読切小説
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素敵な物件(魔界)紹介します!
 某県某所の路地裏、耐久年数はとうに過ぎたであろうビルの、錆の浮いた階段を上った先にその不動産屋はたしかにあった。『まかい不動産』とポップな丸文字で書かれた下には山羊の角らしき物を生やした少女がウインクしながらこちらに笑いかけている。
 戸惑いながらも開いたドアの向こうには、白髪に赤い瞳の人間離れした美しさの女性がいるだけで、あとはおかしな所は見受けられない。

「いらっしゃいませ。本日はどのような物件をお探しですか?」

 微笑みながらそう問いかけてくる彼女にどきりとしながらも、椅子に座ってどんな部屋を探しているのか話す。

「駅はあまり近くなくてもいいから家賃が安めでコンビニが近くですか・・・申し訳ないのですが、当店は『普通の』物件は用意していないんですよ」

 普通の物件はない。では俗に言う訳あり物件を紹介するとんでもな不動産屋なのだろうか。

「う〜ん、説明するより見てもらったほうが早いですかね」

 彼女はそう言うと、奥の棚から大きなファイルをいくつか取ってくると、パラパラめくりだして言った。

「素敵な物件を、私があなたに紹介いたします!」



「賑やかな暮らしが好きな方はこの物件がお薦めですよ」

居住場所:地下
間取り:巣穴の一室 応相談で増改築可
備考:疲れた人を癒やすことが好きな癒やし系なあなた!ぜひ、あたしたちと一緒に暮らしませんか?

「この物件は地下ですので、気温の変化が少ないので住みやすいのでお薦めですね。また、長期間住んでいただけた場合は、文字通り一国一城の主になることもできるかもしれませんよ?」


「何かしらの創作活動をしている方にはこちらがお薦めですね」

居住場所:妖精の国 一戸建て
特記事項:小さな同居者有り
備考:熱意を持った創作家のあなた!私と一緒に素敵な創作をしませんか?

「妖精の国は自然豊かで賑やかな国ですね。同居の方と仲良くなりますと、秘められた芸術の才能が開花するかもしれませんよ?」


「仕事が忙しくて、家事がおざなりな方にはこちらがお薦めですね」

居住場所:レスカティエ 一戸建て
特記事項:献身的なメイド付き
備考:炊事、洗濯、清掃等の家事から夜伽まで、あなた様だけのためにご奉仕いたします。

「ナニをするにしても、快適で安寧に満ちた生活は大事ですね。もしかすると、あなたの能力が最大限に発揮されるかもしれませんね」


「特別働き者でなくても、尽くしてくれる存在が欲しい方にはこちらがお薦めです」


居住場所:南緯82度、東経60度から南緯70度、東経115度にわたる山脈 山付き一戸建て
特記事項:家具家電不完備 不定形なメイド付き
備考:おはようからおやすみまで、全てにおいて私がお世話いたします。その身一つでいらしゃってくださって問題ありません。

「こだわりの強いメイドさんですが、それはひとえに主人のためだそうですよ?それと、移転に伴う手段等はこちらが確保いたします」


「牧歌的な暮らしがしたい方にはこちらがお薦めです」

居住場所:明緑魔界 農園つき一戸建て
特記事項:毛刈りや搾乳等の日常の世話をしてもらいます
備考:優しくてぇ、ふれ合いが好きな人を募集していますぅ。みんなで待ってますよ・・・おやすみなさい」


「以上が先方からの圧力が強・・・失礼しました。特にお薦めの物件となっています。他にもお薦めの物件はたくさんありますので、ゆっくり考えて決めてください」

 手渡されたファイルをまじまじと眺めてみると、なぜか気になって仕方が無い物件があった。

「そちらになさいますか?」

 一も二も無く快諾すると、彼女はさらににこやかになりながら言った。

「では、こちらが契約書です。記入された日付、もしくはご希望の日付に担当の者が迎えに参りますので、その日付けで入居となります」

 何か質問はございますか?という問いに頭を振って、『まかい不動産』を後にした。


 後日、一人の男性がこの世界から忽然と姿を消した。彼を最後に見た知人は口を揃えてこう言っていたという。

「ちょっとかわった不動産に行ったら、素敵な嫁さんが出来たらしいよ?おかしな話だよな」
15/09/23 10:07更新 / リキッド・ナーゾ

■作者メッセージ
不思議な不動産屋・・・
その実態はリリムが経営する、魔物娘のための夫探しの場だったのだ!

猫の王国に行きたい!

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