読切小説
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宵闇夢快譚【陰陽師】
俺の名は、『ハメノ ミツヒロ』。
表向きは九州の私立大学に通う、出席数も単位も留年スレスレという、どこにでもいるような、ありふれた落ちこぼれ大学生だ。
………そう、表向きは。
たまに講義をサボったり、合コンをブッチしてまで、俺は長年の友人ですら知らない裏街道まっしぐら、他人に教えると『痛い人』のレッテルを貼られかねない仕事をして、学費と携帯電話代と滞納している家賃を稼いでいる仕事人。
それが俺、ミツヒロの裏の顔である。
「………ここか。」
とある平日の早朝、依頼人から指定された住所に赴くと俺は衣服を正した。
平安時代のエロ同人誌的な位置を不動のものとしている名作『源氏物語』を思わせるような時代遅れな狩衣姿、烏帽子、木靴という非常に目立って恥ずかしいことこの上なく、実際着用している俺自身が時々恥ずかしくて死にたくなるような仕事着。
「五月蝿え、そこの女子高生!俺だって恥ずかしいの我慢して着ているんだ!笑うな!指を差すな!写メ撮るな!式神送って呪うぞゴラァ!!」
と、登校中の女子高生が人様を指差して笑ったので呪詛を吐く。
ご覧の通り、俺の裏の顔とは『陰陽師』である。
え、何でこれが恥ずかしい仕事かって?
考えてみろ。
『俺、お祓いが出来るんだぜ(キラッ)』なんて痛い人以外何でもないだろ?
………くそう、ボヤボヤしている暇はなさそうだ。
さっきからゴミ出しの主婦とか、登校中のクソガキとかが笑いながら写真撮ったりして、目立ちまくっている。
俺は日陰者の陰陽師。
あくまで影として人々の役に立たねば……。
「君、ちょっと何やっているのかな?」
ゲッ、国家権力の犬(おまわりさん)が…!?
誰だ、警察なんか呼んだのは!?
「ちょっとそこの派出所で話を…。」
ザキッ!!

ズブン(みぞおち手刀)

「げろっぱ!?」

どさっ

ふぅ……、危ないところだった。
陰陽の奥義がこんなところで役に立つとは思いもしなかったぜ。
………国家権力の犬にこんなことやって大丈夫かって?
大丈夫。
主婦やクソガキどもから見えない角度だったし、後で蘇生奥義『ザオリク』をかけてやるから。
さて……………、気を取り直して依頼人と接触するか…。

(ぴんぽ〜ん♪)

玄関のインターホンを鳴らす。
間抜けなくらいに明るい音のしばらく後、冴えない男の声が返って来た。
『……はい、どちら様でしょう。』
明らかに疲れ切った声。
俺に助けを求めてきたのは、まさにこの絶望に沈んだ声だったのだ。
「お待たせしました。あなたの街のポンポコタヌキ印の便利屋さん、『有限会社 ぶんぶく茶ヶ魔』の心霊事件担当社・ハメノ ミツヒロでございます。」
刑部狸の社長が決めたマニュアル通りの恥ずかしい挨拶。
必ず明るく、テンション高めにやらなきゃいけないというのが決まりだ。
という訳で、俺は陰陽師ではあるものの派遣会社の派遣アルバイターなのである。
………くそう、また主婦やクソガキが馬鹿にしたように笑ってる。
……呪ってやる。
…社長も、主婦も、クソガキも。


