読切小説
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流星の一角獣
「ぐっ、痛っ」
 体が痛い。足を滑らせて崖から落ちたからだ。くっそ。ムリして父さんに頼まれた薬草を取ろうとするんじゃなかった。
「うぐ」
 動こうとしたけど力が入らない。体からどんどん血が流れてる。
「おれ、死ぬのかな…」
 子供だから死ぬことなんて全く考えたことがなかった。まだまだやりたいこともたくさんあるし、人生はこれからだと思ってた。そんなことを考えているうちにも目の前がかすんできた。
「せめて彼女くらいは欲しかったな…」
 目の前が真っ暗になった。

 なんだか体が温かい。優しい何かに包まれているような気がする。
「…ん」
 うっすらと目を開けると、なんだか柔らかい光が見えた。その光は小さな星の模様がある先がとがったものから出ているみたいだ。もしかして角か?
「よかった。これなら大丈夫ね」
 優しそうな女の人の声が聞こえてきた。うっすらと白い馬に乗った女の人のような姿が見えた。ぼんやりとしか見えないけどなぜかきれいだと感じた。地獄には見えないからどうやら生きてるようだ。天国に行ったという選択肢はないのかって?主神を心の底から嫌いなおれがそんな所にいけるわけがない。もしあんなのの所に召されることになったら猛毒を盛ってやるか、しびれ薬を飲ませて永遠に使うことがないムダなアレを切り落としてやる。
「安心してねかわいいぼうや。安全な場所に連れて行ってあげるからね」
 おれは抱き上げられる感覚に安心して目を閉じた。眠くなるときなんだか揺れるような感覚がして、ひづめの音が聞こえてきた。馬にでも乗せてもらってるのか?そんなことを考えながらおれは気を失った。

「う、ん」
 気がついたらおれは森の開けた場所にいた。あのお姉さんが運んでくれたんだろう。
「お姉さんは?」
 周りを見回してもお姉さんはもういなかった。起こしたら悪いと思って気をつかったのかもしれない。
「お礼言えなかったな…」
 助けてもらったんだからありがとうって言いたかった。
「また会えるといいな」
 もちろん感謝の気持ちを伝えたいのもある。でもそれだけじゃなくてお姉さんに対するわけがわからない気持ちもあった。おれはなんだかわからないもやもやを抱えながら家に帰った。  
  
「「ユニコーンだね(な)」」
 おれの話を聞くとヴェーデルシュルグ兄弟は即答した。
「ユニコーン?それってどんな魔物なんだ?」
 おれは魔物のことはあまり知らない。まあこいつらがくわしすぎるだけかもしれないけどな。大人に聞いても夢とか知るわけないっていう答えしか帰ってこなかった。
「ケンタウロスの一種で白い毛並みと角が特徴な魔物だ。角には強い魔力が宿っていて、すごい回復呪文が使えるんだ」
 そう答えたのはノルレ=ヴェーデルシュルグ。身体能力は並み程度だけど魔術の腕と魔物に関する知識は村の大人たちよりすごい。将来の夢は魔物学者らしい。きっとすごい学者になるだろう。
「そうか。光を放ってた星型の模様があるとがったものはユニコーンの角だったのか。ついでに言うとおれは馬に乗せられたんじゃなくて背中に乗せられたんだな」
「多分それで合ってると思うよ。それにしてもオーディウスはなんでボクたちに聞いてみようと思ったの?」
 ニヤニヤ笑いながらそう言ってきたのはノルレの弟のロキだ。こいつも魔物にくわしい。パワーは普通だけどすごいスピードと反射神経を持っていて、武器の扱いがかなりうまい。軽いけどかなり腹黒くて、敵だと判断した相手には容赦しない。まあ基本的には優しくて、面倒見がいいけどな。触らぬ神に祟りなしってことかもしれない。
「そ、それは助けてもらったお礼を言いたいからに決まってるだろ」
「本当にそれだけ?会って仲良くなりたいとかいう下心くらいはあるんじゃない?というか話を聞く限りどう考えてもそのお姉さんのことが好きになったとしか思えないよ」
 おれはロキに何も言い返せなかった。他にお姉さんへのよくわからない思いを言い表せる言葉がなかったからだ。

