読切小説
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ハニートラップ



 ここはとある親魔物領の一角。晴れた日の昼下がり。
 木漏れ日の差し込む森の中に、小さな人影が一つ。
 近くの街に暮らすまだあどけない容姿の少年は、とても慎重な様子で前へと進んでいた。

 獣道すら見受けられない森の中を、草木を掻き分けつつ、しかし極力音を立てないように抜き足差し足。真っ直ぐ前を見据えるその視線からは、子供が道に迷っているような様子は見られない。十歳よりなお若いだろう少年、その背丈ほどの雑草が行く手を遮っているにも関わらず、まるで彼にしか見えない道がそこに見えているかのように、ただひたすら前へと突き進んでいた。

 ふと、ある地点に差し掛かったところで少年の動きは更に慎重なものへと変わった。
 一歩一歩足元を確かめて、小枝の一本すらも踏まないように。まるで、何かに気が付かれないように。野鳥のさえずりと自身の心音だけが少年の鼓膜を震わせている。彼の瞳は僅かばかりの緊張と溢れんばかりの期待に満ちて、爛々と輝いていた。

 少年の視界がさっとひらけて、彼は眩しそうに目を細める。
 そこは、森をその部分だけ丸く切り取ったかのように木々がひらけた空間だった。空からはさんさんと太陽の光が差し込み、色とりどりの花々が咲き乱れ、蝶々が楽しそうに辺りを舞い踊る。幻想的とすら思えるその場所こそが、少年の目的地だった。

 しかしながら、少年はそこへ足を踏み入れようとはしなかった。手前の低木の陰に静かに身を隠すと、枝葉の隙間から花畑へとじっと目を凝らす。こっそりと、何かを探すように。しばらくして、徐々にその目が太陽の光に慣れてきたころ……

「……っ!」

 ……その瞳がとらえた光景に、少年はドクリと心臓を跳ね上げ、息を呑んだ。

 見開かれた視線の数メートル先、花畑の中央にある朽ちた切り株。それを背もたれにして、一人の少女が腰を下ろしていた。

 ショートカットに切り揃えられた茶髪からは一対の黒い触覚。背中からは薄く透き通った二対の翅。お尻のあたりからは、黒と黄の警戒色に染まった昆虫の腹部様の器官が生えている。その方面に詳しい人間であるならば、この少女が草原や森林地帯に生息する『魔物』の一種、『ハニービー』であることが分かっただろう。整った輪郭にすっきりとした目鼻立ち、大人しそうな目付き。全ての魔物に共通する眉目秀麗な容姿は、確かな女の色気を感じさせつつも、やや幼げだ。その年の頃は、少年と比べて五歳ほど年上といったところだろうか。

 少女を見つめながら、少年は鼻息も荒く、ゴクリと唾を呑み込む。
 それは、年上の女性の美貌に思わず見惚れてしまったから……というわけではない。もちろん少女の容姿は少年にとって、異性に対する悩ましい感情を誘起させるに十二分なものではあったが……正確には、彼の反応はもっと別の部分に起因するものだった。

 少女は、裸だったのだ。
 「本能的に男を欲する」というその性質上、露出の多い格好を好むことで知られるのが魔物という生き物ではあったが、当の彼女は下着一枚すらも身に付けてはいなかった。胸も下半身も完全に露わとなっていて、瑞々しく真っ白な素肌が暖かな陽の光に照らされていた。年齢相応、決して豊満とは言いがたい、けれどもスレンダーでバランスの良いその肢体。自然豊かなこの空間に、生まれたままのその姿は見事なまでに調和していた。

「ふあ……♥ んっ、あっ♥」

 可愛らしくも、どこか艶めかしい声音。
 同時に数度、少女の全身がピクピクと跳ねた。
 お椀型の小振りな乳房が、美味しそうなプリンのように柔らかく震える。

 少女の手と指先は、大きく左右に開かれた股の間に添えられていた。僅かに濡れているらしく、陽光を眩く反射するそこを繊細な指先が蠢くたびに、しなやかな脚線美が小刻みに痙攣する。

 淫靡な雰囲気を多分に滲ませるそれは、明らかな自慰行為だった。自分のしていることに夢中になっているのだろう、少女の顔は次々と生まれ出る快感によってすっかり蕩けてしまっていて、すぐ近くで覗かれていることになどまるで気付いていないようだった。

「あっ、んくっ……♥ ふぁあっ♥」

 温和で大人しそうな外見から、控えめに繰り返される嬌声と痙攣。しかしそれでいながら指先だけは忙しなく蠢き続けていて、くちくちという粘っこい水音が少年の元まで届いてくる。慎ましくも熱のこもった、自分自身への慰め。少年は、目の前の少女が毎日同じ時間にこの花畑に居て、いつも同じ行為に耽っていることを、ここ数日ほどの経験で知っていた。少女のあられもない痴態を覗き見ることこそが、少年が真に求めていたものだった。

