読切小説
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カルディナリスの外套
カルディナリスの外套


 紳士淑女諸君、諸君らは異性のどのような部分に惹かれるだろうか?
 人それぞれの回答がそこにはあるはずだし、その答えの全ては正しく、また尊いものだ。
 例えば胸、乳房、おっぱい……。
 呼び方はたくさんあるがとりあえずは胸で固定しておくと、胸も大きければ良い、小さい方が良い、垂れたほうが良いなど様々な意見が飛び交うことだろう。
 それ以外だと足、肉付きのよいむっちりした足に挟まれたいという者もいるだろう。カモシカのようなしなやかな足で蹴られたい者もいるだろう。
 他には腹、などだろうか? だらしなく緩んだ腹肉に顔を埋めたい。くびれのある見事な腹を撫でたい。ボテ腹を愛でたいなど、趣味は人それぞれだ。
 私個人の見解は他所にしておくとして、大切なことはどの意見も正しく、また等しく価値があるということだ。
 さて、ここまで長々と独白をして来たが、何故私がこんなことを考えているのかと言うと……。
 実は今私がいる場所には、私が最も好きな特徴を備える魔物娘がいるからだ。


「ぐおおおおおおおおお、ギリギリ、ふしゅるるるるる」

 現在私の目の前で盛大ないびきをかきながら眠っている魔物娘、彼女こそが私が長いこと探していた特徴を備える魔物だ。
 魔物娘、彼女らが社会に認知されるようになってからすでに十年以上が経過しているものの、未だに私の好きな特徴をデフォルトで備える魔物娘は二種類程度しか確認されていない。

「よしよし、よく眠っているな」

 この魔物娘の住処にして私の今いる場所は、意外や意外、市内にある山の中である。
 より正確に場所を述べるのであれば、北の外れも外れ、洛外という言葉がしっくりくるような場所だ。
 そんな洛外の鬱蒼と木々が生い茂る山は平安時代には魔界とすら形容されるような未踏の場所、奇岩巨岩で成り立つ険しい道が続く魔境であった。
 古には生半可な覚悟では山伏ですら修行をためらったというような場所だが……。
 どうやら件の魔物娘にとっては単なる過ごしやすい場所のようで、頂上付近の洞窟に彼女は住んでいる。

「ふふ、私が見ているとも知らず、無用心だな」

 私がいかにして彼女の住処を見つけたのか、今は細かい説明は避けるが、ひとまず『魔王様の加護』とだけ言っておくとしよう。
 洞窟内部は意外に広く、目測ではあるが高さは三メートルほどで奥行きはだいたい十メートル、横は二メートルくらいだろうか?
 入ってすぐの場所に彼女が横たわる岩のベッドがあり、少し先には鳥か何かの肉が無造作にぶら下げられていた。
 総じてものは少なく、ゴツゴツした岩肌と苔むした壁がよく目立つ洞窟、灯りも用意されていないため入り口からの光が辛うじて奥まで照らしているくらいの暗さだ。
 しかし粗末に見えて随所に生活を快適にするような知恵が見え隠れしており、私は内心舌を巻く。
 例えば彼女の眠るベッド。素材そのものは岩で出来ており、おまけに壁に半ば埋まっていることから住処の主人がどこからか持ちだしたのでなく元々ここにあった岩であることは想像に容易い。
 しかし彼女がその身に宿した剛力で以って砕いたのか、岩は私の見る限り凸凹はほとんどなく、毟った鳥の羽が敷かれたベッドは意外と快適そうにも見えた。
 では、ここいらで眠りこける彼女の姿を可能な限り正確に述懐してみるとしよう。ちょうど彼女は仰向け、見たい放題というわけだ。

「……鼻血が出て来たな、いけないいけない」

 一旦冷静になろう、さもないと出来ることもできなくなりかねない、深呼吸深呼吸。
 よしよし、とりあえず鼻血は止まった、気を取り直して私は彼女に顔を向けると、膝をついてベッドに立ち入る。
 まずは頭、ねじれたようにも見える茶褐色の角、魔物娘の中でもやや攻撃的な印象だ。
 続いては豊かな胸、彼女と同族には魔物娘世界の巨乳代表ホルスタウロスがいるため、あまり目立たない。
 だが全体で見渡せば十分大きなその胸はハリがあり、ラバーのようなベルトでなんとか先端を隠しているに過ぎないため、下半身に刺激的な姿は私を大いに蝋梅させ、誘惑してくる。

「うむむ、少しくらい触っても、バレないか?」

 いやいや、辞めた方がいい、もしこれで目覚めたりしたら色々と面倒だ。
 それに起きてからちゃんと襲ってくれるように『仕掛け』をしているのだ、今目覚めれば外見を愉しむ間なく襲われてしまうだろう。
 それは避けたい、グッと我慢して私は彼女の身体から少しだけ身を離し、視線を胸から下へと向けた。

「おおっ! これはなかなか……」

 続いては素晴らしく鍛え抜かれた彼女の腹、毛布も被っていないため、剥き出しの腹筋がそのまま目に入る。
 微かに呼吸とともに上下する腹筋、その筋肉も極限にまで鍛えられており、いくつにも割れ、板チョコのように見事な形をしていた。