―――――――――――――――――――――――――――――――――


「……しょじょの まんこう、さんですか?」
ニフラムッ!!!」(←脳天唐竹割りチョップ)
名刺を見ながら俺の名前を間違った依頼人の腐った脳味噌を奥義で清めると、俺の溢れる霊力によって気絶してしまって依頼人を踏み付けて、ターゲットがいるという二階へ上がる階段を一歩一歩上っていく。
しつこいようだが、俺の名は『ハメノ ミツヒロ』。
漢字で書くと………『初女野 満弘』…。
…………そう、依頼人が間違ったのも無理はない。
大学での俺のあだ名も『処女マンコ』、もしくは『マンコ』だったりする。
………考えるのは止そう。
悲しくなってくる。
気を取り直すように、俺は依頼人から聞き出したターゲットに関する情報を記したメモを袖から取り出し、鬱な思考を振り払うかのように一心不乱に内容を頭に叩き込んだ。
ターゲットは依頼人の娘で、北乃木 ツネ(17歳)。
異変が起こり始めたのは今から2ね……2年前!?
当時中学生であったターゲットは、同級生たちと『コックリさん』という交霊術に酷似した遊びをやった直後から、急に肉食を好むようになったり、性への興味を持ち始めるなどの変化を見せるようになる。
………典型的な動物霊の仕業だな。
特に『コックリさん』など、素人がやると決まって始末が悪い。
「ぶっちゃけ、2年もほったらかしとか間違いなく手遅れなんだがな。……他には服の趣味が男を誘うような露出が多いものに増えた、急にスタイルが良くなった、…………依頼人の妻が若返って、魅力的なサキュバスになった!?惚気か!つーか魔力汚染被害ダダ漏れじゃねえかよ!!気付けよ、クソ親父!!!」
上りかけた階段を駆け下り、気絶して床に臥している依頼人の延髄に全身全霊、渾身の力を込めた仮面ライダー2号を思わせる華麗なるライダーキックをぶちかますと、再び今降りてきた階段を駆け上る。
「ぜぇ…ぜぇ…!余計な体力を使わせやがって…!!」
気分はまるでボスキャラの部屋の前に辿り着いたロックマンのよう。
気が付けば、俺はターゲットがいるという部屋の前に立っていた。
ドアには、17歳の少女らしい、しつこいくらいに可愛さを自己主張した『つねちゃんの部屋』という100円均一で売られていそうなプレートが下がっている。
「さて、鬼が出るか蛇が出るか…。」
静かに、俺はターゲットの部屋のドアノブを回すと、俺の目の前には……

「ウケケケケケケケケケケ…!!!」

奇声を上げながら笑う空飛ぶ少女を真ん中に、まるで台風が部屋の中にだけ出張してきたかのように、本やぬいぐるみなどがブンブンと飛び回るポルターガイストの真っ最中、という目を疑いたくなるような光景が広がっていた。
帰って良いですか?
あ、駄目?
ですよねー。


―――――――――――――――――――――――――――――――――


「ウケケケ……。来たか、霊能力者!!」
ポルターガイストの中心地、宙に浮いた少女・ツネ(狐憑きver)は満弘を見付けると、ほとばしる妖力をスーパーサイヤ人のように弾けさせると、満弘に向けて鋭い視線と意識を飛ばして威嚇した。
「……やはり動物霊、それも狐か。」
学生と兼業とは言え、そこは満弘も陰陽師である。
ツネ(狐憑きver)の突き刺さるような視線にも物怖じせず堂々としていた。
「え、マジ!?ウチのことがわかると!?ウチが狐ってわかるなんて……、さてはアンタ、ウチのこと……一目惚れしよったね!」
「アホゥ、俺ぁ腐っても陰陽師。持ち前の霊能力とSSの展開上のご都合で、テメエの正体なんか丸っとスルッとお見通しだ。名を名乗れ、妖怪。陰陽師の名に賭けて、お前に説教をかましてやる!」
本来の狐の尻尾や耳が見えるようになるまでのプロセスを百段飛ばしでぶっ飛ばして、ツネ(狐憑きver)の正体を僅か数行で、その脅威の霊能力を使って看破した満弘は、陰陽師らしく袖からお札を何枚も取り出すと、ツネ(狐憑きver)と真正面から向き合った。
「……チッ、所詮はギャグSSったいね。よかよ、ウチが狐やってわかっても退かない、そんなあんたの肝っ玉に免じて教えてやるっちゃね。ウチの名は、かつて大陸を恐怖のどん底に沈めた、その名も妲己…!」
メラッ!