 少年は自分でも知らないうちに、前のめりになってその光景を凝視していた。まだ心身ともに幼い彼には、少女の行っていることが一体どういった類のものなのか、よく分かっていない。けれども、今まさに成熟の一途を辿る女体を艶めかしく捩る仕草が。真っ赤に染まった頬に、目尻をトロリと下がらせた表情が。少年の鼓膜を甘く蕩かせる甲高い嬌声が。自身の心をどうしようもなく魅了させ、心臓をはち切れんばかりに高鳴らせていることだけは、しっかりと理解していた。

「ん……準備、完了……♥」

 手慰みを続けるさなか、少女はふと一言呟く。
 そして自身の右脇に手を伸ばし、何やらゴソゴソと漁り始めた。
 草花に隠れて少年からは見えにくいが、どうやらそこにはバッグか何かが置かれていたらしい。少年は荒い息を殺しつつ、固唾を呑んでその行く末を見守る。

 しばらくして少女が取り出したのは、小さく透明なガラス製のビンだった。コルクで栓をされた中には、粘性のある琥珀色の液体がゆるく揺蕩っている。愛液でヌメる手元に苦戦しつつも、少女はいそいそとコルク栓を引き抜き、自分の股間……手慰みで程良くほぐれた女性器に向かって、ビンの中身をゆっくりと傾けた。

「ひゃ……」

 ねっとりと糸を引き、下腹部へと琥珀色が落着する。
 触れた液体の冷たさに、少女はきゅっと身体を縮こませる。
 液体は重力に従って、すでに半分ほど剥けた陰核包皮の真横を伝い、溢れ出た愛液と混ざり合いながら、まだ幼さを残す未熟な女性器へと真っ直ぐに流れていき。

「ふあ……っ」

 サーモンピンクの秘粘膜に触れた瞬間。

「……ぁあ、ああああっ!♥♥」

 少女の身体は、下腹部から全身に広がるように、ぶるりと大きく震え上がった。

「あはっ♥ やっぱりこれっ♥ すごぉいっ♥」

 少女はビンに栓を閉めるのもそこそこに、再び股間を弄くり始めた。
 垂らした液体をしっかりと馴染ませるように、手のひら全体を使って入念に女性器へと擦り込んでいく。手先の動きは見るからに激しいものへと変化していて、蜜を使用した瞬間から少女がより強く興奮し出したのは明らかだった。

 琥珀色の液体の正体は、『アルラウネの蜜』。
 『アルラウネ』という植物型の魔物から採取した樹液を、ハニービー独自の製法によって高純度に精製させた、いわば一種の媚薬だった。少女らハニービーは自らの肉体を美しく保つために、この蜜を使って全身の『手入れ』を行う習慣がある。特に『男性自身』を受け入れるための女性器の『手入れ』は、より重点的に。

 少年は、ある日の森の探索中、偶然目撃してしまった少女の『手入れ』に、心から魅了されてしまったのだった。
 この光景を覗き見するために毎日毎日、親には内緒でこっそり森を訪れるほどに。

「お手入れっ、キモチいいよおっ♥」

 強力な媚薬成分が秘粘膜へと浸透し、女性器は瞬く間に紅く充血していく。量にしてスプーンたった一匙分程度の蜜は、ただそれだけで、少女の大事な部分をまるきり敏感なオンナへと変えてしまっていた。増幅された快楽を一つ残らず貪るように、少女は必死になって同じ箇所を責め立てていく。

 痛いくらいに勃起し、包皮がすっかりずる剥けたクリトリスを、左手の指先で摘むように扱き上げる。そうして溢れ出てきた愛液を蜜と一緒にかき混ぜながら、右手の指先で膣の入り口をじっくりと解きほぐしていく。将来迎え入れることになるだろう愛しい誰かを、手厚く歓迎できるように。手元がもぞもぞと蠢くたびに、可愛らしい嬌声とにちゃにちゃとした濃い水音が静かな森へと響き渡っていく。蜜を使う前とは比べ物にならないほどに、少女の反応は劇的な変化を示していた。

 当然ながら、そんな少女の痴態を見せつけられて、少年の我慢もいよいよ効かなくなっていた。
 ズボンの内側からテントを張るように、彼の股間は大きく膨らんでいた。居ても立ってもいられずズボンのチャックをこじ開け、トランクスの中身を引きずり出す。すると子供らしく小振り、かつ皮被りでありながらも、自分はもう立派な大人なのだと自己主張せんばかりに勃起したペニスが顔を覗かせた。

 最初に少女の痴態を覗き見たあの日、生まれて初めての勃起を経験し、それに伴う精通を迎えたときは心底驚いた彼も、覗き見通いが日課となった今となってはもはや慣れたものだ。男という生き物が元来抱く本能に身を任せるまま、包皮の上からペニスを扱き始める。

