読切小説
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バレンタイン前の魔物娘さんたち
〜〜『とある丘の上の家の家族』

 ハーピー
「〜〜♡」
 鼻歌混じりに台所でチョコを湯煎しているようですね。
 その手には卵が握られています。
「コレ? ボクが産んだ卵だよ。中身を出してチョコの型に使うんだ」
 ――中に何か入れたりとか?
「そうそう、ナッツとかね。……変なのは入れないよ?」



 サキュバス
「さて、どれにしようかしらね」
 お店の中で何やら悩んでいるようですね。
「あっちのハーブも良さそうだけど……うーん、これも捨てがたいわね……」
 ――あの、発情作用のあるハーブばかりなんですけど大丈夫ですか?
「なによ。心配しなくても作ったものはちゃんと味見するわよ」
 ……旦那さんの精力が持てばいいんですけどね。



 ワーウルフ
「フフフ、この日のために取っておいたッスよ〜」
 何かチューブのようなものを握って一人悦に入っているみたいですね。
「あ、な、なんスか!? べ、別に変なことはしないッスよ……しないッスよ?」
 ――まだ何も言ってませんよ。
「そ、そうッスか……と、兎に角自分はもう行くッス! さいならッス!」
 『虜の果実クリーム』……チョコに使うと糖分が大変なことになりそうだけど、大丈夫かな。


 
 白蛇
 ペリペリと尻尾から鱗を剥がしていますよ。
「どうされました? 鳩が豆鉄砲を食ったような顔をされて」
 ――……あの、それをどうするつもりですか?
「チョコを作るのに必要なんです。ちゃんと綺麗に剥がさないといけまないんですよ」
 ――ひょっとして、それを……あ、いや、なんでもないです。
「あの、勘違いされてるようですが、別にこれをチョコに入れる訳ではないですからね」



 コカトリス
 ソファに座って、ラッピングされた何かをいじってますね。
「これね、とうさまにあげるの」
 ――とうさま?
「うん、ほんとはわたしもチョコを作りたかったけど、かあさまたちがみんなはりきってるから……」
 ――なるほど、手伝ってほしいって言えなかったんだね。
「だからおこづかいをためて、かあさまたちの分もよういしたの。ないしょだよ」



〜〜『町の大道芸団』

 ワーキャット
 草原に寝転がって、暢気に日向ぼっこをしていますね。
「バレンタイン? そんなの知らないニャ」
 ――知らないって……、旦那さんや好きな人はいないんですか?
「旦那はいるニャ。でも、みゃーはチョコなんか作らないニャ。用意させるニャ」
 ――なんというか、凄いですね。
「猫なんてそんなものニャ。――まあでも、気が向いたら作ってやらんこともないニャ」



 ショゴス
「ああ、忙しいです。お話は手短にお願いしますね」
 体を変形させ、チョコの湯煎から成型、ラッピングまでを全部一人でやってます。
 ――あの、これを全部あなたが一人で?
「そうですよ、みんながみんなチョコを作るわけではありませんからね。その分も用意しないと」
 忙しそうですが、それでも彼女は楽しそうな顔をしていました。
「折角の催し物ですもの、楽しまなくては損ですよ。あなたもそう思いませんか?」



〜〜『ジパングのカラステングの里』

カラステング
「ちょことやらか……甘い物は苦手なんだよな」
 ――おや珍しい。女の人はみんな甘いものが好きだと思ってました。
「そりゃ偏見だ。あたしみたいに甘い物に疎い奴だっているんだよ」
 ――では、彼氏さんには何をあげるおつもりで?
「か、かれッ……!? ちが、あいつとはまだそんな関係じゃ……!!」
 どうやら、甘い言葉も慣れていない様子です。頑張れ彼氏くん。



