それは異形の美女の群。
ぬらりひょんのオドロが率いる妖怪たち。
ねこまたのタマさん、あかおにののんべえさん、蛇の目ちゃん。
濡れ女子の玲さんも、クノイチのあの子も、落武者のさなえちゃんも、大百足のお姉さんも、烏天狗のあの子も、刑部狸の先輩も、毛娼妓の母さんも。あかなめのぺろりも、うしおにの殺女も。
俺が関係を持って、俺たちの百鬼の一員となった彼女たち。彼女たちは、俺を取り戻すために、ぬらりひょんのオドロに呼び出された。
俺は白蛇のつらみに抱きとめられ、その蛇体に巻き取られ、阿呆のように、彼女たちを見ているだけ。

「ゆうくんは、渡しません。だって、彼は……」
つらみの締め付けが強まり、嫉妬の炎で形作られた八のつらみがその体を蛇の鎌首のように持ち上げる。
「オゥオゥ、オッカナイね。でもアタシらもオッカナイ」
オドロがそのたおやかな手を振れば、
「にゃーッ！ 会長にゃ悪いけど、そいつはウチが玉玉コロコロして、ウチの喉をゴロゴロさせる係にゃ！」副会長のたまさんが飛びかかっていく。
ねこまたの爪に、青白い炎が揺らめく。
「うにゃー、チリチリするにゃ」
「それだけで済んでるってのがスゲーぜ。あの炎って、受けたら悶えちまうんじゃねーか？」
唐傘お化けの蛇の目ちゃんが感心し、「へ？ おい待て。俺を持つんじゃね……」
「フン」赤鬼ののんべえさんが彼女を掴んで振りかぶる。そして餅つきよろしく、
「ふんぎゃあああああああ！ ……ぅん、ぅああ……」
猫が踏んづけられたような声を上げつつ、蛇の目ちゃんは股から汁を吹き出した。傘の中に雨が降る。傘も体の一部。炎にマトモに当たった蛇の目ちゃんは、その効果で発情していた。
のんべえさんは彼女を気にすることなく得物と化した蛇の目ちゃんを振りまくる。嬌声を上げつつ飛び散る彼女の雫。
蛇の目ちゃんに合唱。

「セイッ！ やっ！」「とー」
可愛らしいロリボイスに反した鋭い剣閃に、クナイが宙を走る。落武者のさなえちゃんと、ロリニンジャが、一糸乱れぬ見事なコンビネーションで別の炎を翻弄する。彼女たちはそのシンクロを生かしてアイドルでもやれば、ガッポガッポに儲けられるのではないか、という下衆な考えを抱きつつ、俺はそれに見惚れる。

「邪ァあッ！」
恐ろしい雄叫びを上げて大百足のお姉さんが炎を切り裂いた。だが、俺の精をふんだんに蓄えたその炎は直ぐに復元する。だが、そもそも炎なんて形のないものを切り裂いているお姉さんの方がおかしい。
オドロ、よく勝てたな……。
お姉さんの艶やかな肌には毒腺が浮き上がり、ひび割れのように輝いている。紫色のその下から、恐ろしいナニカが、その肌を破って飛び出してきそうな……。彼女の剣線は縦横無尽。百足の下半身で、人の身では描けない軌跡を描く。弾けるように飛ぶ毒液が、艶めかしく、彼女の肌に滴っている。
怜悧なその表情は、喜悦に滲む。

濡れおなごの玲さん、烏天狗さん、毛娼妓の母さん、雷獣、雪女、提灯お化け、青鬼……。その姿を明らかにしている妖怪もしていない妖怪も、皆が皆。古の化け物じみた、８体の炎のつらみ、火炎嫉妬八岐大蛇に立ち向かう。愛称、ジェラオロチ。
そして、妖怪たちがそれぞれを受け持つ中、
「ゆうへの一番槍はあたしだぁああ！」
うしおにの殺女（あやめ）がその異形の下半身を力強く駆動させて突っ込んでくる。その背にはオドロとあかなめのぺろりが乗っている。この場合、一番槍とはむしろ騎馬（うしおに）を駆る彼女たちではないだろうか。ということは置いておいて、
「させません」
つらみは俺を抱きしめたまま、真白の尾を解いて彼女たちに打ち付ける。
バチィッ！ と、思わず耳を塞ぎたくなるような鞭が弾ける音。
つらみの尾を、ぺろりの舌が弾いていた。
…………どういう事だ。
それ、舌ですよね。あかなめの舌は白蛇の尾と撃ち合えたらしい。

