読切小説
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相棒
「 今日の取り分はこれでいいな。 」
「 貴様、明らかに私の取り分が少ないじゃないか。 」
「 バカ言え。俺が居なければいくつトラップに引っかかってたと思うんだ。妥当だ妥当。」
「 何を言っている、私が居なければあの魔物達を退けることなど出来なかっただろう。
  それともなんだ?私無しであの遺跡を突破できたとでも言い切るつもりか? 」
「 そもそも俺が居なかったら挑戦すら出来なかっただろうが。 」


俺たちは今、魔都の冒険者が集う酒場で遺跡探索で得た報酬の山分けをしている。
山分け、といっても俺ともう一人で割り当ての相談をしているだけだから分割ってのが正しい。


冒険者の片方はこの俺、"影猿"の二つ名を持つ凄腕の盗賊ことクリフだ。
俺様の手にかかれば何人もの骸が積み上がるだろう恐ろしいトラップも朝飯前。
どんな厳重な警備だろうと難なくすり抜けちまってお目当てのシロモノを頂くのもお手の物さ。
軽い遺跡の一つや二つは鼻歌交じりで踏破出来ちゃうね。実際歌いながらやってみせようか?
と、この若さで魔都トップレベルの実力者と言い切れる程の熟練の盗賊を自負している。
もう一つ"石打"って名もあるが・・・こっちの方は盗賊としての名じゃあないから割愛。


「 がめつ過ぎるだろう。しかも次の日には素寒貧同然に使いきるもんだから信じられん。
  クリフ、貯蓄とまでは言わんがもうちょっと計画に使えないものなのか?  」

俺と報酬の割り当てを相談しているのは女戦士のスノウ。種族はリザードマンだ。
リザードマンなのに雪の名前なのは雪が降った日に生まれたから、とは聞いた。
その風貌は名の通り降り積もった雪のように物静かな美人である。
背筋が伸びた佇まいは気品があり、どこか高貴な血筋の娘にも見えるだろう。

・・・ぶはっ。

いやすまん、自分で表現してて笑った。美人は美人だが仏頂面過ぎて残念な部類だ。
性格は真面目で実直で無愛想、更にストイック。どちらかと言うと無口な方だが世間知らず。
武人という表現がコレでもかと当てはまるような性格をしている。

俺から見ても戦士としての力量は高く、戦いに関してはその一切を任せられる実力者だ。
純粋な武器戦闘に限ればこの魔都でも有数の実力者とも言えるんじゃないか?
いや、言い過ぎかもしれない。正直、こいつくらいの実力になると差がわからない。
奇妙な悪癖を除けば非常に頼りになる逸材だ。
そう奇妙な悪癖に関して話さねばならない。こいつは冒険や依頼の度に毎回武器を変える。
正直、よく分からん。趣味だと思う。
今回の冒険はフレイルだった。みんなフレイルって知ってるか?
棒の先っぽに鎖で繋がった鉄球がある武器、という認識で良い。遠心力でぶん殴る武器だ。
いや、理論そのものは簡単な武器なんだが遺跡に持ってく武器じゃないだろ。
剣でいいだろ剣で。武芸百般を目指しているらしいが、俺よりよっぽど無駄遣いじゃないか。
あーでも、硬い魔物多い遺跡だったし、それをコテンパンにしてたから有用だったかもしれない。
まぁ、趣味だな、趣味。互いの趣味には干渉しない。それが俺たちのルール。

だから名前とコロコロ武器を変える性格を合わせて"雪風"なんて二つ名がついている。
この無愛想な顔からは想像もつかねぇ二つ名だな。

似合わねぇー。


「 相変わらず説教臭ぇな。いいだろう俺の金の使い方なんぞ俺の勝手だ。
  色々と準備があんだよ、準備不足で死んだら金なんぞ冥府に持っていけないしな。
  俺は遺跡に金貨を提供したくないぜ。なに、そんなに損はさせねぇよ?
  俺の気分が良ければ遺跡の罠もどんな扉の鍵も一発さ。 
  ってわけで、今回の取り分はこうだ。これでも譲歩してるんだぜ? 」

