読切小説
[TOP]
箱の中に居たる娘のこと
都に唐物の市立ちしとき、物収めるべき箱求めていきぬ。
いきてみれば、唐模様の箱数多ありぬるうちに、ひときはあやしき箱あり。
その箱、いとめでたき様なれど、唐物のさまにあらず、また和物のさまにもあらじ。

「この箱、いかなる故なるものかは」

と聞かば、店主のこたへていはく、

「この箱、げにあやしき様なれば、真は唐物にあらず、よりとほき地より来たるものなり、との話こそ聞けれども、真はいかなるものか、我も知らざるものなり」

とて、いかなるものかはわからじ。
されど、実にいみじき様なる箱なれば、買い求めたり。

雨のふりたれば、急ぎ家に帰りぬ。
家につきて、とく箱の中をみんとて鍵開けぬ。
とみに、いとうつくしき幼子、箱の内よりいでたりけり。

まことあやなきことなれば、動けじ。
幼子、

「あうー…やっぱり鍵で開けられちゃいましたかー…
 えと、あなたが私の箱を開けた人、ってことでいいんですよね?まぁ他に人は居ないみたいですし間違いないとは思いますが。
 では、事の前に自己紹介をさせていただきますね。
 私はミミックのミルムと申します。どの程度のおつきあいになるかはわかりませんが宜しくお願いしますね!
 あ、おつきあい、っていってもお突き合いじゃないですよ?私には生えてませんしね!一方的に突いてもらうだけですのでご安心を。
 で、あなたはなんとおっしゃるんですか?」

とぞのたまひけり。
幼子のいひけること、わづかにこそわかれ。
さすれば、

「汝、なにをかいひける?」

と、とひけり。
幼子のこたへていはく、

「む?なんとなーく何をいってるかはわかるんですが、どうにもわっかりづらいですねー
 っていうか、私が何を言っているかがよくわからないみたいですねー
 そんな時には…えーっと…」

などといひて、みづからのいできたる箱の中をのぞきたり。
そのさま、いとあやし。

「たしかこの辺にー…お、あった!ありましたよ!
 サバト謹製ほんやくコンニャ…もとい、魔道式簡易言語最適化食品スプリングレイン!
 さあて、お兄さん?おとなしく食べてください。おいしいですから!
 ………多分。」

などとのたまひて、怪しげなる春雨をもちて近づききぬ。
逃れんとすれども、幼子の力つよく、あたはず。

……飲み込んで、しまった。

「な、何をするっ!」
「スプリングレインを食べさせました。
 それはそうと、効いてますかね?」

と、少女が言う。
一体何のことか。

「一体なにが効いているというのだ。」
「スプリングレインですよー。どうやらバカ効きしてるみたいですね。
 アレを食べてから、私が何を言っているのかわかるようになったんじゃないですか?
 今私が何を言ってるのかわかりますよね?」
「む…言われてみれば、確かにそのとおりだが…なんだったのだ?あの怪しい春雨は。」
「ここでは春雨というんですか?怪しい…は、まぁあってますが。
 あれはサバトの作った魔法薬を練りこんだ特製食品ですねー。
 なんでも
 【意思疎通が容易となるよう、一方の利用言語を思考言語単位で最適化することによって、言語の壁に阻まれた全世界の恋人たちを救済する至高の逸品】
 とかなんとか。まぁ、翻訳をしてくれる便利食品と考えてくだされば結構です。詳しい理論なんか私もわかりませんしね!」
「そんな訳のわからないものを私に食べさせたというのかね。君は。」

まぁ、食べてしまったものを気にしてもしょうがない。というより、気にしないほうが精神衛生上よさそうだ。
それよりも、色々と気になることが多すぎる。
この少女のこと、箱のこと、サバトとやらのこと、魔法薬なる存在のこと。

さしあたって聞くべきことは…

「…で、君は一体何者なのだ。」
「ありゃ。そこから説明が必要ですか。
 幾らかはあなたの言葉がわかったので、あなたにも通じてるかと思ったのですが。」
「あんな断片的な情報では何の役にもたたん。」
「うぅ…私渾身の自己紹介が…」
「渾身だったのか。まぁ、やけに長くしゃべっているとは思ったが。」
「私の名前はミルムです。ミミックなんぞをやっています。」
「みみっく…?」
「平たく言うと魔物ですね。」
「ふむ…魔物…というと、妖怪変化の類か?」
「んー…厳密にはちょーっと違いますがね。だいたいそのようなものと思ってもらってもいいです。」

