連載小説
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完結篇
 縁側に腰掛けて満開となっている桜を見ていた。

 今日は雲ひとつない晴れ渡った春空、きれいだな、と思う。

 冬が往き、今年も春が訪れた。
 僕自身は変わらない、いや、昨年の冬が盛りの頃まで、抜け殻のように日々を過ごしていた時と比べると大分変ったといえば変わった

 年が変わって、冬が終わりかけたころ、ちかくの町長がこの家を訪れた。
 なんでも町に小学校ができるのだが、教師が足りず、僕に教師をやってほしい、と頼まれ、その小学校で教師をやっている。

 ちなみに教師は僕一人、長い療養生活で体力が落ちていたため、最初の内は色々と子供たちにも迷惑をかけたが、今では体力も戻って、子供たちに迷惑をかけることも少なくなっている。

 落ち込んで、抜け殻のようになっている暇はなく、今ではあの頃が懐かしくすら感じる。

 ちなみに今日は平日だが、学校はお休みだ

 教え子たちの8割は家が農家のため、一家総出で田植えをする、その為に田植え休みで2日ほどの休みがある。
 ちなみに僕も昨日僕の家の近くに田を持つ、教え子の家を手伝おうとしたのだが、逆に色々と迷惑をかけてしまい、今日は来なくていい、いや、来るな、と口には出されていないが、雰囲気で分かる。

 まあ、今日は予定があるため、好都合だ。
 三日前、御舟さんが様子を見に来た(呪いが解けたから、僕はなるべくこの家のことを自分でやりたいと伝えたが、あまりにも不安ということで月に一度御舟さんが様子を見に来るのだ)、その際、文をもらった。それは二之助からの文で、なんでもに近くに来る用事があるからその帰りに寄る、ということが書いてあった。

 京子もつれていくから菓子でも用意しておけ、そう書かれていた。

 ちなみに、二之助には全て、話してある。

 僕が、梅雨のある日にカラステングという妖怪に会ったこと、その女性に呪術を教えていたこと
 そして、その女性、千鳥さんと夫婦になったこと、全てを話した。

 二之助は僕が頂いた手紙のことも知っている。
 つまり、僕を救ってくれたのも、千鳥さんだということを知っているのだ。

 病が治ったから本家を継げ、とは言われなかった。僕も家督相続については二之助に任せている。
 相続に関しては、呪いを受けた後に決めた取り決め、そのまま。つまり、僕はこの家をもらえるだけ、だが、十分すぎる。

 それだけで良かったが、最近手紙などでやり取りする時、見合い話や縁談を持ってくるようになった。

 まぁ、あいつからしてみたら、早く千鳥さんのことを忘れ結婚して、幸せな家庭というやつを築いてもらいたいのだろうが、どうも、それは気が乗らないし、千鳥さんとの約束ということで、今年の春まではやめてくれ、と言ってあるが、今日来る時も縁談と見合い話を持ってくるだろう

 まぁ、最近では、今日もそうだが、二之助が来るときに京子ちゃんを連れてくる。生まれたばかりの時から京子ちゃんを知っているので、京子ちゃんの成長を見ていると、微笑ましく感じる。
 だが、そのたびに二之助が、どうだ、子供もいいものだろう、などと言ってくるので、早く結婚して子供をつくれということだが、その手には乗らない、と言い返していたが、最近では子供を持つのもいいかもな…と思っている。

