連載小説
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そのじゅうよん
それなりに人物紹介
・堕落の乙女達=この物語の主人公である「あなた」のハーレムを構成する
魔物娘達の総称で、幼女から大人の女性まで色とりどりの九人。
フラグが立つための条件が異常にゆるい。
・デルエラ=魔界の第四王女。「あなた」と出会うことで暴力的になっていった。
レズっ気があるためなのかは不明だが、彼女のフラグは立たない。
あなた=狡猾で往生際の悪い性格の下っ端兵士だったが
いくつもの偶然と機転によりチートインキュバスとなる。嫁達は好き。お酒は大好き。

武器トーナメントでのマリナのひどい優勝により
一応は主催国の面子が首の皮一枚で保たれたこの大会も、いよいよ
大詰めとなっていた。
「ついに団体戦か」
俺は今後とるべきいくつかの案を、脳内で吟味していた。
厳密にいうと、おおまかなルートはデルエラとの話し合いでできているので
予想外の事態をいくつも思いついてはそれぞれに対応を練っているのだ。
今の俺ならいきあたりばったりでも何とかできるが
それは生来の性分が許さないわけである。
「ほとんど結果が見えてるトーナメントだから…
…勝敗では、そんなに盛り上がらないんじゃないかな………
乱戦の目まぐるしさに観客が沸くことはあってもね」
「トーナメントはな」
もうマリナにも今の流れを教えてもいいかもしれん。
「む、もしかして、また何かしでかすつもり?」
俺の胸に顔をうずめていたマリナが、口をへの字にして睨みつけてきた。
「おにーちゃんったらだめだよー」「デルエラさまに煮て食べられちゃうよー?」
「しないわよ!」
白いロングヘアを逆立てて魔王の娘がロリロリシスターズを怒鳴りつけた。
その魔性全開なキレっぷりを見た俺たちは『今のあんたはやりそう』と
心の中で思考を一致させていた。
こんなんでも心酔してくれてる部下が山ほどいるというのだから
魔物ってのはどいつもこいつもイカれてるぜ。
「けど、いまのデルエラさまなら、やりむぐっ!?」
今宵が血相変えてミミルの口を塞いだ。危なっ!
「それはともかくだ」
俺は話を元に戻すことにした。
「何が言いたいかというとだ、団体戦にエントリーしてる
『名誉の五人』ってチームが怪しい。どのくらい怪しいかというと
俺の感覚では魔物に化けた人間じゃないかって思えるくらい怪しい。
デルエラによると、あいつらなぜか敵意や殺意とか憎悪といった感情を孕んで
こんな呑気な大会に臨んでるそうなんでさらに怪しい。誰か殺したいのかもしれない。
直接そいつを狙わないでわざわざ大会に出るということは
優勝トロフィーを贈与するお偉いさんがターゲットの確立断トツでやばい。
以上で推測終わり」
「ちなみに、そのお偉いさんは私だけど、贈与役は彼にバトンタッチしたから」
「なんでですかぁ!」
おいマリナ、至近距離ででかい声出すなっつーの。
「そんな、この人にもし何かあったら、わたし、わたしっ……
…もう、生きていけないよぉ…」
「…それは、わ、わたくし達も、同じですわよ………ちゅむっ…」
心配するのか指しゃぶるのかどっちだ。
「大丈夫でしょ」
あっけらかんとデルエラは言ってのけた。
「こう見えても、彼は私に食い下がるくらいの実力あるんだし、
たかだか五人くらい、何とでもなるんじゃない?勇者とかいなければ」
「いたらお仕舞いやないですか」
不安に震えるミミルを抱きしめる今宵が、気丈にそんな反論を返した。
「そこで諸君らの出番なわけだよ」
俺は不安がるマリナ達に今後の計画を話し始めたのだった。

団体戦はアクシデントもなく順調に進んでいった。
やはりというか何というか、あの『名誉の五人』は苦もなく勝ち進み、
優勝候補である『雨の旅団』との決勝戦へと駒を進めた。
「…ねえ、ニンゲン達が魔物娘に化けてるとしてもさ、なんであいつらは
ここの魔力の影響をうけないの?
本場じゃないとはいっても、ここだって魔界には違いないでしょ?」
もっともな意見をプリメーラが口にした。
「対抗策を練っているんだろう。魔力を遮断する魔法かアイテムか
あるいは加護を与えられているか……仮に手遅れになっても
完全に魔物になる前に自決すればいい、そう考えてるのかもな」
「形振り構わない手に出てきたものね。
やっぱり、教団が裏で糸を引いているのかな」
おいおいマリナ、主神の信徒たちを悪の組織みたいに言うか普通。
「…人々をどれだけ犠牲をしても構わずに、魔物を殺戮していくなんて
もう………絶対にしたくないし誰にもやらせないよ。主神なんて関係ない、そんなの
正しい行いじゃないんだから………!」
俺から言わせれば、それも、魔物の価値観に蝕まれた『正しくない』思考なんだがな。
魔物を悪と断じて一方的に殺戮していくのが正義でないなら、
人間を一方的に捕獲し虜にすることが正義だというのか?
それは教団の思想を裏返しにしたようなものに過ぎないのではないか?
「善悪の基準はともかくとしてだ、そろそろ計画の準備にかかれ。
この勝負も長くはならないだろうからな」
俺は再び闘技台に目を向けた。そこでは、じわりじわりと『雨の旅団』が
追い詰められ、一人、また一人と有効打をくらい、メンバーの数を減らしていた。
やはり手を抜いていたか。
決勝ゆえに本気を出しても問題ないと判断したのか
『ネクスト』と『サード』の二名は、個人戦のときとはまるで別人のような
気迫で、それぞれの相手であるリザードマンとスフィンクスを圧倒している。
……それからまもなく、司会と審判を兼ねるフェアリーが『名誉の五人』の
勝利と優勝を称えたのだった――

