読切小説
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応じぬ心へ、お願いを
「―ということになっております」
「ご苦労様」

私の一声に部下であるアヌビスは頭を下げた。姿勢が、頭を下げる角度が、全てが完璧と言えるほどきちっとした姿に何度もいい部下に恵まれたと思わされる。
ただ、隣にいる男性の頭を大きな手で引っつかみ、自分同様に頭を下げさせていることを除けば。

「もっと頭を下げろっ!」
「下げてる…すごい下げてるって…っ」

小声で私には聞こえないように言っているのだろうがちゃんと聞こえている。その様子に苦笑しつつ私は二人に頭を上げさせた。

「二人共、本当にありがとう」
「もったいなきお言葉です」
「ありがとうございます」
「それで、貴下は残ってくれないか?」

その言葉に二人は顔を見合わせ、私の視線に気づいてアヌビスが杖で隣の男性を強めにつついた。驚いた表情を浮かべた彼はアヌビスに今度は肘でつつかれた。

「何…?」
「王の前でそんな表情をするな!失礼だろう!」
「いや、驚いただけでそんな…痛っ!」

今度は杖の先端が足に食い込んだ。彼の足には靴があるとは言え痛そうだ。

「お見苦しいところをお見せして申し訳ございません」
「大丈夫だ」
「それでは、失礼します」

そう言うとアヌビスは一礼して私に背を向けて歩き出した。途中、彼の肩を叩いて小声で何か言っていたが…きっと失礼のないようにとでもいうのだろう。
大きな謁見室のドアが閉じられ、広い空間は静寂で埋め尽くされた。
私は男性を見て微笑みを見せた。緊張するように硬い体にもっと楽にしていいと言う意味を込めて。
しかし彼は私の笑みを見ても気づかないのかその場に立ったままだ。それどころか片膝を床についた。

「して、このような粗忽者に対して一体どのような御用でしょうか。偉大なるファラオ、アレイア様」

そう言って彼は仰々しく頭を垂れる。私は彼のそんな姿を見て小さくため息をついた。

「やめてくれ。私は貴下にそのようなことをさせたいわけではない」
「失礼しました」
「敬語もやめろ」
「はい」
「やめろ」
「……わかったよ」

困ったような、どことなく呆れたような声と共に彼は頭を上げた。
ここらでは珍しい褐色ではない肌の色、この砂漠でもいるはいるが、それとはどこか違う黒い髪の毛。それから、砂漠の太陽の光さえも捉えて吸い込みそうなほど暗く深い闇のような瞳。見つめると底のない空間へと引き込まれそうな、そんな不思議な魅力のある男性。
それが彼、黒崎ユウタという男性だった。

「いつも言ってるだろう。私に敬語は使わないでくれと」
「そうは言ってもね、先輩が失礼だぞって杖で殴ってくるんだよ。目上の人、それも自分が仕える主人なのだから敬語は基本だろうってさ」
「それは困ったな」

仕事のできる有能な部下に恵まれることは嬉しいこと。だがあまりにも真面目すぎるのも考えものだ。これは後で説教でもしておくべきだろうか。
そのように考えていると私に絡みついていた蛇―エルペトがユウタの方へと身を寄せた。

「おっとっと」

彼は特に恐れるわけもなく頭を撫で、擽るように指を体に這わせていく。エルペトは嬉しそうに身を捩った。

「…」

正直望ましい。羨ましい。私にもやってほしい。
蛇相手に嫉妬するのもどうかと思うが、それでも思ってしまうのだから仕方ない。

「ユウタ」
「ん?何?」
「私にもしてくれ」
「…んん?」

一気に怪訝そうな表情を浮かべる。拒むわけではないだろうが、従順に応じるわけでもない。私の言葉に跪く素振りもない。
それでも恐る恐る手を伸ばして彼は私の頭に手を置いた。

