは、前もって言え」
「いや、こういうのって、その場のノリじゃん」
「ノリで……人間はそういう風に男女が気軽におかずの交換をするのかよ?」

 ケイトが何か不服そうに不機嫌な顔になった。魔物娘の世界では弁当は聖域なのか?

「仲いいとすると思うけど。嫌なら無理には言わないよ」
「そうなのか……じゃあ、アタイはそっちの鶏のから揚げをくれ」

 何か観念したのか、ケイトが俺の弁当の主力を指名してきた。

「うっ……メインを狙うとは。じゃあ、俺は……卵焼きにする。うちのと違ってジューシーそうなのが気になってたんだ」

 俺はケイトの弁当には必ず入っていた黄色い焦げてない卵焼きを指名した。

「これはだし巻き卵だよ。だしを入れて焼いているから、こっちじゃ珍しいかもな」
「ダシマキ卵? 魔界では定番なのか?」

 卵焼きに見えたが、別の料理なのかと俺は驚いた。

「うちのおとんが関西出身だから、おかんの卵焼きはずっとだし巻き卵なんだよ」

 ケイトが作り方はほとんど卵焼きと同じと説明してくれた。

「ケイトのところは両親、仲いいな」

 俺のうちもいい方だが、ケイトの話ではうち以上にアツアツだ。

「娘のアタイが恥ずかしいほどラブラブなんだよ。目の毒だ」

 ケイトが口をへの字に曲げた。

「あははは。じゃあ、どうぞ」

 俺は弁当箱を差し出し、ケイトはから揚げを取り上げて、ご飯の上に乗せた。

「味は保証しないぞ」

 差し出された弁当から俺はだし巻き卵を持ち上げた。普通の卵焼きよりも柔らかい。箸で切ってしまわないように慎重にご飯の上に移動させた。

「じゃあ、いただきます」

 俺はさっそく、だし巻き卵を口の中に放り込んだ。ケイトにじっと見られているのが落ち着かないが、口の中のだし巻き卵を味わった。

 ジューシーで柔らかくて、甘ったるくもないし、ショウユ辛くもない。ダシがあふれてくる感じで、俺が知っている卵焼きとは別物だった。

「うまい」

「そっか。キョーヘーのから揚げもうまいよ」

 ケイトが微笑みながら俺に言った。ちょっと、かわいいと思ってしまった。

 いやいや、ケイトは美人だけど、俺の好みは、もっと、かわいい、女の子女の子しているのだから。確かに、オッパイは大きいし、プロポーションがいいけど、オカズにしたこともあるけど、竿休めというか珍味だし。

「ん?」

 俺が意識を逸らそうとして、ケイトの手に傷がいっぱいついているのを見つけた。

「ケイト、手、怪我してるんじゃないか?」
「いや、これは」

 ケイトがあわてて自分の手を隠した。

「また、喧嘩か? あんまり、乱暴なことはやめておけよ。ただでさえ、怖がられてるんだからさ」
「ああ、わかったよ!」

 ケイトは急に不機嫌になり、残りの弁当を一気に流し込むと、片づけて立ち上がった。

「じゃあ、な」

 俺が呆然としている間にケイトは立ち去り、結局、午後の授業になっても帰ってこなかった。







 急に不機嫌になって授業をさぼるなんて、わけがわからないと、俺もなぜだか不機嫌になった。

「ご機嫌斜めだな。大賀さんがいないと寂しいか?」

 宇都宮がうざく俺に絡んできた。

「関係ねーよ。お前ら、ケイト――大賀さんのこと、俺に押し付けてるだけだろ?」

 俺の返答に宇都宮がポカーンとした顔をした。

「何だよ、その顔。知らないとでも思ってるのか? 俺に大賀さんのこと押し付けて、クラスが俺らの事ハブにしてるって」

 俺は腹立ちまぎれにクラスメイトへのいら立ちをぶつけた。

「そんなふうに思ってたんだ?」

「じゃあ、どんなふうに思われたかったんだよ?」

 宇都宮の冷ややかな目に俺は食ってかかった。

「ねーねー。うっちー。飯田ッチって、結構、鈍感?」

 俺が声を荒げていると、女子の一人が宇都宮の腕をつついて、俺をかわいそうな目で見ていた。

「親友の俺も、うすうすはそうかと思ってたけど、どうやら確定的に鈍感らしい」

「何が言いたいんだよ。それと、いつ親友になったんだよ」

 俺は自分の怒りが抑えきれずに怒鳴り散らした。

「んー。なんというか、クラスメイトとしては、クラスのバカップルを生暖かく見守っていたんだけど?」

 女子が困った顔で俺に言ってきた。

「は?」

「いや、だから、二人の邪魔をしないようにしてたわけ」

 宇都宮が追加の説明をしたが、意味が分からない。

「飯田ッチ、魔物娘って、恋に生きて愛に死すって知ってる?」

「それぐらい知ってるよ」

 馬鹿にするな。俺はケイトと仲良くなるのに、魔物娘のことを結構調べたんだ。お前らと違ってな。

「で、大賀さんが飯田ッチのこと、すんごい好きって、見ててわかったからね」

「は?」

 何を言ってんだ? ケイトみたいなオーガは強い男が好きなんだぞ?

