連載小説
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第一章
そこには、帝国軍の入団試験を受けるべく会場へと向かう精悍な青年の姿があった。

「こんにちは、本日は入団試験を受けに来たのかな?」

「はい、ここで場所は合っていますか?」

「えぇ、ではここに名前を記入した後、この整理券を持って其処の道を進んでくださいな」

そう言って口ひげを立派に生やし鼻眼鏡をした初老の男は青年に紙を渡す。
青年は、名前を名簿に記入し、男に軽く会釈をして道を進んでゆく。

「ふぅむ、ルディ=ロズベルクか…ロズベルクねぇ」

そこには髭を撫でながら、今通り過ぎて言った青年の名前を復唱する受付の男が残っていた。




道を進むと、やがて大きな広間に着いた。
そこには、思っていた程の人は居なかったが、皆何かに長けている様に見えた。
ある者は武具を磨き、ある者は自分の強さを主張し、ある者は他の人間に話しかけ回っている。

「やぁ僕は、コレン=ハミルトン。君も入団試験を受けにきたのかな?」

その中の一人が、今部屋に入って来た青年に声をかける。

「って、ここに居る人は全員そうだよね。君の名前は?」

「俺はルディ=ロズベルク。何とでも呼んでださいな。」

「ふむ、ルディか。よろしく!」

ルディは差し出されたて握り、再び軽い会釈と共にコレンに言葉を返す。

差し出されたコレンの手は、指は細く長い女性のようである。
よく見ると防具をこそ着てはいるが、全体的にスラッとしていて細身であるのが伺える。
顔は中性的であり、整った顔つきをしている。髪は長めで肩甲骨付近まで伸ばされている。その上声も高めであり、男物の服を着ていなければ女性と間違う者もいるかもしれない。

二人は暫く軽い自己紹介を続けている。

「君は、魔法、剣術、体術、はたまた策略を考えるの、どれが得意なのかな?」

「一応剣術と魔法の両方を嗜んでるよ。そういうお前は、見た目的には魔術に長けてそうだな」

「ははは、そうでしょ!まぁ、実際どうなのかは後の模擬戦で見せてあげるよ。」

コレンがよく喋り、それに答える形でルディも喋る。
その様な一方的な会話の中でも、ルディからは楽しそうな表情が伺える。

ルディは決して寡黙な男という訳ではない。人並みに喋るし、会話をするのも大好きだ。ただ人見知りであるだけである…

そして数分が経ち、ざわついていた広間に間を差す様に一人の大男が入って来た。
広間にいた者達も、突然入って来たその大男の姿を見て違う意味でざわつき始める。コレンも広間のザワザワした空気を感じ、大男の方を見る。

「おら、静かにしろ〜!皆ちゃんと受付はすまして整理券は貰ったか?」

突然大声をあげたのは、顔に傷が目立つ壮年の大男であった。
男は、フルプレートで身を固め、さらに腰に4本の剣を差していた。

「大丈夫みたいだな、それやったら今から入団試験を行うぞ!皆帝国軍に入りたいかぁー!!」

男のその一言で広間のボルテージは一気に上昇する。

「なんか、凄い気迫の人だね〜」

大男のあまりの気迫に、引いた様子でコレンはボソッと呟く。
コレンの呟きに、ルディも肩を竦めて戯けてみせる。

「じゃあさっそく模擬戦をしてもらうぞ、番号を呼ばれた奴から前に出てこい」

大男のそのただ一言で、皆黙り込む。
皆いつ自分の番号が呼ばれ、相手が誰になるのかが気になっている。

「君の番号は?因みに僕は35番だよ」

「そういや、番号見てなかったな…えーっと48番だな」

「48番か、僕たちが当たらないといいねぇ。君身体つきも良いし、強そうだしね〜」

「ははは、俺なんか全然だよ。それよりもお前の方が、どんな戦い方をしてくるか分からないから怖いよ」

二人は最早、気楽に会話ができる仲になっていた。いや、人見知りルディがコレンに慣れたというだけであろうか。

「ほらそこ、二人でイチャイチャしてんなよ〜!」

突然大男が二人の方を指差し、注意してくる。
いきなりの事に驚くルディ、そしてコレンの方は目を見開き頬を少し赤く染めているのが伺える。

「取り敢えずお前ら二人、模擬戦やってこい」

大男は整理券の事など無視をして、独断で対戦カードを決めた。
それには、その場の全員唖然とせざるを得なかった。

「ほらさっさと行け、そこの扉を入ったらすぐに闘技場だ。」

「えっでも、ほら番号でのくじ引きじゃ…」

二人は大男に背中を押され、無理矢理扉に押し込まれようとしている。
コレンは驚き、大男に向かって反論をしようとする。
しかし、大男は「そんなもん知らん!」と言い張るかのように背中を押し続ける。残念ながらその横行を止めようとする者など出てこない、いや止められる者がいないのだ。

