連載小説
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第六十四話〜誰かハエ叩き持って来い。でかいの〜
昔も昔、まだ魔王が淫魔でなかった頃の話だ。
遺跡やダンジョンに設置されているトラップは侵入者を撃退したり、命を奪うための物だった。
トラップにより命を落とした冒険者の遺品はそのまま魔物達の物資に……なんてことがあったかはわからないが、少なくともそんな物騒な物が合ったのは確かだ。
んで、今回ツアー客を引き連れて歩きまわる遺跡にも少なからずそういったトラップが残っているのはご存知の通り。何しろ数が多すぎて撤去しきれていないそうな。
そんな埃を被っているトラップ達が退屈する暇がなくなったのが今回の話。
地形を利用して戦闘を行うのは基本。罠師という訳ではないが、これを上手く使ってやらない手は無いだろう。



〜宿屋『エクスプローラー』〜

頭の中に響き渡るアラーム音。
時刻はAM6:30……起床時刻だ。

『お早うございます、マスター』
「ん、おはよ」

起床時の挨拶を相棒にして寝汗を落とすべく部屋に備え付けられたシャワールームへと向かう。出てくるのは水だけだが……まぁ無いよりははるかにマシというものだ。
ある程度汗を流し、着替えを取りにシャワールームを出ると扉が開いてミストが入ってきた。

「あぁ、ミストか。おはよ」
「アルテア……その格好は朝から刺激が強すぎるぞ」

そういや腰にタオル一丁の全裸だったか。体もろくに拭いてなかったな。

「まだシャワーから出たばかりだから朝食なら先に行っておいてくれ。後から向かう」
「私としてはこちらが朝食でも一向にかまわ「俺が構うから行けってんだ」むぅ……」

近づこうとしたミストをひらりと躱して腕を掴み、開いている扉の外へと放り投げる。
そのまま扉を閉めて鍵を掛けると手早く身支度を済ませた。

『手馴れたものですね。伊達に場数を踏んだわけでは無いという事ですか』
「全く……いらんスキルばっか上がる。……そういやあいつ鍵掛かっているのにどうやって入ってきたんだ?」

─ガチャリ─

「実は合鍵を……」

デザートイーグルを展開。ゴム弾を装填し、廊下の壁へ向けて発砲。
跳弾を利用して背後からミストの手にある鍵をはじき飛ばしてキャッチ。間髪入れずにドアを閉めて再び鍵をかける。
落ちたゴム弾をつまみ上げてゴミ箱へ放り入れて再び身支度を開始した。

<流石だな、アルテア。
それほどでも。



「今日のツアー客って何人ぐらい来る予定なんだ?」

宿の食堂で出されるスクランブルエッグを口に運びながら今日の仕事の打ち合わせをする。
ちくせう、普段食べているのよりいい材料使ってんな。

「一人頭10人程度の割り当てになるはずだ。おおよその内訳はカップル二組に男性客が6人程度……ごく偶に人間の女性が来る事もある」

フィーはこういった仕事をしたことがあるのか、スラスラと答えてくれた。忘れがちではあるがこいつって俺の先輩なんだよなぁ。

「何故人間の女性が?」
「魔物になりたいという願望を持つ者が殆どだがごく偶に考古学者などもいたりするな。彼女らの行動は見ていて楽しいぞ」

遺跡のあちこちをちょこまかと動きまわる女性を想像してほんの少しだけ和んだ。

「……アルテアはそういった知的な女性の方が好みなのか?」
「待て、何故そっちに話が飛ぶ」

捨てられた子犬のような目で俺を見ないで下さい。というかその目付きができるのは女の子と呼べる年齢までですよフェルシアサン。

「とにかく、非戦闘員の引率は安全第一だ。決して誰一人として目を離さないように」
「了解。所で……緊急事態の場合はどうする?」

俺の言う緊急事態というのは……

「例の勇者、か」
「あぁ、この辺りに潜伏しているって事はちょっかいをかけてこないとも限らないだろ?」

ちょっかいで済むのであればまだ可愛い物だろう。
しかし、今回引率するのは戦闘訓練など受けていない一般人ばかりだ。奴が現れた際の被害たるや目も当てられないぐらいの物になるだろう。