「それにしても初恋の相手がユニコーンねえ…」
 ロキはなぜか考え込んだ。
「何か文句あるのか?」
「別に。ただ初恋を実らせるのは大変だろうなって思っただけだよ」
 ロキはめずらしく真剣な顔をした。
「なんでそう言えるんだ?」
 おれの言葉にロキとノルレはしばらくアイコンタクトをかわした。
「…ユニコーンは好きになって夫として認めたやつにしか体を許さない。しかもユニコーンが好きになる男にはある条件があるんだ」
「ある条件ってなんだ?」
 ノルレはなぜか顔を赤くして口ごもった。
「あー、魔物がよくやるアレをヤったことがない人だよ」
 ロキが少し恥ずかしそうにつぶやいた。
「でもおれのお姉さんが好きだって気持ちは本物だ」
「今はそうでも将来他に好きな人ができるかもしれないよ?それに魔物に襲われてそういうことになるかもしれない。それにもしかしたら彼女が他の男と一緒になってることもあるかもしれないんじゃない?」
 ロキの言葉を聞いているうちに気持ちが沈んできた。
「言いすぎだロキ。オーディウスもそんな可能性の話で落ち込むなよ。先のことは誰にもわからないだろ」
 そ、そうだな。何が起こるかわからないのにそうネガティブになることもないだろう。
「ごめん。ちょっとからかいすぎたよ。それにしても君が起きるまで待っててくれなかったのは痛いね。もしちゃんと話せてたら『おれ大きくなったらお姉さんと結婚する』とか、『ぼうやが大きくなってもお姉さんのことが好きだったら考えとくわ』とかいうことになってたのに」
 かなりベタな展開だな。実際にそんなことがあるのかは正直よくわからない。
「まあ何かわかったら教えてあげるよ。角に星型のアザがあるユニコーンなんてそうはいないだろうからね」
「オレもできるだけ協力するよ」
 ロキとノルレの言葉におれは胸がいっぱいになった。
「ありがとうロキ、ノルレ」
「気にしなくていい」
「そうだよ。ボクたち友達だろ」
 やっぱり2人ともいいやつらだ。少しクセがあったりはするけど。結局これでお姉さんの話はお開きになった。

 あれから10年が経った。ロキは冒険者になって南のベントルージェ領へ、ノルレは魔物学者になって西のフィアボルト領に行った。こいつらの活躍はこの村にも届いている。
「よし。これで欲しい薬草は手に入ったな」
 おれは村に残って薬師をしている。でもまだまだ未熟で父さんから怒られることが多い。
「ん?」
 どこかから声が聞こえてきたような気がした。
「なんかイヤな予感がする」
 おれは気配とかそういうのには敏感な方だ。森には魔物がいっぱい出るからそういう感覚を身につけておかないと貞操が守れなかったからな。
「とりあえず行ってみるか」
 おれは閃光弾や、煙玉とかの手持ちをよく確認した。念のため『アレ』がちゃんとあるのを確認する。
「できればこれは使いたくないな」
 おれは切り札をチラリと見てから声が聞こえた所に向かった。

