連載小説
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山賊退治 決戦前編
  夜明けと共にその戦いの幕は上げられた…
「偵察班より敵部隊見ゆとの一報!!」
そう言って各隊との連絡役である魔女のクレアが、
部隊の先頭で指揮を執っていたフランの元に文字通り『飛んで』来た。
 普段はギルドの受付嬢をしているこのクレアだが、
その天真爛漫な性格とは裏腹に状況判断能力及び部隊の統率、
運用能力にも秀でた才を持ち合わせていた。
そのため、戦闘時には最前線で戦うカノンに代わり、
後方支援を担当する『サバト部隊』の副隊長として隊の指揮を執る事になっている。
非戦闘時には通信魔法の使い手として各部隊との通信任務に就いている

「来たか…」
「敵の規模は?」
「我彼の相対距離…約10000m。
 規模…歩兵100、騎兵60、魔術師40。
 その後方約1000mに輸送車を含む部隊も認む。
 数、輸送車5・教会騎士団約100との事です!!」
フランへの報告を終えると手に持ったメモを渡す。
「了解。偵察班には『探知魔法に注意しつつ接触を続けよ』と返信。
 全部隊に戦闘準備発令!!」
「了解しました!!」
フランの指示をメモし、クレアは素早く持ち場に戻って行く
「潜入部隊の報告よりもかなり多い…
 前方の部隊は報告にはなかった…
 先程、我が国から来ていた緊急警告が当たったか…」
判明した敵部隊の規模が書かれたメモを見返しつつ思わずフランは呟いた…
「フェニティから旧王国の残党狩りの応援部隊として派遣された
 『第2龍騎兵団』からの情報じゃったな?」
「ええ」
その情報とは旧王国の残存兵力が砦の兵と合流を目指して進行中との急報だった。
「まあこの程度で良かったのではないかの」
準備体操とばかりに大鎌を振り回すカノンがのんきに答えた。


  旧王国の残党が持っていた断片的な資料を収集分析した結果、
以下のような作戦を展開中で有るという事実が判明したのである。
 第1作戦
  各地で小規模な戦いを起こして敵の注意を引きつけ
  その間に旧王国各地の残存戦力を結集させ戦力を再編成を行う。
 第2作戦 
  最終試験段階の自律兵器と再編した戦力でおびき出した我らを殲滅。
  我々の戦力を低下させるのと同時に山間部を掌握し、街とフェニティを完全に分断。
 最終作戦
  街を孤立化させたのち第2で得られた実戦データを元に完成させた自律兵器を主力とした
  戦力で街を奪取、レスト王国復興の足がかりとする。
 という物だ…

 第1作戦はぎりぎり成功を収め、総勢500名の戦力を結集させる事に成功した旧王国軍。
しかし、
この大軍移動すれば砦の部隊と合流する前に敵の索敵網に察知されるのは明確。
そこで発見される危険性と発見された場合での被害を最小限に抑えるため部隊を分割し、
合流地点の手前で再結集させる作戦を採用したのだがそれが逆にあだとなった。
 国境付近を偵察中だった『第2龍騎兵団』の一部隊が敵の部隊を発見し撃破。
その部隊の持ち物を検分していた兵士が合流地点を記した地図を発見。
同時に作戦内容を記したメモも見つかったため、作戦の全貌が明らかになったのだ。
そこで合流地点にて旧王国軍に対して『第2龍騎兵団』による奇襲攻撃を敢行。
旧王国軍の大半を撃破することに成功したのだが、
別ルートを選択していた部隊は監視網を突破、砦の部隊との合流に成功したようであった。
 「念をのためこちらにも『龍騎兵団』から救援を送ったとの事でしたが…」
(虎の子の龍騎兵団を此方にまで送るなんて…)
「『龍騎兵団』まで送って寄越すとは相変わらず心配性じゃな〜エメラは…
まあ、親友がやっと結婚したんじゃ。
その新婚夫婦を気遣う気持ちは分かるがの?」
そういってその新婚夫婦をチラミするクレア。
「からかわないで下さい!!」
フェニティ…
正式名称
『フェニティ連合領地国』
 現在エメラルダスが総合領主を務めている親魔国である。
元は教会から任命された聖王が支配する強大な兵力を持つ反魔物国家であったが、
『軍備優先領民軽視』の政治を行っていた為に国民の不満が爆発。
周辺国を巻き込む大規模な内戦が発生…
 長い戦いの結果、親魔国と魔王軍の助けを借りた『領民派』が勝利を収め
親魔国へと変貌を遂げた。親魔国へと至った詳しい経緯について事はいずれ話すとしよう…

