読切小説
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は・じ・め・て しましょ♪
薄暗がりの中、若い男の声が朗々と響いていた。

「……我は求める、この願いと対価の元に、汝よ速やかに来たれ!」

その一節を最後に、眩い光が暗がりを掻き消す。
あらわになったのは小さな部屋だった。
シングルベッドと大きな本棚、机に椅子がひとつずつ。
そして奇妙な形の陶器や、得体の知れない液体の入った透明な容器が並ぶ棚。
僅かに覗く床には、一枚の羊皮紙。黒いインクで綴られた呪文と、中央の五芒星が目を引く。

発光源は羊皮紙の五芒星だった。

長めの黒髪を額で分けた、細身の銀縁眼鏡を掛けた青年が、
目を血走らせながら発光する羊皮紙を凝視していた。
だが、だんだん発光が収まって行くにつれ、落胆したように息を吐いた。

「はは……こんなもんか」

疲れ切った、力の無い笑みと声。
青年はそのまま、両手で顔を押さえながら、膝をついた。

この青年、名をピヴォワンという。
ある地方都市のアカデミーの薬学部に通う、19歳の学生だ。
薬学部の生徒が、なぜこんな召喚師じみた真似をしているのか。

彼に女性経験が無かったからである。

ピヴォワンは、やや目付きが悪いが、平均よりは整った顔立ちの持ち主だった。
ただ、いかんせん奥手であった。
というより、女性に声を掛けて、口説き落とす方面の技術が無かった。
拒絶されるのが怖かったというのもある。  ヘタレめ。

そして、娼婦を買うという選択肢も、彼は除外していた。
金銭的な理由もあるが、同類の友人が、爪に火を灯すような倹約の末、娼館へ行ったところ、
敵娼となったのが、どう見ても四十は下らない大年増だったからである。

ヤる事はやったが、そのまま彼は消チン…じゃなかった消沈し、失踪した。
半ば気が触れたような状態で都市郊外の森へ迷い込んだそうな。

されど、禍福は糾える縄の如し。
件の友人は、森の奥深くにてひとりのドリアードに見初められ、
そのままヒモに……もとい、即日同棲の運びとなった。

森に住むハーピーが届けて来た手紙には、コトの顛末とともに
「この樹から動けなくはなったけど、今の俺は幸せです」と書かれていた。

次の休日に、ピヴォワンは手紙に記されていた地図を頼りに、
ドリアードの樹へ足を運んでみた。

緩み切った馬鹿面のあんちくしょーが、温厚そうな褐色の美女と、
くんづほぐれつしている真っ最中だった。

嬌声と水音に弾かれたかのように彼はきびすを返した。
その足下には血涙と、人前で口にするには憚られる体液が滴っていたかもしれない。

手紙とあの光景は、ピヴォワンを決意させた。

魔物に、俺のはじめてを奪ってもらおう。

そして、学業もそこそこに、アカデミー中の資料を漁って数日。
彼はついに召喚術式を完成させ、逸る気持ちを抑えつつも、儀式に臨んだ。

挙句の果てが、召喚の失敗……としか思えない、件の惨状である。

「ははは……結局ダメだったか。 それともあいつみたいに、森の奥にでも行ってみるか?」

魔物に襲われるより先に、野生の猛獣に襲われる可能性や、遭難する危険性も高いのだが。
壊れたように掠れた笑い声を垂れ流しながら、ピヴォワンは羊皮紙を拾い上げ、
丸めて捨てようとした。
と、その時、

「あ〜っ、狭いーっ!」

甲高い子供のような声が響いたかと思うと、
ピヴォワンの視界一杯に紫色の物体が飛び込んで来た。
そのまま激痛とともに視界が一瞬ぼやけ、やがてブラックアウトする。

あー、顔面に何かがぶつかりやがったな。

鼻柱とこめかみを締め付ける眼鏡の感触が無くなり、
代わりに鼻腔の奥から熱く鉄臭いものが溢れて来る不快感に溺れながら、
ピヴォワンは意識を手放した。


「いたたた……こぶになってないよね?ま〜いいや。
 お〜い、起きてよぉ、召喚者く〜ん?」

ぺちぺちと、間の抜けた音とともに、軽い痛みが頬に走る。
人肌よりやや温度の高い、やわらかい感触だった。
短い失神から覚醒したピヴォワンが目を開く前に、舌足らずな声が飛び込んで来た。

「む〜……めんどくさいからこのまま帰っちゃおうかなぁ?
 でも疲れちゃったし、この子からテキトーにし」
「……誰だよ。あと何だよ」 それとテキトーに……何をするつもりだった?
「あ、起きた起きた」

