読切小説
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彼が物書きに至るまで
「今日からあなた様のアシスタントを担当することになりました、『リティム=フィリアラム』と申します!これからよろしくお願いしますね、マスター!」

ただでさえ訳が分からない言葉だった。
その上寝起きでそんなこと言われたら、また変な夢を見てしまった、という程度にしか思わないだろう。
ライトノベルの読み過ぎとアニメの見過ぎが影響したか、羽の生えた人形サイズの人型生命体、妖精が見えてしまっている。悪くない夢だ。

「……いいなー、妖精さん欲しいなー」
「えっ……!あ、はい……。えと、い、一応マスターに私をプレゼント……ってことになりは……なるんですが……」
「やったー、じゃあ俺は毎日妖精さんをオナホ代わりに使って性欲処理が出来るんですねわかりm」
「ちょっ!?ちょちょいきなりそんな……っ!?まま、ま、マスターの変態っ!!!」
「ふがっ!」

出会いから1分で変態認定+目覚まし時計を全力投球(小さい体のどこにそんな力があったのか)を貰ったこの瞬間から、すでにお互いの力関係は決まっていたのかもしれない。

この日から、一人の物書きの青年は、ちょっと口うるさくておせっかいなアシスタントと共に過ごすことになったのだった―――


―――「あれ?マスター、何見てるんですか?アルバム?」
「あー、うん。お前が最初ウチに来た時に記念に撮った奴だなー。最初はビックリしたよなぁ……ほんとおとぎ話か、って感じだったもんな、今もう慣れちまったけど。てか、最初のころはお前可愛かったよな……、何言っても従順に働いてくれたし、気は利いたし……」
「へぇ、まるで今の私が従順じゃなくて気が効かないフェアリーみたいな言い方ですね?コーヒーに入れる砂糖と塩を間違えてしまいそうな発言です」
「はい、ごめんなさい何でもないです、そんなドジっ娘属性なんて今いらないです」

瞳以外を満面の笑みにしたフェアリー、リティムは慣れた手つきでスティックシュガーの先をちぎると、中身を半分ほどコーヒーに入れる。
彼女にはシャベルのようなサイズのスプーンで砂糖をかき混ぜて溶かすと、コーヒーカップを両手に抱えてアルバムを枕に机に突っ伏した自分の主のもとへと運んで行く。

「大体ですね、私はお母様からマスターの創作活動の手助けをして来い、って言われてるんですよ?それが実際どうですか?毎日毎日夜も遅くまで課題の手伝いをさせられるだけで短編の小説すら書いてないじゃないですか。こっちだって嫌気がさして仕事も雑になりますよ……」
「おう……それを言われるとつらい……。仕方ないんだ……俺は筆が遅いから……同情するなら才能くれ」
「……ま、私がちゃんと本来来るはずだった、リャナンシーだったらこんなことにはならなかったんですよね」
「それは、言わない約束だろ。あー、才能とか言った俺が悪いのか、うん、課題するわ……」

そう、彼女は少々ややこしい事情でこの家に来てしまっている。

代々この家では有名な書道家や画家、小説家を輩出して来ており、その先祖全てが創作家によっての女神のような存在、リャナンシーと何らかの関わりがあったとされている。
このフィリアラム家は青年の家と代々協力関係にあり、新たな世代が生まれるごとに新しいリャナンシーをアシスタントとして送り込んでいたらしい。
しかし、青年の親とリャナンシーの間には残念ながら子宝に恵まれず、仕方なくフィリアラム家では、当時孤児だったリティムを養子に取り、この家に送り込んだのだという。
そして送り込まれたのがリティム、だが彼女はリャナンシーではなく、フェアリーであることをフィリアラム家に隠していたのだ。リャナンシーでないことがバレてしまうと、また捨てられるのではないだろうかということを危惧して。

結果、リャナンシーからの才能と実力を受け取り損ねた青年と、優れた創作物を出してくれないと家に戻れなくなったフェアリーという妙な関係が出来てしまったわけである。

青年はしばらく机に広げたレポート用紙とにらめっこしていたが、やがて観念したように淹れてもらったコーヒーを一気に飲み干し、大きく伸びをしてアルバムを本棚にしまう。

「よしっ!めんどい!やめよ!寝よ!」
「なんでそうなるんですか!課題は!創作は!?」
「明日考えるさ!ケセラセラ!ではおやすみなさい!」

そういってそそくさとベッドへ潜り込んでしまう、そんな主をリティムはあきれた表情でしばらく見ていたが、早々に寝息を立て始め本格的な睡眠に入ってしまったのを見て、今度はため息をこぼした。

「まったくこのマスターは……これじゃれっきとしたリャナンシーでも手を焼いたんじゃないかなぁ。それともリャナンシーにはこの怠け者すらを動かすだけの魅力があるのかな……」

机の上に散らかったレポート用紙や参考書をまとめ、電源を落とさずに寝てしまったパソコンをスリープモードにしておく。
消さずに寝てしまった蛍光灯の明かりも落し、豪快にいびきをかき始めた主を一瞥してもうひとつため息をつく。

「……マスターが私のため、って動いてくれるほどには、魅力ないかなぁ、私」

誰にも聞こえないような音量でそうつぶやき、がっくりと肩を落とす。
彼女の主に対する日ごろの不真面目さへの不満は募るばかりだが、別の場所での不満も持っているのだった―――


―――翌日、いつものように朝の満員電車に乗り込み、大学へと向かう青年とフェアリーの姿があった。
本来ならば今頃は優れた作品を世に送り出し、富と名声を手に入れて家でのんびりとくつろいでいたはずなのだが、そうはならなかった青年はこれまで通りの生活を続けている。
本人いわく、大学を卒業し、ちゃんと手に職をつけてから作家を考える、だそうだ。

通勤・通学ラッシュによるサラリーマンと学生の濁流に揉まれる電車内で、青年はスマートフォンの電源を入れて、メモアプリを起動する。

「んー、じゃこんなのどうですかね?記憶が毎日リセットされちゃう少女と、その少女が毎日好きになってしまう男の子のラブストーリーとか!胸の締め付けられるような切ないお話が書けそうじゃないですかぁ……」

彼女の発言を聞いて、青年はスマートフォンの画面を高速でタイプする。
画面には「ベタすぎる。意外性に書けるし、俺は胸が熱くなるようなバトル物書きたいし」との文字。

リティムは普段は人に気付かれないようにする魔法をかけているらしく、以前声に出して会話をしていたら、一人で会話をしている怪しい人がいる、と奇異の目で見られてしまった。
それ以来人前ではこうやって文字をつかって会話しているのだ。お互いに少々面倒なのだが仕方ないだろう。