「アタシとの特訓の成果さ」
オドロ、ナニをしたんだお前は……。
それにぺろりも頬を染めている。きっと、ロクでもないことに違いない。あの舌は、今や凶器でしか無くなってしまったよう。
そうして本物の凶器が飛び込んでくる。
乳。そう。牛乳（うしちち）だ。乳牛かもしれないが、決して牛乳（ぎゅうにゅう）ではない。
ボイーン、と。擬音で表せば夢お（い）っぱいだが、現実ではそれはダンプカーに撥ねられたような威力を誇る。
つらみは思わず俺を取り落とし、彼女の股から俺のペニスが抜ける。
ごぼり、と。彼女の股から噴射するように俺の精液が吹き出した。我ながら、よく出したものだと思う……。吹っ飛んだ俺はオドロにキャッチされる。
「お帰り、旦那」
「……ただいま。ゴメン、心配をかけて」
こんな、真面目なのかふざけているのか分からない。
支離滅裂で滅茶苦茶で、しっちゃかめっちゃかな戦いだが、彼女が俺のために粉骨砕身、多軍奮闘、臥薪嘗胆していたのは確からしい。何故なら、こんなにも格好良くて凛々しいぬらりひょんの彼女だと言うのに、俺を抱きしめるその力はまるで縋り付くようで、百鬼を背負っているはずの華奢な肩は小さく震えていた。

「オドロ……」
「今はちょっと何も言わないで欲しいネェ」
その声は震えて、目尻には涙が……。だがそれも一瞬。
「返しなさいッ！」
つらみの叫びが空気を震わせた。見れば、彼女の姿は凄まじいものだった。硝子細工のように繊細で、白く美しい彼女の肌は、俺を失った悲しみと憎しみ、そして怒りによって、血の気が引いたように、無機質な白さ。
その股からは俺の精液がこぼれ落ち、自身の器を越えた感情の振れ幅は彼女の美しい顔を能面の如く、引き攣った表情で固定している。その有様は凌辱された生娘のようで、だが、その感情は生娘のものではない。
鬼女。そうとしか表現できかねない、恐ろしい女が立っていた。ジェラオロチを形作っていた嫉妬の炎は彼女に戻りその身を包んで、まるで不動明王でも背負っているかのよう。いや、この場合は愛染明王か……。
だが、不思議と俺は、彼女を怖いとは思わなかった。むしろ……。
「せっかく、せっかくせっかくせっかくせっかくせっかくせっかくせっかくせっかくせっかくせっかくせっかくせっかくせっかくせっかくせっかくせっかくせっくすせっかくせっかくせっかくせっかく……
ゆうくんと一緒に、ずっと一緒に二人だけでいられると思ったのに……ッ」
彼女は硝子を引っ掻いたかのような金切り声で、見る誰もが悲痛に思わずにいられない様子で声を張り上げる。

「ダメだよぉ、旦那は百鬼の主。あんた一人だけの旦那じゃないからねぇ」
オドロが俺を殺女の背中に下ろし、自分は飛び降りた。
唐傘を杖代わりに、艶やかな立ち姿。その背中は百鬼を背負うに相応しく、俺がまだ、彼女に背負われている情けない男でしかない事を痛感させられる。
オドロは彼女を諭すように言う。
「あんたが白蛇として、旦那を独り占めしたいってのは分かる。だけどねぇ。残念ながら、旦那はまずアタシの旦那なんだよ。それが、旦那の持って生まれた”運命”っていうモンなのサ」
「黙れッ！ だから私は……。だから私はそこから切り離したハズでしたのに……」
血涙でも流しそうなほどの憎々しげな視線と気迫。だが、オドロは揺るがない。
「本当は一介の白蛇にこんな事は出来なかった。それは驚いたよ。オドロ姐さんがオドロかされてちゃあザマないね」彼女はクツクツと楽しそうに笑い、肩を竦める。
「ぐっ」
つらみは咄嗟に粒あんを取り出すとオドロに投げつけた。
「無駄サ」彼女は涼しい顔をしている。
「そいつはこのアタシが布団を被ってガタガタ部屋の隅でガラにもないお祈りをしながら震えるほどにオッカナイものだったンだけど、今はもう、もっと怖いもんがある」
彼女は肩越しに俺を見る。その瞳は艶やかで、しかし少し気恥ずかしげでもあった。だが、彼女は言う。
「粒あんは、昔食あたりでアタシを殺しそうになった代物だけどサ」
食あたり（物理）かよ！ アズキの破邪の力的な概念的な云々じゃなかったのかよ！
という、空気を読まないツッコミを俺は我慢する。
「旦那を失う事に比べればナンテ事はない。あんたにゃ、痛いほどに分かるだろう」
つらみは苦々しそうに唇を噛んでいた。「このまま、私を封じでもするつもりですか……」

