読切小説
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ベルフェゴールの誘惑
 汗と愛液と精液に汚れたベッドで迎える朝。倦怠感のみを抱えて、フィーズは目覚めた。
 隣には伴侶にしてご主人様にして扶養家族、毎日毎晩(性的な意味で)食っちゃ(性的な意味で)寝を繰り返すアントアラクネ、マラキアがだらしなく口を開けて惰眠を貪っている。
 無職の高等遊民である彼、何かしなければならないことがある訳でもないフィーズがこの瞬間眼を覚ましたことに、これといって特別な理由はない。朝陽も射さぬこの洞穴で、寝疲れた、等と言ってはこの巣穴の本来の持ち主たるジャイアントアント達に失礼だろうか。
 今くらいの時間ならば、働き者の彼女らは巣を出て精力的に働いているであろう。が、昼前に目覚めることが既に、習慣としてフィーズの心身には根づいていた。
 嘗てはその蟻たちのように、日の出と共に目覚め、日没まで働くことを美徳としていたフィーズも、今やすっかりアントアラクネ式の、怠惰と快楽のみを至上とする生活様式に慣れきってしまっていた。
 安全な地下の巣穴に間借りし、餌をくすねて暮らす生き方は、如何なる働き者をも堕落させるのだ。
 寝床の上で上体を起こし数分。覚醒したフィーズとは裏腹に、マラキアは依然として満ち足りた、しかし何処か苛立たしい寝顔を浮かべていた。
 家事も労働も何もしない、それでいて日々の食料と精を人一倍いやさ魔物一倍要求するマラキアは、昨晩睦み合った時と変わらず、一切の衣類をまとわず全裸となってその裸身を晒している。ろくに運動も労働もしていないはずなのに、その肌は瑞々しく、手足の筋肉は必要十分かつ女性らしさを保っている。また何よりも印象的な、その胸の双球はたわわに実っていながらも緩みも垂れも知らず、その乳首をピンと淫猥に立たせていた。
 無防備に乳房を晒すその姿に、フィーズは昨晩数え切れぬほど精を搾られたにもかかわらず、再び昂りを覚えた。巣穴全体に充満するジャイアントアントのフェロモンによって自分が異常に興奮し易くなっていることは知っていても、だからといって肉体の熱を抑えられるわけではない。
 朝勃ちを持て余したフィーズはしかし、マラキアを起こして楽しむ気にはなれなかった。この女は食事と睡眠と性交に邪魔が入るのを何よりも嫌うのだ。無理矢理叩き起こしたところで素直に情交に応じてくれるとは思えないし、毎晩半ば強制的に射精させられている身としては、セックスをさせてくださいと懇願するのも癪である。
 いよいよもって性欲に収まりがつかなくなってきたフィーズは、結局一人で楽しむことにした。眼前のアントアラクネの、その蠱惑的な肢体を自分の思うままに味わうことは、彼女が目覚めている間は到底不可能な事である。普段弄ばれてばかりいる男の、ささやかな復讐心に火がついた。
 ベッドに膝を付き、腰を跨ぐようにする。その体勢のまま下半身を下げ、胸の谷間にフィーズのものを宛てがう。両の乳房を掴み、寄せ、陰茎を挟む。寝汗でしっとりと濡れた柔肌がぴたりと張り付き、言いようのない心地良さをもたらす。

「パイズリとかフェラとか、ほとんどしてもらったこと無いからな」

 普段の、マラキア主導での交わりが気持ちよくないわけではないのだが、しかしたまには奉仕されてみたいのが男という生き物である。眠っている女を、まるで強姦しているような背徳感にフィーズの獣性は激しく刺激された。
 腰を前後に動かし、乳房と肉茎の摩擦を楽しむ。先走り液と汗に、愛液ほどの滑りは期待できない。が、カリ首や裏筋に柔らかい媚乳が激しく擦れる感覚は、また別の快感となり、フィーズは思わずイきそうになった。

