連載小説
[TOP][目次]
私と同僚。


































「そうじゃったか・・・」
「ああ、僕はこれを好機だと思っているよ」
「しかし・・・」
「アリーには、C.Cの事を頼みたい」
「お主・・・」
「あの子はまだ幼い、それにデュラハンとしては全く以て未熟だ」
「・・・デュラハンを母として育てなかったからか、の」
「アリー・・・」
「いや、仕方がなかったんじゃ、儂だって分かっておる。それにもしもの話をしても詮無いことじゃ・・・だが」
「全ての決着を着けるんだ」
「そうか、そう・・・じゃな」
「全てが終わったら、三人で暮らそう」
「ああ、じゃから・・・必ず、生きて帰ってくるんじゃぞ」
「勿論さ、そしてアリー・・・全てが終わったら、僕の子供を産んでくれないか?」
「お、お主・・・良いのか?」
「心はとっくに決まっていたよ、ただ後は・・・」
「そうじゃな・・・」

















*********






目が覚めると、叔父様はもう街を出ていた。
昨晩早く休んでしまったせいで、いつもより早く起きて数時間余った朝の時間を剣の鍛錬に充て、汗を流した私は朝食を終えると街の警備隊の本部・・・職場へと出勤した。

因みに、アリーはすこぶる上機嫌だった。
羨ましい。





「ふーん、年頃の娘は中々辛いでござるな・・・」
「茶化さないで」

出勤後、各部隊の隊長から大まかな連絡を受け、己の班が配備されている区画へと向かう。
出勤が同じ時間だったので、連れ立って歩くのは同じ組のジパングかぶれの『源 小平太(みなもとの こへいた)』と言う男の子。
同い年の最年少組だからよく一緒にされてしまう。
まあ、両親がジパング出身だから、見た事もないと言う彼のルーツである国に憧れる気持ちは分からないでも無いけど・・・。

「C.C殿は真面目でござるから・・・」

この『似非ござる口調』が正直ウザい。
ま、同い年で話しやすいからこうやってちょくちょく一方的に悩みを聞いて貰うんだけど。

「C.C殿?拙者の話聞いてござるか?」
「はいはい、こへのお説教ちゃんと聞いてますよー」
「お、お説教などではござらんよ!」

小平太は未だ幼さの残る頬を更に丸くさせながら、不機嫌さをアピールしてくる。
こうやってちょっとからかうと、頬っぺた膨らます所は幼くって可愛いんだけどね。
やっぱり同年代の男の子って子供っぽいから恋愛対象にならないんだな。

私が女の子としてはちょっと身長が大きいんだけど、こへのが頭一つ分位私より小さいし、目もくりくりっとしちゃってて可愛いし、肌もすべすべでどうも雄って言うイメージが・・・ある方面には絶大な人気を博しそうではあるけどさ。

「C.C殿」

ぼんやり考え事をしながら歩いていた私は、名前を呼ばれてハッとすると、いきなり右腕を掴まれて強い力で小平太の方に引き寄せられる。

「え?なっ?」

突然の事に驚いて息を飲むと、急接近したこへのさらさらな黒髪から香る甘い香りに心臓が止まりそうになる。
と、先ほどまで私が歩いていた場所をラクダが荷車を曳きながら物凄い速さで駆けて行った。

「あ、ありが、とう・・・」
「もうバザールに差し掛かっておるので、くれぐれも油断めされるな」

嘘のように耳に入らなかった街の喧騒が音として私に認識される。
ざわざわと騒がしく色とりどりのテントと人で溢れた此処は、街で一番活気のあるバザールだった。
そして、私にそう釘を刺す小平太の瞳がどこまでも真剣なジェットブラックで、それにゴメンと呟き頷くと、彼はその大きな口を笑みの形に変えて「C.C殿の事は拙者が守る故、そう構えなくても良いでござるが」と抜かした。

「守られるだけの女では無くてよ」

些かむっとした私の可愛げの無い口調に笑みを深くした奴は「拙者がそう思っているだけなので、C.C殿が弱いと言って居る訳では無いでござるよ」と言いながら私の隣に並び、左手を広げると歩き出す事を促す。
いつまでも立ち尽くしている訳にはいかないとは言え、何もかも奴の思い通りになるのが悔しい私は、脚のリーチを生かした大股で早足に歩き、小平太を焦らす事に成功して溜飲を下げた。