「私とフェルシアが足止めに回ろう。その間アルテアはツアー客の避難誘導を頼む。」
「了解。撹乱は任せろ」

ダミーコートがあればデコイを大量に撒くことができる。いくら勇者と言えど、頼っているのは大半が視覚情報だ……大量の偽物の中から本物を見抜くのは容易ではない。

「ま、そんな所か。案内ルートは危険なトラップがある通路・部屋などは迂回、名所となりそうな場所を回って土産物屋を通過。途中で住人が出てきたら好きに婿選びをさせると」
「あぁ、そうだアルテア。お前がどこかの女に引っかからないように護符を作っておいたから持って行くといい」

そう言うとミストが小さな革袋を俺に渡してくる。

「お守りか……何が入っているんだ?」
「私のい「ストップ。それ以上言うな。わかったから」

「待ってくれ!私も今からつく「お前も暴走すんな!つーかここで股ぐらまさぐるんじゃねぇよみっともない!」

一瞬にして騒がしくなった食堂から逃げるべくさっさと朝食を掻きこんでその場を後にする。
宿屋の親父がニヤニヤわらってこっちを見ていた。こっちみんな。



〜バレアナ遺跡群〜

遺跡の入り口に行くとタティが既に出てきていた。俺達は彼女の側へと向かう。

「来ましたわね。大体の準備はよろしくて?」
「あぁ、二人に遺跡の地図も持たせた。よっぽどの方向音痴でも無い限り迷わないだろう」
「何気に酷いことを言われている気がする……」
「仕方がなかろう……全て覚えきれなかった我々の責任だ」

俺が二人に地図を渡した時の反応たるや凄まじかった。
まるで宿題を忘れてきた学生がやってきた奴のノートを見せてもらったかのようなそんな感じ。本気で二人の行く末が心配になった一コマだった。

「それでは集まり次第案内を始めてあげてくださいな。くれぐれも危険のないようにおねがい致しますわ」
「りょーかい。といっても目立った危険なんてないだろうけどな」

精々が誰かが気に入られてお持ち帰りされる程度だろう。その時は本当にそう思っていた。
だってそうだろ?秋晴れの空の下、絶好の行楽日和。遺跡の中じゃ空は見上げられないけれどきっと楽しい一日にできる……そう思っても不思議じゃないじゃないか。

唯一の誤算は、俺が異常なまでの巻き込み、巻き込まれ体質だって事だけだったんだ。



「え〜、この遺跡は魔王交代以前から現存する古い物でして〜……」

薄暗く涼しい通路を進みながら観光客に遺跡の説明をする。
まともに聞いているのは歴史学者らしき女性だけだろうか。その他はそわそわと辺りを見回したり自分の恋人とイチャイチャしているばかりだ。

「100年ほど前には危険なトラップも数多くありましたが、現在は殆どのトラップは命を奪わない程度の安全な物に置き換えられています。」

見ていると偶に一人で来た男性が消えていたりする。視界の端にワーバットに連れ去られるのが見えたから問題ないだろう。お幸せに〜。



「いつの間にか誰もいねぇし……」
「あはは……いい事……なんですよね?」

ついには歴史学者以外誰もいなくなってしまった。
カップルは物陰へ、他は全員魔物に連れ去られてしまった。観光どこいった。

「希望とあらばまだ遺跡の中を回ろうと思うのだけど……どうする?」
「えぇ、ぜh……

途端、彼女の声が警報でかき消される。
発信源は遺跡の中のあちこちにあるレンガ状のスピーカーのようなものだ。

『緊急事態ですわ!奇妙な化物が遺跡内に現れました!非戦闘員および遺跡内を観光中の皆様は至急最寄りの転送陣で避難してくださいな!』
「タティか!化物って何なんだよ!?」
『巨大な蝿の怪物ですわ!』

俺の声を拾ったのかタティが返答を寄越す。蝿の化物……昨日の吹き抜け下にいたベルゼブブ……まさか!

