読切小説
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異世界人用冒険者組合
目を覚ましたら異世界だった。
なんて事は、最近のネット小説のなかじゃあありふれた事だ。
俺、佐々木英彦も、目を覚ましたら異世界に転移していた。

どうにもこの世界は魔物娘って言う人間の敵対勢力がいて、主神を崇める教会、そして主神が力を与えた勇者ってのがいるらしい。魔物娘は見目麗しい女性たちの姿をして、男をたぶらかして精を吸い尽くして殺し、女は魔力で魔物娘に変えてしまう。

めっちゃ怖え……。
腹上死なんて憧れだって思った事がないと言えば嘘になるけれども、実際に死ぬのは怖い。それに、相手。いくら見目麗しい女性だっつっても、娘の前には余分なものがついている。
そう、魔物だ。
きっとあそこに牙が生えてて、精を吸い尽くした後にはそいつでまず……。
うん、その先は考えちゃあいけないんだぜ。

それで……俺? 俺は勇者じゃない。異世界から召喚されたっていっても、俺は勇者じゃあない。平々凡々な一般人だ。
異世界に転移させるんだったら、ちゃんとそうしたオプションをつけておいて欲しい。
誰が俺をここに召喚したのかはわからないけれども、フォローがなってない。

んで、異世界人だって言う俺だけれども、生活にもそんなフォローなんてないんだ。
だから、ダークメイジって職業のお姉さんに出会わなかったら大変な事になっていた。
ギルドに連れていってもらって、幼女のギルドマスターに出会って、さすが異世界、見た目幼くっても、外見と実力は噛み合ってないって本当だったんだ。幼女がのじゃのじゃ言いながら説明してくれるのはとっても興奮したな。

ギルドでは、冒険者になって、魔法適正を調べたり、身体能力、後はプロフィールとかを聞かれてクラスをもらった。
聞かれた事の中には変なものもあったな、打つ方と打たれる方、どっちが良いですか、とか、望む子供の数は、とか洞窟暮らしは大丈夫ですか、とか。
きっと、パーティーを組んだ時の、アタッカーとか壁役の適正、クエストに出て野宿が大丈夫か、とかそんな適性の確認なんだろう。

俺はゴートのMってクラスを言い渡された。
他にはウルフ、ラビット、ホース、キティ、パピー……、どうにも動物の名前がクラスになっているらしくって、真面目な冒険者組合だってのに、お見合いパーティーのグループわけみたいなのりだった。

で、俺はそのまんまじゃまだ危険だからって、ギルドで鍛錬をつけてもらえる事になった。
今思い出しても恐ろしい。
ダークエルフさんの無知……あれ、字が間違ったかな、鞭さばきだとか、牛の獣人の女性のブートキャンプだとか、腹筋バキバキなのになんだあの胸。しかも運動するたびにポヨンポヨン揺れて、スクワットなんて、前かがみになったわ。
後はお料理教室なんてのもさせられたな。冒険者には炊事スキルが必須なんだって言われた。男もちゃんと出来ないとな、って。

それで、この世界って、魔物娘ってのだけじゃなくって、亜人もいるんだな。
しかもみんな美人。
なんだけど、残念ながらみんな結婚してて……。くそぉ、異世界人だからってモテるわけじゃないのか……。

このギルドには俺以外にも異世界人がいた。みんな俺と一緒に鍛錬を受けて、夜は酒場でどんな子が好きかって馬鹿話もして友情を育んだ。まだ金のない俺たちに、代金は出世払いって、至れり尽くせりだ。俺も含め、みんな異世界じゃロクな思い出がなくって……、っていけねぇ、異世界はこっちだったな。
あまりにも馴染んでツイツイ。

で、店員さんたちにも亜人さんが多くって、猫耳とか、山羊の角みたいなのを生やしたお姉さんもいた。え? 足は? 足は人間の足に決まってるだろ? 認識阻害とか、魔法で変化させてる? は? なんでそんな事をするんだ?
あ、あー、みなまで言うな、大丈夫、彼女たちは天然物さ。見た目をごまかして美しく見せてるわけないさ。性格も良いんだぜ?
ま、俺たちがどんな子が好みか、とかどんな体位が好きかって話には聞き耳を立ててたなぁ、ほら、耳がピクンピクン動くんだよ。
そりゃあそんな可愛い子たちに、俺たちの下品な話に耳を澄まされたら、調子に乗って話してしまうだろ?

中には俺は童貞だーって叫んで、次の日、サムズアップで童貞捨ててきて亜人の彼女が出来たってやつもいたんだから、羨ましい限りだ。
俺も童貞だ、って叫んでみたけれど、駄目だった……。
泣いてない、泣いてないぞ。
で、あの人はゴートのMだからダメねって言われたのは関係ないと思う。
その元童貞の奴は、ラビットのMだったと思う。
ああそうそう、そいつは夜の方は、回数は出来るけど、早いんだ、って嘆いてたっけなぁ……。
まるでウサギみたいだ。
つーことは、ホースクラスの奴は馬並みなのかよって、笑ったっけ。

さて、俺はこんな風に、今まであった事をまるで人生のまとめみたいに考えていた。
なんせ、俺は今日、ついにクエストに出るんだ。
ようやくだ。
まあ、さすがに実戦経験ゼロの俺だから、まず行くクエストは低ランクの簡単なものだ。でも、外に出るってのは魔物娘ってのに出会う可能性もあるし、俺の受注したクエストも、魔物娘の討伐だ。

黒犬討伐。
火山の方に生息する低ランクの魔物娘らしい。
そんなのの討伐だって言うのに、ギルドは、俺が初めて、それで火山までは遠いって言うから、馬車で送ってくれるって言うんだ。至れり尽くせりだな。

ギルドの面々は感慨深そうな顔で送り出してくれたし、ちょっと大切に育てた娘を送り出す父親っぽかったけど……、ああ、ダークエルフの教官は……、なんと言うか、家畜を出荷するような顔をしていたけれど。

さて、みんなの期待に答えるとしますか。
俺を運んでくれる馬車は結構頑丈で、窓もない。
途中で襲われないようにって事だろう。
余計なものを見ないように、って意味じゃあないと思う。

さぁて、ちゃっちゃと黒犬とやらを討伐して、みんなを喜ばせてやりますかね。
そう思って、俺はその馬車に乗り込むのだった。

ガチャン。
ん?
なんか今、馬車に鍵がかけられたような気がしたけれども……。
ま、いっか。



『異世界人の夫斡旋所〜あなたの夫へのご要望すべて叶えます〜』

「へへっ、俺の夫になるやつって、どんな奴かな。あー、楽しみ。俺の下ですっげー喘がせてやんよ」

一人のヘルハウンドさんが、お家で、ゴート(山羊)クラス、理不尽な生贄シチュを笑って許せてマゾ属性もち、の夫を望む、と言う応募用紙控えを片手に、ワクワクと股を湿らせていた。
18/06/12 12:45更新 / ルピナス

■作者メッセージ
いやー、無知って怖いですね(ゲス顔)

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