連載小説
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前編
ワンルームマンションの床に広げた、安っぽい大判用紙上に現れた異形の姿。
突然の閃光によって麻痺した視力が戻ってからも、その光景に呆然とする事しかできなかった。
この部屋に似つかわしくない、全くの別文化を切り取ったような衣装と装飾。そして常識を逸脱した蒼い肌と赫い瞳。
興味本位に古本屋で買った、異国の物らしき黒い書冊。そこに載っていた手順を、図のとおりに実行に移していただけなのに。

「ほら答えなさい。アナタはワタシを呼び出すために……陣を描いて儀式を為したのね?」

明らかに日本どころかこの世のものではない存在がなぜ流暢な日本語を喋っているのかとか、
一体どこから出てきたのかとか、そういう疑問は浮かんだが、それを尋ねてみる余裕も持てなかった。
答えを促すその人外に対して気を落ち着けるように唾を飲み……、正直に答えることしかできなかった。



「……いや、まだ途中までしか描いてないんだけど」
「え」

意表を突かれたように、蒼肌の女が足元に目を向ける。
そこには、赤い樹脂絵具で描いた円と、その内側を繋ぐまだ二辺だけしかない不完全な三角形。
陣とは呼べないそれは、落書きという言葉が当てはまる。

「…………」

書冊によればここからさらに幾重の幾何学図形を描き、未知のものらしい言語を円周に沿って書くはずだった。
まだ準備中のつもりだったのにこんな事が起きたら、そりゃあ驚く。誰だって驚く。

「あー、ちょ…っとせっかちすぎたかもしれないわね。陣が繋がる予兆があったから、一刻も早くと思って強引にこじ開けたんだけど」
「こじ開けた」
「原則、陣は一人しか出て来れないから。早い者勝ちみたいなもんだし、まあこういう事が起こるのも仕方ないわね」
「早い者勝ち」


多分。状況からして。おそらく、悪魔……なのだろうが、本当に驚いた。
どちらかというと、予想外の出の良さの方に。一瞬警察を呼ぼうかと思ってしまった。

「それで、よ。それはいいとして」
空気を切り替えるようにパチンと指を鳴らし、出現した直後と同じ微笑がその顔に浮かぶ。
目線の先には例の書冊。おそらくこの悪魔は、この書冊が何なのかも全て知ってて喋っているのだろう。
「アナタはワタシを呼び出そうとした。そしてワタシがここに来た。とにかくそれは確かな事よね。……じゃあ聞かせて貰わないといけないわね。悪魔と契約してでも叶えたい願いを」


「……いや、特には」
「んぇ?」

決め顔らしき表情を維持していた悪魔が、その体勢のまま眉をひそめる。
――ああ、これはちょっとマズい事をしたかもしれない。
相手の様子に若干申し訳なさを感じつつも、素直にここまでの経緯を話してみる。

「だから……この本に書いてある通りの事をしたら本当に何か召喚できるのか気になっただけで、契約とかは特に考えて……」
  (ガンッ!)
「なんで俺のベッド蹴るの!?」

無言で物に八つ当たりした悪魔が、急に声色を変えて呆れ混じりに怒り出す。
「じゃあワタシはアレなの? 退屈しのぎに呼び出されたの? ワタシ結構上位な方の悪魔なのに?」

大げさなリアクションと共に態度を崩し、先ほどローキックを入れたばかりのベッドに飛び乗るように座ってみせた。
そして天井に顔を向けると、駄々をこねる子供のように足をバタバタと振り始め、それにあわせてベッドが軋む。

「あっハァ〜、やっと人間界に来れたのにもう用済みねえ、これはまいったわぁ、アッハッハッハ」

――すごい勢いで機嫌を損ねてしまった。
急にアメリカンホームドラマみたいなテンションになったその人外を見ながら、そんな事を考える。
正直、もう帰ってもらいたいのだが、見た感じそれは嫌がりそうだ。
どうしようか。考えなしだった自分の行動を少し反省していると、一通り嘆いて落ち着いたらしい悪魔の方から口を開いた。