 いつもの癖で、懐に手をやり、煙草を取り出そうとしたが煙草をやめたことを思い出した。

 あの日以降、僕は幾つかの誓いを立てた。

 一つ、自分のことは自分で行う
 一つ、煙草は吸わない
 一つ、呪術は使用しない

 とまぁ、こんなところで、他にもある
 禁煙はそのうちの一つ、だが、ついつい癖でかなり経つのに、いまだに煙草を吸ってしまいそうになる。

 しかたなく、隣に置いてある皿の茶菓子のせんべいを一枚かじる。

 のどかだ、と思った。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 「おじちゃん」

 その声で、眼を覚ました
 どうやらあのまま寝てしまったらしい、手には食べかけのせんべいを持ったまま、寝ていた。

 頭をかきながら、声をした方を見る。

 そこには、おかっぱ頭の、まだ身長は僕の腰ぐらいの高さしかない、姪の京子がいた。

 「や、京子ちゃんまた大きくなったね」

 皿のせんべいを一枚渡す

 いつもだったら、うれしそうにせんべいを食べるのだが、今日はすこし違って、僕の服の袖を無言で引っ張る。

 どうしたの?と聞いても黙ったままだ

 何だろう?

 袖をひっぱられながら、ついていく

 連いていくと、今が満開の桜の下に二之助がいた。

 桜の木の下に、長椅子が置いてあった。
 わざわざこのために運んだのだろう、長椅子に腰掛け、お茶を二之助は飲んでいた

 「元気そうだね、兄さん」

 京子ちゃんに遊んでこい、と二之助が言うと、京子ちゃんはうれしそうに頷いて、駆けて行った。まぁ、僕たちがいるのは小高い丘の上だから、どこにいようとも、よほど離れていない限り、すぐに見つかるのだが

 隣に腰掛け、盆の上に置いてあったお茶をすすると、二之助が話を始める。
 まぁ、最初は当たり障りのない天気の話、そのあとは、庭で満開となっている桜、といった風に話は変わっていく。

 「これ」

 そういって、二之助は、二つ折りの、しかし背表紙と表紙しかない二つ折りのものを渡す

 開かずに、そのまま返す。
 
 「…兄さん、それなんだか見ないで返さないでよ」

 「どうせ、見合いか縁談の話でしょうが。この問答何回繰り返せばいいの?二之助」

 「兄さん、今日はただの見合い話じゃないんだよ。なんと帝都で流行りというフォト、フォト?フォト…とにかく、フォトなんとかっていうそっくりそのまま絵にしてしまう、すごい機械を使って、とったフォトなんとかなんだから、ここにいて相手の顔が分かっちゃう優れモノなんだよ」

 フォトグラフィだよ、フォトグラフィ
 ちなみに帝都で流行ったのは7年前、大陸戦争で出征していく兵士の家族が、我が子の肖像画を描いている時間がなく、フォトグラフィに頼ったのが流行の きっかけだと教えてあげようかな?
 きっと嫌な顔をするに決まっている

 返したが、あまりにしつこく二之助はフォトを見るだけでいいから、とすら言う

 おかしいな、こんな奴だったろうか?二之助は、一度相手の意思が固く、無理だと悟るとすぐに退く、そんな性格だったのに

 僕のことが心配なのだろう、二之助なりに心配をしてくれているのかもしれない

 そういえば、二之助が本家を継ぐと決まった時、支えてくれたのが奥さんの由美さんだと聞いた。
 でも、由美さんは体を壊してしまい、寝込んだが、二之助が看病して治り、今では家を切り盛りしているのは由美さんだ。

 ま、誰か大切な人ができるということはいいことだ、それを二之助は知っているし、千鳥さんからも教えられた。
 僕は自分自身について変わりない、と思っているが、二之助からしたら、僕は変ってしまったのかもしれない
 二之助なりの励まし、と理解した。