「おお、もう来たか」

小平太に数メートルの差を付けて班長が居る場所に合流する。
班長は私たちを見ると、ホントお前ら仲良いな〜と言ってくるので、きっと班長の目は節穴に違いないと、目の前の熊のようにゴツイ班長(スキンヘッドなのに髭もじゃ)の事を心から哀れに思ってしまう。

「はい、拙者たち仲が良いのでござるよ〜」

やっと追い付いた小平太が、少し息を切らしながらそんな事を抜かすので、彼の脛をちょっと強めに蹴っておいた。
警備隊の服は頑丈だが、それよりも頑丈なブーツの底で蹴ったのだ、身悶える小平太にフンっと顔を背ける私。

「じゃあ、今日のバディも二人で組んで、バザールの西側二区画の警備にあたって貰おう」

そんな私たちをニマニマと見ながら、いつもと変わらぬ指示を出し始める班長。

「えー」
「承知したでござるー♪」

もう一か月ず〜っと、こへと同じ行動を取らされてるんですけど・・・

そんな私の不満を他所に、昨晩から今まで起きた事の仔細と現場における様々な引き継ぎを行って、私たちは任地へ送り出された。



部隊は大まかに街の中を守るものと外壁を守るもの等に分かれており、その中でも班が細かく分かれていて、私が所属の警備班では更に警備する区画が細かく分かれている。
そして、街の流通の中心となるバザールの警備をするのが私たちの班の仕事である。

旅人は砂漠の中にあるこの街をオアシスだと言い旅の中継地点にするし、遠く北側が山に遮られた地形が、砂漠を通らなければ東西の国へ物流が儘ならない事を考えると、それなりに栄えているのだ。
そんな大きい街の流通の中心である、もちろん人魔通りも多いし出店も多い。
人魔が多ければそれに見合ったいざこざが彼方此方で起こるのも当たり前で、スリや詐欺などの軽犯罪の取り締まりから、魔物娘と夫が急にイロエロ致し出す事への牽制も仕事に含まれている。

元々この砂漠の街は商人が集まって無理矢理作ったもので、本来ならこの土地にいない筈のウンディーネを色んな方法で縛り付け、暴走されて闇精霊化したものを商人の一人が娶って出来たと言う、何ともお粗末な歴史があった。
そして、寄り集まった人たちが町を作り人口が増えて街となった時に、西側の国が街を支配下に置こうと攻め込んできた所を、北側の国に助けられて何とか追い返して自治を得て今に至る・・・と。
簡単に言うとたった十数年で出来上がった振興の街はまだ穴だらけで、一番初めに住み始めたウンディーネを妻とする男が事実上の長として法を制定したりと頑張ってはいるが、流れ者の多いこの街での自治は中々上手くはいかないらしい。










「はい、お兄さん達、こんな素直そうな人からお金脅し取ろうとしちゃ駄目でござるよ〜」

今も目の前の路地裏でごろつき風のチンピラ兄ちゃん達が三人程、年若い商人の男からお金を脅し取ろうとしていて、小平太にたしなめられている。

「なんだとぉ〜?このガキゃ〜?」
「お兄さん達はお仕事の最中なんだよ!ガキはお家帰ってママンのオッパイでもちゅぱちゅぱしてな!」
「俺はママのおっぱいより、つるぺたなおっぱいのが良いなぁ〜」

ああ、三下のテンプレみたいな台詞だな〜・・・てか、最後の奴マテ!と思いながら、絡まれていた男の人をさりげなく背後に庇い、事の成り行きを見守る体勢になる。
この位の奴らならこへに任せて大丈夫と油断はしないものの、幾分ゆるく構えた状態で後ろにいる被害者の怪我の有無を確認すると、無傷だった。

「あ、あの・・・」
「私たちはこの街の警備隊です。安心してください」

未だ不安そうな男性に落ち着くように声をかけていると、ようやく私に気づいたお兄さん達が私に向かって凄みながら近づいてくる。

「ようようネエチャンよ〜ぉ、何しくさってんだ〜?」
「ガキだけど上玉じゃねえか、金もネエチャンも美味しくいただいてくか〜?」
「俺はもっと幼い子のがこのみだなぁ〜」