「まあいいわ、せっかくだから雑談でもしましょ。取っ掛かりが見つかったらそこから契約の勧誘するわ」

発言の後半は表に出さない方がいいんじゃないだろうか。そう思ったが、口には出さなかった。

「でさぁ、アナタほんとに願いとか望みとか無いの? アナタだってこの……、ああちょっとまって。アナタ名前は?」
「早風間恒真(サカザマコウマ)」
「ワタシはウェズデイ。ウェズデイ・パラスノーツよ。よろしく、退屈持て余し人間くん」
「名前で呼ばないのか……」

えらい言われ様である。今回の事は反省して、経験を次回に活かすとしよう。次回があるとは思ってないが。

「で、見た感じアナタ大学生でしょう。学生とはいってもこの社会に生きる身なんだし、願いが一つもないってことは無いと思うんだけど?」

――と言われても、急に出てくるものではない。
そりゃ例えばありがちな所でまとまった金が手に入るなら嬉しいが、悪魔の契約がどういうものなのかは大体見当はついている。
何らかの対価が必要なのだ。言葉に流されて、安易に契約を承諾すると酷い目にあいそうな予感がする。

「あーその目。リスク計算してるでしょう。最悪どんな末路が待ってるんだろーとか」

バレた。

「いや……まあ、そういう話は聞いたことあるし」
「へえ? 悪魔と契約して酷い目にあったって話? 例えば?」
「北極だかで偶然壷を見つけて、そこから出てきた悪魔に金貨を頼んだら凄い量の金貨を出して、その重みで氷盤が割れて全部沈んだ話とか」
「壷? なんで壷から悪魔が出てくるのよ。ランプの魔人とかと話がごっちゃになってんじゃない。創作よ創作。」

軽々と話を看破したウェズデイが、芝居がかった風に横を向いて溜息をつく。
その本来なら鬱陶しいような動作にもある種の自然さを感じるのは、その身に纏っている非現実な雰囲気のせいだろうか。

「まあ、契約は一旦置いときましょう。なんでもいいから言うだけ言ってみなさいよ、願いとか……悩みとか? それが全く無いのなら、それこそアナタ人間とは思えないわね」
「なんでもいいから、って言ってもなあ……」

悪魔から人間とは思えないとか言われるとは思わなかったが、今の言葉には少し心が揺れる箇所があった。
願い、と言われればすぐには出てこなかったが、悩みであれば――確かにある、かもしれない。
最も、これが悩みなのかどうかははっきりとは分からない。どうすべきなのかも分からないし、他者に言葉で伝えられるほど整然としていない。
だから、この話はまだ心の内から出さないでおこう。そう決めて改めてウェズデイの姿を見た時、一つ思い浮かんだ案があった。




「へぇ、なかなか面白い事言うじゃない。ワタシとしてもなかなか新鮮な気分よ」
「念を押すけど、これはその契約とは全く別という事でいいんだよな?」
「その位の願いならサービスで叶えてあげるわよ。悪魔界ではビックリの対価なし、ワタシだからこその特別よ?」

ベッドの上に腰かけたままのウェズデイが、キャンバスを開く俺を急かすかのような口調で説明する。
絵のモデルになってほしい、という願いをウェズデイは楽しそうに受け入れた。
せっかく珍しい存在に出会ったのだ、自分の手でこの状況を記録に残してみたい。
そんな妙に冷えた考えを持ってしまうのは普通じゃないことなのかもしれない。感覚が慣れてしまったのか、麻痺してしまったのかは知らないが。

「で、どうする? 脱ぐ?」
「…………っ、そのままで。そのままを描きたい」
「アッははハハ」

ウェズデイが肩を揺らして笑い、ちょうどその辺りの下書きをしようとしていた手が泳ぐ。

「…………下書きが終わるまででいいから、あまり動かないでくれると助かる」
「あーハイハイ。楽しみだわぁ、絵に描かれるのなんて初めてだから。ワタシどんな顔をしてるのかしらねぇ?」
「そっちの世界、鏡って無いの?」
「ワタシ鏡に映らないから。どんな顔をしてるかって今まで見たことないのよねー」

鏡に映らないのは、吸血鬼とかの方ではなかったか。
そんな風に思ったが確証は無いし、本人がそう言っているのだ。多分その通りなのだろう。

「アラ真剣な顔。職人って感じしてるわ」

そんな言葉を投げかけられたが、集中したいので応えはしなかった。
目の前にいる常識の範囲を超えた人外の存在を、自分はどれだけ画に再現できるだろうか?