「…いい子いい子」
「…なんか子供っぽいな」
「仕方ないじゃん」

それでも言葉にできない心地よさがある。私は目上の者だから敬われることはないが、褒めるものもいない。誰もしてくれないことをしてくれるユウタの行為はむず痒くくすぐったいところがあるが、悪くない。
そんな彼はとても不思議な男だった。
本来なら私の命令は誰もが絶対服従。真面目なアヌビスでも、普段仕事をサボりがちなスフィンクスでも、主神を崇める教団の勇者だろうと、誰もが跪き、頭を垂れる。抗える者などほんの一握りしかいない。
例えば、私と同等の力を持つ御方。
しかし、彼からは膨大どころか微塵も魔力を感じない。何か秘められた力を持っているようにも思えない。黒髪黒目の風貌は思わず惹かれてしまうほど綺麗なものだがその特徴以外これといって目立ったものはない。
なら、心の底から受け入れられない命令だったということ。
だが彼は拒むところは拒んでも、結局は「仕方ないな」と笑って応えてくれる。まるで子供の相手をする親のような、世話を焼く兄のような姿だ。
だが私はユウタの妹になれる年齢ではない。彼はまだ十代後半だろう。それに引き換え私は数千年眠っている身であって…………何歳だったか?
とにかく、私の命令を全て受け入れないユウタだが心の底から拒んでいるという感じでもない。それでも心の底には絶対に曲がらない信念のような、絶対に染め返せない意地のようなものがあるように思える。
手のかかる弟のような、世話焼きな幼馴染のような、頼りがいのある兄のような、そんなユウタ。私の命令を聞いてくれないのが悔しいが、それに近いことをしてくれるのは嬉しい限りだ。
私は彼を支配したいという願望が心にある。だが、その反面彼の優しさがもっと欲しいと求めている。

「なぁ、ユウタ」
「ん?何?」

優しい手つきで頭を撫でてくれるユウタに向かって私はねだるように言葉を紡いだ。

「汗をかいてしまった。湯浴みを手伝ってくれないか?」
「先輩連れてくる」

すぐさま逃げ出された。謁見室のドアをわずかに開き、その隙間からすり抜けるように部屋を出て行く。気づいた時にはドアが閉じて私は一人取り残されていた。

「…」

私は一人、ため息をついた。
やはりユウタは従わない。後一歩というところで絶対に拒まれる。私の力が及んでいないわけではないのにだ。
でも、全てが全て思い通りに行く世界など面白みもない。私の一声に誰もが跪き、頭を垂れるなどつまらない。そんな中でユウタの存在はとても興味深いものだ。ただ少し、焦れったくもあるのだが。
本当に彼は何者なのだろう。





初めて出会ったのは私が外を歩いていた時だった。水が沸き立ち、緑に埋め尽くされたオアシスを気分転換に歩いていた時に見つけた。オアシス内で一番大きな木下に倒れて伏していたのは男性。奇妙な顔立ちに見たことのない高価な服。ここらでは見られない肌の色にジパング人の特徴と一致する黒髪。ここら砂漠地帯で魔物の姿はよく見かける。私の遺跡内にも沢山いる。だが男性の姿となるとそうそう目にすることはない。
旅人だと思った。だがそれにしては彼の周辺には何もない。旅をするための荷物らしきものは見当たらない。
なら魔道士か。転移魔術を使ってここまで来たと考えるのが妥当だろう。だがそれにしては彼の体からは微塵も魔力を感じられない。
新手のマンドラゴラやドリアードという可能性は…ないか。
だがそんなことを思案していると彼の肌に玉の汗が浮かんでいることに気づく。日光を遮るための長袖長ズボンはいいだろうが、生地が厚いらしく風通しが悪そうだ。そんな格好で日差しの当たる場所にいれば脱水症状を起こしてしまうというのに。
連れて行こう。そう思い立つまでに時間はかからなかった。
変わった特徴に興趣が尽きない。
奇妙な身なりに興味をそそられる。
不思議な雰囲気に関心を寄せてしまう。
だから私は意識のない彼を担ぎ上げて遺跡内へと連れ帰った。触れ合った肌から伝わるやや固めの筋肉の感触。それから細身なのに意外と重い体重。女性相手に感じることはできない男らしさに思わず恍惚としてしまったのは秘密だ。
その後ユウタはよくやってくれた。仕事はアヌビスと一緒にこなすし、私が暇なときは相手をしてくれる。二人きりの時に見せてくれるただの王と部下の関係ではない気楽な姿はとても好ましいものだった。
誰もがしないことを彼はしてくれる。立場など関係なしに、王であることなど無関係に。
まるで気さくな友人相手のような扱いだったが、たったそれだけのことがずっと王であった私にはとても嬉しかった。