「あっ、あひっ、あっ♥ イク、もうイッちゃうぅっ♥」

 少年の目前で、少女の行為は見る間に激しさを増していく。
 指と指の間をクリトリスが滑るたびに、彼女の華奢な腰と脚が小刻みに痙攣する。徐々に切羽詰まっていく甲高い声音。足首からつま先までが、ピンと一直線に硬直する。少女の性感は今まさに、ピークを迎えつつあった。

「はぁ……はぁ……っ!」

 甘ったるい嬌声に促されるように、少年も己のペニスを一生懸命に扱いていく。
 灼熱のような感覚が下腹部に溜まっていくのを感じながら、少女が迎えるその時を見逃すまいと、まばたきも忘れて彼女の姿を見守っていた。

 数秒後、突如。

「……ぁはあっ♥♥」

 小さな鳴き声とともに、少女の身体は弓なりに大きく反り上がった。
 背骨が折れそうなほどに背を反らせたまま数度、ブルブルと震えたあと、糸が切れたように切り株にもたれかかる。相当強烈な絶頂を迎えたらしく、ぐったりと脱力したまま動かない。荒々しい吐息を繰り返す胸元、そして快楽の余韻を楽しむように依然クリトリスを撫で回す指先だけが、浅く上下に揺れていた。

 股を広げたままのはしたない格好で余韻に浸る女体のいやらしさは、どうやら少年の琴線を強く刺激したようだった。無意識に雌を求める雄の本能は精液となって具現化し、ペニスの内側を勢い良く駆け上がり、そのまま放出される。絶頂感が治まるまでの十数秒の間、少年は雑草と地面の上に散らばる白濁をぼんやりと眺めながら、ひたすら息を整えていた。

 快楽が身体の力を奪い、よろけそうになった少年は咄嗟に体勢を整えようと、片足を一歩踏み出す。

 その瞬間。パキリと。
 少年の足裏で、何かが砕ける音がした。

「――ッ!?」

 ギクリと足元を見てみれば、靴の裏側で真っ二つに折れた、小さな落枝。
 数瞬、呆然とし。しかしすぐさま状況を把握した少年は咄嗟に少女の方へと顔を向ける。

 そこには、依然上気した顔で少年の方を見つめる、少女の姿があった。 
 どことなく虚ろな瞳と目が合って、サッと少年の顔が青ざめる。間違いない、バレた。覗き見していたことに対する罪悪感が途端に少年の精神を塗り潰し、彼はその場から遁走しようと全身を翻して。

「待って!」

 突如、鼓膜を貫いた静止の声に、少年は思わず立ち止まってしまった。
 少女の嬌声以外の声を聞いたのは、彼にとってこれが初めてだった。普段から聞き慣れた艶めかしい声音とは違う、どこか落ち着きつつもはっきりとした響き。

「お願い。行かないで」

 このまま逃げ出してしまいたい気持ちと、まるで懇願しているかのような少女の声音。その両者の狭間で困惑し、花畑に背を向けたまま動けなくなる少年。少ない勇気をなんとか振り絞り、ゆっくりと振り返って少女を見遣ると、そこにはコッチコッチと小さく手招きをする少女の姿が目に入った。

「ねぇ、怒らないから……んっ♥ ……こっちに来て。ね……?」

 股間に添えられた指先は、相も変わらず蠢き続けている。
 喘ぎ声と荒い吐息を漏らしながら微笑み、自分の元へと誘う少女。
 黒い触角と薄く透けた翅が、ときに柔く優雅に、ときに小さく痙攣するように、揺れていた。

 少年は思わず、息を呑んだ。
 彼としても、出来るものなら少女に近付きたかった。こんな低木の陰などではなくもっともっと近くで、少女の裸体を、痴態を眺めていたかった。少女のすぐ隣で、彼女の存在を目に焼き付けたかった。魅力的な雌を目の前にした雄であれば誰しもがそう考えるだろう、それこそが、かねてから少年が最も強く望んでいたものだったのだ。

 少女の声と仕草に誘われるように、少年は草陰から姿を現した。覗き見していた手前、自分の姿を晒すことに言いようのない恥ずかしさを覚えながらも、着実に少女の元へと歩いていく。幼い少年の歩幅でも十歩と少し程度の距離。少女から少し離れたところで、彼は立ち止まった。

「こんにちは♪ もうちょっと、大人の人なのかと思ってた……♪」

 依然熱っぽく微笑みながら、少女は少年をやや上目遣いに見上げている。
 情欲に火照りきった華奢な肉体、先端を桜色に色付かせる柔らかそうな乳房、ヌラヌラと怪しく陽光を照り返すサーモンピンクの割れ目。夢にまで見た光景が、念願だった少女の痴態が、今まさに目の前に在る。少年は口内に溜まっていた生唾を、ゴクリと一気に飲み込んだ。

(……あれ?)