鼻血を手の甲で拭いながら、ピヴォワンは上体を起こした。
次に飛んでしまったはずの眼鏡を手探りで探すが、それらしい感触は無い。

「はい、メガネ」

と、先程の高くて甘ったるい声がした。

ぼやけきった視界には、何やら小さな紫色と白の影が、こちらの方を向いて立っていた。
とりあえず右手を伸ばしてみると、頬を叩いていたあたたかい感触が手に添えられて、
手のひらに馴染み深い眼鏡の感触が乗っていた。

「あ、ありがとう……」

小声で礼を言いながら、眼鏡を掛け直す。
紫と白の影が、にこにこと笑う十二、三才ほどの少女の姿になった。

撥ね癖の付いたセミロングの髪から飛び出す牛めいた角、
小振りなコウモリの翼に、先端がハート形に膨らんだ細い尻尾。
身に着けているのは、胸元や四肢のところどころに巻き付いたリボンと、
薄手のミニスカートのみ。
胸元のボタンと、腰のハート形のポシェットが目を引いた。

髪や衣類などが紫色で、肌が露出していた部分が白く見えたのか、とピヴォワンは納得した。
そこに声が掛かる。

「どーいたしまして♪
 さっきの質問の答えだけど、あたしはインプのヴィオレット。
 キミに喚ばれて、はるばる魔界から来たんだよ♪
 ところで、キミはあたしに何の用があるのかな?」

言いながら歩み寄り、しゃがみ込んでピヴォワンの鼻先に顔を近付けて来るヴィオレット。
ピヴォワンはやや顔を赤らめつつ口を開いた。

うわ、良い匂いする……じゃない、色々見えるだろ、そんな体勢じゃ。

「お、俺が用があったのはインプじゃないよ」

サキュバスだよ、見た目二十代くらいの巨乳おねーさんのな!とは言わない。
もとい、言えない。恥ずかし過ぎる。
はたして、ヴィオレットは大きな目をさらに見開いてまくし立てた。

「ふぇ?ウソぉ!?何でよぉ!!あ〜、せっかくの初仕事が人違い〜?も〜やだ〜……」

そのままむくれる。初仕事かよ……と脱力しながら、ピヴォワンはとりあえず謝る事にした。

「あー、ゴメン」
「ところでさ、キミはどんな用事で誰を呼ぼうとしたわけ?」

来たよ。

背筋が強張った。対するインプは興味津々の顔である。

「聞かないでくれ」
「え〜、い〜じゃん、教えてよぉ」
「教えない」
「聞くまで帰んない」
「聞かずに帰れ!」
「やだ!」
「…………」
「…………」

睨みあうふたり。どちらも無表情だが、ピヴォワンのそれは、
無理して硬く取り繕っているのが丸分かりであった。
と、ヴィオレットが、唐突に冷めた笑みを浮かべた。
床に落ちていた羊皮紙を拾い上げ、一瞥して曰く、

「ま〜、ここまで隠したがるとことか、
 この呪文の形式見れば一発で分かっちゃうんだけどね…………どーてーくん♪」
「う!」
「サキュバスでも喚んで、筆卸ししてもらうつもりだったんでしょ?」
「…………そうだよ…………」

サキュバス喚んで、犯って貰うつもりだったよ。

しばし唸った後、ピヴォワンは呟くように告げた。
最高潮の赤面だった。羞恥心のあまり、うっすら涙ぐんですらいる。
対するヴィオレットはというと、何かを堪えるように頬を膨らませていた。
口許に添えられた手と、弧を描く細められた目が小憎らしい。
ただ、その表情も瞬時に決壊し、

「ぷ!……ぷぷぷ……あーはっはっはっはっは!!」

大口を開いてひとしきり馬鹿笑いしてから、ヴィオレットはピヴォワンの肩をばしばしと叩いた。
泣くなよぉ、と言いつつもまだ笑いを止めない。
やがて「ぷくく……」と、癇に障る含み笑いを続けながらも、彼女は口を開いた。

「や〜、ゴメンゴメン。
 あんまりウブでどーてー丸出しな事言うからツボに嵌まっちゃった。
 これはも〜、あたしが一肌脱いで、 キミのどーてー、奪ってあげるっきゃないね!」
「いや、何でそうなるんだよ?」