「 ・・・まぁ仕方ない。その配分で構わない。クリフの活躍そのものは理解してる。
  デストラップに近い罠も幾つかあったし、今回の話を持ってきたのもお前だしな。 」

スノウも結構粘ったが、少し俺の方が多めに取り分を頂いた。当然だろう?
不満気なスノウの顔を見て、俺はつい口をはさむ。

「 いいじゃねぇか別によ。お互いのためだぜ? なぁ相棒? 」

と、俺は言った。そう、こいつとの関係は信頼も信用もできるが根本はビジネスだ。
互いの関係は金を稼ぐためにある。そう俺は言い切れるね。

「 その相棒という言い方は何か妙に怒りが湧いてくるな。馬鹿にされている気がする。 」

そう怒るな怒るな。と俺はスノウとさっさと別れて次の仕事の準備に取り掛かった。




金を受け取った俺は早速馴染みのタヌキの商人のところへ顔を出す。
冒険道具の補充なんかは最近はこの店で仕入れている。質が凄く良いのだ。
新婚さんらしくデレデレ状態だからちょっと値段も安めになってるし、備品揃えるには最適だね。
さぁて、機械油やテグスは補充しておかなきゃな。ちょっと今回は使用量が多かった。
命は金に替えられんとは言うがマジックアイテムは高価で手を出しづらい。


んー・・・高いけど、これ、買っておくか・・・これ買うとスッカラカンだが・・・一応。



*   *   *




スノウと俺がコンビを組んだのは3年くらい前だ。
俺が魔界由来では無いヤバイ薬を蔓延させようとしてる犯罪組織を相手にしてた時だ。
今では伝説の盗賊とすら言える実力者の俺様でも、流石に手を出すには危険過ぎる相手だった。
俺だったらなんだって出来る。そう、自信過剰に陥っていた。
思い上がっていたのだ。
しかしそんな俺に対して奴らは見せしめとばかりに報復してきた。
よもや街の往来で襲撃してくると思わなかった。俺は必死になって暗殺者共から逃げていた。

その時、スノウに出会ったのだ。

暗殺者どもをバッタバッタと薙ぎ倒し、犯罪組織を倒すために協力してくれと俺に接触してきた。
武者修行の旅の途中で色々と事件に巻き込まれて敵対してたらしい。
だが、どうも事件には自ら突っ込んでいき、犯罪組織からも恨まれていたらしい。
鬱陶しいし、そのような悪を見過ごすわけにも行かないから、潰す。と言ってきた。
正義感が強いやつだな、馬鹿か。とは最初思った。しかしすぐに利用できる。とも思ったのだ。
一人ではどうしようもねぇ、と判断していた所だったし、スノウと協力することにしたのだ。

スノウは強かった。

俺は盗賊であり戦闘は専門では無いので実力差を判断しづらいが、正直格が違った。
なにせ犯罪組織に殴りこみにいって、軽症程度の傷しか追わずにほぼ一人で壊滅させたのだ。
暗殺者を一蹴してた事からかなりの実力者だと思っていたがここまでとは思ってなかった。
その時の得物は長槍だったな。だが刃の部分で切らず柄の部分で殴りほとんどを制圧した。
人を傷つけない用にしながら戦いぬくとかどれほどの技術が要求されるのか検討もつかない。
なので俺はこう思ったのだ。




こいつは使える・・・!




