読切小説
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金欠を打破しようとしたら、なんか幸せになっちゃった話
やぁどうも。
僕は冒険家をやっているシンジというものだ。
今回は最近になっていよいよ看過できなくなってきた金欠を何とかするために、普段暮らしている街から遠く離れた場所へ旅をしている。
金欠の打開策として考えたのが、魔界銀だった。
僕の住んでいた町は、まだ魔界化が全然進んでいなくて、見るからに人間界そのものだったのだけれど、すこし離れた森の先には、魔界がいくつも点在しているという話を聞いた。そこに行けば、人間界で高く売れる魔界産の物品が多く手に入るだろうと考えたんだ。
もちろん、魔物娘たちと出会う可能性も考えている。彼女たちはみんな美人で優しくて礼儀正しい。
僕が居た街には魔物娘の教師もいたくらいだ。
魔界に行けば、きっとたくさんの魔物娘たちとの出会いがあって、その中にはきっと、僕の生涯のパートナーになるような魔物娘もいるかもしれない。


そんな期待を胸に抱きつつ森を歩いていたら、湖で水を飲んでいる巨大な黒いイノシシのような生物と出会った。街を出る前に買った魔界の図鑑によると、そいつは魔界豚といって、食用や家畜として飼われることもある、比較的おとなしい生き物らしかった。
魔界までは結構な距離があるという話だったので、野宿も考え、日持ちする食料も持ってきていたのだが、その中の干した香草に魔界豚が非常に興味を示した。試しに一口与えてみると、はた目から見てもわかるくらいに喜んでいた。そのまま僕になついてくれたようで、今はこいつの背中に乗って移動している。
体高が高くて最初はおっかなびっくりだったが、魔界の生き物ということで人なれしているのか、振り落とされたりはせず、進めや止まれの指示もしっかり聞いてくれる。

「わぁ、おっきいぶたさんだ!」
「見ろ、にんげんものってるぞ!」
「りーだー!あのにんげん、おとこだよ!おそっちゃおうよ!」
「み、みんなぁ、まってよぉ〜」

森の中を通る川沿いにトンさん(魔界豚)を歩かせていると、川の反対側から複数の声が聞こえた。顔を向けてみると小柄な人影が4人ほど。
頭には金の角が生え、身の丈ほどの大きな棍棒を担いでいる。図鑑で見たな。あれはゴブリンみたいだ。後ろで息を切らしているのは、おそらくゴブリンの変異種であるボブゴブリンだろう。

「りーだー?きいてる?ちょっと走ったくらいで息切れすぎだよ。」
「だって、ぜぇ、みんなが、はぁ、おいてっちゃう、はぁ、からぁ・・・」

たしか、ゴブリンたちは行商人や商団を襲ってしまうと書かれていた。不穏なことも口走っていたし、さっさと逃げたほうがいいのかもしれない。
僕は無言でトンさんに進むよう指示を出した。

「あぁ!あいつにげるぞ!おっかけなきゃ!」
「ふぇぇ!?ぜぇ、またはしるのぉ〜?はぁはぁ」
「まってよティト。りーだー、はしれないみたいだし、すこしやすもう。りーだーただでさえあしおそいのにすぐみちにまようから、あまりはなれすぎるとこのまえみたいにみんなでりーだーさがしまわることになっちゃうよ。」
「ちぇぇ、なんだい。シーはほんっとりーだーにあまいよな。」
「シーちゃんひどいよぉ。きにしてるのにぃ」

