連載小説
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Hurt
荒縄に両手を縛られ、槍を携えた侍女によって茣蓙の上に座らされた。桜の花が舞う春の木漏れ日が優しく包む。雲一つない爽やかな晴天が顔を覗かせている。

「綺麗....。」

思わず、そう呟いた。これが最期に見る空かもしれないから尚更だ。何故って今日私の罪が決まるから。連日に渡って行われた裁判の場で傷害・誘拐・違法薬物所持・無免許医療行為。そして殺人。考えられる全ての罪状が挙げられ、私はその全てを認めた。私が罪を告白する度、外野からは罵声や悲鳴があがった。

足元に二匹の飛蝗が跳ね合っている。雄と雌で、これから番いになろうというところだろうか。だが、中々近づこうとしない。私は尾先で雌飛蝗をちょんと押すが、彼女はそれに驚いたのか飛んで行ってしまった。
建物の襖が開かれ、縁側のように突き出た部分から龍神が現れた。
手に持った書類を広げる。そこに、私への罰が示されている筈だ。皆が固唾を飲んで龍神の言葉を待つ。しかし、当の本人である私はというと飛蝗たちが一緒になれたのかどうかが気になって仕方なかった。

処刑なんてどうやるのか知らない。そもそも、魔物の処刑という行為自体が非常に稀なのだ。私の隣で光る槍で貫かれるのか、くびり殺されるのか、それとも龍神直々に八つ裂きにされるのかはわからないが兎も角おとなしく殉じようと思う。

ふと群衆に目を向けると、眼帯をつけたあの子が人混みの中で辛うじて見えた。あの布の奥にあったはずの目玉は私が奪ってしまったけれど、残った左眼は周りが龍神を見るなかで私を見ている。

...全く、なんて顔をしているの。私はあなたの親の仇よ。そんな目で見ちゃいけないわ。

未だ私に対して情があるならそれを取り払わなくてはいけない。あの子の幸せの邪魔になるものは排除しなければならないから。傷も情も、そして私の命も。

隣の侍女に頭を掴まれ、私は強制的に龍神の顔を正面から見つめる形になる。周りがしんと静まり返り、厳かな雰囲気が辺りを包み込む。龍神はすっかり肌の荒れた私を一瞥した後、これ以上ないくらいの毅然とした態度で判決を述べた。

その口から放たれた言の葉は空気を揺らし、耳を通して私の頭蓋に届いた。脳内で私は言われた言葉を反芻する。
「......え?」

あり得ないと思った。その内容はあまりに理解に苦しみ、そして納得出来ないと思った。

「ふざけるなよ.....。そんなもの...認めてやるもんか......!」
振り絞るように出した私の声が龍神に届いたのかどうかはわからないが、私が暴れ出そうとしていることを察したのか侍女に指令を出して組み伏せさせた。
「離せ....。私は....そんなもの....!!」
頭を押さえつけられる。息が荒くなり、手足に痺れが走り、目の前が暗くなる。例えようのない不快感が胃からこみ上げ、私は嘔吐した。吐瀉物まみれのまま、私は意識を失った。途切れゆく意識のなか、ざわつく群衆の中から必死で彼を探した。

彼の細い足が私に駆け寄ろうと策を飛び越えようとするのを幾つかの槍が阻むところを目線の端が捉えた。

しかし、次の瞬間には私の意識は暗い底に沈んで行った。

途切れる視界。

遠くなる聴覚。

痺れた触覚。

そして暗転。





目を覚ますと、白い天井が久方振りになる柔らかな布団に包まれた私を覗き込んでいる。
傍らには龍神と草臥れた白衣の老人。老人は昔からこの城に駐在する医師だ。皺にまみれた、しかし温かな老人の手が私の乾いてひび割れた唇を開き、歯をこじ開けて棒を口の中に押入れ、口内を覗き込む。
そうして一人で勝手に納得して頷く。
どうやら生きることを拒否している私の不健全な精神に対して肉体のほうはそれなりの健全さをまだいくらか保っているようだ。
「典型的な栄養失調だね。精や食事を摂らなかったのか?」
老人の非難めいた眼差しを無視して私は目を閉じたので、代わりに龍神が答える。