「噂をすればなんとやらじゃ。」
突如上空を複数の巨大な影が通り過ぎた。
「あの紋章…騎龍兵団近衛隊?!よりにもよって近衛隊を送って来るなんて…」
「まあ…あやつを葬れる奴は同じリリム位しかおらんから心配は無いが…
 近衛隊を出すとは『姫』も本気で奴らを潰す気のようじゃの…
 しかし、少々オーバキルが過ぎるのでは無いか?
 流石のワシも敵が哀れに思えてきたのじゃ…」
もはや心配を通り越し半端あきれているフランの元に上空の竜騎士から通信が入った。
(こちらエメラルダス様の命により参上しました
 『龍騎兵団近衛隊第1小隊』隊長ライン・バート。
 これより貴軍の指揮下に入ります。)
(こちら討伐隊司令フラン。
 加勢に感謝します。
 このまま上空からの監視をお願いしたい)
(了解。
 交信出来て光栄です。
 第1親衛隊隊長フラン様。
 只今より監視任務に着手します)
フランに命令の復唱をした後、隊長のラインは通信用のインカムの回線切り替えスイッチを
部隊内通信に切り替え、配下の隊員に指示を下す。
「各員に通達。
 上空監視任務に移行。
 飛行編隊デルタ。
 どんな変化も見逃すな!!」
「「「「了解!!」」」」
インカムのスピーカーからは部下達の声が雑音もなく良く聞こえた。
(ジョー達が使用していたインカムを元にサバトが開発した魔動式インカム。

通信用の小型水晶に繋がっており両手がふさがっている状態でも
通信が可能となっている)
「何度見ても見事な編隊飛行じゃの〜」
上空を見つめるカノンが思わず呟いた
「あれが龍騎兵団の強みの1つです」
「一騎でさえ脅威なのにそれが複数でしかも連携攻撃を仕掛けてくる…
 地上の敵にとっては恐怖じゃな…空は三次元の動きが可能。
 攻撃もあてずらいしの〜」
「敵主力視認!!魔法攻撃の有効射程距離まで後3000!!」
討伐隊の前方で偵察をしていたブラックハーピーが報告してきた
(こちらでも確認しました。
 敵の動きに変化なし。真っ直ぐ此方に向かってきます)
「魔法攻撃準備!!」
「先制攻撃か…良いじゃろ総員魔法攻撃準備!!」
「獲物には魔術師もいる…攻撃を防がれると厄介…
 我の式神達で先に潰すか?」
「出来るのか?」
「私も四聖獣の1柱。そんなの朝飯前…」
 
「天下の騎龍兵団もいるんじゃ…
 まずは騎龍兵団に急襲させて敵を撹乱、
 そこに白の式神で後方から攻撃を仕掛け、厄介な魔術師どもを殲滅。
 敵の魔法防御を無力化し主力に向けて一斉魔法攻撃を敢行。
 敵が浮き足だったと同時にに此方が斬り込むのはどうじゃ?」
「流石は元軍師。それでいきましょうか」
「我の式神達はすでに攻撃位置についている…」
「準備が良い奴じゃ」
「我は『白虎』…狩りの準備に抜かりはない」

 「敵、魔法の有効距離到達まで後2500!!」
「フランから上空監視中のライン隊長へ。
 先ずは敵の魔法を封じます。
 貴隊は本隊の魔法有効距離到達と同時に上空から強襲を仕掛けて敵を撹乱して下さい。
 その隙をついて潜伏させている友軍を敵後方から突撃させます」
(此方ライン、任務了解。
 強襲後の自由攻撃は許可ですか?)
「許可します。
 魔法攻撃斉射時のみ敵上空から一時撤退してください」
(了解!!
 これより攻撃位置につきます!!)
「総員攻撃準備!!
 目標、敵魔術師部隊!!
 我ら『騎龍兵団』の力をみせてやれ!!」
「「「「了解!!」」」」
それまで討伐隊上空を飛行していた『ワイバーン』5体が
敵上空に向けて速度を上げて移動を開始した。
「全軍突撃体系、強襲攻撃用意!!
 サバト部隊は後方に下がれ。
 サバト部隊直衛以外は我に続け!!
 魔法斉射攻撃のち、敵主力に突撃を敢行する!!」
(騎龍兵団突撃準備完了!!)
「目標魔法攻撃有効距離に突入!!」
「騎龍兵団攻撃開始!!」
 (総員突撃!!)
フランの合図と同時に竜騎兵が上空から敵陣に襲いかかった。