『E-クリーチャーの反応あり。遺跡内を高速で移動中。』
「クソッ!なんでこんな時に……!」

隣にいる女性は一体何が起きているのかわからずオロオロしているばかりだ。

「とにかく近場の転送陣に入ってくれ!」
「は、はい!」

手近な転送陣へ女性を押しこみ、一度集合するために自分も転送陣へ踏み込もうとした時、背後に重低音のような響きが届く。
嫌な予感と同時に振り向くと……

「やっべ……!」

猛烈なスピードでこちらへ突進してくる巨大な蝿が1匹。全高2メートル、体長は正面からなので詳しくはわからないがおそらく5,6メートルはあるだろうか。
咄嗟に横っ飛びに回避するとその蝿が転送陣のあるくぼみへと突っ込む。
流石にこの大質量を転送するようにはできていないのか不発に終わり、衝突の衝撃で壁がガラガラと崩れてもうもうと土煙を上げる。
そして転送陣は憐れな事に瓦礫の下に埋まってしまった。

「はは……笑えねぇ……」
『冗談をいう暇すらありませんよ。E-Weapon<ダミーコート>展開。』

光の粒子と共に幻惑の鎧をまとい、あたりに囮(デコイ)をしかける。
運良く囮の方へと突っ込んでくれたので余裕を利用して反対方向へ猛ダッシュ。
すぐに追いつかれるだろうが……何もしないよりはマシだ。

「くっそ!攻撃に転じる余裕すらねぇってか!?」
『フィールドによる耐久、突進の貫通力。いわば触れたら即死の敵が狭い通路でハイパーアーマー状態で突っ込んでくるような物でしょうか』
「詰んだぁぁぁあああああ!」

口では詰みと言いながら体は逃げ場を求めて全力疾走する。
しかしまともに逃げ切れる訳もなく背後から激突されて壁に挟まれ、アーマーがガリガリとオレンジ色の火花を散らす。

「がっ……この……っ!」

無論殴って怯む訳も無いのでショットガンを展開し、ゼロ距離で散弾をしこたま撃ちこむ。
しかしフィールドに触れた途端に散弾の威力が分散されてまともに効いていない。
そうこうする内に壁が途切れて通路に体がはじき飛ばされ、凄まじい速さで壁に体が激突する。
肺から空気が逃げていく。視界が常に回転し続け、前後がまともに判別できない。
明滅する視界の中、蝿が俺へと近寄ってくる。
そして奴が前足を上へと振り上げる……蝿の前足とはいえ巨大化している奴だ。
無数の棘が付いているそれは凶悪なトゲ付き棍棒そのものだった。

「ま……ず……」

その凶器が振り下ろされる瞬間、体が何かにかっさらわれた。蝿の化物がぐんぐん引き離されていく。

「全く……お前は私が駆けつける時には常にピンチになっていないか?」
「あぁ……迷惑かける。」

闖入者の正体は……ミストだった。
愛馬である黒馬にまたがり、絶妙なバランスでもって俺を馬上へと引き上げたのだ。

「あの類の化物という事は……例のアレか?」
「あぁ、E-クリーチャーだよ。こうも狭い所で体当たりを繰り返されちゃ手も足も出ん……」

ミストの馬はなんとか蝿から逃げてはいるものの、こちらを追いかけ始めた奴は徐々にだがこちらへと接近している。

『前方100メートル地点に致死性トラップ地帯あり。迂回を推奨します』
「いや、待てよ……」

このまま走り続けてもジリ貧だ。さらに言うなればこの速度でバランスを崩そうものなら石畳に叩きつけられてアーマーの上からでも相当なダメージを受けるだろう。

「ミスト、このままトラップ地帯に突っ込む!踏まないように注意しろよ!」
「何ぃ!?正気か!?」
「奴の足止めをする方法はそう多くない!使えるものは全て使う!」

ミストの馬がトラップ地帯へと突入し、周囲の雰囲気が一変する。
今までが生活のためにしっかり整備されていた区画だとしたら、ここは誰も入り込まないような隔絶された空間といった所だろうか。壁は所々苔むして緑色になっている。

「ミスト、バランス取りを頼んだ。あまり揺らすなよ」
「承知!」

彼女の肩を掴みながら馬上で立ち上がり、体の向きを後ろに変えて再び座り直す。
轟々と耳の側を風が通り抜けていく。

「流鏑馬でもこんな無茶な撃ち方しねぇぞっと……」
『そもそも銃を使う流鏑馬はありません』

同じようにトラップ地帯へ入ってきた蝿の近くの壁にオクスタンライフルの銃弾を撃ちこむ。外した訳ではない……狙いは全く別の物だ。
着弾と同時に極太のスパイクが壁から突き出し、奴の横っ腹を捉える。フィールドの影響で甲殻には傷一つ付かないが、足止めにはなる。一つ、また一つ。槍衾が、矢の雨が、スパイクが、鉄球が、岩塊が巨大蝿の速度を削ぎ落していく。

