読切小説
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まもむすようちえん!
「さてと、そろそろ来るかな……」
「おそらくそろそろ来ると思いますよ。クラノ先生が大幅に時間を遅らせる事はないですからね」
「そうそう。噂をすればほら、元気な声が聞こえてきましたよ」

朝の9時。
幼稚園に着いた僕は、エプロン姿に着替えた後、他の先生達と一緒に、クラノ先生が改造馬車に乗せてくる子供達を校門前で待つ。
しばらくしたら聞こえてきた、蹄の音に混じった車輪の音。更にそれに混ざる子供達の元気な声。
どうやらいつもの時間通り到着したみたいだ。

「はい到着! 転ばないようにゆっくり降りて、先生達に挨拶して教室に向かうんだぞ」
「はーい! おはよー先生!」
「おはよう!」
「おはよーございまーす!!」
「せんせーおはよーございまーす!!」
「おはようございます……ぐぅ……」

一人一人、元気よく挨拶をしながらお迎えの馬車から下りてくる子供達。
笑顔を浮かべて駆け足で教室に向かうラージマウスの女の子に、ゆったりとした動きでとぼとぼ歩くドーマウスの女の子。その子を追いぬくように駆けていくワーウルフの双子と、一緒のスピードで飛んで行くサキュバスの女の子。大勢の魔物の子が次々と挨拶をしながら教室へ入っていく……
そう、ここは魔物の子供達の幼稚園。
その名も【魔立まもむす幼稚園】。

「おはようゴート先生。わたしをおよめさんにして!」
「おは……えっ!? ちゃ、チャモちゃん、それは……」
「だめだよチャモちゃん!! パパのおよめさんはママなの! あと私!」
「ま、マイアまで……」
「ふふ、モテモテですねゴート先生。ハーレム結成おめでとうございます♪」
「ニーノ先生、からかうのはよして下さい……ほら二人とも早く教室に行くんだ。手洗いとうがいも忘れずにするんだぞ」
『はーい!!』

自分の娘も通っているこの幼稚園は、この魔界に住む小さな魔物の子供達が大勢通う幼稚園。僕はここで保育士をしている。
このように子供達から求婚されるのは日常茶飯事だ。もちろん子供の冗談……で済まない可能性があるのが魔物娘であるこの子達の恐ろしいところだ。
まあ、それだけ好かれているという事だから、嫌じゃないけどね。

「これで全員ですかね」
「いや、おそらく僕のクラスの子が一人まだ馬車の中にいるかと……あ、やっぱりいた」

皆が元気よく馬車から下りた後、一人だけ降りてきていない子供がいたので馬車の中を覗いてみたら……隅の方で白いもこもことしたものが丸まっているのが見えた。

「むにゃむにゃ……」
「おはようマーシャちゃん。幼稚園に着いたよ」
「むにゃ……あ、おはようございますゴート先生」
「気持ちよさそうに寝てたね。じゃあ、僕と一緒に教室向かおうか」
「は〜い。クラノ先生ありがとうございま〜す」
「ああ。また帰りの時間にね」

いつものように馬車の中で寝ていたワーシープのマーシャちゃんの手を握り、毎日子供達のお迎えをしてくれているケンタウロスのクラノ先生に挨拶をしてから、僕は自分のクラスに向かい始めたのだった。




……………………




「みんなーおはよう!!」
『おはようございまーす!!』

教室に入って、既に手洗いうがいを済ませて待っていた子供達に元気に挨拶。これがこの幼稚園の1日の始まりの合図だ。
ちなみに、この幼稚園の教室はちょっと変わっており、僕が担当するクラスは、なんと室内だというのに教室の真ん中に川が流れている草原のようになっているのだ。机や椅子も木や石などでできている。これは、それぞれ種族の生息地や特徴に合わせて最適な環境を作っているからである。
なので、この幼稚園は人間の子が通う幼稚園と違って、決まった種族の子供であれば、年少から年長の子まで全員同じ教室でお勉強をしているのだ。ちなみにこのクラス……ひまわり組は、獣人型の子や川に住む子、それに綺麗なお水が大好きな植物型の子を中心に成り立っている。