 フォトグラフィだけでも見よう

 そう思って、それを開いて、見ると、一枚のフォトフラフィが貼ってあり、その中に映っている女性を見た時、我が目を疑った。
 思わず立ち上がってしまった。

 じっくりとフォトグラフィを見た後、隣に座る二之助を見ると、にやにやとした笑みを、一本とった、という笑みを浮かべていた。

 「…実は、その人、今日来ているよ」

 そう言って、二之助は立ち上がると、それじゃ、あとはごゆっくり、と言って庭で遊んでいた京子ちゃんを連れて家の中に入っていく

 直後、突風が吹いた

 桜の花びらが散り、風に乗って舞いを踊っていた。
 その舞いに黒いものが混じって、風が黒と桜色の舞いを踊る。

 桜色のモノは桜の花びら、
 そして黒いモノは黒い羽だった、とても美しい羽だった。

 後ろから僕を黒い翼が包み込む

 何と言うべきなのか、僕が何と言ったらいいのか分からなかった

 だからそのまま、無言で後ろを振り返る、翼が僕を強く包み込んでいたわけじゃないから、体ごと、振り返るのは簡単だった

 そこには、白い着物を着た、腰まである髪をきちんと束ね、簪でとめた、年の頃は20ほどの、しかし、顔の輪郭やその笑顔を良く知っているカラステングの、少女というよりも女性という表現があっている、女性がそこにいた。
 初めて会ったカラステングの女性だが、間違えるはずがない、彼女の笑顔を、間違えるはずがない


 「おかえりなさい」


 その女性は、千鳥さんはにっこりと笑う


 「ただいま帰りました」



 僕が惚れた笑顔を見ると、我慢していた涙をおさえることができず、でも、泣き顔を見せてはいけない、そう思ったが、涙を止めることはできず、泣いた、千鳥さんを抱きしめ、泣いた。

 そんな僕を千鳥さんは抱きしめてくれた。互いに言葉はいらなかった。

 僕が手を離すと、それは、フォトグラフィの貼ってあるそれは、地面に落ち、開く。

 フォトグラフィには、ほほ笑んでいる千鳥さんが映っていた。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 「ごめんなさい、千鳥さん、僕が、僕がいけなかったんです」

 「いえ、謝らなければいけないのは、私の方です。いきなりいなくなってしまって、それにひどいことを言ってしまいました。ごめんなさい」

 お互いに一歩も引きそうにない、と感じた。
 変なところでこの人も意思が強いからな、と、名案が浮かぶ

 「じゃあ、お互い、それで無しにしましょうか、それで千鳥さんは僕を許して下さい、僕も千鳥さんを許しますので」

 はい、と頷き、千鳥さんは笑った。

 今日の千鳥さんはよく笑うな
 でも、何よりも、その笑顔を見ることでうれしくなった。


 長椅子に腰かけてお互いに落ち着くまで待つことにした。

 実は、その、千鳥さんを抱きしめた時から、一つ気になることがあった、それは、なんというか言いづらいが、

 「あの、千鳥さんその、お腹は?」

 千鳥さんの腹が膨れていた。つまり、

 「ええ、一之助さんの赤ちゃんですよ」

 にっこりと笑って、うれしそうに言う

 「この子が助けてくれたんです」

 そう言って、千鳥さんはすこし出ている腹をさする

 「実は、神様にお願いした時、できないと言われたんです。というのも、私のおなかにはこの子がいましたから、私の命を差しだせば、この子の命も失ってしまいますから。一つの命を救うのに、二つの命はいらない、そういわれたんです」

 どういっていいものか、とりあえず、今日はいいことが多い日だな、と思う

 「じゃあ、名前考えないといけないですね」

 はい、と千鳥さんは頷いた

 今日は幸せが多い日だ、一生分の正月が来たみたいだと思ったが、ふと、疑問が浮かんだ。

 「じゃあ、千鳥さんは何を対価に神様に支払ったんですか?」

 少しだけ、千鳥さんは困ったように笑う
 しまった、聞いてはいけないことだったらしい

 「それは、私をカラステングらしめているものですよ」

 続ける

 「カラステングらしめているのは、カラステングの最大の特徴は羽じゃなくて、神通力の才なんですが、これは本来命の次に大事とされているもので、その神通力の才を差し上げました。
 ですが、それが願いを叶える分なんです、それだけでは一之助さんの呪いが治っても、寿命が尽きるだけ、死んでしまうということで、私の残りの寿命を半分差し上げました
 本当はすぐに帰りたかったのですが、神様はお腹の子も心配してくださって、北の冬は厳しく雪解けまでここに留まるように、といってくださって、こんなに遅くなってしまいました。そのあと、春になってから、とりあえず京子ちゃんの件で二之助さんのところに謝りによったのですが、その、ちょっとこういう方がいいと言われまして…」