砂漠の夜はそれほど暗くない。街のように明かりで照らされてはいないものの月の光が十分照らし出してくれる。流石に遺跡内まで届きはしない分、ロウソクや松明で代用するが。
自室の中央にいくつものロウソクを並べ、私はユウタと向き合っていた。テーブルの上に置かれているのはいくつもの駒のようなものと大きなマス目のある板。
これはセネト。大昔に流行り今でも形を変えて遊びとして存在するゲームだ。
ユウタは駒を一つ手にして動かす。そして私に探るような視線を向けてきた。
夜の闇よりもずっと濃い色の瞳。ただ見つめているだけでも吸い込まれそうな雰囲気。ロウソクの光で照らし出された彼はどこか不思議なものを漂わせる。
そんな彼を見つめて私も駒を一つ動かした。

「…あ」

その一瞬にユウタの表情が変わる。しまったと後悔するように。

「また私の勝ちだな。これで5勝だ」

私はゲーム板の駒を弾いた。どうやっても逆転などできない状況に追い込まれた相手の駒は逃げ出すことさえ不可能。完全なる私の勝利だ。
クスクスと笑うとユウタも頭を掻きながら笑みを浮かべた。

「本当にユウタは弱いな」
「自覚はあるよ。どうもこういうチェスとか将棋みたいなものは苦手でさ」
「ワンパターンなんだ。すぐに守りに徹する癖があるから読みやすい」
「あちゃー」

残念そうにするその一挙一動が面白い。どことなく子供のようなカラカラ笑う無邪気な姿に思わず笑みがこぼれてしまう。
手元に置かれていたコップから水を一口飲み込み、ちらりと窓の外に見える月の位置を確認するとユウタは言った。

「アレイア、もうそろそろ寝たほうがいいんじゃ?」
「別に明日は早いわけではない。仕事もあってないようなものだしな」
「オレは一応あるよ」
「む、そうだったな。それなら寝るか」
「それじゃあオレは部屋に帰らせてもら―」
「待て」

私は椅子から立ち上がるユウタを制した。
砂漠というのは昼は容赦なく太陽が照りつけ、とても厳しい熱さになる。だが逆に夜はそんな熱さが嘘のように寒くなる。素肌を晒すことなどできないくらいに。
だから私はベッドに座り、彼を迎え入れるように手招きした。導くようにそれでいて、誘うように。

「なぁ、ユウタ。砂漠の夜は寒い。それはよく知っているだろう?
「そりゃね。もう結構長くここに居るんだし砂漠の気候も慣れてきたよ」
「なら…」

私は命令をする時と違い、甘えるように言葉を紡いだ。

「私を、温めてくれないか?」

もうこれ以上逃すわけにはいかない。
ただでさえマミーやスフィンクス、ギルタブリル、他にも様々な魔物がいるこの遺跡内は未婚の魔物も多い。その中で誰とも契らない男一人いることがどれほど危険かユウタ自身わかっていない。
普段先輩と呼んで慕うアヌビスも同じ未婚であり、彼に仕事以外の感情を向けていないとは言い切れない。彼女もいつ行動を起こしてくるかわかったものではない。それは私とて同じ。
ユウタを欲しいと求めてる。
ユウタを支配したいと思ってる。
それでも全てが全て縛れるわけではないので目の届かないところで何をされているのか分からない。不安は募るばかりだ。
だからこそ、今日は少しばかり距離を縮めたい。いつも夜には二人でゲームをするがたったそれだけで終わってたまるか。そもそも二人きりなのに何もしてこないユウタもどうかと思う。
だがそれでも彼は一瞬固まり、何事もなかったかのような素振りで言う。

「…毛布持ってくる」
「……」

私の部屋から逃げ出そうと走り出したユウタに向かってエルペトを投げつけた。すぐさまドアの前に先回りして威嚇するように牙を向ける。今にも噛み付きそうな行動にさすがのユウタも足を止めた。
そこへ私はゆっくりと近づいていく。

