読切小説
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月夜の兎蛇
ピチョンと水音が跳ねました。
エージスはその音に身を竦めました。ある月の綺麗な晩です。何か用事があったわけではありません。彼はそぞろに歩き、村はずれの池に、プラプラと辿り着いた時でした。
魚にしてはおかしい。ピチョン、ピチョン。
まるで子供が足で水面を弄ぶような水音。
彼はそろそろと近づき、葦原をかき分けます。すると、彼は目を見開きました。

そこには、この世のものとは思えない幻想的な光景がーー。

月明かりに照らされた池。
岩場に腰掛ける、乙女がおりました。乙女の髪は白く、まるで羽毛のよう。浅黒い肌の豊満な肢体を曝し、彼女はピチョピチョと物憂げに水面を弄んでおりました。
彼は唾を飲みました。

乙女は、魔物でした。

頭にはこれまた羽毛が固まったような獣の耳、髪だけではなく、腕にも羽毛が生えております。極めつけは尾。彼女の下半身は巨大な蛇の尾で、しかし腹鱗以外はやはり羽毛に覆われておりました。

魔物。
村人たちは教会の神父さまに、魔物は人間を誑かす恐ろしい存在だと教えられております。本当はすぐに通報して、退治してもらわなくてはなりません。
しかし、

ーー美しい。

エージスは彼女の艶やかな肢体に釘づけにされていました。

魔物は美しい乙女の姿をして、人間を誑かす。精を搾って殺す。そう教えられていました。
しかし、これほどまで美しい彼女ならば、搾り殺されても構わない。
彼は彼女の姿態に魅入り、なかば本気でそう思いました。

彼女は、これまで見た事もないほどの美女でした。エージスは舐め回すように彼女を見てしまいます。
哀しみを湛えて潤む瞳、月明かりに濡れた浅黒い頬。悩ましい首筋から鎖骨も剥き出しで、思わず触って見みたいと思わずにはいられないほどに扇情的です。大きな胸も膨らみも露わで、豊満な乳房の先では、薄桃色の可愛らしい乳首がツンと立っておりました。

ほっそりとした腰の括れに内股へと走る鼠径部の皺。
下半身が蛇だとは言え、女性の股を強調するような彼女の造形は甚く蠱惑的で、彼は股間が盛り上がるのを止められません。

ピチョン、ピチョン。

彼女は物憂げに尾先で水面を叩き、悩ましい女の上半身を反らします。月明かりが静かに浅黒い肌を磨いて、張りつめられた乳房が、彼女の吐息にふるりとふるえます。ツンと立った乳首が、月に重なります。

「はぁッ、あ……」
彼は相手が恐ろしい魔物だと言うことも忘れ、ベルトを外して肉棒を取り出しました。彼女を視姦しているだけで、彼の欲棒は痛いくらいに反り上がっていました。掌に唾液を吐き、彼は肉棒に塗りつけながら扱き始めます。
自分は何をしているのだろう。
そんな考えは、彼女の立てる水音の波紋に、砕けるようにして消えていきます。

「はぁっ」
彼は息を押し殺しながら、美女の肢体を肴に自慰を行います。肉芯はすでにキリリと伸び、太ましい血管まで浮いています。

と、彼は信じられない彼女の行為に目を見開きます。声を立てなかったのが不思議なくらいです。

彼女の嫋やかな指が、月明かりを爪弾きながら、股間に伸びていきます。
もしや、と彼は自身の手を止めて食い入るように見つめます。ドクンドクンと掌に肉の脈動を感じます。
「あ、ぁ……」
漏れ出した情欲の吐息に、彼は蕩けるような痺れを覚えました。

彼女も彼と同様に、自慰に耽り出したのです。

「ア、ン……」
魔物と言えども魔性の美女。艶やかな声音に劣情を爪弾かれながら、彼は彼女の痴態に魅入り、再び肉棒を扱き始めます。
あの指は俺の肉茎だ。俺は今、彼女に挿入して腰を振っているのだ。

クチュ、クチュ。

美女の指が奏でる水音に耳を澄ませながら、彼は一心に己を扱きます。

「あぁ、ウ……」

美女の細指は羽毛の切れ目の蜜口にはまり込み、ぬちゅぬちゅと快楽を爪弾きます。彼女は背を仰け反らせ、夜気に胸を張り、豊満な乳肉をたぷたぷとふるわせます。やがて彼女の指は、切ない乳先へ……。