「でも、大賀さんって、素直に好きって言いそうにないじゃん。だから、飯田ッチをことあるごとにけしかけて、親密度をあげていたんだよ。まさか、飯田ッチが気付いていないとは、予想外だったけど」

「はい?」

 ヤバイ。相手が日本語を話しているはずなのに、意味が理解できない。

「飯田ッチも大賀さん好きなの見え見えなのにね」

「いや、だれが?」

 俺は、クラスメイトが全員、宇宙人と入れ替わってしまったかのような、そんな薄ら寒さを感じた。

「飯田。自分に素直になれよ。あの凶悪なオッパイを自分のものにしたくはないか?」
「それとこれとは――」
「それと、あのプリケツ。きゅっと締まったウェスト。クラスの女子の誰よりもナイスボディで美人。あんないい女で童貞卒業なんて、うらやましい」

 宇都宮がケイトのラインを両手で空中に書いた。よく見てるんだな、結構、再現度高いな。

「うっちー、最低」
「セクハラ。セクハラ」

 案の定、女子たちからブーイングが飛んだ。

「うるさい! 今重要なのは、このキング・オブ・ニブオに自分の恋心を気付かせることなんだよ」

 俺はちょっと思考停止していた。俺がケイトのことを?

「まあ、気付くよりもまずは追いかけたら?」

 女子の一人が俺の肩を叩いて俺を再起動してくれた。

「いや、でも、まだ授業残ってる……」
「飯田ッチって、ほんと馬鹿だね。このまま、サヨナラしたいわけ?」

 女子が肩をすくめて鼻で笑った。

「サヨナラって、そんな大げさな」
「大賀さん、今日、魔界に帰るんだよ?」
「え! 聞いてない!」

 寝耳に水の情報に俺は飛び上がった。本当に飛び上がったのは生まれて初めてだ。

「言ってなかったんでしょうね。別れが辛くなるから。大賀さん、けなげよね」

 女子がハンカチを目がしらに当てて泣いていた。

「探しに行ってくる! 先生に早退するって言っておいてくれ!」
「いってらっしゃーい」

 俺はクラスメイトに見送られ、雨の街に駆け出した。






 ケイトの携帯番号。ケイトが携帯電話を持っているかすらも知らない。

 ケイトの住所。訊いてなかった。

 ケイトの学校帰りに寄り道する場所。道草しないと言っていた。

 ケイトの好きなもの。ヒーローものの主人公とかカッコイイもの。だけど、今はヒントにならない。

「俺なんて、全然かっこよくないだろうが!」

 俺は雨の中を闇雲に走り回った。ところどころで、オーガの女の子を見なかったかと聞いて回ったが、誰も見ていないと言われた。

「くそ!」

 学校に戻って住所を調べるか?

 どうやって、先生から聞き出す?

 下手すると、さぼったことでお説教されるかもしれない。

 結局、走って探し回るしかなかった。

 結構走って、冷たい雨なのに俺の身体から湯気が出ているようになっていた。

「どこだよ、ケイト!」

 学校なら、どこにいるか、何となくわかった。だけど、学校の外ではその能力は発揮しないのか?