「ははは、気にすんなって。あぁ、一つ言い忘れてた、ここに居る皆入団は決定だから気楽に戦えや。この模擬戦はどの部隊に所属するのが向いてるかを見たいだけだからな」

そして二人が諦め、扉に入ろうとした所で大男はゲラゲラ笑いながら言い放つ。
広間にいる全員唖然とし、肩を撫で下ろす。緊張していた者も、腕に自信がある者もいるが、全員顔から緊張の陰が消えるのが見て取れる。
そして、お互いをライバルとして敵視していた空気も消え失せ、和やかな雰囲気になる。

「なぁんだ、お互いに潰し合いにならなくて良かったね」

「あぁ、そうだな。模擬戦だけど、お互いベストを尽くして戦おうぜ」

ルディはそう言ってコレンに向かって手を差し伸べる。
今まで終止受け身だったルディからの突然の行動に、少し驚いた顔をするがコレンもしっかりと笑顔でその手を握り返す。





二人は今、円形闘技場の真ん中に向き合って立っている。
観客席には、二人の対戦カードが独断で決められるという横行の後、真面目にくじ引きにより対戦相手が決まった志願者達が観戦している。

「ふぅ、あの筋肉モリモリマッチョマンの変態さんには困っちゃうね」

すぐに戦いが始まるというのにも関わらず、コレンは相変わらず陽気に笑っている。そんなコレンの様子に軽く緊張した面持ちだったルディも腕を軽く広げ笑みを浮かべ答える。

「では、ルールを説明するぞ。お前ら二人はそれぞれ選んで貰ったと思うが、木製の物を使用してもらう。槍使いなら控え室に置いてある木で作られた槍を使え。次に魔法だが、強力な魔法は使わんでくれ、あんまし負傷者を出したくないからな。と、まぁそんな所だ。お互い頑張ってくれや」

そう言って大男は審査員席的な所に座る。
審査員席には先ほどの受付の初老の男、フルプレートの壮年の大男が座るであろう席、そしてその横には爛々とした目で闘技場中央を見ている絶世の美女の姿があった。

ルディは今までに見た事が無い程の美女に見とれている。
その美女は黒色のドレスを纏っている。そして鎧とは対照的に肌は真っ白で、まるで天女の様にも見えた。

「こらルディ、今から模擬戦をするんだからよそ見しない」

そんなルディにコレンは顔をズイっと寄せて、口を尖らせ注意する。

「ごめんごめん、でもさあんだけの美人だぜ?見れる時に見といて頭に焼き付けないと」

ルディは注意された事に軽く謝り、あまり悪びれもせずに言い訳をする。

「はいはい、そうだね」

コレンはその様子に溜め息をつきながら肩を落とす。
その様なやりとりの中で、大男は席に戻っていたらしい。

「それでは、始めるぞ!」

「おっと、いけない見とれてる場合じゃねえな」

「そうだよ、全力でいくからね」

二人はそれぞれ武器を持ち、思い思いの構え方をする。
先程までの気の抜けた様子と違って、一気に相手の一挙手一投足を逃さぬ程の、緊張した面持ちになる。

「模擬戦、はじめ!!」

大男のかけ声と共に模擬戦がはじまった。

初手を取ったのはコレンであった。
右手に持った木刀を始まりと共に、フェンシングの如く動きでルディの喉に向けて突き出す。
ルディはその切っ先を篭手でいなし、コレンの懐に入ろうとする。しかし、コレンも直ぐさま前に出した脚に力を入れ、重心を後ろに引き戻す。
突きをして身体を元の位置まで戻すまでの一連の動きの速さは、並の人間なら目で追えない程の物であった。

そして、前に出る分の体重を乗せて裏拳を入れようとするルディの手を左手で止める。

「ふふふ、楽しいね」

「あぁ、そうだな!ほら次行くぞ」

少し寄せれば顔がぶつかる程の距離で二人は笑っている。
お互い全力で攻撃を繰り出したにも関わらず、相手に止められている。
その互角にやり合えるのが二人には楽しくて仕方がないのだろう。