「毎日配給してはいたのだけれど、全く手をつけなかったのよ。
身体に影響が出るかもとは思っていたけれど、まさか裁判中に倒れるとわね。余程動揺したんでしょう。
死刑にならなかったのがそんなに嫌だったのかしら。」

懲役20年。

それが私の犯した罪にかせられた罰だ。
私は法律には明るくないので、これが公正妥当な判断なのかはわからない。少なくとも私にとっては軽すぎた。

「......どうしてですか?
私を生かしても、何一つあの子のためにならないと言ったじゃないですか....。
私は死ななければならないんです。」

「君は、本気でそんなことを言っているのか。君の身体には....。」

老医師の言葉を、私は一瞥して遮らせる。彼が何を言おうとしているのかは分かっている。何せ自分の体のことなのだから。

「残念だが、医師として君にそんな選択をさせることは絶対に許さないよ。
君には何が何でも健康になってもらうよ。」

「どうするつもりですか.....」

「貴方にとって極上の食事を用意してあげたわ。
心置き無く堪能なさいな。」

そう言い残し、龍神と老医師は出て行った。

「.........」

そして入れ替わるように入ってきたのは、小さな人影だった。

私がよく知っている人だ。柔らかな黒髪も、少し日に焼けた肌も、くりくりとした片方しかない大きな眼も。
私が全てを奪った男の子だ。
あの龍神は本当にたちの悪い女だ。私にこれ以上この子を傷つけろというのか?

「なに?せっかく生き残ったってのにノコノコ殺されに来たのかしら?」


私の罵詈雑言を無視して彼は何も言わずに枕元まで近づいてきた。

「あ.....」

そして、いきなり掛け布団を引っぺがされた。次いで私の痩せた体を包む着物を剥ぎ取り始めた。外気に晒された私の乳房を両手で掴むと、勃起した小さな陰茎を取り出して挟みこんだ。彼の身体が揺れるたび、胸の谷間から小さな亀頭が顔を出した。

「っ! あ....うあ....!」

「こら...!何を...する...。ん....。.....あ.....ん.....!離....せ!」

返事は返ってこなかった。代わりに押し殺したような荒い息遣いだけが私の頭上から聞こえる。私の乳首にあてがった陰茎がめり込み、肉の中に消えていく。

「あ......くぁ.......!」

数分と経たないうちに陰茎から精が私の乳房に飛び散り、濡らした。

精液を垂らしながら、彼は体を私の顔に向ける。

「んぐ!?.....んんん!」
ぬるぬると湿った陰茎が私の口に挿し入れ、頭を押さえつけられながら、口内に生臭い精液を流し込まれた。

「ゴホッ....!ゴホッ.......!ううぅ....!!」
私は大量の精液を飲み込みきれず口からこぼし、それは泡になって顎を伝った。


「んん....あ....!」
休む間も無く、無抵抗の私の陰唇に指が挿入される。鱗ごしに小さな手のひらの温もりが伝わる。二本の指の動きははっきりいってたどたどしい。こんな行為はしなかったし、させなかったから。しかしそれでも、他人から受ける初めての愛撫に私は肩を震わせた。

「あ.....。そこ.....は......」
大陰唇を押さえられると、私は耐え切れずに淫声をあげてしまった。
そこが弱い箇所だと察知したのか、挿入される指が三本に増えて激しく私の膣を掻いた。強姦のような乱暴な動きだが、私の女体はそれを快感に変換していく。なけなしの水分を汗と涙と愛液にして身体から絞り出す。


「や、やめろぉ.....。殺すぞ....!
あ..あぁ......、ひぁ....ッ..ああ...あああああああああ......ッ!」

私の暴言にも耳を貸さず、彼は一心不乱に私の性器をほじくる。


指の動作がだんだんと早くなり、私の膣から恥ずかしくなるくらいに大きな水音が鳴る。まるで水溜りを踏み鳴らすような音が部屋中に響いて行く。

その小さな手を分泌した愛液が濡らし、てらてらと光らせた。

「あぁ...!!そこは.......ダメぇ......!!ダメなの!あ...ああっ!!
イッ......く.....!お...ああああ...ああああああああああ!!!」


大陰唇を潰すように摘ままれ、私は絶頂を迎えた。膣が収縮し、差し込まれた指を締め付ける。下半身を痙攣させながら、私は膣から潮を吹き出した。噴出したそれが布団と彼の体にかかる。