「い、いかん」

 予想外の性感に一瞬達しそうになったものの、ここで止めてしまう選択肢は彼の裡には無かった。
片手に余る爆乳の柔らかさ、それに包まれる感覚は、普段の搾精性交にはない甘美さで以てフィーズを魅了した。
 腰の前後運動を止められず、マラキアを起こしてしまうかも、とも考えられず、乳姦に溺れる。胸を犯しながら、人差指と親指で乳首を軽く弄ってやると、寝息に微かに淫らな声が混じった。
 媚びるような拒むような、起きている彼女からはまず聞かれないその喘ぎに、ピストン運動が早まる。
 相変わらずキツ目の摩擦が、乳肌と肉棒の間に生まれる。フワフワとして揉み心地の良いおっぱいと裏腹に暴力的とすら言えるその刺激に、フィーズはもうこれ以上耐えられそうになかった。
 射精の瞬間まで、この胸に包まれていたい。そう願ったフィーズは両の乳房を掴み直し、より強く陰茎に押し付けた。屹立したそれに当たり、むにゃりと胸は変形し、膣のように肉茎を全方位から圧迫した。
 最早我慢のしようもなく、フィーズは一晩掛けて溜め込んだ精液をマラキアの胸にぶちまけた。二度三度と男性器が脈動し、その度に亀頭や裏筋が淫乳と触れ、腰が砕けそうなほどの快感を得る。大量の白濁は胸の谷間から流出し、首の方までも白く染めていった。

「……はぁ、はぁ……」
「お疲れ様♪」

 一頻り射精し終え、脱力しかけたフィーズの耳に、信じられない言葉が届く。ハッとしてマラキアの顔を見てみると、果たしてそこには不自然なまでに明るい笑みを浮かべた彼女がいた。

「どうだった?私のおっぱい。気持ちよかった?」
「……ああ、すごく……って、お前、何時から起きて!?」
「ついさっき。魔物娘はオトコの精に敏感なんだから。あんなにたくさんの我慢汁肌に塗りこまれたら、目も覚ますよ」
「……あぁ……、そう、ですか……」

 にこやかに話すマラキアに、フィーズは嘗て無い恐怖を感じていた。彼女が何を考えているのかは分からないが、自分にとってロクでもないことであるのは分かる。自分のやったことがやったことなので、言い逃れも弁解もできそうにないというのも、また彼の恐怖を煽った。

「でもびっくりしちゃったよ。まさかフィーズがここまでエッチな子だったなんて」
「ご、ごめん」
「うーん。私としては結構複雑なんだけどねー。朝目覚めた瞬間から私を求めてくれる、ってのは魔物娘としては割かし嬉しいことなんだけど。でもやっぱり、あれは良くないよ。眠ってる隙に……なんて、レイプだよ。性犯罪だよ。準強姦罪だよ」
「すまん!つい、なにかこう、ムラムラと……」
「何よその言い訳。性犯罪者そのものじゃない。やっぱりこんなエロ男には、きっちりお仕置きしてあげないとまずそうね」

 両手をフィーズの肩に置き、ゆっくりと押し倒し、体勢を逆転させる。男を見下ろすその表情は正しく捕食者のものであった。

「どんなイイ声で泣いても、許してあげないんだから。もう二度とこんなことしないように、おちんちん枯れるまで搾ってあげる」

 目覚めきっていない頭に訪れた、一瞬の気の迷い。衝動に身を任せたこと、その代償は余りに大きかった。

 

 
10/11/01 18:53更新 / ナシ・アジフ

■作者メッセージ
アントアラクネたんのスコップに張っている蜘蛛の巣。
あれはアラクネ種の象徴というだけでなく、「仕事用具に蜘蛛の巣が張る」→「長らく使われていない」→「全く働いていない」という、怠惰さのメタファーだったんだなと、最近気づきました。

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