「ぐへへへ。もう逃げ場はないぞ」
「観念しな姉ちゃん」
 声が聞こえた所に出ると、なんか異様にガラが悪い8人組が女性を取り囲んでいた。2、3人ならなんとかなるかもしれないけどいくらなんでも数が多すぎる。
「残念だけどあんたたちみたいな節操がないのとやる気はないの。他を当たってね」
 聞き覚えがある声だ。おれは女性をよく見た。上半身はとてもきれいな女の人で、下半身は白い馬だ。頭には角がある。ロキとノルレから聞いたことが正しいならユニコーンだ。 その角には星型のアザが
「星型のアザ?」
 あの時のお姉さんだ。おれはそう確信した。なおさら助け出さないといけない。今おれが取るべき道は1つしかない。
「仕方ないな」 
 おれの手でなんとかしたい気持ちは少しはある。おれが1人でなんとかしてかっこいい所を見せたいって思いがないと言ったらウソになる。
「でも今はお姉さんを助けることを優先しないといけない」
 おれはただの薬師だ。荒事はあまり得意じゃない。それなのに見得をはってお姉さんを危険にさらしてどうする。たとえ色々な意味で気分が乗らなくてもどうにかできる手段を取らないといけない。おれはスイッチがついてるボールのようなものを取り出した。
「……よし」
 おれは覚悟を決めてスイッチを押した。辺りに甲高い音が鳴り響いた。

「な、なんだ?!…ぐっ」
 おれは近くにいた男の鼻と口を睡眠薬を染み込ませたハンカチを当てた。そして男たちがひるんだのを見てからお姉さんの手を引いて包囲網の外から出した。
「ま、待ちやがれ!」
「誰が待つか」
 おれは逃げながら閃光弾を相手に投げた。
「め、目がー!目がー!」
 おれは振り向かないで南に走り出した。
「なんで南なの?ここなら北の出口の方が近いんじゃない?」
 お姉さんが冷静に聞いてきた。思ったより落ち着いてるな。
「すぐにわかりますよ」
 おれは手持ちの煙玉や粘着弾で足止めて逃げながら答えた。
「えー。教えてくれてもいいじゃない」
 甘えるような口調に思わずドキッとした。破壊力ありすぎだろ。
「…今言ったら楽しみがなくなりますよ」
 本当に楽しいのかどうかは疑問があるがな。
「わかったわよ。ふーんだ」
 すねたような目で見てきた。やばい。かわいすぎる。おれはお姉さんから顔を背けながら手を引いて逃げた。

「この野郎。手こずらせやがって」
「もう逃げ場はないぞ」
 いつの間にか囲まれた。必死になって逃げてる内に木の陰を通って回り込まれたみたいだな。
「てめーまともに戦うこともできないくせによくもジャマしてくれたな」
「女の前でかっこつけやがって」
「おれたちに勝てるとでも思ってたのかよ」
 男たちはニヤニヤといやらしい笑みを浮かべている。
「まさか。おれはただの薬師だ。1人なら不意をついて倒すこともできるが、さすがに8人も倒せるわけがない」
 おれの言葉に男たちが笑い声をあげた。
「バカか!そこまでわかってるならなんでしゃしゃり出てきたんだ」
「女性が襲われてるのを黙って見てられなかったからだ。特にこの人は命の恩人だ。助けようとするのは当然だろう」
 おれの言葉にお姉さんは目を見開いた。
「もしかしてあの時のぼうや?」
 どうやら覚えてくれてたようだ。少しはおれのことを考えててくれてたのか?

「それにもう助けは呼んである。おれが出てくる前に何か音がしたのに気付かなかったか?」
 おれの言葉に相手の男たちは一瞬固まった。そして笑い出した。
「バーカ。こんな森の奥深くで都合よく人が来るわけ」
 男の言葉はそれ以上続かなかった。背後から回し蹴りをくらって木にたたきつけられたからだ。
「あるんだよねー。これが」
 男の後ろから冷たい声が聞こえてきた。男たちは声がした方向を見たがそこには誰もいなかった。
「どこ見てるの?ボクはここだよ」
 そいつはいつのまにかおれとお姉さんを包囲網から連れ出しておれたちの前に出た。体からは恐ろしいほどのプレッシャーが立ち上っている。敵意を向けられてないおれでさえここまで感じるんだから、相手の男はたまったものじゃないだろう。
「ば、バカな。あいつは」
 残った6人は完全にあいつが出す殺気に飲み込まれている。それは子供のころからよく見ている光景だ。いつも余裕で、自由気ままなようでいて人を気遣う優しさをもつあいつが、大切なものに危険が及んだ時に見せる大きな感情の爆発。その視線に射抜かれた敵には絶望と恐怖を、その背中に守られた味方には希望と安心感をもたらすおれの昔からの大事な友達。
「ろ、ろ、ろ、ロキだーーーー!!」
 冒険者ロキ=ヴェーデルシュルグがおれたちを襲ってきたやつらに立ちはだかった。 

