『宵ノ宮の七夕風景』





〜〜とあるアーケード街(ウシオニ)の場合〜〜



「おぉ、たっくさん出てんなぁ。七夕グッズ」
「そうだねぇ〜」
商店街が七夕のキャンペーンの催し物として電柱などの柱にこれでもかと笹を巻きつけているアーケードの下、真っ黒のタンクトップを着たウシオニの彼女の上に跨って相槌を打つ男…の子?
さらに男の子の後ろには大量の「酒のツマミ」がこんもりと袋詰めされて彼女の歩く振動に合わせて揺れ動く。

「あ、見てお母さん! ちっちゃい子がウシオニのお姉ちゃんに乗せてもらってるぅ!」
「こらアリサ! お行儀が悪いですよ!」
「…すいません、僕高校2年です」
その男の子を指さして暖かな視線を送りつつ手をつないで歩く買い物帰りであろうユニコーンの親子がいたがその親子の言葉が聞こえた男の子…いや、男が赤面して俯きながら申し訳程度の声を発するとユニコーンの親子は固まってしまいしばしの沈黙が訪れる。

「はっははは! やっぱりその身長じゃ〜しゃ〜ねぇ〜よ!」
「ぅぅ…」
「あ、あぁ…す、すいませんでしたぁぁ!」
デカい笑い声で時を再び進ませた瞬間、腰を深々と折って謝る親子だったがその親子にペコペコ下げ返す男にそれをまた笑うウシオニと場は少なかれ和やかな雰囲気になったのだった。

そしてユニコーンの親子と別れた後…

「いやぁ〜いつみても面白いっ!」
「うぅ…由里(ゆり)ぃ…」
「っはは、わりぃわりい…んでこの後どうする?」
先ほどの騒ぎ(?)があった場所からやや離れた住宅街の路地に差し掛かった時の会話である。
いつも間違われる愛しの彼氏に八重歯が似合う笑顔を向けつつそう聞くウシオニは彼の怨嗟の声を無視。

「…はぁ。まぁ今年もやっぱり『口逢神社(くちあわせじんじゃ)』の大笹に願いを書き込んで」
「で、酒だな!?」
「…また由里はそうやって…ふふっ」
口元を隠すように笑う彼にウシオニはすかさず「笑ったなこのやろぅ!」と頭ワシャワシャの刑を実行したのは言うまでもない。




〜〜とある道端(ユニコーン、バイコーン)の場合〜〜



「さっきの人…悪いことしちゃったね…」
「えぇ…」
こちらは先ほどの親子のようだ。
シュンとして歩く白磁の如き8本の蹄はちょっと元気がないみたいで真っ白でサラサラな尻尾もだらりと垂れている。
ちょっとした不注意だったが中々に割り切れていないようで顔も下に向いていて…とそこに?

「あれ、姉さん? どうしたの? そんな暗くなって…」
「へ? …あ、久しぶr…っ!? なっ、あ、ああぁぁ、アシェン!? あ、あなたっ!?」
「わぁ〜♪ 真っ黒で綺麗な毛並みぃ♪」
俯いてかげっていたところによく通る透き通った声がおそらく母親のことを姉さんと呼んだのだろうその声に母親ユニコーンが顔を上げれば、やはりそこにはよく見た妹がいた。
しかし面影はもう顔と体躯だけで残りの特徴などは母親ユニコーンの中の記憶に合致することはない。なぜなら妹の毛並みは真っ黒、漆黒のような真っ黒に2本のねじり角が天に向かって伸びていたからだ。

「ん? あぁ、マリア姉さんには言ってなかったっけ? ほら先日の商品詐称事件。あれでアルラウネの蜜が混ざったままことに及んでバイコーンになっちゃった♪ 」
「ねぇねぇ叔母さん!」
「ん? なぁに? アリサちゃん?」
叔母さんと言われて眉一つ動かさずに微笑んで応えてあげるバイコーンはよく聞き取れるように近くに体を寄せてユニコーンの娘と同じ高さになるように上半身を屈ませた。
…未だに母親は口をパクパクさせていたが。