どうやら諦めてくれたみたいだ。そろそろ日も傾き始めている。日が暮れてからは流石にトンさんの足でも危険だ。森を抜けるか野宿ポイントを探さなければ。



「おお、あれは。洞窟じゃないか。さすが、獣道すらない大自然の中には、こんな場所もあるんだなぁ。」

だいぶ森が薄暗くなってきたころ、視界の隅に苔むした岩肌が映った。どうやら洞窟みたいだ。
一応テントもあるが、テントを広げて寝ていたら、ここに人が居ますと言っているようなもの。さっきのゴブリンたちのように、襲いかかってきかねない魔物娘たちも多く徘徊しているようだし、洞窟の中ならとりあえず安全かもしれない。
洞窟の入り口にトンさんを待たせると、僕はライターの火を頼りに洞窟内に入ってみた。
なかなかに大きな洞窟で、手をあげても天井に当たらないくらい広い。
風の音が反響していて、少し肌寒い空気に満ちている。ライターの火が消えないように手をかざしながら慎重に進んでいると、オレンジの光を反射してきらりと光るものが見えた。

「こ、これは!?こんなに早く見つかるとは思わなかったなぁ。」

洞窟の岩肌に輝く鉱石、オレンジの光で色までは判断できないが、探していた魔界銀かもしれない。

僕はバックパックに下げていたピッケルを握って、鉱石の周りをそっと削り、鉱石をつかんで引っ張ってみた。ぽろっととれた手の中の輝きに、飛び上がりたくなるのを抑えつつ、僕は丁寧に布に包んだ鉱石をバックパックにしまって、洞窟の先を目指した。





「うわぁ、思ったよりも長居しちゃったな。」

ピッケル片手に洞窟の奥まで進み、合計11個もの鉱石を掘り出して外に出てみると、空はもう真っ暗になっていて、トンさんが寝息を立てていた。
森の木々の間から覗く空には星が輝いていて、夜虫の鳴き声が小さく響いている。

幸い森の中なので、それほど歩き回らなくても薪に適した木はたくさん落ちている。
新品の火打石を打って火を起こすと、においに気づいたのかトンさんが目を覚ました。

「一日中歩かせて悪いな。今日の給料だ。」

そう言って、トンさんの顔の前に香草の束を置く。トンさんは大きなあくびを一つして、香草のにおいをかぐと、嬉しそうにむしゃむしゃと食べ始めた。

その様子を見ながら、僕も夕飯を作る。と言っても、水を入れて火で熱すれば食べられるようになる簡単な食事だ。

「ふぅ。こんだけとれば、とりあえずは金欠を打開できるな。」

洞窟の中に枯草を撒いて、その上に寝袋を敷きながらバックパックを見る。運よく洞窟を見つけたが、中に魔物娘や危険な生き物が住み着いていなくてよかった。

再び聞こえ始めたトンさんの寝息をBGMに、僕は目を閉じた。





「はぁ…はぁ…」

息の音がする。トンさんのでも、僕のものでもない、全力疾走した後のような荒い息の音が。

恐る恐る目を開けると、視界一杯に広がる茶色い毛。僕は驚いて飛び起きてしまった。

「わふっ!?」

途端に聞こえたかわいらしい声。距離を置いて様子を見てみると、体の大部分が褐色の毛に覆われた犬の様な姿の女の子が居た。この種族なら見たことがある。

「ご、ごめんなひゃっ、あう」

どうやら間違いない。この子はコボルドという種族の魔物娘だ。茶色の大きな耳が垂れ、申し訳なさそうにこちらを見ている。

「あぁ、えっと、驚かせてすまないね。」
「…(フルフル)」

立ち上がりながら声をかけると、コボルドの少女は少しうつむいて首を振った。さっきまで喋っていたのに、機嫌を損ねてしまったのだろうか。

「ごめんよ。寝起きだったから驚いちゃって。」
「らいりょうふれふ。」

どうしたものかと考えながら再び声をかけると、返ってきたのは妙に呂律の回っていない言葉。

「あれ、どうしたの?」

心配になって問いかけると、彼女は少し恥ずかしそうにはにかんで答えた。

「ベロ噛んじゃいました・・・」





「すみません。突然驚かせて、朝ごはんまで用意してもらって・・・」
「だいじょうぶ。それより、舌はもう平気?」

朝霧も晴れ、澄んだ空気に満ちた森に、しっかりとした日が差し込む時間になった。
昨日消した焚火に再び火をともし、乾燥スープと彼女が捕ってきてくれたウサギの肉を調理する。
コボルドの彼女はルリという名前らしく、この森で暮らしているらしい。つまり野生の魔物娘だ。