ぺちっ(お札ビンタ)

「いたっ!?痛いよ!?」

ぺちぺちぺちぺちぺちっ(往復お札ビンタ)

「いたたたた!?あれ、もしかして見栄張ったのがバレとっと!?」
「どこの妲己が博多弁で喋ると思ってんだ、ああん?」
陰陽道奥義『メラ』の恐るべき威力に、ツネ(狐憑きver)は距離を取り、ブルブルと震えて、怒ったように頬をプクッと膨らませると、満弘を目に涙を一杯溜めながら睨んでいた。
「じゃ、じゃあ、阿倍清明とかに退治されたり、殺生石で有名な…。」
「玉藻御前がお前みたいなチンケなものであってたまるか!」
自分の正体すらしどろもどろになって、あやふやになってしまうつね(狐ver)との押し問答を、常に強気に切り返していく満弘は、時々奥義を繰り出しながら優位に運んでいく。
「うぬぬぬ……見事なり、陰陽師!よくぞウチが名無しの狐火やって見抜いたばい!」
「いや、見抜いたというか何と言うか……ねぇ?」
どうやらこの狐憑き、本来ならば曖昧な意識しか持たないはずの狐火が、人の器を得たことで余計な知識を大量に得て、強靭な自我を形成して、宿主であるツネの意識と身体を乗っ取っているのだと、満弘は悟ったのであった。
「あー……、俺もあまり手荒なことをしたくないから、その娘さんの身体、今更だけど…、さっさと解放して出て行きな。どうせお前さんも妖し娘の類なら、犯りたいハメたい危険地帯って感じなんだろうけどさ、その娘さんの意思ってもんがあるだろうよ。自分が望まない性交をするってのは、娘さんにとってはそりゃあ苦痛で…。」
「あ、安心せい。一応ウチだって慈悲ってあるったい。結構頻繁にこの娘さんに身体を返しとうし、案外ウチとの憑依ライフをしっかり楽しんどうし、エッチなことに興味津々の思春期真っ盛りなんもあろうもんが、学校でも彼氏とズッコンバッコンなスクールライフを楽しんどうよ♪」
その言葉を聞いて、満弘は膝から崩れ落ちた。
彼は、素人童貞だったのである。
本体も楽しんでいるし、狐火自身も良い人らしいので祓う理由が見付からないのである。
「おりょ?どうしたと?」
完全に心が折れてしまう寸前の満弘に、彼女はやさしく声をかけた。
それどころか座り込んで、やさしい声と同じくらいに暖かな手の平でやさしく満弘の頭を撫でてくるのである。
祓えない。
祓う理由が見付からない。
完全に仕事をキャンセルする方向を考えていた満弘だったが、その時、彼の脳内に鮮烈にあることが思い出された。
キャンセルしてはいけない。
祓わなければいけない。
自分が何者かを思い出した満弘は立ち上がった。
その目には、光が戻っていたのである。
「……気にするな。お前を祓う口実を見失いかけたんだが、思い出させてもらったよ。お前はやさしい。それも陰陽師として惚れちゃいけないだろうが、惚れてしまいたくなる妖しだ。だが、俺はお前を祓わなきゃいけない。この仕事をキャンセルしてしまったら、派遣会社に違約金を払わなきゃいけないし、違約金を払ったら先月買ったバイクのローンが払えないからな。」
「俗っぽいな、あんた!!」