 「敵発見!!総数約100、その約3割が魔物だとのことです!!」
「此方1/3の数か…この戦い勝ったな…」
偵察隊からの報告を受けて敵司令官が笑みを浮かべた。
その身を包むのは甲冑ではなく、魔術師用戦闘服。
そのデザインは教会の高官であろうと推察出来る、
およそ実戦には向かない物だ。
「いくら注意すべき魔物が居るとはいえ、その数は30程度…
 その程度の数では我らに勝利するのは到底不可能でしょうな。
 魔に落ちた人間ごときは我らの相手になりますまい!!」
甲冑で全身を包む副官が同様の意見を述べる。
その顔には『主神の名を受けた我々が悪魔に魂を売った者に負けるはずがない』と言う
なんの根拠もない自信に満ちていた。
…この軍上層部は今回出撃してきた『討伐隊』に関する情報収集を怠った様だ…
正しくは『討伐隊』の戦闘能力を正しく認識している者が『1人』だけ
敵の部隊長クラスに存在した…
しかし、その者は敵主力の約1km後方に配置された
『自律兵器』輸送部隊の直衞任務に回されており、
ここには居ない…

 戦いでは正確な情報をより多く、
そして迅速に収集した方が勝利をもぎ取る…
それは現実世界で起こった数々の戦争の結果が歴史的事実として証明している…
また敵を見下し戦力を過小評価するとどうなるかは…
火を見るより明らかである。

今回編成された『討伐隊』の主力メンバーは今は無きレスト王国が最期に仕掛けてきた
『ステーションシティ侵攻戦』を始めとする数々の戦闘を戦い抜いてきた
歴戦の戦士から構成されている。
応援要員として他の地域にあるギルド支部から派遣されてきた冒険者達も
名の知れた者達であった。
それに参謀として魔王軍の元軍師である『カノン』が討伐隊に加わっている…
何の策も講じすにこのまま真正面からぶつかり合う事になれば…
撃破されるのは…
最早ここで語るまでもないであろう…

 「あの兵器を出すまでもない…通常兵力のみで叩き潰してくれるわ」
「魔術部隊、攻撃準備!!目標、敵主」
「グォーオ!!!!!」
突如上空から竜の咆哮が響き
ズドォン!!
巨大な火球が辺り一面で弾け跳び、
超低空に急降下してきた何かが敵主力に向かって突撃してくる。
「敵歩兵は無視しろ!!魔術師を徹底的に叩け!!」
上空から奇襲を掛けてきたのはラインを先頭とした龍騎士兵団近衛隊だ。
急降下による重力加速をも味方につけた竜騎士達のランスや長剣が進路上にいる敵兵を
容赦なく吹き飛ばしていく…
「何だ?!」
「何処からの攻撃だ!?」
上空から奇襲を受けた本隊は一気に混乱の渦の中へと叩き揉まれた。
「落ち着け!!状況報告!!」
部下たちを静める為に副官が怒鳴りつける。
「上空よりワイバーン!!ふ、複数が急速接近!!」
「何だと?!総員迎撃体制!!」
「魔術部隊何している!!早く敵を迎撃しろ!!」
「敵は魔術部隊を中心に攻撃しています!!防御のみで手一杯です!!」
「何だと?!歩兵どもは何している!?魔術師を守れ!!」
(この安物の盾であの攻撃を受け止めろっていうのか?!)
(防御魔法も使えない俺達歩兵が竜騎士に勝てるわけないだろ?!)
(だからあれほど弓兵も付けろと言ったんだ!!)
(後方の騎士団と合流出来ていれば…!!)
5騎という少数ではあるがその戦闘能力は騎馬隊の比では無い。
地上を走り2次元的な攻撃しか出来ない騎馬隊とは違い、
空を飛ぶ飛龍に跨がる竜騎士は3次元の立体攻撃を可能とする。
地上を這いつくばる歩兵など竜騎士から見れば只の的でしかないのだ。
その歩兵に魔術部隊を守れという事は、
剣と盾しか持たぬ者に『襲い来る戦闘機を迎撃しろ』と命令するのと等しい。

 実戦を全く知らない『司令官』に周囲の者が心の中で悪態をついている時に
新たな脅威が出現した。
「後方より新たな敵!!数約20!!」
「今度はどんな魔物だ?!」
「巨大な虎です!!通常攻撃が効きません!!」
「何だと?!」
「待ち伏せされたのか!?」
この混乱に乗じて白の式神が攻撃を開始したのだ。
この式神の属性は風…
実体を持たない身体に斬撃なぞ無意味だ。
本隊最後尾を守っていた歩兵達を蹴散らし、
魔術師達へ肉薄する『風の虎』の群れ。
魔法で迎撃するには周囲に張った結界への魔力供給を止めなければならないが、
上空からは火球や斬撃が絶え間なく襲いかかってくる。
もし攻撃魔法を加える為に結界への魔力供給を止めれば瞬く間に結界を破壊され、
飛龍から吐き出される火球で自らの身が消滅するであろう…
まあ、実際は直撃しても『死ぬ』ことは無いのだが…戦闘不能になることは間違いない。
魔術師達が右往左往しているうちに『風の虎』は最終防衛ラインである結界を易々と突破、
ノーガードの魔術師達に襲いかかる。
魔術部隊が全滅するのも時間の問題だろう…
70名ほど居た歩兵も竜騎士と風の虎の攻撃によって既に半数以下となっていた…