 ……飲み込んで。ふと少年は少女の言葉に気になる点を見つけ、頭に疑問符を浮かべた。
 彼女の台詞からは、まるで少年の存在を以前から知っていたかのような。

「え、あの。もしかして、僕がここいること、知ってたの……?」
「うん。だっていつも、そこの茂みから覗いてたよね……じぃっと♪」
「ど、どうして……!」

 覗き見行為がとうの昔にバレていたことに、少年は狼狽するのを隠せない。
 相対する少女は、つうと、少年の下半身へと視線を移して。

「だって……すっごいえっちな匂い、してくるんだもん♪ ……『ソレ』から♥」
「え?」

 にんまりと目を細める少女。
 視線を追って真下を見れば、そこには硬く勃起したままであるペニス。

「……わああ!」

 そこで少年はようやく、ペニスをズボンから出しっぱなしにしていたことに気が付いた。頭が混乱していたせいで、すっかり仕舞うのを忘れてしまっていた。慌てて股間を両手で隠し、咄嗟に少女に背を向ける。

 魔物という生き物が人間の『精』を何よりの好物としていること、それ故に、その匂いにとても敏感であるという知識を、少年は持ち得ていなかった。覗き見がとっくに露見していたこと、そして自分の恥部を真正面から見られてしまったことが相まって、彼の顔面は火が吹き上がりそうなほどに赤く染まっていた。

「ねぇ。それ、もっとよく見せて?」
「え、ぇえっ!?」

 更にはそんなことまでお願いされてしまっては、少年にはもう戸惑う以外の反応を返せない。

「私がシてたコト、今までずっと隠れて見てきたんでしょ? だったら私も、キミのを見たって構わない。……違う?」
「……」

 挙句、もっともらしいことをまくし立てられ、少年はついに黙り込んでしまった。

 背を向けたまま、しばし少年は逡巡する。
 彼もまだ幼いとはいえ、物心のつき始めた男には違いなかった。他の誰かに、それも女性に自分のペニスを見られるのは、言うまでもなく心底恥ずかしい。

 ……しかし。

「……えっと」

 そろりと、背後を振り向く。
 キラキラと期待に目を輝かせて、じっと彼を見上げている少女が、そこにはいた。

「……ちょっと、だけなら」

 そう言って少年は、おずおずと少女の方へ向き直り、躊躇いつつも股間を隠していた手を除けた。
 少年は、良くも悪くも優しく、そして実直な性格だった。期待に応えなければ相手が悲しむかもしれないという気遣い、そして少女に言われた通り、自分も同じように見せなければ卑怯なのではないかという思いが重なった結果が、少年から「拒む」という選択肢を削り取っていた。

「……うわあ〜〜……♥」

 陽の元に晒された皮被りのペニスを見て、少女は感嘆の声を上げる。
 瞳を尚更に輝かせて前のめり、興味津々にその部分を眺めている。

「ね、ね。もっとこっちでよく見せて!」
「〜〜ッ!」

 少年はいっそ茹で上がりそうなほどに頬を赤らめるも、観念して少女の目前まで近寄っていく。
 少年が抵抗しないのをいいことに、少女は鼻先までペニスに顔を寄せて、まじまじとその輪郭を目でなぞっていた。少女の吐息が当たるたびにペニスが反応しそうになるのを、少年は必死になって堪えていた。

「初めて見たけど……すごい、えっちなカタチ……♥」

 二つの睾丸を包み込む玉袋をしばし覗き込んでいた少女は、未だ産毛すら生え揃わない下腹部を経由し、陰茎の表面を走る血管を目で追いかける。そのままペニスの真ん前へと移行し、皮被りの末端からほんの少しだけ覗いている亀頭に辿り着いたところで、その視線は止まった。……先ほど射精したばかりで拭き取る時間すらなかったそこには、僅かながらも白濁した粘液が付着している。

「すぅぅ……」

 未だ色濃い匂いを残しているそこに鼻を寄せた少女は、思い切り息を吸い込んで。

「……はぁぁああっ♥」

 濃厚な香りで肺をいっぱいに満たしたのち、うっとりと満足げなため息を漏らした。

 少女の恍惚に蕩けた表情を見て、少年はまた密かに唾を呑み込んだ。
 初めて間近で見る発情しきったオンナの顔が、少年の鼓動をひたすらに早めている。幼い彼には到底理解できない類いの興奮が、局部に血液を収束させている。この逸る気持ちをどうすればいいのか、彼にはさっぱり分からない。けれどもただ、目の前の女性を「どうにか」したくて堪らない、そんな衝動だけが心の奥底に渦巻いている。まだ小さな子供であるにも関わらず、雌の肉体を心から欲する雄としての本能が、彼のペニスに着実に根付き始めていた。

「ね、ボク」

 そんな雰囲気を察したのか、否か。
 興奮冷めやらぬ表情のまま、少女は新たな『お願い』を少年に持ちかけるのだった。

「私の『お手入れ』、手伝ってくれないかな。私の指じゃ、奥まで届かなくって……」
「……え、お手入れ……手伝い、って?」
「あ、そっか……ちょっと待っててね。今、準備するから……」