「バイコーンっていっぱい色んな魔物娘さんと交わったりするんでしょ?」
「う〜ん私が、じゃなくて夫がだけどね…」
「嫌じゃないの? 自分の愛している人が別な人と結ばれて…」
と眉尻を下げるユニコーンの娘に対して言葉を遮るようにしてバイコーンはこう語る。

「いいえ、視姦しながら自分の夫の味を知らしめて且つ自分にとっての極上な味が楽しめる! まさにこれこそが私の生きがいよ!  …そうだ! せっかくだから一緒にまじわろっか? アリサちゃん♪」
「こらまてぇぇぃ! 自分の親戚、しかも実の姉の娘である姪っ子を誘惑するなぁぁぁ!!」
「えぇ〜いいじゃなぁ〜い! 姉さんのケチぃぃ!」
わが子の貞操の危機にようやく戻った母親は悪魔の誘惑をする妹バイコーンに容赦ない攻撃をしたのは言うまでもない。
その後仲良く3人、途中でバイコーンの夫と合流し彼女たちは小脇に笹を抱えて一路ユニコーンの家へと向かったのだった。




〜〜とあるマンション(ダンピール、ヴァンパイア)の場合〜〜



「…なんだそれは? 姉上?」
「え? 七夕用の笹だけど…ディナは知らないの?」
ジャージの上下を着てベランダにて呑気に笹を吊るしだすダンピールの姉に、『ショタは正義』と書かれているだぼだぼシャツ(ただしおっぱいは張っている)にホットパンツのいでたちの妹ヴァンパイアは寝癖もそのままに未だ片付けきっていない引っ越しダンボールを一つ一つ開けて所定の位置に配置している状態で固まっている。

「姉上、今…普段は寝ているべき時間に起きて私たちは何をしているのかをよもやお忘れではないか?」
「えぇ? だって私、1日あればそれ全部片付くし。それに行事って大切だよ?」
「…うみゃぁぁぁ!! しごとしてぇぇ!! ヴィラお姉ちゃぁぁぁん!!」
頭を両手で抱えてその場で背を仰け反らせて嘆くといい感じにチクb…ゲフン…突起が目立っているがそれをさほど気にしないヴァンパイア、しかしそんなおいしいシチュエーションを見逃さないのが重篤のシスコンである。

「やだ…ディナの乳首…エロイわぁ…ハァハァ…」
まだ湿気が残る7月に汗ばんだ妹のシャツはよく見れば…ぐふふ♪
それに欲情した重症患者のシスコンが火を噴いたのは容易に想像がつくことでしょう…。

「…え、お、お姉ちゃん?! い、いい、今まだゆ、夕方…だ、だよ!?!?」
「愛に時間なんて関係ないわっ!!!」
姉妹たちのいる部屋の隣では『ただいまー』『おじゃましまーす』と先ほどの馬たちが帰ってきたようだ。

「う、うぅ…うぅぅ!!」
「さぁ…いっぱい可愛がってア・ゲ・ル♪」
壁際に追い詰められたヴァンパイアは日を背負う形で詰め寄るダンピールになすすべなく…




〜〜堕落神教会(ダークプリースト)の場合〜〜



(うみゃぁぁぁ…!! あぁんぁ…♪)

「ん? …リア中どもが!」
「アナタモナー…というか字が違うよマルゼ?」
「あってるぞー! わはー♪」
マンションに影になるように立っている教会の敷地内にあるベンチにて『3DoS』を片手に3人で何かをしているみたいだが…
前後面を糸で縫い合わせ横側から白くきめ細やかな肌の脇やボトムの紐が丸見えになる様に布を無くしている独自で編み出したであろう露出が激しいシスター服に銀髪ショート(そして洗濯板)の彼女は一度耳をピクリとさせてそう暴言を吐くも隣にいた男に窘められ、しかしその二人の間に挟まるようにして自分の体よりもデカいゲーム機を巧みに操るオーバーオールを着た白い綿胞子には彼女の意見に同意した。

「あぁん? リアルに中毒者、ほら違ってねぇ」
「は、はぁ…あ、マルゼそっちにペロリスト2匹いったぞ?」
「わはー♪ 弓の援護いくよー♪」
…どうやらとある『狩人になれるゲーム』のようだ。
画面から一切目を離さずに会話を成りたたせる彼らにはどうやら行事云々は関係ない…