「大丈夫?」
 ロキはおれたちの方を向いた。おれの顔を見て安堵の表情を浮かべる。そして視線をお姉さんの角にある星のアザに向けてニヤリと笑った。おれが昔話したことを覚えてたんだろう。
「な、なななんでロキなんかが来るんだ?!」
 相手は噛みまくりながら言った。あんな圧倒的な威圧感をぶつけられてたら当然だろう。今まで向けられたことがなくてよかったと思う。
「この魔具のおかげさ。これは緊急事態に押すことで対になってる魔具を持っている相手に危機を伝えることができるんだ。当然位置もわかるようになってるけどね」
「じゃ、じゃあさっきの音はなんだ?!」
「カモフラージュに決まってるじゃん。それよりもこの魔具を持ってるってことはどういうことかわかるよね?」
 ロキの言葉に男たちは青ざめた。当然だ。この魔具を渡したってことは、ロキにとって関係が強い相手だってことだからだ。
「ボクの大事な友達と、その命の恩人で一途に思い続けた初恋の相手に手をだすなんて、どうなるか覚悟はできてるんだろうねえ」
 ろ、ロキ?!お前何カミングアウトしてるんだ。お姉さん赤くなってるぞ。
「ひ、ひいー!」
「ゆ、許してくれ。おれたちは何も知らなかったんだ」
 相手は完全にビビッて言い訳を始めた。
「へー。自分たちが罰を受けなければ嫌がる女性をムリヤリ犯していいなんて腐った考えを持ってるんだー。どうやら曲がった根性をたたきなおす必要があるみたいだね」
 ロキの言葉に男たちはもっと震えだした。全員完全にちびっている。
「でも今ぶちのめして薬師とユニコーンの手をわずらわせるのも心苦しいからもう手を出さないって言うんなら見逃してあげてもいいよ」
 ロキは脅すように手に魔力を集めた。男たちは震えて身動きが取れないみたいだ。
「こいつよりもっとひどい目にあいたいの?」
 ロキが木に蹴り飛ばした男を指差して冷たく言い放つと、男たちはビクッと反応した。
「し、失礼しましたーーーーーーーーーーーーーーー!」 
 ロキの言葉に男たちはすぐに反応して木にたたきつけられたやつをかついでしっぽを巻いて逃げ出した。

「ありがとうロキ。おかげで助かった」
「助けてくれてありがとね」
 おれとお姉さんがお礼を言うとロキはにっこりと笑った。
「気にしなくていいよオーディウス、それと…」
「ステラよ」
「ステラさん。友達を助けるのも、襲われてる女性を助けるのも当たり前のことだよ」
 ロキの言う通りだ。実際行動できるかは別問題だがな。
「あの、1つ聞きたいんだけどお姉さんがこの子の初恋の人だって本当?今でも一途に思っているって言うのは?」
 お姉さん、―――ステラさんはストレートにロキに質問した。
「そういうのは本人の口から聞けばいいんじゃない?まあまず間違いないけどね。この森で魔物に童貞を取られてないってことは」
 そう言うロキの顔は完全にニヤケている。こいつ明らかに楽しんでるな。
「それにしてもそう聞いてくるってことはステラさんもオーディウスのこと気になってたってことだよね。もしかしてステラさんってショタコンなの?」
 ロキはサラリと爆弾発言をした。
「ち、違うのよ。あ、あの、その」
 ステラさんは真っ赤になって否定する。
「冗談だよ。オーディウスの将来性に期待してたんだよね。見込み通りでよかったじゃん」
 やっぱりからかってたんだな。慣れてるおれでも少しドキッとしたんだからステラさんが動揺するのもわかる。
「っ。あまり年上の女性をからかうものじゃないわよ」
「ユニコーンがインキュバスに言っても説得力ないよ」
 そういやこいつインキュバスになったんだった。よく奥さんのヴァンパイア用の入浴剤を作るように頼んでくるからよく覚えてる。
「む、むー。あなたの友達でしょ。なんとかしなさい」
「ムリです。口でロキに勝てる気がしません」
 こいつは口がうますぎるからな。子供のころからよくからかわれたもんだ。

