連載小説
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5
エイトボール。
15個の玉を使って行うゲーム形式。名前の通り8番の黒い玉を落とした方が勝利という分かりやすいルールである。
しかし、いきなり8番を落として良い訳ではなく、その前に、1から7、または9から15の玉を落としておく必要がある。落とす玉も計8個なのである。
1から7の玉をローボール、9から15の玉をハイボールと呼ぶ。8番を落とす前にローボールかハイボール、どちらを落とし切るかは、並べた玉を崩した後にショットをする人が決めることが出来る。落とすと決めた方をグループボールと言うらしい。
有名なナインボールと大きく違うところは、選んだ方のグループボールであれば好きな順番で狙って良いという点。番号順に狙う必要は無い。

「よっ……と」

コン……カコン……
ゴト……

「おお、見事なショットだね、そのまま次はどこを狙うのかな?」

「次は……3番をあそこの穴に」

「うん、定石に則ったいい狙いだと思うよ。その次はどれを狙うつもりなのかな?」

「その後は……あそこら辺に手玉が置ければ、7番を狙おうかと」

そして、打つ前にどの玉をどうやってどこの穴に入れるのかコールしなければいけない点。
今回はハンデということで、俺だけはコールと合わないショットになっても、グループボールに当たればファウルにならないことになっている。
とはいえコールはする。

「なるほど、3番を入れるだけじゃなくて、7番を角のポケットに入れられるような位置にコントロールするつもりだね。ライン取りも完璧だね、ボクもそこを狙うと思うよ」

その狙い自体の是非を彼女に精査してもらうために。

「後はその通りに実行するだけ、だね」

「だな」

これで10ゲーム目。最初は色々とおぼつかず、まともなゲームにならないのでは?と気が気で無かった。
しかし、優秀な後輩はそんな俺をニコニコと見つめながら『この場合はね、このクッションに手を乗せて……』と優しく教えてくれたため、数ゲームをこなした時点で、ある程度は様になった。
勝負も五分五分ぐらいのいい塩梅……とは言っても、彼女はいくつかのハンデを背負っているのだが。
1つは先程のコールの有無。もう1つは『グループボールのうち、最も小さい番号の玉に手玉を当てなければならない』というハンデ。
その二つのハンデに加え、気まぐれに『待った』を許してくれる上に、玉を撞くラインをどう取れば良いかアドバイスしてくれるから、何とか勝負になっているのが現状だ。

「成功させれば……」

ホントに絶妙だ。『待った』は何度も許してくれる訳ではない。許されないことも多々ある。それが毎ショットの緊張感を生み出す。ライン取りだって毎回教えてくれる訳では無い。
あっちは番号順に玉を当てないといけないというハンデも絶妙だ。相手の当てにくいところに白玉をコントロールする大切さを教えてくれる。

そして何より、彼女の上手さが、このゲームの面白さを引き立てている。
ハンデがあったとしても、隙を与えてしまえばスルスルと玉の間を縫って全ての玉を落とし切ってしまう恐ろしさが、ちょっとしたお茶目と言わんばかりに難しい配置をけしかけてくるいやらしさが、ヒリヒリとした楽しさを湧きたててくれる。
たぶん手加減されてるのだろうけど、それでも五分五分まで戦えているのが奇跡としか思えない。それほどまでに彼女の熟練度は凄まじいが……その奇跡の理由を、俺だけは知っている。

「ふぅー……」

白玉を前にして、深く息を吐く。
右脇を締め、赤い玉と白玉の直線上にキューが置かれるように位置取り、そのまま押されるように右の臀部を前へ、滑らかな手つきを思い出しつつ左手でブリッジを組み、ぐぐぐ……と背筋を低くして構える。
背中から仄かに柔らかい感触が押し付けられる。『もっとだよ、もーちょっと……』と言うように、ぐぐぐと下へ下へ押さえつけられ、ガチリと固められる……感じがした。
生温かい感触がじわりと染み込み、脊髄へと到達した瞬間、沈むような脱力感が右ひじへと走り抜き、正確に白玉のやや下を撞く。

カンっ……コン……
ゴト……

弾かれた赤い玉がポケットに滑り込み、当たった白玉は後ろへと数歩後ずさりする。

「うん、ナイスショットだね!ただ入れるだけじゃなくて、正確なドローショットで手玉を狙ったところにコントロールして……ホントに今日が初めてとは思えないくらい上手だよ!」

「まあ……な、たまたま上手くいってるだけな気もするが……いわゆる、ビギナーズラックってやつかな」

まるで自分のことのように喜ぶ後輩に対して、ほんの少しの罪悪感を抱く。
なぜなら、俺は構える度にあの感触を……おっきな胸で押さえつけられ、耳元で一つ一つ指示されて、操られた……あの時のことを思い出して、撞いているのだから。
純粋な気持ちではなく、邪な気持ちで。
あの大きな胸が、モチモチおっぱいが背中に張り付いて、ぺちゃんこにしてきたあの感触……あの極上の体験が脳に焼き付いて、構えようとするとフラッシュバックしてしまうのだ。薬物中毒者が幻覚を見るのと同じように、彼女の色香に中てられた後遺症として、有りもしない感触を思い出してしまう。

そのおかげで、彼女に教わった完璧な撞きを何度も再現出来ているのだから……何というか、まあ……

「ふふっ、君だって分かっているだろ?このボクの密着指導のおかげさ」

クスリ、と一笑い。
その微かな笑みが、脳の奥の焼き痕をぐじゅりと掻き乱す。

「……あれだけ丁寧に教えられたら、そりゃまあ、身体が覚える」

また、ぶっきらぼうに返してしまう。
正直言って照れ隠しだ。疚しい思いと恋しい感情を見透かされたような嗤いに対する。
でも、こういう言葉でないと

「あははっ!否定はしないんだね。嬉しいなぁ、ボクの教えが先輩さんの身に染み付いているわけだ」

「……っ」

すぐに言葉に詰まってしまい

「ボクは君に色々と教わってばかりだったから、こうして少しでもお返しすることが出来て良かったよ。後輩としては少し生意気かもしれないけど、君とは先輩後輩だけの仲では終わらせたくないからね」

その合間に口説き文句を流し込まれる。
脳が蕩けるような、心の奥に隠そうとした恋慕をカリカリと刺激するような、仄めかす言葉の数々。
……彼女からしたらそういうつもりは無いのかもしれない。その声色は、そう思ってしまうほど平然で、自然。
意味深に指を立てて唇に当てる仕草、赤い瞳を細めて微笑む姿、スラッとした印象を受けつつも肉付きのよい脚を交差させ、三角地帯を織り成しながら佇む様子も、平然で、自然。