「よぅし! クリアぁ! 最速だぜっ!!」
「わはー♪ あ、欲しかったのゲット!」
「んじゃぁ…次は七夕クエでもやるかい?」
…わけでもなさそうである。

「…しかしなんか隣の公民館がやたらうるせぇが何があんだぁ?」
「おいおい、ここのシスター長だろう…今日は七夕だから学校のOBOGが集まってプチ同窓会をするんだとさ」
「わはー♪ その通りぃ!」
鼻を一つふんと鳴らしてシスターは照れ隠しか「よ、よし! 次だ次っ!」と顔を赤くしていったそうな。




〜〜中央公民館大ホール(妖狐、リザードマン、アヌビスetc…)の場合〜〜



「おぉい、橘(たちばな)さぁん」
「華(はな)ちゃ〜ん、こっちこっちぃ!」
宵ノ宮が誇る公民館の大ホール、収容可能人数1000人以上のこの場所では上限まではいかなくとも半数以上の人と魔物が散らばっておいてあるテーブルの食べ物飲み物の周りに集まっていた。
そんな机の一角に紺のスーツで決めた妖狐と黒いゴシック調の紐掛けワンピースを着たサキュバスの女性がいる数人のグループがおり手を振って誰かを呼んでいるようだが?
暫く間を置いてどんどん影が大きくなるカップル、どうやら目的の人物がそのグループへ男と手をつないでやってきたようでやがてグループへとたどり着いた二人が挨拶をする。

「お久しぶりです! 愛(あい)先生! ユキも元気そうだし…」
「元気元気♪ 今では毎日愛しのヒロに中出し決めてもらっているからね♪」
「はぃはぃ、惚気乙乙w」
妖狐の女性に一礼したその影、白いブラウスに黒いスラックス姿のリザードマンは続けざまにサキュバスの女の子に挨拶をするといきなり惚気られてしまいちょっと眉をひくつかせてしまう。
しかしそのサキュバスの惚気に割入るようにしてサキュバスの後ろから出てきたのは白いキャミソールに青デニムの7分丈パンツの妖狐でした。

「こら雪(ゆき)っ! 友達になんて口を…」
「いいじゃん愛姉さんっ!! 同年代にため口使って何が悪いのさっ!!?」
「…相変わらずの姉妹っぷりだな古里瀬家は、ね?」
ふと漏らしたリザードマンの言葉に対して「えぇ」とその場の全員が肯定的になる中、当の本人たちはふわふわの黄色い尻尾をぶんぶん振り回してまだ喧嘩に夢中であった。

「…あれ? 夕(ゆう)は?」
「ん? あぁアイツなら男見つけて今は大陸に行っちまったよ?」
「え!? やだ、嘘っ!? ちゃんとお祝いしてあげてないぃ…!!」
リザードマンがふと周りを見回して足りなかったメンツの行方を聞けばサキュバスから帰ってきた答えに唖然とし、「うぅ…!」と呻いてその場に崩れそうな勢いで肩を落とすも隣にいた男性に支えられて膝をつくことはなかった。

「ほら、華。みんなの前だからしゃきっとして」
「…あのサボり魔だった利(とし)からそんな言葉が出るとは…結婚てのは分からんもんだねぇ」
「雪、アンタ失礼すぎ」
腕を組んでうぅんと唸った妹妖狐にすかさずチョップを入れてしかる姉妖狐。
高校の頃からのご定番の風景に和む一方、パタパタと騒がしいスリッパの音がどこからともなく聞こえてきてよくよく耳を澄ませばその音はこのグループめがけて走っているようで…

「すまない! 準備に手間取って遅れたっ!」
「お! オリビアじゃないかぁ! 相変わらず親子でバィンバィンだな♪」
「っ! わ、わたしをそんな目で見るなっ!? というか母も混ぜるなぁ!!」
胸を抱き寄せて妹妖狐から隠すように体をひねり黒い毛並みの尻尾を逆立てて「ヴゥゥ〜ッ!」と威嚇モードに入ったキョヌーのアヌビス。
服装はといえば自慢のそれを強調するような臍だしルックのタンクトップに足首まで伸びる色褪せたデザインの黒のジーパンである。