「えーいいじゃないですかー、私はラブストーリーが好きなんです!マスターはどうせまた最近やったゲームに影響されて血生臭い戦争物が好きになっちゃっただけでしょう?」

今度は画面に「ソンナコトナイデスヨーマエマエカラカンガエテイマシタヨー」とカタコトの文章が打たれる。

「全く埒が明きませんね……いいですよじゃあそれで、なんでもいいから書いてくださいよ」

「それがキャラの設定と世界観だけ考えて満足しちゃうんだZE(・∀<)」と軽快にタイプされる。顔文字までつけて。
「そこまでやるんだったら文章に起こしてくださいよぉ……」と、いつものように無駄なやり取りを繰り返すうちに、電車が下車する駅に到着する。
さすがに歩きながらスマートフォンを操作するのは危険なので、イヤホンをつけてスマートフォンで音楽を再生すると、スリープ状態にしてポケットにしまった。

「ちょっとまだ話は終わってませんよー!せめてじゃあプロットだけでも書き出しましょうよー、って、きーいーてーまーすー!?」

耳元で喚くリティムの声が煩わしいと言わんばかりにスマートフォンをポケットに入れたまま音量を上げると、歩幅を広げて歩き始める。
リティムは「うがー!」とか叫びながら必死に主の頭をぽかぽか殴るが、対して気にもされずに終わってしまう。
これもまた見慣れたいつもの光景ではあった。

結局講義室の後ろの方の席につくまで青年は一言も発せず、逆にリティムは騒ぎすぎで今は机に突っ伏している。
青年がスマートフォンで友人にメールを送ったり、SNSの巡回をしたりして時間を潰していると、やがて講義室に教授が来て、教室のざわめきのボリュームが少しだけ下がる。
少しけだるそうにしながらも鞄から教科書と大学ノートを引っ張りだすと、周りの目を確認してから指でリティムの背中をつつく。

「起きろー、講義始まるぞー」
「寝てません!ってかなんで毎度毎度私が一緒に勉強しなきゃならないんですか!」
「そりゃ、あの先生の授業難しいし。お前が噛み砕いて説明してくれないとわかんねーじゃん」
「教科書で予習してあれば十分に分かることです!なんで妖精の国からこっちに来てわざわざ家庭教師みたいなことしなきゃならないんですか!」
「そうだ、君は家庭教師なのだ。頑張れリティムよ、私と君の明るい未来のためだ」
「話をそらさない!はい教科書182ページ開く!」

家庭教師つけたまま講義受けるとか楽でいいわー。とボソボソとつぶやきながらシャープペンシルを手に取る。
最初20分ほどは真面目に講義を受けていたのだが、やがて

「お、これ結構可愛くかけたんじゃね?ほら見て見て」
「って落書きすなっ!!そんなことしてるとまた単位落しますよ!?」
「なんだと!可愛いは正義だ!ようじょは愛でるものだ!」
「あーもう!ダメだこのマスター誰か私と代わってぇぇぇ」

がっくりとうなだれるリティムの肩にそっと指を乗せる青年。「災難だな」、とあたかも他人事かのように声をかけると、リティムはさらに沈み込んでしまった。

結局、その後数分で青年は居眠りを始めてしまう。
リティムはしばらく机の端に座りぼけー、と講義を眺めていたが、もとより興味がないので面白いとは言い難い。
主の方を振り返ってみても、相も変わらず気持ちよさそうに眠っている。また今日も後で友人にノートを見せてもらう気なのか。
その時ふと何かを思いついたように目を見開くと、ゆっくりと目を細めてニヤリとほくそ笑む。

「……そーだ。せっかくだしちょっとイタズラしちゃえいっ」

何かイタズラが出来そうなものは……と辺りを見渡すが、下手に机の上の物を動かすと、万が一周りに気付かれると驚かれてしまうし。
となればやはり人目につかない机の下の無防備な下半身が!という結論に落ち着くのがフェアリーというものでして。
思い立ったら即行動。さっそく机の下へ潜り込むと、ズボンのチャックに手をかける。
フェアリーの中ではしっかりとした思考を持ったリティムだが、根底ではやはり好奇心旺盛なイタズラ好きであったのだ。

「ふっ……ふふふふ……股間べったべたにして大学歩き回らせてやる……もしくは魔法で綺麗にしてあげるとか言って帰りに喫茶店でパフェでも買わせる約束でもさせてみようかな」
「……あー、今金欠だからきっついわそれ」
「ふっ・・・泣いて謝っても知るもんか!鞄の中にいざという時のための1000円が入ってることも知っているんですよ私は!」
「ほう、お前勝手に人の鞄あさったのか。人が突っ伏してる間に善からぬことを考えたのも含めペケ二つだな」
「……ふほあぁっ!?」

いつの間にか起きてしまった青年が、今度は逆にニヤニヤした目で足の上のヘビに睨まれたカエルのように固まってしまったリティムを見下す。

「なに?発情期?フェアリーにもあるもんなのやっぱ?」
「うるさいわ!くっ……この!」
「まぁ何はともあれ悪い子にはお仕置きですね?」

青年が笑顔で取りだしたのは何の変哲もない輪ゴム。しかしこれがフェアリーのような小さな体には巨大な拘束器具となるわけでして……。

「やめっ……てぇ!ま、周りに……人いる……のにぃっ!!」

あっさり輪ゴムで身体を縛られ、"お仕置き"として鉛筆の角で秘部を弄ばれることに。
はたから見れば講義がつまらなくて鉛筆の裏で机を叩いてるようにしか見えないだろう。

「あー、昼飯何食おう。コンビニも飽きたし学食もたまには使うかな……」
「このっ……!マスターめぇ……後で覚えて……っあ、やあぁっ!!」

結局、残りの講義が終わるまでの一時間近く、何度も絶頂を迎えさせられることとなったのだった―――


―――「ただいまー、っと。で?今から喫茶店行くか?パフェ食いたいんだろ?」
「……なんか、もういいです。今、食べたくありません……」

寮へ帰宅して誰もいない部屋に元気よく挨拶する青年。
一方リティムは相当な時間イかされ続けたものだからか、いつにもましてぐったりとしていた。日ごろの悩みからの頭痛も重なってか生気を失ったかのようにベッドに墜落するように倒れ込む。

「あー、マスターちゃんとノート借りれましたかー……?講義の内容……覚えてますかー……?」
「案ずるな我がしもべよ。ノートはしっかりと写させてもらったし、講義の内容はあとでお前が教えてくれる!」

実質そうなんだけどしもべって言われるのはちょっと、と、誰が私を失神させたと思ってるんですか講義聞いてるわけないでしょう。
という二つのツッコミを入れたかったリティムだったが、口から出たのは今日一番の深いため息だけだった。