九割九分の傷心と一分の下心を滲ませた半眼で、ピヴォワンが訊ねる。
ようやっと笑い声を納めて、ヴィオレットは楽しげな笑顔で答えた。

「ん〜、理由はふたつ。まず、魔界に帰りたくても、あたしはガス欠だから」

キミのへったくそな召喚呪文のせいで、魔力を無駄に使っちゃってんのよねぇ〜。
あと、あんなかわいい泣きべそ見せられちゃった日にゃあさ、

ここまで言って、のーてんきな表情を唐突に先程の冷めた笑いに戻し、

「ヤってあげないと淫魔(おんな)が廃るのよ」

嘯いて口角を吊り上げる。小振りながらも鋭く尖った犬歯が剥き出しになった。

大丈夫、膣出しだけはぜ〜ったいさせてあげるからさ。
てかカラダのナカに出して貰わないと、栄養補給になんないのよ。魔族の悲しい性ね〜。

好き勝手に放言しつつ、ヴィオレットはまた表情を変えた。
ピヴォワンが最初に目にした、にこにこ顔だ。

「で?する?」

――こうまで言われて、下心を抑え付けていられる同類がいるならお目にかかりたい。

ピヴォワンは嘆息し、立ち上がった。
なけなしのプライドはまだ痛いし、あとで何を言われるか、何をされるか分からないのも怖い。
実年齢がどれほどかも分からないが、見た目がローティーンなのもいささか気が引ける。
それでも、青年は犯りたいサカリだった。
彼は、意を決して、決まりきった答えを述べた。
おまけに、腰のところで上体を直角に曲げる最敬礼付きだった。

「お願いします、俺の童貞、貰ってください」

答えを聞いて、インプの笑みがいっそう深く、邪気の無いものへと変わった。
こちらは両手のサムズアップつきで承諾の意を返す。

「お〜け〜♪おねーさんがキミのどーてー、もらったげる♪」
「……おねーさん?」
「見た目こんなんだけど、多分キミより年上だと思うんだよね〜。 ちなみに、キミいくつ?」
「十九」
「あ、やっぱりね。あたしが四つ上〜」

見えねーよ。

ピヴォワンが内心で呟くとともに、ヴィオレットがお気楽に言った。

「んじゃ、しよっか?ベッド借りるよー」





「ほら、脱いじゃえ脱いじゃえ♪」
「べ、別に手伝って貰わなくてもひとりで脱げるよっ!」
「いやいや、こーゆー時はお互いに脱がせ合うのがマナーですよ?
 だからキミはベッドに座ってじっとしてな〜」

口の端に笑みを浮かべながら、ヴィオレットはピヴォワンのシャツを脱がせた。
白く細身ながらも、うっすらと筋肉の付いた上半身が現れるのを目にして、
胸板や二の腕を軽く触りながら唸る。

「む〜、意外としっかりしてるね……」
「森や山を歩き回ってるからな、秘薬の材料採集で」

対するピヴォワンの表情は硬い。ただ血の気を軽く頬に上らせるばかりである。
それを見て、ヴィオレットの微笑が、何かを期待するようなふてぶてしさを孕んだ。

「んふふ、じゃあ今度はあたしの……えーと、胸のリボンとスカートだけでいいよ、脱がせて?」
「あー……胸のリボン、どうやってほどけばいい?」
「結び目固定式なんだよ、だから下にずらしてくれればそれでオーケー。 スカートも一緒ね」
「翼と尻尾に引っ掛かるんじゃないのか?」
「いーからいーから、はやくずり降ろしてよ」

軽く言いつつ、ヴィオレットの腰と尻から異形のパーツが消える。 便利だよね、人外って。
けらけら笑ってのたまうインプに、ピヴォワンは立ち上がって手を伸ばした。
弧を描く目で見返しつつ、ヴィオレットの小さな手が、薄くあばらの浮く胴へ、ピヴォワンを導いた。

「……行くぞ」
「うふふ、息荒〜い♪ ……どうぞ?」

衣擦れの後、ベッドの脇にリボンとスカートが落ちる。
後ろ手を組んでピヴォワンを見上げながら、ヴィオレットは訊ねた。

「ん、どお?」
「…………!」
「やぁだぁ、穴開けれそうな勢いで見ないでよぉ」

凹凸は無いが、どこもかしこも滑らかな白い肌である。
見るなと言われても目を離せるはずが無かった。
桜色の突起ふたつと、閉じられた細く深い裂け目から目を逸らしきれず、
初心な青年は絞り出すように呻いた。

「……ゴメン」
「謝んなくてもいーから、もっかい座って?ズボン脱がすよ?」

まったく気にするところの無い声に促され、無言で腰を下ろす。
それを確認して床に膝を付くと、にま〜……という擬音が聞こえてきそうなイイ笑顔で、
ヴィオレットはピヴォワンのズボンのベルトをまさぐり、ウエスト部分に手をかけた。