俺を独り占めにして、その一念で閉ざされた世界に引きこもりまでした彼女だ。再びそのような事をしでかさないために封印する。それは妥当な線なのかもしれない。
「私は抵抗します。ゆうくんをこの手に抱きしめるまでは、私が何であろうと、手を取ってくれると言ってくれた彼を手に入れるには……」
彼女の言葉に、俺は、夢の中で見ていた光景が再燃（フラッシュバック）した。

ーー「ねえ」という彼女の声。
「何だよ」という俺の声。
茜色に浮かぶ二つの影法師。
「もしも私が人間じゃなかったら、君はこうして一緒に歩いてくれた？」
そう問いかけた白い髪の彼女。そうか、彼女は……。
「「ゆ〜びき〜りげ〜んま〜ん嘘ついたら針千本飲〜ます。指切った」」
子供の歌声が鼓膜に届く。
そうか。俺が昔遊んでいたあの子は、つらみだったのか……。幼い頃。俺が遊んでいた彼女。
記憶が蘇ってくる。
「お前が何だって関係ない。お前がお前なら、俺はその手を放しはしない」
それは、その気持ちは、彼女に監禁され、他の記憶を燃やされ、嫉妬の炎に責め苛まれ続けた今でもーー。

「そんなツマラナイ事はしないサ」
オドロの言葉で俺は引き戻された。
「あんた、こっち側に来なよ」
オドロはそう言った。
「え……？」つらみは目を見開いていた。
「私を許すと言うのですか……？」能面じみていた顔に、ヒビが入ったよう。だが、嫉妬の炎は尚強く燃えている。
「許すも何も、旦那を独り占めしたいって気持ちは、白蛇のあんたにとっては当たり前の事サ。それはどうしようもない気持ちサ。種族の本分を否定しちゃあ、ぬらりひょんの名が廃る」
「私もあなたの百鬼の一員になれ、と？」
「違う。旦那の百鬼の一員サ」
彼女は傘を振り上げ、トン、と自分の肩を叩いた。
俺はつらみと目が合った。
「それでは……私のこの衝動は、気持ちはどう仕様もなりません。私は百鬼の一員ではなく、ただの一人の妻でありたいのです。皆さんは如何なのですか？」
彼女は、他の妖怪たちを見る。一人一人、順番に。しかし。

「ウチは別にどうでも？ 気持ち良ければそれでいいにゃー」「拙者はみんな一緒でいいと思いますぞ。何せ、マルチプレイは多人数がいないと出来ないゆえ」「ひゃっはー、燃え尽きたぜ……」「わ、私はゆうが良いのなら、エッチィのも……（ゴニョゴニョ）」「ゆう先輩prpr」「私はゆうちゃんのお側に居られれば」「お兄ちゃんにお仕えできれば」「ボクも」「私も……」