「はひ。だいぶ痛みも引いてきました…あっつひ!?」

照れ笑いを浮かべながら答えたルリは、焼きあがったウサギ肉に齧り付こうとして、思ったよりも熱かったらしく、ピンクの舌をチロリと出して顔をしかめた。
昔、彼女が住んでいた森が火事になり、彼女は泣く泣く故郷を離れた過去があるそうで、焦げた木のにおいが気になってしまったらしく、昨日消した焚火の匂いにつられてここまで来てしまったらしい。

「変な袋に男の人がくるまって倒れているのかと思って、盗賊さんに襲われた後なのかと心配しちゃいました。」

寝袋に入って寝ている僕を、盗賊に拉致されて拘束されたまま放置されているのだと勘違いして、近くまで来て様子を見ようとしていたらしい。

「シンジさんは、なんでこんな森の中に居たんですか?」

かわいらしく小首をかしげて聞いてくるルリ。僕は街を出た理由をかいつまんで説明した。

「なるほどぉ。鉱石を探しに来たんですね。どおりでシンジさんのカバンから鉱石のにおいがするわけです。」
「え、匂いでわかるのかい?」
「こう見えて、私もコボルドのはしくえです。鉱石の匂いなら簡単にかぎ分けられますよ。」

そう言って、ルリはえっへんと控えめな胸を張って見せた。

「はしくえじゃなくてはしくれだよ。でも、すごいな、ルリは。じゃあ、僕が昨日この洞窟で集めた鉱石が何の鉱石なのかわかるかい?」

そう言いながら、僕はバックパックの中の鉱石を取り出した。

「まっかせなさいですよ〜!」

そう言って目を閉じ、匂いに集中して鼻をクンクンと鳴らすルリ。真剣なその様子を見て、少しいたずら心がうずいてしまい、僕はルリの鼻の前に、程よく冷めたウサギ肉を差し出してみた。

「クンクン…はむっ!んんぅ〜♪おいひいれす。」

ウサギ肉の味に舌鼓を打っていたルリだったが、ハッとして目的を思い出し、真っ赤な顔で僕を睨んできた。

「ちょっと、シンジさん!私は真剣に鉱石の匂いをですね…!」

むきになって突っかかってくる様子がとても面白くて、僕はついに声をあげて笑ってしまった。

「シンジさん!?何笑ってるんですか!私の話を聞いてます?」



そんなやり取りをしつつ、本題に戻る。どうやら、僕が掘った鉱石の中には、魔界銀ではない鉱石も含まれているようだ。日の光の下に出してみると、ピンク色に輝く魔界銀の他に、濃い緑色をした鉱石が少しと、透明な水晶のような鉱石が少し。

「この緑の石、なんだかとてもいいにおいがします・・・」

ルリはなぜか緑色の石がとても気に入ったらしく、うっとりとした表情で宝石を眺めていた。





「うぅぅ…じんじざぁん、やでずぅ!いっじょにいだいでずう!」

昼になり、そろそろ出発しようという頃になって、ルリが漫画みたいな量の涙を流しながら僕の服にしがみついてきた。
彼女はこの森に暮らす野生の魔物娘。無理に僕の旅に付き合わせるのも悪いと思って、お別れをしようとしたのだが、どうやら彼女は予想以上に僕になついていてくれたみたいだ。

「そうは言っても、ルリにはルリの暮らしがあるだろう?僕だって、この先の魔界に行かなきゃ行けないし、ここでお別れ…」
「やでずぅ!!」

頑なに離れようとしない彼女に、どうしようかと考えていると、ルリが濡れた瞳で僕を見上げながら言った。

「づいでぎまずぅ!シンジさんに、ぐすっ、ついてぎます!」
「本気かい?魔界に行った後は、またこの森を通って街に戻るけど、この森では暮らさないよ?」
「ぞれでもいいです!私は、シンジさんと一緒に居たいです!」