「まぁそんなことで大丈夫だろうと信じて、さぁリティム!お待ちかねの時間だ!」
「なんですか……?やっと何か創作活動をしようという気になりましたか……?」
「今日から楽しみにしていたオンラインゲームの正式稼働だ!」
「はい、そんなところだろうと思ってました。ああ、今のだけで今日の疲れが二倍に膨らんだ気がする……」

彼女本来の重量を無視するかのようにしてベッドに沈み込むリティムを意に介することもなく、青年は平然と冷蔵庫へ向かい、中にあったコーラを取りだして一気に半分近くを飲み干す。

「ぷはぁっ!っしゃあパソコンスイッチONだ!リティムよ!今晩はオール体勢で行くぜ!コーヒーはいつもより砂糖を少なめだ!」

おいうちをかける主の発言にもはや呆れすら感じなくなりつつあるリティムだったが、とりあえず今日の課題をさせるためにはどう説得したものか、などと考え始めてしまう。
本当にこれではただの家庭教師か親代わりか。自身の立場を改めて考えるとまたひとつため息の数が増えるのだった。

「あぁ……こんな生活いつまで続くんだろ……いつになったらマスターは創作を……」

自身の現状を憐れんでいると、となりにどかっ、と青年が座り込み、冷蔵庫から取り出した昨日の残り物の冷えた焼きそばを頬張る。あれで晩飯のつもりだろうか。

「もぐ……ふぉんなにおふぁえは俺になんか創って欲しいかふょ?」
「そりゃまぁ……そうさせるのが私の役割ですし」
「んぐ……、けどよ?お前は創作が無いと生きていけないリャナンシーってわけじゃねーんだろ?フェアリーなら別に普通にしてりゃいいじゃん」
「そういう問題じゃないですって……」

青年はリティムが感じている危機感が理解できないらしく、またのんびりと焼きそばを頬張る。
リティムも仕方なしに体を起こすと、ベッドの淵に座り直す。

「ちゃんと働きを残さないと私を拾ってくれた家族にも面目が無いですし、私の居場所がなくなっちゃいますよ……」
「ふむ……はむ……もぐ、なるほど」

ちゃんと聞いているのかどうかすら怪しい青年はしばらく焼きそばを咀嚼したあと、唐突に焼きそばの一本をリティムの顔面に押しつける。
いきなりのことにそのままベッドに倒れ込むリティムだったが、そのせいで青年と目があった。

「別にそんなリャナンシーみたいに振る舞うことを考えなくても、お前はお前なんだしいいんじゃねーのか?だってフェアリーなんだろ?リャナンシーじゃないわけなんだし」
「それは……けど!」
「もうめんどくせーし疲れるだけだしいいじゃん。別に創作の才能とかなくてもお前がいるだけですげー助かってるしさ、居場所って、もうお前この家住んでんじゃん、これからもいるんだろ?」
「え……」
「だからいいじゃねーかよ。なんなら俺がお前の実家行って家族に言って来てやるよ、『コイツは実はリャナンシーじゃなくてフェアリーでしたー!けど俺は助かってるのでこのまま貰っときます』って」

リティムはしばらくこの青年が妖精の国に来たらどうなってしまうかを考えていたが、言葉の後半の意味を遅れて理解し、思わず赤面してしまう。表情を隠すために呆れた時のように手で顔を覆うと、わざとらしくため息をついてやった。

「何ですかそれ、遠まわしにかっこ悪いプロポーズになっちゃってますよマスター……。全く……何を言い出すかと思ったら……」
「そんじゃプロポーズでいいか!少なくともお前は確実に俺を助けてるんだよ、そこは自信持っていいんじゃね?それで十分だと思うんだけどな」
「……」
「全くお前ガキんちょのくせに変なところだけは心配するのな。俺が早々お前を手放すと思うなよ?」
「……っ!」

青年はやれやれと言った様子で頭を振ると、少し芝居じみた風にして横に座るリティムに向き直る。

「……だって、妖精だし、幼女だし。こんな絵空事みたいなもんが目の前に!まさに二次元が飛び出してきた感じだぜ!うっへへへへへへ!!」

それを聞いて今まで暗い表情を見せていたリティムは驚きに目を見開くと、ゆっくりと瞳を閉じて怒りに肩を震わす。
少しの間だけ何かをこらえるように歯を食いしばっていたが、やがて頭をかきみしりながら力の限り叫ぶ。

「……だあぁぁぁぁ!!やっぱコイツ最悪だ!!!変態だ!!」
「何を!?違う!仮に変態だとしても!変態という名の紳s」
「うるさいわ変態!寄るな!さわるな!もうあっちいけ!」
「っとぉ!そうだったこんなことしている場合ではない!私は今日からネトゲ廃人となるのだああぁぁぁぁ!!はーっはっはっはっは!!」

青年は高笑いと共にパソコンがある机の前に座り込む。
リティムが頭をかきむしりながら体を起こし、リティムは今までとは違うどこか優しいため息をついた。
意気揚々とパソコンのディスプレイにかじりつく主をしばらく見ていたが、やがてまたベッドに倒れ込むと天井を見上げて、

「……ありがと」

そう一言だけ、誰にも聞こえないような音量でつぶやいた―――


―――その後青年の気が済むまでゲームをプレイした後、さすがに課題を放置する気にはならなかったかゲームを切り上げて軽い休憩を取る。
その間リティムはベッドの上で寝ていたらしく、青年が風呂に行く準備をしているとその物音に目を覚ました。
彼女は体を起こすとぼさぼさになった長い髪の毛を手で簡単にすいて整えながら思いっきりあくびをして時計を見る。青年と騒いだ時から2時間ほど時間が過ぎていた。

「なんだお前寝てたのか。可哀想に、枕の一つぐらい乗せてやればよかった」
「何をどう間違えたら枕を乗せるという発想になったのかは知りませんが……、それは私がつぶれます。せめて掛け布団をかけるにしてください、それでも重いですが」
「さすがリティムさん、寝起きですがしっかりツッコミを入れれる程度には頭が冴えてるようですね!」

リティムはベッドから飛び立って主の頭を軽くド突くと、そのままふよふよと脱衣所へ向かう。
青年もその様子を見て笑いながら後を追う。風呂は一緒に入るらしい。
脱衣所で着ていた服を洗濯籠に放り込むと、青年は同じく服を脱いだリティムを眺める。

