読切小説
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ずっとアイツは泣き虫だった
アイツに初めて会ったのは……うわ、もう20年ちょっと前か……なんかガキの泣き声がするなと思って様子を見に行ったら、当時6才だったアイツがいたんだな。もうそろそろ日も沈む頃だってのに森で一人ぼっちで泣いていたんだよ。ははぁ、迷子だな。これは助けてやらないといかんなと思ってアタシは出て行ったんだよ。そしたらアイツ

「うわー! でたー!!」

とか驚いてわんわん泣きやがったわけよ。いやー、失礼しちゃうよな。人が助けてやろうってのに化物が出たかのように怯えてさ。いや、実際はアタシは人じゃないし魔物なんだけどね。まぁちょっとムカついたんだけど、だからといって放置するわけにもいかない。ソイツが落ち着くのを待ってアタシはここで何をしているか、家はどこか訊ねたのさ。ソイツが答えたことにゃ近くの村に住む子どもで、いじめっ子どもから逃げていたらこの森に迷い込んでしまったらしい。まぁ、よくある話っちゃよくある話なのかもな。アタシはその子の手を引いて森の出口、村が見えるところまでソイツを送ってやった。これがアタシとアイツの馴れ初めさね。


二回目に会ったときは、アイツがいじめっ子から逃げていた時だったな。なんか外が騒がしいなと思ってねぐらから出て見たのよ。そしたらちょうど逃げていたアイツがいじめっ子どもに捕まっていじめられていたところだった。蹴っ飛ばして転がして、泥まみれにさせたりしていた。あれにはちょっとアタシも頭に来たね。何の権利があっていじめっ子どもはアイツにそんなことをするのか、何の罪でもあってアイツがそんな目にあわなきゃいけないのか。気づいたらアタシは飛び出していじめっ子どもをどやしつけていた。そしていじめっ子ども2,3人にゲンコツを食らわしてやったさ。そしたらアイツ、どんな反応したと思う? わんわん泣いてアタシを止めようとしたんだよ。

「やめて! そんなことしちゃダメ!」

って。かわいそうだってね。アタシはあっけにとられたね。なんで自分をいじめた奴のことを心配するんだって。でもまぁ、アタシの行動も大人気ないっちゃ大人気なかったし、ソイツが嫌がることを続けるつもりもなかった。いじめっ子どもに、もう二度とこの子をいじめないと約束させた上で帰してやった。これがアタシとアイツの二回目の出会いだった。自分をいじめる奴の事まで心配する、泣き虫で変なやつだとは思ったけど、まぁアイツの優しさが分かった日だったね。その頃からアタシはアイツに惚れ始めていたかもしれない。


あれ以降、アイツはいじめられることはなかったんだろうけど……まぁ、助けたアタシとやっぱり仲良くしたかったのかもな。アイツは何度も森にやってきてアタシと遊んだ。そうしてアタシとアイツは仲良くなっていったんだけど……もう既にアタシは子作りができる年にはなっていた。いやぁ、なかなか辛かったね。目の前に、自分になついてくれている男がいる。でもソイツは精通を迎えていないひよっ子。襲ったところで精液は出ないだろうし、せっかく仲良くなったのにアイツはアタシを怖がって関係もブッ壊れちまうだろう。だからアタシは我慢した。7年。いやぁ、長かったよ。どれだけ、アイツが家に帰ってからねぐらでオナニーしたか分からないよ。


まぁそれでも時は流れた。ある日、アイツが精の匂いを漂わせ始めた。アタシはアイツがもう射精ができる大人の男になったのを知った。けど、まあちょっとしくじっちまったなぁ。今まで我慢していた分、その匂いを嗅いじまったらなんか理性がピューっと吹っ飛んじまってな。気づいたらアタシは彼を犯していた。驚き、泣き叫ぶアイツを強引に組み伏せ、服を引きちぎり、びびっていながらもアタシの裸を見てギンギンに勃起しているチンポをぐちょぐちょマンコに突っ込んで……中にたっぷり出された感覚に満足してからアタシはハッとした。何てことをしてしまったんだ。アイツはアタシに組み敷かれたまま、壊れた人形のように虚ろな表情でボロボロ泣いていた。すぐにソイツから降りて土下座したね。そしてコイツとの関係ももう終わりなんじゃないかと思って絶望した。でもアイツは許してくれた。ちょっと笑って