「このまま振り切るぞ!」
「500メートル前方の直線通路の奥!そこで迎え撃つ!」

最後のダメ押しのハンマーの衝撃でこけた蝿をその場に残し、黒馬は全力疾走する。
オクスタンライフルを格納し、再び前へと向き直って安定させた。



「さて、着いたが……どうするつもりだ?」
「まずは機動力を削ぐ。脚をもぐと後々面倒だから羽に穴を開けてしまおう。」

馬上から降りて目的の兵装の展開を開始する。
3脚をボルトで床のブロックに固定し、シュバルツコードで体ごと鵺と床を縫い留めてしまう。
鵺が縦横に四つ割りになり、中から無数に穴の開いた四角い物体が顔をのぞかせる。
さらに腰のポーチから耳栓を取り出すと耳の穴に突っ込む。流石にこの閉鎖空間でこいつを使う時は音に注意しなきゃな。

「メタル・ストーム社製電子制御火器システム……こいつを真正面から食らって無事でいられる奴はいなかろう」

プチアグニを使っても良いのだが、この閉鎖空間の中であの出力の光学兵器をむやみに撃つと一瞬で室内がオーブントースター状態になってしまう。流石にこんがりきつね色はいただけない。

『12ゲージ散弾100発装填。発射準備完了』
「オーケー……さぁ来いよデカブツ……」

ぶるぶると肌を震わす重低音がこちらへと迫ってくる。巨大な物が移動する風圧で全面から顔に風が吹きつけてくる。

「あぁ、そうだ……耳は塞いどけよ。魔物娘の体がどれだけ頑丈なのかはわからんが流石にうるさいのは嫌だろう」
「……ちなみにその機械はどれだけの音を出すのだ?」
「今まで俺が撃った銃の音が纏めて100発ぐらい同時に聞こえるような物だ」

俺がそう言うと慌てて彼女が耳を塞ぐ。勢い余って頭が取れないことを祈るばかりだ。
馬は……あぁ、頭が無かったか。

『来ました』
「お出ましか……」

グリップを握る手に汗が滲む。準備は万端ではあるものの、やはり突っ込んでくる物が物だけに緊張は隠しきれない。
程なくして通路の奥から巨大な蝿の姿が見えてきた。
現在装填されている弾丸は散弾……威力を考えるのであればギリギリまで引きつけなければならない。

「おい、アルテア……早く撃たないのか?」
「まだだ……まだ……」


猛スピードで巨大蝿が迫り来る。距離は残り200メートル。


「早くしないと轢き殺されるぞ!?」
「もう少し……」


残りは50メートル……今!


「っ!」

トリガーを引き絞った途端、強烈な衝撃が体全体を襲う。そりゃ体ごと地面に縫い留めていれば衝撃もモロに食らうというものか。
しかし、散弾の嵐を真正面から浴びた巨大蝿はもんどり打って狭い通路の中を転がりながらこちらへと迫り、残り10メートル前後で停止。
メタル・ストームを格納し、固定具から鵺を取り外すとそいつに駆け寄ってシュバルツコードを駆使しながら背中によじ登る。

「これで……!」

虫の羽というのは飛行機の主翼以上に複雑な機構で飛べるように作られている。
もしその羽根の一部、あるいは散発的に破壊されたらどうなるだろうか。

「満足に動けまい!」

シュバルツコードの先端が鋭利な刃物となり、羽に次々突き刺さっていく。
膜を破り、関節に傷をつけ、骨格をへし折る。
再び動き出す前に背中から飛び降り、既に馬の上で待機していたミストの背後へ飛び乗って再び疾走を続ける。

「これで奴の機動力は奪ったのか?」
「いや、蝿ってのはな……」

背後からガチャガチャと硬質な音が迫ってくる。その正体はもちろん……

「普通に脚で動くのも速いんだ」
「うげ……」

6本の脚を器用にばたつかせながらもの凄い速度で通路をこちらへと向けて駆けてくる巨大蝿。
飛行というアドバンテージはなくなったものの、その速度は飛んでいる時と大差ない。