「中二かよ。経験と勘で予測してただけだろ。経験がない場所じゃ、わかるわけない」

 俺は平凡な俺を笑った。

「学校の外で会ったことなんて……」

 あった。

 俺は大急ぎでそこを目指した。そこにいる可能性など皆無なのに。

 十分ぐらい走って俺はそこにたどり着いた。ケイトと最初にあった場所。あの曲がり角に。

 たどり着くと、道の端にうずくまっているセーラー服の女子がいた。両袖を破いてノースリーブにして、緑色の肌に角のある大柄な女子だ。

「見つけた……」

 ケイトは俺が来たことに気付いていなかった。雨の音のせいで足音が聞こえなかったのだろう。匂いも感じにくいのだろう。

 よく見ると、ケイトの膝の上には子猫が乗っかっていた。その子猫に雨が当たらないように自分の身体を庇にしていた。

「お前も、ひとりぼっちか。ひとりぼっち同士、仲良くしような」

 ケイトが子猫に話しかけていた。

「アタイもなんだよ。人間界じゃ、魔物は怖がられるって言われてたから、わかってたけどさ」

 俺は声をかけれずに立ちすくんだ。

「しょうがねえよな。昔ならいざしらず、今はかわいい女が人間界じゃ流行りっていうしな。アタイみたいなごついのは、敬遠されて当然だよな」

 俺は首を振った。ああ、今頃になって気付いた。みんなが言ってたとおり、俺、ケイトが好きなんだ。

「もう、アタイの居場所はなくなっちまった。お前、一緒にいてくれるか?」

「当たり前だろ?」

 俺はケイトに俺の傘を差して、雨を防いだ。

「キョーヘー!」

 ケイトがびっくりして俺を見上げた。雨と涙と鼻水まみれの顔で、俺はそれに微笑んだ。

「ケイトを見下ろすなんて、結構レアだな。上目遣いの顔もいいよな」

 俺はハンカチをケイトに渡そうとポケットから取り出したが、くしゃくしゃだった。

「えーと……なんかしまらないよな」

 俺が他にないかを探そうとするとケイトがそれを受け取って涙と鼻水をぬぐった。

「なんでここに?」

 少し落ち着いたのか、ケイトが俺に訊いてきた。

「ケイト、今日、魔界に帰るんだって?」

「え? あ、うん。そうだが……」

 ケイトがきょとんとした顔で答えた。俺がどこで知ったのか不思議に思ったんだろ?

「どうして、黙ってたんだよ!」

「どうしてって……」

 ケイトは言いよどんだ。だが、黙ってサヨナラなんて俺は認めない。サヨナラ自体も認めない。

「居場所がないなんて言うな! お前の居場所は、俺の隣だよ。ずっと俺の隣にいろよ」
「キョーヘー……」

 ケイトが驚いた顔で俺を見上げていた。

「俺はそりゃあ、かっこよくないし、強くもない。強い男が好きなオーガのケイトには物足りないかもしれないかもしれないけど、俺、これから鍛えて強くなるから」

 俺は傘を放り投げてケイトの肩をがっちりと掴んだ。雨に濡れたけど関係ない。

「だから、俺と付き合ってくれ。俺、お前のことが、ケイトのことが好きなんだ。今さらかもしれないけど、頼む!」

 俺はケイトを抱きしめた。ケイトの肩が震えている。
 ダメなのか?

「キョーヘー……」

 ケイトが泣き声で俺の名を呼んだ。

「アタイもキョーヘーが好きだ! 一緒にいても、いいんだよな?」

 ケイとも俺を抱きしめた。かなりきついサバ折りだが、俺の背骨はこんなことじゃ折れない。

「当たり前だろ」

 泣きながら俺たちはキスをした。俺のファーストキスは、雨の味と、ちょっぴり塩味だった。







「あがってくれ。今、母ちゃんはパートでいないから、気を使わなくていいよ」

 感動のファーストキスをしていると、ケイトの膝の上にいた子猫の母猫らしき猫がやって来て、俺たちの間に首を突っ込み、子猫の首根っこをくわえてどこかへと連れて行ってしまった。

 連れて行かれる子猫をぽかんと見送り、馬鹿みたいに二人して雨にびしょ濡れになったのを二人で笑いあった。それから、とりあえず、そこから近所の俺の家にケイトを連れて来たのだ。

「ここがキョーヘーの家か」

 ケイトはキョロキョロしながら俺の後について家に上がった。

「風呂は沸いてないけど、シャワーは使えるから。濡れた制服は、乾燥機に入れておいてくれ。あと、乾くまで、俺のだけどこれを着ていてくれ」

 俺はケイトを脱衣所に押し込んで、親戚が海外旅行に行ったときのお土産にもらった、超巨大サイズのTシャツを渡した。締め付けがなくて楽なので、いつもパジャマ代わりに使っているものだ。洗濯したばかりでラッキーだった。

「キョーヘーは入らないのか? お前もずぶ濡れだろう」
「俺は後でいいよ。ケイトが先に浴びてくれ」
「一緒に入ればいいだろう?」

 ケイトがごく普通に混浴を提案してきて、俺は焦った。

「いや、うちの風呂、狭いから。じゃあ、しっかり温まれよ」

 俺はそういって脱衣所を出て行った。そして、速攻で自分の部屋に戻って、左手愛読書コレクションを片付けた。
 魔物娘がエロいといっても、こういうのを見られるのは俺自身のプライドが許さない。

