連載小説
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過去
―明智平 駐車場―


アカオニ「クソ!!クソ!!クソォ!!!!」

ボゴォン!!グシャア!!

ウシオニ「お…、おい…」
アカオニ「うるっせェ!!」

ドゴォン!!

ウシオニ「…!?」ビクッ!

渉に大差でに負けたアカオニ
感情の猛りを制御できず
その矛先はアカオニ自身の車へと向けられていた
人とは比べられないほどの力を持ったアカオニだ
数分前まではちゃんとした車であったものは見る影もなく
まさにスクラップ工場においてある物と同等である

アオオニ「もうやめろよ!車が――」
アカオニ「うるせッつってんだろォが!!」

バキィ!!

アオオニ「がはァ!!」

殴られ、吹っ飛ばされるアオオニ
最早手のつけられない状況であった

「「大丈夫か!!」」

まわりで唖然としていた何人かが
慌ててアオオニに駆け寄る

バリィン!!ドォン!!

吹っ飛んだアオオニの事も気にせず
尚もアカオニは我を忘れて
愛車だったものを殴り続ける

セツナ「落ち着け!!」
エレナ「いい加減にしろォ!!」

ここで止めに入ったのは
セツナとエレナであった

アカオニ「やめろッ!!離せェ!!」

暴れるアカオニを
二人掛で羽交い絞めにし
押さえつける

セツナ「もうやめろ!!自分の車をよく見ろ!!」
アカオニ「ア…!?」
セツナ「わかったか!ならもうやめろ…!」

自分の車の状況にようやく気づき
落ち着きを取り戻すアカオニ

エレナ「落ち着いたかい」
アカオニ「チッ…もう離せよ…」

アカオニを解放する二人
それを呆然と見つめる一同

瞬「なぁ…、なんでアンタはそんな風になっちまったんだ?」

唐突に瞬が口を開いた

アカオニ「…言ってる意味がわからねぇな」
瞬「何でアンタが、こんな風に車をボコボコにしたり、男を無差別に襲うようになったかって事だ」
アカオニ「てめぇには関係ねぇ…」
瞬「確かに他人の事だし関係ないかもしれないが、目の前でここまでやられちゃあ黙ってられない…。なぁ…アンタの人生にいったい何があったんだ?」
アカオニ「…」

瞬の問いに黙り込んでしまうアカオニ
固唾を呑んで見守るそれぞれの仲間達
やがて、アカオニはしばらくの沈黙のあと
おもむろに言葉を発した

アカオニ「虐待を…、受けていた」

「「!」」

アカオニの言葉に
皆驚いた表情を見せる
アカオニは気にせず
言葉を続けた

アカオニ「アタイの親は、二人ともちっちぇ頃に死んじまった…。まだこっちの世界に繋がる何年も前の事だ。身寄りのなくなったアタイは親戚の家に引き取られた。だがそいつらは…、最低なクズどもだったよ…。その親戚は二人とも人間だった。引き取られて早々、アタイに親やアタイの文句を垂れやがった。面倒を押し付けてくれた、とか、なんでこんな奴を引き取らなきゃいけない、とかな。最初の頃はそれだけだった。それだけならまだよかったよ。だがな、だんだんとエスカレートしてったんだよ。言葉はそのまま暴力に変わっていき、言われる言葉も死ねとか消えろというようになっていった…。毎日のように殴られる日々…、遊ぶどころか…、娯楽なんて一切認めなかった。ゆとりなんてものはなかった。ただひたすら殴られて、文句をぶつけられ、最終的にはアタイはボロ雑巾のようだったよ…」

