連載小説
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客人
女性が困っていたら手を差し伸べてやれ、手を払われようとも見返りがなくとも行動するのがかっこいい男だ
自分が家を出る前に祖父に言われた言葉だ
彼に剣を教えられていた時にもよく言われていた
自分にとってその言葉は当然のことであり一種の呪縛のようなものでもある
かっこいいかどうかは分からないが、困っている女性を見つけたとき、助けようと自然と動いてしまうからである
時には夫持ちのサキュバスの愚痴を聞いていれば間男と勘違いされてボコボコにされ、時にはゴブリンの商人に騙されて無一文になったこともあった
女運が無いとかそもそも助けなければいいだろうと言われればそうなのだろうが、自分にも制御できない部分なのでどうしようもないのだ

家を出て旅を続けて幾年月、何度目か分からない女性のピンチに遭遇してしまった
場所は自分の少し前方で街からそう離れていない街道、ピンチの女性は犬のような両耳とメイド服が素敵なキキーモラ、状況はザ・盗賊といった連中数人に囲まれている
キキーモラの方は街での買い物帰りなのか色々な袋で両手がふさがっており、どうにかできる状況ではなさそうだ

 「申し訳ございません皆様方、私(わたくし)はアーサー様の元に戻らないといけないので通して頂けますか」

盗賊相手でも丁寧な態度を崩さないのは立派なことだとは思うが、彼らはその要求にはいそうですか、と飲むことはありえないだろう
アーサーとはきっと彼女の主だろう、彼女を助けたとしてもまた面倒事になりそうな気がする
盗賊達はどいつもこいつもニタニタと気持ち悪い笑みを浮かべて、彼女の身体を値踏みするように、舐めるような視線を送っている

 「いやいやメイドちゃんよぉ、何度も言っているが、かわいいあんた一人だけに買い物をさせるなんて酷いことを頼むそいつなんて放っておいて、俺たちとイロイロたのしもうぜぃ」

リーダー格のハゲから出てくる言葉もお湯と変わらぬような出涸らしなセリフで面白くもない
そーだそーだと声を上げる3人の野郎達の得物も木の枝に石を巻きつけた粗末な棍棒
それほど街道から離れていないここで行動しているのならば誰かに通報されてお縄に付きそうなところだが、あいにく近くには自分しか居ないようだ

 「いえいえ、買い物は私から頼んで行かせてもらっているのですからお気になさらず、それよりもできるだけ食材が新鮮なうちに戻りたいので通して頂けませんか」

どうやらしばらく同じようなやり取りをずっとしていたらしい、確かに食材の新鮮さは大事なので早く帰りたいだろう
十分近づいたところで最近サイクロプスに打ち直してもらった得物を抜刀する

 「やぁやぁそこのぼんくらさん達、メイドさんが困っているし、道の邪魔だから野に帰ってくれないかい」

こちらに気が付いたやっこさん達はあからさまに不機嫌そうな表情へ変化し、こちらへ向き直る

 「おうおうなんだい兄ちゃんよぅ、いいとこなんだから邪魔すんな、通りたいなら勝手に行けよ」

ならば彼女も通してもらわないと自分の気が済まないと言葉を返したくもあったが、これ以上相手にするのも面倒なので一番近くに居た背の低いやつに切りかかる
とっさの行動に対応できず盛大に袈裟切りを浴びせられたそいつはあびゃうと奇妙な声を上げて倒れこんだ
剣に微量の魔界銀を混ぜただけなのだが、効果はまずまずのようだ、倒れた男がビクビクと震えている





倒れている野郎三人を放置して剣を構えてハゲと対峙、盗賊慣れした冒険者を舐めてもらっては困る
キキーモラはさっさと逃げればよかったのに心配そうな顔をしてその場に残っている
どう決着をつけようかと算段を立てていると不意に空が暗くなった
今までは間違いなく快晴で雲一つすらなかったはずなのだが、と疑問に思ったのもつかの間、自分と対峙していたハゲが武器を落とし上を見上げてガタガタと震えだした
キキーモラは整った顔を何故か俯かせ、目を伏せている
2人の様子に流石に自分もその原因と空の様子が気になり顔を上へ向けると

旧世代の姿をした紅色のドラゴンが空からこちらを見下ろしていた

今の時代、ドラゴンが旧世代の姿をしている時なんてあまりない
そりゃあこのハゲも震えあがるはずである
愛剣を手放さずにはいるが、自分も動揺と恐怖が込みあがってきて足元と手がガタガタと震えてくる

 『帰りが遅いと思ったらやはり妙なのに絡まれていたか』

ドラゴンの顔は俺や盗賊を一瞥した後にキキーモラの方に向かった
もしかしてこのドラゴンが彼女の言うアーサー様なのだろうか

 「遅くなったのは私がパン屋の方と話し込んでしまったからです申し訳ありません、今は盗賊の方のお相手に困っていたのをそちらの冒険者の方に助けて頂いていた所です」

キキーモラは荷物を落とすことなくお辞儀をすると、状況説明を始めた
彼女の説明を受けたドラゴンはこちらにジッと視線を向けてきた

 『人数的に不利な状況にも関わらず、私の使用人を助けてくれたのだな、感謝しよう』

ぺこりと頭を下げてきた彼女に対して自分は未だに動揺を抑えられず、膝をブルブルと震わせつつも彼女よりも深く頭を下げる
ドラゴンは盗賊に顔を向けるとボウっと軽く火を吐き険しい顔で睨み付けた

 『狙う相手が悪かったな盗賊どもよ、私の大切な家族である使用人に手を出そうとするとはな、貴様らはまとめてデビルバグの巣に飛ばしてやろう、貴様らも家族の大切さを身につけてくるがいい』

彼女が何やら短い詠唱をすると、倒れていた三人も含めて盗賊の姿が消え去った
あんなに短い詠唱で転移魔法か何かを唱えるとは流石はドラゴンといった所だろうか
恐怖は薄れてきたとはいえ、未だに体の強張りが抜けきっていない自分にドラゴンは再び顔を向けた

 『ジャムを助けてくれた礼に私の城でもてなそう、さぁ、手に掴まってくれ』

指だけでも人間ほどの大きさのある手を差し出され思わず一歩後ずさってしまったが、前方から歩いてきたジャムと呼ばれたキキーモラの尻尾に手を引かれた

 「尻尾で失礼致します、私も精一杯ご奉仕させていただきますので、是非お越しください」

断ると思ったのか不安の混ざった視線と尻尾の暖かさ、ドラゴンの威圧感に押されてジャムと共に大きな指に掴まった
16/03/01 21:44更新 / 錆鐚鎌足
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■作者メッセージ
ドラゴンさんの言う「宝物」にも個人差があるよねっていう考えの元、家族が宝物っというドラゴンさんが浮かび、せっかくなので連載形式で彼女と家族についてのお話を書きたいなぁと前々から考えていたので今回のお話を作りました
今作は4話ほどの作品になる予定です

サキュ「何話でも書けそうなお話ですが、四話だけなのですね」

元々それほど長くはならない予定だったので、話数で分けるならこれぐらいになるかなぁって所ですね

バフォ「原案自体はかなり前から練っておったのにようやく書き始めたのじゃな」

他の書きたい短編作品が多いと1作にかかる時間が長い連載はどうにも手が出し難いのですよねぇ

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