読切小説
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九星の婦長と星の海の住民たち
\清水病院・受付\



\ voice on \



つぼまじん婦長(以下・じん婦長)「……診察代は銀貨五枚です」


セルキー(以下ルキ)「結構安いわねーもっと高くつくのかと思ったわー」


じん婦長「……モスマンの燐粉に関する診察は今回は安くしております」


ルキ「まー昨日の夜突然来たからねーそれにしてもモスマンの燐粉は魔物娘の間では縁起がいいのにねーそれをウチの旦那は一回診察してこいってさー何縁起でもないことを言うのかなー?」


じん婦長「……それは……モスマンの燐粉で日常の方に支障が出る人がいるからだと思います」


ルキ「ふーん確かにウチの旦那は船上で仕事しててーよく船長さんに怒鳴られてるけどねー私も人のこと言えないけどさー」


じん婦長「……失礼ですがお代をお願いします」


ルキ「あーゴメンゴメンーついついグチっちゃってーはい銀貨五枚ー」 チャリン


じん婦長「……いえ……少しでも気持ちが軽くなれば……良かったです」


ルキ「じゃあーねー」


じん婦長「……お大事に」


じん婦長「……次の方どうぞ」


アマゾネス(以下・そね)「はい……でござる」


じん婦長「……診察代は薬代を含めて銀貨十枚です」


そね「銀貨十枚……でござる」 チャリン


じん婦長「……確認しました……お大事に」



\清水病院・薬局\



そね「薬をお願いします……でござる」


ミミック薬剤師(以下・クミン)「はーい♪」


そね「ウンディーネの天然水二瓶とサイレント・ラヴ一つをお願いします」


クミン「かしこまりー♪」


クミン「えっとー♪」 ゴソゴソ


クミン「これとー♪」 ガサゴソ


クミン「これねー♪」 ポン


クミン「はい♪ウンディーネの天然水二瓶とサイレント・ラヴ一つ」


そね「ありが……かたじけない」


クミン「お大事にー♪」



\清水病院・受付\



アマゾネスのお侍さんの受付で朝の診察が一段落しました。


昨夜のモスマンの燐粉騒ぎ(または歓迎)により、今日は朝から診察で忙しい。


モスマンの燐粉は、魔物娘の間では子供を孕む可能性が高くなるので縁起が良いものとされてます。


ですが、モスマンの燐粉によって仕事に支障が出る可能性があるため、自主的に診察に来て、異常が無い事を確認する魔物娘もしくはその夫もいます。


この清水病院の職員も後者に入りますが。


マンドラゴラ看護婦(以下・ラゴラ)「大変だったわね」


艶のある声とともに水の入ったコップが私の前に置かれました。


じん婦長「……ラゴラさん」

私は、首を上へ向けてラゴラさんの顔を見ます。


ラゴラ「さん付けはいいわよ。貴女はここの婦長なのだから」


ここの看護婦を勤めるマンドラゴラのラゴラさんが言います。


じん婦長「……いえ……ラゴラさんは私以上に頑張っています……昨夜だってモスマンの燐粉を誤って吸い込んでパニックになった患者さんを宥めていました」


私はただ慌てふためいたのに。


ラゴラ「患者さんを安心させるのも看護婦として当然の義務だからね」


じん婦長「……それに引き換え……私は受付の対応をしているだけ」


ラゴラ「その受付が大事なのよ。どんな患者が来てもきちんと対応する。例え人間でも魔物娘でも」


じん婦長「……ありがとうございます」


ラゴラ「ほら、早速新しい人が来たわ……あれ?あの魔物娘はひょっとして」


ラゴラさんにつられて私は、入り口の方を見ると 


フェイ「こんにちは」


じん婦長「……フェイトさん」


私の知り合いであるマンティスのフェイトさん(通称フェイ)