 コレクションを保管場所に片づけて、安心したらずぶ濡れだったことをやっと思い出した。濡れた制服を脱いで、乾いたタオルで身体を拭いて、部屋着に着替えると、ほっと人心地ついた。

「告白したはいいけど、どうしよう?」

 落ち着くと、頭が冷静になってきた。
 勢いで告白したとはいえ、魔界に帰るなとか言ってしまったことを思い出して、どうするかに頭を悩ませた。

 頭をひねっていると、扉がノックされて、俺ははっとなった。母ちゃんが帰ってきたのか?

「キョーヘー」

 しかし、扉の向こうから聞こえたのはケイトの声だった。

「あ、ああ。ケイトか。どうぞ」

 俺はほっとしてドアを開け、ケイトを部屋に入れた。

 俺が着てもかなりダボダボのTシャツなのに、ケイトが着るとマイクロミニのワンピースみたいだった。きわどい。制服の時よりもきわどい。さすがに、ケイトも少し恥ずかしいのか、裾を手で引っ張っている。そのおかげで、オッパイがぴったりと生地に引っ付いて、乳首のふくらみがはっきりしている。
 しかも、シャワーで温まったせいか、かすかに赤くなった緑色の肌がなんともいえず、エロい。緑の肌が気持ち悪いとかいう奴に、今のケイトを見せて……いや、こんなケイトを他の奴に見せたくない。

「よ、よく部屋が分かったな」

 俺はセクシーなケイトの魅力にノックアウトされる前に、わざと気をそらすように何気ない話を振った。

「キョーヘーの匂いがしたからな」

 ちくしょー。照れながら答えるケイトが可愛すぎる。これじゃあ、全然、気をそらせない。

「じゃあ、俺も――」

 とりあえず、風呂場に避難して、一発抜いてこないと暴発しそうだと思い、立ち上がろうとしたが、あることに気付いた。

 マイサンが臨戦態勢になってやがる。しかも、半勃ちとかじゃなくて、フルに近い状態だ。これじゃあ、立ち上がったら、テントを張っているのを目撃される。

「どうしたんだ?」
「い、いや、もう少し後でいいかなって」

 怪訝な顔をするケイトに俺は目をそらしてごまかした。

「体が冷えているんだから、早く温まらないと風邪をひくぞ」

 ケイトの大きな手が俺の腕を掴んで引っ張った。

 ケイトからフェロモンか何かが出ているのかと思うほど、近づかれただけで股間が痛いぐらいにフル勃起にレベルアップした。

「このままじゃ、勃起してるのがばれる。どうすれば……はっ! ひらめいた!」

 俺の平凡な頭脳が覚醒したのか、名案を思い付いた。ピンチで覚醒するとは、俺の頭脳すげー。

 俺はケイトを抱きしめた。いきなり抱き着かれてケイトは面を食らっている。こうやって密着すれば勃起を見られることはない。

「冷えた体はケイトに温めてもらうよ」

 俺はケイトの耳元でそう言った。これで急に抱き着いた理由にもなる。

 ふっ。俺の天才的な頭脳が怖いぜ。前々から思っていたが、俺はやっぱり諸葛亮孔明みたいな策士タイプだったんだな。

 あとは、「馬鹿なこと言ってないで入ってこい」とかケイトに言われて身体を引きはがされたどさくさに立ち上がって、素早くドアの方に行けばミッション終了だ。

 だが、ケイトは抱きしめられたままで、抱き着いている身体が、体温が跳ね上がったように熱く感じる。突然すぎて、まだフリーズしているのかな?

「わ、わかった」

 俺が怪訝に思っていると、ケイトが俺をお姫様抱っこして抱き上げた。

「え? わかったって?」

 今度は俺が状況についていけなくなった。標準体型の男の俺をお姫様抱っこするって、すごい怪力だなとか、変なことに感心してしまうぐらい混乱していた。

「アタイがキョーヘーを温める」
「え? え? ええっ!」

 俺はどうやらルートを間違ったことに今さら気づいた。完璧な計画だったのに! どこに落ち度があったんだ? これが孔明の罠なのか?