「なぜ逃げ出す?」
「いや、毛布とってこようとしてるだけだって」
「私の言葉は何だった?毛布などと一言も言ってないぞ?温めろ、そう言ったんだぞ?」

そう言ってもユウタは私の言葉に従う素振りを見せない。それどころかゆっくりと距離を開けこの部屋から逃げ出せるところを探しているようだった。
イライラする。自分の思い通りにならないのは面白いと思っていたがここまで拒まれてはさすがの私も我慢の限界だ。
私は静かに命令を下した。

「座れ」
「っ!!」

その一声にユウタの体は無理やり力を加えられたように足を付き、頭を垂れた。抵抗しようとしても抗えず体が震えている。

「流石に私も我慢の限界はある」
「…」
「いいか、私の質問に正直に答えろ」
「…はい」

流石に今度ばかりは抗う気も起こさせない。それにここまで従うのならばユウタに拒む意志があるわけではないらしい。言葉遣いも堅苦しい敬語になり好ましくなくなったが仕方ない。
私は膝をつく彼を見下ろして淡々と述べていく。

「私の体はそんなに魅力がないか?」
「あります」
「年上は嫌か?」
「タイプです」
「胸の大きな女性は嫌いか?」
「好みです」
「褐色肌は受け入れられないか?」
「アリだと思います」
「なら―」

私は全ての者を従える王者の声色で命令を下した。



「私を抱け」



「それは嫌だ」

即答だった。
今まで従順に答えていたのにいきなり否定が来た。真っ直ぐにこちらを見つめ、闇よりも黒い瞳が私を捉える。瞳に宿る光は明確な拒絶の意を示していた。
何が何でも従わないという強い心。先ほどとは違う、絶対に揺さぶれず染められない意志。
それに興味を惹かれていたのだが今は違う。ここまで拒まれては私も苛立つというものだ。

「なぜだっ!?なんでそこまで受け入れられるのに否定するんだ?!」
「…」
「答えろっ!」

私の言葉にユウタはゆっくりと立ち上がった。だけどその姿は普段とは少し違う。優しく温かな雰囲気はなくなり、張り詰めたような気迫を感じる。鋭い眼光で射抜くような視線を私へと向けてくる。
一言で言うならば怒っていた。
だが、それだけじゃなく呆れてもいた。

「じゃあ、聞くけど…命令だからしなきゃいけないってわけ?」
「…っ」
「正直言うと内容は滅茶苦茶嬉しいよ。アレイアは美人だし、なんでも言う事聞きたくなる。でもさ、命令だからってそういうことしたくはないんだ」

そうか、ユウタが私の命令を拒めた理由はこれか。命令の内容を嫌がっていたわけではない。命令されること自体を心の底から拒んでいたんだ。
理由は単純。それでも感情は複雑に。曲げられない意地を通し、染められない心でいる。これでは従えるのも一筋縄ではいかないだろう。
型にはまらない性格は王に忠誠を誓うような者ではない。その分自由で気ままで楽しい時間を共に過ごしてきたがここぞというところで言葉で縛れない
だからもっと一緒にいたいと思った。
それ故もっと密な関係になりたいと願った。
ユウタが欲しいと、求めたんだ。

「逆に聞くけど…命令だからってなんでもしてくれるのって嬉しい?」
「…それは」
「人の気持ちを命令だからなんて理由で押さえつけるのって、そんなに嬉しい?」
「…」

嬉しくはない。自分の思い通りになる世界などつまらないだけだ。だからこそ一筋縄ではいかないユウタにとても興味を持った。全てが全て支配できない彼にとても好意を寄せていた。
それなのに、これだ。縛れないはずの彼を無理やり従えようと命令を下す。言葉を用いて絡め、縛り、捉えて従える。それを良しと思ってなかったのに。
私はただの愚か者だったのかもしれない。

「そうだな…すまない。私は愚かだったようだ」
「いや、わかってくれたなら嬉しいよ」

そう言ってにこりとユウタは笑みを浮かべた。基本どこか子供っぽさがある彼だが時折核心をついてくる。こんな変わった男性は長い眠りにつく前にも存在しなかっただろう。
だからこそ、私の心は惹かれたのかもしれない。