〜〜『ある村の料亭』

 ケサランパサラン
 台所に立ち、小さなチョコをいくつも作っていますね。
 ――チョコビーンズって言うんだっけ?
「うん、てんちょーに教えてもらったんだ。これならちっちゃなあたしでも作れるって」
 どうやら店長とやらが湯煎したチョコを用意してくれたみたいです。
「あたしね、まだとくべつなひとってのがよくわからないから、だれにあげればいいかきいてみたの」
「てんちょーはよろこんでほしいひとにあげればいいって。だからこれはみんなにあげるの♪」



 フェアリー
 ケサランパサランの横で、同じように小さなチョコを作っていますね。
「手伝えばちょっともらってもいいってさ」
 ――なるほど、ちゃっかりしているね。
「えへへ、でもねあたしがあげる分はちょっと工夫してるんだよ。このフェアリーパウダーを……」
 ――あの、ケサランパサランちゃんの分に混ぜないようにね。
「その位分かってるよ、もう。あの子はそのままでいてほしいもん」

※フェアリーパウダー:かけられた男性を妖精や小さい魔物系から好かれやすくする効果を持つ。



 アルラウネ
 妖精二人の横で、マンドラゴラにチョコの作り方を教えているようです。
「――で、後は型に流して固めれば完成……あら、あなたもチョコを作りに?」
 ――いいえ、自分はインタビューで回っているだけです。あなたはどんなチョコを?
「ふふ、マンドラゴラちゃんと一緒にちょっとした工夫をね」
 ――料理が得意なんですね。やっぱり夫のためですか?
「当たり前じゃない。料理ができるってのは、いいお嫁さんの条件の一つよ」



 マンドラゴラ
「むー、難しいよー」
 何やら作業が難航しているみたいで火にかけた鍋の前でうんうん唸っていますね。
「あー、丁度いいところに。ちょっと味見してほしいな」
 ――どれどれ……苦ッ! 何このえっぐい味!?
「むー、煮詰めすぎたか……、ほろ苦いって難しいなー」
 ――あの、それより、水をもらえないでしょうか……。



〜〜『曰く付きの物件』

 ゴースト
「バレンタインですかー、私もなにかあげられればいいんですけどね」
 ――せっかくですし、何か特別なことをしてみるのはどうでしょうか?
「特別なこと……。うーん、ちゅーまではしたからもう一段階上を狙ってみようかなぁ」
 ――そうそう、その意気ですよ。
「…………フヒヒ」
 あ、なんか自分の世界に入っちゃったよ。もうしーらね。



 刑部狸
「チョコねえ……、この季節になると飛ぶように売れるから商売のし甲斐があるねぇ」
 ――もの凄く悪い顔をしながら言わないでください。
「商売人なら稼げるときに稼いでおかんでどうすんのさ」
 ――魔物娘なら、夫や好きな人を大切にするのでは?
「そうしたいのはやまやまだけどね、わたしにはまだそんなものはおらんのよ」
 だからせめて他の魔物娘さんの幸せのためにこうして働いているんですね。



〜〜『ジパングの茶屋』
 稲荷
「なんじゃ、お主もわしの甘味を買いにきたのか」
 ――いえ、わたしは取材であちこちを回っている者です。
「ふうん、まあよかろう。よく分からんが、あの日付が近くなると売れ行きが良くなるからの」
 ――夫や恋人に贈り物をする日ですからね、稲荷さんは誰か送る人はいますか?
「……」
 ……獣系の魔物娘って、怒ると尻尾が逆立つんですね。また一つ賢くなりました。



〜〜『ドラゴニアの竜翼通り』

 ドラゴンゾンビ
「もうあげたよ♡」
 ――早ッ!! 早くないですか!?
「だって楽しみだったんだもん、チョコをこう体に塗りたくって――」
 ――あ、ストップです。これ小さい子も聞くやつなんで、あんまり具体的なのはアウトです。
「ちゃんとバレンタインの時もあげるつもりだよ、その時はもっと、こうね〜」
 ドラゴンゾンビって、けっこう色ボケしてるんだなあ。