 ハニービーの慣習を知らない少年には、『お手入れ』の意味が分からない。よって、どう手伝うのかも想像できない。それを察した少女は一言断ると、自前のバッグから先ほどのビンを取り出した。琥珀色の液体が封入された、小さく透明なガラスビン。少女はコルク栓を引き抜き、中身を手のひらに多量に取ると、手のひら同士を擦り合わせてねっとりと引き伸ばした。

「最初はちょっと冷たいけど、我慢してね……」
「え、わ……」

 少女は蜜まみれになった手のひらで、少年のペニスを優しく包み込む。琥珀色が細かく糸を引きながら、まるで芸術品に触るかのような丁寧な手付きでペニス全体に塗りたくられていく。

 ヒヤリとした冷たい感触に、少年は一瞬顔をしかめる。
 ……しかし、包皮からちょこんと覗いた亀頭の先端に、ほんの少しの蜜が触れた、次の瞬間。

「うあ……ぁあああ!!?」

 触れた部分からペニス全体を蝕むように、それどころか、身体全部にまで火が灯っていくかのように、急激に熱が広がっていった。同時、それまで蜜が塗りたくられていた部分からも徐々に媚薬成分が浸透していき、まるでビキビキと音を立てるかのように、ペニスが大きく腫れ上がっていく。それまで子供に毛が生えた程度のサイズでしか無かった少年のペニスは瞬く間に、包皮がずる剥け、大人顔負けに長大で、凶悪なまでにカリ首がエラ張った赤黒いモノに変化、変色していった。

 全身を襲う灼熱の本流は、いつしか膨大な量の快楽へと変化していた。
 ワケも分からぬまま、あまりの快楽に少年は腰砕けとなり、その場に尻餅を付いてしまう。
 媚薬成分に侵食され尽くし、槍のように太く長く固くなったペニスだけが、蒼天に向かってそそり立っていた。

「な、なに、これぇ……!」
「……すごぉーい……♥」
「う、うああ……!!」

 みるみるうちに巨根となったペニスを見て、少年は呆然とした声を、少女は感嘆の声を上げた。

 「こうなる」とは流石に思っていなかったらしく、うっとりと目を細めた少女は、視線を奪われながらも新たな蜜を手のひらに注ぎ足す。それを潤滑液代わりとして、天を衝かんばかりの剛直をゆっくりと扱き始めた。ペニスの形と感触を自分の身体に覚えさせるように、亀頭の先端から竿の根本まで、ねっとりと。魔物としての本能が成せる業なのだろう、その手付きはやや拙くありながらも、初めてペニスに触れるにしてはあまりに手馴れていた。

 蜜のもたらす媚薬効果と、裏筋やカリ首を的確に責め立てる少女の柔らかな指先に、少年の脳髄と腰は否が応にも反応せざるを得ない。

「あ、熱いぃ……っ!、なんなの、これぇ……っ!」
「どう? 気持ちいいでしょ……♥ 今からこのおっきいのを、私の中に入れるんだよー♥」
「い、入れる……? どこに……うはぁ!?」
「うふ、それはねー……こーこ♥ ここに入れるの♥」

 促されて、少年は少女の視線を追いかける。
 目を向けた先、依然大きく広げたままの股の間で、少女は二本の指を使って大陰唇を左右に広げていた。

「この中に、そのおっきなおちんちんを入れてー……奥の奥まで、蜜を塗りたくってほしいの……♥」

 これまでの「手入れ」によって散々ほぐされ、鮮やかな紅色に充血したそこは、とても物欲しそうに、見ようによっては酷く淋しげな様子で、その小さな入口を開閉させていた。

 そこに自分のペニスを挿入するという行為が意味するところを、そして少女が本当は何を望んでいるのかを、性教育も魔物学の勉強もまだの少年は知らない。……しかし、蜜と愛液によってすっかり濡れそぼったその場所が、ウニウニと蠢くように形を変え続けるその場所が、一体どれだけの心地良さをもたらしてくれるのか。自分の手で慰めるだけでも相当に気持ちよく、少女の手で撫でられようものなら腰が抜けてしまいそうになるほどのこの行為を、彼女が示すその場所で行えば、一体どれほどの。

 それらを想像するだけで、彼のペニスの硬度と感度はより一層増していく。
 ふいに少女の指先が、カリ首から亀頭の先端までをより強い刺激でもって撫でくり回した。興奮の絶頂にある少年に、その急な快楽に耐える術は無かった。

「く、ああっ!」
「きゃあっ!?」

 ペニスの先端から多量の白濁が、勢い良く迸る。
 本日二度目の吐精とは思えない量のそれは、驚く少女の顔や髪、胸元に、パタパタと降りかかった。強烈な射精の快感にビクビクと腰を跳ねさせる少年の前で、白濁のシャワーを浴びながら少女はしばし呆然とする。栗の花のような青臭い匂いと、アルラウネの蜜の甘ったるい匂いが混ざり合った何とも言えない香りが、花畑の一角に漂っていた。