ぶっきらぼうでも言葉を返さないと、彼女の雰囲気に……その自然さに慣れてしまいそうで、恐ろしい。

「よくもまあ、そんなセリフがポンポンと」

「こういうのはキライ……かな?」

憎まれ口を叩こうとするも、眉と目尻を困ったように下げられて、捨て犬を彷彿とさせるような哀愁漂う笑みを向けられたら、否定することなんて……

「……キライじゃないが、それは卑怯じゃないか?」

「あははっ!卑怯だなんてとんでもない、これはレディーの特権さ」

「レディー……って、ほんと、もう、そうやって色々使うのズルいからな」

あぁ、ホントにズルい。

「なら、先輩さんもレディーになってみるかい?」

「なっ……」

ころころと手を変え品を変え、俺の言葉を搦め取っては

「その気があるなら、ボクがみっちりレクチャーしてあげるよ……♡」

つつーっと虚空を撫で上げるだけで俺の心を狂わせるのだから。
妖しく笑うその瞳は、本気か、冗談か、よく分からない色をしていて、思考が吸い込まれてしまう。

「ぁ、ば、バカなことを言って……ほら、まだ俺の番だからどいたどいた」

「っとと、つれないなぁ」

常識が塗り替えられそうになるこの感覚。今のセリフに少しでもクラっとしてしまった自分に……いや、『それもいいな』と思わせてきた彼女に恐れを感じる。
彼の手でレディーにされて、ベッドの上で優しく抱かれてしまうのだったら、例え全てがあべこべになろうが受け入れ……あぁもう違う違う、彼は彼女だ、ダメだもう。

思考がグチャグチャにされる。
必死に積み上げたトランプタワーを指先一つでパタパタと倒されてしまうように。容易く。

「ふぅー……」

どこからが希望的観測か分からない。

カン、コン……ゴトン……

どこまでが事実なのか分からない。

カン……コン……ゴトン……

でも、背中に伝わるこの感触は、ついさっきまでは本当のモノで。
けれども全てを真に受けるには、あまりに魅力的すぎて、信じられない。詐欺師の誘い文句が甘ったるい言葉であるように。

カン……コンっ、ゴトン……

……そう、彼女はからかっているだけだ。弄んでいるだけだ。悪友のように、俺で遊んでいるだけに違いない。
そう考えないと、この熱でおかしくなりそうだ。

カンっ……

キューに突かれた白玉は等速直線的に飛んでいき

コン……

黒玉の真後ろに衝突する。"8"の字がクルクルと縦に回りながら黒玉は真っ直ぐと突き進み

ゴトン……

角のポケットに入り込んだ。
しぃん、と静寂が訪れる。

「……驚いたなぁ、そのまま取り切られるとは思わなかったよ」

「あっ、すまん、黙って進めて……しかも、コールするのも忘れてたし」

「いいよいいよ、コールは無くても良いハンデだったし、集中出来ているなら、それに越したことはないからね」

緊張感から解放され、ふぅー……と深く息を吐く。
そして、確認するようにチラリと彼女に一瞥すると……目が合ってしまった。全てを見透かしてそうな、赤い瞳に。
ほんの少しだけ吊り上がった頬はナニカの期待を感じ取り、空いていた腕を組み、顔よりも大きそうな胸を持ち上げ、だぷんと揺らす。その揺れだけで、いかがわしい妄想を搔き立てられ、ドキリと顔が強張るのを、見られてしまった。
心の奥がすぅっと縮こまる。

「にしても、今日だけでこんなに上手くなるとは思わなかったなぁ。ホントはもっと、手取り足取り、丁寧に、教えてあげようと楽しみにしていたんだけど……まさか一回だけで覚えきってしまうとは、誤算だったよ」

「……ま、残念だったな、俺には才能があったという訳だ」

また、搔き立てられる。
困ったような表情でじぃっと見つめながら、あったかもしれない甘美な未来を囁かれてしまって、疼いてしまう。
反射で返してしまったら、ついつい甘い指導を求めてしまいそうで、一呼吸空けてから噓だけの軽口を叩く。

「……そんなに、ボクの指導が身に付いちゃったのかい?」

「い、や……」

けれども、その切れ長の目に見つめられながら、真っ直ぐ問われてしまうと……ふと、笑みがこぼれてしまう。照れ隠しなのか、何なのか、自分でも分からない。
また、これだ。こうされると、どうやっても弄ばれてしまう。だって……事実なのだから。あの指導が恋しすぎて、蕩けるような感触が身に張り付いてしまっているのは、事実だから。
なんで、こんなにも心地良いのか。自我すら失って操り人形にされてしまいそうなほど、魅力的なのか。

「ふふっ……♡このイジリはレクチャー代だから何度でも使わせて貰うね。君の笑顔が見れる稀少なカードなんだから、一回きりの使い捨てにはしてあげないよ」

「……次、聞いてきたら、速攻で否定してやるからな」

こう返すしか出来ない。
この麗しい手品師は、あまりにも巧すぎる。気が付いたら箱の中に身柄を詰められてしまいそうなほど。

「あははっ!もう顔がニヤけてるよ、かわいい先輩さん♡」

「っ!!」

あぁ、もうダメだ。意識で、理性で、どうにか憮然とした態度を取ろうにも、悦んでしまっている本心ゆえに顔がニヤけてしまう。
それを指摘された羞恥がカァっと立ち昇って、顔を背けようとする……が

「あぁあぁ、ダメだよ顔を背けたら、ボクは君の笑顔がたくさん見たいからさ、もっとこっち向いてよ」

キザったらしい台詞と共に、両手で顔を挟み込まれ、固定されてしまう。ぷにっと柔らかい手のひらからはじんわりと温かさが伝わってきて、そのまま頭をじっくり蒸されていくようで……
眼前に広がる光景は、絶世のイケメン美女とも言える、端正な顔立ち。ツンと立った鼻先、白く滑らかな肌。その肌は自然に光を反射していて、化粧がほとんどなされていないことに気がつく。そして、唇は意外なことに厚かった。こんなにも、ぷるんと瑞々しく実っていて、むしゃぶりつきたくなる衝動に駆られるとは。

その唇がにぃっと微かに吊り上がったのに気が付き、視線を上げると……瞳が、合った。

これで何度目か分からない。けれども、その真紅は透き通った紅茶のように綺麗で、奥深く、何度でも見惚れてしまう。思考が潰れてしまう。その視線で囚われて、脳が震える。
あぁ、もう、全てが、ホントに全てに、恋してしまう。狂ってしまいそうだ。
欲しくなってしまう。ダメだ。これ以上は。

「わ、わかった、わかったから、もう勘弁してくれっ」

「ふふふっ……実を言うと、ボクは手加減が下手くそだし、こうやって弄ぶのが大好きなんだ……♡」

「っ!このっ……顔がいいからって……!」

「ま、君ぐらいにしかやったことないけどね」

「っっ!」

「あははっ!分かりやすく顔が赤くなっちゃったね♡」

嘲笑、からかい、そして好意。虚と現の境目が分からなくなるような言葉の数々。
あぁ、どうして、こんなにも魅力的な後輩が来てしまったのだろうか。そんな恨みも、いたずらっぽい笑みを向けられるだけで簡単に搔き消され、手のひらですりすりと頬を撫でられて恋慕へと昇華させられてしまう。

「さぁて、ここからが本題なんだけど、先輩さん」

「……なんだ」

「ここまでの勝負、ちょうど五勝五敗の引き分けなんだよね。時間も頃合いだし、ここらで最後の一ゲーム、ちょっとした賭けをしてみないかな?」

手のひらで顔を挟まれつつ、おでこを合わせるように顔を傾け、上目遣いで持ち掛けられたのは、賭け。
その単語はトラブルを想起させるもので、社会人の先輩として忌避感を覚える。

