水も滴る良いワンコ系メイド

「ご主人さま! お掃除終わりました!」

持ち帰りの仕事をしていると、ばたーんとドアを開けてウチのキキーモラが部屋に入ってきた。手にはモップ、腰にはハタキ。髪には埃が積もっている。

「ああ、もう。ほら」

「わふっ!? あ、えっと」

「埃。付いてたぞ」

「わふぅ。ありがとうございます、ご主人さま〜」

これがウチのメイド。これがウチのキキーモラだ。どうだい。可愛いだろう。可愛いけど、淑女かって言われたらちょっと悩む。掃除も含めて家事全般は丁寧だし上手なんだけど、どこかしらが抜けている。

キキーモラはウルフ属、というのは周知の事実だ。ところが、ウルフ属ってのは狼系だけじゃなくて犬系も含まれている。なお、ウチのキキーモラはふかふかのたれ耳系だ。どう見ても狼には見えない。

つまり、ウチのキキーモラは。

「次は! 次は何をしましょうか! ご主人さまっ」

ワンコ系メイドなのだ。


キキーモラは今日も元気だ。

洗濯機に洗い物を入れて、洗剤もきっちり測って入れて、スイッチオン。

料理の下ごしらえをして、窓を拭いて、拭き終わった頃に洗濯機から洗い物を取り出して天日に干す。

実に見事な流れで仕事を片付けていく。出来るメイドだ。一つ付け加えるなら、窓ふきをした雑巾を洗いもせずに干しているという事だ。この、ドジワンコ。

「わふっ!?」

あ、気が付いた。慌てて雑巾に触れていた洗濯物も一緒に洗濯機に放り込んだ。雑巾と一緒に。

「洗剤洗剤!」

まぁ窓は毎日拭いているし雑巾もそこまで汚れていないから、一緒でもいいか。

ウチのキキーモラはポカミスはするけどやばいミスはしないのだ。


「わふぅ〜」

ウチのワンコはキキーモラだ。

違った。

ウチのキキーモラはワンコだ。

具体的には大型犬だ。身長2m弱、体重は秘密。恥ずかしがり屋なのかずぼらなのか、前髪は長く大抵目が隠れている。毛の色は全体的に茶色で耳の先や尻尾の先が黒い。毛並みはふかふか。尻尾はもふもふ。羽毛に似た毛並み部分は、鳥の胸毛の様に柔らかくふわふわしている。どこを見てとってもふわふわふかふかだ。

靴の代わりに硬質の蹄に似た爪があるんだけど、ローファーの様に平らでのっぺりとしている。時々転んでいるのは歩きづらさなのか本人のドジなのか、どっちなんだろう。

服装は肌の露出を避けるタイプで、メイド服もクラシック。だから、夏の暑い時期のキキーモラはどこのご家庭でも暑さで参りやすいという。ウチのキキーモラもふかふか系だからなおのこと暑さに弱い。


「プールに行くぞ」

「わふ〜♪」

だから、夏の暑い時期は避暑地に行くか、プールに誘うのもまた定番となる。




車を走らせること30分ほど。屋内系のレジャープールにやって来た。

「相変わらずデカいなぁ」

魔物娘が世に姿を現してから、早3年。本当に色々な事があった。その色々の中には当然というかなんというか、生活に密着する部分にも色々あった。その一例として、レジャーにも大きな影響があった。ウィンディーネが水の管理をしているレジャープールが増えたのだ。