「うむむ、これも素晴らしい、舐めたいな……」

 いやいやいや、ここは我慢、我慢だ。馬鹿な真似をすれば全てが無駄になる。まだ今は我慢の時、耐えろ、我が欲望よ。

「さてさてその下は、ふむふむ……」

 素晴らしい腹筋の下は毛に覆われた脚、こちらも鍛え抜かれた太ももは毛の上からもわかるくらいに分厚い筋肉に覆われ、ふくらはぎもまた鍛えられたたくましい立派な足だ。

「……ふふっ、やはり、いい……」

 長々と引っ張ってきたが、ここいらで私のフェチを明かしておくことにしようか。
 私が好きなもの、それは……

「女性の筋肉! 最高っ!」

 私が叫ぶとともに、私がしげしげと観察していた魔物娘、すなわちミノタウロスは眠そうに目を開いた。

「なんだよ、うっせーな、ってお前誰……っ!」

 おおっ! 眠たげだった瞳が一瞬で覚醒し、見開いた目を白黒させている。当たり前のこと、私は彼女に確実に犯されるように仕掛けをしていたのだから。

「あ、あああ、おりゃああああああ!」

 錯乱するような大声とともにミノタウロスが私を押し倒して服を脱がそうとしている。そうだ、私の身につけた赤い外套を脱がして、私を犯すのだ。
 どういうわけだかミノタウロスは赤いものを見ると興奮の極みに陥り、襲いかかってくるのだと言う。それ故に私は自ら赤い外套を用意することで、確実に彼女に襲われるようにしたのだ。

「ふっふっふ、これだこれ、私はずっと屈強な魔物娘に犯されたかったのだ」

 たくさんの魔物娘がこの世界にはいて、日夜新種も発見されている。だが実はまだ腹筋が割れるような素晴らしい筋肉の持ち主はミノタウロスと人虎くらいしかいない。
 楽しみにしていた一瞬、こうして近くでミノタウロスのバキバキに割れた筋肉を見つめると感動で胸が熱くなってきた。素晴らしい、ドサクサに紛れて両手で腹筋に触ってみると、ボコボコとした感覚と滑らかな肌が指に心地よい。

「はあはあ、くすぐってーぞ♡」

 おっとっと、触り方がいささかやらしかったのか? 興奮しきっているはずのミノタウロスが頬を緩めた。

「ならもっと触ってあげよう」

 私はミノタウロスの腹筋に手を伸ばし、硬い筋肉を楽しみながらサワサワと動かし、ついでに剥き出しの臍に指を沿わせる。

「んんっ♡ 駄目だって、そこ、いぢんじゃ、ねーよ♡」

 ブルブル身体を震わせ、身体の奥から湧き出てくる感覚を耐え忍ぶミノタウロスの姿に、私の股間が熱く疼く。

「世の中には『ミルナの禁』という法則もあるぞ?」

 つまり『やるな』と言われればついつい反対のことをやりたくなってしまう法則だ。私はミノタウロスに逆らい、顔を上げて臍の穴に舌を這わせた。

「んひっ♡ や、辞めろって、言ってんだろ……ひぎあっ♡」

「レロレロ、少ししょっぱい」

 やれやれ、赤い色を見せればもっと強引に行けるかもと思ったら、どうやら臍が性感帯だったらしい。

「さてさて、こっちはどんな感じかな?」

 ゆっくりと身を起こしながら息を荒げているミノタウロスの下からノソノソと這い出て、半ば強引に彼女の両手を後ろにクロスさせる。

「ふふっ、良い匂いだ」

 両手を上げたことで剥き出しとなる脇、ムワッと強い汗の匂いが辺りに広がり、陶酔する私の胸をさらに熱くさせた。

「てめ、何して……ひぎっ♡」

「レロレロレロ……こんなに汗臭くなるまで放置して、私が舐めて綺麗にしてあげよう」

 そのまま戸惑うミノタウロスを捨て置き、毛の一本も生えていないスベスベの脇を舐め回し、そのままたくましい二の腕に舌を這わす。

「はあはあ♡ てめっ! 調子に乗んなよっ!」

 二の腕から舌を離しても、彼女は息を荒げるばかりで一向に私の服を脱がせてはくれない。赤い外套だけは脱がせたが、その下にある服はまだ脱がしきれてはおらず、私はまだ胸板すら露出出来ていない。

「愛してるっ! 早く脱がせろっ! そして私の上で腰を振れっ!」

 もうもどかしい。私は軽業師の要領で素早く服を脱ぎ、最初から緩めていたズボンを下ろして痛いほどに張りつめた、逸物をさらけ出す。

「こ、これが、男の……ゴクリ」

「さあ、犯せっ! 私はもうお前のもんだぞっ!」

 彼女の素晴らしい腹筋を触り、臍を舐め、脇の匂いを嗅いでいる内に私の逸物はすさまじいほどに勃起しており、早くミノタウロスに挿れたいと強く自己主張している。
 正直空気に触れるだけでビリビリと電流のような感覚が走るくらいだ。

「へ、へへっ! 据え膳食わぬはなんとやらってな、おりゃあっ!」

「あぎいっ!」

 私はこうして、筋肉娘を嫁にもらうことに成功した。
 たまに引かれたりするけど……。




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「ところでお前、なんであたしの家を突き止めたんだ?」

 簡単な話しだ。魔王さまの加護は私の視力を高める、遠くからでも君の顔がわかるくらいに。

「……?」

 つまりは君を見失わずに後ろからついていけば、簡単に家は見つけ出せる。

「要するにストーカーじゃねぇかっ!」

 へぶんっ!



17/03/24 22:01更新 / 水無月花鏡

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