 「…騎馬隊を先頭に奴らの本隊に斬り込め」
「魔術部隊を見捨てるのですか?!」
「仕方がないだろう!?このままでは只の的だ!!
 乱戦に持ち込めば空の奴らは下手に攻撃出来ないからな…
 私は例の兵器を起動する為に騎士団と合流する…
 お前らは敵に突撃して時間を稼げ」
そう言うと司令官は簡易転送魔方陣を使い姿を消した。
「あのバカ野郎!!自分だけ逃げやがった!!」
「副司令どうしますか?!」
「敵陣に斬り込むしかないだろうが!?
幸い、数の上では此方がまだ優勢だ!!
接近戦に持ち込めばまだ勝機は…」
「ワイバーン、上空から撤退を開始!!」
竜騎士達の謎の行動に困惑する敵兵達。
フランからの合図で一斉に上空から避難を開始したのだ。
(こちらライン。安全距離まで退避完了!!)
水晶から聞こえた報告にクレアはうなずき無言で大鎌を頭上に掲げた。
「サバト部隊魔法攻撃開始!!」
号令と共に大鎌が振り下ろされ、すさまじいまでの魔力が敵に向かって放たれた。
「敵魔法攻撃開始!!」
「構うな!!騎馬隊突」
副司令官は最後迄命令を下す事は出来なかった…
ワイバーンが撤退するのとほぼ同時に飛来した攻撃魔法の斉射に
意識を強制的に持って行かれたからだ。
(此方ライン。
 敵主力、我が軍の攻撃魔法斉射により壊滅。
 残敵は撤退を開始しました)

(本隊了解。式神と連携して残敵の排除を命じます)

(此方ライン、了解しました。残敵排除開始します)
「突撃するまでもなかったようじゃの〜♪」
「…容赦ないですね…」
「なに、意識を飛ばす程度の衝撃を喰らわしてやっただけじゃ。
 直撃はしておらんしの〜」
クレア自ら指揮をとって放った攻撃魔法は敵の直ぐ前方で炸裂。
着弾により発生した衝撃波が敵主力を襲ったのだ。
まともに食らった者はもれなく吹き飛び、地面と熱烈なキスをすることになった…
その中には敵の副司令官も含まれていた。
因みに敵の偵察隊は此方の先発隊によって全員捕らえていたりする…
「私にも獲物残しといて欲しかったです〜」
いつの間にか白の口調は戦闘モードから普段のものに戻って居たがかなり不服そうである。
「そう不貞腐れんでも良い。
 まだ、教会騎士団が無傷で残っておるわい」
「敵の騎士団は恐らく…」
その時これまで口を閉ざしていたライトが初めて口を開いた。
「…旧レスト王国教会の騎士団なのか?」
「主力はそうでしょう…
 事前に入手した資料の中に有った隊長の名は間違いなく
 レスト王国教会騎士団総隊長の物でした…」
「お前の元上司か…」
「同時に僕の師匠でもあります…
 司令官、一筋縄ではいかない相手です」
「お前のお師匠なら一度対決した事がある。
 敵を見下したりせずに冷静に分析し確実に勝利を勝ち取る逸材じゃ…
 奴に小細工は通用せん。
 全力でぶつかって行かんと、この戦い…勝てんぞ…!!」

前哨戦と言うべき敵の前衛部隊との戦いは呆気なく終わった…
敵将の無知と傲慢さが生み出した結果であると
言っても過言ではないであろう…
しかし、敵にはまだ知将が率いる『騎士団』と『自律兵器』が残っている。
真の戦いはこれから始まる…!!
 決戦後編へ続く
13/09/11 05:56更新 / 流れの双剣士
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■作者メッセージ
長い間お待たせしてしまい申し訳ありませんでした(土下座)
えー言い訳させていただきますと…就活で執筆活動が全く行うことが出来ず、
→やっと入れた所では精神と体力両方を酷使する職場だったので執筆活動まで手が回らず→心身ともにぶっ壊して休職&離職のコンボを食らってやっと時間が出来ました…介護職って大変です、ハイ…マジで図鑑世界に行きたいと思っている今日この頃w
最後まで目を通してくださった読者の皆様誠にありがとうございます。
誤字脱字等があればいつも通り感想欄までご一報くださいませ。

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