「素直で宜しい♪ ではではご開帳〜……えーい」
「……っ」

ズボンは下着ごと脱がされて放り投げられる。そしてイイ笑顔のまま、小悪魔は、

「あは♪自分ひとりで頑張り過ぎたんだね〜、
 ほーけーのまんまおとなになっちゃったんだぁ♪」

青年を舌鋒と事実で串刺しにした。

「うう……」
「いちいち涙目になるなよぉ、もっといじめたくなっちゃうじゃない。
 とりあえず剥いたげるね〜」
「誰が泣いてるってんだよ……っ」

赤面の青年の抗弁は、やや乱暴なインプの手つきで一刀両断にされた。
鼻先を先端にくっつけんばかりの至近距離で、
ヴィオレットが楽しげに男性器の先端に話しかける。

「はい、真っ赤なカメさんこんばんわ〜♪ 思ったよりキレーだね、洗ってた?」
「当たり前だろ!」
「世の中にはきったないのを舐めさせたがるヘンタイとか、
 くっさいのを舐めとりたがるヘンタイもいるらしいけどね〜。
 あたしはどっちもやだから、ちょっと嬉しいかな♪
 でも、口でしたげるのはおあずけね」
「え?」

明らかに落胆したような声音と表情のピヴォワン、現金なものである。
構わず笑顔のまま言葉を返すヴィオレットは、大らかなのかスレているのか。

「いやいや、まずはちゅーしよ?キミ、そっちもまだでしょ?」
「そうだけど……」
「いひひ、どーてーの前にファーストキスも貰っちゃうね♪ んじゃちゅ〜……」

……ただ単に色ボケなだけだった。 閑話休題。

ヴィオレットはピヴォワンの太股の上に跨り、唇を合わせた。
青年の鼻腔が、乳臭い少女の体臭に満たされ、性器を一層硬くする。
へその辺りに熱い塊が触れるのを感じつつも、
ヴィオレットはお構い無しに腕をピヴォワンの首に回し、胴体を密着させた。
そして口内を舌で蹂躙し、唾液を啜る。

「ん……」
「む……あ……っん……んにゅ……ぁん……ぷは、ごちそーさま。
 もっかいしよ?今度はあたしの胸、触りながらして?」

唇を舌で舐め回しながらインプは促した。そして唇を再び食み出す。
しばし、かすかな膨らみを青年の手に委ねて曰く、

「ん……気持ちいいと言うよりくすぐったいかな?
 あー、そこで気を落とさないでよ。 あたし、自分の胸があんまり好きじゃないんだ。
 ごらんのとーり、ぺったんこなのが気に入らなくてさぁ。
 だからイジる機会もイジって貰う機会もあんま無くてねー、性感が未発達なのよ」
「そういうもんなのか?」
「うん。とりあえずもっかいちゅーして。キミの唇、おいしいし♪」
「むむ……」
「ん〜、あ、ふふ……ふふふふ、そろそろきかん坊くんにもちゅーしてあげないと、かな?」

そう言って再び舌なめずり。目線は透明な粘液を滴らせる赤い剣尖に釘付けになっていた。
自分で慰めていた時とは比べ物にならない反応に、思わず吃りながらピヴォワンは答えた。

「あ、ああ」
「じゃあ寝てて?」

青年をベッドの上に仰向けにさせると、少女は四つん這いになった。
そのまま股間に顔を近づけ、しばし凝視する。
ホントにかっちかちのだらっだらだね……とぼやいて、亀頭に口付け。

「あっ……!」
「いひひ、顔も声もかわいーね……ちゅ…………む……あむ……」

ぬるぬると、唇と舌がペニスのそこかしこを這い回る。
緩急を付けた睾丸への揉みしだきと、時折亀頭やその周辺を掠める、
牙の刺激のおまけ付きだった。

軽い痛みの紛れ込んだ熱いぬめりに押し流されていると、耳に届くのは心底楽しそうな少女の声。

「そろそろ本気出して吸ったげるね……ん〜♪」
「……!! 出るっ!!」

いきり立ったモノは、ヴィオレットの口内であっさり弾けた。
根元まで口に含んだ途端に暴発され、
一瞬顔をしかめるも、すぐに幸福そうに目を細め、強く啜る。
最後の一滴まで精液を飲み干すと、小悪魔は緩み切った笑顔で口を開いた。

「うふふ、ごちそーさま……キミ、そ〜ろ〜だね♪」
「……うるせえよ、経験無いんだから仕方ないだろ」
「いひひひひ、ちょこ〜っとだけ素直になってきたかにゃ?いーこいーこ♪」