「名前を呼ばれたら元気にお返事してねー。イリーちゃん!」
「はーい!」

そして、僕のクラスの子供達が全員居るかの確認……まあ、一目見れば全員居る事はわかるけど、確認は大事なので出席を取り始める。
まずはホルスタウロスのイリーちゃん。元気に挨拶をしてくれる、可愛い角と先端がふさっとした尻尾、それに白黒の体毛が足に生えている乳牛の魔物の子供だ。
ホルスタウロスと言えばおっぱいが大きい事が特徴だけど、流石にまだ他の子と同じぐらいの大きさだ。

「エストアちゃん、エストレちゃん!」
「がうっ!」
「がうっ!」

お次は、ふさふさの尻尾に三角お耳、プニプニの肉球ともふもふの毛、それに小さな牙を生やした、ワーウルフの双子のエストアちゃんとエストレちゃん。
お肉大好きな双子の姉妹は、二人揃って元気に挨拶。首から三日月のペンダントをぶら下げ、右目の下にほくろがあるのがエストアちゃんで、首から満月のペンダントをぶら下げ、ほくろがないのがエストレちゃんだ。

「クリムちゃん!」
「はーい」
「サモアちゃん!」
「はい……」

川岸で仲良く遊んでいた二人の女の子。緑色の身体に下半身を包むものと頭の上に乗った赤い花が特徴的なアルラウネのクリムちゃんと、青い鱗に覆われた手足と常に無表情を浮かべるサハギンのサモアちゃんだ。
よく二人でお人形やお花で遊ぶ姿を見掛ける程仲が良い。この幼稚園の中でサモアちゃんの無表情から完璧に感情を読み取れるのはクリムちゃんだけだったりする。

「ソーラちゃん!」
「はい」
「t」
「はいはい、はーい!!」
「チェコちゃん、元気なのはいいけど、名前呼ばれるまでは待っていようね」

身体が茶色い土のようで、頭の上に何かの芽が出ているこの子は、この教室内含め幼稚園の土壌を管理して下さっている人の娘のソーラちゃん。お母さんと同じように、豊かに肥えた地面が大好きなノームの女の子だ。
そして、僕が名前を呼ぶ前に飛びはねながら返事をしたせっかちな女の子は、長い兎耳が特徴的なワーラビットのチェコちゃん。いつもせわしなく動き回っており、静かになるのはお昼寝の時間ぐらいだ。

「ネネちゃん!」
「はーい!!」
「マーシャちゃん!」
「……ぐぅ……」
「あーもうまた寝ちゃったよ……ネネちゃん、マーシャちゃんを起こしてあげて」
「ウチにお願いとか本来ならお高くつきまっせ。でも先生の頼みならタダで聞いたるで!」
「あ、うん。ありがとうね」

まだまだ小さい子供なのにやたらお金に執着心のあるネネちゃんは、太い尻尾と先っぽが丸まったお耳が生えている、ジパングの刑部狸だ。まだ計算とかは教えていないのに、既に簡単な四則計算は完璧にこなす、このクラス一の秀才だ。
そして、お昼寝の時間以外でもずっとうとうとしているマーシャちゃん。彼女を抱っこして座っていると誰でも眠くなるその毛皮を身に包んでいるから仕方ないと言えば仕方ないが、寝たままではお勉強もできないので起きてもらおう。

「ヤワナちゃん!」
「は〜い」
「ラトアちゃん!」
「は、はい!」
「ローニちゃん!」
「にゃは〜い!」

残りは家が近い仲良し三人組、ヤワナちゃんとラトアちゃんとローニちゃんだ。
ヤワナちゃんは寝る事と食べる事が大好きな、力は強いけどのんびりとした女の子。茶色い毛並みを靡かせて、笑顔でご飯をいっぱい食べるミノタウロスの子供だ。もちろん、イリーちゃんと同じく胸はペッタンコだ。
ラトアちゃんはちょっと恥ずかしがりやなケンタウロスの女の子。同じケンタウロスのクラノ先生に憧れていて、かけっこが得意な子だ。種族的なものか集中力と動体視力はかなり高く、ボールを投げたら百発百中する能力を持っている。
そして最後の一人、気紛れ屋かつ甘えん坊のローニちゃん。機嫌が尻尾に出やすいワーキャットの女の子で、チェコちゃんほどではないが落ち付かない事が多い。