「魂と引き換えに、願いを三つ叶える……だったっけか」

あまり時間はかけられない以上、いつもよりも工程を大幅に省略。少なくとも、今日だけで強引に全体が落ち着くまで進めたい。
とりあえず下書きを終え、色を載せ始めようと絵具を出す段階。いつの間にかかなりの時間を消耗していたかもしれないが、集中が必要な部分はひとまず過ぎた。
そろそろ退屈になってきたんじゃないだろうか――という気がして、さっきの話題を蒸し返してみた。

「あらー、そのタイプのが有名なのね、人間界では」
「? つまり、他にも違うパターンの契約が?」
「まあね。あー……、でも。旧時代含めれば、そのタイプの契約が一番件数多かったのかしら」
「件数とかはどうでもいいんだけど。あの契約って、『願いを四つに増やしてくれ』って通用するのか?」

こちらが再び契約の件に興味を示したことが嬉しかったのか、ウェズデイは饒舌に喋りはじめた。

「残念、それはルール違反よ。前提条件や既に叶えた願いと矛盾する願い、あるいはその願い事の中で矛盾が完結している願いは叶えられないの。願いは三つ。魂は死後必ず受け渡す。その前提条件は覆せないし、誰にも持ち上げられない岩を出させてからそれを持ち上げろってのもNG。黒い白馬を出せ、というのも当然NG」

すらすらと理屈を並べるその姿に、自分より遥かに高い知性を感じた。この相手と本気で知恵比べをして、勝てる見込みはあるのだろうか。

「はじめて聞いたな、そのルール。何でもってわけにはいかないのか」
「他にも細かいルールはあるわ。でも契約成立時にルール説明書は渡すから、説明責任は果たしてるわよ」
「ル、ルール説明書……」
「B4サイズで、大体ワタシの握り拳程度の分厚さね」
「握り拳程度の分厚さ……」

最初からそうだったのか、あるいは人との知恵比べを経てそうなったのか。思った以上に縛りは多いらしい。

「はい、じゃあワタシからここで一つ問題出すわ」

軽く首を振り、ウェズデイの滑らかな髪がふわりとなびく。気のせいか、いくらか目つきが真剣になったように見えた。

「これまでその契約を行った人間が、一番多く口にした願い事は何でしょう?」

「――――」

引っかけだろうか、とも思った。だが、思い当たることを素直に答えることにした。

「不老不死、か」
「正解♪」

間髪入れず、ウェズデイは嬉しそうに指を立てた。

「まあ、さっきも言った通り魂を死後受け渡すって前提があるから完全な不死は無理。条件付きの不老不死ってとこね。『自分の任意で解除できる不老不死』が完璧な正解」
「……それ、アリなんだ。完全な不死身と殆ど違わないように思うけど」
「ま、死があり得る以上はね。じゃあ第二問――。それが叶った契約者は、幸せになったでしょうか?」

まるで、何だったか。神話だか言い伝えだかの、スフィンクスの問いに答えているような気分。
あの話と違って、間違えるととんでもないことになる――というような事はないのだろうが、全く無意味な問答であるようにも思えない。
何か、ウェズデイの意思を感じる。だから、こちらも精一杯真剣な答えを考える。

「ならなかった、と思う。老いなくなった人間が、まともに人間社会の中で暮らしていけると思えない。それは、幸せじゃないと思う」

ウェズデイは今度は口を閉ざしたまま、首を傾げて目を細めた。
しかしそれも数秒の間。まもなく時間切れとでもいうように、諦めたように言葉を紡ぐ。

「途中まではその通りよ。不老不死になった契約者は、人間の集団の中で生きていけなくなった。戦場で活躍とかはできるでしょうけど、人間関係は築けない。何十年も老いない人間なんて明らかに異常。友人も作れず、家族も作れず、定期的に住む場所を変えながら一人でひっそりと生きていくことしかできなかった」

そりゃあ、そうだろう。
フィクションにおいても、不老不死になった人間にはロクな末路が待っていない。
そう思っていたのだが、ウェズデイの話はそこから別方向へと切り替わった。