 十数秒の射精が収まり、少年は脱力する。
 そんな彼の目の前では、たまたま唇付近に付着した精液を、少女がぺろりと、舌で舐め取って。

「……はぁぁああっ♥ おいしぃいい……♥」

 頬に手を当て、まるで有名菓子店のスイーツを口いっぱいに頬張ったかのような至福の表情を浮かべるのだった。

「ね、こっち♥ こっちにもおねがぃい♥」

 先程までの落ち着いた様子はどこへやら。
 精液の味を占めてしまったらしい少女は、いかにも待ちきれないといった様子でこれまで以上に大きく股を広げ、両腕で膝裏を抱え上げた。同時に腰を少年の方へ突き出し、膣口がよく見えるよう大陰唇を両手で引き広げて、ペニスを挿入する箇所を強調する。それは所謂、まんぐり返しと呼ばれる体勢だった。

「おちんちんでっ♥ 私のここ、お手入れっ♥ いっぱいしてえっ!♥ オクまでっ、蜜っ、ゴリゴリすりこんでぇえっ!♥」
「う、あ……っ!」

 すっかり発情しきった少女は、期待と淫欲に溢れた顔で少年を見つめている。
 誘うようにひく付く膣口からは、目の前の男を歓迎せんと多量の愛液が溢れ出している。
 暗く奥底を見通すことも叶わない小さなその場所からは、まさしく底知れない、一度入り込んでしまったら二度と抜け出すことが出来ないのだろう、不可逆的な未来を容易に感じさせた。

 抜け出せなくても、構わない。
 少年はそう、直感的に、思考を帰結させた。

 気が付けば、息は尚更に荒くなっていた。
 獲物を前にした獣のごとき血走った目で、少女を見つめていた。
 二度も射精したにも関わらず、ペニスは硬さを保ったまま、少しも萎える様子が無かった。

 少年が一匹の雄になったその瞬間を見届けて、少女はただ嬉しそうな笑みを浮かべる。
 ドクドクという激しい心音が互いの耳まで届いてしまいそうな、はち切れんばかりの緊張を湛えた空間が、両者の間で保たれていた。

 少年はおもむろに身体を起こし、少女の真ん前で膝をつく。挿入する場所はすでに教えてもらっている。紅色に熟れた膣口へと迷うことなく、亀頭の先端を押し当てた。

「キて……♥」

 少女の声に促されると同時、少年は彼女に覆い被さるように腰を進めた。
 少年の身体の中で最も敏感な部分が、粘液に富む柔肉の中へと埋まっていく。ほんの少しの抵抗感、直後にプチプチと何かが千切れるような感覚。それに疑問を抱く間もなく、少女の体内の生暖かさ、奥へ奥へと誘い込むように絡み付く肉ひだの感触、まるで別個の生き物のような複雑なうねりを伴う膣内の蠢きが、少年の思考の一切を霧散させた。

「は、あああぁぁ……♥♥」

 まだ何者の侵入も許したことの無い膣壁を、剛直で少しずつ掻き分けられて、少女は深い深い溜息を漏らした。充足感に満ちた吐息が、少年の前髪を優しくくすぐる。狭苦しくも柔軟な膣内がみっちりと埋め尽くされていく感覚に、破瓜の痛みなどとうに消え失せ、強烈な快楽のみが彼女を襲っていた。

 子宮の入り口と亀頭の先端が情熱的な出会いを交わしたと同時、少年と少女は互いに脱力し、肌を重ねた。下半身からもたらされる心地良さと、柔らかで滑らかな肌の感触、そして芳しい少女自身の匂いが、いっそこのまま眠ってしまいそうな安らぎに少年を包み込んだ。

 こんなに気持ちの良い行為が、この世にあっただなんて。
 少年は溢れんばかりの驚愕と感動に、ただただ打ち震えるしかなかった。

「ねぇ、はやくっ♥ はやく奥、オクを塗ってえっ♥」

 焦れるような少女の声。
 少年ははっと我に返り、少女の『お願い』を思い出す。

「ど、どうすればいいの……?」
「ゆっくり、抜いたり、挿したり……♥ 気持ちいいの、塗りたくってぇ……♥」
「う、うん、分かった……ん、ぅうう……!」
「んぃ、ぃいい……♥」

 ゆっくり、ゆっくりと、腰を引いていく。
 膣壁を構成する肉ヒダがカリ首を引っ掻き回すと同時、まるで折角手に入れた宝物を離さんと言わんばかりの膣圧がペニスを締め付けてくる。快感で上手く力が入らないのも相まって、ただ引き抜くことすらも容易ではない。