「よーし、皆いるね。じゃあ今日は、文字のお勉強から始めましょう! 皆、ノートと鉛筆を出してね!」
『はーい!!』

全員居るのが確認できたので、今日のお勉強を始める。
この幼稚園は『よく学び、よく食べ、よく遊び、よく休む』をモットーとしている。お勉強もご飯も遊びも休みも、バランス良くやるのだ。

「今日は、昨日覚えた果物の名前を書いてみましょう。まずはこの赤くつるつるな果物は……」
「リンゴ!!」
「そう、その通りだよチェコちゃん。林檎はこう書くんだよ。じゃあ、同じく赤くて、小さな粒々が付いてるこれは?」
「イチゴちゃん!」
「そう、苺だね。ローニちゃん正解! 苺はこう書くんだよ。じゃあ、ピンクでハートの形をしたこれは?」
「とりこの果実!」
「おっ流石ネネちゃん。よくわかったね。それじゃあ、まずはこの3つをノートに3回ずつ書いてみようか。マーシャちゃんもヤワナちゃんもきちんと手を動かすんだよ」
「ふぁ〜い!」

さっきまで騒いでいた子も眠っていた子も、皆ちゃんと授業に集中している。皆お勉強が大好きで、新しい事を覚える度にもっと教えてと僕に言ってくるほどだ。
将来何かの仕事をする時、そうでなくても誰かと結婚する時、文字ぐらいは知らないとかっこ悪いと思うとはネネちゃんの言葉だが、皆もそう思って一生懸命勉強しているのだろうか。

「はい、よくできました。じゃあ、次は……この黄色くて細長い物は?」
「おちんちん!」
「それは果物じゃないよトア! 正解はねぶりの果実だよ!」
「エストアちゃんもエストレちゃんもハズレ。どっちも色が違うよ。わかる人は〜……じゃあサモアちゃん!」
「……バナナ……」
「正解! ちなみにこっちの赤黒いのがねぶりの果実。実を噛んで食べるのがバナナ、舐めるのがねぶりの果実だよ。エストアちゃん、エストレちゃん、わかったかな?」
「わかった!」
「うん!」

絵を見せて、何かを言ってもらい、黒板に文字を書き、それをノートに書かせる。見る、話す、聞く、書くと、一つの感覚に偏らないように教える。
少し大変だが、皆が真面目に覚えようとする姿を見ていると元気になる。やはり子供は良い物だ。

……もちろん性的な意味は含まれてないぞ!



……………………



「はい皆、今日も沢山お勉強したね。じゃあ鉛筆やノートはしまって、お昼ご飯にしましょう!」
「わーい!」
「ごはんだー!!」
「今日の給食はなんだろうなぁ……」

お昼の12時。お腹の音が鳴り始めたので、ご飯の時間だ。
ここでは皆に栄養バランスよくとってもらうために給食の形をとっている。

「ご飯の前に、まずは手を石鹸でしっかり洗いましょう!」
「はーい!」
「でも、廊下は走っちゃダメだよ! 急がなくてもご飯は逃げないからね!」

教室の扉を開けて、お勉強で汚れた手を洗う為に皆廊下の手洗い場まで歩いていく。
動くのがちょっと大変なクリムちゃんは、サモアちゃんにおんぶされている。微妙にだがソーラちゃんも手伝っているようだ。

「手を洗ったよゴートせんせー!」
「ごはん、ごはん!」
「はいはい慌てない慌てない。溢さないようにするんだよ」

手を洗い終えた後、お腹が空いている子供達は皆お弁当とホル乳を受け取る為に僕の前に行列を作る。
横入りをすると最後に回される事は既に学習済みなので、皆きちんと行儀よく列を作れているようだ。

