私は邪竜の一角である。名は、ダーズ。

　かつて、私は王であった。黒に染まりし眷属どもを従え、気まぐれに人の町を襲い人類を挑発し、力あるものを迎え入れては蹂躙してきた。
　人とは弱き者である。同時に愚かでもある。故に、人間が忘れぬ頻度で、邪竜の畏怖を刻み付けてきた。
　だが、長きにわたる玉座は実に退屈でもあった。私は統治に興味なく、力に興味なく、財も権力も興味が無かった。私は王であるが故に玉座に座し、眷属も人間も睥睨する。
　実に退屈な、当たり前の日々。次第に私は人類への挑発を取りやめ、眷属たちを眺めるようになった。


　退屈な日々は、ある日突然に破られた。世界を覆う力に変化が起きた。どうやら新たな魔王に代替わりしたのだろう。

「ふむ？」

　新たな魔王は、今までとは違うようである。濃く甘いこの匂いは、覚えがある。遠い記憶に意識を向けていた間に、変化は訪れていた。まず手始めに、眷属たちの姿が変化した。人間のメスに似た姿だ。翼はある。爪も鱗もある。だが、実に人間に似た姿へと変化していた。
　遅れて、私にも変化が訪れた。抗おうと思えば、抗えただろう。新たな魔王による変化は、退屈な日々を破るにふさわしいと感じた。故に、その変化を受け入れた。

　体は縮み、前足の指は細く長く、物を掴むに適した形状へと変化した。身を起こす。眷属と同じ様に人間に似た姿は、『手』を使わずとも容易に座位を保持できた。

「ふむ？」

　声も変化している。呟くだけで大気を震わせる低い声であったが、いまは音を響かせる程度。

「威厳も何もありはしないな、これでは」

　腕の内側は薄い紫色の被膜であり、突くと実に柔らかい。腹部を見ると、どうやら人間の肌に変化している様だ。つつくと、やはり柔らかい。胸部のふくらみを弄る。柔らかい。

「まて。私はオスだったか？　メスだったか？」

　雌雄を気にする事が無かった。忘れたが、恐らくはメスだったのだろう。この大きさは、今まで見た人間たちと比較しても大きい。掴んでみると弾力のある柔らかさ。
　同時に、この体に起きた変化の本質を知る。

　すなわち。
　この身は爪や牙で獲物を引き裂くのではない。繁殖のために獲物を押し倒し、柔らかな胸や色気で篭絡する。なるほど。つまりこの体は、エロさを優先しているのか。
　思考も恐らくは新しい魔王の影響を受けているのだろう。今の私は怠惰に人を狩るのではなく、より良き繁殖相手を得るために人間を狩りたいと感じている。まるで淫魔のようだ。

「新鮮な気分だ。ああ、久方ぶりに、気分が良いな」

　新たな変化の詳細を知るのもまた面白い。故に、私は命じる。

「眷属どもよ。思うがままに、心のままに行動せよ。ただし、加減はせよ。よいな？」

　眷属たちは、地を揺さぶる咆哮の代わりに、甘い声や漏れ出る笑みで返してきた。



　結論から言うならば、眷属たちを見て変化の方向性が見て取れた。強いて言うならば、確認が取れたというべきか。心の衝動が示す答えと同じだ。つまり、メスとして人間のオスを襲い、交わり、番（つがい）と成す。

　リザードマンは剣士の男にのしかかり、激しく腰を打ち付けている。人間を殺すのが趣味だと笑っていたが、嗜虐性はそのまま性の嗜好として残ったのだろうか。男の首筋を舐めるなど、実に好色に攻め立てている。

　ワイバーンは無口ではあったが情熱的でもあったのだろう。男にのしかかってはいるが、単に男が攻め切れていないだけに見える。男を番（つがい）として認めたならば、男にのしかかる事も受け入れるかもしれない。それほどまでに、男に気を許しているように見える。
　
　ハイオークはある意味で分かりやすい。オークを侍らせ、オークと共に男を貪っている。肉を食い千切る食欲はそのまま性欲に変わったのだろう。発する体臭も変化しているようで、玉座にまで届くほどの強い匂いが発せられているが、不思議と不快ではない。胎の内が疼いて仕方ないが、眷属の意思によらぬことでもある。この疼きも退屈しのぎにはちょうど良い。