 ようやっとペニスが抜け切る限界まで腰を引くと、再度、奥底まで肉棒を沈めていく。

「あはぁああ……♥♥」

 子宮口に亀頭で熱烈なキスを交わされて、少女は満ち足りた声を漏らした。
 これまで得たことのない快楽に脳髄を犯されて、感極まったのだろう。少女はいつしか自身の手脚を絡みつかせるように、少年を掻き抱いていた。少年もそれに応えるように彼女を抱き締め、一生懸命に腰を前後に動かしていく。

「んふーっ! ふーっ!」
「んひっ ひぃい……!♥」

 しばしの間抜き挿しを繰り返し、手入れと言う面目の交配行為を互いに愉しむ。
 至極当然と言うべきか、彼らの行為は時間が経過するとともに段々と激しくなっていった。より強い快楽への切望が、彼らを遙かなる高みへと誘う。蜂蜜をゆっくりと掻き混ぜるような水音は数分もしないうちにテンポを狭め、パンパンと肉と肉をぶつけ合う音もそれに加わっていく。

 入り口から奥底までの長いストロークで、ペニスを何度も何度も突き込まれる。凶悪なカリ首に膣壁を刮がれながら、子宮の性感帯をドスドスと小突き回される。

「ふんっ! ふ、ふぅっ! ふんっ!」
「んはぁっ!♥ しゅ、しゅご、あはぁっ!♥♥」

 女性として本来上げてはいけない声を洩らしてしまうほどに、少女は快楽にどっぷり沈み込んでいた。
 生まれて初めてのセックス。普段自身の細く短い指では届かないところまでを執拗に手入れしてくる屈強なペニス。オナニーでは決して味わえない、相手のペースに支配されたことによる予測不可能な快楽の訪れ。それらは、これまで自分自身による手入れしか知らなかった少女の一切合財を、どうしようもないまでに虜にしていた。

「はふっ、おねえさ、あふっ!」

 この行為が手入れの手伝いであるということなどすっかり忘れ、少年はひたすら腰を振り続ける。もはや少女の女体と快楽を貪ることしか頭には無い。無我夢中といった様子で、彼女を犯し続けていた。

「もっとお!♥ もっと私にお手入れしてえ!♥」

 そしてそれは、少女も同じだった。
 少年の抽送に合わせるように、自分も精一杯前後に腰を揺らす。蜜と愛液が長大な肉の棒によって掻き混ぜられ、白く泡立ったようになっている結合部は、双方の交配の激しさを物語っていた。

 少年はただ、自分が気持ちよくなるための最善の動作を探求する。年長者である少女はそんな少年を助けるように、自身の腰の位置や動きを微細に変えて、少年が動きやすいよう調整する。もちろん、自身の敏感な部分を責めてもらえるようにするのも忘れない。

 森の中の開けた空間、様々な色彩が咲き乱れる花畑の中央。二匹の雄と雌が生み出す熱気のなか、弾けるような嬌声と淫靡な水音だけが木霊している。

 それは時間にして、十分にも満たない時間だったかもしれない。
 けれども二人にとっては、永遠にも等しい至福の時間だった。

「お、おねえさ、ボク、またさっきの、きそう……!」
「いいよぉ♥ わたしの奥に、せーえき、いっぱい出してえ!♥♥」

 ただし、何事にも限界というものが、あるにはある。
 双方抱き締め合いながら、ラストスパートをかける。
 ただただ無言のまま、肉と肉が奏でる湿った音だけが鳴り響き。

「んんんっ!」
「んはあっ!♥♥」

 唐突に、二人の身体が弾けるように跳ね上がった。
 絶頂し痙攣する膣肉に揉みほぐされながら、喜びに打ち震えるペニスは子種を子宮に注ぎ続ける。これまで経験した射精の比ではない、長い長い射精。少女は少年を掻き抱き、脈動するペニスを体内に感じながら、甘美に過ぎる精の味を存分に堪能していた。

 尋常ではない量の精液が、子宮の中をたっぷりと満たしたころ。
 二人はぐったりと身体の力を抜いて、絶頂の余韻に荒い息をついた。

「お手入れ……ありがとお♥ すっごい、気持ちよかったよぉ……♥」

 少女は、蕩けきった笑顔で少年を見下ろす。
 ……しかし少年は、どこか言いにくそうな様子で少女の胸に顔を埋めていた。

「……? どうしたの……?」
「……えっと」
「んー?」

 十秒ほど逡巡したあと、少年は意を決して。

「……もうちょっと、お姉さんのお手伝い、したい」

 一言、呟いた。
 その言葉に少女は気が付く。少年のペニスは未だ萎えておらず、膣肉を太く押し広げたままだった。ドクリと、少女の心臓が跳ね上がる。彼女の身体の火照りも、未だ治まってはいなかった。

「……そっか。じゃあ……」
「……わ、んむぅ!?」

 そう呟いた次の瞬間、少女は少年の唇にキスを見舞った。舌で口内を舐り回すような、熱烈なディープキスだ。急な少女の行動に少年が驚いたその隙に、少女は少年を地面の上に押し倒し、攻守を逆転させた。