「先ほどの攻撃は単に怒らせただけではないか……?」
「いや、意味ならある。このまま吹き抜けまで向かってくれ」

通路を曲がり、光が差し込んでくる吹き抜けへと向けて疾駆する。
さて……ここからが本番だ。

「ミスト、お前は外周を通って吹き抜けの下まで来てくれ」
「私は……という事はお前はどうするのだ?」
「飛び降りる」
「……は?」

彼女の後ろ、馬の上で立ち上がると、ミストの肩越しに跳躍して吹き抜けの手すりを飛び越えて宙へと身を躍らせる。

「アルテア!」

馬はというと自分から飛び降りるような事はしないので柵の手前で方向を変えて吹き抜け外周を沿うように進路を取る。その上からミストがこちらを驚愕の表情で見ているのが小さく見えた。

『私が気を利かせなかったらどうするつもりだったのですか』
「お前なら俺が何を考えているかぐらい手に取るように分かるだろ?」

シュバルツコードを膜状に広げ、滑空できる形状と強度を保つ。いわば簡易ムササビスーツだ。
背後で石が砕けるような音とキィキィと何かの鳴き声……おそらくは巨大蝿だろう。吹き抜けの底に落ちて設置されている鏡が割れる音も聞こえてくる。

「折り返し……っと」

膜の方向を調節してスピードを軽減し、向かい側の柵を蹴って再び反対方向へ滑空。
我ながらよくこんな曲芸じみたことができるものだと感心してしまう。
2,3回繰り返して吹き抜けの底に降り立つと、怒り心頭であろう巨大蝿がこちらへと向き直って威嚇を繰り返していた。

「全く……何という無茶をするのだ、お前は」
「こうでもしないとあいつは俺を追って落ちてくれなかっただろ?」

相当飛ばしてきたのか、軽く焦った風なミストと合流。
馬さんや、無茶をさせてすまんね。

「さてと、ここからが本番だ」

再びミストの背後へと乗り移る。

『障害物が多いですね……』
「そういう場所だしな」

周囲の状況を軽く確認。そこかしこに開けられた穴に向けて反射鏡が設けられている。
この鏡を使って遺跡内の照明を確保しているのだろうが、現状ただの障害物だ。

「上手く使えないだろうか……」
「そうだな……タティ!聞こえてるか!?」
『なんですの?今は住民の避難でいそがし……』
「吹き抜けの反射鏡をランダムな方向に垂直に立てて欲しい。できるか?」
『だから忙しいと……あぁもうわかりましたわ!何でも好きになさいな!』

周囲の反射鏡が垂直に立てられていく。立てられた鏡に無数の俺やミスト、巨大蝿が映り込む。

「さらに……こいつだ!」

再びダミーコートから立体映像を投影。俺とミストの数がさらに増加する。
唐突に増加した俺達に向こうは戸惑っているらしく、デタラメな方向を向いて目標を選定しようとしていた。

「しかし……これではこちらもどれが本物か判別できないのではないか?」
「何、動く必要は無い。こっちは音で索敵して……」

音波探査装置を起動。周囲から聞こえてくる音を可視化し、どれが目標かを浮かび上がらせる。
すると、一際巨大な音の塊が左前方に動いているのを発見。腰のシュバルツコードを伸ばして地面を這わせ、巨大な杭として地面から伸ばして攻撃。不意打ちの一撃を食らった巨大蝿は地面にひっくり返って脚をばたつかせてもがき始める。

「左前方だ!鏡にぶつかるなよ!」
「心得た!」

馬を急激に方向転換させ、目標へと一気に肉薄……

─ゴン!─

「〜〜〜〜〜〜!?」

どうやら動作不良で一つの鏡だけ中途半端な形で水平に固定されていたらしい。
しこたま額を打ち付けて馬の上から落下し、後頭部を嫌というほど強打する。

「だ、大丈夫か……?」
「いてぇ……死ぬ……」

後頭部をさすりながらよろよろと起き上がり、音源の方へ向かう。これなら自分の足で行ったほうが確実だ。
奴はと言うと起き上がる足がかりがないせいか未だにわちゃわちゃと脚をばたつかせてもがいている。

『胸部へ飛び移ります』
「あぁ、頼む」

シュバルツコードの形状が変化し、蜘蛛の脚のような形で俺の体を持ち上げる。
強力な跳躍力を有しているらしく、そのままもがき続ける巨大蝿の上へと飛び上がり、無数の脚を絡めとって地面へと抑えつけてしまった。
汎用性高いな、これ。