リザードマンは武人肌であり、自分の研鑽くらいしか興味が無い種族だ。
人間の戦士より金に執着は無いし何より種族的に強靭だ。精神的にも扱いやすい。
だからこいつに戦闘をさせることで今まで攻略できなかった儲け話が生きてくる。
犯罪組織と戦うための一時的な協力関係だったが、俺は色々とスノウに取引を持ちかけ始めた。


それが最初の出会いだった。


それから何度も取引を持ちかけ、依頼を熟し、遺跡を攻略した。
スノウは俺から依頼を受ける時以外は大体修行に時間を割いていたし、自由に仕事が出来た。
俺にとって理想的な協力関係と言える。
今や俺もスノウも熟練冒険者って所だ。いや盗賊としての腕は3年前に既に完成されてたぜ?
名声も集まっており、俺とスノウのコンビ相手に依頼が舞い込んでくることもある。
だから俺とスノウの関係は続いている。だから、俺達の関係はビジネスだ、と言い切れるね。

今日も稼がせてくれよ、相棒。



なお余談だが、犯罪組織はお縄についたあと、魔物的な意味でひどい目に合わされた。
奴らは残念ながら再起不能な目にあっているだろう。なお魔都の看守はダークエルフである。
俺にはその趣味は無いので絶対に牢屋に放り込まれないように細心の注意を払っている。
残念ながら犯罪者には本気で人権が無く幸せにされてしまうのがこの土地の恐ろしいところだ。




*   *   *




俺は蝶番に油をさし、音を立てずに扉を少しだけ開いた。
既に扉越しに聞き耳を立てていた俺は近くに人や物の気配が無いことはわかっていた。
どうやら奴らは儀式に夢中だったらしい。隙間から内部の様子が良く見える。
スノウが突入すれば速攻でカタが着くだろう。楽な依頼だ。

ここまでのトラップは杜撰なものばかりだった。いやぁ、残念だな俺様が相手で!
素人ならともかく大!ベテ!ラン!の俺様にかかればあんなトラップ片手で解ける!
スノウ単独なら引っかかってるがな!ここまで辿りつけたのは俺のおかげだな!
おっと目が怖いぜ。まるで俺が何を考えたかのようにスノウが俺を睨む。
へいへい、わかってるさ。床に小さい石を置いて敵の配置を無言でスノウに知らせた。
自分たちを見立てた石も用意し、突入時にどう突っ込むかの流れの打ち合わせも済ませた。


今回の依頼は狂信集団の討伐。遺跡を占拠し異界の神を召喚するつもりらしい。
力を持った魔術師が関わってるという話は聞かないし、失敗するという予想は立っている。
異界の神を信仰することは禁止されているので、俺達が討伐の依頼を受諾したわけだ。
いや、討伐というよりはここは魔界だしな。依頼主は一応生け捕りを求めていた。
生け捕りになった狂信者共は"改宗"させられるのだろう。ろくでもない方法で。
サバトだったら悲惨だなぁ・・・色んな意味で。


スノウの今日の得物はハルバード。いや、遺跡にそんな長柄武器を持ってくるなよ。
魔物は人間の殺生を酷く嫌うから刃の無い場所で叩く方針らしい。が。

いや、ハルバードの刃の無い所って柄だけだろ。ハンマーついてないやつだし!

この全く論理性が無い武器の選び方はホント意味が分からない。金の無駄だろ。
だが、こいつの武器選びは最終的に大正解な武器を選択するので口を出さない。
なんだろうな、必要な物が解ってるかのように武器を選ぶんだこいつは。

ってことは、ハルバードが必要になるほどの敵が現れるってことか。

ハルバードそのものは強力な武装だということは俺も理解している。
なにせ、ガチの戦争に使われている複合武器。
それも長柄武器としては完成度が高いという話は戦士からは良く聞く話だ。
だが今回はそうは行かない。さっさと片付けよう。
そいつを無用の長物にするのが俺の役目でもある。

スノウに対して指で合図し、一気に儀式を行っている部屋に突入した。
俺は事前に準備していた石を投擲し、狂信者どもの頭部を狙いぶちかます。
二つ名の"石打"は投擲の名手としての称号だ。故に腕は分かってもらえるだろう。
狙いを付けた相手の頭部に正確にぶち当てて、狂信者どもの意識をもぎ取った。
軽めの物を選んだから殺しはしないだろう。すぐに起き上がることも出来ないだろうが。
スノウもハルバードを振り回し、まさに狂信者どもを薙ぎ倒していった。


だが、違和感。
狂信者どもに笑みが浮かぶ。


観察。


あれは、召喚の触媒。杯。それも異世界への門を開く魔力を持つ強力なもの。


部屋の空気が歪む。狂信者どもの笑い声。



おいおいおいおいふざけんな!召喚成功しそうじゃねぇかよ!