「アぁッ、ン、ふ……」

美女の己の指で蜜壺を掻き混ざし、乳肉を弄びます。遠目でも柔らかく自在に形を変える乳房は、美女の指をたやすく沈ませ、また、ぽよん、と。美しい形に膨らみます。コリコリと音が響きそうなくらいに弾かれる乳先。

ぬちょぬちょ、ぬちょぬちょ。

蜜壺から溢れ出す淫猥な響きは、エージスの理性を狂わせていきました。あのような美女を前にして、俺はどうしてこのように寂しく自分で慰めていなければならないのか。
魔物が精を搾ると言うのなら、淫らな痴態を魅せる彼女に搾ってもらればいいではないか。
美女に絞られて死ぬなど、男にとって本望ではなかろうか……。

彼はまるで火に誘われる羽虫のように、荒い息を吐きながら葦原を掻き分けていきました。

ガサガサ、ガサガサ。

彼女にバレてもおかしくはないのに、己の快楽に耽る彼女は尾で水面を打ち、激しさを増す指に応じて、すでに睦み合うかのような水音が跳ね、それが彼の蠢く音を覆い隠しておりました。

「ンぅッ、あ……」

彼女は豊満な肢体を大きくふるわせると、やがて悩ましい息を吐きながら、くったりと力を抜きました。なよげな肩を上下させ、垂れ下がった眉尻は快楽の余韻を愉しんでおりました。半開きの薄い唇の端が淫らに緩んでおります。

ガサッ。

「!」

間近の草音で、ようやく彼女はエージスの存在に気がつきました。
瞳は大きく丸く、驚愕が美貌を象っておりました。

彼女が慌てるのも無理はありません。何せ、秘め事を覗かれたのですから。しかも人間。この辺りの村人が魔物に良い感情を抱いてはいないことを、彼女はちゃあんと知っておりました。もしかすれば、教会にまで話が行くかもしれません。
いいえ、彼女がそこまで考えたのかは不明でしたが、彼女の視線は彼の一点に注がれて身を強張らせておりました。

彼の肉棒が、月に挿さるまでにそそり立っておりました。
自慰の最中にそんな男性が現れれば、羞恥と恐怖に身を竦めるでしょう。
しかし彼女は魔物娘。情欲の期待にも息が速くなっておりました。
彼は間違いなく自分の痴態を見ていた。そして、肴にしていたが堪えきれずに姿を見せた。それは先から溢れ出す欲望の雫が雄弁に語っておりました。

彼女は逡巡しました。
バニップと言う魔物娘である彼女は、元来臆病なのです。自らに劣情を向ける男の視線にさらされ、女陰が疼きます。しかし、彼がどのような男かも知れず、また、これは自分を捕まえるための罠かも知れない。
彼女は抑えきれない牝の悶えを押し殺しつつ、周囲の気配を探りました。
しかし、誰もいません。
それならば彼は一人?

と、彼女には別の期待も湧き出しました。
いくら自慰に耽っていたとは言え、自分が人間の接近を感知出来ないわけがない。それならば、すでに自分の牝の身体は雄である彼を受け入れる事を決めている。

運命。

その可能性が浮上した途端、彼女の臆病も恐怖も、羞恥も理性も、微かな泡を残して沈降し出しました。残ったのは、僅かばかりの羞じらいと、歓喜、欲情……。

「なぁ魔物さん、あんた、人間の精を搾り取って殺すんだろ?」
彼の言葉に、彼女は眉を哀しくひそめかけます。しかし続く懇願に、彼女の眉尻は垂れ下がることになりました。
「俺は死にたくない。でも、死んでも良いからあんたとヤりたくて仕方がないんだ。殺されたっていい。だから、抱かせてくれないか?」

途端、彼女の総身に天雷に似た衝撃が迸りました。
「あぁ、あ……」
思わず呻いてしまいました。
この男は、教会に教えられた通り、自分を人を喰い殺す魔物だと思っている。だと言うのに、それ以上に私の肢体(したい)に欲情している。命をかけて、私を抱こうとしている。
情欲のふるえは甘美な媚薬(どく)となって彼女の肉体を侵し、やがて理性をも蕩けさせました。