ひくひくと震える性器は、言葉とは裏腹に彼を受け入れたがっていた。

彼は自分の着物を全て取り去り、お互いを産まれたままの姿にした。勃起の収まらない陰茎を膣に当てがう。

「い、挿れるなぁ....。やめ....ろぉ...。
だめ....ぇ.....あ..あ..ぁ!」

私の拒絶を無視して陰茎が差し込まれる。
抵抗なく受け入れた陰茎を、膣の収縮が刺激する。顔を赤くしながら、彼は腰を私の白鱗に打ち付け続ける。空気が潰れる音が、室内に響く。

「い、いきなり....そんな.....!
...うああぁああ!!」
体が密着するたびに、私は悶えた。殺人鬼のままでいようと決めたのに、突かれるたびに女の顔が出てしまう。

「痛っ....…ぅ..あぁ.....!
だめぇ.....そこは.......っ!」

乳房を思い切り掴まれた。身体を回して振り払おうとするが、不摂生が祟ったのか思うように体が動かない。

そこは駄目なんだ。漏れてしまう。ばれてしまう。この子には知られたくなかった最後の秘密が。

「だめ...だ!離し.....て....!」
私の制止も聞かず、手が乳房の頂点にある勃起した桃色の乳首に触れた。

「やめ....てぇ....。私は....私は...あ..ああ...、ああああああ!!」

乳首を摘ままれた。僅かに白みがかった液体が、そこから吹き出す。汗ではない。本来は甘みの強い液体のはずだが、ここ数ヶ月の私の食生活から察するに非常に不味い味がするはすだ。

だが、紛れもなくそれは母乳だった。

「あぁ....出ちゃう.....、おっぱい....駄目..見ないで.....。」

私の身体には、もう一つ命が宿っている。父親は分かっている。私が身体を許した男は一人しかいない。

いま、目の前で私を犯している。


私の母乳を見て多少驚いたようだが、それ程動揺は感じられない。龍神から私の妊娠を伝えられていたのだろうか。否、妊娠だけではなく、私が隠しておきたかった全てを伝えられているのだろう。

乳房から離した手が私の頬に触れ、自分のほうに顔を向けさせた。懐かしい手だった。
私を憎悪と恋慕に染まった目で見つめる。私もこんな目をしていたんだろうか。


「....どうするつもりだったの?」

初めて彼がまともな言葉を発した。
お腹の子供のことだろう。私はもう隠し事は何一つできないんだなとそこで思い知らされる。

「....堕ろす...つもりよ...。こんな....狂ったの女の血を....残したくない。」

消え去りたい。赤ん坊とともに、この世から、人々の記憶から、私を抹消したかった。


「勝手だ....。勝手過ぎるよ!!!」
皮膚に食い込むくらいに、彼は私の頬に爪を突き立てる。

「なにが性欲処理の道具だよ!?あんなに優しくされたら、好きになるに決まってるじゃないか!!親の仇なのに!殺したいくらいに憎いのに!!!」

慟哭する彼の激情が、私の目に脳に心臓に子宮に伝わる。

愛してる。

そう言いかけた唇を慌てて噛んだ。

「そうやって自分に嘘つくなよ!!!!」

「ひっ.....!」
それを見透かしたかのように、彼の怒声が飛んでくる。彼の顔と目は紅い。

「ずるいよ.....。自分だけで勝手に償い方決めて、勝手に終わらせようとするなんて.....。
そんな償い方、僕は許さないよ!
赤ん坊を殺したら、本当に僕のお父さんと同じになる!」

「駄目....だよ....!あなたには.....幸せになってほしいのよ......!!!
私が生きてたら、幸せに.....なれない...。
二度もあなたの幸せを、殺したくない...!」

「あなたが死んだら僕の幸せも死んじゃうんだよ!!」

「え....?」

叫びとともに頬を掴む手が私の背中に回し、抱きしめられた。

やめて。やめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめて。
仮面が剥がれる。快楽的な殺人鬼の仮面も、姉がわりの仮面も剥がれてしまう。
大嫌いな私が露見していく。


「いつか言ったよね?
僕はあなたを憎むことになるって。
その通りだよ。殺したいくらいあなたが憎いよ.....。
でも、....それと同んなじくらいにあなたが大好きなんだもん.....!
あなたが死んだら、もう僕の幸せは二度と帰って来なくなるんだよ!!」

私と一緒にいたい。彼はそう言っているのか。

生きる。
子供を産む。
母親になる。

恐らく多くの女性が望み、そして私が抱いてはいけないと思っていた未来を私が掴むなんてことが、許されるのだろうか。

「お願い....。もう僕に嘘つかないで、.....僕を殺さないで......。僕を.......愛して。」

ああ、糞。なんなのよ。やめてよ。あなた今、私を犯してるのよ。抵抗できない私をひん剥いて、性器を突き入れてるのよ。

......なのになんでそんな切なそうな表情するのよ?