間に合え・・・!俺は直ぐ様、投擲短剣をナイフベルトから抜き放つ。



触媒にナイフが突き刺さり、触媒の杯は真っ二つに割かれた。


が。


ほんのすこし遅かった。




歪んだ空間に穴が開き、その穴をこじ開け異形が姿を表した。
その異形は人の形をしていたが翼が生えており、全身黒塗りの闇そのものの姿をしていた。
鋭い赤い目が顔だけでなく全身についており、どこもかしこも睨みつけている。






魔神の眷属・・・!しかも相当の上位種・・・!






やばい。





この身にヒシヒシ感じ取れるもの。

殺意だ。

召喚された魔神の眷属からは魔界の魔力に侵されていない、生の害意を感じ取れた。




俺は一瞬、一瞬だけ立ちすくんだ。まるで蛇に睨まれた蛙のように動くことが出来なかった。



「 ぼさっとするなぁ! 」



しかし、スノウは俺に対して檄を飛ばし、全く躊躇うこと無く魔神の眷属に突撃していった。
召喚された瞬間の隙。それは魔神の眷属にとって反撃を行えない最初のチャンス。
そのタイミングを見逃すこと無く、スノウはハルバードを振りかぶり一撃を繰り出した。
だが、その一撃は魔神の眷属の手から出現した槍のようなもので弾き落とされた。
リザードマンの膂力から繰り出される全力の一撃をいとも容易く防ぎきったのだ。

スノウはそのまま追撃を繰り出す。
全力の振りかぶりの勢いのまま、自分ごと回転して尻尾での一撃を繰り出したのだ。

テイルスイング。

リザードマンの膂力と体重を載せたその一撃は魔神に直撃した。
テイルスイングは肋骨が何本もぶち折れる恐ろしい威力のものというのは知っている。

だが。

俺の目から見ても分かった。魔神の眷属が相当な質量の存在だということに。
この黒塗りの影の存在は、スノウの尾の一撃を食らっても微動だにしなかったのだ。






やばい。







スノウの攻撃が、効かない。

こちらの攻撃が一切通じず、一方的に攻撃され続ける悪夢が脳裏を過る。

俺は迷いなく退路を確保した。

今までのトラップは全て解除した。逃げるだけなら入り口まですぐたどり着けるだろう。
だが、俺はその一瞬の判断ミスを後悔した。



スノウは一切引き下がる事をせずに魔神の眷属との戦いを選択していたのだ。



馬鹿か俺は・・・!


この状況で、スノウは逃げない。そんなことは俺が一番良く知っているだろう。

まず、最初に魔神の眷属の生贄になるのは狂信者どもだからだ。

俺達が逃げれば、まず彼らは血祭りに上げられるだろう。
スノウは、たとえ敵であろうがその命が奪われることを許さない。
スノウは正義感が強い、というほど正義に燃える女ではなかった。
ただ、救えるかもしれない命を前に立ち止まるということを知らないだけの女だった。


援護できる最初のタイミングをわざわざ俺は無駄にしたのだ。


スノウは全く下がらず、次の一撃を繰り出した。

自分も回転しながらハルバードをフルスイングする。遠心力が乗り切った必殺の一撃。

それは眷属が持つ槍の先端を破砕した。
敵も無敵ではない。スノウの連撃で確実にダメージを通すことの出来る相手なのだ。


だが、その反撃とばかりに槍を持っていた手とは逆の手でスノウの腹部めがけて殴り返した。
その一撃をまともに食らったスノウが吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。


なんて威力だ・・・!