「撫でんな!」と、ピヴォワンが真っ赤な顔で喚くのにも構わず、
身を乗り出したヴィオレットは、満面の笑顔で癖の無い黒髪の頭を撫でた。
気の済むまで撫でると、また笑顔に僅かな邪気と羞恥を浮かべ、

「そんな良い子のキミには、おねーさんの下のおくちとちゅーさせてあげるね♪」

と、気の抜けた口調で宣言。
ベッドの上に胡坐を掻くと、片膝を立て、右手の指で股間の亀裂をゆっくりと開いた。

「ん……ほら、これがインプのつるつるおまん◯だよ、どーてーくん」
「…………!」
「や〜目が血走ってる〜♪
 ……さて、今からここでキミのおちんち◯を食べたげるけど、
 その前に、おくちと手でほぐしてもらおっかな?」
「どう触ればいい?」

興奮も行き過ぎると無感情に近付く、という事だろうか。
初めて目にする紅い秘所を前にして、ピヴォワンの口調は極めて冷静だった。
もっとも、眼鏡越しの視線は、微動だにしていなかったが……。
膣口を貫けそうな視線に構わず、ヴィオレットは答える。

「やさしく、なおかつ速くかな。おちん◯ん扱く時みたいに、乱暴にはしないでよ?
 速ければ速いほど気持ち良くなれるから、頑張って舐めてね〜♪」

ヴィオレットの答えとともに、ピヴォワンは女性器に顔を寄せ、
半分顔を覗かせるクリトリスから会陰部まで、一心不乱に舐め始める。
唾液に甘酸っぱい何かが混じり出したのを感じると、
舌を穴に捩じ込み、陰核を指で捏ねくり回した。

「やん、そこひっかかないでぇ……んん……あっ……あ、ああっ、あぁ…………はー…………はー……ストップ、てかギブ……」
「……? もういいのか?」

腹這いから身を起こしながら、青年が尋ねる。
対するインプは荒くなった息をどうにか整えながら、股間を二三度弄って苦笑い。

「うん、はじめてにしちゃ上出来上出来。 ほら、こんなにぬるぬるが出てきちゃった……」

舐めてみてよ、と差し出されたのは濡れた指先だった。

ピヴォワンは、先程自分のモノがされた事を反復するように
人差し指と中指を一本一本舐めしゃぶる。
薬指や小指も同様にした後で、夢うつつな表情で呟いた。

「ん……何つーか、いい匂い……」
「でしょぉ、胸張っていーよ、キミが出させたんだからぁ……」

答える方も、まるで酔ったかのような、茫洋とした目付きと声音であった。

緩んだ顔と声のまま、ヴィオレットはピヴォワンの胸板に手を置いて口を開いた。

「ねぇ、そろそろ挿れちゃお?ちなみに答えは聞いてないから」
「どこのリザードマンのゴーストだよ……」
「知らなぁい。じゃ、そろそろお待ち兼ね、どーてーそーしつタ〜イム♪」

青年の呆れた物言いに構わず、少女は胸板に置いた右手に体重を掛ける。
そのまま身体ごと倒れ込み、胡坐を掻いた青年を仰向けにした。

「いきなり乗っかってくん……あっ!!」
「いひひ、この子達もパンパンだね、ぎゅ〜♪」

後ろに回した左手で、ピヴォワンの睾丸を掌握。強弱を付けて弄ぶ。

「に〜ぎ〜に〜ぎ〜こーろころー……んふふ、つ・ぶ・し・ちゃ・おっ・かな〜? ぎゅ〜♪」

その一言で、ピヴォワンの顔から血の気が引いた。
彼がじたばたともがくザマを見下ろしつつ、ヴィオレットはまた盛大に噴き出した。
陰嚢からペニスの根元に左手を移し、血が逃げないように握り締め、やんわりとしごく。
そして、手の動き同様に優しげな口調で言った。

「ウソウソ♪そんな勿体無い事しないってば……それに、もし使い物にならなくするとしたって、
 赤い玉どころか金色の玉が出てきちゃうまで、とことん搾り取るのが淫魔の流儀だし。
 それに〜、まだおねーさん、キミのどーてー貰ってないしね」
「…………」
「そう怖がんないでよ〜、ほら……」

キツさと不安の抜けない目付きを穏やかに見返して、ペニスの先端を膣口に押し当て、腰を下ろす。
幹の三分の一ほどを咥え込んで、一旦腰を止めた。亀頭には、何か弾力のある抵抗があった。

「あ……」
「えへへ、先っぽ、入っちゃったね……♪」

邪気の無い笑顔に一瞬目を奪われるも、ピヴォワンは疑問の声を上げようとした。
何だよこの……。
引っ掛かり、と言い切る前に、深呼吸を繰り返していたヴィオレットが、深く腰を沈めた。