結局、彼女は何を言っても僕と一緒に居ると言い張ったので、連れていくことにした。二人でトンさんに乗って揺られていると、泣きつかれたのか、ルリは僕の背にもたれて寝息を立て始めてしまった。

森はだんだん魔界チックになり、野生の魔界性植物の実なども多く見かけたが、いちいち採取していたらバックパックでは足りないので、食料以外の分はスルーすることにした。
寝息を立てるルリが落っこちないように抱っこしながらトンさんに揺られていると、なんだが駄々っ子の父親になったような気分がして、少しくすぐったいような気持ちになった。

二日目ももうすぐ日没を迎えるかという頃、森を抜けることができた。
森を抜けると大きな城壁が見えてきた。

「ご主人様!ここ、魔物の匂いがたくさんします!ここがご主人様が言ってた魔界ですよきっと!」

斜陽が照り付け、オレンジに染まる石造りの大きな壁は、僕が目指していた魔界の街のもので間違いなさそうだ。いつの間にか目覚め、そしていつの間にか僕のことをご主人様と呼ぶようになったルリと一緒に、街へ入る入り口を探すことにした。

壁沿いに少し進むと、街への入り口に出た。鎧を着た魔物娘の兵士さんが居て、検問をやっているようだ。

「こんにちは。いや、こんばんわだね。旅の人かい?」

鎧に身を包んだ女性が声をかけてきた。鎧を着ているにもかかわらず要所要所で露出の多い恰好をしているその女性の背後には、先端がハート形になった黒いしっぽが揺れている。

「はい。人間界の街で売れる魔界産の物品を求めてきました。」
「きました!」

僕の後に続けてルリが元気よく声をあげると、鎧の女性はにっこりと笑ってルリの頭を撫でた。

「あらまぁ、かわいらしい。よければ私がご主人様とあなたをこの街の観光に連れて行ってあげるわよ?」

そう言ってチラリと僕を見る女性。びっくりするほど美人な彼女に、含みのある笑みを向けられて、思わず心臓がはねてしまう。

「むぅ、いえ、大丈夫です。ご主人様は私がしっかり案内するんです。」

そんな僕をよそに、ルリは少し不機嫌そうな顔でそう言い放つと、僕の手を引いて街の中へ入ろうとする。

「あらまぁ♪」

上品にウフフと笑う女性の声を後ろで聞きつつ、トンさんも忘れずに連れて街の中へ。

親切な街の人に訪ねて回り、鉱石の買取をしている店を見つけた。中に入ると、煌びやかな装飾品がきれいに陳列されていた。

「お、いらっしゃい。なんや、見ない顔やな。旅の人か?まぁ、ゆっくりしてき。」

ドアのカウベルが鳴りやまないうちに、店の奥のカウンターから小柄な女性がひょっこり顔を出した。

「こんばんは。実は、鉱石を人間界で売りたいのですが、掘った鉱石が何なのかわからなくて…」
「ほほぉ。あんた人間界からはるばる来たんか?そりゃ〜大変やったやろぉ。ちょっと待っとってな。お茶出したるわ。」

そういうと、小柄な女性は身長と同じくらいの台を軽々と持ち上げて、カウンターの裏に引っ込んでしまった。上機嫌そうな鼻歌が聞こえてくる。
店の商品を見ながら待っていると、器用に頭にお盆を乗せ、両手に一個ずつ木製の重そうな椅子を持った女性が戻ってきた。

女性はカウンターを挟むように椅子を置き、ひょいひょいと椅子の上に上ると、頭のお盆をカウンターに下してティーセットを並べ始めた。

「ありがとうございます。頂いちゃっていいんですか?」
「あったりまえよぉ。遠慮なんかせんでええの。さ、座りや。んで、なんやったっけ?鉱石が何かわからんっちゅうはなしやったか。」