一旦話を切り
タバコを一本取り出して
火をつけるアカオニ

アカオニ「ふぅーー…。13ん時かな?復讐を考えたのは。よく考えていたよ…、なんでアタイがこんな目に、どうしてこんな風になってしまったのかってな…。そして、復讐という言葉が浮かんだんだ。まずはあのクソ野郎どもを見返す事だった。だがそん時のアタイは、魔物といってもまだガキで非力だった。だから、アタイは自分が成長するまで耐えた、何年かの年を耐えに耐えぬいた。そして16の時、いつものようにアタイを殴ろうとしてきたアイツらを逆に殴り飛ばしてやった。いつもマグロだったアタイがいきなり反撃したもんだからアイツら腰抜かして動けなくなっちまってさ。アタイは動けないアイツらをひたすらぶん殴った。それこそ顔がグチャグチャになるくらいにな。気づいたときには半殺しになってた。フン…、バカだよな…、散々アタイをぶん殴ってボコボコにしてきたクセに、自分がやられるとあのザマだもんなぁ。それからアタイは、半殺しのそいつ等をほっぽって家を飛び出したんだ。」

アカオニは吸っていたタバコを捨てて
新しいタバコに火をつける

アカオニ「だが、こっからの人生も酷かった。ロクに家から出してくれなかったもんだから、アタイは外の事なんてまったくのチンプンカンプンだった。行く当てもなく彷徨って、挙句の果てに野盗共に捕まっちまって、散々犯された。慰みモノとして扱われた挙句、そこらの草ッ原に打ち捨てられた。それからだろうな…、アタイの何かが壊れちまったのは…。自暴自棄になったアタイはそこらの盗賊と変わらなかった。モノや金は盗み、気に入った男は犯して身包みを剥ぐ。殺しまではやらなかったがな…。そしてしばらく盗賊まがいを続けていて思ったんだ。自分は何をしてんだろって。こんなんじゃ、あのクズ共と変わらないんじゃってな。そん時にこっちの世界の事を聞いて、もしかしたら自分の何かが変わるんじゃないかって思ったんだ。んで、こっちの世界に来たんだ。確かに変われたさ…、こっちの社会の仕組みを覚えて、一年後には会社にも勤めるようにもなって。車という趣味も見つけた。でもやっぱり、刷り込まれた過去には勝てなかった…。こっちの平和な日常はよかった、だがアタイはそれと対照的な過去が辛く蘇ってくるようになっていった…。またあんな風になるんじゃないかとか…、この日常がいつか崩れるんじゃないか…とか。それからだ、走り屋を襲うようになったのは。アタイはそのストレスを走り屋たちにぶつけた。いつの間にか仲間も増えてきて、いつからかもう心の拠り所の1つとなっていったんだ…。でもやっぱり、過去は消えなかった…。今でも蘇ってくる…、その度に死にたくなる…。もう…もう…、辛くて……仕方がないんだよォ……」

アカオニは全身を震わせ
涙を堪えながらも話を進めた
だが、肝心な言葉は
段々と弱くなっていき
結局は聞こえなくなってしまった

瞬「そう…か…」

その話を黙って聞いていた瞬は
静かに歩き出した
そして、アカオニの前まで来ると
スッと抱きしめたのだった

アカオニ「な、なにを!?////」
瞬「辛かったな…、俺がにはその辛さはわからないが、泣きたければ泣け…、胸貸してやるから…」
アカオニ「誰…が……うぅ…」

涙を堪えるアカオニを優しく頭を撫でながら瞬は言葉を続ける

瞬「今のアンタは独りじゃない、話し合える仲間がいるじゃないか…、だから大丈夫…」
アカオニ「な…かま…」

アカオニはまわりにいた自分の仲間に目を向ける
すると今まで黙っていたアカオニの仲間達も
口を開き始めた

ウシオニ「そうだよ、アタイらはアンタの仲間だ。」
オーガ「アタイらは、アンタといて楽しいからつるんでんだぜ?」
アオオニ「殴られた事はチャラにしてやるから、早く元気だしな」
アカオニ「お、まえ…らぁ…」