そして……


配達員「大丈夫だから、嫌ってないから」


スモモ「だったら続きしよーここでしよー」


件のモスマン夫妻でした。


\清水病院・隔離室\



医者「成る程、あの娘が例のモスマンか……」


フェイ「そう」


医者「それにしても教会の子供達のためとはいえ、わざわざ町の中心部まで運んでくるとはね。おかげで昨晩から大忙しだったよ」


フェイ「その点は謝る」


医者「まあ、この病院は特別だから、患者さんにはモスマンの燐粉の影響を受けなかったけどな」


じん婦長「……でも……たまたま外に出てた患者さんは燐粉の被害に会いました」


医者「まあ、それは運が悪かったとしか言い様が無いがな」


フェイ「その患者さんは?」

医者「運の悪さすらも治すのが俺の仕事だ。今は安静にしている。ちなみに面会は謝絶だからな」


フェイ「わかった」


医者「わかれば宜しい。それよりここに来たのは治療以外の用件だろう?」


フェイ「そう」


医者「まさか、スモモちゃんたちを隔離するためだけにここに来た訳じゃないしな」 チラッ


じん婦長「……私の力が必要……なのですね」


フェイ「そう貴女の力が必要」


スポン


配達員「はぁはぁ……やっと……出られた」


医者「おう、壺の中はおたのしみでしたかな?」


配達員「は、はい……おかげさまで、彼女はぐっすり眠ってます」


医者「そうかそうか、悪いがもう少し壺の中にいてもらおうか?」


配達員「へ?ちょっとお医者さん?押さないで、壺の中で押し込まないで」


フェイ「私も手伝う」


配達員「君も?だから、鎌を杵のように使って押さないで」


フェイ「鎌だけど」


配達員「いや、鎌なのは判ってるから」


じん婦長「……すみません」

配達員「君も何とか言ってよ。そもそもここに来たのは結婚式の準備だと聞いて」


じん婦長「……吸引魔法発動」


配達員「うわあ〜!また吸い込まれるううううう!!!」 スポン


じん婦長「……教会に着くまで出られないように蓋をします」 ポフ


フェイ「ありがとう」


じん婦長「……私は魔法を使っただけです」


フェイ「この壺を借ります」

医者「壊すなよ。俺の妻お手製の壺だからな」


フェイ「了解」


医者「お疲れさま」 ポンポン

じん婦長「……いつも通りのことをしただけです」


医者「……」


じん婦長「……私は受付に戻ります……私の代わりに受付をしているラゴラさんに悪いので」


テクテク……





医者「……別に悪いとは思ってないさ、ラゴラも、この病院の皆も、そして俺も」



\清水病院・受付\



じん婦長「……お仕事終わりました」


私の代わりに受付をしてくれた、ラゴラさんに仕事の完了を報告しました。


ラゴラ「お疲れさま。こっちの方は新規の診察者はいなかったわ」


じん婦長「……わかりました。受付を代わります」


ラゴラ「わかったわ」


それからは、夕方まで特に新しく診察に来た人はいませんでした。 


クミン「ジンちゃ〜ん♪暇だよ〜♪」


ミミックのクミンちゃんが隣の木箱から出てきてちょっかいを出します。


じん婦長「……暇なら薬の在庫管理をお願いします」

クミン「ちぇ〜♪ジンちゃんは変なところで真面目だな〜♪」


じん婦長「……薬の管理も宝の管理と同じですよ」


クミン「は〜い♪お宝♪お宝あるかな♪」 スポン


ミミックとしての本能か、機嫌良く木箱の中へ入りました。


コンコン


直後に入口の扉からノックの音が聞こえてきます。


フェイ『すみません』


フェイトさんの声です。


フェイ『壺を返しに来ました』


壺を持って帰って来たようです。
でもどうして直接入ってこないのでしょう。
気になったので席を立ち


じん婦長「……今向かいます」


返事と同時に扉を開けてーー


すぅ……


あれ、この煌めき、この香り、何だかとてもいい気分……。



……うふふ……あなたぁ



\清水病院・婦長室\



じん婦長「……あれ?ここは?」


医者「気付いたか?」


目を覚ました私は、受付とは違う部屋の周りに首をかしげました。
そして、普段は使っていないのですが、ここは婦長室であることに気付きました。


医者「驚いたぞ、いきなりお前が俺に襲い掛かってきてさ」


じん婦長「……へ?私が?あなたを?」


医者「そう、臆病なつぼまじんとはいえやはり魔物娘だなと改めて思ったよ」


彼の言葉に私は改めて状況を確認します。


医者である彼は命でもある診察服を着ておらず……。

そして、私も看護服を着ておらず……。