「 がはっ・・・ っ、さっさと、動け! クリフ! 」


俺の身体は既に動いていた。スノウの檄の前に眷属の追撃を阻止するため短剣を投擲したのだ。
そのタイミングは眷属の防御と攻撃の隙間を縫い、眷属の胴体に直撃した。

感触は浅い、だが。

身体についた無数の瞳の一つに刺さり、その瞳が閉じてカランと短剣が地面に落ちた。



瞳が一斉に此方を向いた。



「 こいよバケモノ。 "影猿"クリフ様が相手だぜ。 」
挑発。こいつに言語が通じるかはわからないが、明確な敵意をぶつけられていることは分かる。

・・・来る!

右手に槍を新たに創りだした眷属は俺に向かい滑空してきた。

だがそのタイミングで横合いからスノウが突きを繰り出す。
全身に目が付いている眷属にとってそれは奇襲では無かった。
しかし、スノウの突きまでの一連の流れが早く、その一撃を受けきることは出来なかった。

スノウの動作は極めて速い。

それは尾の動きに秘訣があり、尾を時に足として、時に手として使う技術と聞いた。
正直良くわからんが、感覚としては理解できる。
部位が一つ多く使えるのであれば挙動の一つを省略することも可能なのだろう。

一撃で瞳の一つを潰し、更に二撃、三撃とハルバードの鉾による連続攻撃を繰り出す。
ハルバードには斧としての機能、鉾としての機能、鉤爪としての機能が備わった複合武器だ。
斬撃、刺突、鉤爪で引っ掛ける、鉤爪の部分で叩く、等様々な使い方が可能なのだ。

そして、俺の投擲の結果を見たスノウは迷わず鉾による突きと、鉤爪での刺しを選んでいた。


俺の攻撃から、少なくとも目を潰せばダメージは入ると判断したのだ。


魔神の眷属は幾つもの目を潰しながら前進していくスノウを対応せざるを得なくなった。
その意識の隙をつき、俺は瞬時にスノウの逆側に回りこむ。
視線は此方にも送ってきているが、眷属は対処すべき脅威をスノウに合わせたようだ。


好都合、なにせこちらには観察が足りない。


眷属は両方の手に槍を出現させスノウに襲いかかっていた。
恐るべき速度で槍を繰り出した。スノウはそれを打ち払い、防ぎ、反撃を繰り出す。
一進一退の用に見えた攻防、だが魔神の眷属の勢いが収まらない。
ハルバードの全体を防御に見事に用い捌いている。しかし初撃のダメージが大きい。
しかも眷属の攻撃の精度は高い。スノウの鎧を徐々に削り、いくつか傷が増えてきている。
最初の一撃以外の直撃は貰っていないが、眷属の攻撃力は尋常のものではない。
次の一撃を食らったらスノウとは言え間違いなく深手を負う。

このままではマズイ。

だがあの距離に踏み込むことは出来ない。
俺があの戦いに巻き込まれたら間違いなく死が訪れることだろう。
そのため迂闊に援護しようものならば攻撃が此方に向かうこともあり得る。
俺が攻撃の対象にならないというのは俺たちの戦略でもあるのだ。
だから、今は攻撃してはならない。
そもそも投擲用短剣はあと二つしかない。どう使うかも注意深く考えねばならない。


魔神の眷属に弱点は無いのか。俺は注意深く観察する。



あった。直ぐ様行動に移す。邪魔な目が幾つかあるからだ。

両手で準備、即射撃、連射。

俺は背中から魔神の眷属の頭部にある目と腰にある目に投擲し貫いた。

魔神の眷属が此方を向きかける、だが俺の行動を何かの合図だと思ったスノウは攻勢に出た。


体内で練り込んでいた魔力による瞬間ブースト。東方では"気"と呼ばれるものである。
筋力と体重を増加させ、ハルバードを力任せに軌道を変え、超高速の連撃を放った。
その瞬間魔神の眷属は防御に完全に専念しなければならないほどの速度と気迫。