「……なんですかその目は。あんまりジロジロ見ないでくれますか変態」
「いや、なんか、こう……凹凸の無い身体だなぁ、と思って。さっきやってたネトゲのキャラメイクを胸のでかさMAXでしてしまったせいだろうか、いつにもまして余計にまな板に……」
「ちょっとした魔法で浴槽のお湯を全部塩酸に変えてあげましょうか?きっとお肌つるつるになって骨まで綺麗になれますよ?」
「あっはっはリティムよ、目がマジだ。やめてそれはマジで死ぬ奴だから」

軽い(?)冗談を交わしながら青年がドアを開け浴室に入ると、それに続いてリティムが入り、それから扉を閉める。
青年が先にシャワーを浴びて、そのあと勢いを弱めてリティムが浴びた。
青年はもちろん普通に浴槽に入るが、リティムは下手すると溺れるので洗面器にお風呂の湯をすくってその中に入るのだった。

「いつも思いますけどこれじゃ某目玉だけの親父ですね。あれはお茶碗ですけど」
「安心しろ、俺の頭に妖怪を察知するアンテナはないし俺は両目とも持っている」
「すいません、そもそも自分の頭が目玉でないので、その点については心配はしてません」

取り留めの無い会話をしながら、青年は浴槽の中でスマートフォンをいじり始める。彼が持っているのは防水らしく多少の水濡れは平気なようだ。

「お風呂の中まで来てネット廃人はやめた方がいいと思いますよ?色んな意味でと帰ってこれなくなります」
「仕方ないだろ?さっきやったネトゲの関係でネ友と連絡取りたかったし。ただ風呂に入ってるだけでは時間の無駄だぜ?」
「お風呂はリラックスするところだと思うんですけどねぇ私は。まぁなんでもいいですけど、髪の毛洗ってくれませんか?自分で洗うと結構大変なので」
「はいはいっと、了解いたしましたお姫様」

青年はうやうやしく礼をすると、スマートフォンを浴槽のフチに置いてシャンプーラックに手を伸ばす。リティムの髪は長いと言えど体の大きさ的にあまり量はいらないので青年が使う時より少なめにシャンプー出してリティムの髪につけた。

「そうだ、ついでだし歯磨いとこ。髪の毛洗うのぐらい片手で出来るし」
「別にいいですけど、雑にしないでくださいね。女性はマスターと違って髪に気を使っているので」

言葉の節々にトゲを混じらせるリティムだが、やはり青年は意にも介さず歯ブラシを手に取る。
右手で歯を磨き、左手でリティムの髪を洗うという器用なやり方だ。
とはいえいくら器用でもフェアリーは何と言っても人形サイズなので、細かいところまではヒトの指では洗えない。そういう部位はリティム自身が並行して洗っていた。
適度に髪を洗い終えるとシャワーを弱めにして髪を洗い流し、今度はリンスを髪全体につけてから同じように洗い流す。

「ん、すっきりしました。ありがとうございます」
「どういたしまして。よしじゃあ次は体も洗ってあげよう」
「別に体は自分で洗うのでいいです……って、きゃあっ!」

青年は歯ブラシを口にくわえたままにしてリティムを左手につかむと、器用に片手でボディソープを手のひらに出し始める。
リティムは指をほどこうと必死の抵抗を試みるが、なにぶん力が弱いので抵抗とも思われていないらしい。

「かっ、身体にさわりたいだけでしょうこの変態めっ!もう聞いてます!?」
「んー、可愛いからつい、だね!まぁまお堅いこと言わないのー」

そのまま指で体全体を洗い始める。体格差のせいでどう見てもフィギュアか何かを洗っているようにしか見えないが、リティムは逃げようともがいているので生き物だと分かりはする。
だが実際もがいているだけのようだが、胴体の小さい突起や、足の付け根に指が触れる度に小さく体を震わせているのにはたして青年は気が付いているのだろうか。

「ちょっとやめ……っ!!ぁっ、マスター!もうっ!」
「ははは遠慮することはないー、楽にするがよいー」
「ん……ふぁっ、もう、そんなんじゃ……」

だんだんと頬に赤みがさし、少しずつ呼吸が荒くなる。身体も熱っぽくなってきて、お風呂が熱いのか身体が熱いのかの違いが判断出来なくなっていく。

「やっ……もう!ほんとに怒りますよ!離してって!」
「えー、どうしたんだよそんな本気になっちゃってー。怒った顔も可愛いから怒らせてもいいんだけど」

イタズラに満足したかのように青年が手を離すと、リティムは浴槽のフチにへたり込んで肩で呼吸を繰り返す。
上気した身体を鎮めようと深呼吸するが、うっすらとボディソープ以外の粘液性を持った液体の熱を感じてもう一つギアが入ってしまう。
普段はここまではならないはずなのだが、と思い、本人も違和感を感じているようだ。
顔を真っ赤にして俯くリティムにようやく違和感を感じたか、青年が少し心配そうに顔を覗き込む。

「あれ、なんか今日調子悪かった?なんか要らんことした?」
「はぁ……はぁ……マスターが……余計なことしかしないのはいつものことです……」

いつものように強気に振る舞おうとするが、弱々しい声音になってしまい、思わず顔をそむける。
しばらく何かを躊躇うような素振りを見せたが、やがて恥ずかしさにさらに顔を俯けて小さく口を開いた。

「はぁ、マスターじゃないですけどほんとに発情期でもあるのかな……。ちょっと、身体が火照っちゃって……」
「お、Oh……、お前アレでダメなのか……」
「いつもはこんなはずじゃないんですけどね……う、うーん」
「ふむ……それならば、私にいい考えがある!」

そう言って青年は口にくわえていた歯ブラシを手に取る。
さっそく嫌な予感しかしないリティムが赤くなった顔を今度は真っ青に変えて絶望の表情を浮かべた。

「マスターその発言は死亡フラグっていうか、失敗フラグです!ていうかもうそれだけで幾分マシになった気がしますもう大丈夫です!」
「なあに案ずるな、主が仕える者に対して施しを与えるのは当然のことよ!それにこの歯ブラシは毛が柔らかいタイプだ!私は歯茎が弱いからな!」
「最後のは要らない情報ですね!もう口に入れてた物ってだけでマスターのデリカシーの無さが……って聞け!」

相変わらず人の話を最後まで聞かずに青年はリティムを手に取る。胴体にと足を一緒につかむことで無理やり秘部を露出させると、そこに歯ブラシをあてがった。

「ヘイ、ユー!満足したら右手を上げるんだぜ?そう歯医者さんのようにな!」
「それは手を上げても、もう少し我慢してくださいねー、って言われるパターンです無理ですってもうほんとに……っひゃ、やあああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

そのままシャコシャコと歯を磨くのと同じペースで歯ブラシを動かし始める。
秘部と時たまお尻の方までに一気に刺激が走り、身体をこわばらせて必死に耐えようとするが何かが急激に昇ってくる感覚は消せそうにはない。