まるで幼女のような外見にも関わらず、口調は豪快な姉御肌の女性のようだ。失礼ながらもそんなことを思いつつ、僕は椅子に座ってバックパックの鉱石を取り出した。

「ほぉ。これは、魔宝石やな。」
「魔宝石?」
「せや。魔宝石ゆうてな、触った人や魔物娘によって、色や中身にある結晶の形が変わるんや。」

小柄な彼女、リサさんの話によると、ピンクの鉱石は魔界銀で間違いないけれど、深い緑色の鉱石のほうは、どうやら魔宝石という石らしい。魔界でもそれなりに希少で、人間界ではもっと希少。高く売れること間違いなしだ。



「やりましたね。ご主人様!これでいっかくてんきん、おくまんしょうじゃです♪」
「いっかくせんきん。おくまんちょうじゃね。」

店を出ると、すっかり夜だった。リサさんはまさにマシンガントークというやつで、いろいろと鉱石だけでなく、魔界での話を面白おかしく教えてくれた。

すっかり日も暮れてしまったので、この街で一晩泊まっていくことにした。
しかし、宿屋はそれなりに金がかかる。仕方ないので、掘った鉱石をリサさんの店で一部売ってお金に換え、宿代をみつくろった。リサさんに紹介してもらった宿屋はすぐ近くにあって、迷わずにつくことができた。牛舎もあるのでトンさんもちゃんと預かってもらえる。


「くぅん♪ご主人様ぁ♪」
「ちょ、ちょっとルリ。せっかくベッド譲ってあげたのにこっちで寝てたら意味ないじゃないか。」

その夜、小さめの部屋を借りることができたのだが、ベッドはシングルが一つだけ。仕方ないのでルリをベッドに寝かせ、僕はソファで寝ることにしたが、気が付けばルリはソファに忍び込んでいる。

「ご主人様ぁ、ソファじゃ寝苦しいですよ。一緒にベッドで寝ましょうよぉ。」

半分寝ぼけたようなルリの声に、僕は溜息を吐いてベッドに移動した。ベッドに移動してからも、ルリは執拗に僕のおなか側にもぐりこんできて、少しでも体を密着させようとしてくるのだった。





「ふぁぁぁう。」
「大きなあくびだ。」
「み、見ないで下さいよぅ!」

夜が明け、チェックアウトを済ませると、トンさんもつれて街を少し歩いた。大通りは朝から活気に満ちていて、色とりどりの野菜や、見たこともない変わった装飾の小物、おいしそうなにおいを漂わせている食べ物の屋台などが並んでいる。

「お、おったおった。おーい!シンジさーん!」

焼きたてのパンを扱っている屋台を横目に歩いていると、背後から聞き覚えのある声が聞こえた。
振り返ると、ハンマーを背負ったリサさんが居た。

「どうしたんですか?」
「ええからええから。まだ出発まで時間あるやろ?ええもん作ってやったさかい、持っていき。」

そう言って僕の手を引くリサさん。リサさんの店に着くと、カウンターで小さな箱を渡された。

「なんですかこれ?」
「あけてみぃ。徹夜で作ったプレゼントや。」
「て、徹夜!?」
「いいから開けてみ!」

促されるまま箱を開けると、中には銀色の輪っかが入っている。輪っかの頂点には深緑色の四角く磨かれた宝石がはめ込まれている。これは、間違いなく僕が掘ってリサさんに買い取ってもらった魔法石だ。その宝石の反対側には、小さな金具があって、取り外しの時に便利なようになっている。

「すごい!たった一晩でこれを作ったんですか?」
「なぁに、あたしの手にかかりゃこんなもん朝飯前よ。」
「で、でも、買い取ってもらってお金ももらったのに、これまでもらっちゃったら・・・」
「あぁ、お金のことは気にせんでええよ。実はな…」