彼女は彼に真正面から己の肢体を曝します。
彼の視線が這うのを、まるで舌が這うように感じました。

すでに濡れそぼっている女陰は男を求めてヒクつき、とろとろと欲望を滴らせます。
彼の荒い息遣い、唾を飲む音。そして、薫ってくる雄の性臭。
彼女は浅黒い頬に紅を差し、腰を突き出して男に自らを捧げます。

クチュリ。

彼女は淫靡な水音とともに、己の女陰を男に向けて指で開けました。
とろりと愛蜜が溢れ、ヒクつくラビアが彼に愛を囁き、快楽の友づれを請います。
清かな月明かりは、美女の肢体を濡らしておりました。
微かなふるえは羞恥です。しかし、魔的に彼を誘いながら、彼女の瞳は情欲だけではなく羞じらいにも潤んでいおりました。あえかな吐息に乳房が微かにふるえます。

「こんなの、もう死んだっていい」

彼はうわ言のように呟きながら、バシャバシャと水面を蹴立てて彼女に向かいます。間近で見る彼女は、さらに美しく、浅黒い肌には紅が差し、瞳は情欲に潤んでおりました。大きく膨らんだ乳房の先では切ない乳首が尖り、男のものを受け入れたい女陰がピンク色にヒクつきます。
この女を抱ける。
彼は自分が木っ端微塵にならない事を不思議に思いました。

彼は肉棒に手を添え、彼女の女陰に当てがおうとします。
と、

「ニーヤ」
「え……」

今にも肉棒を突き入れようとしていた彼は、薄い唇が言葉を紡いだ事に驚きました。

「私の名前……。あなたは?」
「俺は……」

彼女の瞳がこちらを見ていました。柔らかく垂れた目尻は男を吸い殺す魔物のとはとうてい思えないほどに優しげで、自分をの答えを待って潤む瞳に、彼は魅入ってしまいます。
彼女の声音は静かに肌から沁み入り、彼はざわつく肌に、昂奮だけではなく甘やかな抱擁も感じました。ダメだ、蕩かされる。俺はこの女を抱けば、快楽に蕩かされて吸い殺されてしまう。
でも、それで良い。

「エージス。ニーヤ、俺を食ってくれ」

そう言えば、彼女は恍惚(ウットリ)と笑いました。
その蕩けるような笑みに、彼はそれだけ射精しそうになります。

なるほど、これは魔性だ。

教会が魔物を敵だと言うのもわかる。こんな顔をされてしまえば、彼女が敵だとわかっていても、抱かずにはいられない。食われて良いと思わざるを得ない。

「エージス。私の旦那さま……」

彼は背中をぶるぶるとふるわせました。一夜限りの契り。このまま喰ってしまう相手だとしても、伴侶として相手をしてくれる。その光悦に、彼は身体を戦慄かせながら腰を押し進めます。

「あぁッ、ン」
ぐちゅり。潤い切った肉壷は容易く彼を飲み込み、ザワつく肉襞が肉棒を舐め上げてきました。
「うおぉ、なんて気持ち良いんだ……」
彼は昂奮と感動でぶるぶるとふるえてしまいます。それでも、肛門を締めて射精は堪えました。しかし、ニーヤの腕が伸びます。しなやかでも魔物の力強い双腕に抱きすくめられ、彼はさらに腰を密着させてしまいます。

「うぉお……」
肉膚を舐め尽くす媚肉。胸板で潰れる乳房。柔らかな女体は夜気に少しだけヒンヤリとしていました。しかし、それが彼女を抱いていると言う鋭敏な主張となって身体を包み込んで来ます。
「あは、あ……」
彼は感じた事のないほどの極上の快楽に、ただ呻くことしか出来ません。
「うぅ、う……」
悩ましい美女のふるえが、さざ波のように沁み入ってきます。
「ダメだ、出るッ」
そう言った途端、彼女のナカで彼が膨らみました。
「あぁウッ」
ドクドクと侵入してくる男の欲望に、彼女は牝の身体に火がついたように感じました。胎に入り込んできた精液が熱い。これが彼の欲望なのかと、彼女はウットリとしつつも彼に唇を重ねます。