「それよりオーディウス。ちゃんと質問に答えてあげなよ。君も伝えたいことがあるんなら伝えた方がいいだろうしね」
 なんかいきなりこっちに矛先が向いてきた。ロキの顔はどう見てもニヤケている。明らかに楽しんでやがるな。
「オーディウスくん…」
 ステラさんがうるんだ目でこっちを見てくる。…どうやら覚悟を決めるしかないみたいだな。
「おれは、あなたに助けられた時のことははっきり覚えてません。友達から話を聞かないとあなたがユニコーンだってこともわからなかったでしょう」
 おれはロキをチラリと見た。
「それでもうっすらと見えたあなたの姿と、優しい声はよく覚えてます。おれはあの日からずっとあなたのことを思い続けてました」
 おれはそこまで言って顔を伏せた。
「おれは、…あなたのことが大好きです」
 おれは自分の気持ちを素直に伝えた。ステラさんの気持ちはどうなんだ?

「…お姉さんもあなたのことをよく覚えてるわ。将来どうなるのかとか、こっちを向いてくれないかなとか、名前を呼んでほしいなとか思ってたのよ」
 ロキがボソッと「やっぱりショタコンじゃん」とか言ってたような気がしたけどスルーすることにしよう。
「そして不安でいっぱいだったわ。また会えるのかなとか、もう誰か好きな子見つけてるんじゃないかとか色々悪い考えが浮かんでたわ」
 ロキが言ったようなことをステラさんも考えてたのか。おれはロキたちがいたからまだよかったけどステラさんは1人で抱えてたのかもしれない。
「わたしもオーディウスくんのことが大好き!」
 ステラさんはそう言っておれにとびついてきた。そしてそのまま唇を奪われた。
「す、ステラさん?!むっ」
「もう、もう我慢できない。んんっ」
 そう言って舌を入れてきた。いきなりどうしたんだ?!なんでステラさんはこんなに潤んだ目で乱れてるんだ?
「別におかしくないよ。むしろユニコーンとしては普通の反応だね」
 どういうことだ?ユニコーンってもっと固いんじゃないのか?
「誤解されがちなんだけどユニコーンって実は好色なんだよね。自分の夫と認めた人にしか体を許さないけど、逆に夫とは何度も激しく交わろうとするんだよ。逆に言えばユニコーンにとって交わるってことはそのまま夫婦の契りってことだね」
 何か色々すっとばしてないか?なんでいきなり夫になるとかいう話になってるんだ。
「夫がいないユニコーンって旦那様との甘い快楽の日々を夢見て過ごすんだよ。ステラさんはであったその日からオーディウスと色々やるのを夢見てたんんだよね。だからオーディウスに告白されて自分と同じ気持ちだってわかって長年積み重なってた気持ちがあふれ出ちゃったんだよ」
 ステラさんはそこまでおれのことを思っててくれてたのか。
「だからステラさんの覚悟を受け入れてあげなよ。じゃボクはこれで失礼させてもらうよ。大事な契りの場面をジャマするほどヤボじゃないからね」
 ロキはそう言って後ろを向いた。
「あ、ちなみに初めては前の部分の方がいいと思うよ。馬部分でやって獣姦気分を味わいたいんならそれでもいいけどね」
「なっ」
 おれが何か反論しようとしたときにはロキの姿は消えていた。