「なら…その、ユウタ…」

私は自ら歩み寄る。一歩一歩ゆっくりと近づくが今度ばかりは彼は逃げ出そうとしなかった。手を伸ばせばすぐに触れられる位置で足を止める。そして私は静かに言葉を紡いだ。
命令ではない。
従わせるつもりはない。
私の気持ちで、お願いだ。

「口づけをして、いいか…?」

その言葉にあれほどのことを言っておきながらユウタは驚きの表情を浮かべる。今まで命じてきたことに比べると絶対に踵を返して逃げ出すような言葉なのだから当然だ。それに気づいたエルペトが阻止するために警戒するがユウタはその場で恥ずかしそうに頬を掻いただけだった。

「…いいよ」

まるで青春を謳歌するような初々しい甘酸っぱい雰囲気に包まれる。そんな中で自然と手と手が重なり、私もユウタも一歩踏み出した。
詰められた距離。二人の体は触れ合い隙間は存在しなくなった。あと少し首を伸ばせば唇が触れるという位置で私はユウタを見つめた。
漆黒のような闇の瞳。優しい笑みを浮かべた顔。風変わりで奇妙で、とても愛おしい男性。
私は彼の頬に手を添えて、そっと唇を重ねた。

「ん…ちゅ…♪」

触れるだけで離してしまう。むず痒くもどかしい子供っぽい口づけだった。ただそれだけでも感じる、頭の中へ染み込んでくる甘さに思わずくらっとしてしまう。
まるで菓子のようにとろける甘さ。触れるだけでここまで感じるのだからもっと深くまで口づけたらどうなるのだろうと興味が尽きない。さらにはこの味が、この行為がもっと欲しいと本能が求めている。
私はすぐさま二度目の口づけをした。

「ん、ふ…♪ちゅ……んん……」

一瞬驚いてユウタの体が固まる。だがわかってくれたように力を抜くと私の背中に腕を回して抱きしめてくる。優しくも力強い抱擁に私からも抱き返した。
舌を用いて唇を舐めとり、その口内に這わせていくと先ほどよりもずっと濃密にハッキリと感じられる。吸って啜って、吸い付いては舐めてまた啜る。
湿った唇とは違う柔らかいものに舌先が触れ、それと同時にとろけるような甘さを感じる。これがユウタの舌だと気づいた私は積極的に絡め、啜った。

「ん♪ちゅ…ん、ふ♪」

徐々に激しさを増していく口付け。いつの間にかユウタからも唇を押し付け、舌を使って深くまで啜ってくる。それがたまらなく嬉しくて私の体の奥が熱く疼いた。
だけど足りない。
これだけじゃ足りない。
私が求めているのはもっと先。これ以上に密な繋がりで、深い交わりこそが私の欲しているもの。
一度唇を離し、私はユウタの手を引いてベッドの上に上がった。無言で彼に視線を送るとわかったように頷き、自分の服に手をかける。
ベッドの外へと脱ぎ捨てられる服。そこから現れたのは引き締まった鍛えられた体。普段体の線のわかりにくい服を着ていて細身に見えるがこうして見るとかなり鍛えられているのが伺えた。
胸に指を這わすとやや硬めの感触が伝わってくる。それだけではなく早鐘のように脈打つ鼓動も指先に感じられた。

「随分と鼓動が早いな。ふふ、緊張しているのか?」
「…こっちは初めてなんだよ」

いじけたように顔を背けるユウタ。耳まで赤くしたその姿はなんとも愛らしくある。
それに初めてというのもまた嬉しいことだ。
私も身につけていた僅かな服を脱ぎ捨ててユウタの上に覆いかぶさるように体を寄せる。ベッドの上で互いに肌を晒しているだけでも興奮による息苦しさとこれから先の期待で体がとろけてくる。

「アレイアの体だって綺麗だね」

肌を晒した私に何気なく言った一言だったがそれだけでも体がぞくりと疼いた。不意打ちのような発言に顔が真っ赤になるのが分かる。
この男は本当に底が読めない。まるで闇に包まれているように何も読ませない癖に人を喜ばせるようなことをピンポイントについてくる。