「話になりませんね。私とあなた達では価値観が違うようです」
つらみは鼻を鳴らす。
「やっぱり、あんたが厄介だったネ。この子たちは、アタシの百鬼でもあったけど、あんただけは違ったんだ。だから、真っ先にアタシと対立する道を選んだ。そうでなくちゃあ、面白くないけれど……。その逆はダメなのカイ」
と、オドロは尋ねた。
「逆……？」つらみは訝しげな顔。
「あんた、旦那を独り占めしたいんだろ？」
「当たり前です」つらみは即答。
「だったらサ。その逆。あんたが旦那に独り占めされるって言うのは、ドウナンダイ？ あんたの嫉妬の心すら旦那に管理される。そんな状況（シチュ）ってのは、如何？」
ぬら理（り）論。
だが、つらみには通じない。
「何を言いだすかと思えば、馬鹿げています。私はゆうさんが好きです。しかし、その器には疑問を持っています。私に簡単に捕まって、あなた達が助けに来てくれると鷹をくくっていたからこそ、今まで捕まっていたのです」
それには何も言えない。
「アハハ。それこそ器が大きいじゃないか。アタシ達を完全に信じてくれていた」
それにも何も言えない。
むしろ、そこまで俺を信じてくれるオドロの方が器が大きいだろう。俺を信じるオドロを俺は信じる。
「屁理屈を……」
つらみの炎が大きく揺らめく。
「ゆうさんを奪われたとは言え、私にはまだ、数百年に渡って溜め込んだ彼の精がある」
マジですか！？ 俺、そんな期間彼女にここで閉じ込められていたって言うの？
時間の止まった、切り離された世界と言うのなら、それはあり得そうな話ではあるが……。もしかすると、彼女、もしもいるのなら魔王とか神とかに届き得るんじゃあ……。

「それはオッカナイ。でも、奪わせはしないよ。せっかく取り戻したんだからサ」
オドロがそう言い切るか否や、嫉妬の炎が彼女に向かって吹き出された。彼女は傘を開いて受けるが、「ぐっ……こりゃあ、激しいねぇ……」
彼女は、押されているようだった。
「あなた達はゆうさんを取り戻して喜んでいるようですが、それでは私は気兼ねなく、自身に魔力を集める事が出来るようになりました」
嫉妬の炎は、彼女を包み込み、彼女を神々しく燃え立たせる。その炎は太陽と見まごうが如くに燃え盛り、炎は翼のように彼女の背に広がる。
「こりゃあ、まるで『翼持つ太陽蛇（ケツァルコアトル）』じゃあないか。いや、むしろその鏡面存在（テスカポリトカ）カイ……。その煙（けぶ）るような姿……。神格を感じる……妖怪なのに神輿（みこし）を担ぐってどう言う事サ……」
どう言う事サ、って言うのはこちらの台詞だ。
止めようね。別の世界の概念を持ち込んでくるのは……。（注：オドロ姐さんは、図鑑世界の神さまではないどこかの世界線の神さまを指していらっしゃいます）

「流石にあんた達には荷が重いねェ。後ろで旦那と、アタシを支えてくれヨ」
頼もしすぎる背中に、妖怪たちの畏れが集まっていく。オドロは彼女の百鬼を背負ってその力を増して行く。その姿に、俺は、やはり彼女達はまだ俺の百鬼ではなく、オドロの百鬼なのだと痛感させられる。だが、オドロは、
「アタシは神輿を担がないサ、アタシが担ぐのは旦那だけだネェ」
弾（だん）ッーー、とオドロという影が走る。それは昼日中を切り裂く闇。
嫉（シ）ッ、とつらみから白く猛る炎が疾る。それは病の如く、オドロを搦め捕ろうとする。
俺には何をやっているか分からない、色んな意味で次元を超えた攻防が始まる。それは他の妖怪たちにとっても同じようだった。

「な、何で急に、神と妖怪の戦いが始まっっちまうんだよ……。作風変わっちまってるじゃないか……」
俺だけでなく、アホの子であるはずの殺女まで、メタい発言を始める。この場所はマズイ。シリアス時空を越えて外なる宇宙の呼び声に応えてしまったのかーー。
というのはそろそろ自重して、
「だけどゆうは大丈夫だ。だって私が守るも……」
「自重しろッてんだろ！？ 殺女さん、それ以上はいけない……ッ！」
俺の言葉に彼女はキョトンとして、
「ど、どうしたんだゆう。そんな顔をして。ま、しっかり捕まってろ」
というモンだから、俺は彼女のたわわどころではない乳を鷲掴んだ。
「ぎゃあああああああ！ どこ掴んでるんだよ！」
ダメか……。ならば、と。俺は彼女の角を掴んでみた。
「ぴにゃああああああ！」ブシャアアアアーーッ！
可愛らしくてあられもない声と、梨汁どころではない潮が出た。
「や、止めろよぉ……私は角が一番弱いんだよぉ……。角を掴まれるくらいなら乳で構わないからさァ……」
「わ、悪い……」
泣き出しそうな彼女に流石に悪い事をしたと思って、俺はイマラチオの時は彼女の角を掴むしかない、と心のメモ帳に永久保存で書き残して、胸を掴み直す。
「んッ……」「可愛らしい声が出るな」「う、うるせェ……」
後ろから見る彼女の耳は真っ赤だった。