「……お金とかはダメだからな」

「そんなつまらないことはしないよ。ゲームはさっきと同じ、ハンデも同じ、そして賭けの内容はとてもシンプル、『負けた方が勝った方の言うことを一つだけ聞く』っていうのはどうかな?」

どこか危ない雰囲気もかもちだす彼女に対し、釘を刺すような言葉を向けたが、その釘はポイと投げ捨てられ、ホントにちょっとした賭けを提案される。
だが、その驚くほどあっさりとした提案が、逆に心の警鐘を鳴り響かせた。

「……ちなみに断ったら?」

「うーん、ボクが満足するまで君とこうやってお喋りし続けようかな……♡君がリンゴのように真っ赤に熟れても、ボクの心が収まるまでひたすら弄んであげるよ……♡」

一歩引こうと身構えると、頬にかかる圧力がじわじわと増していって、意地悪い言葉を吹きかけられる。
この後輩は、どうあがいても、俺を逃がす気はないらしい。もう真っ赤に熟れきってるはずの頭を、これ以上熟れさせて、ぐずぐずに腐らせて、どうしようというつもりなのか。

「……」

心臓が高鳴る。何が正解なのか分からない。目の前にいる後輩は、ダンスに誘う麗人なのか、魂を騙し取ろうとする悪魔なのか、大口開けて待つ怪物なのか。
弄ぶような挑発は、小型犬が構って欲しさするイタズラなのか、思わぬ伏兵で射殺さんとする釣りなのか。

「ま、単なる余興だし、気楽に受けてほしいな。何も悪いようにはしないよ、あくまで常識の範囲内で命令してあげるから……ね」

「……あぁ、やろう、やろうじゃないか」

「ふふふっ、そうこなくっちゃ!」

そのどれだか分からなかったが、至近距離で目と目を合わされ、平然と、どこか寂しそうな顔つきでニコリと微笑まれながら、当然のように挑発を籠められてしまったら……退くことなんて考えられない。

「じゃ、確認だね。ゲームはエイトボール、基本的なルールはそのままだけど、それに加えて君はコールする必要は無くて、ボクは番号の小さい順から玉に当てないとファウルになる。そして負けた方は勝った方の言うことを聞く。これでオッケーかな?」

一語一句、丁寧に発音して確認を取る。代償と契約を司る律儀な悪魔のように。
ピン、と後ろ髪の一本が引っ張られたような気がしたが、それを無視してコクンと頷いた。

「よしっ!これで賭け成立さ、泣いても笑ってもラストゲーム、楽しんでいこっか!」

そう言って、パッと頬から手を離すと、そのまま台下から色とりどりの玉を手際良く取り出し、台上の端に並べる。
頬にわずかな寂しさを感じたが……その疼きを自らの手で塞いで、肚を決める。
精一杯、やろう。

「さて、さっきまでは負けた方が先攻だったけど、今回は仕切り直してバンキングで決めよう。最初にやったアレ、覚えているよね?」

バンキング。
短い方の辺から、向こう側のヘリに向かって玉を撞き、跳ね返させて、手前のヘリにどれだけ近寄せられたかを競うミニゲーム。
いわばチキンレースのようなモノだ。

「あぁ、なら、まずは俺からやらせて貰おう」

「そうそう、言い忘れてたけどバンキングは同時にやるのが本来のやり方なのさ、後攻がプレッシャーに感じるからね」

「あ、なるほど……じゃあ」

「でもまあ、先輩さんの撞き方をちゃんと見たいから……一人ずつやろっか、先いいよ」

「……なら、遠慮なく、プレッシャーをかけさせて貰おうか」

「おや、自信満々だね、でも今回は一回だけしか撞いちゃダメだよ」

「一回で十分さ」

「ふふっ……じゃ、ボクはじっくりと見させてもらうね」

一回目のゲームの先攻後攻を決める際に、撞きの強弱に慣れるのも兼ねてやったが……その時は全然だった。
俺だけは何度もやり直しを許して貰ったのだが、壁に全然届かなかったり、勢い余って二回も跳ね返ってしまったり……散々なことになっていたが、今は違う。何度もゲームをやって感覚は掴んだ。いけるはずだ。

「……っと」

押し潰されるように構え、じんわり広がる暖かさに身を委ねて力を抜き……そのまま撞く。
コロコロと転がる白玉が壁に跳ね返り、こちらのヘリから……1センチほど残したところでピタリ、と止まった。
我ながら完璧だ。正直、上手く行きすぎた節もあるが、心地良い高揚に包まれる。

「……へぇ、ここまで寄せられるとは思わなかったよ」

「まあ、やってる内に感覚を掴めたからな。流石に先攻は頂いたかな?」

おそらくビリヤードは基本的に先攻が有利なのだが、このエイトボールでは特に重要だと感じる。
なぜなら、ブレイクショットで一球でも落とせれば、台上の形を確認してからグループボールを選べるので……先手をいくつも取れるのだ。
だからこそ、このバンキングで上手くいったのは非常に大きい。

「それはどうかな?ボクが撞くまで勝負は分からないよ」

「それもそうだな、お師匠さんのお手並み拝見といこう」

「うん、ちゃんと見ておいてね」

どうだ見たか、と鼻を鳴らしたものの、そう短く言い残されるのみ。
そんな先ほどまでとは違う雰囲気に惹かれ、一挙一動に視線が奪われてしまう。
コツ、コツ、と歩む姿はショーケースの商品を眺めるように自然体で……
ある場所でピタリと歩みが止まり、そのまま流れるようにキューを引き、背を引き延ばし、お尻をグッと突き出すように姿勢を低くして……あっという間に構えのポーズになった。
胸やお尻といった、角ばるところが無い綺麗な曲線の変曲点は、他の線よりも、太く、厚く、丸みを増していて、ついつい視線が吸い寄せられる。魅力的すぎる。キチリと決まったスーツ姿に扇情さは微塵もないはずなのに、その無駄のない黒色が、豊満なラインをクッキリと浮かび上げてしまう。
いや、皺が寄る余地もないほどの曲線が示しているのは……その中身が隙間なく詰まっているということで……

そんないかがわしい想いをよそに、キューがスッと動き、軽やかな音が鳴る。

トンと向こう側のクッションに当たった玉は、コロコロとこちらの方へと吸い寄せられ、俺が撞いた玉を横目に軽く通り過ぎ

磁石でも付いてるのかと疑うほど、1ミリの隙間も無く

壁にピタリと貼り付いた。

言葉が、出ない。

「ふぅ……君もかなりいい線言ってたけど、ちょっと慎重に行き過ぎたかな?こういう大事な勝負どころではちゃんと一歩踏み込んで、ボクみたいに隙間なく密着しないと……ね♡」

ぱちり、とウインクを一つ。
まるで、アマチュアとの対戦で手加減していたプロがファンサービスをするように突然本気を出して驚かせた。そんな風に思えてしまうほどの余裕たっぷりの態度、詰まるとこの無い所作。
何かの暗喩のような言葉に心を擽られながら、その圧倒的な強者感に、崇拝に近いような好意を抱き始めてしまう。