泣きたいのはこっちなのよ?

馬鹿。こんな告白、最低よ。

あなたの片瞳に写ってる女、酷い顔で泣いてるじゃない。

........抱きつかないでよ。


........最初にした時は、私のおっぱいまでしかなかったのにいつの間にこんなに背が伸びたの。

初めて出会った時は、.....あんなに小さくて.....可愛らしかったのに。

「......ごめんなさい.....。私はあなたに、取り返しのつかないことをしてしまった。本当なら、あなたにこの場で殺されても文句は言えない......。

それなのに.....いいの?
本当にあなたを愛しても、......あなたの子供を産んでもいいの?」

返事の代わりに、彼は仰向けに倒れこむ。拍子に膣から陰茎が抜け出た。

自分から交えということだろうか。

確かに私は今まで求められた性交にただ応じるのみで、自分から求めることがなかった。

先ほど口に注がれた精液が、僅かばかりだが私の体力を回復させていた。


彼は汗で髪が張り付いた顔で私を見上げて囁いた。

「ねぇ、して?」

男の子とは思えぬ仕草と表情が、女の私を蠱惑させた。苦しくないように気をつけながら彼の上に乗ると、震える手つきで小さな乳首を摘まんだ。

「...んん!」


生娘のように喘ぐ彼に、私の息はどんどん荒くなる。いけないことをしているという確信が、私の欲情を加速させる。

口内から舌を取り出すと、乳首に這わせた。いつか彼がしてくれたときのように、乳首に吸い付いて貪る。

「ひ....ひゃぁん.....!あぅ...ああ!」

変声期独特の掠れた声を私の尖った耳が捉えるたびに、頭がくらくらした。もう駄目だ。彼が欲しい。身体が彼を欲しがっているのが分かる。
もっと私の中で気持ち良くなってもらいたい。

乳首から唇を離すと、すっかり硬くなった陰茎を指で愛でた。ついさっきまで私の体内で暴れていたそれは、お互いの体液でてらてらと光っていた。

先端を私の膣にあてがった。先端から膣に温もりが伝わる。

私は初めて、自分から交わるのだ。ゆっくりと目線を下に向けて彼を見下ろす。
彼は顔を紅色に染めながら、私の指をキュッと握った。それを合意の証と受け取り、私は腰を沈めた。

「あ..ああぁ...あああああ!」

私の肉を掻き分け、彼が再び入ってきた。彼の両脇に手をつき、ゆっくり腰を動かす。
今まで感じた事がない快感だった。じんわりと伝わる暖かさが、胸の中からふつふつと湧いてきた。

不意に彼の胸に一滴の雫が垂れた。続いて二滴、三滴と落ちる。彼の手が伸びてきて私の顔を拭うと、四滴目の雫がついていた。

「....泣かないで...?笑ってよ。僕はあなたの笑った顔が好きなんだ。
あのときの笑顔が欲しいんだ.....。初めてエッチして、僕のお姉ちゃんになってくれた時の笑顔が.....。」


「私も....あなたが好き。愛して...る。気持ち...良い....。
下から突き上げられるの....凄い.....!」

彼が腰を突き上げるたび、私の身体は快感で仰け反った。力が抜け、両肘をついて覆いかぶさるように身体を屈める。

「ひゃう....!ああっ、おっぱい....吸うの.....ダメぇ.....。母乳が....出ちゃうよ.....。」

私の静止も聞かず、彼は母乳を垂らす乳首に吸い付いて離さない。ゴロゴロと嬉しそうに喉を鳴らした。
それが愛しく、思わず抱きしめてしまった。仰向けに倒れていた彼を抱擁して起き上がると、蛇の長い身体をその腰と尻に巻きつけて行く。鱗の感触にびっくりしたのか、彼は乳首に吸い付いた口を離し、胸の谷間から私を見上げた。