「ストップ!ほんとこれっ……!あっ……!っうぅ……!!」

必死に抑えていた身体が手のひらの中でビクンと大きく跳ねる。絶頂してしまったのだろうか、軽く潮を吹き出すが、それに気付いてか気付かずか歯ブラシの動きは止まる様子はない。

「やあぁっ!!やらっ!ほんと壊れひゃ!!!っくあああああぁぁ!!ギブ!!ギブううぅっ!!」
「オーケーオーケー、もう少し我慢してくださいねー」
「こっ!!!!調子にっ……!!!あっく……っ!んぅーーー!!!」

手のひらの中で辛そうにガクガクと身体を揺らすリティムだが、青年は逆に楽しそうに笑顔で腕を動かし続ける。
「腕が疲れるからそんな長く出来ないしなー」とかなんとか言いながら、結局10分近くまた絶頂の頂から降ろそうとはしないのだった―――


―――「なんか今日楽しいな。絶好調だ!」

体を乾かすために扇風機の前にしゃがみこんで濡れた頭を拭く青年は、笑顔でそう言った。
一方リティムは本日二回目の無気力タイム。濡れた髪の毛を拭く気力も無く地面に敷かれたバスタオルの上で息絶えたかのように横たわっている。

「それはよかったです。私は今日は最悪の気分ですよ。一日でイッた回数の最高記録を更新してますからね」
「なんだお前そんなの数えてたのか。で?何回だった?」
「ふっ……意識が朦朧とする中回数まで数えられる余裕はないですよ……。いつかその首狩り落としてやる……」
「やだー、リティムちゃん怒らないでー。マスターは君のためを思ってやってるんだからぁ☆」
「気持ち悪いのでもう何もしゃべらないでください。それより疲れました、髪の毛拭いてください。余計なことするとそのだらしなくぶら下げてる物潰しますからね」
「へいへい、恐ろしいこと言う子だわー。ああ黙っていれば可愛いのに」

お互い減らず口を叩きながらだが、青年はおとなしく命令に従い、リティムの髪の毛を今度は丁寧に拭きとる。
こちらも黙っていればそんなに悪い顔じゃないのに、とリティムは無意識にそんなことを思い、思わず顔をそむける。
ただ髪を拭かれているだけなのだが、青年の手が自分に触れていることをやけに意識してしまい、気が気ではない。
もちろんそんなことを口に出したらどんな目に合うのか分かったものではないので絶対に言いはしないのだが。

自分から言い出したことなのに「もういい」と言い青年の手を止めさせると、少しは体力が回復したのか自力で立ち上がる。

「さて、やられっぱなしというのは私としては気に食いません。マスターそのままベッドに寝転がってください」
「なんですリティムさんのご奉仕タイムなんです?やったーマスター期待しちゃうー」
「……自分の食性にほんと嫌気が差しますね。誰がこんな奴のを好き好んで……」
「えー、リティムちゃんボクの事嫌い?嫌いになっちゃった?」
「……黙って寝転がってくださいますか?私くらいの体重でも思い切り勢いをつければその二つの袋くらい潰せると思いますよ?」

そう言い終わるが先か機敏な動きでベッドに寝転がるが先か。青年は「イエス!マム!」の一言だけを発してベッドの上で固まる。
リティムは主の問いかけに、「嫌いです!!」と今までならすぐに返せたはずなのに、そうは出来なかったことを歯がゆく思い、気を紛らわせるためにため息をこぼす。
仕方なしといった様子でふよふよと飛びあがりベッドの上へ移動すると、主のお中の上に着地する。

「ふん……相変わらず短小ですね。こんなんだから女の子にモテないんですよ」
「マテ、俺はおにゃのこを見つければすぐにマラを見せつけるような露出狂ではない。普通こんなところ見せる機会があればそれはすでにそれ相応の仲となっているはずだ」
「そうでした、それ相応の仲になったことすら無い童貞さんでしたね。悪いことを言いました、忘れてください」
「HAHAHA痛いところを突くねー、なぁに、私は君がいれば他の女なんか要らないさ!」

わざとらしい冗談のはずなのだがリティムの顔が一気に真っ赤に染まる。青年からは後ろを向いているのだが、耳まで真っ赤になっているので気付かれないだろうか。

「一生私以外とこんなこと出来ないでしょうねマスターは」

リティムは強がりにそう言い返すと、股間にしゃがみこんでまだ硬さの無い物を持ち上げる。
そのまま皮をずり下ろすし、中の物に軽く口づけをする。それだけで少し反応してしまう主を尻目に見て、多少得意気になってそのまま男根に抱擁する。

「こっちは早く終わらせたいので、とっとと堅くしてくださいよ。てかもう裸でベッドに横たわった地点で準備終わってるかと思ってました」
「ふっ、そこまで童貞力高くないぜ?しかしいつになく積極的なリティムたんに俺の息子は愚直に反応だ」

リティムが抱きついたまま反対側に回した手で敏感なスジを何度もなぞると、そのたびに男根は少しずつ硬度を増していく。
腕をカリ首に合わせるように巻きつけ、一方舌で亀頭の先端を舐めまわす。小さな舌は尿道の奥に軽く入り込み、そのたびに強い快感を生み出す。
青年の言った通り、30秒もしないうちに完全にいきり立ってしまったモノを見て、リティムはそこで手を離した。

「ぷあっ。ん、硬くなりましたね。それじゃあ……っと」

そう言い反対側へ回り込むと、反り返ったモノを両手で抱き抱えて持ち上げる。
ちょうど目の前に裏スジが来るような形となり、イタズラにそこに舌を這わせると体ごとビクンと跳ねるような反応を見せる。
その様子にリティムは楽しそうにクスクスと笑うと、今度は包み込むようにして男根に抱擁をした。

「なんだか今日はやけに楽しんでますねリティムさん。ってか遊んでません?」
「いつも通りじゃつまんないでしょう?それに今日は今日一日の仕返しですから。ちょっとぐらい遊ばせてもらいます」
「Oh……今日はドSモードだね……」

リティムは抱擁したままに腕を先端の隙間へと伸ばすと、カウパーでぬめりとした液体があふれており、何とも言えない感覚が手に広がる。
しばらくその感覚で遊んでいたが、やがて尿道の入り口へと右腕を伸ばすと、小さい手を中に突き入れた。