抵抗が失われる感触の後、少女の絶叫が青年の耳を突き破るとともに、
彼は自らの切っ先に、たった今消えたものとはまた違う弾力を感じ取った。

「いた…くない痛いくない痛くない痛くない痛くない痛いけど痛くなんかない…………!!」
「あんた、処女だったのか?」

涙と血を幾筋も零しながら憑かれたように呟き続けるインプに、
青年は間抜けな口調で確認した。
肯定は、途切れ途切れにまくし立てられる、子供じみた早口だった。

「処女、だったよ、わるい?
 インプ、だって、サキュバス、だってぇ、処女だった時くらいぃ、
 あったに決まってるじゃないさ、どぉてえくん?
 ……あ、もーどおてえじゃないか、そつぎょーおめでとね?
 よかったねぇ、はじめてが、こんなにちっちゃくてかわいー、処女のおねーさんでさぁ……」
「ホント、大丈夫か?抜こうか?喋り方、たどたどしいぞ?」

みじろぎしながら不安げに言うピヴォワンに、
涙目は変わらないが、微かにふてぶてしさを取り戻した笑顔で、ヴィオレットは返した。

「いひひ、勿体無い事言わないでよぉ…………駄弁ってる間に、あたしの痛みも退いてきたし、動いたげるね?」
「あう……!」

途端に始まる上下運動。
腰を使うごとに、笑顔に力を戻しながら、楽しげにヴィオレットは喚いた。

「はあ、はっ、あは……ひ、ひひひひひひひぃ、うふふふふふふふ……!
 えへへ、気持ちいーかなぁ、元どーてーくん? ほら、ほらぁ……!!」
「あ、ああ、イく、イくぞっ……」
「いひひ、そ〜ろ〜はまだまだ治んないみたいだね〜? いいよ、イっちゃえ♪」

牙を剥きながら、ヴィオレットはピヴォワンに放たれた精をそっくり飲み干した。
胎内に熱いものが溢れる感触に中てられたかのように、ゆっくりとくずおれる。

「んふふ、じゃ、キミのどーてーそつぎょーを祝って、ちゅー…………」
「…………っは、はー……ありがとよ…………」
「どーいたしまして♪ファーストキスもどーてーも、射精二発分もみ〜んなご馳走様♪」

そう呟いて、唇を吸い直す。

「……でもね、おし〜事に、あたしはまだイってないからさ、キミのそ〜ろ〜が治るまで、つきあってあげるよ」

宣言すると、インプは再び上半身を起こして、青年を見下ろしながら、獰猛に微笑んだ。

「じゃ、動いてね?」






「ちゅーしながらの二回目、やっぱり速いなぁ……」
「悪かったな、畜生」


「おっぱいを弄りながらの三回目、持続時間は延びたけど、手と腰は一緒に動かしてほしかったかな?」
「……悪ぃ……」


「抱きしめ合いながらの四回目、だんだん口と手と腰の動きがスムーズになってきたね♪」
「うう、まだイかせられなかったか……」
「うんにゃ、とても気持ち良かったよ?ちゅ♪」

ヴィオレットはピヴォワンの下半身に跨ったまま、軽く頬にキスをして頭を撫でた。
先程とは違い、ピヴォワンは反発しなかった。
それに気を良くしたのか、彼の肩に腕を回して首を傾げながら、ヴィオレットは目を細めて言った。

「んふ〜、何だかキミがと〜ってもかわいく見えてきたかも〜?」
「そりゃどーも……」
「いひひ、恥ずかしがる表情は特にい〜ね〜♪ ちゅ〜」

――また口かよ。

「何回も何回もキスしやがって、勘違いしたらどーすんだよ……」
「ん〜?何か言った〜?」
「何でもねーよ」
「へへ、あたしは好きだよ?今のキミ。魔界にお持ち帰りして、ず〜っとえっちしてたいくらいにはさ」
「な……!」

ピヴォワンはもう数えるのもイヤになるくらいの、ヴィオレットが原因である赤面を浮かべた。
ただ、今回は今までの赤面とモノが違った。
対面のインプもまた、頬を恥ずかしげに染めていたからである。

「やっぱ、お互いはじめてだと情が湧いちゃうもんかね〜?
 そーいえばキミ、名前何てったっけ? 聞いてなかったと思うけど」
「……ピヴォワンだよ、ヴィオレット」
「うふふ、名前で呼んでくれるんだ?」
「何だよ、悪いかよ」
「ヴィオとか、ヴィオたんとか、ヴィオねえちゃんとか、ヴィオねえとかでもいーよ?」
「ちょっと待て、最後のふたつはなんかおかしくねえか?」
「四歳年上って事忘れないでよ、ピーくん……ピーちゃん?ピーたん?」
「そんな卵料理みてーな呼び方しないでくれねーか?……ヴィオ」
「…………!」