　加減をしろと伝えた通り、眷属たちすべてが男を狩ってきたわけではないようだ。故に、今までと同じように人間が襲撃してくるのだろう。とはいえ、待つばかりではつまらぬ。
　ここ数か月で既に現状は把握している。今は、この新鮮な疼きのままに動くとしよう。

「狩りに出る。番（つがい）の無い者は随伴せよ」

　久方ぶりに玉座を下り、立ち上がる。狩りを楽しもう。待ち受けているであろう、より大きな愉悦のために。



　麓の町に辿り着いた。実に小さな町だ。私のひと吹きで全て消し飛んでしまうほどの矮小さだ。好ましい程のかわいらしさだ。故に、長らく愛で続けてきた。丹精込めて手入れした箱庭のようなものだ。つまり、私の所有物だ。
　ならば、花一輪を摘み取るのもまた私の自由だ。良き花はあるだろうか。

　私は町の中を歩く。眷属たちは好き勝手に暴れ、好みの男を見つけた物はその場で押し倒すなどして情欲を満たしている。
　私は、ああ、そうだなぁ。良い男が居ないので歩いているだけだ。私は妥協をしない。最初の一口目は最高の美酒であるべきだ。

　しかし、小さな町では良い男は見つからぬ。妥協は許されないが、何時までも湖面の月に手を伸ばすような、無意味極まりない探索を続けていても仕方がない。
　今回の捜索は切り上げるかと踵を返した時、道の端に座り込む子供に気づいた。壺の陰に隠れているつもりなのだろうか。顔を真っ赤にさせ、怯えと興奮の境で濡れる瞳を、私に向けている。
　私だけに向けている。
　その情念の濃さに、胸がざわりと騒ぐ。美酒の芳醇な香りだ。唇を湿らせると、子供がびくりと震える。あぁ。これは良いものだ。まだ未熟だが、良い物には違いない。
　ふと、勇者たちが良く言葉にするものが私に降りた。天啓と言う物だ。不遜にも私を見下ろす神が、私に知啓を授けるのも愉快なものだが。

　未熟であるのなら、育てればよい。私好みに餌をやり、肌を磨き、可愛がり、愛でて、撫で甘やかそう。町を育てるよりも楽だろう。何より楽しそうだ。一歩、近づく。子供がまた、びくりと震える。この臆病さをそのままに育て上げようか。それとも、臆病に怯えながらも、私への情欲に耐えきれず襲ってしまうように育てようか。降る雨を待つ花のように、私の寵愛をただ受け入れ笑みをこぼす花のように育てようか。

「あぁ」

　楽しみだなぁ。このか弱い人間のオスは。間違いなく、私の退屈を破る一輪の花だ。

「悪い魔王がやって来たぞ。か弱い人間を見つけたらどうしようか。浚ってしまおうか」

　子供は怯えながらも。
　最後まで、私の柔らかな胸から目を離さなかった。



　子供を連れ帰ってから何日か過ぎた。
　私は玉座での日々を負え、塔の最上階にある居室で過ごすようになった。どこかの王族から献上『させた』大きなベッドに横たわるのは私一人。子供はいつもの様に、柔らかなソファの上でこちらの様子を窺っている。
　怯えに染まりながら、私の太ももを見ている。寝返り打つたびに揺れる胸を見ている。あくび一つにさえ、熱い視線を向ける。
　無論、狙っての事だ。子供は尊き邪竜である私から目を離せない。様々な私を見せつけ、誘ってやる。さて、今宵はどこまでやって来るだろうか。