「なっ!!」
「うっふふふ、普通こんなところまで触れませんからね……すっごく不思議な感じでしょうね。どうですマスター?女の子になったみたいでしょう?」

突き入れた手を中でうごめかせながら、もう片方の手で滴り落ちたカウパーを裏スジに塗りつける。
一通り塗りつけたらそこを舌で舐めとったり、甘噛みしたりして刺激する。
持てあました左腕でカリをなぞるようにしてしごき、両腕と口といった三点で快感を与えていく。

「はむ……んっ……ちゅっ……、どうです?気持ちイイことのフルコースでしょう?女の子みたいに身体震わせちゃって、可愛いですよマスター?」
「ほ、褒められてる気がっしないぜ!」
「当然、褒めてませんから。さ、もっと続けましょう?」

いつもより反応のいい主を見て、心なしかリティムも身体が熱を帯び始める。口での攻撃を再開すると、動きを先ほどよりもより強めにし、さらに足も絡ませて全身で愛撫する。
動きは段々と激しさを増し、体全体を大きく上下に動かしていく動作へと変わっていく。
激しい運動と、胸を密着させて上下に動かすことで小さな突起がこすれることで、リティム自体も呼吸が荒くなるが、本人は行為に夢中になり始めていてそのことにすら気づいていなかった。

「ほらマスターっ、段々と、どくん、どくんって感覚がっ、短くなって、いますよ?そろそろ、限界ですかっ?」

問いかけるが、主からの言葉による返答は無い。代わりに荒い呼吸だけが返ってきたので、相当余裕が無いのだろうか。
そろそろ潮時かと判断したのか、リティムは尿道に刺し入れていた手を引き抜くと、両腕でがっちりとカリ首をホールドし、さらに上下運動の動きを速くする。

「っ!り、リティム!それやばっ」
「くすっ。それじゃ、一発目、もらって、おきますね!トドメですよっ!」

そういってリティムが力の限り抱き締めると、絞り出されるようにして勢いよく精液が吐き出される。
ほぼ真上に向かって出されたそれは、そのまま重力に従って真下へと戻ってくる。リティムにとってはバケツをひっくり返したに等しい量の精液が降り注ぎ、あっという間に顔や髪、肩を白く染め上げる。
しばらくの間大きく脈打つ男根を抑えるように抱き締めていたが、やがて余韻に浸ることに満足したのか、腕を離して目の周りについた精液を拭うと、そのまま口へと運んだ。

「んっ……く。こんなにいっぱい出されても飲みきれませんよ。もっと省エネでもいいんじゃないです?
「き、今日にいたっては俺は悪くないような……だが積極的なリティムさんは超よかったです。マジでマジで」
「ん、そう?じゃあこれからもたまにはしてあげようかなぁ」

リティムは体にかけられた精液を両手ですくっては飲むことを繰り返して、徐々に体を綺麗にしていく。
後でまた洗い直しだなこれ、などと思いながら青年は見つめていたが、出された精液を舐めとる姿が妙に艶めかしく感じ、萎えかけたモノにまた少し熱がこもる。

リティムはあらかた精液を飲み干し、飛び散ってしまった分をティッシュで丁寧に拭きとる。髪の毛についたものは少し固まってしまって不機嫌そうな反応を見せたが、どことなく嫌がっている様子はなかった。
後処理を終えて座り直し、さてもうひと風呂行くかと青年が考え出した時、未だ物欲しそうにしているリティムと目が合った。

「ね、ねえマスター。今日の分の仕返しがこれで終わりだと思ってます?あの、もうひとつ、お願いしても……いいですか?」
「お、おいどうした?上手に出るのか下手にどっちかにしてくれ」
「んーもう!どっちでもいいんですそんなこと!そんなことより……えっと、その……」

さっきまでドSモード全開だったリティムは今度はもじもじとしながら何かを伝えようとする。だが口を開こうとしては赤面して俯いてしまい、なかなか話しだせず、青年の方も困ってしまう。
「とりあえず深呼吸しろ」というアドバイスを貰ったリティムは、おとなしく従い3回深呼吸をすると。か弱くだが意を決したかのように口を開いた。

「その、今日は……、いれて、くれませんかね?」
「……What?」
「や、なにじゃなくて、その。マスターの、を……私に」
「うーん……、オーケーオーケー、言いたいことは分かった。実に喜ばしいお誘いではあるが、リティムよ、何か忘れていないか?」
「……うん」

青年とリティムは出会ってからの期間それほど短いわけではないのだが、彼らはまだ実際に交わるには至ってないのである。
それはひとえにお互いが不可能だろうと思っていたからで、そこに言及しないのは暗黙の了解だと青年は悟っていた。
だが突然のリティムの申し入れに思わず困惑する青年だったが、しばらくして声のトーンを落として言葉を続けた。

「残念ながら俺はヒト、お前はフェアリーだ。ちょっぴり体格差がある、ってレベルじゃあない。さすがに無理でしょそれ」
「いえ、出来ますよ!フェアリーだって時にはヒトの男性と交わると聞きますし、そうしなきゃ子孫も増えてませんから!そりゃ、体格差はありますけど、入る……はずらしいです。……ちょっぴり痛いらしいですが」
「ふーむ、そうなのか」
「そうです、だから大丈夫です。出会った当初のマスターの言っていたように、その、オナホみたいに出来る……はずなんです」

何がそんなに彼女を駆り立てるのか、青年は理解に苦しむようだったが、とにかく青年にも譲れない事情はある。
唐突にリティムを抱き抱えるようにして両腕で包み込むと、胸の前に持ってきていつもと違う、静かな口調で言った。

「なぁリティム、そりゃ、俺だってちょっとそうしてみたい、って思いが無いわけじゃなかったが、それじゃお前が滅茶苦茶苦しいだろ。そりゃ俺もちょいとそういう下心が無いとは言わんが、それよりお前の体の方が心配だ。俺はお前のことが大好きだ。だからこそそんなこと、したくない」

突然の動作と告白に完全に固まってしまうリティム。お互いに黙り込んでしまい、やけに心臓の音だけが大きく聞こえているように感じていた。
フリーズしかけた頭がようやく動き始めると、その心臓の音が目の前の大きな胸から聞こえてくることに気付き、その緊張感が今の言葉に嘘が無いことを証明していた。
リティムはその音を聞きながらゆっくりと目を閉じ、あふれ出ようとする何かを必死に我慢する。
なんだか彼女には酷く馬鹿らしく感じた。目の前にいる人間が、自分が。
やがて気持ちを落ち着けて深呼吸をすると、顔をあげて主の視線に目を合わせる。

「なんだかんだ不器用な人ですね、マスターも。やっぱり顔を見るとカッコ悪く見えちゃいます」
「お、じゃあ顔見られなければイケメンってことか!あれ、なんかそれ残念じゃね?」
「残念ですよ、本当に。残念過ぎて涙が出ちゃいそうです」
「そうかそうか、ならば私の胸で心ゆくまで泣くがよい。私は心が広いからどんなことでも受け止めてやろう」