「あら? 須藤(すとう)さん教頭先生は?」
「ヴゥゥ…っはぁぇ!? あ、えっと母は急きょ神社に呼ばれてしまいまして…」
「あー…白光(しかり)さん多分話し相手が欲しいのね…」
そんな威嚇モード全開のアヌビスに姉妖狐がふと質問をするとちょっとの戸惑いの後にここには来ないとの回答。
微笑んでその場を濁す姉妖狐であった。

そんなやり取りをしていると再び近寄る影があり、しかも今度は二組である。
ズリズリと引きずる一方に対してもう一方の影は姿は似ていても宙に浮いているというこの種族特有の移動方法に、そしてその種族がこのような場所にくることに周りの人々らは愕然としていたのだが…

「遅れましたぁ…」
「…要(かなめ)君、君の所は相変わらずの束縛人生のようで?」
「はぃ…縁(ゆかり)がこの頃さらに嫉妬深くなったので…尻尾からはなしてくれません…」
真っ白な蛇体にぐるぐる巻きにされて足が地についていない彼を同情の目で見つつも分かりきった質問をする姉妖狐にやはり予想を裏切らない答えで返す彼。

「でも満更じゃないでしょ?」
「…うん」
「何かわたくしが悪者扱いされているようですが…嫌なものは最初からしませんよ? 第一、この巻きつきが本当に嫌なら旦那様は抵抗しますし…」
悪者扱いされてバツが悪くなった巫女服の白蛇は渋々彼を下ろすとともにしかめっ面でそっぽを向いてしまったわけだが彼はすぐに彼女に抱き着いて「そんなお前も好きだよ♪」と囁いた。
…周りでは『ごちそうさまコール』が出たのは言うまでもない。

「…んで…こちらの『龍』さんは??」
「これはこれは失礼いたしました。私、こちらの白蛇の夫である要 由(ゆう)様のご親戚の啓(けい)の妻でございます。このような形で参加させていただいて恐縮ですが同じ高校の卒業生の集まりということで夫共々参加させていただきました…」
「あ、これはご丁寧に…」
そしてそんな熱ラブしている白蛇のすぐ後ろで浮かんでいらっしゃる最も気になる人物に姉妖狐は年長者として疑問を口にして直接本人から聞いてみた。
それは図鑑と同じような服を着た龍で、尻尾に腰掛けるようにして座っていた男の子とも思えるような彼を下ろして深々と頭を下げて礼儀正しくするさまはまさに大和撫子の貴意を持った龍ならではであり、姉妖狐もその気に押されて深々と礼を返すのは仕方がないというものだ。

「ちなみに私のつかえていた祠の主様です」
「夫の就職を機に今ではこの町で巫女の仕事をしながら充実した生活を送らせていただいていますが…」

『…龍が…巫女…?!』

白蛇との意外な繋がりにびっくりしていたのに更に爆弾を投下した龍。
驚愕の事実にビックリする面々に姉妖狐だけはこう思った。

「(あぁ…白光さんならやりかねないなぁ…)」
…と。



ではこのグループはこれくらいにして別テーブルを見てみましょう。



「おひさ〜ナディア、菘(すずな)♪」
「久しぶりだな、二人とも!」
「えぇ、お久しぶりね? 菘にディア!」
黒スーツのケンタウロス、有名メーカーの柄物Tシャツに白いチュニックのエルフ、袖なしの白シャツに白いスラックスのダークエルフがそれぞれの夫と一緒に囲んでいるテーブルがあるので今度はここにしましょう。

「うーんと…いつぶり?」
「おい、卒業式以来あっていないだろう? まぁ二人は違うだろうけど…」
「ふふ、相変わらずその口調なの? 【彼と二人きり】以外は♪」
ダークエルフに笑われながら言われたことに「なっ?!」と口ごもって林檎のように赤くなってしまうケンタウロスに更に畳みかけるようにエルフがいう。

「てかももうクーデレ辞めてデレデレになっちゃえば?」
「ぐぬぬっ! ミーディアぁぁ…貴様ぁぁ!! ふぐぅ!? と、止めるなぁ! ナディアントぉぉぉ!!」
「はい、どうどう。ディア、それはちょっとナズナには刺激が過ぎたみたいよ? うふふ♪」
ダークエルフが今にも掴み掛らんとするケンタウロスに束縛の呪文でも唱えたのか、ケンタウロスは走り出した直後で身動きがとれずに唸ってしまう。