　子供を連れ帰ってから、夜になると眷属に命じて部屋の明かりを消している。微かな月明かりが差し込む薄闇。初日に眷属が私を何度呼んでも、揺さぶっても目覚めなかった私の眠りは酷く深い。
　そう『学んだ』頃であろう。一度はうっかり燭台を倒してしまい委縮していたようだったが、それでも起きない私にある核心を抱いた頃だろうか。昨日などは、ベッドの傍にまで子供はやって来ていた。
　恐れながらも、私の美貌からは逃れられない。目を離せない。しかし起きている私に近づくのは怖いのだろう。私の機嫌を損ねるのが怖いのだろう。その恐怖が強ければ強い程。
　深い眠りから目覚めない私は、絶好の獲物に見えるのだろう？
　月明かりに照らされる私の柔らかな肌。艶のある唇。無造作に広がる紫の髪。立ち上る匂いは淫魔のソレだ。近づけば近づくほど、私から目を離せなくなる。

　そう、淫魔。新たな魔王は、恐らくサキュバスの類だろう。ごく自然にオスとの交わりを求めるこの性質は、実に新鮮だ。よほど強い魔王なのだろう。見た事のない魔王は、欲望を振りまくべく愛欲の宴で城を染めているのだろうか。
　身に起きた変化は肉体だけではない。情に溺れる子供の熱に浮かされた顔がかわいい。目も、頬も、唇も、服の下に隠してある体全て、かわいらしい。そう感じるほど、心が変容している。驚きはするものの、不快ではないこの変化を私は楽しんでいる。
　せっかく魔王が下賜してくれたのだ。楽しもうではないか、この変化を。今宵はベッドの端に手をかけた子供の香りを抱いて眠り、夜明けの祝杯を待ち望むとしよう。。


　子供を塔に招いてから、２０日が経過した。眷属たちに毎日湯浴みをさせてきた効果が出てきた。食事も良い物にしたからなおの事だろう。子供の髪の艶は柔らかく、やや瘦せこけていた頬はふっくらとしている。健康的でよいオスに変わり始めている。
　情欲の種火も実に良い煙を上げている。やはり私の湯浴みを音だけでも届けているのは効果が高かったのだろう。湯浴み後の私を見る子供の目には、怯えでは隠しきれない情欲が漏れている。
　私を犯したいのか？　男の匂いが隠しきれていないぞ？

　私が纏う衣装も少し変えた。寝る時には鱗の比率を少し減らし、透き通る薄布に似た皮膜を纏うようにした。露出は減らしているが見える肌の面積を増やした色気に、子供は我慢の限度なのだろう。今ではもう、ベッドの上に乗って私に近づくようになっている。いじらしい奴め♪
　私はただ蹂躙するだけでは物足りなくなっている。蹂躙させ、思うがままに私に溺れるこの子供の顔が見たくなってきた。かつての戦士たちの様に私に雄々しく立ち向かうのだろうか。私に攻め手が通じないと知り、絶望に震えるだろうか。
　このか弱き子供は何時でも蹂躙できる。実に容易い。例えば、私がひと舐めするだけで形勢は変わる。

「ふぅ、ん」

　寝言交じりに漏らす吐息でさえ、子供は唾を飲み込むほどに怯え、あるいは情欲を滾らせる。やり過ぎてはならぬ。最後のひと時まで、優勢であるのだと、互角以上であるのだと思わせなければいけない。
　希望を踏みにじる快感は、樽で熟成させた美酒に等しい。微かな瑕疵で味わいがひどく変わる。丁寧に、丁寧に。私の体に近づけさせ、大胆にさせ、私を蹂躙『させる』ことが重要なのだ。
　さぁ、さぁ♪　焦らすことで情欲の種火は最大火力を増す。それを本能で知っているのか？　この、焦らし上手め♪
　お前の視線が私の全身を蹂躙しているのは、分かっているのだぞ？　いつ、手を出すのだ？　今宵はまだ見ているだけなのか？　この、天性の戦上手が♪　私を攻め手を挑発するなど、実にかわゆい事ではないか♪

　おや？　どうやら、まだ『女』を知る前に、自身の『男』を知らなかったのか。懸命に腰を動かして♪　なぜ自分の動きが止まらぬか、理解できておらんのか。
　だが。最初の一口を、シーツに呑ませるのは実に癪である。故に。