「ううー。言いたいこと全部言われちゃったわ。しかも一言よけいなのよあの子。あなたの友達って性格いいのか悪いのかどっちなのよ」
 ステラさんが恥ずかしそうに言った。
「どっちかと言うと悪いと思います。それより本当にいきなり夫婦の契りを結ぶ気なんですか?」
 おれはまだ覚悟を決められなかった。もちろん嬉しいんだがまだ気が早いような気がする。
「ダメ、かな」
 ステラさんが不安そうな涙目で見つめてくる。長年我慢していたおれの理性は限界を迎えた。
「……わかりました。おれも覚悟を決めましょう」
 ステラさんはおれの言葉に優しく微笑んだ。

 おれはとりあえず上の服を脱いだ。見てみるとステラさんも脱いでいた。
「あの、おれどうやるかあまりよくわからないけど、優しくしますから」
 おれがそう言うとステラさんは大人びた笑いを浮かべた。
「大丈夫よ。お姉さんがちゃんとリードしてあげるからね」
 ステラさんはおれの手を大きな胸に持っていった。やわらかくて弾力がある感触が伝わってきた。
「す、ステラさん?!」
「こういうのはまず気持ちよくしてあそこを濡らさないといけないのよ。だから揉んでくれない?」
 気がついたらおれの手は誘惑に負けてステラさんのおっぱいを揉んでいた。
「はうんっ。もっと、もっと揉んで!!」
 ステラさんの言葉に興奮したおれはもっと激しく揉んだ。
「ああん。積極的ね。オーディウスくんお姉さんとヤるのを期待しててくれたの?」
 言われてみればそうなのかもしれない。おれが今まで童貞を守ってきたのはステラさんに捧げる日を待ってたのかもしれないな。

「はあん。だ、だいぶ濡れてきたわ」
 ステラさんがおれの手をあそこを隠している布に持っていった。触れた瞬間クチュッという水音がした。
「オーディウスくんの方はどうかなー?」
 ステラさんはそう言っておれのズボンとパンツを下ろした。
「うふふ。どうやら準備万端みたいね。それじゃあ…行くわね」
 ステラさんはそう言っておれを押し倒してきた。その勢いでおれの槍がステラさんをつらぬいた。
「あ、あああああーー!」
 ステラさんは悲鳴を上げた。秘所からは血が出ている。処女膜が破れたんだから当然だろう。
「大丈夫ですか?」
 おれが快感とちょっとした達成感を感じながら聞くと、ステラさんは涙目になりながらも気丈に笑った。
「大丈夫。この程度の痛みなんてオーディウスくんとやっとつながれたことに比べたら安いものよ」
 そういうステラさんの顔は赤くなっている。おれの顔も赤くなっているのはわかっているけどなぜか目を離せなかった。

「じゃ、じゃあ動くわね」
 ステラさんはそう言って腰をゆっくりと動かした。
「くっ」
 おれはあまりの気持ちよさに出しそうになるのをぐっとこらえた。
「あん。ずっと、ずっとこうしたかった。やん」
 ステラさんは激しく腰を振った。その表情は完全に快楽にとろけている。
「くうっ」
 おれはあまりの気持ちよさにあそこが溶けてしまいそうだった。なんだか絡みつくような感触に思わず出してしまいそうなのを歯を食いしばって耐える。
「も、もうイきそう」
「お、おれもイきそうです」
「じゃ、じゃあ一緒にイきましょ」
 ステラさんはそう言ってラストスパートをかけてきた。
「ひゃうん。イ、イっちゃううう!!」
 ステラさんの膣が激しく収縮した。
「ぐうううう!」
 びゅく、びゅる、びゅるるるるる。
「はああん。あ、熱いのが入ってくるぅ」
 おれの射精はかなりの時間続いた。まるでステラさんと出会ってからの10年分溜まっていたものが一気に放出されているような感じだ。
「うんっ。お、オーディウスくんがいっぱい入ってきてるぅ」
 ステラさんの体はビクビク震えている。10年我慢してきたから快感も大きいのかもしれない。おれたちはしばらくそのまま余韻に浸っていた。
「はあ、はあ。かなり気持ちよかったわよ」
 ステラさんが息を荒げながら言った。
「お、おれも気持ちよかったです」
 そう言いながらもおれの息子はまた立ち上がっていた。今まで禁欲してたからかもしれない。
「あは。まだまだできそうね」
 ステラさんはそう言ってまた腰を動かした。
「ちょ、ちょっとステラさん?!くう」
 おれはまた伝わってきた気持ちよさに思わず声をあげてしまった。
「うふふふ。10年間待たせた分しっかりやらせてもらうからね『旦那様』」
 ステラさんの声に理性が保てなくなったおれは自分から腰を振り出した。
「ああん。いいわ。もっと激しく突いてえ!」
 森の中に嬌声と水音が響き渡った。