「今度は、私がキミのおちんちん、お手入れしてあげる……♥」

 少女が腰をゆっくりと上げると、ヌルヌルと膣からペニスが抜けていく。
 お手伝いしてあげたいのはボクなのに。そう少年は口にしかけたが、少女が勢い良く腰を落とした瞬間、そんな抗議は強烈な快楽の内に掻き消えた。





 あれから攻守交代と体位の変更を繰り返しつつ、抜かず五発ほど。
 初めての不慣れなセックスに疲れ果てた二人は、ようやく動かなくなった。
 精の在庫を使い果たし柔らかくなったペニスが、少女の膣からズルリと抜け出る。同時、ぴったりの栓を無くしてぽっかりと開いた膣口から、おびただしい量の精液が溢れだした。子宮に収まる容量の限界を超えた白濁が、地面と草花を染め上げる。ペニスと膣口、双方の間を名残惜しむように粘性の糸が伝い、そして切れた。

 日はいつしか西に傾き、辺りの風景はオレンジ色に輝きつつあった。

「んむ……むちゅぅ……♥」

 少女は、精と蜜と愛液でドロドロになっているペニスを懇切丁寧に舐めしゃぶる。一生懸命お手伝いしてくれたことに対する、少年への感謝の念だ。どうやらすっかり、少年のことが気に入ってしまったらしい。一通りお掃除を終え、最後に思いっきり鈴口を吸い、尿道に残った白濁を絞り上げて。

「……ぷはぁっ♥ ……ごちそうさまでした♥」

 ペニスから口を離し、極上の笑みを浮かべた。
 最高に嬉しそうな表情を間近で眺めながら、少年はまるで夢を見ているかのような心地に、しばし呆然と息をついていた。夕焼けに染まる少女の美貌が、息を呑むほど美しい。

(……夕焼け?)

 そのキーワードに、少年は頭に疑問符を浮かべて。

「……あはは、もう、すっかり夕方だね。すっかり夢中になっちゃった……♪」
「……え、あ!」

 ふと、少女が何気なくそう言って、その言葉に少年は声を上げた。

 少女との行為に夢中になりすぎて、すっかり時間のことを忘れていた。いい加減家に帰らなくては、流石に親も心配する。……正直なところ、少年としてはもっと少女と共に在りたかった。けれども、幼くも優しい少年にとって両親に心配をかけてしまうような所業は、許容しがたいことでもあった。

「か、帰らなきゃ……! ……あ、あの、お姉さん、ボク」
「ねぇ、ウチに泊まってく?」
「もう、行かなきゃ……って、え?」

 焦る最中に聞こえた言葉に、少年は耳を疑った。

「え、えと……?」
「今からだと、街まで帰るあいだに暗くなっちゃうだろうし、下手したら森の中で迷子になっちゃうかもしれないよ? 私の住処ならここから近いし、街への連絡用の水晶もあるから。キミのご両親に、今日は帰れないって伝えてあげる」

 矢継ぎ早に真っ当な正論と提案をまくし立てられ、少年は口を噤む。
 けれども彼の性格上、これ以上お世話になるのはどうにも躊躇われて、遠慮の言葉を口に出そうとした。

 それを遮って。

「それにぃ……♥ まだ、シ足りない、よね?♥」
「!」

 くちゅり、と精液まみれの女性器を広げられながら、そんな台詞を囁かれて。少年はゆっくりと、自らの下半身に目を落とした。少女も、少年と同じ箇所を嬉しそうに見つめている。少女とまだまだ一緒にいられるかもしれないという事実、そして先のお掃除フェラの影響も相まって、少年のペニスは雄としての気迫を取り戻しつつあった。

「お手伝い熱心な子だ♥ いい子、いい子♥」

 裏筋をつつつと指先でなぞられた瞬間、少年の頭から「家に帰る」という選択肢は消え失せた。それを察した少女は、早速とばかりに脱ぎ散らかしてあった衣服を身に付け、ショルダーバッグを肩がけする。それを見て、慌てて衣服を整えようとする少年を不意に抱き締めると、虫の翅音を奏でながらフワリと宙へ飛翔した。

「わ、わぁっ!」
「今夜は、離さないから……ずぅっと、一緒……♥♥」

 突然の浮遊感に驚く少年。
 それを尻目に一言呟いて、少女は楽しげな様子で帰路についた。





 後日。
 森からほど近い街の中で、やや歳の離れたハニービーのカップルが仲睦まじそうにしているのを見かけるようになったのは、言うまでもない。


15/11/25 22:03更新 / 気紛れな旅人

■作者メッセージ
ここまで読んでいただきありがとうございます。

作中に挟む余地が無かったのですが、このハニービーのコミュニティの女王蜂は既に夫持ち、という設定があります。つまり、登場人物の少年は女王に献上されること無く、いつまでもこのハニービーとラブラブなワケですね。お幸せに。

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