 あまりのことに、言葉がなかった。

 「そういえば寿命が半分になったから、僅かの間で外見が人間の年齢と年相当になっちゃったんでけど、どうですかね?」

 千鳥さんは僕に顔を近づける、いきなり変わってしまって、不安なのだろう、だが、
 「きれいですよ、千鳥さんは、ずっときれいです」

 そう言った。

 一つの疑問が解決した。
 
 確か、カラステングは人間よりも長寿だ、前に22と聞いたときは驚いた。どう見ても千鳥さんは16か17の少女だったからだが、寿命に比例して、成長もゆるやかなのだと思うし、事実だろうが、短期間の間に、年相当になった疑問があった。
 だけど、僕の所為で寿命が縮んでしまったことは事実、それに神通力の才まで

 「すみません、僕のために、神通力の才や助かった命まで削ってしまって…」

 「そうですよ、カラステングは200年生きるのに、残りの180年が半分になってしまったから、あと90年しか生きられないのですよ」

 少し、怒ったようにいって、笑った。

 「だから、この子と私を、精一杯幸せにしてください。約束ですよ、一之助さん」

 返事は決まっている。

 「はい」

 それを聞いた、千鳥さんの笑顔がとてもうれしそうだった。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 「…………というわけで、その、千鳥さんと結婚することにしたんだが」

 庭での千鳥さんと僕の間で交わした約束を二之助に話した。二之助は胡坐をかいて、お茶を飲みながら、その話を聞いていた。

 ここは大部屋で、座卓を挟んで僕と二之助がいるだけだ。

 千鳥さんは庭で京子ちゃんと遊んでいる。

 あのあと、二之助に報告がある、と言い、縁側で京子ちゃんと座っていた二之助の所に行き、二人だけの話をしよう、と提案し、千鳥さんに京子ちゃんを預け、大部屋で話すことにした。

 「いいよ、結婚したら」

 軽い調子で、二之助は答えた。

 「いや、しかし、そのお前はいいの?僕が家督を継がなければ京子ちゃんや由美さんにも迷惑はかからなかったし、それに…」

 「だから、今回のことで無しにしようってことだよ」

 二之助はせんべいをかじりながら答える。

 「兄さんがそんな性格だってこと、俺が知らないはずがないでしょ?こう見えても人の性格や人事の才能は3年間で結構磨いたんだよ。それに何年、兄さんの弟やってると思っているの?」

 お茶をすすりながら、顔をまっすぐに見る

 「本当なら、兄さんに千鳥さん、すぐに会わせたかったんだよ?
 4日前に千鳥さんが京子の件で謝りに来てくれてね、ほら、この家より屋敷の方が北にあるでしょ?だからこっちが先になっちゃったらしいんだけど、兄さんにただ会うのじゃもったいないと思ってね、だから千鳥さんを説得して無理に引きとめたんだよ、ちょっと協力してもらってね。
 兄さんのことだからか簡単には自分から結婚をする、なんて言わないだろうから、少しいじわるさせてもらいました。すぐに千鳥さんにお会いさせなかったんだから、お互い様、これでお互い恨みはなし」

 二之助は、意地悪といったが、これは意地悪じゃない、きっと僕の性格を知っているから、わざとこうしたのだろう
 二之助が眩しかった。そうか、こいつも立派な一家の大黒柱になったのだと思った。

 「さて、そうときまれば式の準備だね?親戚一同にも声をかけなくちゃ、盛大に行こう盛大に、とりあえず、本家の屋敷でする?それともこの家?料理はどこがいいかな…いや、その前に…」

 ぶつぶつと一人で言い始めた。こいつは昔から変わらない、人一倍こういうことが好きなのだ、たぶん千鳥さんを素直に会わせなかったのも、僕の幸せになる権利が云々という以前にやりたかっただけだろう