ピヴォワンの視界で、ヴィオレットがいきなり拡大された。
そのまま問答無用で口が塞がれる。
ゆうに二分は経過した後、ふたりは光るものを曳きつつも離れた。
どちらも、酸欠とは別の何かによる要因で、顔を真っ赤に染めていた。

「窒息死させる気か」
「うん、窒息しちゃうくらいちゅーしてよ」
「はは、話が通じてねー……」
「いひひひ……」

しばし軽く笑いあう。
だがそれも、ヴィオレットの「そろそろ、五回目しよっか?」との呼びかけに中断された。
うなずいて体勢を変えようとするピヴォワンを、ヴィオレットが制した。

「あ、寝てなよ?疲れちゃったでしょ」
「俺があんたをイかせるまで、つきあってくれるんじゃなかったのか?」
「ひひ、義理堅いやつ♪ でも、いーからあお向けになりな? そんで手ぇ握って」
「むう……ほら」
「おけ♪」

仰臥した青年のモノを、少女は自らの性器で数回擦ってから、片手を添えて受け入れた。
含み笑いを漏らしつつ、心底嬉しそうに謳う。

「五回イってもまだかっちかち〜♪ ホントタフだね〜、やぁん♪」
「ちょ、待って、何かまた中がキツく締まってきたんだけど」
「いひひ、きっとキミのち◯こに馴染んできただけだよ、あん♪ ちゅー……」
「むぶっ…………っ、いきなりキスしてくんな」
「えへへ〜……たぶん今のあたし、
 キスしながら突かれまくったら一発でイけると思うんだよね?
 やっぱ手をにぎにぎしあってるとリラックスできるわ〜♪
 ねえ、またちゅーしよ? そしてらんぼーに突いて?」

言って上体を倒し、唇を突き出すヴィオレット。
返答は無論、情熱的なキスだった。そして続くは下からの、後先考えないピストン運動。

声にならない叫びを、互いの中に響かせ合いながら、ふたりは達した。


「うふふ……征服されちゃったぁ…おめでと」
「ありがとよ……」

互いに照れくさそうな笑み。
ピヴォワンの胸元を軽く叩きながら、ヴィオレットは太平楽に言い放った。

「ま、自信持っていいんじゃない? さっきまで処女だったのにイかされちゃった、あたしが保証したげるからさ」
「ああ」
「んしょっと……んぁ、抜いちゃった……うわ〜、おなかの中がちゃぷちゃぷ言ってる」


しばらくして。
送還の儀式を行うため、身支度を整えたふたりは、最初の位置に戻った。
名残惜しそうに口を開いたのは、ヴィオレットの方だった。

「じゃ〜、また喚んでちょーだいね」
「ああ……じゃ、またな」

(「帰したくないな……」)

ピヴォワンが口の動きだけで呟く。だが、

「帰りたくないけどね」

と、ヴィオレットははっきりと返してきた。

そのまま気まずそうな沈黙が降りる。
再びそれに耐えかねたのは、やはりヴィオレットの方が先だった。

「え〜と」
「何だよ?」
「喚ばれなくても来るから」
「いつでも来なよ」
「ごはんは作れないけど、他の事なら何でもしたげるから」
「メシくらいならいくらでも作れるよ、実家がメシ屋で仕込まれたんだ」
「食べさせて……んじゃ、将来はあたし専用のインキュバス兼専業主夫ね♪」
「喜んで……ただしインキュバスってとこまでな? 妻子を食わせるのは男の義務だ」

言葉と笑みを交わし、ふたりは一歩ずつ歩み寄りあう。
これが今宵最後だと、抱き合って再会を約した。

「じゃあ、今度こそ、またね」
「ん、またな」
「……ちゅ」
「ん……」

Fin



蛇足

「ごめんね〜、パパはママ専用だから、貸してあげるわけにはいかないのよ〜?
 大きくなったら素敵な男の子を見つけて、その子に可愛がって貰いなさいね〜♪」

安楽椅子に座ったまま、傍らで口元をへの字にする幼女の頭を撫でながら、
ヴィオレットはあやすように言い聞かせた。

――まだその子は三歳だろうが、まだそんな事を吹き込むんじゃない。

昼食の準備に一段落つけて、居間に姿を現したピヴォワンは、
眉根を寄せながらジト目でツッコんだ。
せっかく自分に似て生真面目な娘が、
妻のようなのーてんきなオープンスケベになられるのはいささかツラい。

「実の娘に何を言ってるんだよ」
「ん〜、明るい将来に向けての教育かな?
 ところで、お腹の子が『ママぁ、お腹空いた〜』な〜んて言ってきてるからさぁ……しよっか♪」

言って膨らんだ腹を撫でる。あと一月もすれば第二子出産だった。

――ねえ、おねーちゃんはパパそっくりになっちゃったから、あなたはママ似で生まれてね?