―――――――――――――――――――――――――――――――――


「どさっ……、ふっふっふ、ウチに上着を脱がせるやつが現れるとはね。やけど、ここまでったい。ウチは後3回変身を残しとるばい。」
「口で言ってんじゃん。どさってさ。つーかフリーザかよ。変身多すぎだよ。」
「ウチの性交力は57万ったい。」
「話聞けよ!何だよ性交力って!!」
ターゲットを祓うと決めたのだが、案外ノリの良い狐憑きのツネ。
いや、この場合は本体の狐火なのだろうか。
何の変哲もないパジャマの上着を重そうに脱ぎ捨てて、黒いレースのブラでたわわな巨乳を隠した姿になると、彼女はドラゴンボールの戦闘前のように首や肩を回して準備運動を始めた。
小気味の良いステップを踏むたびにブルンブルンと揺れる胸は、まさに大量破壊兵器であると言わざるを得ないであろう破壊力を秘めている。
「ふっふっふ、陰陽師さん。」
不敵な笑顔のツネ(狐憑きver)がブルース=リーのような軽快なステップを踏むファイティングポーズと顔真似をしながら訊ねてきた。
「墓石に刻む名前を聞いておくばい♪」
「………………は、はめの……みつひろ…。」
「字はどんなんね?」
本気で墓石に刻むつもりなのか?
答える俺も俺で、律儀にメモ用紙に自分の名前を書いていく。
「……マジでこん字と?」
「…………マジよ。」
微妙な空気が流れる。
『初女野 満弘』という、決して上手ではない字で書いたメモを凝視する狐憑き。
何となく気まずくて、俯いて黙っていると俺は肩を抱かれた。
「……つらかったやろうね、あんたも。こんな虐待みたいな名前付けられて…、きっとつらいあだ名とか付けられとっとうやろうね。つらかったやろうね…、つらかったやろうね。」
俺の肩を抱く腕が震えていた。
「…つ……つらかった…。ミツヒロだって言っている『マンコ』とか『マンコ』とか『マンコ』とか言いやがってさ…。正直伏字にならないのが不思議なくらいのあだ名を付けられた上に、そのあだ名のせいで『ヤリチン』だとか噂を流されたりして、本当に暗い思い出しかないんだ…!」
名前のせいで初恋の女性にフラれた思い出。
名前のせいで何もしていないのに『女の敵』に指定された高校時代。
いくつものつらい思い出が浮かんでは消え、浮かんでは消えていく。
「つらかったやろうね…。」
ギュッと抱き締めてくれるツネ(狐憑きver)。
正直、豊満な胸は破壊力がありすぎて窒息しそうだったが、そのやさしさに包まれて、胸の奥が切なくなった俺は思わず彼女を抱き返していたのである。
やさしく、子供をあやすように髪を撫でてくれる暖かな手。
しかし……
「ぶふっ♪」
それは、突然終わりを告げるのであった。
「あはははははははははは!!!!駄目や、もう我慢出来んばい♪マンコ、男やけどマンコっちゃどういうことったいねぇ♪あはははははは、痛い、横っ腹超痛い!!ウチの腹筋が部位破壊♪」
さっきの震えは、笑いたいのを我慢していただけだったのである。
我慢していた笑いを解放したツネ(狐憑きver)は、床で笑い転げて、まともに呼吸が出来ないのだろうかゼェゼェと息切れを起こすのだが、床をバンバン叩いたりして、思い出したように再びゲラゲラと笑い始める。
心の底から楽しそうなツネ(狐憑きver)に俺は…………

心 の 底 か ら 殺 意 が 湧 い た !

「ふんっ!」
「あははははははいけん、後ろ取られあははははは力が入らんばいあはははは♪」
スベスベのお腹に、背後から腕を回す。
ストレートのロングヘアから香るアジエンスの香りに、一瞬怒りが抜けそうになったが、人が気にしている『マンコ』を連呼した文字通り人でなしにはきっつい制裁が必要なのだと、俺は言葉ではなく、心で理解したのである。
だけど俺は陰陽師だけどジェントルメン。
666発殴り付けるとか、やつが泣いても殴るのをやめないとか、そんな乙女、粛せ…じゃなかった修正してやるみたいに、野蛮な直接暴力なんて振るわない。
悔いが残らないように……一撃で終わらせてやる!
「陰陽師最終奥義!!」
「ちょ、ちょっと待つばい!?ウチ、確かに後ろから抱き締められるのは好きやけど、この体勢は明らかにアレやろ!?つーかアレをやられたら、ウチどころか、この娘さんにもとんでもないダメージがっ!!」
この奥義を繰り出すのは、俺自身が危険なのだ。
最悪、1週間は車椅子生活になってしまうだろう。
だが、やらなければならない。
マンコを連呼するような口の悪い娘には教育的指導が必要なのだ!
決して私怨ではないことだけは理解して欲しい。
この奥義を繰り出す時、俺は身体の中で神々の息吹を感じる。
相手を助けたい。
闇を光へと導きたい。
そんな愛と慈悲の心で、力強く背後からターゲットを抱き締める。
そして抱き締めたら、愛しい人を抱き上げるように、愛しく抱き上げるのだ。
その際には、腰にかかる負荷を波紋で受け流せ
「ちょ、ちょ、ちょっと〜!?」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」
最後の仕上げだ。
腰にかかる負荷を乗り越えたなら、後は己が内に不動明王の神通力を感じるのだ。
ま、要は気合だ。
抱き締めた相手を自分の後方へ、気合と共にヘソで投げる。
それがこの俺、陰陽師・初女野 満弘だけが使える陰陽道最終奥義…!
「喰らえ、必殺ベギラゴン!!!」
「それバックドロップったい!!」