「それじゃあ皆、ご飯を受け取ったね。それじゃあお手手を合わせて、いただきます!」
『いただきまーす!!』

12人全員にお弁当が行き渡ったので、ジパング式の食前挨拶を済ませて、お弁当の蓋を開ける。
今日のお弁当は色とりどりの野菜が使われたサラダとケチャップが付いたハンバーグ、柔らかいパンに大豆の煮物、あと一口ゼリーが2つ入っているようだ。とはいえ、これは基本的なお弁当の中身で、種族によっては違うものになっていたりする。

「ん〜おいしー! なあネネ、ぶどうゼリーちょうだい」
「やっぱ大豆はウマいわあ〜♪ ん、ええよー! でも代わりに青リンゴゼリーもらうで」
「にゃにゃ〜♪ ハンバーグ大好き〜♪」
「サラダも美味しいね!」
「……おいしい……」

ヤワナちゃんやネネちゃん、ローニちゃんやイリーちゃんなんかの、なんでも食べられる子は僕と全く同じ内容(量は年齢に合わせてある)のものを食べている。味の好物による違いはあるが、苦手な物も半分は食べさせ、半分はそれが好きな子にあげるようにしている。
普段は精が必要なソーラちゃんだが、お昼は皆と同じお弁当を食べている。まあ、お母さんの魔力が地面を通して流れてきているので、さほど問題はないし、食物の味を知る勉強にもなっているのだ。

「「がうっ♪ お肉おいしい!」」
「ん〜……ニンジンのほうがおいしいと思うけどな〜」
「えー苦いじゃん! なんかスカスカしておいしくないし。マーシャよく食べられるな〜」
「この血のしたたるお肉が力をつけるんだってママも言ってたぞ! 野菜ばっかでいいのかチェコ!」
「お肉はなんか臭くてね〜。やっぱこの自然の味が一番だよ! ボクはこの自然のめぐみが力になるもん!」
「お肉おいしいのに……でも、ニンジンはきらいじゃないよ!」
「馬だから?」
「わ、私はケンタウロス!」

ただ、魔物によって食性が変わるので、そこら辺は配慮されている。
うちのクラスには草食の子も肉食の子も揃っており、草食の子は野菜や野草中心のメニューに、肉食の子は魚や肉が中心のメニューになっている。
人や雑食の事は違い、無理に食べさせるとお腹を壊してしまう。だがそこは野生の動物では無く魔物、多少であれば大丈夫なので、それぞれにもバランス良く取らせるためにちょっとずつ仕込んであったり、代わりのものを入れてある。

「んん〜、おいしいねサモアちゃん」
「……クリムちゃん、お肉、食べる?」
「ちょっとだけちょうだい。私のお水もいる?」
「……ありがとう……」

アルラウネのクリムちゃんは、栄養たっぷりのミネラルウォーターをホル乳と一緒に摂っている。日光のあたる場所でサモアちゃんと二人、仲良さそうに互いのものをちょっとずつ交換しながら食べている。

「ふぅ、おなかいっぱい! 外で遊んでこよっと!」
「あ、ちょっと待ってラトアちゃん達! ごちそうさまがまだだよ!」
「あ、そうだった」

早い子はあっという間に食べ終わって、外に行こうとしたり、教室内で泳いだりしている。
皆ご飯を食べ終わり元気があり余っているようだ。

「それじゃあ皆食べ終わったし、いつものいくよ。ごちそうさまでした!」
『ごちそうさまでした!!』
「よーしじゃあ外で鬼ごっこだ!」
「さんかする人このしっぽとーまれ!」
「私ら参加する!」
「私も……」
「ボクも! クリムちゃんたちは?」
「鬼ごっこじゃすぐつかまっちゃうよ。だから私はここでひなたぼっこしてるよ。サモアちゃんは?」
「……クリムちゃんといっしょ……」
「イリーは……マーシャとおひるねか」
「うん。いっしょにねようねマーシャちゃん」
「うん〜。クリムちゃんもいっしょ♪」

皆が食べ終わったところで、皆で一緒にごちそうさま。
この後はお昼休み。外に掛けていく双子や、草原の上でお昼寝をするマーシャちゃんやイリーちゃん、教室に置いてあるおもちゃで遊ぶ仲良し3人組など、その時間の使い方は様々だ。