「…相変わらずのコンビのようね?」
「ん? あら、花木(はなぎ)先生に園子(そのこ)先輩! それに凍(とう)先輩に悠(ゆう)先輩まで?」
「どうも、久しぶり♪」
そんなコント的コミニュケーションをしているテーブルへ近づく複数人が突っ込みを入れたことでダークエルフの彼女は術を解除してそちらへ向き直ることにした。
…解除した反動で前のめりに倒れてしまったケンタウロスだがそれを見ていたのは腹を抱えて笑っているエルフの彼女だけだった。

「しかし貴方たち…保険医の私がさんざん言ってもその砂糖の量は直さないでいるのね…いい加減糖尿病になるわよ? 」
「いいえ先生、これでも少なくしているんですが…」
「同じく〜」
先生と呼ばれた藤色で無地の浴衣で着こなす集団の中のアルラウネはエルフとダークエルフの傍らに置かれている飲み物…という名のゲル状の物体を指さして諸注意をしたようだが、彼女ら曰くまだ序の口だそうだ。

「まぁまぁ先生、これはこれで変わらないものってことで♪」
「はぁ…そういうことにしておきますよ…」
「それにしても先輩たち…どうして浴衣なんです?」
額に人差し指をあてて苦悶の表情のアルラウネをさておき、エルフが彼女の後ろへと視線を向ければ…白に【氷】と一字だけ印字された浴衣のユキオンナ、鱗と同じ藍色に金魚の刺繍が施された浴衣のメデューサ、朝方の空色を模した柄に朝顔がいいアクセントになっている浴衣の稲荷が微笑んでそこにたたずんでいる。

「ん? 私たちは悠が狐の集まりで白光様に呼ばれたから一緒にって」
「私も園子とおんなじよ」
「…凍先輩、【氷】ってなんですか? 種族的にどうかと…」
メデューサの彼女は髪の蛇たち共々に嬉しそうであり、悠と呼ばれた稲荷も終始笑顔である。

「…あれ? そういえばファイブハーピーズは?」
「あぁ、悠先輩その彼らですが今ちょうどオートバイ・レースのワールドツアー中でして…戻ってこれないそうです」
「あらそう…それは気の毒だったわねぇ…」
自分で話をふっておきながら不参加の理由を知ってちょっと気落ちする稲荷。
尻尾は垂れ下がってしまっている。

「あー…あ、あぁ! そういえばっ!」
「ふぇっ!? ど、どうしたんですか!? 凍先輩っ!?」
「え、えっと…そう! ここに来る途中で大ムカデの逢ったのよ! 」
ちょっと間が悪くて沈黙してしまったその場所へ声を大きくして何事かを話し始めるユキオンナはきっと場の空気を和ませてくれようとしたに違いない。
それが発端となったかならずか徐々に声の輪が広がっていき、公民館は和気藹々の声が木の床に反響して響きだした。

そして今話題に上がった大ムカデ、宵ノ宮ではたった一組しかいない夫婦なのでめったなことでは出会わないのだが…




〜〜とあるバス停近辺(大百足)の場合〜〜



「ごめんね百恵(ももえ)荷物持ちなんてさせちゃって…」
「うぅん、いいんですよ。これくらいどうってことないですから♪」
すっかり暗くなって星空の世界になった宵ノ宮。
そんな星空の下を歩くカップルが一組、彼女の方は大百足らしく極力毒腺に触れないように設計された専用の羽織を着て彼の歩幅に合わせて歩いて後ろの足(?)に乗せた買い物袋を落とさないようにしていた。

「はぁ〜…今年も呼ばれちゃったね〜」
「あぁ、でも話仲間が増えるからうれしいでしょ? 百恵?」
「うん♪」
溜息つく彼女に笑顔を張り付けた顔で聞いてみれば満面の笑みとフリーの足をギシギシさせて喜びを表現している彼女に彼もまた嬉しそうである。

「でも…毎年増えているよね?」
「あぁ、白光様はこうして住人が増えていくのが楽しみの一つらしくてな? そのうちの新人さんとか娘関係、狐関係の人を呼んでいるうちにこの騒ぎになったみたいだぞ?」
他愛もない会話を聞きとして続けるカップルの足先をよく見れば閑静な住宅街の先、その先のとある山の中腹にて赤々と鳥居がライトで照らされている場所があった。