今日やってきたレジャープールは去年、開店記念で遊びに来た事があった。

やばかった。

ウチのキキーモラはここに来たことが無いみたいだったので、せっかくだから夏を楽しもうと遊びに誘ったのだ。

「どこにいく?」

「どこ行きましょうかっ? あれなんてどうですかっ? それともあっちですかっ? あのくるくるまわるやつにしますかっ?」

もう尻尾ブンブンだ。全力で尻尾を振って喜んでいる。ワンコだ。相変わらずワンコだ。

「じゃあ目玉のレジャーは後回しで、近い順から回っていこうか」

「わふっ! あ、えっと、はいっ」

ほんと、頭なでなでしたくなるワンコ具合だ。

手、届かないんだけどね。俺、身長150p弱だからさ。背伸びしないと届かないんだ。


【ウォーターメリーゴーランド】

「ふわ〜。あそこ、見てください〜。気持ちよさそ〜にぷかぷか〜ってします〜」

「シースライムは浮かんでるほうが楽なのか?」

2階部分にコースを作ってあるウォーターメリーゴーランドは、ある意味で最初に行くべきプールだ。馬や羊などの動物系、馬車に飛行機の乗り物系も含めって様々な浮き輪に乗り、プールエリアの外周をぐるっと回る。どのプールがいいか悩んだ人は、まずこのウォーターメリーゴーランドに行けばいい。そうすれば、どこにどんなプールがあるのかをのんびりと眺めることが出来る。

ゆらゆら浮かびながら水流に任せて景色を楽しむ。ナイトプールだとライトアップもあってデートなら外せないこと間違いなし、とテレビで宣伝していた。

たまに浮き輪を使わない魔物娘が見かけるが、あれはライフセイバー的な人なんだろうか。それともぷかぷかが楽しいんだろうか。

「次はあれに乗ろうか」

「そうですね〜」

ぱたん、ぱたんと、落ち着きながらも楽しんでいる音が聞こえる。次のプールが決まったので、のんびり流れながら景色を楽しむ。


【シューティングシャーク】


これは10人乗りのクジラボートに乗って楽しむプールだ。潮吹きする代わりに水を噴き出している。次々と溢れる水を活用しながら、次々と現れるマーシャークを水鉄砲で打つのだ。

「わふっ、わふっ、わぷぅっ!?」

「うわ、めちゃはやい、けぷ!」

円形のプールに浮かぶクジラボートが沈むまでの間にマーシャークたちを水鉄砲で倒せばクリア。水をかき出す桶があるので、射撃に専念するか排水役を増やすかは、メンバーの作戦次第だ。

「シャシャッ! 甘いシャーク!」

「わふっ! しゃしゃー、わふっ」

「いや、真似しなくていいから」

ボートを中心にぐるぐる回るマーシャークのプレッシャーと水鉄砲に耐えながら撃ち続ける。

残念ながら初回は失敗したけど、2回目に挑戦した時はクリアできた。大量の水をかき出してマーシャークに水を叩きつけるオーガと、無駄に命中率が高い男性のペアのお陰で、ほとんど何もしない内に終わってしまったのだ。