 そう思っていると、そうだ、千鳥さんを呼ばないと、と言って千鳥さんを呼びに行ってしまった。

 「まて、二之助!!だから、そういうのは僕がやりたいんだって!!」

 だが、足がしびれて立つことに苦労する。
 あ、あいつ胡坐かいていたのはこういうことか、僕が正座することを見越してたのか

 僕の足のしびれが歩けるほどまでに取れると、僕も二之助の後を追いかける

 庭にでると、二之助の姿も京子ちゃんの姿もなかった。

 ただ、桜の木の下に千鳥さんが立って、桜を見ていた。

 「あの、二之助は?」

 少し困ったようにいう

 「さっきお帰りになられました。なんでも急用ができたからって、それと、これを渡してくれと頼まれました」

 二つ折りの紙を渡され、開くとこう書かれていた。

 『今日は帰ります。二人で相談して決めてください。今夜はお腹の子に負担掛けないようにやりなさいよ。 二之助より』

 まったく、あいつときたら

 千鳥さんがその紙を見せ、まぁ、と言って頬を赤く染めた。

 そんな千鳥さんが可愛く、愛おしかった。

 千鳥さんの肩に手をかけて、引き寄せる。
 千鳥さんは少し硬くなっていたが、安心したように僕に寄り添うように体を預けてくれた

 「桜、きれいですね」

 「ええ、そうですね」

 千鳥さんは頷きながら、少し見上げ、僕をしっかりと見る
 そして、恥ずかしそうに笑う

 「これから、来年も再来年も、その次の年も、一緒に桜を見ましょうね」

 「はい、でも、来年からはその子も一緒ですよ」

 そして、僕は千鳥さんを抱きしめ、口づけをした。

 ふと、僕たちの周りに風が吹く
 桜の花びらが僕たちの周りを舞い、その光景は美しかった。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 
 「やぁ、飛鳥、迎えに来てくれの」

 ちょうど家に帰ろうとして、校門を抜けると飛鳥が待っていてくれた。
 飛鳥はすこし怒ったように遅い、と言う。

 「そう言わないでよ、飛鳥。帰りに饅頭を買ってあげるから」

 「…お父さん、お母さんが今日は寄り道しちゃだめだって朝言ってたでしょ、花見に今日は京子お姉ちゃんと御舟さんが来るんだから、まっすぐに帰らないとだめだよ」

 厳しい口調で飛鳥はそう言うと、僕の両腕を掴んで飛翔する。
 まだ翼は僕の両腕をひろげた時よりも小さいのに、よくそれで大人を掴んで飛べると、感心する

 そうか、今日は京子ちゃんも来るから、飛鳥は花見が待ち遠しかったのか、と理解した。

 一気に高度を上げて、あっという間に校舎が小指ほどの大きさになる。

 飛鳥もまともに飛べるようになったな
 最初に運んでもらった時は重いといって二町の距離を飛ぶと一刻ほど休憩しながら飛んでいた時が嘘のようだ。
 思えば、もう飛鳥が生まれて七年か、早いものだ

 そんな感慨深く思っていると、風に乗ったらしく、一気に速度と高度を上げ、世界が一望できた。

 美しい、それが僕の感想だ
 千鳥さんに見せてもらったのは秋の光景だったが、今は春

 新しく植えられた田の青々と茂った苗が美しく、新緑の緑
 世界が生気や新しい命の鼓動に包まれた季節
 それがなによりも美しかった。



 「ねぇ、お父さん」

 「ん?なに?」

 「お父さんがお母さんにあったのは、どういう時だったの?それで、どう思ったの?お母さんのことを?」

 恥ずかしそうに飛鳥が聞く
 「どうしたの急に?」

 「いや、別に少し気になっただけで、お母さんにも同じことを聞いたんだけど、お母さんその、そういうことお話するの苦手でしょ?だから、よくわかんなくて…だから教えてちょうだい?」

