連載小説
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プロローグ
 リュカ・エイワーズは勇者である。
 彼の出身地は反魔物国家の片田舎の更に外れで、年の離れた姉と共に貧しくも幸せに暮らしていた。だがその平穏を壊すかのように教団の神父と護衛数名が彼らの元に訪れ、無理矢理リュカを連れ去ってしまったのだ。というのもリュカには勇者としての高い資質があったからだった。
 教団本部にある育成機関に強制的に入れられた彼は徹底した監視下の元、高度な教育と訓練を受けて徐々にその才能を花開かせていく。勿論、リュカがそこまで頑張れたのは何時か大切な家族の所へ帰る為でもあったが、純粋な彼が教団の凝り固まった反魔物思想にある程度染まってしまったことも仕方がないことであった。
 教団にとっては良い意味で急成長を遂げたリュカは最年少で機関を卒業、主神から正式に加護を与えられたリュカは選び抜かれた装備を携え単身魔界へと乗り込んでいったのである。
 ここで誤算だったのが、教団の極一部のみが知る魔物の真実をリュカに教えなかった事と、如何に厳しい教育を施されても彼の心根の優しさを曲げることができなかった事。何より、彼の少女と見紛ごうばかりの見目麗しい容姿が魔物達にとっては格好の獲物であったことが己の運命を大きく左右することになろうとはリュカ自信気付く筈もなかった。

「これが魔界……」

 そんなことは露知らない勇者はというと初めて目にした魔界の光景にただただ圧倒されていた。空気中にはサキュバスの濃厚な魔力が漂い、昼は非常に薄暗く、夜には禍々しい紅い月が燦然と地上を照らして魔力を妖しく光らせる。昼よりも夜が明るい、正にこの世のものとは思えない世界が広がっていた。
 ここから先は魔王が支配する魔物達のテリトリー。道先案内人を勤めた教団の関係者は去った後で、リュカは完全に孤立無援の状態。今ならひっそりと故郷に帰ることもできるだろうが、教団の命に背いた者にどのような処罰が下されるかは想像するに難くない。リュカとしても親代わりに自分を育ててくれた姉に迷惑を掛けることだけはしたくなかった。
 退路など初めから存在しなかった。そう自分に言い聞かせた後、背負っていた皮袋の中から漆黒のローブを取り出して全身を覆う。これには隠密行動の意味合いもあったが、彼が進む進路上には親魔物国家もあるので念には念を入れておこうという考えがあった。

「さあ、行こう」

 装備、荷物などを入念に再確認した後、リュカは魔王城を目指してその第一歩を踏み出した。

【ToBeContinue...】⇒【森の甘い誘惑】
11/07/15 23:24更新 / カーネリア
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■作者メッセージ
 次回:遂に魔界へと足を踏み入れたリュカだったが、出会う魔物の姿に戸惑うばかり。広大な森林でまず最初に彼に狙いを定めたのは果たして……。

 なんて次回予告を書いてみましたが森林を生息地とする登場させて欲しい魔物娘がいれば感想などに書いて頂けると嬉しいです。私個人としてはアルラウネとかがいいかなと考えていたりしますが、ユニコーンとかも捨てがたい……むむ、悩ましい限りです。

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