「い、入れるからなっ」

照れ隠しのようにそう言って既に硬くなったユウタの男の部分を手にとった。まるで鉄のような硬さを持ちながら燃えるように熱いそれを掴んだ瞬間、ユウタが顔を歪める。

「あ、済まない。痛かったか?」
「いや、痛くないよ。ちょっと驚いただけ」
「そ、そうか…なら、入れるぞ…?」

既に濡れそぼった秘所に膨らんだ部分をあてがった。自分で触れなくても分かるほどに湿ったそこはにちゃりと淫らな音を立ててユウタを迎え入れた。

「うぁっ!」
「くぅ…ぁあっ♪」

自分の中で何かが切れる音がした。それと同時に体に走る痛み。膣内をごりごりと引っ掻かれる気持ちよさとは違う逆の感覚に私は一瞬表情を歪める。事実、体内ではユウタの陰茎によって私の純潔が突き破られていた。
その感覚に気づいたのかユウタが顔をあげる。浮かべているのは驚愕の表情。

「…初めて、だったんだ?」
「…悪いか?」
「いや、嬉しいよ。でも…大丈夫?」
「少し、ピリピリするだけだ」

奥までしっかりとくわえ込んだ肉棒は熱く脈打ち、私の中を満たしている。自分ひとりでは絶対に得られない甘い感覚とわずかにピリピリする痛み、それからユウタと体を交えているという充足感が私の心を満たしてくれる。
ただ息を吸って吐くだけでも膣壁はわななき、形を確かめるように蠢いては抗いがたい快感をはじき出す。あまりの気持ちよさにわずかながらも恐怖を覚えた。このまま動いたらどうなってしまうのか、体がバラバラになってしまうんじゃないかと。

「…本当に大丈夫?」

体を起こして心配そうに覗き込んでくるユウタ。命令には従わないのにこんな時でも気遣ってくれる彼の心に嬉しく感じた。
だけど、ここで止まれない。交わりはこれだけで終わりじゃない。やっと繋がり合えたのにこんなところで終わってたまるかと言うんだ。

「ああ、平気だ…」
「…」
「そんな疑わしい目をするな。そんなに心配なら…私の手を握っていてくれないか?」

命令ではない、ただのお願い。従える力など微塵もない言葉だがそれでもユウタは頷いて私の手をとった。指を絡め、まるで恋人のように重なり合う。ただそれだけでも先ほどよりずっと心が落ち着いた。

「…優しい手だな」
「そう言うアレイアの手は綺麗だよ」

落ち着けるように笑ってみせるユウタに体の奥がまた疼く。嬉しくて、愛おしくて、とても心地いい感覚に私は目を細めた。
それから心も落ち着き私はゆっくりと体を動かし始めた。下ではユウタが私に合わせるように動いていく。

「あ…あっ♪はぁぁあ♪」

わずかに動いただけでも目の前を真っ白に染め上げる快感が体中を駆け巡った。思わず漏れ出す艶やかな声を我慢できない。ゴリゴリとユウタが膣内をこすり上げられる感覚に膣肉は軋みながらも嬉々として受け入れ絡みつく。それどころか自分からねちっこく腰を動かしてしまう。
気持ちいい。感じたことのないぐらいに気持ちよすぎる。
恐怖さえも塗り替えしてしまうほどの快楽は私をバラバラにししてしまいそうなほど強烈だった。それでもユウタの握ってくれた手が心を落ち着けてくれる。

「ん、ぁ…あっ♪あんっ♪」

強い締めつけに抗うようにユウタは腰を引き、怒張を抜き差しし始める。ビリビリと奥まで響くような快感は互いが溶け合ってしまっているんじゃないかと思えるほどだ。先ほどの口づけよりもずっと強烈な味に私も腰の動きが早くなっていく。

「あ♪は♪くぅぅ♪」

情欲に塗れ本能のままに互いに腰を打ち付ける。広い空間には肉と肉のぶつかる音が響き、淫らな香りが充満した。
必死そうでありながら堪えるような表情を浮かべたユウタを見て悦んでくれていることを知る。それも、私の体で。その事実がたまらなく嬉しく私の膣内はさらに締め付けた。

