読切小説
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ふて腐れドラゴン
私はドラゴンだ。
いや、ドラゴンだった。
勇猛果敢に迫りくる戦士が好きで。
想い人を救うべく死力を尽くす若者が好きで。
名誉のために命を懸ける愚か者もちょっとだけ好きで。
人間たちからいろいろなものを奪い去り、洞窟の奥で待ち構えて、相手をしてきた。
強き者には称賛の言葉を与える代わりに財宝や求めていた人物を明け渡す。
弱き者には生存を与えて、次の機会がある様にと僅かばかりの金貨をくれてやった。
ドラゴンが強き者を求めるのは必然だった。
あるいは、どこかで聞いた同類の、強き人間と共に旅をするという物語に憧れていたのかもしれない。

けれど私は真に強き者に出会うことなく、病に倒れた。
気分転換に凍れる海でバカ騒ぎをしたのが悪かったのだろうか。
途中から体の感覚がなくなった。
やはり火山に比べると氷は冷たかった。
熱さが足りなかったのだ。
気づけば私は古巣に帰ってきていた。
気づけば私は、ドロドロの体になっていた。
ぬるぬるになっていたので、何度も洞窟の中で転んでしまった。
ブレスも変わっていたので、うっかり死なせてしまう事も増えた。
あと気のせいか、うっかりすることが増えていた。
たぶん気のせいだ。




魔物には魔王が居るように、竜には竜王が居る、かもしれない。
ドラゴンは魔王の影響をあまり受けないため、本当の影響は龍王から受けているのかもしれないと思ったのだ。
けれど、けれども。
新しい魔王の影響はドラゴンにも大きな変化を与えた。
私の体は縮んでしまった。
あとヌルヌルがすごく減った。
でもうっかり転ぶことが多いので、相変わらず寝そべって過ごしている。

身体が縮んでからは、人間への接し方が変わった。
女が相手なら動けなくしてからひたすら舐めるようになった。
身体がドロドロになってから私の唾液は量が増えた。
獲物を前にすると口から唾液が溢れ出し、獲物はドロドロになるのだ。
身体が縮んでからもそれは同じで、人間の女は私が舐め始める頃にはドロドロになっている。
人間があげる悲鳴は何時聞いても同じだ。
強いて言うなら、甲高くなったくらいだ。
胸や股を舐めると声音が上がる。
口の中を蹂躙すると力が抜ける。
けれど食欲がわかないので、適当に遊んだら洞窟の外に放り出す。

人間の男がやってきたら、ちょっとやる気を出す。
足音が聞こえてきたら大きく息を吸い込み、姿が見えるちょっと前にブレスを吐き出す。
身動きが取れなくなったら鎧を剥いで、全身を舐めていく。
女があげる声に比べると低いけど、男も悲鳴を上げる。
これも昔と変わらない。
瀕死になっても最後の悪あがきをしようと武器を構える。
これも変わらない。
ただ、私の姿が縮んでからは、最後の悪あがきに使う武器が変わった。
舐めてやるとビクリを動き、不意打ちで何かを発射するのだ。
新しい毒だ。
美味しい毒だ。
舐めて、咥えて、吸って。
満足したら伸し掛かる。

身体が縮んだ以外にも変化があったみたいで、私の股に口が出来た。
そいつで最後の悪あがきを噛み砕くのだ。
これが気持ちいい。
あと美味しい。
べろべろと舐めてドロドロにしながら、下の口で噛んでやる。
勇猛な人間も弱い人間も、何時だって反撃してくる。
美味しい反撃を私はいつも通り受け止め、飲み干す。
満足したら洞窟の外に放り出す。
私はドラゴンだ。
もっと強い奴が来るまで、やることは変わらない。
あ、まだちょっと食べ足りないからお代わりをしよう。
ひと舐めしたら、ほら、また反撃の武器を構えてきた。
美味しい毒の準備が出来たなら、反撃の意志もろとも食べてやろう。
うん、美味しい。


尻尾の生えた女と若い男の二人組が来た。
尻尾の生えた女は、人間じゃない。
魔物みたいだ。
りざあどまんだったかな。
ドラゴンみたいだけど全然ドラゴンじゃないやつ。
その二人は、私のブレスの直撃を受けて倒れた。
でも困った。
りざあどまんが男を襲っていた。
私はドラゴンだ。
ほこりたかいのだ。
他人の獲物を取らないのだ。
だから私はじぃーっと眺めるだけにした。
りざあどまんがたまにこちらを見て、なんかにらんでくるけど気にしない。
私は他人の獲物を取らないのだ。
ほこりたかいのだ。
でもお腹がすくので下の口からも上の口からもよだれがあふれる。
でも大丈夫だ。
私はほこりたかいのだ。