 ドラゴン
「なんだその軽蔑するような視線は。私を何だと思っているんだ」
 ――ごめんなさい。ついさっきまで、色ボケドラゴンゾンビさんにお話を伺っていたもので。
「フン、まあいい。誰も彼もこの時期は浮かれおって、竜の誇りとやらはどこにいったのやら……」
 ――それで、あなたは誰にあげるつもりですか?
「竜たるもの、自分から求めるようなことはしない! だが、受けた義理は倍にして必ず返すのだ」
 なるほど。バレンタインに夫からもらって、ホワイトデーにそのお返しをする、と。メモメモ。



 ワーム
「なんだ? バレンタイン? 美味いのかそれ」
 ――結構知らない人もいるんですね。好きな人に贈り物をする日ですよ。
「ふーん、そっか。俺もあいつになんか贈ってやった方がいいのかな」
 ――手作りでも既製品でも、気持ちが伝われば何でもいいですよ。デートとかでもいいですしね。
「おお、それだ! あいつを誘ってデートしよう! ありがとなー!」
 慌ただしく走っていっちゃいました。石畳って簡単に剥がれるものなんですね。



 ワイバーン
「バレンタインが近づくとワイバーン便も忙しくなって大変だよ」
 ちょっとお疲れの様子だ。折角だしチョコをあげるがてら話を聞いてみよう。
「んー、ありがとね。もぐもぐ……忙しくてもさ、ちゃんと準備はしてあるよ」
 ――ほうほう、どんな準備ですかな。
「へへへ、彼を乗っけてお空の上でデート♡手作りのチョコを食べながらね」
 もしかして、彼に配達を手伝ってもらうことも考えてるんじゃ……?



 龍
「いえ、特に張り切って何かする訳ではありません。いつも通りに過ごします」
 ――おや、意外。こういう時は夫にサービスするかと思ってました。
「それも楽しいですけど、夫と平穏な日を過ごすだけでも十分ですよ」
 ――でも、旦那さんがバレンタインだって言ってきたらどうしますか?
「その時は用意していたチョコを渡しますわ。もし言われなくてもさりげなく渡します」
 三歩下がってついていく。目立たなくてもこういった心遣いは嬉しいですよね。



〜〜『ジパングの大きなお屋敷』

 河童
「よく分からないけど、贈り物をする日なんでしょ? おにーさんにあげるよ」
 ――ほうほう、どんなものを?
「えっとね……うーんと……何をあげたら喜んでくれるかなあ?」
 ――それは一緒に居たあなたの方が分かるのでは。敢えて言うなら甘い物とかはどうでしょう?
「甘い物、甘いもの……そうだ! ちょこれーとってのが最近よく売ってるから、それにしよう!」
 天然というか世間知らずというか、何はともあれ上手くいくといいですね。










〜〜『???』

 さて、こうして色んな方に聞いてはみたのですが、みなさん何から何までバラバラですね。
 意見を聞くのは楽しかったですが、これでは参考になりません。
 これは困ってしまいました。私はどうすればいいのでしょうか。
 ああいや、答えは初めから出ています。とても簡単なことですよ。
 それでもこんなことをしたのは、ほんの些細な乙女心というものです。
 どうか笑わないでくださいな。










 ――ねえ、あなたはどんな贈り物がいいですか?
18/02/18 15:58更新 / ナナシ

■作者メッセージ
ここに出てきた魔物娘さんたちは、私が三題噺で書いたキャラ設定に従って書いています。
元々三題噺もキャラを自分で作るためのネタだったので、こういった形の作品を出すことが目的のような側面もありました。
誰か一人でも気にいった娘がいれば嬉しいです。

※三題噺は現在修正中です。ほのぼのなお話を作りたかったのに迷走してしまっているので、一度掲載したネタをリメイクしようかな、と考え中です。

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