「大丈夫……ちょっと驚いたけど、ぼくは大丈夫……」

ってね。おかげでアタシは救われた気分になった。でもソイツ、笑って大丈夫と言ったのはそれっきりであとはずっと悲しげな表情でメソメソしてたんだよ。口ではああは言ってくれたがやっぱり許されていないのか、そう思ってアタシは訊ねたがそうでもないらしい。本当はやっちゃいけないんだけど、あまりにもずっとぐずっているんでアタシはイラだってソイツを問いただした。じゃあなんで泣いているんだ、って。アタシに怒鳴られて驚いたようだったけど、ようやく教えてくれた。おしっこか何かをおちんちんからアタシの中に出しちゃったのを申し訳なく思っていた、だってさ。精通は迎えたけど、まだ射精することは良く分かっていなかったのか、あるいは自分で見ていなかったんだな。アタシは自分の心配が杞憂に終わったのにホッとすると同時に、ソイツの無垢さが可愛いと思った。そして何より、自分がレイプされていると言うのにレイプしているアタシのことを心配してくれたことが、嬉しかったね。アタシはもっとアイツに惚れることになった。これがアタシとアイツの初体験だったね。ちょっとゴタゴタしたけど、まぁ、良かったと思うよ。


それからアタシたちは晴れて恋人同士となり、ヤりまくった。最初はやっぱりおっかなびっくりでグズグズ泣き出すアイツだったけど、3回もヤればそれなりに慣れた。でも付き合って3年目くらいかなぁ……ある日、アイツがヤッたあとにメソメソと泣き出したんだ。何事かと思ってアタシは訊ねてみた。するとアイツ、なんて答えたと思う?

「僕はいつもイカされるけど、イカせたことがない」

って言ったんだ。知っていると思うけど、アタシたちオーガにとってセックスもバトルだ。相手をより早くイカせよう、より気持ち良くして屈服させてやろうって種族だ。反撃されたらさらにその闘争心は掻き立てられ、より激しいセックスとなる。そんな種族だ。アタシもまんま、その通りだ。アイツをより早くイカせてやろう、より気持ち良くしてやろうって感じで腰を振っていた。で、まぁ結果はアンタの想像の通りさ。アイツ、弱っちぃから必ずアタシより先にイッちまうんだ。今でもそうだよ。アタシはバトルファックでアイツに負けたことはない。それがアイツは気になっていたらしい。……いや、負けるのが悔しいってんじゃないんだ。アイツにそんな考えはできない。アタシをイカせたことがないのが申し訳なく思っていたらしい。そう言えばバトルファックの後、アイツが寝たのを確認してからアタシがオナニーしてスッキリしてから寝たもんだったね。それも見られたのかもしれない。とにかく、アイツはアタシをセックスでイカせたことがなかったのが気になっていたらしい。なんだ弱っちいクセにとは思ったけど、でもアタシのことを気にかけてくれてい、自分だけじゃなくてアタシにも気持ちよくなってもらいたいって思っていたのは嬉しかったね。何、のろけかって? 当たり前だろ、のろけてんだから。
それで、アタシたちは考えた。でも残念ながらバトルファックでアタシが八百長で負けてやるってわけには行かない。そこはプライドというか何というか……まぁ勝負だからね。アタシが気に入らなかった。でもまぁ、あるとき、アタシたちは一つの答えに至った。人間の間じゃ、エキシビション・マッチってのがあるんだってな。そう、勝負っちゃ勝負なんだけど記録に残さない、仲良し技見せ勝負なアレさ。アレをバトルファックに取り入れることにした。最初の数回はガチでバトルファックをする。まぁ、アタシの圧勝だわな。で、そのあとにエキシビジション・マッチをすることに、アタシたちはした。前戯で互いに同じ回数だけイッて、ファックは最後に二人同時にイクことでフィニッシュって決まりにした。え? 二人同時にイクのは難しいって? バトルファックでアタシをイカせたことがないアイツがアタシをイかせられたのかって? まぁ、そこらへんある意味簡単だ。なんて言ったって、アタシが主導権を握っていて、アタシがペースを調整すればいいんだからな。そいで、アタシはエキシビション・マッチのときは、自分でクリをいじるんだ。で、アイツがイキそうになるとアタシもペースを早め、一緒にイク。こんな感じさ。こんな感じでアタシたちは恋人性活を楽しんだ。前戯はアイツもなかなか上手いしね。


そいで、出会って12年かな。アイツが人間の村で立派な大人として一人立ちしたところでアタシたちは結婚した。まぁ、ずっと一緒に暮らすようになったってだけで、あんまり恋人時代と変わらなかった気もするけどな。でもあるとき、大きく変わったな。だいたい1年前だ。
そう、妊娠したのさ。
で、もちろんアイツに報告したんだが……まぁ、想像つくだろう? アイツ、やっぱり泣き出しやがったんだ。よく言われるが……魔物ってのは妊娠すると結構精神的に弱くなっちまうもんでね、アタシもそうだった。そんなところにいきなり泣きだされたらそりゃあさらに不安になっちまうだろう? もしかして子どもが欲しくなかったんじゃないかとか考えちまうじゃないか。イラだったアタシはアイツを問い詰めた。なんで泣くんだってね。するとアイツ、なんて答えたと思う? 想像できるって? そうかもな。