二人は改めて距離をとる。
そして瞬きする間に、二人はまた攻撃を出し防ぎの繰り返しを繰り広げている。

どちらも手を抜いている訳では無いのだが、決め手となる一撃を繰り出せない。
ルディの全体重を乗せた上段斬りも、コレンの華麗な剣裁きでいなされる。
コレンの正確無比に弱点を突く一撃も、全て相手の身体に届く事無く止められる。

ルディは終止、相手の攻撃を躱してカウンターをいれる事に徹する。
コレンは終止、人間の急所である心臓、首、頭を狙う事に徹する。

しかし、どの一撃も決定打にならない。
一閃二閃三閃、どちらも止める事なく剣戟を繰り出し続ける。
一切気を抜けない緊迫した打ち合いであるにも関わらず、お互いに笑っている。
全力を出し続ける事ができる相手という存在が嬉しくて、全力で斬り掛かっても倒れる事無く立っていられるという事が嬉しくて、二人は笑っている。

しかし、そんな斬り合いもそう長くは続かない。
コレンの首に向けての袈裟切りを身体を捻る事で避け、顎に向けて斬り上げようとした刹那、突然ルディの木刀が折れたのだ。
全力のルディの振りに木刀が耐えきれる訳もなかった。

次の攻撃を決め手にと思っていたコレンも、飛んでこない剣に思わず拍子抜けしてしまう。
ルディも完璧に捉えたと思っていた一撃の筈が全く手応えが無い事に戸惑い、自分の木刀をまじまじと眺める。

ルディは呆気に取られている場合では無いと、急いで木刀を捨て拳を構える。
その様子を見て、どうしようも無く木刀を遊ばせていたコレンも改めて剣を構える。

「模擬戦やめーっ!!」

しかし次の一撃繰り出される事も無く、模擬戦は大男の一言で終わりを迎える。
二人とも呆気ない終結の迎え方に、悔しさ半分満足半分といった様子である。

「いやぁ、負けた負けた。木刀が折れるとは参ったね…」

「いやいや、今のに勝ち負けはないよ!僕が君の木刀を選んでいたら、こちらが先に折れていたかもしれない。それに、そもそも君の動きを見る限り木刀が無くても、体術のみで十分に戦えそうだったじゃないか」

二人はその様に反論をしつつも、お互いを褒め合っている。
そんなやり取りを繰り返している内に大男が審査員席から降りて来て、二人の傍まで来ていた。

「いやぁお前ら強いな!えーっとルディ=ロズベルクと言ったか?相手の剣の軌跡を確実に読む動体視力と、すかさず最も有効な部位にカウンターを決める判断力は見上げた物だ。そして、コレン=ハミルトンの狙った所を狙える正確さ、迷う事無く人間の急所を狙える冷徹さは凄まじいものだったな。勿論褒めてるんだぞ、戦場では迷いが有る者こそ早死にするからな。」

大男は今までの打ち合いを冷静に分析していた。あのスピードの打ち合いを一閃一閃逃さずに分析できるとは、この大男もまた相当な実力の持ち主なのだろう。

「しかしお前ら、まだ無駄な動きが多いな。まぁそこら辺は、入団後俺が鍛え直してやるからよ!取り敢えず今日はお疲れ、次の招集は後日連絡させるから、今はゆっくり休みな!」

そう言って二人の背中をバシッと叩く。

「「はい!!」」

最初は変な奴としか思っていなかった二人も、その風貌から滲み出る力強さと頼り甲斐に自然と返事をする事ができた。

「あっ一つ言い忘れてた、会場を出る前に詰め所に寄って今何処の宿に宿泊しているかを、名前と一緒に書いておいてくれ。そうじゃないと連絡を届けられないからな」

(何でそんな重要な事を最後まで言い忘れるんだよ)
大男の言葉に、顔を見合わせて呆れる二人であった。
14/07/08 01:12更新 / ぜっぺり
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■作者メッセージ
第一章です。
取り敢えず、今回の作品の入りの部分ですね。
本当はもっとふざけてネタを詰め込んで行きたいなとも考えていたのですが、どのような話を書くのかと必死でどの余裕はありませんでした。(笑)

この先何章まで行くかはまだ未定です、ただ絶対に途中で書くのを止めたりしない様にしますので、気長にお待ち頂けると幸いです。

最後に、何回も読み直しましたが、語句がおかしい、又は誤字等が有るかもしれません。
もし見つけた場合は、是非ともご指摘お願いします。

7/8少し加筆しました。

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