「さてと、僕は弁当を起きに行くかな。ついでにマイアの様子もこっそり覗きに行くか……」
「先生、ウチも手伝いまっせ!」
「おっ、ありがとうネネちゃん。でも、皆と遊んでなくていいのかい?」
「あとでトアちゃんやトレちゃんたちと合流する。ウチ給食のおばちゃんとお話しとうさかい!」
「なるほどね。じゃあ手伝ってもらうよ!」

一定のルールは守りながら、その中で自由にのびのびとさせる。それが一番子供達にとってはいいものだろう。
自分が何をするか、何がしたいかを考える力も付くし、何より子供は自由が一番なのだから。



……………………



「はむはむ……どうぶつクッキーおいしいね♪」
「そうだね……にゃふ〜♪」
「あっ! こらローニ! そのわんちゃんは私が狙ってたんだぞ!」
「へへー、早い者勝ちだよヤワナ!」
「ぬぐぐ……おやつのうらみ、おぼえておけよ!」

夕方の4時。
お昼休みの後は今度は絵のお勉強をして、3時になったらおやつの時間だ。
今日の疲れを甘いお菓子で癒し、あとは帰るだけだ。

「おっと、もうバイバイの時間だね。それじゃあ皆、お片づけして帰る準備をしよう!」
『はーい!』

外でクラノ先生が馬車を担いで待機しているのが見えた。つまりもう帰りの時間だ。
食べ終わったお皿を籠の中に入れて、持ってきた物を鞄にしまい、きちんと手に持って準備完了だ。

「それじゃあ皆、明日も元気に幼稚園にくるんだよ!」
『はーい!!』
「それじゃあ、さようなら!」
『さよーならー!!』

帰りの挨拶も終わり、ほとんどの子は馬車に向かって、僕に手を振りながら笑顔で教室を出ていく。
チェコちゃんや双子や仲良し3人組は、外に出た瞬間、我先にと馬車へ走っていく。途中でエストアちゃんが転んだが、あの子はいつも転んでいるからか泣く事はおろか痛がる様子もなく、土を払って立ち止まっていたエストレちゃんと一緒に再び駆けだしていた。

「さよならせんせー」
「ほなまた明日なゴート先生!」
「……さようなら……」
「はいさようなら。また明日元気で幼稚園にくるんだぞ!」

他の子達はゆっくりと自分のペースで、同じく僕に笑顔で手を振りながら教室を出ていく。
やはり子供に一番合う表情は笑顔だなぁ……と思いながら、僕も笑顔で皆を見送っていく。

「さて、それじゃあソーラちゃん。お遊戯室に行こうか」
「うん」

そして、子供達が出て行った教室内には僕と、僕以外にソーラちゃんが残っていた。
何故ソーラちゃんが残っているのかというと、この幼稚園の土壌管理をしていらっしゃるお母さんと一緒に帰るためだ。
という事で、僕はお皿が入った籠を持って職員室へ行く前に、親御さんが働いていて帰り時間が少し遅い子や、ソーラちゃんのように親が幼稚園の職員さんの子達が集まるお遊戯室へ連れていく。僕の娘のマイアも、毎日そこで遊んで僕を待っているのだ。

「それじゃあソーラちゃん、皆と遊んでてね」
「うん」
「あ、パパ! ねえパパ、今日はおしごといつ終わるの?」
「ん〜、今日は会議があるから……たぶん6時ぐらいかな? 皆と遊んで待っていられるかい?」
「うん! おしごとがんばってねパパ! ソーラちゃんあそぼ!」
「うん……!」

やはり、娘からのお仕事頑張ってねはどんな栄養剤よりも効くものだ。
ソーラちゃんをお遊戯室へ連れて行き、マイアの元気な姿を見た事と応援で元気を貰った僕は、片付けや整理と会議の為に職員室へ向かったのだった。



……………………



「ふぅ……」
「お疲れ様ですゴート先生。マイアちゃんが職員室の前で待ってますよ」
「あ、本当ですか? あ、もう6時半か……待たせちゃったな……」

ちょっと長引いてしまった会議も終わり、書類整理をして一息ついた頃には、もう外は真っ暗だった。

「まだ掛かりそうでしたらマイアちゃん呼んできちゃいましょうか?」
「そうですね……あと少しですが、これ以上待たせると悪いのでお願いします」
「わかりました。ルーニア先生もソーラちゃんを呼んできましょうか?」
「いえ、私はもう帰るので大丈夫です」