闘技台の上には賞金の入った袋とトロフィーの置かれた机が配置され、まもなく
表彰式が行われることとなった。
デルエラの代理であるカッコいい俺は表彰台の上に堂々と立ち、ローブを着込んだ
数人の魔物が、俺の補佐役として机のそばに控えていた。
そしてそんな様子を、うちのダークプリーストトリオと女王陛下と教官は
眉をハの字にして見守っている。
『これより、レスカティエ武道大会の表彰式を行います!
まずは、武器部門優勝者、ウィルマリナ・ノースクリムさん!表彰台のほうへどうぞ!』
「はい」
元気いっぱいなフェアリーとは対照的な、涼やかな声の主が、俺のそばへ
無邪気な色気を振りまきながらやってきた。うわ。
「武器トーナメント優勝、おめでとう。
あなたの今後のさらなる堕落と、魔王様へのより強い忠誠を、期待していますよ」
噛んで含めるような口調で俺が適当にそう言ってトロフィーを手渡すと、
団体戦の優勝チームの数名が、顔をわずかにしかめるのが見えた。
(瀬戸際にきて感情の制御がついおろそかになったか?)
俺からトロフィーを受け取ったマリナは、百合百合な応援団からの
黄色い歓声や、他の観客、各国来賓からの拍手を惜しみなく浴びせられていた。
続いて徒手空拳部門の優勝者である『真紅の焔』の表彰へと移り、そして
問題の、団体戦部門優勝チームである『名誉の五人』への表彰の時がやってきた。
「………」
フェアリーの呼びかけに彼女らは無言で返すと、表彰台の上へ
代表としてリーダーである『ネクスト』がやってきた。
「類まれなチームワークによる、団体戦の優勝、おめでとう」
口先だけの褒め言葉を述べながら俺はトロフィーを持って、
全く肌をさらしていないサキュバスへ両手に抱えたそれを差し出そうとすると
「我々としては、貴方のほうが望ましかった」
その言葉の意味を問う前に、聖光を放つ剣による斬撃が俺の首筋へと
吸い込まれるかのように――とはならず、防がれた。

ガキイイイィンッ!!

「!?」
俺への死神の一閃を防いだのは誰であろう、ローブをまとい
補佐役を務めていたマリナだった。
驚きながら会場にいた全員が、トロフィーを持っているもう一人のマリナへ視線を向けると
その姿が霞がかったようにボヤけ、俺のよく知った姿へと変貌した。
「実はプリティーミミルちゃんでした〜〜〜。ざ〜んね〜ん〜〜〜〜」
そして自画自賛魔女は、ローブを脱いだプリメーラと今宵に続いて
闘技台へと駆け上がってきた。愛用のハルバードをかついだ教官も。
で、デルエラやサーシャ姉達だが、彼女らは『鋼の嵐』や『真紅の焔』といった
強者たちがかけよってきて周囲をガードしている。
デルエラが表彰式の前に彼女らを呼びつけ、話をつけたおいたのだ。
「…読まれていましたか」
表彰台からバックステップで降りて距離を取った『ネクスト』が
悔しげにそうつぶやくと、その姿がサキュバスから人間の女性へと変わっていった。
「それでも別に問題なんてないで」
妖狐の姿から本来のそれへと変わっていく少女が
闘技台の四隅の上方へ、ジパングの退魔師が用いる符という魔法の紙を飛ばして
自分の顔にチョップするように片手をかざしてなにやら詠唱すると、
闘技台は青く輝く四角い結界で覆われていった。
「…これで余計な邪魔は入りまへん。あとは実力行使あるのみや」
「ははっ、言ってくれるじゃないかお穣ちゃん」
人間だったときからの相棒を振り回し、教官が荒々しい気をむき出しにして
威嚇するように五人を順番に眺めていった。

さて、小細工はここまで。
あとはマリナ達の奮闘に期待しよう。俺が出るまでもあるまい。
なんとなく理不尽な理由で出番がきそうな予感はするが………………
12/01/22 18:26更新 / だれか
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■作者メッセージ
もうおわかりでしょうがこの五人は詰んでます。
無茶をするのが若者の特性なうえに、優れた才能までプラスされれば
こうなっても仕方ないですけど。

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