りざあどまん以外にもいろんな魔物が見かけるようになった。
若い男とごぶりん3名。
わちゃわちゃして、一人の男を3人がかりで食べていた。
昔からごぶりんは命知らずの突撃をするけど、あんなちっこい体でも数が多いと人間に勝てる。
ちっこいから直ぐにやられるけど、他のごぶりんが追い打ちをかける。
たまにこっちをみて笑うから、がぶっとしてやる。
がぶっとして舐めてやると、簡単にごぶりんは倒れる。
傷がつかないようにがぶっとしているから死んでないし問題ない。
3名ともがぶっとして舐めたら力尽きたので、まとめて洞窟の外に放り出す。
私はほこりたかいから、他人の獲物は取らないのだ。
お腹が空いて両方の口から唾液があふれるけど、他人の獲物は取らないのだ。

えるふと男の二人組が来た。
えるふは難しい事ばかり言うし、弓矢で攻撃してくる面倒な奴らだ。
森から出ていったえるふは少し態度が柔らかいらしいけど、肉食じゃなかったはず。
でもこのえるふは、肉食系だ。
魔物みたいに笑って人間を襲っている。
新しい魔王はえるふも魔物にしたのか。
じぃーっと見てたら怒られた。
理不尽だ。
ここは私の巣だ、と言うとひとしきり男を食べた後、勝手に男を背負って出ていった。
あと、小さい声でお礼を言ってきた。
何でお礼を言ってきたんだろう。
本当に、えりふは難しい事しか言わない。


時々食べて、時々眺めて。
ちっこい人間も、髭の生えた人間も、食べて舐めて食べて舐めて。
私は満足しながらも、不満だった。
強い人間が来ない。
みんな弱っちい。
新しく来た子供も、私のブレスの前では簡単に倒れた。
丁寧に鎧を壊して、どろどろに舐める。
美味しい毒で反撃する構えになったら、舐めて食べて舐めて食べて。
子供の声は女みたいに甲高くて、とても甘い。
悲鳴を上げる顔を見るだけで唾液が止まらない。
子供がフニフニと柔らかいから面白い。
昔は簡単に壊れて死にかけるから扱いが面倒だったけど、体が縮んでからは手加減が上手くなった。
鋭い爪も意識するだけで丸くなり、子供の肌を傷つけないように変わる。
便利だ!
甘く噛んでやると子供が悲鳴を上げる。
どろどろに舐めてやると子供が悲鳴を上げる。
前足で撫でてやると子供が悲鳴を上げる。
あむ〜っとひと呑みすると子供が悲鳴を上げる。
もちろん、丸呑みはしてない。
身体が縮んでからは、美味しい毒を持つ武器を飲み込むのが精いっぱいだ。
子供の武器は大人に比べると小さい。
べろりと舐めたら埋まりそうだけど、それは臨戦態勢に入る前の話。
さすがに武器を構えたら舌では埋まらない。
だから丸呑みするのだ。

この子供は反応が面白いから、洞窟の外には出さないで奥に持ち帰る。
舐めて食べて舐めて食べて。
元気がなくなったら口に唾液を注いでやると、元気になる。
舐めて食べて舐めて食べて。
抱き心地が良いから、寝る時も一緒だ。
舐めて食べて舐めて食べて。


ある時、寝ている私に襲い掛かる存在に気づいた。
ここ最近はずっと食べてばかりいるから、眠りが深いし充たされている。
胸を舐められる。
胸に小さな手が埋め込まれる。
襲われるたびに唾液が止まらない。
けれど不快じゃないから、されるがままにする。
美味しい毒が腹の中に注がれる。
ささやかな仕返しで尻尾の先から垂れる毒で襲撃者をなぞると、甲高い悲鳴を上げた。
ふふふ、私は強いのだ。
その程度の攻撃では全く通じないのだ。
幾らでも攻撃してくるといい。
あ、美味しい。
もっとほしい。

逃がしたくないなぁ。
美味しいなぁ。
もっと欲しいなぁ。

襲撃者を小さな包むようにドロドロがあふれる翼で包み込む。
襲撃者の柔らかい足をドロドロがあふれる尻尾で緩く縛る。
襲撃者の細い腰を柔らかくなった後ろ足で拘束する。
襲撃者の細い肩を柔らかくなった前足で拘束する。
ふふふ、私は強いのだ。
こうして逃げ道をなくして一心不乱に襲ってくる人間を相手にしても問題ないのだ。
さぁ来るがいい、まだまだ弱い人間よ。
お前が強くなるまで、私が相手をしてやる。
絶対に逃がさないぞ。
逃がしてなんかやらない。
他の奴になんかやらない。








































他の奴のところに行ったら泣くからな。
絶対に泣いて追いかけるからな!
分かったな、人間!
21/02/01 14:40更新 / るーじ

■作者メッセージ
「ドラゴンは誇り高いのだ!」
「(ただの甘えん坊に見えるけど、言っちゃダメなんだろうなぁ)」
「もっと美味しい毒で反撃してこい!」
「(あと、絶対勘違いしてるよね。美味しい毒、って)」



一応女性を相手にするから「百合」を入れましたけど、こんなので良いのかな(_’

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