つまり……裸。


じん婦長「……き、きゃああああああああ!」



\



医者「落ち着いたか?」


じん婦長「……ごめんなさい」


医者「気にするな。運が悪かっただけだ」


じん婦長「……でも」


ポンポン


じん婦長「……頭ぽんぽんしないください……また子供扱いして」


医者「はは……子供のような姿をしてるからつい。もう俺もジンフも結婚してから何百年の月日が経ってるのにな」


じん婦長「……うー」


医者「でも、今回は運の良さに感謝しなきゃな」


じん婦長「……え?どういうこと?」


いつもなら『運が悪い』というのに。


医者「そもそもお前が俺を襲った原因は、フェイとスモモちゃんだぞ」


どうやらフェイトさんはスモモ夫妻の結婚式の最中、またスモモちゃんが旦那を押し倒そうとしたので、燐粉が散布するのを防ぐために奮闘したらしい。


服が燐粉まみれになりながらも。


スモモ夫妻を自宅に連れていった後、壺を返しに病院へ向かい、壺を病院の入り口の前に置こうとして……。


じん婦長「……私は何も知らずに扉を開けて……モスマンの燐粉を吸い込んだのですね」


医者「そゆこと。まあ運良く吸い込んだのはごく少量だったし、ザイーゲちゃんの催眠術で婦長室まで誘導して……ベッドイン。だから患者さんには被害なし」


じん婦長「……それでもごめんなさい」


医者「……どうして?」


じん婦長「……私とても気が弱くて……だからせめて受付だけでもと……なのに」


医者「気にするな。受付だってきちんとやってるし、何より君の能力のおかけで入院室の確保から患者の隔離が出来るしね」


じん婦長「……それはつぼまじんとしての能力を応用しただけで」


医者「それでも、助かる。俺は色々運が悪く一時は医者の仕事から逃げようとしていた」


じん婦長「……」


医者「だけど、君はそんな俺を支えてくれた」


じん婦長「……私はお母さんの手伝いをしただけです……お姉ちゃん達やデュインちゃんのように強くは無かったから」


医者「確かに最初の頃は泣きながら患者の包帯を取り替えてたな。それが今となってはこの病院の婦長だ」

じん婦長「……婦長といっても肩書きだけで……ビーシャちゃんのように経営出来てる訳じゃないし……ドラダンちゃんのように皆から慕われてる訳じゃありません」


医者「それでも、見てくれてる人は見てくれてる。ラゴラやザイーゲちゃん」





医者「そして俺だ」





じん婦長「……」


医者「いつも運が悪いだの言ってる俺だが……」





医者「君と出会えたことに俺はとても運が良かった」




じん婦長「……う……うう……ありがとうございます」


医者「おいおい、泣くなよ。今日は縁起の良い日だぜ?」


じん婦長「……縁起が良い日?」


医者「ああ、一日遅れだがな」


じん婦長「……じゃあ……さっきは全然覚えて……ないから」


医者「ああ、続きをしよう。抜けた穴は心配するな。ウチの職員は優秀だし、今日はマンティスの看護婦が助っ人に来てる。あいつの看護婦姿はレアだから運が良い」


じん婦長「……フェイトさんの看護婦姿……クスクス」


医者「いや、そこ笑うところじゃないがまあいいか」


じん婦長「……じゃあ、続きをやろう……あなたぁ」

医者「ああ、今夜は寝かせないぞ。ふぇふぇふぇ……♪」


じん婦長「……いつの間に誘惑魔法を発動してたのかな?……まあいいか」



\お・わ・り\
13/11/17 00:26更新 / ドリルモール

■作者メッセージ
キャラクター紹介

【名前】ジンフ・チョーカー
【性別】女
【年齢】チョーカー家六女
【種族】つぼまじん
【容姿】図鑑のつぼまじん+三つ網+看護服+星模様のチョーカー
【口調・口癖】口下手で早口では喋れないほど
【能力・特技】壺に入らずとも壺の中に空間を作れる
【概要】
清水病院の婦長であり、かつてスターシャンを復興させた勇者とエキドナの娘『九星主』の一人であるつぼまじん。

普通の壺につぼまじん特有の空間を作ることで入院室をはじめ、手術室、隔離室などに重宝されている。

婦長という肩書きであるものの、職員に指示は夫に任せており、普段は受付を担当している。受付に関しては人間魔物娘や身分関係なく応対し、緊急時には患者の治療を献身的に行うので、病院の職員は彼女を尊敬している。(本人は謙遜しているが)

【補足事項】
大半が白けるようなギャグに、何故か彼女だけがツボにはまる。

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