「びっくりさせちゃった.....?ごめんね....?
でも、.....どうしてもこうしたい。あなたを私の全部で感じたいの.....。もっと私の膣中で気持ち良くなって......?」

「僕もだよ.......。抱きしめられるだけじゃなくて、こうやって抱きしめてあげたい。
これすごく気持ち良くって、安心するよ.....!」

彼の腕が、私の白い背をきつく抱き寄せる。そのしなやかな細腕から考えられないほどの力強い抱擁に、男を感じる。

私の膣内にはまった陰茎を、腰をくねらせて刺激する。抱き合って、絡み合って、擦り付けあった。

「産んで!僕の赤ちゃんを!
あああ.....っ!!
僕の....家族に....なって....!!」

「うん......!私も、欲しいよぉ.....!あなたの赤ちゃん、産みたいの.....!出して......!あなたの好きなだけ、私の膣内に出して!!!
私、もうイきそうなの.........!!一緒に!一緒にイって!!!」


「出る!!出すからね!?あなたの膣に、思い切り....!
あぁ、イっくう.....!う....おお.....!........っは!あ....ああああ!ああ.....…んく!!!」

「あっ.....ああ........あん...///!
出てる......あなたの精液....私の膣に....。
いっぱい......出たね.....。」

電撃のような快感とともになだれ込んだ精液が、私の子宮を満たして行く。細胞という細胞が歓喜しているのを感じる。この人の子供を孕んでいる事実に、胸が熱くなる。

射精が終わり、小さくなった陰茎が私の膣から抜ける。溢れた精液が鱗に垂らしながら、私たちは見つめあった。そして、どちらからということもなく自然と唇を合わせた。

私の、初めての接吻。長い舌を彼の口の裏側に入れ、口中をまさぐる。彼も負けじと自前の舌を私の舌に絡ませた。
お互いの唾液を交換し、身体中に自分の印を付けるように舐めた。


その後も、私たちは愛し合い続けた。

数刻後に部屋に入ってきた龍神が顔をしかめるほど、部屋には行為の痕跡がこびりついていた。

彼が部屋を出る時、龍神にぺこりと頭を下げた。

やはりあの人はお見通しだったようだ。
彼を出て行かせた後、私に産休の間だけはここにいさせてあげると告げ、自分も出ていった。

一人取り残され、精液まみれになった身体を拭きとると私は空を見上げた。

20年。私が今まで生きてきた分より少し長い時を、私は孤独な牢獄で過ごすことになる。
それで私の犯した罪が許されるとは思わない。私は一生かけても消えない傷を負わせたし、負ったのだ。償いは永久に続く。



私は愛しいあの人の顔を思い浮かべる。それだけで、不思議と笑みがこぼれてきた。あの人が好きだと言ってくれたこの笑顔を忘れないようにしよう。


いつか、時が経ってここを出た時、あの人とこの子がこんな綺麗な空のしたで迎え入れてくれたときのために。

「......独りじゃない。」

いつかの日と同じように、私は呟く。



「...ねぇ、レーヴィ、見てる?
私、お母さんになるんだ.....。


...あたし....なれる....かな......?
...立派な......お母....さん......。

あなたがあんなになりたがってた.....お母さん...に....。

毛糸の帽子とか...編んであげたいなァ.....。

獄中からだけど、うけとってくれるかな.....?

ここを出た時、『お母さん』って....呼んでくれるのかな?


ねぇ、レーヴィ。
痛いね.....、

幸せって.....こんなに...胸が痛くて、苦しくて、怖くて、でも優しくて、あったかくて......

ひっ.....ひっぐ....う.....うあああああああああああああああああああ!!
ああ...ああああああああああ.....!!」





生暖かい水が溢れ出した。

胎盤が血の塊と一緒に子宮から引き摺り出される。

臍の緒が断ち切られた。

耳を劈くような泣き声と共に、私は抱き締めた。




その年の暮、私は一人の赤ちゃんを産んだ。
14/07/07 01:05更新 / 蔦河早瀬
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■作者メッセージ
大分更新が遅くなりました。すいません。

次が本当の本当に最終回です。

できるだけ早く書き上げるように努めるので、待っていて下さい。

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