「だけど、アタイは初めてだから、うまくできるかわからないけど。キョーヘーのために頑張る」

 いや、頑張らなくていい。というか、男なのにお姫様抱っこされているって、強烈に恥ずかしいから降ろしてくれ。

「安心しろ。痛くしないから」

 そういうケイトの目は完全に魔物の目だった。俺は声にならない悲鳴を上げた。そして、降ろしてほしいという要望はかなえられた。ベッドの上にという形で。

 運動能力の差が大きすぎた。俺に逃げる隙も与えず、ケイトは流れるような動きで俺に馬乗りになった。格闘技風にいうと、マウントポジションだ。絶体絶命の俺。
 そして、男らしく、俺の貸したTシャツを脱いだ。

 脱いだケイトは、エロかった。

 俺は失礼な話だが、もっとボディービルダーみたいな、六つに割れた腹筋とか、大胸筋の上に取り付けられたおっぱいとか、そういうのを想像していた。
 でも、筋肉の上に柔らかい脂肪がベールをかけている感じだったから、柔らかそうなのにゼイ肉とか感じさせない。
 引き締まったウェストが元々でっかいオッパイを更に強調して、脱いだら迫力がスーパーカップ並にレベルアップしていた。

「アタイの裸、おかしいか?」

 圧倒的に優位なポジションにいるケイトが不安そうにしていた。男らしく脱いだTシャツを今さら引き寄せようとしている。

「おかしくなんかない! とっても、綺麗で、エロくて、見とれてた」

 女の子を不安にさせるなんて、この情けない状況であっても、やっちゃいけない。俺は男を見せた。

「本当、か?」

 ケイトは自分に自信がないのか? こんなにエロい身体をしているのに? 毎日、オッパイ揉み放題なのに?

「本当だ。嘘だと思うなら、俺のチンポを見てみろ。ケイトの裸でビンビンになってるから!」

 疑うケイトに俺は真面目な顔で言ったが、言った後に「これじゃあ、変態だ」と恥ずかしくなった。
 そんな俺の恥じらいなど無視して、ケイトは座っている位置を下にずらして俺のズボンに手をかけた。

「ちょ!」

 俺の制止の声が全部言い終えないうちにパンツごとズボンをずり下げられた。

「ぐっ!」

 すでに暴発寸前だった俺のマグナムが、一億発の弾を発射するのを歯を食いしばってこらえた。パンツを脱がされて発射なんて、黒歴史確定の出来事でEDになる。

「これが、キョーヘーの……」

 ケイトはガマン汁まで染み出してる俺のをガン見していた。性にオープンな魔物娘だと、色々なのを見てきたのかも。それと比べられてるとすると落ち着かない。

「初めて、本物見た……これが、オスの……」

 比べられてるわけじゃないみたいだ。と安心しているところを不意討ちのようにケイトは俺のを口にくわえた。

「あふっ!」

 暖かい柔らかい湿ったものに包まれて、俺は一瞬で果てた。

 パンツの摩擦で暴発するものを、萌え盛る口の中に入れて無事に済むわけがないじゃないか!

 俺は軽く落ち込んでいたが、ケイトは俺のものをまだくわえたままだった。そして、尿道に残っている精液も吸いだして、小さくなろうとしているのを綺麗に掃除していた。

 出したばっかりで敏感なところを、そんな事されたら腰が抜けそうになる。というか、また、勃ってきた。

 ケイトは一度、口を離して、俺の出したのを飲み込んだ。

「キョーヘー、お前の……すごすぎぃ」

 蕩けきった顔で俺を見下ろしている。その表情だけで、俺も興奮してしまう。

「あ、ありがとう」

 間抜けな返事をしてしまった。

「こんないいもの、飲ましてもらったら、お礼をしなきゃな」

 ケイトは俺の上に倒れこんできて、オッパイで俺のを挟んだ。

「こういうの、好きだろ?」

 大好きだ! これが夢にまで見た、パイズリ! 興奮しすぎて声が出ない。

 張りのある弾力抜群のオッパイが俺の息子をサンドイッチしてる。あったかくて、包み込むような柔らかさと、刺激的な弾力で圧迫してくる。俺は無意識に腰を動かしていた。

「焦るなよ。今、動きやすくしてやるから」

 ケイトは口をもぐもぐして、たらりと唾液を胸の谷間に落とした。その唾液が俺のに絡み付いてきた。

 それだけで、なんかビンビンになってきた。ケイトの唾液は媚薬でも入ってるのか?