どうやら、とんでもないものを引き当ててしまったらしい。

「ということは、私を食べでもするつもりかね?」
「やー。捕食的な意味では食べませんよ?体の一部を、主に性的な意味では食べますが。下のお口で。」
「…後半は聞かなかったことにしよう。で?君のような娘がどうしてまた箱の中に入っていたのだね?」
「箱入り娘ですか。うまいですねー!」
「そんなことは聞いていない。」
「わかってますって。もちろんお話ししますがその前に1つ、よろしいですか?」
「なんだ。」
「お兄さんの名前。伺ってもいいですか?」

教えるわけ、無いだろう。
「名前」と言うものの持つ力は大きい。妖怪なんぞに教えた日にはどうなることか。

「断る。妖怪に教える名はない。」
「ひどい…私のようなか弱い女の子に名前を言わせておいて、自分は名乗らないような血も涙もない殿方だったんですねー!?」
「妖怪が何を言う。」
「むぅ…確かに警戒する気持ちもわからないじゃないですが、ちょっと失礼じゃないですかね?」

言われてみればもっともだ。
妖怪娘に礼儀を説かれるなんて屈辱以外の何者でもないが、言っていることは理にかなっている。

「…卜部兼実だ。」
「なるほどなるほど。で、身長と、ご職業は何を?」
「身の丈は六尺三寸。職は俳人を主な生業としている…って、なぜ私が質問を受けているのだ。」
「廃人…?なんと!住所不定無職の方だったなんて…私はそんな方に買われてしまったんですね…よよよ」
「私はまだ世を捨てておらん。あんな連中と一緒にするな。
 それに、住所はここが私の家だし、蔵人所は非蔵人という役職もある。
 さらに致命的なのは、私はお前を買っていないというところだ。あくまで箱を買っただけなのだからな。」

「冗談ですよー。俳人、というのがちゃんとした職業だというのはわかってるつもりですから。吟遊詩人みたいなものでしょうからね。
ただ…ふりむ。やっぱりそこから説明しないとダメみたいですねー。
 では、私がなんであそこにいたのか、って事の顛末をお話ししますね。
 そもそも私たちミミック、って種族は宝箱に擬態する程度の能力を持っていまして。だからあなたが見た【箱】に私が入っていたのではなく、それがすでに私だったんですね。
 で、じゃあなんであそこで売られていたのかー、というと色々とまぁ複雑な事情があるのですよ。
 事の発端は私がとあるリリム様に呼び出されたことでした。で、とある任務を押し付けられたんですね。で、その任務、ってのが私たちの能力を使ったものでして。あ、その能力、ってのは先程の擬態能力のことじゃなくて瞬間移動能力のことです。私たち瞬間移動もできるんです。ワープですよ!ワープ。いい響きですよねぇ。
 で、その任務の内容が、場所指定をせずに瞬間移動したらどうなるのかの実験だったんですね。で、この世界にたどり着いたと思ったらあそこで売られていたという次第で。
 ちなみに、あのスプリングレイン。瞬間移動前にバフォメット様からもらったんですよねー。どこにつくかわからないから、って。
 ただのお兄ちゃんお兄ちゃん言ってるだけの使えないロリババアの集団かと思ったら意外とやるんですね。彼ら。」

「……」
「天狗が精子砲食らったみたいな顔してますね。おわかりいただけては…ない、ですよね。」
「あぁ。というか、リリム、とかいう名前が出てきたあたりから聞いてなかった。手短に頼む。」
「では三行でお話ししますね。
私には擬態と瞬間移動の力があった
それを使った実験の命令を出された
この世界に偶然来て気がついたら売られていた
あなたは私を抱く」
「三行…というよりは三行と半分くらいだな。というか、最後は要らないだろ。ありえないし。」
「三行半で、三下り半ですか。これまたうまいですね!」
「…?何を言ってるんだ?」
「ううう…絶対ウケると思ったんだけどなぁ…」

何を言ってるのだろうかこの妖怪は。

「まぁ、それならもう仕事は済んだだろう。帰ってくれないか。」

そもそもこいつを買ってきたのはちょうどいい箱が欲しかったからなのだ。
買った金が勿体無い、とも思うが、まぁ珍しい体験をしたのだからいいとしよう。
というか、帰ってもらえなかった場合に陰陽師に依頼を出すほうがめんどうだ。実家も絡んでくるだろうし。