「…っ!」
「は、ああんっ♪」

膣内は形を覚えるように蠢き締め上げ、生じる快感は塗り替えられない鮮烈な味を染み込ませていく。甘く菓子のような口づけの味も、子宮を疼かせる男の匂いも、肌から伝わる熱い体温も、体の全てがユウタを覚えようとしていた。

「ユウタっ♪ユウタぁあっ♪」

愛しい男性の名前を呼ぶ。ただそれだけでも膣内で握り締める力が先ほどよりも増していく。絶頂の訪れが近いのはハッキリと自覚できた。愛液に濡れた肉壁がユウタを子宮へと引きずり込むように締め上げる。

「ぅ、くっ!」

堪えるように呻き声を上げるユウタを見て彼も私同様に限界が近づいていることを理解した。先程からビクつき、一回り大きくなった陰茎に意識を飛ばされかけながらも私はユウタにしがみつく。

「出るか?出そうなのか?なら、出せっ♪私の一番、奥に、ぃ♪」

必死に腰を動かしながらユウタは頷く。私も応えるように抱きしめ、これ以上ないほどに密着する。重なり合う肌から感じる熱や固めの感触に心地よさを感じ、擦れる乳首にまた快感を受けながら止めとばかりに腰を打ち付けた。

「は、ぁああああああああああああああ♪」

次の瞬間、私の体の中にユウタの精液が流れ込んできた。それは燃えるような熱を持ち、全てを真っ白に染め上げていく。子宮内に何度も叩きつけられてはその度に体が跳ね、背筋が震えては意識を高みへと押し上げられた。
膣内をこすられる感覚よりもずっと強烈な快感の波に体が喜び打ち震える。それはユウタも同じようで射精するたびに強い快楽を得ているのか歯を食いしばって耐えていた。
私の全てを塗り替えていく。子宮の奥から体の全てを染めていく。まるで砂漠が一瞬にしてオアシスになるような潤いを与えるように彼の精は私の体を満たしていった。

「あ、ぁ…♪はぁあ……ぁっ♪」
「く…ぁ……」

ようやく快楽の波が引き、二人して絶頂の余韻に浸る。荒い呼吸を整えながら互いに顔を見合わせた。真っ赤になって上気した愛おしい男性の顔。きっと私も同じような顔をしているに違いない。

「はぁ…ぁ…♪ふふ、とても気持ちよかったぞ♪」
「ん、ん…オレもだよ」

優しく微笑みを浮かべたユウタは浮かんだ汗を拭うように私の頬を指で拭った。そんな些細な行為でも嬉しいと感じてしまう。それこそ王の威厳など微塵もない乙女のように。
だけどそれがまた、たまらなく心地いい。
ただ命令を与え、従う関係じゃない。王なんて関係なく接してくれるそんなユウタだからこそ快いんだ。ただの女と男という関係こそがいいんだ。
下腹部を撫でて思わずうっとりしてしまう。全てを染めるような強烈な快楽と堪らない心地よさ。それと体を交えたという事実。その全てが私を満たしてくれる。
だが、未だ私の中で強く脈打つ存在がある。あれほど精を吐き出したのにまだ足りないというように自己主張する愛おしい存在だ。

「ユウタはまだ、満足していないらしいな?」
「…いや、まぁ……若いから」
「ふふふ♪それなら、もっとしようではないか。夜はまだまだ長いんだ、もっと強く、激しく私を愛してくれ♪」