「 さっすが相棒。最高のタイミングだ。 」


俺は得意の跳躍で魔神の眷属の背中に飛びついた。




全ての部位に目が存在するかとおもいきや一部だけ目が無い場所を発見していたのである。
それは翼。魔神の眷属は自らの翼の範囲にいる人物を見ることが出来ない。
触って見た魔神の眷属の身体はまるでゴム質のような感触をしていた。
打撃の衝撃を吸収してしまうような身体をしているのかもしれない。そう俺は思った。



スノウの攻撃に集中しなければならない眷属は俺に対処することは出来なかった。
振り回されながら俺を引き剥がすことは出来ない。
そう、たった数秒の間だが、奴の身体に直接"コレ"をぶち当てる事が出来たのだ。


魔神が激しく動き、俺は弾き飛ばされた。




そして、弾き飛ばされたその俺と同じ方向に魔神の両腕が引っ張られた。



俺が引っ張っているからである。
更にそのマジックアイテムに微弱な魔力を通し、完全に発動させた。




アラクネの捕縛糸。





アラクネの糸を加工し、マジックアイテムとして冒険者が使えるようにしたものだ。


それが魔神の眷属の両腕から広がり全身を完全に絡めとることになった。






「 高かったんだぜ、それ。 」






数秒の硬直。それはスノウが全力の一撃を繰り出す為には十分すぎるほどの隙。

3秒。たっぷり3秒もの呼吸。"気"を使用できるスノウにとってどれだけの意味のあるものか。
だが、一歩踏み込んだ時の足の音がまるで巨人が歩いたかのようにこの部屋を揺らした。
息を吸い。吐いた。





振りかぶって、斬った。





その一撃は、魔神の眷属を完全に両断した。








*   *   *



「 ったく、大赤字だぜ・・・ 」
狂信者共を制圧して、あとは依頼主に処置を任せる手筈になっていた。
本当に召喚に成功するとは思っても居なかったためにそこまでの戦力は用意していなかったのだ。
召喚直後のこいつは全力を出すことができていなかった。
このタイミングで対処出来ていなければ力を取り戻し災厄を振りまいていただろうと予想できた。
だが、そんな異常事態だったのに俺達への補填は少なかった。ふざけんな。


「 まぁ、いいコネクションが出来たとでも思うかね。 あー、損した。 」
「 構わないだろう、お互い生き残ることが出来たんだ。それで良しとしようじゃないか。
  流石に私の全力には耐え切れなかったので、ハルバードを失ったがな。 」
「 いやいやいや、俺大損だぜ!? お前はハルバードぶっ壊れただけだろ! 
  というか毎回武器を変えてるくらいだったら武器代も大したことねぇんじゃねぇの!? 」
「 まて、私は武器の質には拘るぞ?あれは相応の業物だ。 惜しい得物を無くした。 」
「 いやマジかよ。毎回そんな金使ってんのか。かんっぜんに無駄だろ!
  武器コロコロ変えるよりもっとマシなやりかた有るだろ!マジックアイテム買えよ! 」
「 武芸百般を目指しているといっただろう。この身は常在戦場。
  何を使うことになるかは分からん。使えるものは何でも使おう。
  ただ、その瞬間の事を考えると使ったことがないものを使うということは避けたくてな。」
「 それでももっとスマートなやり方があるだろうに。何か他にコダワリでもあるんだろ? 」
「 なに、私は一つの得物に執着したことはないしな。まぁそうだな。一つ言うなら。 」


スノウは全くためらわずに俺に言葉を続けた。





「 相棒だけは変えたことは無い。 」






誇らしげに語ったスノウの笑みが恥ずかしくて俺は赤面してしまった。

「 何顔を赤くしてるんだ馬鹿者。 」
俺の反応を見て、スノウは意地悪に俺をからかって笑った。
15/06/24 19:58更新 / うぃすきー

■作者メッセージ
「 しかし、思うがクリフもお人好しだな。 」
「 あ?何言ってんだ。 」
「 わざわざそんな高価なものを大枚叩いて買ってる時点で私を見捨てられないんじゃないか。 」
「 ・・・ 言ってろ。 」

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