「おや、もう言葉も出ないかな?」

その安い挑発でハッとして、どうにか正気を取り戻す。

──いや、ダメだ。しっかりしろ。

こんなの、ただの偶然だ。彼女ならば上手く行き過ぎたのすら、こうして当然のように振る舞えるだろう。

「……いや、まあ、流石だなと思ってな、このぐらいは何でもないってことか」

そう気を取り直して動揺を見せないように佇み、言葉を返す。

「ふふっ……褒めてくれてありがとう♡それじゃ、先攻は貰ってしまうね」

しなやかな手がスっとラックシートを置き去り、そして手品のようにパッパッと玉を一つ、もう一つ、と並べていき、カラフルな三角形が出来上がる。
その動作すら、ほんの少しの澱みもなく、まるで魔法を使ってるのでは無いかと思うほどの速さで、思わず見惚れてしまう。

「……」

そして、コツ、コツと足音をゆっくり立てつつ、手で作った鳥籠の中で白玉を転がし動かし、何かを見定め……ピタリと歩みを止める。
黙っている姿も美しく、麗しい。それだけで絵画になってしまいそうな。
そのままアメ玉を一つ抓むかの如く、自然な所作で構えに入り、ぐぐぐ……と胸が、背筋が引き絞られる。準備運動をするように、キューが人差し指の輪っかを一回、二回、と前後に入れ動き……

「……あっ、そうそう、大きな音が鳴ると思うからビックリさせたらごめんね」

ふと思い出したかのような忠告が耳に入る。

──大きな音?

その言葉に思考が割かれそうになった瞬間、彼女の右肩が、肩甲骨が、大きく反り上がった。
その直後、右脚が力強く蹴り出され、しなった弓がその弾性を矢にぶつけるかのようにに、その力がキューへとぶつかった。
超高速に突き出されたキューは、白玉のど真ん中を貫いて、等速直線的に、飛んだ。
玉が浮いたのだ。勢いのあまり。
そして、三角形の頂点に白玉がぶつかり、パァンッと乾いた破裂音がけたたましく鳴り響く。その瞬間、色とりどりの玉が線香花火のように飛び散り、弾け、ガコン、ゴトン、といくつかの玉が落ちた音が鳴った。

「うん、落ちたのは6番と9番……まずまずって感じだね。とりあえず、ボクは……ローボールを選ばせて貰おうかな。1番が当てやすい所にあるし」

「あ、あぁ……」

返事すら覚束ない。
それほど、今のブレイクショットは衝撃的だった。もはやトラックを彷彿とさせるほどの圧倒的な暴力。そんなショットに、躍動感溢れる撞きに、見惚れて見惚れて、心臓がドキッドキッと強く鳴り響いてしまう。
恐怖か、羨望が、魅了か、分からないが……高揚しているのは確かだった。

「……くくっ、ボクのプレイに魅了されてしまっているのかな?でも、ショーはまだまだ始まったばかり。これからが本番だよ」

その宣言通り華麗な撞きで1番を落とし、2番に至っては当然のように角度を付けて入れた上に、まるで手品のようにジグザグと壁に当たりながら玉を避け、3番を狙える位置に付ける。そのままミスをすることなく3番も入れてしまった。

「……マジか」

「これで、ボクが落とすべき残りの玉は4、5、7、そして8の四つになった訳だ。このまま君のターンに回さず勝ってしまう……なんて理不尽なことも起こり得てしまうかもね。そして君はボクの言うことを聞かないといけない……ふふふっ、もしそうなったら君はどんな顔をするのかな?」

「……とは言っても、次の4番がかなりの難関じゃないか?」

軽い挑発を当てられるが、そんな余裕ぶれる盤面では無い。肝心の4番は四方八方が他の玉に囲まれた状態で、正直言って当てるのは厳しい……いや、俺からするとほぼ不可能のように見える。
だが、その挑発が暗に可能であることを伝えているから、期待してしまう。今度はどんな衝撃を与えてくれるのか、手品を、トリックを、魔法を、見せてくれるのか……楽しみにしてしまう。
例え、その代償としてこの身が奪われてしまおうが。

「まあ、普通に考えたら無理だね。でも、ボクは君を教えたお師匠さんだよ?こんな難攻不落の城だって、ちょっとした武器を使ってあげれば簡単に突破できてしまうのさ。堅い守りには上から……ね」

そう言うと、左手で急射角のブリッジを組み立て、左肩を下げ、右肩を大きく上げて、グッと止まる。背中はギチギチに引き絞られ、今にもボタンが弾けそうなほど豊満な胸がパツリと張り詰める。
大きく膨らんだ胸部、スーツの上から肩甲骨が軽く浮き上がるほど引き絞られた背中、もはや古代ローマの彫像のような美を感じるほど決まったポーズ。だが、その色は黒いスーツと白いワイシャツで、温かく、見るだけで柔らかくハリのある質感がこの手に残り、興奮を覚えてしまう。
品のある美しさと欲望搔き立てられる扇情さ、ある種相反した二つの魅力と緊張感に中てられ、ゴクリと喉を鳴らしてしまう。

「……4番に当てて、7番をサイドポケットに」

コールされる。4番に当てて、7番を。
白玉と4番の間には、玉が二つ、道を塞いでいる。4番の左には7番が位置しており、少し転げばサイドポケットに落ちるだろう。
だが、4番の右側一個分空いた所には黒い8番が陣取っており、4番を左に飛ばすのは難しい。いや、無理だ。平面上なら。
けれども、彼女が縦に構えるキューの切っ先は真っ直ぐ4番の方に向いていた。一片の迷いなく。

ダンッ

という音と共に、白い玉が跳ね、そのまま4番の右側を抉るように飛び掛かり、ガチンと痛い音が飛び散る。
弾かれた4番は左に転がって7番に押し当たり、そのままポケットに入る……かというところで、ポケット周りのちょっとした突起に引っ掛かってしまい、落ちずにピタリと止まってしまった。

「あちゃぁ、引っかかったか……ちょっと距離を短くし過ぎたかな?キッチリと決めてカッコいいところ見せたかったんだけどなぁ」

ジャンプショット。しかも、他の玉に囲まれた狙い玉をピンポイントで打ち抜く高難度。
それを決めたにもかかわらず、コール通りに落とせなかったことを悔やむようにボヤく姿は……非常にカッコよかった。見た目では無い、内面のカッコ良さ。ストイックさ。
普段は柔和に上手に人付き合いをして安心させ、気の置けない相手には飄々とからかい笑わせ弄び、やる時は真剣になって集中し結果を残す。

知れば知るほど、惹かれてしまう。
良質な物語のあらすじに惹かれ、書き始めに惚れ、ストーリーの深さに飲み込まれ、夢中になるように。

もっと、もっと知りたくなってしまう。

「……どうしたのかな?待ちに待った君の番だよ」

「あ、あぁ……なぁ、もしかして、プロ、とかだったりしないよな?」

「んー?……ふふっ、確かにプロだったら、ボクはアマチュアさんに実績を隠して賭けを持ち掛けた悪い人になってしまうね。でも残念、ボクは実績も何も無い一般人さ。現にこうしてミスをしてしまったじゃないか」