青年の言葉にリティムは嘲笑混じりのため息をつき、青年も軽く笑う。
しばらくお互いに黙って見つめあっていたが、やがて青年の方が切り出した。

「どうしてもって言う?」
「どうしても、って言ってみたいですね」
「俺はそんなにリティムをいじめたいわけじゃないんだけれど」
「今日あれだけさんっざん私で遊んどいてよく言いますね?アレに比べたら別にちょっと痛いだけじゃないですか。苦痛に数えません」
「Oh……そう言われると、そんな気がする」
「今日は私のワガママに付き合ってもらう日です。黙って従ってください」

そんな約束をした覚えはない、と青年は抗議するがリティムは全く聞く耳を持たない。
青年の手のひら中からするりとぬけ出すと、リティムはそのまま青年の股間へと向かう。
すっかり萎えてしまったそれを手に取ると、硬度を取り戻すためにまた全身での愛撫を始めた。
青年もついには観念したのか、無抵抗にその様子を眺めている。
しばらくしてすぐに硬さを取り戻した男根は、どこか先ほどよりも力強く見えた。

「はい、じゃあお願いします」
「お願いする、って、何を?」
「わ、私一人の力じゃこんなのどうしようもないですから……マスターがつかんで押し入れてくださいってことです!」
「イッツ、バイオレンス!そんなことをしなければならないのか!」
「ごたごた言わない!そんなんだから童貞なんです!」

青年はしぶしぶと言った様子でリティムの胴体を軽く握る。力を込めれば簡単に壊れてしまいそうな、柔らかい感触が手に伝わり、これから起こるだろうことを考えるとなおさら不安になってしまう。
一方でリティムはさきほどから愛撫をしただけなのだが秘部はしっかりと湿っており、少し荒くなった呼吸をしながら目を閉じていた。自身も始めてのことなので内心戸惑いが隠せないが、主を心配させたくないので表面には出さないようにする。

「それじゃ……挿入るぞ?」
「う……うん……」

位置を調整しながらリティムの秘部を青年の男根があてがい、リティムが深呼吸をするのを合図にゆっくりと力を込める。
初めは全く微動だにしなかったが、青年が腕に込める力を強くするにつれて少しずつ入口を広げていく。

「っ……ぐぅっ……!」
「お、おいほんとに大丈夫かよ」
「何……言ってんですか。まだ先っぽの半分も挿入ってないですよ?」

リティムは苦しそうな表情を見せながらも、少しずつ慣れてきたのか青年の指をぽんぽんと叩いて先を促す余裕を見せる。
その合図で青年はまた力を強める。少し力を強めるごとに気遣うように休憩、時間をおいてまた挿入、を繰り返して、亀頭の8割方を飲み込むまでに至った。

「な……慣れれば……案外どうってことないですね……はは、時間かかりましたけど」
「そういうことは額から滝のような汗を流しながら言うセリフじゃあないと思うんだがなぁ俺は」
「何を……マスターの方こそ、眉毛がくっつきそうなほど心配そうな、情けない顔して言われても……、カッコつかないですよ」
「減らず口だけは叩けるんだな、それじゃ残りも挿入れちまうぞ」

そういって最後のひと押しと、さらに力を込めるが、カリ首で止まってしまう。
まだ大丈夫だから、と指を叩くリティムに押され、ほぼ全力に近い形で力を込めていくがなかなかうまくいかない。
仕方がないので右手で胴体を抑えたまま、左手をリティムの肩にかけ両手で力を込めることにする。
お互いに視線だけで合図をすると、青年は一気に両手に力を込める。

「いっ……っぎぃ!っがあぁっ!!」
「うげっ!」

すると今度は勢い誤って一気にリティムの最奥へと突き入れてしまった。
勢いよく挿入された男根は半分以上が埋まり、逆にリティムの体は胸の近くまで一気にいびつな形に歪み、そこで止まった。
リティムは「かはっ」と小さく息を吐き、一瞬瞳が焦点を失ったかのようにさまよう。
あまりの衝撃に意識を飛ばしかけるが瞳を閉じて歯を食いしばって耐え、浅い呼吸を繰り返す。

「わ、わりぃ、生きてる?」
「はっ……はっ……く……、最初から、これぐらい思い切ってやった方が……むしろ楽だったかもしれませんね……」

リティムはなんとか呼吸を少し落ち着けると、下を向いて変形した自分の体を見つめる。
普通ならばその異常な事態に驚くところであろうが、リティムは満足そうに、なぜか勝ち誇ったような表情を浮かべ、主を見上げる。

「ほら、ね。大丈夫って言ったじゃないですか。マスターのが、私のナカに来てるのがすっごい感じられますよ……」
「すっごいやばそうな見た目してるけど……これ本当に大丈夫なのか?」
「ふふっ、この通り、私はピンピンしてるわけですが?はぁぁ……なんだかこれだけで満足です。マスターを一番近くで感じれる気がします……」
「満足、か。ならこれでやめようそうしよう?」
「もちろん、一回挿入れたからには最後までしてもらいますからね?頑張ってくださいね、マスター?」
「ちぇっ、やっぱそうなるのか」

「行けるか?」とだけ軽く断りを入れると、リティムは無言のまま頷いた。
はやる気持ちを抑えて、そのまま慎重に抽送運動を始める。
リティムの膣内はまるで男根を絞め千切ろうかというほどキツいが、挿入の時よりは抽送運動に大きな抵抗を感じるほどでもなく、ゆっくりとだが馴染んでいく感じさえする。
リティムもさほど苦しそうな表情は見せず、むしろとろけるような顔へ変わっていく。身体が上下するたびお腹の形がいびつに歪んでいくが、その痛みよりも強く、快感を感じ始めていた。

「んっ……マスター、そんなんじゃ全く満足出来ないんじゃないですか?私も慣れてきましたし、もう少し、速く……」
「い、いいのか?」
「一々聞かないでください。……男として、情け……んっ、ない、ですよ」

そう言われ、徐々にスピードを速めていく。
リティムの口から洩れていた吐息のような嬌声も、少しずつ大きく、はっきりとあえぎ声へと変わっていく。
接合部からは淫らな水音が聞こえるようになり、お互いの気持ちをさらに昂らせていく。

「ふっ……ああっ!!すごい……っ!これっ!身体中に、響いてっ!!ひあぁっ!!」

青年はリティムがさほど苦しんではいないことを確認すると、なんとかせき止めている自身の欲望を腕の速度に乗せていく。
お互い感じたことのなかった快楽に身体を震わせ、快感をむさぼるようにお互いを刺激しあう。