ゴスンッ♪

「えひゃいっ!?」(がくっ)

ぐきっ

「ぐああああああああああああ!!!!!こ、腰がぁぁぁ!?」


―――――――――――――――――――――――――――――――――


「マンコー、マーンーコーくーん。」
「五月蝿え、沢木!白昼堂々伏字ワードを連呼するんじゃねぇ!!」
除霊から3日後、俺は車椅子で3日ぶりに大学に来ていた。
あの日の除霊で、俺の予想通りに腰をグッキリとやってしまった俺だったが、出席日数がギリギリの講義があったのを思い出してしまい、こうやって車椅子で絶対安静なのを圧して、登校して来たところを、高校時代から友人である沢木 雷紅狼に見付かったのである。
ちなみに、うちの大学の学生ではない。
普段からフラフラしてて、何をやっているのかわからないのだが、すっごいリッチな恋人に食わせてもらっているので『究極のヒモ野郎』とあだ名されている男である。
「じゃあ、みっちゃん。こないだも陰陽師のお仕事やってきたんだって?」
「………耳が早いじゃないか。」
俺が陰陽師やってるなんて秘密なのに…。
てか、お前にも教えたっけ?
教えた覚えはないんだけど。
「祓ったのは狐なんだろ。このあたりの狐事情で、宗近の知らないことはないぜ。あいつは狐の大地主みたいなもんだし。それに………、件(くだん)の娘さん、手遅れだったんだってな。」
「…………ああ。」
手遅れだった。
自らの身体を犠牲にして、陰陽道最終奥義を放ち、狐火だけは祓うことが出来たのだが、俺の神通力及ばず……、依頼人の娘・ツネは完全に魔物娘化してしまっていて、妖狐になっちゃってたものなぁ…。
さすが、2年間も憑依していただけあるな。
奥義で完全に気絶してしまったターゲットが、目を覚ました時に俺のニフラムで寝ている依頼人に襲い掛からぬように、彼女の携帯電話を無断拝借して、彼氏を呼び出しておくというアフターサービスもやっておいたから、問題はないだろう。
ただ……、また日本国内にプチ魔界が誕生してしまった。
「じゃあ、俺、ゲストキャラだから、そろそろ帰るよ。」
「訳のわからんことを…。だが、少し帰るのが早いんじゃないのか?もう少しゆっくりしていけよ。そろそろ昼だし、素うどんぐらいなら奢るぜ?」
「いやぁ。」
沢木は、何かいやらしい笑みをニヤリと浮かべた。
「俺も野暮はしたくないもんね。」
そう言って、俺の後ろを指差すので、何があるのだろうと、俺はその方向に顔を向けた。
「…………………………♪」
ゆらゆらとした蒼い炎が揺れているかと思うと、嬉しそうに、恥ずかしそうに、炎の中から式服に身を包んだ、ちょっと幼い感じの狐さんがはにかんでいた。
見覚えがないな、と思っていると、沢木がお見合いの仲人のように『後は若い二人で』なんて言いながら、光の速さでフェードアウトしていった。
相変わらず、落ち着きのない男だ。
「あの……、ウチのこと…、わかる…?」
「………ま、まさか!?」
その妙な博多弁のアクセントは………この間の狐火か!?
「やったぁー♪ウチのこと、わかってくれとった〜♪」
いきなりのハグ。
かなり強烈なハグ。
何というか、やたらじゃれ付いてくる室内犬みたいだ。
「ま、待ってくれ!状況が掴めない……いや、掴めないというより、お前は俺が祓ったはずだよな!?何でまだ現世にいるんだよ!?むしろ、何で俺の格好を真似してるんだよ!?」
「あむあむ…♪」
「耳たぶをあふんっ…♪………ハミハミするなー!!」
訳がわからない状況。
ちょっと幼い感じの狐火には抱き付かれているし、何故かすごく甘えられているし、耳たぶをハミハミされているし、得も知れぬ甘くて良い匂いだし…ってこれは関係ないな。
抱き付いていた狐火を引っぺがして、地面に立たせる。
浮いているから、立たせるという表現も、どうかとは思うけど。
「えっとね……、あのバックドロップは強烈やったとばい。でもね、あの身体からウチを追い出すことは出来たけど、本格的にお祓いするには至らんかったと。でも追い出されて……あの娘さんはあの通り妖狐になっちゃってたし、あの娘さんのとこに戻ることも出来ないから……ウチ、このまま消えちゃうんやないかって不安やったと…。そしたら、陰陽師さんが見えたから……消えちゃう前に、死力を尽くした強敵(とも)に会いたくなって、会いに来ちゃった♪」
とても良い笑顔で、とんでもないことを言う狐火。
消えちゃうとか、シリアスなSSでもない限り出て来ない結末をサラッと口にするもんだから、思わず聞き流してしまうところだった。
…う〜む。
こういう場合、俺の返答一つで変わっていくんだよなぁ。
言葉は慎重に選ばなければいけない。
だが、どう考えても選択肢が一つしかないようにしか思えない。
これが伝説の強制ルートなのか。
ドラクエの勇者の気持ちがわかったような気がする。
「消えなくても良い方法があるんだろ?」
「陰陽師さん…?」
「………俺の式神から、俺たち…、始めてみないか?」
手を差し出す。
驚いたような表情を浮かべた狐火だったが、すぐに頬を赤く染めて、喜びを爆発させたような笑顔で、涙を浮かべながら無言で抱き付いてきた。
まるで子供が泣くように、しっかり首に手を回して、離れないように。
「うん♪」