「ミス……っても、ほぼ成功したようなものだろ」

「あははっ!ボクにとっては大きな失敗だよ、だって君にチャンスを与えてしまったのだから」

大きく一笑いするものの、にぃっと細まった目から漏れ出た光は鋭く、レーザーポインターのように俺の瞳を射抜く。
冗談でも何でも無く、本気だよ、と言っているような気がした。

「さぁさぁ、先輩さんはどんなプレイを見せてくれるのかな?狙えそうなのは10番に11番、14番と15番も落とせそうかな?」

「選り取り見取りで、いい盤面に見えるけど……こういう時こそ要注意さ。二兎追う者は一兎も得ず、と言うように色んな誘惑に負けちゃうと何も得られない、なんてことは多々あるからね」

「……俺は、11番を角ポケットに」

「ふふっ……宣言失敗はファールにならないハンデだからね、ハイボールなら他の玉に当たっても大丈夫さ、気楽に打っていいよ」

「あぁ……」

息を吞んで集中する。
何故、こんなにも集中しているのか分からない。ただ……心地良い感覚に身を任せ、キューを撞く。

カンと音が鳴り、コンとぶつかり、ゴトンと落ちる。

「お見事、次はどうするかな?」

「次は10番を角ポケットに」

またもやカンと音が鳴り、コンとぶつかり、ゴトンと落ちる。

「うん、ナイスショットだね、次は……15番、かな?」

「……あぁ、15番を角ポケットに」

もう一回カンと音が鳴り、コン……とぶつかり、ゴトンと落ちる。

「ふぅー……やっぱりボクの言った通りだ、もう追いつかれてしまったよ。当たり前のように連続でショットを決めるなんて、誰も君のことを今日始めたばかりの初心者だなんて思わないだろうね」

「いや……二つは真っ直ぐ当てるだけだったし、最後のはたまたまイイ感じに行っただけだから、そんなに言うほどでも」

「真っ直ぐ当てるだけ。狙ったライン通りに撞くだけ。言うは易く行うは難し。狙ったラインで撞くのがビリヤードで一番大事で、とっても難しいんだけど、先輩さんはまるで正確なオートマトンのように何度も何度も同じ撞きを繰り出せるね。ボクが最初に教えた、あの撞きを何度も……」

「っ……」

その言葉によって、あの記憶が想起される。
身体の隅々を触られ、操られ、一ミリの隙間すらも無くなるほど密着された甘美な時間。さっき味わったばかりなのに、あの甘ったるく恐ろしい指導を耽溺したい、と心が渇望してしまい、体が小刻みに震える。

「今さらだけど、ちょっと後悔しているよ。君にみっちり教えすぎたなぁ、って……ふふっ♡こんな事を言うのは意地悪かな?」

チクリと心にトゲが刺さり、そのまま残る。
あんなことをしておいて何を……そんな想いがふつふつと湧き上がり、真っ直ぐ張り詰めていた集中が揺れる。

「……それはあんまりじゃないか?」

「あははっ!ボクだって複雑なのさ。君が上達してるのはとっても嬉しいけど、この勝負、ボクはどうしても君に勝ちたい」

こちらを覗き込むようにじぃっと視線を合わせられる。
その瞳の奥では、ゆらゆらと情熱が揺らめいており、それに同調するように頭も身体もじわァっと熱くなっていく。
ただ、そんな高揚が紅葉のように頬を赤くしていることを感じ取ってしまい、先程のやり取りも思い出したのも相まって、視線を台上へと逃がしてしまう。

「……でも、こうもミスショットしてくれないと、負けた時のプランも考えないといけないね」

声が聞こえる。

「君が勝ったら、ボクになんて命令してくるんだろうか?生意気にも賭けを持ち出してきた後輩に、何を命令するんだろうね?」

どこか演技くさい口調。まるで舞台の上で一人、独白をする主演のように。

「……そんな大したことは言わない、常識の範囲で」

「常識の範囲内とは言ったけど、果たしてボクの常識はどこにあると思う?」

虚空への問いかけに思わず返してしまうと、すぐさま言葉を被せられる。待ってました、と口を歪ませているのだろう。
不意打ちで舞台へと引き上げられた助演に、称賛と憐憫を籠めて。

もう、彼女の手のひらの上だ。

「どこって、そんなの」

「ほら、よーく思い出してみて、ボクとの会話を、言葉の端々を……」

足音は聞こえていない。それなのに、その声は耳元のすぐそばで囁かれているようで、脳が直接揺さぶられ、記憶が掘り起こされる。

彼女とはまだ一週間ほどの付き合いだが、その時間は人生で出会った誰よりも濃密だった。
初日から紅茶を淹れてきて、感心したあの時。その時はいつの間にか毎日の楽しみへと変化していて……会話が都合よく思い出される。

『ありがとう』『君のために』『ボクは好きだよ』

思い出されたセリフに散りばめられたモノが、心に沈んで、澱のように積もっていく。

「今日の出来事も思い出してみようか、手作りのクッキーを食べさせられたことや、手を引かれたこと……ふふっ、ここだけ聞くと親密な仲みたいだね」

「それに、つい先ほどなんて、密着指導もしてあげたね、ボクに隙間なく身体を重ねられて、一挙一動を丁寧に操られ……色んな所が当たっているというのに、気にせず教えて……♡」

そうだ、まるで恋人同士のように手作りクッキーを食べさせて貰って、更には手を繋いだまま街を通り過ぎ、1ミリの隙間も無いほどの密着指導で、その肌の柔らかさを、熱を、クセになる匂いを覚え込まされて……

「どこまでなら、常識として受け入れてくれるかな……♡」

どこ、まで。
どこまでなら。もしかしたら、彼女と付き合……

「ふふっ……♡」

「っ……」

バカか俺は。
からかってるだけだ。あの含み笑いは……きっとそうだ。集中を削ぐためのものだ。
……これが普通の友達ならば、ワンチャンスに賭けても良かったかも知れない。だけれども相手は直属の後輩、しかも配属一週間。これが早とちりだったら……
いや、普通の友達だったとしても、例え付き合えたとしても……その先は……

頭の中の思考と同じように、意味もなく台の周りをぐるぐる巡る。

「……あぁ、でも、ボクが勝った場合は、逆に君の常識を測らないとイケないわけだ」

また、声が聞こえる。

「どうだろうか、ボクのお願いはどこまで受け入れてくれるだろうか?」

「デートとかは……常識の範囲内かな?先輩さんのためにとびっきりのデートプランを用意して、二人でお出かけするのとかどうかな?今日みたいに君が知らない世界を色々と探検してもらって、遊んで、そして暗くなったらボクの行きつけのお店で食事をするんだ。もちろん、二人きり。あそこのワインは格別だから、君にも味わってほしいな」

デート。この麗しくて端正な彼女からデートに誘われてしまったら、断れる訳が無い。
彼女とならどこだって楽しく感じるだろう、どんな一日だって新鮮でかけがえのない時間になるだろう、知らない世界へと連れて行かれるだろう。この一日を終わらせたくない……と思いながら、ワイングラスを傾けることにだろう。
そんな想像するだけで、熱に浮かされた乙女のように心臓がドキドキとときめいてしまう。意識が揺れる。