「んー…そうしたいのはやまやまなんですがね。魔力が足りませんで。帰れないのですよ。コレがまた。」
「なんと面倒な…
 で?どうすればその魔力とやらは補充できるのだ。お前がさっさと居なくなってくれるなら協力するぞ?」
「動機は悲しいですが、聞かなかったことにします。
 その…ですね。セックスをしてください。」
「……はぁ?」
「性交です。まぐわいです。契を結ぶのです。」
「却下だ。」
「協力してくれるって言ったじゃないですかー!」
「あぁ言ったとも。ただそれとこれとは話が別だ。なにが悲しゅうて妖怪変化と乳繰り合わねばならん。」
「精子が魔力の源ですからねー。一番合理的なんですよ?」

何この淫魔。

「あーもう!うだうだと五月蝿いですねー。据え膳食わぬは男の恥じゃないんですか!?」
「それは人間に対する場合だ。お前みたいな…って、何脱いでる!」
「いや、理性に訴えて無理なら直接リビドーに訴えるしか無いかと思いまして」

等と言って少女がその奇妙な服を脱いでいく。
惑わされてはいけない…とは思うものの、形のよい太腿と臀部、そして控えめな乳房があらわになっていく様はとても扇情的で、目をそむけることが出来なかった。

「ずいぶんえっちな目になってるじゃないですか…それに、おちんちんはやっぱり素直ですね。」
「うるさい。生理現象なのだから仕方ないではないか。」
「む。もっと素直になれないんですか?素直に行ってくだされば、おちんちん、とっても気持ちよくして差し上げますよ?」

蠱惑的な悪魔の囁き。
だが私は殿上を許されている身。
肉欲に流され、邪と交わる事を肯定することは、出来ない。
だから…すまない。ミルム。

「私は、これからしばらく深い深い思索の海に沈む。
 だから、このあと何をされても気づかないだろう」
「ずいぶん冷めたセリフですね。まぁ、及第点としましょうか。では、サクッと済ませてしまうのでちょっとまっててくださいね―」

そう言って少女は自慰を始めた。
漏れる吐息と淫らな水音が情欲を煽る。

「ん…はぁ…はぁ…こんな、ものですかね…
 じゃあ、いれますね…兼実さんは、じっとしていてください…」

少女の手によって指貫を脱がされる。
そして…

「んっ…!
 あはっ…お兄さんの、全部入りましたぁ…すごく…熱…んっ…」
「うっ…くあ…っ」
「お兄さんも喘いでくれるんですね…うれ、しいです…
 じゃあ、一気にスパートを掛けますね…!」

その言葉と共に少女の腰が激しく動く。

「う…うぁ…」
「んっ…もう、私…ふあ、ああああぁー!」
「うっ…」




その後、どうやら私は気を失ってしまったらしい。
気がつくとミルムはおらず、ただただ空の箱と、一通の手紙だけが残されていた。

「兼実さんへ。
 そこまで長い内容でもないので、すぐに読んでください。多分、もうほとんど例の食品の魔力は残ってないでしょうから。正直、効くかどうかは一種の賭けみたいなものでしたしね。
 あなたのおかげで無事、魔力を回復することが出来ました。
 別れも告げずに帰る私を許して下さい。
 箱は気に入ってらっしゃったようですので置いていきます。
 では、さようなら。    メルム」

「…いって、しまったか。
 ずいぶんとまぁさわがしいやつであったな。
 だが…うむ。嫌いでは、なかった。また会ってみたいものだが…敵わぬのだろうな。」

雨のやんだ空が、いやに綺麗に見えた。
彼女もまた、どこかで同じ空を見ているのだろうか。
 
 箱を開き いとしき君と ちぎりしは
        春雨のうちに ゆめとなるらむ
11/05/02 20:31更新 / 榊の樹

■作者メッセージ
「…とまぁ、こんなことがありました。」
「ふーん…違う時代、ないしは違う世界と思しきジパング…ねぇ。
 まぁそれがどっちだったのかは後ほどどっかのジョロウグモにでも調べさせるとして。
 あんた、なんでまた箱を置いてきたのよ?」
「それはもう。あの殿方にもう一度お会いするためでございます。
 こんどこそ、じっくり、ねっとりとして差し上げたいですからね。」
「…なんというか。感動ぶち壊しね。」




どうしてこうなった

いや、ちゃんとしたダークプリーストさんのSSを書いていたはずなんですよ。
それが気がついたらこんなことに…
原因は色道禁秘抄なる書物に出会ってしまったことだと思います。
和綴じのエロ本。ずいぶんと大きなインパクトでした。
今回は前にもまして読みづらいというか、古文的にも文法が滅茶苦茶というか。
妙に前置きが長くなっちゃいましたからね。エロもやけにあっさりですし。むしろ入れないほうが良かったかもしれません。二重の意味で。

今回のことは、嫌な事件だったと思って流していただければ幸いです。

では次回こそ、ちゃんとしたSSでお会いしましょう!

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33