「あの人たち強かったなぁ」

「わふぅ〜。頑張ります〜」

なお、水で濡れてもふもふ毛皮羽毛はぺしゃんとなっている、わけじゃない。どうやら水鳥的な羽毛の様で、見事に撥水している。浮き輪が無くてもぷかぷか浮いてそうだなぁ。


【マリンニンジャ】


「よっ、ほっ、ほっと」

「わふっ、わふ、わふぅっ」

このプールは、プールと言いながら泳がない。いや、今まで体験したプールはどれも泳いでないんだけど。

ぷかぷか浮いている丸太浮き輪の上を落ちないように進んだり、降り注ぐシャワーを浴びながらターザンの様にロープで移動したり、流れる水に逆らって急斜面を上ったりする。

落ちても下はプールだし、一番高い場所でも2m程だからよほどの不注意が無い限り溺れたり怪我はしないだろう。

一応、アトラクションを進むときはマーメイドのライフセイバーさんが付き添ってくれるし、パニックになってもウィンディーネのお陰で溺れないようになっている。

「よし、ゴール!」

「わふ〜〜!」

プールに浮かぶドーナツ状の浮き輪がゴールなので、穴の中目掛けて二人で飛び込んだ。

なお、コース中の映像は1枚までなら無料で写真を現像してくれる。

ゴールに飛び込んだ時のキキーモラは柔らかい胸がちょっとすごい事になっていたので、その写真を貰うことにした。

「わふぅぅぅぅ」

キキーモラは照れながら、抗議の代わりに尻尾でぺしぺし叩いてきたが無視した。


【ロングプール】


このプールは実にシンプルだ。

300mの直線コースを泳ぐだけ。

でも人気がある。

「わふ〜〜〜〜!」

「負けるかぁあああ!!」

それは、シービショップの加護を受けて泳ぎが上手くなるからだ。正確には、足を動かさなくても人魚たちが泳ぐようなスピードで泳げるのだ。

結構なスピードが出るのでぶつかって怪我をしない様に、仕切られた直線コースを泳ぐだけなんだけど、爽快感は抜群だ。

足の動きを調整してやれば、イルカの様に水上へ飛ぶことが出来る。そんなことをしなくても延々とスピードを上げ続けるだけでも楽しい。

そうして気づけば単調なはずの直線コースをあっと言う間に泳ぎ終わってしまう。

「もう一回行こうか」

「わふっ!」

キキーモラにも大好評だったようで、尻尾ぶんぶんだ。

「あ」

「わふ」

次のお客さんはワームだったようで、とんでもないスピードで巨体が進んで、衝突防止のクッションに突撃していた。

「おおっ」

「わふっ」

岸壁にぶつかった波の様に水が飛び散って、こちらに掛かった。

「まぁ、こういうのも一つの楽しみだな」

「そうですねっ」




合間に食事をとって休憩し、1日で全部回るのは不可能なので最後に1番人気のすごいプールに行こうか。


【ウルトラウォータージェットコースター】

何がウルトラかって?

プールエリアに来たらまず最初に目につくのが、このプールなのだ。

具体的には、異常に長い体を持った蛇の様に水が浮いている。

この『絶対落ちない流れる水流』が、ウルトラウォータージェットコースターなのだ!

この水流に入る前に、レベル1・レベル2・レベル3を選択する必要がある。そして最初は必ず初心者から始めないといけない。なぜならば。

「あれは三半規管弱い人には無理だからなぁ」

「そうですね〜」

昇ったり降りたり急カーブを曲がったりするスタンダードなのがレベル1、レベル2だとスピードアップする。そしてレベル3だと、捻りが入るのだ。水の加護を受けて落ちないため、ぐるんぐるんと回転するのだ。あれはやばい。

「レベル1からでいいよな」

「はい〜」

悲鳴を上げながらロングヘアのラミアさんが旦那か恋人の男性に抱き着いてレベル3を楽しんでいる。長い髪と長い蛇身を後方に流して変態機動を描く様は、あれだけで映像に使えそうだ。

「よし、俺らの番だな」

「いきましょうっ」


キキーモラは思いのほか好評だったので、結局レベル2にも挑戦した。正直、抱き着いてくるキキーモラの包容力がすごかったので、2倍楽しめた。




家に帰る頃にはすっかり夕方になっていた。

夏の日は暮れるのが遅く、まだ明るいので時間感覚がズレてしまう。夕日を待っていたら完全に6時以降になっちゃうからなぁ。

「ご主人さまっ、ご主人さまっ」

助手席に座るキキーモラが楽しそうに、嬉しそうに尻尾を振っている。

「楽しかったか?」

「はいっ、はいっ」

本当にうれしそうだ。ただ、あれ。なにかこう、違和感というかなんというか。

「帰ったら、いっぱいいっぱいシましょうっ」

あ、これ、テンション上がり過ぎて発情してるわ。運転中だから我慢してるけど、赤信号で止まったら顔とかめっちゃ舐めてきそうな表情だ。今の表情を例えるなら、『待て』だ。

「いっぱいいっぱい、いっぱいシましょうご主人さまっ」

「はいはい」

頭を撫でてやると尻尾の動きが激しくなった。今日はピザの配達を頼むかなぁ。

「あ、あかしんご、おぷっ」

ブレーキを踏んで停止した直後、思い切りキスをされた。舐めてるのかディープキスなのか分からないぐらい、べろべろぺろぺろしてくる。

「はっはっはっ」

「ステイ。家まで『待て』だ」

「きゅぅううぅぅん」

ウチのキキーモラはワンコだ。


だが時に野生の獣のようになる。



それもまた、彼女の良い所だと、俺は思う。

最近プール行ってないなぁ。

魔物娘と楽しむプールは、きっと気持ちいいと思う。


高確率でえちえちになるけど、仕方ないよね!(_・

22/08/13 12:35 るーじ

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