「でも、やがて気づくのよ。その契約者にも、出会った中で一人だけ友人、恋人、家族となりうる存在がいるって」
「……つまり?」
「悪魔よ。別な時の流れを生きてる相手。唯一秘密と時間を共有できると気付いた契約者はそれを願い続けて、悪魔と友人に、恋人に、家族になり……幸せと言えるものを手にしたの」

予想していなかった結末に、すぐには何の言葉も出てこなかった。
どこか展開が破綻しているような話だったが、雰囲気にのまれてしまったのか指摘の声が出てこない。
しばらくの後にようやく出てきたのは、ひねくれた一言だけだった。

「おとぎ話か何かみたいだ」
「アラ、そう?」

ウェズデイは特に機嫌を損ねた様子もなく。

「ま、信じなくてもイイわよ? ただの雑談なんだから」

絵を描くのを急かすように、当初と同じポーズに戻った。






「……こんなもんかな」
「あ、出来上がったの?」

筆を置いて独り言を漏らすと、ウェズデイが目を輝かせて立ち上がる。
気が付けば描き始めてから随分時計の針も廻っているし、結構待たせてしまったようだ……が。

「ごめん、まだ仕上がってない。とりあえず下地の色を塗った状態」

ウェズデイが回り込むようにしてキャンバスを覗き込もうとしたが、まだそこに画は完成していない。
不十分なその状態を見せるのがなんとなく嫌で、咄嗟にキャンバスの角度をずらしてその視界に入らないようにした。

「えー、見せてくれたっていいじゃない? ワタシがモデルなんだから。見る権利ぐらいあるでしょう?」
「それは完成してからで。……多分、明日には仕上がるはずだから」
「アラ、明日までかかるの? あっさり引き受けたけど、そんな長丁場だとは思わなかったわ」

大げさな動きで肩をすくめ、ウェズデイは背を向ける。

「じゃあ尚更、テンション保つためにも確認しておきたいのよねー」

――と思ったのも束の間、影が伸びるような不思議な動きで、こちら側に回り込んできた。
足音が僅かに遅れて聞こえたのは、多分気のせいではないのだろう。

「おい、ちょ……」
「へぇ」

その動きにはさすがについていけず、描きかけの状態を晒してしまう。

「…………」
「…………」

見せてしまったのなら仕方ない、今さら隠しても無意味だろう。
モデルになった悪魔が、どういう反応を示すのか。それがひたすら気になってしまい、次の動きをじっと待った。

「へぇ、ふぅん…………」

自分の顔を確かめるように自らの頬を撫でながら、ウェズデイは未完成の絵を眺め続ける。
それはまるで自分の内側を覗かれているような気分で、どうにも気恥ずかしい物だった。












「じゃあ、ワタシはここで寝るから」

画材を片付け終わった途端、ウェズデイが突如そう宣言。

「なんで?」
「悪魔だって寝る時は寝るわよ。まあ寝なくても平気といえば平気なんだけど」
「え、どっちなん……じゃなくて、寝るにしても一旦そっちの世界に帰ればいいんじゃないの」
「そしたらもう一回召喚で呼び出されないとこっちに来れないし。呼び出されて陣が通じても、未契約の現状じゃ他の悪魔が横取りしに来るかもしれないし」

完全に悪魔側の都合だけを並べたてながら、一般大学生の布団の中に入ろうとする青肌の人外。
その様子に正直動揺したが、向こうは人の寝具の中に入る事には一切抵抗が無いようだった。

「いやちょっと待って、そこで寝られるとこっちが困るんだけど」
「へぇ、なんで?」
「俺の寝る場所が無くなるから」
「一緒に寝ればいいじゃない」
「んっぐ」

目の前のベッドはダブルでもセミダブルでもない完全な一人用。二人で使うには無理があるし、そもそも初対面で人ではないとはいえ美形の女。
経験もなければこういった場面に対してどうすればいいか予習もしていなかった身としては、非常にハードルの高い物がある。

「あっはは、何よ今の声? 興奮した? ねえ興奮したの? 超エキサイティングの3Dアクションゲーム?」
「関係ない! 関係ないし、俺は床で寝る! あと何でそんなネタ知ってんだ!」
「えー、それだとワタシが追い出したみたいでバツが悪いじゃない。ワタシは絶対ここで寝たいけど」