仲間からの励ましを受け
涙を堪えきれなくなるアカオニ

瞬「な?アンタはもう独りで背負わなくていいんだ…」
アカオニ「うぅ…うわぁぁぁぁぁ!!」

その言葉を聞いたアカオニは
瞬の胸で泣き始めたのだった―――




瞬「落ち着いたか?」
アカオニ「ああ…もう大丈夫だ、離せ…////」
瞬「わかった」

しばらくして泣き止んだアカオニは
瞬から離れ、仲間達の方へ歩いていった

アカオニ「すまなかった、騒がせて。あと、ありがとう…」
オーガ「いいってことよ!」
ウシオニ「まったく!そんな事あったんなら最初に言えよなー!」
アオオニ「んだからよー、言ってくれればどうにかなったかもしれねーのに。まぁ、気にすんな」
アカオニ「ああ…」
ウシオニ「これからはよぉ、こんな事やめてもちっとまっとうな生き方しようぜ?」
オーガ「だな、そろそろ旦那も欲しくなってきたしな」
アオオニ「全員で生き方を探そうぜ」
アカオニ「そうだな…!」
渉「上りのバトルはどうしますか?」
アオオニ「もういいんだ、アタイらの負けだ。な?皆いいだろ?」

アオオニの問いに全員が肯定した

渉「わかりました。では、俺達はそろそろ撤収しますね」
アオオニ「ああ、今回はすまなかったな」
渉「いえいえ、こちらこそ。ありがとうございました。」
アオオニ「ああ」

鶯の面々は撤収の準備を始めた
すると、アカオニは瞬のところへと向かった

アカオニ「さっきはありがとな」
瞬「たいした事ないって」
アカオニ「いや、お前のおかげだよ。また、まっとうに生きていこうと思う」
瞬「頑張れよ、応援してるから」
アカオニ「ああ、あとアタイの名前は沖田京。お前は?」
瞬「斉藤瞬だ」
京「瞬…か。あと、これアタイの連絡先。」
瞬「ああ」
京「あとさ」
瞬「ん?」
京「あのサラマンダー、お前の女か?」
瞬「うぇ!?」

いきなりの問いにうろたえる瞬

瞬「そ、そうですけど、なんでですか?」
京「いやさ、お前に抱きしめてもらった後からずっっっと、ガンとばされてんだよね」
瞬「え゛」

恐る恐る振り向く瞬
そこには、研ぎ澄まされたナイフのように
視線だけで人が殺せるのではないかというような
ものスゴイ眼で瞬を見るセツナがいた

瞬「ひっ…!」

あまりの恐ろしさに瞬は生命の危険さえ感じていた

京「まぁ…ガンバレ…」

京は哀れみの眼を瞬に向ける

京「あと…」

いきなり京が瞬の耳元へに口を持っていき

京「アイツがイヤになったらいつでもアタイに連絡よこしな…、お前なら大歓迎だ…」

言い終えると、瞬の頬へと軽いキスをし
じゃな!っと、そそくさとボコボコの車の方に行ってしまった
最早恐怖で動かない体を無理やり動かし
逃げるように自分の車へと向かう瞬
だが残念、手首をガシッと何者かに捕まれてしまった
ゆっくり、ホントにゆっくりと瞬は振り向くと
そこには史上最高の微笑みを浮かべたセツナが
瞬の手首をガッチリと捕まえて立っていた
表面上はニッコリと、とてもいい笑顔を浮かべているが
状況的に考えると
最早睨みなどの表情などのどんな表情よりも恐ろしいものとなっていた
何よりも眼が笑っておらず
先ほどの睨みよりも何倍もの眼力を持っていた

セツナ「ちょっと話があるんだが、いいか?」ニッコニッコ
瞬「…はい」ガクガクブルブル



              
その後、ホテルでは
瞬とセツナの部屋からは
瞬のもの凄い悲鳴が
しばらくの間、響き続けたというという――――





14/05/26 21:23更新 / 稲荷の伴侶
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■作者メッセージ
どうも、稲荷の伴侶です。

ちょっと今回はシリアス展開を入れてみました。
いつもより字数がちょっとだけ多くになりましたが、いつもが少ないだけですよね(^_^;)

これからもがんばっていきますm(_ _)m

次回、サバンナ

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