「ん。誰か、いるのか？」

　寝言を呟こう。ふふ、怯えて体の動きが止まったようだな？　……む？　この匂いは、確か。どういうことだ？　恐怖で怯えるはずだろう。なのに、この匂い。
　どうやら、失策だったか。何故、手違いが起きたのか不明ではあるが。
　布越しに鼻腔をくすぐるこの香り。ああ♪　一刻も早く味わいたいなぁ♪　もう、起きてしまおうか？　蹂躙してしまおうか？
　ああ♪　あぁ♪　実に耐えがたき誘惑だ♪　お前の戸惑い諸共、一口で飲み干してやろうかなぁ♪

　しかし私の理性が消え去る前に、子供はベッドから離れて行ってしまった。虚を突かれ、些か冷えた頭で考える。
　いま理性が消えかけていたが、何故だろうか。あの匂いはさんざん玉座の間で嗅ぎなれた物であったはずだ。理性が飛ぶほどの匂いではなかったはずだが。
　まるで空を知らぬ子竜のようだ。知らぬという戸惑いは実に新鮮である。他の人間には無いものが、あの子供にはあるのだろう。
　明日の朝から、眷属どもに言い含めておかねばならんな。
　子供（あれ）は私の物だ。決して手を出すな、と。


　子供は、自身の『男』を知ってからは抑えが利かなくなったようだ。夜になれば私を見ながら手を動かし、自身を慰めるようになった。時に、シーツを汚すこともある程だ。まぁ、射精すれば必ず何かしらが汚れるため、子供の行為は周知の事実ではあったが。
　一度、「ふむ。この白いのは何だ？」と恍けて見せた時の子供の怯えようは、愉快だったな。指でひと掬いし舐め取ろうとしたときの動揺も、実に酒の進む羞恥の顔であった♪　ああ、でも。実際に舐め取ってやった方が良かっただろうか。
　なお、私の指に付着した精液を勝手に舐め取った馬鹿豚は、尻たたきの刑に処してやった。悦ぶな、この馬鹿豚。

　性に無知な子供を翻弄して、気付いたことがある。目を背けていた事実でもある。
　実は、私も性に関しては無知だ。新しき魔王の影響で本能的に理解しているが、無知なのだ。むしろ、日々交わり続けている眷属の方が詳しい。由々しき事態ではあるが、私は王だ。知らぬことは眷属から聞き出せばよい。
　そうして眷属から聞き出した内容は、実に腹の奥にクる爛れた生活だった。実に、胎にクる。私を煽って来た馬鹿豚は尻たたきの刑に処した。
　成果はあったかもしれないが、今はまだ扱いきれない知識だと知り肩を落とした。みな、番（つがい）になった後の話ばかりであり、今の私と子供の攻防に役立つ知識は殆ど無かった。
　強いて言うならば、馬鹿豚の「責められるのも良いもんですぜ。その後、倍ほど攻めてやったら、あぁ、もうたまんねぇ♪」ぐらいか。蕩けた顔が癪に障ったので、尻たたきの刑に処した。

　子供は実に臆病で、好奇心旺盛で、性欲に弱い生き物だ。
　一度タガが外れると子供の行為は加速していった。一度はベッドから離れてしまったが、性欲を発散させる方法を知ってからは実に大胆になった。今では私の髪の匂いを嗅ぎながら自分を慰めるに至っている。私の髪に顔を押し付け、息苦しさも物ともせず深く荒く呼吸をしながら手を一身に動かすさまは実にかわいらしい♪
　悪戯心から寝返りを打ち子供の方を向いた時は、それだけで果ててしまったようだ♪　あぁ、実にか弱い♪　私が一度でも攻め手に回れば、実に容易く蹂躙できるのであろう。あぁ、早くこの腕を使い捕獲してしまいたい♪　私の物だと主張すべく、匂いを上書きしてやりたい♪


　子供の行動はいよいよもって、大胆になってきている♪　今日は、私の手を使うようになったのだ♪　硬い鱗を避け、柔らかな手のひらに押し当てて腰る付ける。実に大胆な行為だ♪
　子供のちんちんは想像よりも固く、ぬめりつけられた匂いは翌朝になっても濃く残る♪　その匂いが付いたままの手でグラスを傾け酒を飲むと、あぁ、じつに旨い♪
　もう実は熟成されているのではないか？　既に飲み頃なのではないか？　その甘い考えが、理性を溶かす囁きと思っていたのだが。
　もう良いのではないのかなぁ♪