残りは業務日誌の記入と、お遊戯室の戸締りだけだ。
見られても困るものではないし、何より早く娘に会いたかったので、職員室の中に入れてもらう事にした。

「パパおそーい! もう6時半だよー!!」
「ごめんごめんマイア。さみしかったかい?」
「全然! ソーラちゃんやナハリちゃん、それにフラニちゃんもいっしょだったもん! 待ってる間におゆうぎ室もきれいにしちゃった!」
「はは。やっぱりママと一緒でお掃除好きなんだね」
「うん、大好き!」

パパ遅いと娘に怒られてちょっとへこむ自分。でも、これも幸せだなと思う自分。

「ふぅ……よしっと。お仕事終了! あとはお遊戯室の戸締りして、帰るぞマイア!」
「うん! おつかれさまパパ! でもその前に肩揉んであげる!」
「おお、ありがとうマイア。う〜気持ちいいなぁ……」

マイアを膝の上で抱っこしながら日誌を書き終え、一息ついてから暗い園内を見回りしつつ、お遊戯室の戸締りをする。
僕が小さい頃は夜は怖いと思っていたのだが、マイアはこうしてよく夜遅くまで幼稚園に残って僕と一緒に暗い園内を歩くからか、それとも魔物補正でもあるのか、暗い場所でも平気みたいだ。

「おお、今日は満月か〜」
「きれいだね〜。私満月だとなんかそわそわしちゃう!」
「うーん、ママも満月だとはげし……元気だからな〜。エストアちゃんやエストレちゃんも満月の夜は元気だって言ってたし、ウルフ属の魔物は満月だと元気になっちゃうのかな?」
「わかんなーい」

娘をおんぶしながら、僕はママの待つ家へと急いで帰る。
遅くなってもご飯を用意しながら笑顔でおかえりなさいって言ってくれるけど、あんまり待たせちゃうと申し訳ないからね。

「あ、じゃあ今日はパパとママベッドの上ではだかで抱き合うの?」
「なっ!? 何を言っているんだマイア!? さてはこの前寝たふりをして覗いていたな!」
「おっと! な、なんでもないよ! それより早く帰ってママのごはん食べようよ! もう私おなかぺこぺこ!」
「そうだな! 飛ばすからしっかり掴まっていろよ!」
「うん! きゃ〜はやーい♪」

元気な子供達に振り回されて、結構疲れる幼稚園の仕事。娘や妻を相手できる時間も、ちょっと短くなってしまう。
それでも、その元気な子供達の元気な姿を見て、こっちまで元気をもらっているから、この仕事は止められない。
子供が好きだから、僕は毎日楽しくお仕事ができる。もちろん、娘や妻のサポートもあって、倒れる事無く元気にできるのだ。

「パパだーいすき!」
「僕もマイアが大好きだよ!」
「ママよりも!?」
「んー、ママと同じぐらいにね。それが家族さ」
「むー、まあいいか♪」

背中ではしゃぐ娘と一緒に、妻が待つ家へと走ったのであった。



これが保育士としての僕の一日。
大変だけど楽しい幼稚園での生活、あなたはどう思うかな?
14/03/03 00:11更新 / マイクロミー

■作者メッセージ
何かが降臨して約半日〜1日で書きあげた作品。
なんだかよくマイクロミーさんはロリの印象が強いみたいな事を言われるので、そんな事無いな〜と思いながらも全力でロリに走った作品ですw
最近にしては文字数も少なく(なんと1万字未満!)読みやすかったかなと。キャラが多くてむしろごちゃっとしたかもしれませんが。
ちなみに、名前だけ出ている娘がいるように、他のクラスの事もいくらかは決めてあったりします……が、書くかどうかは未定。
書いてと言われたら書くかも……

誤字、脱字、ロリロリだ〜♪ などございましたら、感想欄やメールなどで申して下さい。

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