「それとも、もっと踏み込んでみてもいいのかな?例えば……今日、この後の時間を貰ってしまうのとか、お店はどこも開いていない、夜の時間を……」

この後の時間。
夜の、時間。

「っっ……!」

その言葉がナニを意味するか瞬時に理解し、脳内が淫靡な妄想に支配されてしまう。
腕に抱き込まれて、繫華街の奥へと進み、二人でホテルへと入って、狭いエレベーターでじぃっと目を合わされてしまうのを。
そしてそのまま、ぷるんと実った唇を重ね合わされ、徐々に舌が入り込んで、蛇が獲物を捕食するようにじっくりといたぶられてしまうのを。
クタクタになったところで、部屋の中に連れ込まれ、ベッドの上に転がされ、勝者の特権と言わんばかりに遠慮なく腰を打ち付けられ、その手が、頬を撫でて、視界も脳も全て支配されてしまうのを。

想像してしまった。

「あはぁ……♡」

吐息が溢れたのを、感じる。ドロリと紫色に濁った、甘い吐息が。
背中に鳥肌がぷつぷつと立つ。

「今、何を想像したか当ててみよっか?」

「いやっ……言わなくていい」

その呼気をすぐさま掻き消し、ちょっとしたお茶目と言わんばかりに尋ねてくる。
もう、全てを暴かれてしまう。期待も、欲も、本心も。そこを暴かれてしまったら……もう、

「いーや、これはボクの勝手な予想だから、言ってしまうね、君は……」

「12番を角ポケットに」

コールで言葉を被せる。
喋らせない、と心で強く念じながら。
そうして訪れた静寂に、臆病者の心臓は、嫌な汗をじわぁっと滲ませながら、静かに強く鳴り響いた。

「……ふふっ」

微笑みが聞こえる。息使い、間の取り方、見えない僅かな情報全てに意識を向けて、何を想っているかを勝手に考え……
いや、そっちに耳を貸すな。これ以上吹き込まれたら、甘い蜜で誘われてしまったら、終わってしまう。最後に残った執念すらも。
ジワリと温かく湿る背中を引き絞り、何とか無心で……

「君のそういうところ、ボクは好き、だよ」

かぁん、と弾いた。スローモーションに感じる刻の中で。
撞いた瞬間に分かってしまった、やってしまった、と。
白玉に弾かれた12番は、角ポケットのラインから大きく外れ、コの字を描くように二回、壁を反射して、どこかへと止まった。

「おやおや、君にもミスすることあるんだね、ちょっと動揺しちゃったかな」

「い、や……そりゃ、今日が初めてなんだから、そういう時もある……」

「ははっ♡そうなんだ、良かった良かった、ボクがうっかり零してしまった言葉は関係なかったんだね」

自分でも分からない。あの言葉が撞く前だったのか、後だったのか。

「でも、だとしたら……正しい撞き方を忘れ始めてるのかな?それだったら、ボクがもう一度教えてあげようか?ほんの数時間で忘れてしまうような構えじゃダメだからね。一生忘れられないぐらい、濃密に教えてあげるよ……♡」

「っ……」

軽い声が、挑発的な言葉が、耳を犯す。

「ふふっ……♡でも、今教えちゃったらボクは君に塩を送ることになるかもしれない、だから教えて欲しくても、オネダリは後で、ね?」

「な、何も言ってな」

「そういやボクの番だった、4番に当てて、5番を角ポケットに」

ハッと正気に戻りかけたところで、被せられる。凜とした声を。
それが意地の悪い意趣返しなのは分かったが、それでも不快感は無かった。むしろ、心が擽られてしまう。

「ここからはボクの独壇場さ」

「……」

息を吞む。
何を妄言を、と言いたくなるような盤面だったが、その赤く輝く瞳が『出来るさ』と語りかけていた。

大きな胸を張り詰めピシリと構え、玉を撞く。その玉は4番の真後ろにぶつかり、その4番はコの字を描くように角を二回反射して、壁沿いの5番を少しだけ掠める。掠められた5番は、そのまま壁を沿ってフラフラとポケットに……入った。
まるで魔法だ。気が付いたら、盤面はひっくり返っていた。白玉と4番と角ポケットが直線上にある。後に残るのは今にもサイドポケットに落ちそうな7番と……その反対側で同じく落ちそうになっていた8番だけ。

「さて、と、このひと山を越えてしまったら、後は下り坂。でも油断は禁物、4番を角ポケットに」

また構える。
そして撞かれた白玉は4番にぶつかると、バックスピンによって元の位置へと戻り、その隙に4番は角のポケットへと転がり落ちていった。
白玉は台のほぼ中央、7番との間には何もない。

「7番をサイドポケットに」

構えて、撞く。
そのまま7番を押し落として、白玉が数歩後ずさりする。

残るは、8番だけ。今にもポケットから落ちそうな。

「チェックメイト、だね」

こちらを振り向き、笑みを向ける。ショーの終わりにお辞儀をするマジシャンのように、優雅で、気品溢れる、優しい笑み。
負けを宣告されたに等しいのに、その微笑みが脳をクラリと傾かせて、柔らかいプリンを床にぺしゃりと落としてしまったかのように、思考が潰れてしまう。悔しさすらこみ上げて来ない。
負けすらも、悦ばしく感じてしまうのだ。同じ舞台の上で一緒に演じられた証。麗しく、艶やかに、見事なプレーで、ハンデを物ともせずにねじ伏せられたことを……嬉しく感じてしまった。

「あぁ、もう、そっちの勝ちだ」

「おや、随分素直に負けを認めるんだね、ボクはまだ8番を落としていないのに」

「いや、この状況でミスをするような腕じゃないだろう」

「あははっ、それはそうだけど……もう、気が抜けてしまったかな?せっかく、君にチャンスを与えようと思ったのだけど」

潔く負けを認めようと思った矢先に、垂れ落とされる蜘蛛の糸。

「チャンス……?」

キラリと光を反射することでしか存在を示せない細い糸筋を……掴んでしまった。

「ふふっ……そう、普通ならここでボクが8番を落としてジ・エンド、君はボクの言いなりにならないといけない……なんだけど、実を云うと、ボクとしてはさっきのあのワンショット、君が打つ前にポロっと言葉を漏らしてしまったアレが心残りでね」

その言葉だけで想起される二つの事柄。
そうだ、負けを認めてしまったら、彼女の言いなりに……この、妖艶で予測不能な後輩のオネダリを聞かなければならないのだ。
そして、さっきのワンショット。俺がミスをしたワンショット。『好き』と幽かに漏らしたあの声が、繰り返し再生されて、収まりかけてた鼓動が高鳴る。