「すごいです、マスターをっ!身体中で感じられて……っ!なんだか、私っ!!」

抽送運動を繰り返すその度、リティムの表情が崩れていく。もはや辛そうだった時の面影はなく、快楽に溺れているかのような表情を浮かべて喘いでいる。
青年の方もついには歯止めが効かなくなり、自分の欲に従うがままに腕を上下させ、小さな膣内の感覚をむさぼる。

「うぐぅっ!っはぁ!やぁっ!!んあぁっ!!らぁっ!!」

男根がリティムの最奥を突く度に彼女は全身を震わせ、身体全体で快楽に耐える。
もはや声に出すのは言葉にならず、開け放した口からは抽送のリズムに合わせて喘ぎ声だけが漏れる。
段々とお互い共に高めあい、絶頂へと向かっていく。激しくなっていく抽送に比例して心臓の鼓動が大きくなっていくのが分かった。

「っく……!そろそろ、限界だ!!」
「ふえぁっ!はっ、いぃ!!私……もっ!くぅっ、そのまま!!」

青年が一気に一番奥へ突きたてると、堪え切れなくなった精液が一気に小さな膣に流れ込む。
それと同じタイミングでリティムも限界を迎え、身体をビクンとすくませた。

「うっ、ん……ああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

自身の身体の中の最奥に大量の精液が吐き出されたことにより、リティムも絶頂へと押し上げられる。
普段とは段違いに強い絶頂の快楽に身体を強く硬直し、頭はの中まで真っ白に染め上げられていく。
時より強い電撃が走ったかのように大きく身体を跳ねさせ、膣内の収縮を繰り返し、まるで未だ精を放ち続ける男根をさらに絞り上げるようだ。
それと同時に膣に収まりきらなかった精液が音を出して吹き出し、リティムの足をつたっていく。

絶頂のピークが過ぎても身体の痙攣は収まらず、全身を細かく震えが止まらないようだ。
ようやく余裕の出来たリティムは絶頂の余韻に浸りながら、呼吸を整えながらふと顔をあげると、同じ様に荒い息を繰り返す主と目が合い、どちらからとなく微笑みをこぼす。
リティムはお腹をさすりながら自身の中に吐き出されたものの熱を感じ、幸せそうな表情のまま目を閉じた―――



―――「そう!今日の私は気分がいい!!デラックスジャンボチョコレートパフェだって何だって買ってあげようじゃないか!」

数日後の学校帰り、青年がテンション高らかに入ったファミレス。
店の奥の窓際の座席に座りこみ、青年がメニューを開くと、机の上に降り立ったリティムが主の方へ向き直る。

「マ、ス、タ、ァ?あのですね、今回は、私が手伝ったおかげで何とか課題を終わらせて単位ギリギリで取れましたけど、だからって調子に乗らないでくださいよ!」
「あ、すいませーん、このやけにデカいパフェくださーい」
「コラッ!人の話を聞けぇっ!!」

青年はちらちらと周りを見渡すと、人が近くにいないことを確認して小声で話しだす。

「やー、ほら?もちろんリティムさんのお力もございますが、誰かさんが夜の営みにどっぷりハマっちゃったりしなかったら俺ももーすこし課題をする時間は取れたと思うんですよ?ほら結構体力も使うわけですし?」
「ぐっ……!それは……その……。で、でも私がいなかったらマスターなんか課題すらしないでしょう!」
「うーんどうだろうか。確かに千切れるかと思うまで耳を引っ張られて泣く泣くPCから離れるといったことは何度かあった気がするが……まぁ俺は追い込まれれば本気を出すタイプなので平気さ」

そういってスマートフォンを取りだす青年に何か言い返そうとするリティムだが、自分にも非があるのは認めざるを得ないので歯ぎしり以外の音を出すことが出来ない。
青年が無表情にスマートフォンをいじってると、やがてウェイトレスが注文した巨大パフェを持ってきて、このサイズを一人で食べるのだろうかと不思議そうな表情で戻って行った。
さっそくスプーンを取る青年だったが、何かを思い出したかのようにふとリティムの方に顔を向けると、なんてことないように言い放った。

「あ、そーだ。今度本気で妖精の国とやらに連れてってくれよ。お前の義理の家族にあって一言入れとかないと」
「ふぇ?一言って?」
「んー、とりあえず、下手なリャナンシー寄こしてくるよか俺はコイツで十分なんで、また次回をお楽しみに!って感じかなー」

コイツ、という言葉のタイミングでリティムの頭をスプーンの柄尻で軽く小突く。
リティムは顔を真っ赤にしながらもしばらく考えるように額に手を当てると、片目だけで主を見ながら答えた。

「まぁ……怒られて縁を切られようものならちゃんと拾ってくれるんですよね?」
「つーかもう飼ってるし。今さらなことだな。それにさー、リャナンシーどもになんか見せれるような小説でも書いて送っときゃーあんま怒られなかったりしないかなー」
「……怒られない程度のものが書けるのなら私も文句はないんですけどねぇ。はぁ」
「よーし、ならなんか書くぞー、頑張れ俺。超頑張れ。んまぁその前に、だな。腹が減っては戦が出来ぬ、目の前にあるこの糖分の塊を摂取しようではないか!そう!私の単位に乾杯!さぁ食うぞリティムよ!」
「……やれやれ、言ったからにはちゃんと書いてくださいよねマスター。まぁ、いただきます」

余談だが、この後、家についても青年は結局ネトゲしかやらず、リティムが頭を抱えることになったのは、まぁ言うまでもないだろう。
12/08/12 12:59更新 / 如月 玲央

■作者メッセージ
「みなさんこんにちは、如月 玲央です」
「玲央のアシスタントのリティム=フィリアラムです。早速ですがマスター、この話なんですか?」
「それについては謝罪を申し上げたいです。また何カ月も姿をくらませていました。連載物を書いてる途中だったので、長らく書いていなかったことは反省します。この作品はリハビリ用として落書き気分で書かせていただきました。普段あとがきでコントしてるフェアリーの物語でした。書いてて楽しかったです」
「あ、そっちなんですか?いやそれも重要ですけど。私が言いたいのはですね、分かりますよね?」
「……俺とリティムたんのいちゃらぶ物語が書きたかった」
「んな既成事実作るな!!いいですかそこのあなた!この物語はフィクションです!私とは関係ありません!」
「なんだよぉもーリティムたんったら照れちゃってー」
「ぐあー!黙れこの変態マスター!!!」
「やめて痛いよやめて!じ、次回はちゃんと連載の続き書きたいです!ではまたいつかお会いいたしましょうっ!」

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