「満足したわ。さすがにもう限界…」
 ステラさんは幸せそうにそう言いながらぐったりとおれの上に倒れこんできた。
「ふう、お、おれももうダメです」
 というより普通だったらここまでできなかっただろう。あの角って精力まで回復させることができたんだな。
「本当に初めてなのにずいぶん盛んだったね。長い間待ってた初めてだったからこそなのかもしれないけどさ」
 その時予想もしてなかった声が聞こえた。
「ろ、ロキ!帰ったんじゃなかったのか?!」
 さっき確かに失礼するって言ってたはずだ。
「ボクは『ジャマしない』とは言ったけど『見ない』とは言ってないよ。ちゃんと気配消して見てたからいいじゃん」
「いや、全然よくないわよ」
 ステラさんは顔を赤くしながらツッコんだ。乱れてる様子を人に見られるのは恥ずかしかったんだろう。
「そんなに見られたくないんだったらこんな所でヤらなければよかったんじゃないの?ここらへんにどれだけ魔物がいるかぐらい知ってるよね」
 そう言うロキの後ろにはアルラウネとかハニービーとかホーネットとかが顔を覗かせていた。
「それじゃ今度こそ行くよ。2人とも兄さんの研究の役に立ってくれてありがとう」
 ロキはノートをこれ見よがしに振った。
「何よあのノート?それに兄さんって誰?」
 ステラさんはわけがわからないという顔で首を傾げた。
「ノルレ=ヴェーデルシュルグって知ってます?」
 ステラさんが驚いたような顔をする。
「ノルレって、珍しい魔物や特殊な魔物の研究をするっていう魔物学者のことよね?なんでお姉さんがそんな人の研究対象に入るわけ?」
「入るよ。このデータがあれば普通のユニコーンと男が交わったときと、夫に特定の人を指定してるユニコーンがその相手と交わったときとを比較することだってできるじゃん」
 ロキはニヤニヤ笑って言うとおれたちは赤くなった。
「それじゃ今度こそ帰るね。2人とも末永くお幸せにね」
 ロキは手を振ってすぐに走り去った。こっそり見ていた森の魔物たちも生暖かい視線を向けながら森の中に消えて行った。
「しっかり見られてたわね…」
 ステラさんがダルそうに言った。疲れで追いかけたりする気力がなかったんだろう。
「そうですね…」
 おれも疲れて全く動けなかった。さすがにやりすぎたせいで腰が動かなかった。
「…いきなりこんなことになっちゃったけどこれからもよろしくね旦那様」
 ステラさんはトロンとした目でおれを見つめた。
「こちらからもよろしくお願いします」
 おれはそう言って口付けをかわした。

         おわり
10/05/06 06:17更新 / グリンデルバルド

■作者メッセージ
少し長くなりすぎたような気がします。なんというかかなり書くのに苦労しました。

今回はロキを少しキレさせてみました。『神々の陰謀』も実はかなりキレていたというように修正しておきました。よかったら読み直してみてください。

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