 ケイトはオッパイを両脇から手で挟んで、上下に動かし始めた。唾液ですべりがよくなっているから、弾力あるオッパイの中を俺の息子が行ったり来たりがスムーズで……
 だめだ!
 こんなの耐えられるわけがない。

 俺は一回出しているにも関わらず、もうすでにエネルギー充填120%になっていた。ターゲットスコープは上がっている、このままでは最終セーフティを強制的に解除されてしまう。

「ケ、ケイト……す、ストップ!」

 俺は何とか、ケイトに動きを止めるようにお願いした。

「気持ちよくなかったか?」

 不安をそうに俺を見る目が可愛くて愛おしくてしょうがない。

「ちがう。むちゃくちゃ、気持ちよすぎて、また出そうだから」

「じゃあ、出せばいいんだよ。なに、遠慮してんだ」

 ケイトがほっとした顔でにぱっと笑ったと思ったら、パイズリを再開した。動きが、さっきよりも激しいんですがっ。

「で、出る!」

 俺の悲鳴に近い申告に、絶妙のタイミングでケイトは俺のをまたくわえていた。

 二発目もケイトの口の中に放出した。また、すすられてしまって、そのまま、フェラで半強制的に勃起状態にされた。もう、俺の腰は快感で抜けている。意思とは関係なく痙攣している。

「キョーヘーのあじぃ……もう、わすれられない……」

 口に含んだ精液を、自分の唾液に混ぜ合わせるようにして味わっている緑色の肌をした角のある大女がいる。知らない人間がいたら、恐怖の場面だろうな。だが、この快感を知っていたら、甘美な場面だ。

 ああ、もう、俺、普通の人間じゃ満足できないんだろうな。普通の人間としたことないけど。

「あ、あのな。キョーヘーが嫌だなかったら、その、お前の、ど、ど、どどどどどど」

 ケイトが人差し指の指先同士を突き合わせながら、モジモジしていた。何が言いたいかわかったが、俺が童貞って決定かよ。……正解だけどな。

「とりあえず、おちつけ」

 俺はちょっと童貞を見破られて悔しかったから、わざと余裕があるようなふりをした。まあ、下半身丸出しで、チンポびんびんで、挙句の果てに二回も出して、腰砕けて余裕も何もないけど。

「あ、ああ……」

 ケイトは深呼吸をして落ち着いたようだ。

「お前のチェリーを食わしてくれないか?」

 ケイト、一つ言っておく。言い方変えても、ショックは変わらん。

「だめか?」

 俺が無言でいたために、しょんぼりし始めた。意外と、ケイトって、打たれ弱いのか?

「駄目も何も、ここまできて、しないなんて、俺を生殺しにするつもりかよ? 俺はケイトとしたい。ケイトで童貞を捨てたい。お前こそ、俺なんかに処女やっていいのかよ?」

「キョーヘー以外としたくない。するぐらいだったら、角折って自分の首に突き刺す」

 ケイトは大真面目に言った。舌噛み切るとか、可愛い自殺に思えるぐらい強烈な方法だな。さすがは、オーガといったところか?

「そ、そうか。ありがとよ。じゃあ、お互いのはじめてをもらい合おうか……って言っても、悪い。俺、気持ちよすぎて、腰が抜けてるから、このままでいいか?」

 俺はちょっと情けないがケイトにしてもらうように頼んだ。しょうがないんだよ! 下半身に力が入んないんだから。腰も振れねぇ。

「なんだ、そんなの当然だろ? 腰振りは女の仕事だ」

 俺はツッコミたい気持ちを抑えた。だって、どうせ、つっこむなら別のものをアソコにツッコミたい。

「くくく……ついに、キョーヘーと……」

 あー、だらしない顔して、腰を浮かせてるよ。それまでよく見えないでいたケイトのマンコが見えた。見えやすいようにパイパンとか、どこまでエロい身体をしてんだよ。

 パイパンマンコからお汁をダダ漏れにしているみたいだ。お漏らしかと思うぐらい濡れている。腰を浮かしたせいか、メスの匂いと言うか、発情したフェロモンが俺をますます興奮させる。

「キョーヘーのも、入りたがって、びくびくしてる。うれしいな」

 俺のものを覗き込んだときに、がちがちに緊張した俺のをみて、ヨダレをたらした。上の口もしまりがねー。

「じゃあ、いただきまーす」

 そういって、自分の指でマンコを左右に広げて腰を落とした。

 口の中と似ていると勝手に思っていたが、全然違った。ねっとりとしたものが絡み付いて、全体を優しく包み込む肉の感触はパイズリのよりも、もっと直接的な、神経に直接、快感を流し込んでくるような――

「あぐっ!」

 入れただけで射精するほど気持ちよかった。

「きゃうっ!」

 だが、ケイトもかわいい悲鳴を上げて、びくびくっと痙攣したかと思うと、俺の上に倒れこんできた。

「ず、ずるいぞ、急に出すなんて。おかげで、イっちゃったじゃにゃいかぁ、ばかぁっ」

 ケイトは涙目になりつつも、口が笑って、ヨダレをたらして俺に文句を言った。ちくしょう。かわいいんだよ、お前は。

 しかも、ケイトがイって、中が痙攣して、俺のを締め付けてくるから、それに反応して、また大きくなり始めている。そこへこの顔である。いつ勃つの? 今でしょ!