ゲラゲラ笑いながら、思い思いに下品な事を言ってくる男共にイラッとしつつも、涼しい顔で受け流していると、男共の背後で「拙者を忘れないで欲しいでござる」と間の抜けた声がする。
その声に振り返った一人が下品な顔を更に下品に歪めて「坊主にゃ勿体無い位の別嬪さんだぁ、俺様がお嬢ちゃんの初乗りさせて貰うぜ〜がははは」と言い放つ。

やれやれ・・・こいつら伸してやる!!
私がそう決意して腰に下げたショートソードに手を掛けようとした時、ゴウン・・・と鈍い音が路地裏にこだます。
大きな鍋の底を分厚いもので殴った時のような鈍い音、それと共に膝から崩れ落ちた男の後ろで、身長程の棒を構えている小平太が男越しにようやく見えた。

「それは、困るでござる」
「・・・この、ガキっ!!」

一瞬、唖然としていた仲間の男が懐からナイフを取り出すと、小平太に向かって突進していく。
男の手を棒でいなして半身を翻した小平太は、ナイフを避けた後片足を前に踏み込み、男の喉元へ突進の勢いをそのままに棒を横にして凪いだ。

「ぐえぇっ!!」

自分の体の勢いを使われて喉元にめり込んだ棒に、呼吸が出来なくなった男は余りの痛みに蹲ると、喉の痛さと呼吸のしづらさにのた打ち回りながらゴホゴホと咳をしている。

他二人と余りにも簡単に着いてしまった決着に、最後に残った男は怖くなったのか後ずさりをし出し「お、俺は・・・逃げる!!!」と振り返って逃げ出したので、男の足元へ小平太が持っていた棒を投げると、足を絡ませ顔から前のめりに倒れて失神してしまった。

敢え無くこの下品な三人組は、後から来た捕縛班にしょっぴかれて行くのであった。








「ありがとうございます、本当に何とお礼を言って良いのやら・・・」

被害に遭った商人は、こへの手を握りしめながら何度もお礼を言うと、こへを彼の家に熱烈に招きたがったのだが、それをこへは「仕事をしたまでござる」と固辞して、私たちはバザールを巡回するのを再開した。

「・・・彼、積極的だったね」
「・・・それは、言わないで欲しいで・・・ござる」

きっとあの商人は『ある方面』の人だったんだなーと呑気に思いながら、バザールの安全を確認して行き、その後は太陽が傾いて地平線に消える頃まで何事もなく街の営みは続いて行った。










「C.C殿、今晩の夕飯はいかがされる?」
「んー、いつも通りアリーが作って待っててくれるから帰るわ」

仕事終わり、いつものようにこへが私を夕飯に誘ってくれる。
勿論こへだけじゃなくって、早番が終わったメンツで行く飲み会なんだけど、私はいつも参加出来てない。

「いつも誘ってくれてるのに、ごめんね」
「いえ、良いでござるよ、C.C殿が来れる日まで誘い続けるでござる」

警備隊に入る時に母とした約束で、十八歳までは仕事後に真直ぐ帰る事、がある。
ちょっと過保護過ぎやしないか?とも思うけど、アリーが私を大切に思ってくれていると言う事だと納得している。

「あ、そうでござる。それよりC.C殿もうすぐお誕生日でござるな?」
「こへ覚えてくれてたんだ」

勿論でござるよ〜!とニコニコしている小平太に「じゃあ何か頂戴ね」と冗談を言うと「何かだと分からないから、欲しい物を聞きたいでござるよ!」と返されてしまう。

欲しい物・・・欲しい物・・・。


うーん、と悩み始めると長い私を知っているこへは、決まったら教えて欲しいでござると言い、飲みに行くぞと叫ぶ先輩たちに合流して行ってしまった。

「また明日でござる〜」

大きく手を振りながら走っていく姿が尻尾を振る犬みたいで、何だか可笑しくなって笑いながら私も手を振りかえした。


さて、もうお家に帰らないといけない。

今日の夕飯なんだろう。
12/06/15 00:22更新 / すけさん
戻る 次へ

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33