…っと、彼女らの近場でどこかの照明が消えたようだ。
そちらへ視線を向ければ…『狐路〜きつねのみち〜』という建物から数人が出てきたところだった。

「…あら? 百恵ちゃん?」
「あ! 安芸さん! …安芸さん達もですか?」
「ということは…あなた達も?」
そこの建物の戸締りをしてこちらに歩いてきたところで大百足の彼女は声をかけようとしたら逆に声をかけられてしまう。
安芸、と呼ばれた妖狐はお店の制服であろう矢紋袴に大きな風呂敷包みを抱えていて…後ろで控えている妖狐(?)もまた同じサイズの風呂敷を抱えていた。大玉西瓜を縦に二つくらいの大きさのそれは前が見えなくて…その…ちょっと危ない。

「安芸さん、私の足に乗せてください。そちらの妖狐さんも」
「え、いいの? 百恵ちゃん?」
「はい、というよりもお二人ともかなり危ないです…」
大百足の彼女からのありがたい優しさに妖狐たちは礼を一言二言述べると元々乗っていた買い物袋と風呂敷を入れ替える様に持って大百足の隣へと並んで歩を進め出した。

「買い物袋もそのままでよかったんですが…」
「いいのいいの! これくらいはしなきゃ白光様に怒られちゃうわ♪」
「まあ…ふふふ♪」
カカカカ、っと固いコンクリートを連続で小突く大百足の足音とアンサンブルを組むように二組の妖狐の尻尾がリズムよく揺れる。

「あ! そういえば真琴(まこと)ちゃんは今年が妖狐になって初じゃない?」
「あ! そうですねっ! 今年が初ですね〜♪」
「え? 初?…え? え?」
妖狐同士の会話に意味不明な大百足は何度も安芸と妖狐へ視線を往復させて真意を探ろうとしていたがその様子に気づいたのはやはり年長者である安芸であった。

「あぁ、真琴ちゃんは去年まで人だったのよ。そんで梨花(りか)の家で雨宿りしてたら狐火に襲われて狐憑きに…さらに今年の初めに晴れて妖狐になった、というわけよ。あ! 雑誌の取材も受けたらしいけど?」
「ほへぇ…大変だったんですね…」
「うぅ…ありがとう…」
慰めの言葉は思いの外効いたようで涙が流れる妖狐であった。

「…お? あれって…禮前(らいぜん)市長さん家じゃない?」
「え? …あ、本当だ! 真っ黒尻尾と瑠璃色尻尾だからそうだよ!」
「あらら、お奉行様も呼ばれたのか…」
そんな会話をしてまったりと歩いていた彼女らだったが視界の端に同じ方向へ向かう狐の一団を発見したために会話を打ち切ってそちらに声をかけることにしたようだ。

その影こそ、この宵ノ宮の顔でありこの町を守り続けてきたその人…いや、その妖狐『禮前』であった。
しかしその一団には見慣れない提灯お化けと男がいるのだが?

「ん? おぉ、安芸さんに赤城さん達か」
「お? この大百足さんが新しい住人さんですかい?」
「へぇ〜随分お綺麗なんですねぇ〜♪」
安芸たちの声に気付いた禮前が後ろへ振り向いてつられて例の男と提灯お化けが一緒に向くことで彼らの様相がはっきりとした。
男の方は浅黒い肌に灰白色の甚平を着用し髪を刈上げて溌剌とした印象を受ける。
対して女性の方は『御用』と書かれたモノトーンの浴衣(ただし腹部は開いてる)を着用し、長く伸ばされるその赤髪をポニーテール上に結わいているが彼女が動くたびにそれがピコピコと左右に振れてまるで生きているみたいだ。

