読切小説
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彼は私の髪が好きだという
彼は私の髪が好きだという。
それは私にとって全てを肯定してくれるような言葉であり、いつも恍惚としてしまう。


彼は私の髪の色が好きだという。
自分でも美しいと思える濡羽色の髪を彼に褒められるのは胸が弾むような気持ちになる。


彼は私の髪を撫でるのが好きだという。
自慢のこの髪を彼の大きい手で撫でてもらうことはいつも幸福感でいっぱいになってしまう。


彼は私の髪の匂いが好きだという。
私から出るにおいの全てを吸い込まれ嗅がれている気分になって恥ずかしくも嬉しく思う。


彼は私の髪を指に絡ませるのが好きだという。
最高級の絹のようなこの髪の感触を彼に楽しんで貰えているのは誰かに叫びたいほど嬉しい。


彼は私の髪の毛が肌に振れるのが好きだという。
思わず彼にまとわりついてしまった髪の毛で彼を楽しませるのは私の日常ですらある。


彼は私が髪型を変えるのが好きだという。
おしゃれをして彼がそれを目で楽しんでくれて喜んでくれるのは私の静かな楽しみになっている。


彼は私の髪を切るのが好きだという。
髪を整える時は彼に頼んで切ってもらうけれど、彼にならどれだけ切られても良いと思っている。


彼は私の髪を常に持っていてくれるという。
一房の髪を私だと思って大事にしてくれている。でも自分の髪だというのに嫉妬してしまった。


彼は私の髪の毛を洗うのが好きだという。
頭皮からしっかりと先端まで彼に手入れしてもらえるこの時は彼からの愛情を深く感じる時だ。


彼は私の濡れた髪の毛を拭くのが好きだという。
湯浴みをしたあとの濡れた髪の毛を彼に丁寧に拭いてもらう事は快感とすら思っている。


彼は私の髪を梳くのが好きだという。
全てを彼に任せてしまうこの至高の時間は、そのまま時が止まってしまえば良いとすら思える。


彼は私の髪に口づけをするのが好きだという。
頭から毛先まで何処にでも口づけをしてくれることは私を天国へ誘うような気分にさせてくれた。






彼は私の髪の毛が好きだという。






でも。





彼は、それよりももっと好きなものがある。と云ってくれた。








彼は私のことが好きだという。





例え君の髪の毛が美しくなくても、滑らかでなくても、綺麗でなくても、君が好きだ。と。
たとえ君にどんな過去があろうと、どんな存在でも受け入れる。
どんな辛いことがあっても分ち合おう。嬉しい事は二人で共に感じ合おう。

君が老いようと傍に居させて欲しい。



君の人生を丸ごと貰う。




だから一生を共に生きて欲しい。と彼は改めて云ってくれた。






それは私はどんな褒め言葉よりも、その言葉が嬉しくて。嬉しすぎて。


答えは決まりきっているのに嬉し泣きをしてしまって彼を困らせてしまった。



15/06/14 16:36更新 / うぃすきー

■作者メッセージ
短文で詩のようなものですが、どうぞ。
フェティシズムも良いと思いますが本人も見てあげてほしいと思うのです。

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