「キョーヘーの、げんきぃいっぱい。そんなに、あたいのなか、きもちいのかよー」

 ケイトさん。言葉が全部ひらがなです。

「当たり前だろ? 好きな娘の中が気持ちよくないなんてありえるかよ」

 俺はちょっとだけ賢者モードなので、妄想で考えていたキザな台詞の一つも言っておいた。少しぐらい格好つけないと、入れた途端射精なんて恥をすすげない。

 だが、その台詞でまた、ケイトの中が痙攣した。ケイトは俺の胸に顔をうずめている。

「えーと……」
「……すき」

 ぽつりと何か聞こえた。「格好つけすぎ」かな? 確かにキザだったよな。

「格好、よすぎるよぉ。ちくしょう、キョーヘーのくせに」

 瞳孔がハートになる勢いで見つめられた。

「キョーヘーのくせには余計だっつーの」

 軽くケイトの角をデコピンした。

「やったな? こうなったら、キョーヘーにあたいの身体がなくちゃ生きていけないように教え込んでやる」

 もうすでに、そうなっていますよ。これ以上ですか?

「玉の中の在庫どころか、前借までさせてやるからな。まだ、夜前だからな」

 ケイトはヨダレをぬぐって、鬼の表情になった。

 そして、それからの記憶はちょっと定かじゃない。

 結局、俺が解放されたのは、パートから帰ってきた母ちゃんが部屋をノックしてくれたおかげだった。

「続きは晩御飯食べてからにしなさい」

 いや、母ちゃん、違うだろう?







 ケイトと一緒に晩御飯を食べて、お互いに少し落ち着いた。

 夕飯のメニューが赤飯とタイの尾頭付きだったのは、この際、ちょっと置いておく。

 後片付けをしようとする母ちゃんにケイトは手伝いを申し出た。

「そんな気を使わなくていいのよ。座ってて。今日ぐらいはお客さんでいてちょうだい」

 母ちゃんが笑顔で申し出を断って、ケイトは少し残念そうにしていた。

「母ちゃんの言うとおりだよ。無理すんなよ、ケイト。洗い物とか苦手なんじゃないか?」
「何言ってるの、この子は!」

 俺が笑いながら言った台詞に母ちゃんの方が先に食って掛かってきた。

「ケイトちゃんは、お料理してるのよ。洗い物ぐらいしてるわよね?」

 母ちゃんがケイトに訊くと、ケイトは顔を少し赤らめながら小さく頷いた。

「手の怪我のあとを見たら、わかるわよ。ずいぶん頑張って練習してたんでしょ?」

 その後、わかったことだが、ケイトの弁当は初日は母親の作ったものだが、二日目以降はケイトも手伝い、料理を習っていたらしい。ここ最近の弁当はケイトだけで作っていたらしい。

「じゃあ、ケンカしていたわけじゃなかったんだ」
「当たり前だ。ケンカなんてして、人間を怪我させたらどうするんだ」

 ケイトが真剣な顔で言うのを見て、そういえば、魔物は人に危害を加えることを極端に嫌うという、ごく基本的なことを思い出した。

「じゃあ、あの初日に絡んできた女子の先輩とか、あのバックにいた暴走族の解散とかは?」
「あの先輩たちは魔界アイテムが欲しいって言ってきただけだし、暴走族の他のメンバーに相手を紹介して欲しいって頼まれたんだ」

 で、ケイトの魔界での友人たちを紹介した結果、暴走族のメンバーたちは、バイクに乗って暴走するよりも、もっとすばらしい魔物娘に乗ることに目覚めてしまった。なので、チームを解散したのだということらしい。