にんまりといたずらっぽい笑みを浮かべたリサさんいわく、昨晩僕たちが泊まった宿屋は、一晩だけの滞在なら無料で泊めてくれるという親切な宿屋だったらしく、僕たちがリサさんの店を出た後に根回しして、僕が宿屋に払ったお金はそのままリサさんへ返金となったそうだ。
そして、今僕が持っている輪っかを作ってくれたそうなのだが…

「でもこれ、腕輪にしては太いし、どうやって着けるんですか?」
「おお?わからんのか?後ろのお嬢ちゃんは、それが何かわかってるようやけどなぁ?」

にやりと笑うリサさんの視線を追って振り返ると、顔を赤くしたルリが居た。

「あ、あの、ご主人様。それ、私にください!」
「えっ?」

訳が分からずぽかんとしていると、勢いよくリサさんに背中をたたかれた。

「もったいぶらずにはよぅつけたれや!」
「うわっ!」

小さな体からは想像もつかない威力でどつかれて、思わず一歩前に出る。すると、目の前には顔を赤くしたルリ。

「ご主人様。お願いします。」

うるんだ瞳でそう言ったルリは、そっと顎をあげて首を突き出してきた。

僕は手の中の輪っかとルリの首を交互に見て、やっとピンと来た。これは、腕輪ではなく、首輪なのだ。

もう一度チラリと後ろを振り返ると、ニヤニヤしているリサさんが早くしろとジェスチャーをしてくる。
僕はそっとルリの前にかがんで、その細く真っ白な首に首輪を嵌めて、首の後ろで金具を止めた。

留め具がとまったのをしっかりと確認すると、ルリは目を開けて両手で大事そうに首輪に触れた。

「…わふ///」
「おめでとさん!これであんたらはもう夫婦やで!」
「えぇ?夫婦?!」

突然のリサさんの発言に驚いて振り返る。

「なんや、やっぱり知らんのか。魔界ではな、エンゲージリングゆーて、魔宝石を使って作られた指輪を結婚のときに交換するんや。今回は材料も時間もなかったし、首輪で堪忍やけど、ちゃんとシンジさんの精が篭って変色した魔宝石を使ってるから、指輪となんもかわらへん。エンゲージリングと呼んでも何もおかしなことはあらへんよ!」

にっこりと笑ってそう言うリサさん。意味も分からずそんな重大なものをルリに渡してしまったのか。
僕は再びルリに向き直った。それとほぼ同時に、ルリが胸に飛び込んできた。

「ご主人様!ずっと、ずーっと一緒です!わふっ♪」

気づけば、周りから拍手が聞こえていた。驚いて店の入り口を見ると、検問であったサキュバスさんや、宿屋で受付をしていたキキーモラさんなど、たくさんの魔物娘やその伴侶と思しきインキュバスの人たちが、笑顔で拍手してくれていた。









数年後、魔界は確実に広がり、シンジの故郷である街すらも飲み込んだ。
シンジとルリの夫婦は、魔界の街で正式に結婚式を挙げ、ルリからもシンジへエンゲージリングが渡された。
今は、ルリの居た森の中に立派な家を建て、同じく森に住んでいたゴブリンたちを雇い、初めて鉱石を掘ったあの洞窟を更に採掘して、採掘業に精を出しているそうだ。


めでたしめでたし

16/04/16 14:05更新 / ウカナ・N・アクナス

■作者メッセージ
どもども。いやぁ、やっとワールドガイド手に入りましたよ。面白いですね。もうね、なんというか、妄想が広がりンぐというかね、いやぁ、やっぱり(以下長文のため省略

なんて、長ったらしいのは抜きにして、今回は図鑑世界をもっと知りたいと手を伸ばしたワールドガイドで手に入れた知識を盛り込んでお話を書いてみました。お口に合えば幸いです。

あほ可愛い娘って最高だよね。愛で回したくなるよね。
ということで(どういうこと)今回はエロは無しでした。
ご覧いただきありがとうございました。

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