「こら赤李(あかり)っ! 宗右衛門(そうえもん)っっ!」
「おっと禮前さんこいつぁ失敬っ! 初めまして皆々様。オレは宵ノ宮警察署副所長をしている宗右衛門だ」
「そして私が捕り物科の課長兼宗右衛門の妻で赤李と言います。よしなに…」
自分たちの無礼を正してすぐに自己紹介をした提灯お化け夫妻に禮前の影からクスクスと隠し笑うのは瑠璃色の4本の尻尾をみるからに元夫である瑠璃(るり)さんだろう。
そして路上にて自己紹介が各面々ともに行われていったその間、禮前らのすぐ近くの白い壁が長く伸びる大豪邸では絶えずおいしそうな匂いと共にあわただしい声が響いていた。

人はそこを『古里瀬邸(こりせてい)』という…。




〜〜古里瀬邸(妖狐)の場合〜〜



「はわわっ! 陽(よう)ちゃんこっちご飯出来たよっ!」
「あ、ありがとうございますっ! かをる叔母さんっ!」
「ほいッ! 陽っ! こっちも油揚げあがったよっ!!」
古里瀬邸の一階部分にある調理場。
その広さ、たとえやすくするならばシェフが50人入っていても余裕で料理ができるといえばどれだけ広いかご想像できるでしょうか?
親戚含め100人をゆうに超える古里瀬家ならではのバカ広い台所では今も20人近い狐たちがせっせと何かを料理している最中であり、狐に交じって天使も飛んでいる…。
狐の皆さんは衛生面を考えてだろうか尻尾全てに袋を被せ、耳の所をバンダナや頭巾などで覆っていて誰が誰かの判別は難しいが陽と言われた妖狐がどうやら仕切っているのは確認ができた。

「綾(あや)姉ぇっ! ありがとうっ!」
「招(しょう)っ! お前もそれ終わったら手伝えっ!」
「あいはーいっ! わかったよ綾姉ぇっ!」
綾と呼ばれた妖狐は手元に積み上げた味の良く染み込んだ油揚げを詰め込み作業をしている陽達数人へとほとんど投げ渡すようにしてそこへ置いて再び揚げ物をつくる作業へと戻っていく。
すると皿に盛りつけをしていた招と呼ばれた妖狐が今度は陽へと近づいてその作業を補佐し出す。
更に炊き上がったご飯を羽根をパタつかせて飛んでくる天使から受け取り急ぎ【それ】をベルトコンベア方式で延々と作り始めていく。
まるで戦争をしているような忙しさに誰もが目を回していたのは余談である。

「よしっ! 庸(よう)ちゃん、母さんっ! それから葉仁(ようにん)ちゃんに卯月(うづき)ちゃん! 第一便と二便をお願いっ!」
「了解っ! すぐ戻ってくるわ! それまで頑張っててねっ! 」
「うんっ! 母さんっ!」
ある程度(一皿あたり百個以上)のそれ…稲荷寿司を作業しながら見やった陽は傍らで待機していた者たちに声をかけてそれを運んでもらうように指示を出す。
母…つまりこの家の大御所の梨花(りか)、まだ中学生くらいにしてすでに夫もちのロリ妖狐、【葉仁】と名が刺繍された割烹着姿の刑部狸、黒い犬手形が胸元に一つある白いエプロン姿のアヌビスらはそれを受けてすぐさまこんもりと盛られた複数の皿を持ち上げていき、そのまま台所の外…中庭めがけて小走りになって向かいだす。

「あ! 梨花ママ! 『つないで』おいたよっ!」
「よぅしっ! でかしたわ篝(かがり)っ! 皆っ、早くいって愛しの男どもとお客様たちに腹いっぱいの愛を食べてもらうわよっ!」
『『おぉうっ!!!』』
その中庭では数十匹の狐火達が何か魔法陣のようなものの周りをグルグルと飛んでいてそれが真っ暗な中庭を明るく照らしていたがそのうちの一匹が走り寄ってくる梨花に気づき声をかけるとつられて周りも視線を向ける。
そして梨花へ要件を伝えると梨花は礼を述べるとともに走る速度そのままで地面に書かれた魔法陣へと突っ込んで…

ー…ヒュン!

…姿を消した。
続けて入っていく面々もまた梨花と同じように消えていくこと数秒。

ー…ヒュバッ!

「よし次っ!」
その数秒で再び魔法陣から梨花が現れてそのまま台所へ向かって走り出したのだ。
…いったいどこへ繋がっていたのだろうか??




〜〜口逢神社(妖狐、etc…)の場合〜〜



ー…ヒュバッ!