「だから、君にチャンスを与えたいと思っているんだ、ボクの償いのために、ね……♡」

逃げられない。
ここでチャンスを拒否出来る人間なら……こんな展開にはなっていない。

「……じゃあ、ここから俺の番にしてくれるのか?」

「あははっ!流石に勝ちを譲るようなことはしないさ、君の上手さはボクがよぉく知っているよ」

愛おしげに自らの腕を撫でまわす姿が『だって、君はボクのだもの』と呟いているように見えた。
腕に甘い痺れが広がる。

「じゃあ、どうすればいいんだ?」

「そうだね……今からボクが一撞きして、その盤面から難題を出してあげよう、とびっきりの難題をね」

もったいぶるような口調。君をあっと驚かせてあげよう、と言わんばかりに、キューをクルリと一回転させてピタリと構える。
キューと白玉の先には13番がある。

「……あっ、これはファウル扱いしないでね」

また、思い出したかのように言葉を追加して、そして……撞き擦った。
白玉の斜め下を素早く擦り、その反動でキューがクイっと上向く。強烈な逆回転をかかりつつも前進した白玉は13番にぶつかるや否や、Uターンするように斜め後ろへと戻り、弧線を描く。
その弧線は壁と12、14が織り成していた匣に滑り込み、そして……いつの間にか壁にぶつかっていた13番が、その匣に蓋を付けるように、コロコロと転がってきた。

「……っと、イイ感じに閉じ込めることが出来たかな」

「先輩さんにはこの状況から8番を落として貰おうか、ただし他の玉には触らずに、ね」

「こ、れ、は……」

唖然とする。
まるでパスタの茹で加減を確かめるような口調で、このワンショットを評価していたが……そんなモノじゃないだろう。場所が場所なら地響きが沸き立つような一撞き。
その撞きで織り成された盤面は、正に難解だった。白玉は壁と12、13、14に四方を囲まれていて……出すことすら大変だ。その檻の隙間はボール一個強ほど。だが、その間を縫い通すことが出来たとしても……そのラインは8番に遠く及ばない。

「……」

「出来ない、かな?じゃあ、ボクの勝ちとして、言うことを一つ聞いて貰おうか……♡」

思案によって止まった背を、急かす台詞がポンと押す。
それは恐ろしく艶美で、脳の裏側を直接撫で上げられるような声色だった。
目の前の壁に飛び込むか、後ろの悪魔に搦め取られるか。選択を迫られる。

「……いや、やる、やるだけやってみよう」

「ふふふっ♡どうぞどうぞ、ボクは君がこのチャンスをモノに出来るかどうか、じっくりと見させてもらうよ……♡」

こいつは……この後輩は、サディストだ。
潔く負けを認めた相手に、毛ほどの命糸をたらりと垂らして、必死こいてたぐる様を見て……愉しんでいるのだから。
その事実に、ゾクゾクと心を掻き立てられる心地がする。

「……」

ラインを探る。どう玉を通しても8番には辿り着かない。いや、捻りを使えば跳ね返り方を変えることが出来るが、その具合と感触が分からない。捻りを想定してラインを作れたとしても……それを描くのは、定規も無しに建築するようなモノだ。
ならば……もう、道は一つしかない。
右脇を締め、キューと真っ直ぐ持ち、白玉と8番の直線を測る。

「……?」

疑問を投げるような視線を感じるが、それを無視して目を閉じ、思い出すは……パツパツに張り詰めた胸。急射角に立ち上がったキューと左手。左腕は、そのたわわに軽く触れるように折り曲げられていて、頭が撞点に近寄っていた。けれども、背と腰は醜く丸まるのではなく、ピシリと曲がっていて、脚も力強く踏ん張っていた。
鮮明に覚えている。あのジャンプショットの衝撃を。その構えを。極上の四肢が、その一点に集中する美しい光景を、思い出す。

「……」

目を開ける。
見よう見まねだ。やっていることは猿真似に過ぎない。ミスったら……負けだ。
引き絞った背中からは仄かに丸い感触が押し当てられる。ピシリと構えた腕と肩を、絹のようにきめ細かなナニカがつぅー……と撫で上げ、顕微鏡でピントを合わせるかのように、ほんの少しだけ矯正される。
負けたら、これが現になるのかも……しれない。あの手つきで搦め取られ、どこまで堕とされてしまうのか。
曲げた腰に、くいっくいっと押すような生温かい感触が襲う。骨ばった硬さとぷにっと柔らかく熱を持ったソコのコントラストが、尾骨から伝わって脳を狂わせる。

幻覚ですら、ゾクゾクと脊髄が震えて止まない。本物が、もうすぐ来るのだ。

負けたら、どうなる?あの指導の時のように、有無を言わさず後ろから抱き込まれ、熱っぽい柔らかさで包み込まれることになるのかもしれない。
声が負けを煽りつつ、あの甘くてクセになる匂いが脳を犯し、何も出来なくなったところで……全身を熱が包み込む。

あぁ、もうすぐ来るのだ。
来てしまう。終わりが。

生温かいミルクを丁寧にかけられてるかのような粘っこくて甘い熱が、形へと嵌め込む。

あぁ嫌だ。
終わりたくない。

そんな感情に心が支配され『撞いて』と囁く幻聴が肘先を自然と動かし

カァンっと鳴り響く音と共に、撞いた。
その白玉は、当然のように跳ね上がり、前を塞いでいた玉を越え

トン、トン……

着地の反動で一、二回バウンドしつつ真っ直ぐ転がり

コン、ゴトン……

8番を落とした。落として、しまった。

声が出ない。

静寂が場を包み込む。

「……ねぇ、一応聞くけど、もしかしてビリヤード結構やってて、ボクをからかっていたり……なんてことは無い、よね?」

「いや、無い、ホントに無い、自分でも驚いている……」

「そう、だよね……へぇ……」

訝しげな表情を向けられ、たじろいで弁解することしか出来ない。ジトっとした目つき、その声色はどこか淡々としていて、裏側にある感情を上手く読み取れない。
こめかみの辺りを、つー……と汗が垂れ落ちる。
張り詰めた風船が破裂せずに空気が抜けてしまった、そんな勿体なかったような後悔。だけど心底安心している気持ちが疲れた全身に染み入る。
けれども

「あーぁ、負けてしまったなぁ、君にどんな命令をしてあげようか色々考えていたのだけど、どうやら捕らぬ狸の皮算用だった訳だ」

カラン、とキューを立て掛け、空いた両手を大げさに広げ、こちらを振り向く。その姿。
首筋を隠さない程度の長さの髪。サラサラと光を反射させる薄鈍色の髪は横に流れて、自然に中性的……いや、イケメン的な印象を受ける。その下の顔も、まさしく美男子のようにキリッとしているのだが、そのパーツ一つ一つは女性的。ツンと立った鼻も、ぷるんと肉厚な唇も、切れ長の瞳も。
更にその下は、暴力的なほどまで……女性的だった。胸、腰つき、くびれ、肉付きの良さ。余ることも締めすぎることも無いオーダーメイドのスーツが、それらの魅力を絶妙に浮かび上がらせ……そして唯一サイズに合わない豊満な胸部が、欲を、抱きつきたい衝動を、異常なほど搔き立てる。
こんなにもカッコよくて、麗しく、淫靡な人に、言いようにされかけていた事実を、そして彼女に命令出来てしまう事態を改めて認識し……落ち着き始めていた頭が熱くなる。まるでヤカンのように、カンカンに。