「ハム、ちゅ……」
美女の柔らかく潤った唇に食まれ、萎えたはずの彼の肉棒はすぐにいきり立ちました。
これは本当に搾られる。
彼は少しばかりの戦慄を覚えます。しかし、殺されても良いからこの女をもっと味わいたい。と、彼は雄の昂ぶりのままに彼女の唇を吸い返します。

「はむ、あぁ……」
微かに開いた唇に舌を侵入させれば、彼女の舌は歓喜で迎えてくれました。火照った肉粘膜同士の絡みつきに、彼は目眩がするような快感を覚えました。トロリと唾液を流し込めば、彼女は素直に飲み込んでくます。お返しにちゅくちゅく舌を吸ってねだれば、彼女の方も唾液を飲ませてくれる……。
「はぁ、う……」
止まれそうにはありませんでした。睾丸の中身がカラカラになって、干からびてしまったとしても、彼女を抱いていられそうでした。

「旦那さま、初めてなのに気持ちが良いです」
彼女の言葉を、彼は一瞬わかりませんでした。
そう言えば、挿入した時、何かを破った感触はありました。それなら、彼女はーー。

「うぉおッ、ニーヤぁッ」
「アァあッ」

彼は岩場の蛇体に跨り、ゴツゴツと腰を打ちつけ出しました。俺がこの淫蕩な魔物の初めての相手。それなら、この牝は俺のものだけにしてやる。俺を吸い殺しても、俺を忘れられなくしてやる。
彼は独占欲と自棄が絡んだ、なかばヤケッパチ、いいえ、雄の本能のままに腰を降りました。

「あぁッ、あぁあッ」
快楽に呻く女の声音が堪りません。
「はぶッ、じゅるるッ」
彼は彼女の口に吸いつき、欲望のままに舌をからめて唾液を吸います。豊満な乳房に持ち上げるように触れ、むにゅり、むにゅりと指を沈ませます。彼の腰つきのままに乳房は暴れ、たぷたぷとした躍動を抱きながら、彼は彼女と言う極上の女体を味わいます。
迫り上がった乳首を押し潰すようにすれば、甲高い美女の嘶きに、膣が締まります。
堪らない情感のままに、彼は射精欲が煮立っていくのを感じていました。
このまま膣奥に吐き出したい。
一度目よりももっと色濃く、もっと激しく多くの量でこの女に自分を刻み込みたい。彼はケダモノの獣欲のままに腰を振りました。
そして、

「おぉうッ」
「あぁッ、あぁあうッ」

彼の肉棒は脈打ち、その中を苛烈な欲望が噴き出していきました。彼女はその熱さに身を悶えさせ、それでもまだ精をねだろうと、彼の身体をシッカと抱きしめ腰をくねらせていました。

「すごい、旦那さま。私、初めてで果てて……。あぁ、ウン……。もっと、もっとくださいぃ……」

しゅるしゅる。

彼女の羽毛の生えた蛇体が彼に巻きついていきます。彼も彼女も一括りにして、まさしく快楽で絞め上げるために巻きついていきます。
己を食する魔物に巻きつかれる。それはただ恐怖であるはずです。
しかし、己を求める女に、彼はウットリと頬を緩ませ、

「ああ。俺の全部をお前にやる」
「嬉しい」

女の甘い声音が聞こえたと思えば、彼は全身を彼女に包まれました。締め上げてくる強靭な蛇体としなやかな腕。いつしか再び芯の入った肉棒も、彼女の膣肉に締め上げられています。
苛烈な絞め上げ。
だと言うのにどうしたことか。彼女の抱擁はどこまでも柔らかく心地の良いもので、まるで天上の羽毛に包まれているような安心感を彼に与えて来ます。

彼は恍惚として彼女を抱き、彼女に抱かれ、やがて、

バシャン、と。

大きく水面が飛沫を上げたと思えば、そこにはもう二人の姿はなく、やがて穏やかな水面には、静かな月が映り込んでいるだけでした。
きっと、兎のような蛇である彼女は、水に映った月へと帰って行ったのでしょう。愛しい彼を手に入れた彼女は、そこでずっと、蜜月を過ごすのでしょう。
月夜の晩の蛇語り。
妖しの夜にはご注意を……。
18/05/27 14:18更新 / ルピナス

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