「違うんだ。僕と君の間に子どもができて嬉しいんだ。でも僕、こんなに泣き虫だからいい父親になれるかどうか不安で……今でもこんなに泣いちゃうし……それでさらに情けなくなって、訳がわからなくなって……」

ったく、父親になったってのに、それでも泣き虫な野郎だよ、アイツは。でも、その言葉はとっても嬉しかったね。嬉しさのあまりアタシはアイツをギュッと抱きしめて、ありがとう、って言った。

「アンタは泣き虫だけど、それだけ優しい。きっと良い親父になれるよ」

ともね。クーッ、臭いねっ! 何言ってんだ、アタシは。今思い返してみると恥ずかしくて火が出そうさ。あー、今でも顔が熱くなってきやがった。ちょっと水を飲ませてもらうよ。え、酒じゃないのかって? いやー、それでも良いんだけどさ。やっぱ赤ん坊のことを考えるとそれもまずいかなって。え、オーガらしくないって? バカっ! ガサツで暴れん坊なオーガのアタシでも母親なんだよ、子どものことは考えるっての。で、アンタは飲むかい? 別に気を使う必要はねぇよ。何、水かい? ああ、いいよ。はい、どうぞ。


そいでまぁ十月十日……ほど正確じゃねえが、一年くらいして、あの子を産むことになった。ついこの間のことさね。いやぁ……辛かったね。いや、苦痛って感じじゃないんだ。ただ何というか……疲れたよ。確か日が暮れてからちょっと腹が痛くなって、満月が登りきったところでコイツが生まれたから……だいたい6時間か? その間、ずーっと大岩を転がしながら坂道を上るって感じだ。想像できるかい?他の奴らはどうか分からないけど、アタシはそんな感じだった。
そいで、アタシがうんうん唸っている間、アイツがどうしていたかって言うと……ああ、やっぱり想像つくかい? うん、泣いていたさ。やっぱりって感じだよ。産む前から予想していたから、赤ん坊の産声と勘違いするから声出して泣くな、って言っておいたから、わんわん泣きはしなかったけどさ、まぁ顔をぐしゃぐしゃにしながらアタシの手を握って、頑張れ、頑張れって言ってくれていたよ。どうだ、泣き虫だけど良い旦那だろう?
そいで、さっき言ったとおり、満月が登りきったところであの子は産まれた。いやぁ、さすがにアイツの子だねと思ったよ。もうわんわん泣きやがるの。それに釣られてアイツも声を上げて泣き出すし、アタシのねぐらはもうすごいうるさかったわ。でもなぁ……泣きながらアイツは言うんだよ。

「おめでとう! そして、ありがとう! よく頑張った!」

ってな……実際は泣きながらだったから「おべでどぉ」って感じでもっとひどい声だったけどさ。でもそれを聞いて、で、生まれた子どもの声を聞いてさ……さすがにアタシも嬉しくて泣いてしまったよ。ジパングのことわざに『鬼の目にも涙』って言葉があるんだってな。アタシたちオーガは冷血ってわけじゃないけど、そんな感じだね。暴れん坊なオーガだけど、この時ばかりはアタシも泣いちゃったよ。なんていうか……苦労して産んだ子どもが、アタシとアイツの愛の結晶が、新しい命がアタシの腕の中にいるんだもんな。なんかグッと来ちまったな。


っとまぁ、そんな感じで生まれた子どもがそこで寝ているアイツ……うわっ!? 泣き出しやがった! ちょっと失礼。おおよしよし、どうしたどうした。何、お腹が空いたか? よしよし、おっぱいをやろう。あ、ちょっと失礼するよ。ほらよっと……ふぅ、泣き止んだ。どうだ、よく泣くだろう? よく泣くのはアイツそっくりだよ。でも、泣く理由はたいてい腹が減ったからなんだ。そこのところはアタシに似ているかもな、たはは。


何? 邪魔なようだから帰るって? なぁに、遠慮するこたねぇよ。もう日も暮れるだろうから泊まっていけよ。気にすることないさ。そろそろアイツも帰ってくるだろうから、見せてやるよ。子どものころからずーっと泣き虫で、付き合っても、結婚しても、父親になっても泣き虫な、そしてアタシの大事なアイツを、さ。
13/02/15 23:54更新 / 三鯖アキラ(旧:沈黙の天使)

■作者メッセージ
皆さん、ご無沙汰しております。
残念ながら沈黙の天使です。
お元気ですか?

そんなわけで久しぶりに書いたのはオーガSSです。
なんかツイッターでオーガが好きとかとある人が言っていたのを聞いたらふとこんな「泣き虫な男とオーガ」なんて電波を受信したので、練り上げてSSにしました。
いかがだったでしょうか?

では、ここ最近は間が空いてしまいましたがゆっくりと、自分のペースでSSを書いていきます。
どうぞよろしくお願いします。

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