読切小説
[TOP]
捨て猫は甘えたがり
 こんにちは、久しぶりだね、元気にしてるみたいで良かったよ、お前は誰? ここはどこ? 何で縛られてるって? それは後から教えるし鎖も外す、だから話を聞いてもらいたい、私が何者かも分かるから、いいかな、そう、じゃあ聞いてね。


 君が私の目の前に来たのは、たしか冬の時期だったね、檻越しに拾ってくれと、にゃあにゃあ鳴き散らしたら、私を指さして。

「お母さん、あの子がいい」

 と言ってくれたのを今でも思い出せる、その後檻から出されて変な所に連れていかれてさ、チクリと針を刺されたんだよ、痛かったなぁ。

 そいで少し日が過ぎて、迎えに来てくれたね、車の中で幼い君はずっと私をだっこして喉を撫で続けてた、その時に私は知ったんだ、人肌の暖かさを、教えてくれたのは君の腕と手、それに包まれながら私は笑う君にありがとうって言ったよ、君から見たらにゃあと聞こえただろうけど。
  
 それから時が過ぎて、君は大きくなっていった、ちょっとずつ広くなる腕の中に合わせるみたいに、私もちょっとずつ大きくなった、でも最終的にはすっぽりと腕の中に収まったね。

 変わった背丈と広くなった腕の中、でも暖かさは変わらない、君に抱かれる時が何よりも楽しみだった、だから何度もねだってたんだよ、発情期はお腹がうずいて大変だったけどね。
 幸せだった、こんな時がずっと続くと思ってた、でもさ続かなかったんだよね。

 ねぇ、何で捨てたの、何で、何で、冷たくて辛かったよ、寂しかったよ、怖かったよ。
 夢だと思い込んだ、目から覚めたら君にぎゅっと抱き締めてもらうんだって目一杯甘えるんだって、でも覚めない、夢じゃないから、そう思ったら頭がふらふらしてね、そこからしばらく記憶が無いんだ。

 気づいた時には雨に打たれてびしょ濡れで冷たくてさ、体に力が入らないんだよ、おまけに目の前が赤くなってね、お腹から雨の水とは違う水が流れ出してるのを感じた。

 ああ、終わったと思った、凄く君を恨んだよ、こうなったのはあいつのせいだ、仕返しするんだって、でも何でだろうね、そう恨むけど最後に、抱き締めて欲しいなって、思ってしまったんだよねぇ、ああ恥ずかしい。

 意識も薄れてきてさ、ふっと最初に抱いてくれた時が頭の中に浮かんだよ、車の中で幼い君はずっと私をだっこして喉を撫で続けてた、体は冷たいのに不思議と胸の内の何かが微かに暖かくなった。

 体がいくら冷えてもこのほんのりとした温もりさえあれば、私はどこにでも行ける、そんな気がして、私は最後の力を振り絞って頭の中の君にありがとうって言ったんだ。最悪だけど少し気分が良かった、そして意識が途絶えた。

 また目が覚めた時は驚いたよ、だってもう終わったと思ってたし、ここが天国かなとも考えたよ、まぁある意味天国だけど、天国じゃなかった、バステトって言う神様が色々教えてくれたよ、この世界の事、魔物の事、そしてこの国の事を。

 猫をいじめるとこの国に連れて行かれて罰を受ける事になるんだってさ、つまり君がここにいるのは、私が捨てられた事を話したから、お父さんとお母さんも別の部屋にいると思うよ、後で一緒に行こうね。

 さて、じゃあそろそろ罰を受けて貰おうかな、まずは仕返しから始めるよ、その後に鎖を外すからいっぱいぎゅっとしてね、それじゃあいくよ、そりゃ。
15/04/16 02:16更新 / ミノスキー

■作者メッセージ
マンチカン、それは検索すると幸せになる魔法の言葉。

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33