こんな馬鹿な事をしている俺たちだったが、殺女はちゃんと俺を守るために避難してくれていた。他の妖怪たちも俺を取り囲んでバリケードを作ってくれている。
ぬらりひょんのオドロと、白蛇神となったつらみがしのぎを削っている。
あまりにもスケールの違う彼女たちを、こうして妖怪たちと固唾を飲んで、殺女の胸を揉みしだきつつ見ていると、何かの状況に似ていると思う。
この世界を焼き切ってしまいそうな炎に、夜空と見まごうオドロの影。そこで俺は気づく。
そうだ。花火だ。
「たーまやー……（ボソッ）」
「はいニャ」
ねこまたのタマさんが反応してくれた。結構嬉しい。
「締まらないにゃー」
タマさんは呆れ顔。
「牛の乳ばっかり搾ってないで、ウチの喉でもゴロゴロさせるニャ」
そう言って彼女は俺の片手を自身の喉に当てる。俺はカリカリ掻いてやる。
「うにゃにゃにゃにゃー。上手いにゃー。……アフん」
自分だって緊張感がないじゃないか。誰が悪いのかといえば俺なのだが……。

「それで良いニャ。親分はでっぷりと構えているモンにゃ。ウチの近所のボス猫にゃんて、そにゃーもう、」
と、猫の世間話を聞きつつ、やはり、花火のように遠い世界の戦いを俺は見やる。真っ白な羽のような炎が煌めいたかと思うと、それを包み込んでいく漆黒の闇。白と黒の攻防は目眩く、その激しさはあまりにも遠く、恐ろしさよりももはや笑うしかない有様だった。
脳のキャパシティを超えたものには笑いしか出てこない、という事を心底思い知った。
俺の動体視力や、彼女たちの領域の話など、知識も知恵も理解も及ばないので、描写は残念ながら詳しくは割愛させていただくが、一部抜粋。
「その妖術は神級の魔法に匹敵するネェ。そんな事が出来るんだったら龍神の髭紐なんて道具（アイテム）はいらないのじゃないか。気づいているカイ？ あんたもう龍超えちゃってるよ。おっそろしい。アタシもヤバイねぇ。『闇』に呑まれよ」
「ちょっと！？ サラッとリライト級をぶつけておいて、どの口が言うのですか。イデア顕現のロゴスブレイクって、危うくアルケーに還りそうになりましたッ！ 高麗鼠のように円盤を回すのもゴメンです。【白蛇鞭（はくだべん）】」
「おっとっと、そのまま滝壺に落ちてしまえば良かったのに。イドよりも深い底の底、ってねぇ。その武装はとっととアカシャに還しな。バトル時空もシリアス時空もほっぽって、仲良しこよしギャグ時空へイっちまおうじゃないカイ」
「勝手に一人で逝ってください、というか、あなたはとっととジパングに帰ってください！ 食らえ、【白い虹】！」
七つの概念が刻まれた、区別のつかない白い光線、とか俺には全く分かりようがない。

ま、とにかく、俺たちは花火がこっちに落ちてこない事を祈りつつ、ただ見守っているしかないという事なのである。右手に牛乳、左手に猫喉を揉み掻きしながら。
しかし、思うのは、つらみ、結構イイ顔して戦っているという事。
この戦いが終われば、まさに好敵手（とも）として握手を交わしそうな勢いである。
俺は若干の安堵と期待を抱く。

ーーだが残念。そうは問屋が卸さなかった。

■作者メッセージ
”本編”はもう終わるんじゃないかな。