結局、狐憑きを祓ったのに、俺が狐に憑かれた。

何を言っているのかわからねえと思うが、起こったままの事実を話している。

その後、俺たちは契約の儀式の一環として始めた『交換日記』からという、とてつもなく奥ゆかしくてプラトニックなお付き合いが始まった。

ツネに取り憑いている間にエロエロやりすぎた反動なのかも、と彼女は照れたように笑う。

今は、まだ式神として彼女を扱っている。

だが、その使役するはずの式神に心を寄せる俺がいる。

いつの日か、二人の関係が変わってしまうのも……

そう遠い未来ではないのかもしれない。


「いくぞ、悪霊!この史上最強の陰陽師・初女野 満弘と!」

「らぶりーすいーと式神の『かがり』があの世に郵パックで送ってやるけんね!」

「かがり、呼吸を合わせろ!」

「おーけーだーりん!喰らえ、愛と勇気と性欲のぉ…!」

「「陰陽道合体奥義・ミナデイン!!」」

12/02/19 01:48更新 / 宿利京祐

■作者メッセージ
今年はとことん健康運がない、
そんな体力ステータスがマイナス方向まっしぐらな宿利です。
皆様、お久し振りです。
如何お過ごしでしょうか?
今回は、狐憑きさん(メインは狐火だったような気もする)を
と〜〜〜ってもフリーダムに描いてみました。
反省しております。
そもそも、この作品の発端がインフルエンザで寝込んでいる最中で
平熱34度7分という私が39度まで熱が上がった状態でメモしていたものです。
混沌としすぎてて、自分でも突っ込めません。
笑ってくれたなら幸いです。

では最後になりましたが、
今回はここで、少々お知らせを入れさせていただきます。
『風雲!セラエノ学園』は次回、予定を変更してラジオをやります。
本編に絡んだ、とある事情が発生してしまい、
急遽『暴れん坊皇帝』を延期させていただきます。
ご了承ください。
詳細はラジオ本編にて。
いつも通り、ふつおた、お悩み相談、楽屋裏のリクエストを
今回は、こちらの読みきり作品の感想にて受け付けております。
どうぞ、軽い気持ちでホイホイ書きこんでくださいね^^。
ゲストはお詫びを込めて、ノエルが出ます♪

では今度こそ最後になりましたが
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
またどこかで、お会いしましょう^^ノシ

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