　しかし、まだ子供の大胆さは手にしか及んでいない。もっと、こう、ないのか？　体全体に精液を塗りたくるような、猛火の如き情欲はないのか？　それを見るまでは待つべきではないのだろうか。
　いやいや、猛火の如き情欲で燃え上がっているのは私だぞ♪　ならば、私の情欲で焦がしてやるのが邪竜の務めであろう♪
　いやいや。
　いやいや。


　そうした、実に焦がれる日々であったが。幸運なことに、子供の性欲は日に日に増していく。
　私の髪の射精する事もあった。腹にちんちんをこすりつけて射精する事もあった。子供の顔よりも大きな私の胸は、何度も使われた。
　うつ伏せに寝れば、尻を使われた。尻尾も使われた。
　体中、子供の精液で汚されてしまったのだ。

　では、もう良いだろう。
　もう良いのだろう。


　今宵もまた、子供が静かに、だが大胆に私のベッドに上がり近づいてくる。
　濃いオスの匂いが近付く。ほぉ、とうとう私の唇を使うのか♪
　押し当てられる柔らかな先端がびくりと震える。ふふ♪　私の唇は柔らかいであろう♪
　子供は些かためらいながらちんちんを私の唇に押し当てては退く、を繰り返し。やがてこらえきれなくなったのだろう。私の口の中へちんちんを突き入れてきた♪
　子供が歓喜の声を上げる。同時に射精まで♪　快感に震える子供だが。

　もう我慢ならぬ♪

　私は舌を動かし、子供のちんちんを舐める。驚き逃げようとする子供の腰を捕獲する。ひと舐めすれば子供の力は抜け、ひと舐めすれば腰を押し付けてくる♪
　もう、逃れられんぞ♪　今まで堪えてきた分も味わう様に、子供のちんちんを舐めていく。じっくりと♪　丹念に♪

　もう射精したのか♪　早いなぁ♪　しかし、まだまだもつのだろう？　なにせ眷属が番（つがい）たちに喰わせている精力旺盛な食事を毎日食べ続けてきたのだ♪　まだまだ、夜は長いぞ♪


　胸は気持ちいいだろう♪　こうやって挟んでやれば、ほら♪　人間など、実にか弱いなぁ♪　ぎゅぅ、ぎゅううううう♪　おやおや、また射精か♪　か弱いか弱い♪


　尻尾を巻き付けると、どうだ♪　柔らかな皮膜は心地よいだろう♪　こうやって、こすり上げてやれば、ほらぁ♪　くっくくく、本当にか弱いなぁ人間は♪


　さてさて。では捕食してやろうではないか♪　案ずるな♪　殺しはしないぞ♪　お前は二度と人の町には帰れんだろうがなぁ♪　お前は、私に食べられるのだ♪　私から逃れられなくなるぞ♪

　むろん。逃しはしないがなぁ♪


　・・・。


　・・・。


　・・・。




　そうして、私は番（つがい）を得た。
　途中で眷属が食事を持ってきたことは覚えているが、基本的に番（つがい）と交わう事に集中していたので、他の事は気づいていない。
　今はひと時の休息だ。番（つがい）は私の胸に顔をうずめて心地よさげに寝息を立てている。
　情欲の種火は今なお燻ぶり続け、番（つがい）の精液を求めている。だが、この燻ぶりも心地よい。
　いつの間にやら、私に似た黒い魔力を番（つがい）が纏うようになっていると気付いた。これも新しき魔王の影響だろうか。

「不思議なものだ。明日の日さえ煩わしかった日々だったものだが。このわずかなひと時でさえ心地よいとはなぁ」

　番（つがい）の柔らかな髪を撫でると、ねだる様に番（つがい）が頭をこすりつけてくる。
　私は、かつて王であった。名は、ダーズ。


　今はただの、番（つがい）を持つ一頭のメス邪竜だ♪