 そうか、もうそんなことを思うようになったか

 「少し長くなるけど、それでも構わない?」

 「うん、いいよ」

 じゃあ、話を始めるとしますか
 僕は話し始めた。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 「どう?これで終わりだけど、分かった?」

 うーん、と頭上で飛鳥はうなり、きっぱりと答える。

 「正直に言って良く分からない」

 苦笑しながら、飛鳥には少し早かったな、と思う

 「それでいいよ、そのうち、分かるようにな…」

 「何が分かるんですか?」

 隣から声をかけられ、一つ言っておくがここは空の上だ、まず話しかけられることがない、だから飛鳥が驚いてしまって、飛鳥が僕を離してしまった

 僕は重力に引かれ、すごい速さで落下していく

 飛鳥が何かを叫びながら、僕に近づこうとするが、追い付けない距離がある

 ぐんぐんと地面までの距離が近づき、理解した
あ、このまま死ぬ、と

 だから、怖くなり、眼をつぶった

 地面と僕が接触するまで時間にして残り、3秒


 だが、何かが僕を掴んで再びの浮遊感
 眼を開けると、僕の両肩を掴んで飛ぶ、飛鳥の翼とは比べると可哀そうだが、比べ物にならないくらいの立派な翼を広げ、飛ぶ、一人のカラステング―千鳥さんがいた。


 「ありがとうございます、千鳥さん」

 上を見上げ、僕の両肩を掴んで飛んでいる千鳥さんにお礼を言う

 「いえいえ、お怪我はありませんか?一之助さん」

 僕は首を横に振り、怪我は無いということをアピールした

 そして、飛鳥のいる高さまで来ると、飛鳥と千鳥さんは並ぶように飛ぶ

 「こら、飛鳥、あれぐらいで体制を崩してしまう者がいますか、私がこの場にいなかったら今頃お父さんペッチャンコですよ、まったく…」

 千鳥さんは説教を飛鳥に始めた。

 飛鳥は少し落ち込んだように、はい、と時々相槌を打ちながら、飛んでいた。

 「千鳥さん、それぐらいでいいんじゃないですか?飛鳥もとっさのことで出来なかっただけですし、僕に怪我はなかったんですし」

 すこしだけ、千鳥さんが困った顔をして、飛鳥も反省しているようだと思ったのだろう、一之助さんは甘いです、なんて言いながら、私にも落ち度がありますし、これぐらいにしておきますか、といってさらに高度を上げた。

 「さっき、飛鳥と何を話していたんですか?一之助さん?」

 それまで何を話していたか、千鳥さんに簡単に説明する

 「そういえば、飛鳥に僕のことなんて言ったんですか?千鳥さん」

 千鳥さんは優しく笑う

 「一之助さんのこと、全てですよ」

 ずっと、ずっと変わらない、初めてお会いした時と同じ笑みだった。

 終
12/06/13 21:35更新 / ソバ
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■作者メッセージ
 完結篇いかがでしたでしょうか?
 個人的にはこんな終わりになって自分でも驚いています。
 最初は一之助が死んで、それで千鳥が一之助の子供を一人で育てる、といったバットエンドだったのですが、まさかこんな終わりになるとは、そして、こんなに長くなるとは思ってもみませんでした。
 いや、一番最初はこの話の中で出てきた大陸戦争やら北陸戦争の話を書こうとしたのですが、書いた自分が読み返して引くぐらいのグロさ満載だったので書きなおしました。
 大雑把に書くと、軍属のいい家出身の主人公が、戦場で生きるために生き残るために仲間やそこに住む住人を犠牲にしたり囮にして、出世と敵兵を殺すために生きる、人や魔物がボンボン死んでいく、悪夢のような話で、ある意味私らしい作品でしたが、さすがに自重しました。機会があれば、補給部隊の話とかにして書きなおして投稿してみたいですね。
 実は、最後にでてきた飛鳥ですが、飛鳥の話も考えているのですが、蛇足になってしまうかもしれないのでどうするか考えています。

 ご意見ご感想お待ちしております。

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