十分深夜と言えるこの時刻、急にワガママを言い出した人外に頭が痛くなる。
正直もう寝たいのに、くだらない論争に思考を消耗したくはない。

「いいじゃない一緒に寝るくらい。悪魔と契約者なんだから仲良くするべきよ」
「その理屈が分からんし、そもそもまだ契約してないし……」
「あー、もう面倒くさいわねー」

ウェズデイが言葉通り面倒くさそうな、本当に面倒くさそうな声を出した途端、急に左足に何かが絡み付いて全身が持ち上げられた。

「どおぅ!?」

そしてそのまま、ベッドの上……布団の中に、衝突するかのような勢いで引き込まれる。
だが布団と、そしてウェズデイの柔らかな身体に受け止められ、衝撃の割に痛みはあまり感じなかった。

「いらっしゃーい♪」

続いて感じたのは、近く過ぎてそれがどの部分なのかは分からなかったが……視界間近の青い肌と、触れた部分から感じる人肌と同じ暖かさ。
おそらく肌の色が違うせいで意識していなかったが、相手は極端に露出度の高い衣装を着ていたのだ、直接肌が密着し、その体温が直に伝わる。
立て続けに起こった出来事のほとんどは理解できなかったが、最後に悪魔の扇情的な身体に突っ込んだという事は本能的に分かった気がした。
心構えのできてなかった状況に直面し、情けない事か全身の筋肉が逃げへと走る。

「っ!!」
「あ、ちょっ」

もしかしたら、すぐに離れた事を後悔するのかもしれない。なんて頭の隅では考えながら、それでも精一杯のプライドらしきものでベッドから逃げ降りようとする。
しかし、その瞬間に再びバランスを崩し、同時に視界の端で見ることができた。

「(ああ、さっきはこれに引っ張られてたのか……)」

長くうねる、蛇のような何かが左足に何重にも巻きついている。
多分、ウェズデイの尻尾なのだろう。こんなに長くて、器用に動かせるものだとは思わなかった。

走馬灯のようにそれだけを確認し、巻きつかれた左足を基点に全身があらぬ方向へと傾く。
頭が真っ白になったのは、おそらく本棚の角にしこたまぶつけたからだろう。

そのまま、翌日の朝まで意識は回復しなかった。














翌朝、ウェズデイの姿は消えていた。

何のメッセージらしきものも残さず、綺麗にいなくなってしまっていた。

だが、途中まで描いたウェズデイの画はまだそこに残っていた。
昨日の事は、全て幻だったのだろうか。そんな気もしたが、できればそうであって欲しくはなかった。
非現実な出来事ではあったが、それだけに直面していた現実の悩みから、目を逸らすことができていたから。

しかし、それでも現実の時間は回る。
大学へ向かわなければならない時間が迫っていた。

できることなら、今日も幻が見れますように。
部屋を出ながらそんなことを祈ってしまった自分に気づき、何を考えているのかと自嘲した。

肌寒さの残る、朝の七時半のことだった。
















「あら、もう出ちゃったの……?」

十分後。部屋に、コンビニ袋を手にした青肌の人外が戻ってきた。

「ふぅん、朝食を作ろうにも冷蔵庫が空っぽだから買いに行ってたらこの有様、なーんかよくよく間が悪いわね」

文句を言いつつも、てきぱきと買ってきた食料品を冷蔵庫へと移し替える。
そして部屋を見渡すと、ふう、とため息をついて考え込む。

「えーっとじゃあ、洗濯から……いや、掃除からにした方が……」

初めての家事実践、頭に詰め込んできた知識を引っ張り出しながら、これからの手順を構築する。
やがて、何かに気が付いたように、悪魔は一つの結論に辿り着いた。

「まずはエロ本チェックね」

部屋の主は、夕方まで帰ってこない。
15/10/12 19:28更新 / akitaka
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■作者メッセージ
申し訳ないですがエロは後編からですー
SS書きたいのと絵描きたいのと漫画も描きたいのとゲームも作りたいのでやる気分散してた故、後編まで書ききってから投稿しようと思ってたのですが
さっさと投げちゃうことにしました。後編はできるだけ早く...

来年のコミックトレジャーでクロビネガのゲーム出したいです。
ADVとACTで、まだ体験版というか途中まで版みたいな域でしょうが。

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