「さて、先輩さんは見事ボクとの賭けに勝った訳だ、ボクは君の命令に従わないといけない」

「なんて、命令する?」

腰を屈め、胸をだぽ……と少し揺らしながら、唇に人差し指を当て、上目遣いでねだるように尋ねる様子は、まさに……悪魔だ。淫靡な悪魔。
ワイシャツは第一ボタンのみ開けられていて、その乳肌が晒されることはないが、張り詰めた形は重力によって僅かに縦長へと変形している。それだけで、もう、頭の中がピンク色に染められてしまう。
命令を使えば、この胸だって……両手で掴んでも指の隙間から溢れ零れるほどの乳肉を堪能させてくれるのかもしれない……
厚みのある唇でのキスをせがんだら、ぷちゅりと音を立てるぐらい唇を密着させて、そのまま肉厚の舌を深く、深く、絡めてくれるかもしれない……
もっと直接的に、行為をせがんだら、その全てを味わえられるかも……

いや、やめろ、こんなお遊びの賭けで、浅ましい欲望をぶつけるなんて、先輩としても男としても人間としても

「これはボクに勝った君へのご褒美さ……♡君の素直な欲望を、ちゃんとぶつけて欲しいな……♡」

「ボクは何でも許してあげるよ……♡」

すす……と首横に顔を近づけられ、ぽしょりと囁く悪魔の一言。薄鈍色の髪が首筋をこしょりとくすぐり、脳にかけてゾクゾクとした痺れが走る。
何でも許してくれる、何でも……あんな妄想も、言えば……♡
そう信じ込まされてしまう。

あぁ、本当に心が搔き立てられて、おかしくなってしまう。
恋がこんなに怖いものだなんて知らなかった。もう、どこまで押していいのか、どこで引くべきなのか、全く分からない。
何を言うべきか。ここで押して、浅ましい欲望に身を委ねてしまうべきなのか。でも……

先ほどの刺すような視線が思い返される。
スポットライトが彼女に集まり、俺は手を引かれるがままにその陰を歩んで……

──どう、だ?

そんな声が、脳内で囁く。心の奥で根を張った薄暗い感情。
どう、だ。
例えこれで関係を結べたとしても……そこから上向くイメージが湧かない。自信が、湧かない。

何で、惹けるのだ。
色も、花も、才も、実も、全てを兼ね備えた彼女に対して。
淫靡さが日常に思えてしまう雰囲気すらかもち出す、彼女に対して。

あぁ、経験豊富なのだろう。じゃないと、誰もが見惚れる魔性の雰囲気を作り出せるはずがない。

あぁ、ダメだ。ここで浅ましい欲に流れてはダメだ。
性欲だけの浅ましい男だなんて、思われたくない。思われたら終わりだ。
凡庸になってしまう。魅了されてコロッと転がった有象無象の一人に。数多くの……

あぁ嫌だ。
勝手で失礼な妄想に対し、胸奥からヘドロのようなドス黒い感情が込み上げて、吐き気がしてしまう。

何、で。

何で惹けば。

どうすれば今のように、求められ続ける。
今のように、逃げ道を潰すような執着を……

──逃げれば、いい。

手に入れたい、とずっと思わせれば。
裏切り続ければ。その気持ちも、全て、引いて。

あぁ、最悪の選択なのは分かっている。
Aのフルハウスを捨て、ロイヤルストレートフラッシュを狙うように無謀で、傲慢で、愚かなことなのは分かっている。
何も手に入らず、後悔する羽目になるのも分かっている。

それでも、それでも夢のままで居たい。
嫌われてもいいから、彼女にとっての特別な存在であり続けたい。
あぁ、ヤだ、嫌われたくない。もっと一緒に過ごしたい、遊びたい。仲を深めたい。もっと、もっと彼女と。

「ほら、正直に言ってみてよ……?」

「君の欲望を」

あぁ、ダメだ。言ってはダメだ。

「……じゃあ」

グルグルと頭が巡る。
何が正解か分からない。何が欲しいのか、何をして欲しいのか。
それが分からないまま、相反した欲望がグチャグチャに混ざり合い、化学反応を起こしてドス黒く膨らんだ想いは

「明日もまた、一緒に遊んでくれないか?」

「……友達として」

とてもつまらない命令として、喉から零れ落ちた。
カタカタと鳴り響く欲望の蓋を押さえつけつつ、ガクガクと震えそうになる膝を隠して。

「……」

気味の悪い間が場を支配する。
その沈黙に、心臓が握り潰されそうになる。

──あぁ、やってしまった。

そんな後悔が心を支配し始めた刹那

「ははっ」

ふと一つ、渇いた笑い声が転がり落ち、亀裂がピシリと走り


「あはははははっっ!!!」


狂気を孕んだ笑い声が、全てを切り裂く、切り裂く、切り裂く。
高らかに笑う姿は、月に吠える人狼のようなシルエット。その声は舞台に立つオペラ歌手のように、がらんどうの腹の底から響き渡り、重く重く圧し掛かる。

「あーあ、ボクに対する命令を、せっかくのチャンスをそんなことに使ってしまうなんて」

「ほんと、酷い先輩だなぁ……」

上向いた首を下に向け、ズレた仮面を被り直すように手で表情を隠しつつ、クっクっクっと笑いを噛み殺す。
一瞬にして世界の色相が反転したかのような、ズレ。違和。別世界を開いてしまったような心地がして……芯すら震える悪寒に襲われる。

「いいよ、明日だけじゃなくて、明後日も、明明後日も、これから毎日ずっと一緒に遊んであげるよ」

そして、顔から手が離されると……そこには、ニコリと微笑み、ニヤリと笑う、いつもの後輩の姿があった。
ケロリとした様子で『やれやれ困った先輩さんだ、仕方ないからボクが一緒に遊んであげよう』と言わんばかりに眉を困らせて、落ち着いた声を響き渡らせる。

「単なる先輩後輩の関係じゃなくて、友達としてね」

単なる先輩後輩ではなく、友達。

──ああそうか、あんな返事でも一歩進めたのなら、それなら、あの返事で良かったかもしれない。

先ほどの狂気を確かに目の当たりにしたはずなのに、恐れを抱くことも無い。
歯車がズレていく。深層では異様を感じても、表層では能天気に嬉しく思うだけ。

「あぁ、でも、友達なんだから、隠し事は無し、だからね」

「予定も無いのに、遊びの誘い断ったら……ダメ、だよ」

「分かった?」

さらりとした髪が肌を微かに触れるほど、ぐいと顔を近づけられ、赤い瞳で瞳の奥を覗き込まれる。
とても綺麗だ。全てを見透かしているような真っ直ぐな眼差し。長いまつ毛。その真紅の虹彩は、紅茶のように深い。
すぅっと鼻から入り込む香りは、甘くて濃厚で、味覚すら刺激する。

五感が訴えかける。要求を受け入れろ、と。

その全てに、あぁ、という短い相槌を打つ。

「よし、じゃあ、賭けは成立だね!これで晴れて、ボクと先輩さんは友達になった訳だ……なんて言うと、今までが友達ですら無かったように聞こえるね」

「あ、いや、そういう意味じゃなくて……」

「あははっ!分かってるよ、分かってる、今のはちょっとした意趣返しさ」

「ボクだって、もっと仲良くなりたいって思ってるし……君だって、そうだろう?」

「そ、れは……そうだな」

「ふふっ……でも、ボクはまだ、先輩さんのことを全然知らないから」

「全部、ちゃんと教えてね」
24/02/03 00:05更新 / よね、
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