「お待たせしましたっ! 特上稲荷寿司ですっ!」
「ご苦労様です! それはこちらでお預かりいたしますので…」
「はいッ! ではこれで…っ!」
神社の本堂にあたる場所のすぐそばに直結していたその魔法陣。
その魔法陣から先ほど入った4人のうちの最後、妖狐の庸ちゃんが巫女服を着た妖狐へと皿を手渡すと挨拶もロクにせずそのまま魔法陣へと踵を返して…

ー…ヒュン!

消えてしまった。

「ほいほぃ! …ぉぉ、唯(ゆい)の巫女服はよぅ似合うなぁ〜♪」
「も、もぅ梅香(ばいか)さん! 今はそれよりもこのお皿を運んでくださいっ!?」
「おい、これで第一陣は終わりか?」
百合百合しい会話の途中で出てきたのは冒頭で彼と一緒にいたはずのウシオニの彼女である。
梅香と呼ばれた巫女服を着た人が「…チッ」と小さく舌打ちをしたのを傍らで聞いていた同じく巫女妖狐の唯は「あはは…」と苦笑して流し、その3人は大きなお皿を抱えて(約一名は背にものせ)一路ガヤガヤと騒がしい本堂前にしかれた大きなビニールシートの上に陣取る一団へ走っていく。

「お待たせしました白光さん!」
「古里瀬家の特上稲荷寿司ですよ!」
「ほほぅ…ヤクザがちゃんとした服で仕事をしているとは…」
その一団の中でも上座に座る人物の前へと皿をいち早く億巫女妖狐二人に目的の人物とは違う声が巫女たちの背中側からかけられた。
その声に対して「あァん? 」と眉尻を上げて訝しむ表情で向きをかえる梅香は切り落とされ短くなった左耳についた翡翠のピアスを輝かせながらメンチをきる。

「…よぉ、誰かと思えばオブギョーさまやないかぁ。えぇ?」
「おぉ、その如何にも悪ぶった『翡翠左耳(ひすいさじ)』の梅香さまじゃぁないか、んん〜?」
「ちょ、ちょっと禮前っ! 今日は祭りを楽しむだけだろっ!?」
喧嘩を売られたことで地のしゃべり方が出てしまっている梅香に黒い尻尾を逆立たせて仁王立ちする禮前は自分の方が背が高いことをいいことに見下し目線で梅香を見つめるのだが、その態度が気に食わない梅香が下から射殺すような鋭すぎる視線を向けかえすことで一触即発の空気に…。
これには両者のツレである瑠璃と唯も介入しづらくなってしまいそのまま殴り合いになるだろう、と思われたその時に打開の一手はすぐ傍から放たれた。

「お止めになってください、お二方。今はただの市民同士…そうでしょう?」
「ぅ…白光様…」
「ぅ…白光さん…」
たおやかに9本の白尾を揺らしながら両者の肩に手を置いて自然と引きはがし両者へ笑顔を向けるその人物、この神社の巫女であり宮司であり…ご本尊でもある白毛九尾『口逢 白光(くちあわせ しかり)』その人だった。
目上の存在のその人の言葉は片や市長兼警察署所長兼裁判長の禮前、巫女につきながら千年近く宵ノ宮周辺の裏社会を牛耳る梅香ともに非常に重みがあり素直に二人は離れざるをえない状況に追いやられてしまう。

「さぁ、今宵は七夕。皆さん揃って彦星と織姫のように仲良くそして親睦をより深めましょう!」
白光のこの言葉に集まりに集まった魔物や人からは大歓声が上がったのは言うまでもない。





ーこうして宵ノ宮の今年の七夕は始まった…それでは皆様、よい七夕を〜♪

【完】

短冊になんと書きましたか? …私は『妖狐の嫁が欲しい』ですw

どうもjackryですw
今回もなんとか間に合うようにはしたつもり…でしたが残念! 7/8になっちゃったよww

はたして皆さんはどれだけのキャラがどの作品かわかったでしょうかww
わかった方には…何もありませんが私から拍手と称賛と…妖狐愛をぷれぜんt(殴

いかがでしたでしょうか?(´・ω・)
感想、意見おまちしております…。

12/07/08 00:03 jackry

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