……などと言ってみたら、ヴィオレットは夫と娘から盛大なブーイングを食らった。
我が家族ながら、実に狭量だと彼女は思った。
同意してくれるのは、せいぜい舅と姑くらいだろうか。
義妹と実家の両親は、全力でこの子らの味方をするに違いない。おのれ石頭ーずめ。

てかピーくんも妹ちゃんも、何であんなおーらかな両親から生まれておいて堅物になれたのよ?
こっそりヴィオレットが憤慨していると、夫が半眼のまま再びツッコんできた。

「とにかくこの子の前でそういう事は口にするなよ?まだ三歳だぞ?」
「えー?だってあたしたちのごはんって “アレ” じゃない。
 娘に適切な知識を与えないで飢え死にさせる気なの?」
「二人して俺の三倍メシを食いながら言うか?
 ……お前さん最近ぷにぷにしてきたぞ?二の腕とか」
「う、ピーくんのごはんおいしいからついおかわりしちゃうんだよねぇ……作り手ともども。
 さすがあたしの『婿』!」
「『げぼく』なんて読まねえよ、その字は」
「あたしとノワちゃんの辞書にはそう書いてあるけど?」
「ブラン教授の娘か、あの石頭も見た目によらずアホな事言うよな……それは措いといて、
 俺をミエルと一緒にすんな」

先日めでたく懐妊した、五歳年上の司書アヌビスの仏頂面と、
その連れ合いである、若き助教授にして後輩の柔和な童顔を思い浮かべながら、
ピヴォワンはため息をつく。

「ほーけーめがねと、としうえつるぺたがはじめてどーしでくっついた、
 な〜んて共通項があるよね〜♪」
などと言い放ちやがったヴィオレットを、
ふたりがかりでとっちめようと町中追い回したのも懐かしい……わけねーだろ。
後で、何故よその夫婦のシモ事情まで知っているんだあんたは、と訊ねてみたら、
そんな匂いが微かにしたんだよね〜、自分のとピーくんのとで嗅ぎ慣れてるからさぁ、
などとしれっと嘯いた。どんな匂いだ。

じきに六年の付き合いになるのだが、いい加減色々自重してほしいと嘆いているところに、
のんきな与太を垂れ流すNインプ嫁。

「あーあ、ミーくんは素直で可愛いよね〜、ノワちゃんがうらやましーわ。
 それに比べてウチの子は……。
 意地っ張りだしあまのじゃくだし、その癖いざするとなるとがっついてくるし、
 最近ぜーんぶ剥けちゃったからって、
 調子こいてがっつんがっつん、らんぼーに突いてくるし……もっとして♪」
「だから実の娘の前でそういう事を言うんじゃないっつの」

最後の惚気には喜んで答えるつもりだが、
さすがに休日の真っ昼間からエロトークは勘弁してください。

と、今まで沈黙を守ってきた娘が、父のシャツのすそを握り締めながら口を開いた。

「でもパパ、ママはいっつも『世界で一番おいしいものは、パパのミルクだよね〜』
 って言ってにやにやしてるよ?
 やっぱりわたしもパパのミルク飲みたい、ねえ頂戴?」

そう言い放つロングヘアの娘に、どう返したものかピヴォワンが悩んでいるところへ、
彼の妻は得体の知れない小瓶を差し出した。満面の笑顔が実に不吉だった。
展開の読めた彼は、とりあえず深呼吸し、

「この疑似精剤で我慢しなさい、パパのとおんなじ味だからさ。
 いつも飲んでるママの保証付きだよー?」
「だあああ、いい加減にしろー!!」

肺の底からシャウトした。
10/04/01 01:05更新 / ふたばや

■作者メッセージ
ぼくのかんがえたりそうのどうていそうしつ。

……と言いたいとこですが、ゴメンなさい。
どーてーやそ〜ろ〜って連呼されたり、
イヤ〜な笑い浮かべられながらキンタ◯握り締められるのは勘弁っス。

さておき、男女が出会い、
相思相愛になるまでの課程を書けるようになりたいです。

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