 俺はとりあえず、誤解していたことをケイトに謝った。

「別に気にしてない。誤解されるようなことをしていたし」

 ケイトはそういいながらも、少しばかり寂しそうな顔をしていた。

 そんな顔されると、抱きしめたくなるじゃないか。

 そう思ったが、母ちゃんたちがいるのでためらっていると、母ちゃんたちが気を利かせてくれて、リビングに二人きりにしてくれた。

 リビングを出て行くときに「それじゃあ、あとは若い人同士に任せて」とか言ってなかったら、素直に「ありがとう」とか言えるのにな。

 二人っきりにされると、それはそれで間が持たない。

 何か言うことを探していると、俺は大事なことを思い出した。

「ケイト」

 俺はケイトの正面にわざわざ回りこんで真面目な顔をした。

「俺、学校卒業したら、魔界に行くからな。それまで、待っててくれ」

 俺は改まってケイトに約束した。

 本当はすぐに学校を辞めて魔界に行きたいが、魔界に行くには色々と制限があるらしい。ちゃんと調べてはいないが、高校中退では許可されない可能性があるらしい。

「そ、そうか? だが、待ってられないな」

 あんなに激しくしておいて、それはないじゃないかと俺は打ちひしがれた。魔物娘にとって、あれぐらいはちょっとしたスキンシップ程度なのか?

「確かに、俺はそんなにいい男じゃないけど、卒業するまでには、きっとケイトにふさわしい男になるから!」

 俺は諦めきれずにケイトにすがるように懇願した。

「キョーヘーはもう、十分、アタイにふさわしい、っていうか、アタイなんかにはもったいないぐらいいい男だ」

 床材をほじくり返しながらケイトが照れながら言った。

「じゃあ、どうして待てないって?」

 ケイトの台詞に俺も照れながら訳を聞いた。

「アタイがこっちに来てるんだから、キョーヘーが魔界に来るのを待つ必要ないだろ?」

 ケイトが不思議そうな顔で首をかしげた。

「え? でも、魔界に帰るって、言ってたんじゃ?」

 俺も首をかしげた。

「うん。魔界に帰ってるぞ、毎日。家が魔界にあるからな」
「まじか!」

 ケイトがきょとんとしながら俺に言った言葉に俺は大きな声を上げた。

「知らなかったのか? クラスの女子は結構、知ってたから、キョーヘーも知ってると思ってたんだが?」

 はっきり言って、知らなかった。言ってくれればよかったのに。

「聞かれなかったのに話すのも変だろ?」

 確かにその通りだ。

「でも、女子と話しているところとか、見たことなかったんだがな」

 俺はちょっとジェラシーを感じつつ、いちゃもんをつけた。

「ああ、それはだな。魔界のアイテムが手に入らないかって、よく相談されるんだよ。でも、魔界のアイテムって、アレだろ?」

 ケイトが苦笑を浮かべた。
 魔界のアイテムと言えば、エログッズよりもどぎついものだから相談しているのを他人に見られたくはないだろうな。

「でも、そういうの、持ってくるのは無理なんだろ?」

 魔界のアイテムは強烈過ぎるので規制が激しいとか聞いたことがあった。

「そうでもない。アイテムは母親の知り合いの刑部狸の人に頼めば、たいていは手に入れてくれるし。こっちに持ってくるのも、近所のデーモンのお姉さんにお願いしたら、持ち込みできるようになったからな」

 俺は口には出さなかったが、「ゆるいぞ、規制」と思った。

 どっちにしても、俺はどうやら、クラスの女子たちにいっぱい食わされたということらしい。まあ、結果オーライなんだから文句は言わないが、明日の学校で何言われるか想像すると滅入る。

「でも、キョーヘーが俺の隣にいろって言ったし、もう、魔界には帰らない。ずーっと、キョーヘーの隣にいる。よろしくな、あ、あ、あなた」

 ケイトは俺の腕に腕を絡ませ、つまりながら、顔を真っ赤にして、嬉しそうにそういって、幸せそうにしていた。俺はそんなケイトの頭をなでてやった。

「こっちこそ、よろしくな」

 ふと最初の出会いを思い出した。

「最初は、オーガなんてタイプじゃなかったのにな」

「今は?」

「俺のタイプはケイトだけだ。他はいらない」

 もう、そう断言するしかない。

「アタイもだよ」

 ケイトは俺を押し倒した。

「ちょっ!」

「ご飯も食べたし、回復してるよな?」

 ケイトはもうガマンできないという瞳で俺を見ていた。



 こうして、俺は高校生にして、最高にエロくてかわいい嫁をゲットした。

(了)
17/03/09 20:09更新 / 南文堂

■作者メッセージ
 典型的な少女マンガと呼ばれているものを、男女逆転で魔物娘SSにすると面白いのではないか?
 そんな寝起きの思いつきで、妄想を駆使して書いてみました。
 書いてみると、意外とすんなりと話ができていって、驚いていました。

 ちなみに、出会いのシーンは、髪の毛にイモケンピをくっつけるか迷ったのですが、伝説すぎて実際に採用している漫画を見たことがない「トーストくわえて登校」にしました。

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