私の言葉にユウタは笑みを浮かべて頷き、優しく唇を奪っていく。そうして私達は心ゆくまで交わり合い続けたのだった。















初めて彼女と出会ったときのことは今でも鮮明に覚えてる。というよりもあれは一生忘れることなどできないだろう。
いくつものレンガのような石を積んでできた部屋のベッドの上。そこで目が覚めて一番最初に飛び込んできたのは絶世といっても過言じゃない美女だった。
血のように赤い瞳にすっと通った鼻筋。赤みがかった唇に艶やかな黒い長髪。露出の覆い服装に褐色の肌。豊満な胸の膨らみにくびれた体はまるで芸術家が作ったような完成された美を感じる。ひび割れのような赤い刺青に巻かれた包帯は奇妙でありながらも纏っているのは威厳のある雰囲気であり、宝石や貴金属を身につける姿からどこかの偉い人かと思えた。
だけどそんなものは些細なことであり、ただ目にしただけでもすぐに彼女がただの人じゃないと感じ取れた。
まるで太陽そのものが目の前に存在するようなその感覚。あまりの存在の大きさに自ら膝を付き、従ってしまいたいと思わされた。
それはまるで全てを付き従える絶対的な王の風格。家来を自分の体を扱うがごとく操る支配者の貫禄。
オレのような一般的な高校生など手が届かない高みにいるような、そんな女性。それがこの遺跡の主であるファラオのアレイアに抱いた第一印象だった。実際彼女の言葉の一つ一つにとんでもない重圧がある。本人の意思とは関係なく体を従えるような、有無を言わせぬ言葉だった。
だけどそんなこと関係なく、彼女は気さくで、優しくて、それでいて普通の女の子だった。王などという仮面の下にあったのはオレのいたところでもいそうな、甘えたがりのただ一人の少女だった。

「…寝てるか」

オレはそんな女性の頬をそっと撫でた。先程までオレの上であらぬ痴態を見せつけ本能のままに互いに快楽を貪った愛おしい相手のアレイアは疲れたのか今は静かに眠っている。そんな彼女の体をオレは起こさないように濡れた布で拭っていた。行為を終えてそのまま眠ってしまったから汗だくでさぞ気持ち悪いだろう。

「…っと」

安らかな寝息を立てる彼女の体を拭い終わり、水の入った桶を持ち上げた。とりあえずどこか外にでも水を捨ててこようか。それから自分の部屋に戻って明日の用意をして寝る。明日も仕事があるからできる限り休んでおかなければ。
そう思って部屋を出ていこうとするとドアの前を陣取る蛇に睨まれた。

「…エルペト、どいてくれるか?」

真っ赤なウロコのまるでコブラのような蛇に向かってそう言ってみるもエルペトはとぐろを巻いたまま動こうとしない。仕方なく横を通っていこうと一歩踏み出すと体を起こして牙を向かれた。

「おわっ!」

それどころか足に噛み付こうと飛び出してくる始末。普段はもっと温厚な蛇だというのに一体どうしたと言うんだ。そう思っているとエルペトが頭を振ってベッドの方を示した。

「ん?」

そこにいるのは眠っているアレイア。なんでエルペトは彼女を示しているんだろうか…あ、そうか。

「アレイアの傍にいろって言いたいのか?」

オレの言葉を理解しているようにエルペトは頷いた。その動作を見て思わずため息が漏れる。どうやらオレがアレイアの傍を離れることを許してくれないらしい。なんとも主人想いな蛇だ。
仕方なくドアの傍に水の入った桶を置き、ベッドに戻ることにする。靴を脱いでアレイアの隣に寝転ぶと満足そうにエルペトは体を倒した。
…仕方ないか。
これではベッドを抜け出した途端に襲いかかってきそうだ。それならここで眠らせてもらうしかない。明日の仕事には遅れないように気を付けないと。

「ん……ユウ、タ…」
「!」

名前を呼ばれて顔を向けるがアレイアは瞼を閉じたまま。どうやら寝ぼけてオレを呼んだらしい。わずかに身を捩って再び静かになったアレイアを見て思わず笑みが溢れる。普段は凛とした王の風格を見せつけるのだが、こういうところはやはり少女のように可愛らしい。年上相手に少女というのもどうかと思うけど。
オレは褐色肌の彼女の手をそっと握りこんだ。柔らかくて温かな手の感触に心が満たされるような気持ちになる。

「…おやすみ、アレイア」

そっと囁くとオレも彼女と同じように眠りについた。






―HAPPY END―
13/03/10 00:40更新 / ノワール・B・シュヴァルツ

■作者メッセージ
ということで今回は新しい魔物娘、ファラオさんでした
王と従者なんて関係がなかった彼の気さくな接し方は色々と響きますね
助けられて従い、そのまま普通に生活していた彼ですが普段もとある暴君に仕えているようなものでしたからあまり関係なかったのかもしれませんw

ここまで読んでくださってありがとうございます!!
それでは次回もよろしくお願いします!!

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