「んじゃ、仕上げと行きますか」
『了解。HHシステム起動。』

鵺から何時ものごとく白い杭が出てきて光を放ち始める。
エクセルシアの場所は……胸部甲殻の下か。

「ぶち破れると思うか?」
『問題ありません。生物素材であれば大抵の装甲は無意味ですから。エネルギー充填率100%……いつでもいけます』

この状態であれば気合もいらない。目的の場所めがけて思い切り杭を突き刺す。

「せぇ……のっ!」

脚に踏ん張りを効かせて鵺ごとエクセルシアを引っこ抜く。
淡黄色の体液にまみれて出てきたエクセルシアは紫色をしていた。
引きぬいた瞬間に巨大蝿の全身が痙攣するかのようにビクビクと動き、力を失ったかのようにぐったりと抵抗をやめた。これでとりあえず一段落……と。

「アルテア、怪我はないか?」
「何、さっきの鏡の一撃以外は怪我一つ無いさ」

茶化すように額をさすりながら言ってやるとばつが悪そうに目線を逸らした。
大した怪我でもないし、彼女をいじるのはこの辺にしてあげよう。

「元に戻るまでは若干タイムラグがあるみたいだな……その間にいつものアレをやっとくか」
『了解。エクセルシアの格納を開始します』

駆動音を鳴り響かせながら鵺にエクセルシアが格納されていく。
願わくば今回はまともな理由でありますように……

『エクセルシア格納完了。任務の第一段階、フェー%11───』

始まった。目の前に表示されるウィンドウやツールの文字が文字化けしていく。

『───d&@s酷kk──a$s3#何故,s────m嫌r%─────────』

強烈な頭痛と吐き気。急激に薄れていく意識。意識の端で体が崩れ落ちるのを認識しつつ、意識が闇に飲まれていった。
12/07/19 23:58更新 / テラー
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■作者メッセージ
〜あとがき〜
書き溜め切れた!ここからはちと連載が不安定になるかも

>>マイクロミーさん
燃焼剤(フラグ乱立)に燃えているマッチを突っ込むよりは……w
彼女の出番は今回も薄め。エアヒロインとはまさに彼女の事。
勇者は残念ながら素の力です。洗脳オソロシイ……
あ、誤字指摘ありがとうございました。

>>通行人A
ゲキ・ガンガーは完全に趣味です(爆
ちなみにガーランドに関しては完全に無意識。バイク型機動兵器の存在をすっかり忘れていた……。

>>けろたんさん
居住の快適さと利便性を追求するとおのずとこの形になったりして。
規模的に言うのであれば10億じゃ済まなさそう。

>>ネームレスさん
救いはあるんですか!?何にしてもまずはぶちのめしてから。
某冥王様もそう言ってた。

>>名無しさん
ギルドの寿命が喧嘩でマッハ。ついでにミリアさんの胃に穴があきます。
彼女の相手はどうしましょうか……その内彼女の相手に関する話でも、と。
今の所はこの巨人が暴れる事は最終話までには無さそうです。ただ、どういった形で役に立つかというのはまだわかりませんが。

>>Wさん
いろんなフラグを立てていくアルテア。多分彼には磁石的な何かが埋め込まれているんでしょう。
機動兵器は最新技術の塊のような物ですからね。フルメタル・パニックだと中古のブッシュネル(9.8メートル程度)で1000万ドル。現在価値でおよそ8億9000万円程度でしょか。

大百足だと弱点がわかっている分逆にメロメロにしてしまいそうな……
彼に差し向けるのはラミア種が一番でしょう。

>>『エックス』さん
1から作るのは費用も時間も恐ろしいことになりますからねぇ……ある程度初期配備なのは致し方がないかと。
ちなみにこの勇者、完全に『騙され型』なので、きっちり誤解を解いてやれば味方になってくれます。

「結婚式、ねぇ」
「投げるとキラキラと星が散るブーケがあるのじゃが……送るかの?」
「割とまともな物も作ってるのな」
「なぁに、需要と供給の問題じゃよ」

「おにいちゃん、このあめいたい……」
「しまった、説明を忘れていた……」

>>フェンリル
単体では絡みません、が、アルテアが間接的に関係してくるのは確かです。

ちょいと書き溜め期間に入ります。忘れない程度に姉僕も上げる予定。

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