読切小説
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お前への手紙
まず最初に。
今更こんな手紙を書いたことについて驚いているだろうから、書いておく。
これはなんてことないただの手紙だ。
ただ、先日会ったリャナンシー曰く、文字でこそ伝えられるものもあると聞いて書いてみようと思っただけの、な。
そういうわけだから、うん。
その、俺は不器用な竜騎士だから、騎竜のお前に伝えるにもこういう手を使うわけで、あの、な。
……うん。
いつも、ありがとうというか、世話になっているな。
俺は自分で自分を不器用といってしまうような、そんな卑怯な男だ。
そんな俺を奮い立たせ、一人前に自信ありげに振る舞わせてくれるのはいつもお前だ。
本当にありがとう、ラナ。
その翼が、威容が、優しさが、強さが。
あげればキリのない程数多くのお前が俺を支えてくれたし、支えてくれるから俺はこうして居られる。
そうだ、この手紙を書いていられるのだって、お前のおかげなんだ。
お前が居なければ、こういう風に書いてみようなんて思う事が出来てないわけだからな。
それで、だ。
…うむ。
書くことが無くなってしまったというか…何を書いたものかというか。
愛してるだの、大好きだの、そういう浮ついた事を、言葉を並べるというか書くというか、うん、変になってしまっっているな。
……言っている傍から、つ、が被ってしまっている。
どうにも難しいものだと、今更になって思っている。
思いを正直に書くものらしいのだが…
そうだな、とりあえず書き連ねてみるとするよ。
ありがとう、はもう言ったか。
折れそうなときに、その顔を、脚を、微笑みを見るだけで何とか体を起こす事が出来ているのだからな。
だから、もう言った事だろうと言わせて、書かせてもらった。
…また変になってしまっている。
普通に手紙を書いているだけだというのに、妙なものだ。
いや、普通に書いているというのも違うと言えば違うのだが。

まぁ、良い、続きを書く。
…思い切った事を、書いてみるが。
好きだ、愛している。
どこがと言われると困るのだが、それだけは確かだ。
あげてここが好きだと言える間柄は本当の云々というのを盾にしてみようかと卑怯な事を考えるのだがしかし、
あげられないというのも不安なので、あげてみることにする。
まずは、そうだな、容赦ない攻め、だろうか。
最初から下世話なのはまぁその、なんだ、許してくれ。
だが本当にこれは俺にとって大事なことなんだ。
俺だって攻めるのにやぶさかではないし、据え膳がお前からよこされれば食う覚悟もある。
いや、食う覚悟という時点で怪しいものではあるのだが。
ともあれ、お前が俺を強烈に求めてくれるのは本当に、嬉しいんだ。
俺を、俺だけを、猛烈に求めてくれているのだとそう感じられるからな。

うん。
まぁ、なんだ。
俺はその…自分でも思うくらいだ、寂しがり屋なんだろうと、思う。
だからお前が求めてくれると俺はとても、とても…満たされる。
俺だけを、特別扱いしてくれるというか、勿論それだけではないのだけど、本当に。
全身で覆い被さって、俺を抱き締めて。
好きだ、もっとお前が欲しい、と求めてくれるのが嬉しくて、たまらなく幸せなんだ。
…まぁ、これはこの辺りにしておく。
というのも、なんだその…お前に影響されたからなのか、その事を考えていると我慢が出来なくなりそうでな。
後は、そうだな。
やはりその翼だろうな。
あぁ、何も外見だけではないんだ。
強くて逞しい翼が俺を包んでくれるという外見の話も好きでない訳がないのだが、
今俺が思っているのは、外に現れる翼の事じゃないんだ。
俺が失敗したときも、成功したときも、悲しいときも、怒っているときも、笑っているときも、どんなときも。
そう、どんな時だろうと俺を優しく包んでくれるその心を、心の翼を好きなんだ。
甘えているだとか、格好悪いだとか、そう言われるかも知れない。
だがお前は、そう言われるかも知れないこの甘えを、何も言わずに受け止めてくれる。
それはきっとお前が、俺は時が経てば自分で正す事が出来る、反省できると俺のことを信じてくれるからなんだろうと思っている。
無論、勝手にお前のことを言うのは悪いし独りよがりでもあるのだが…
この際そんなことは置いておく。
それを言ってしまえばこの手紙は意味を成さなくなってしまうのでな。

…他にも、あったはずなのだが。
色々と、お前の事を、どこが好きだ何が好きだとひたすらに書き連ねられるつもりでいたのだが。
実際に書いてみると酷いものだ。
俺はこれくらいしか、この程度の稚拙な文でしかお前に伝えられないらしい。
いや、きっともっと時間をかければ、ダラダラと字を綴れば余すところ無くお前に伝えられるのだろうけども。
…お前は、ラナはあまり気が長くないだろう?
呼んでいる途中に眠くなってしまうか、高揚して俺の所に来てしまうのが目に見えるくらいだ、間違ってないと思う。
だからこれくらいにしておこうと思うよ。
…続きは…また、お前が書こうと思わせてくれればいつでも書く。
書かせようと、というよりは、書いて欲しいと言えばいつでも書くよ。
まぁお前のことだ、文よりも直接言って欲しいと言うのかも知れないが…





「…ふぅ。」
筆を置き、息を吐く。
…見直してみると、酷いものだ。
文は稚拙だし、読みにくいったらありはしない。
これは、渡せないな…






それから、少しして。

「…アーヴ、これは…」

結局見つかりはしたものの。

「いや、その、だな。」
「…」
「ラナ、その…」
「…まぁ、なんだ。」
「…ラナ?」
「ありがとうな、竜騎士様。」
「え、あ、あぁ…」
「…今度私からも、手紙を書くよ。」
「ラナ…いや、嬉しいが無理はしなくていいんだぞ?」
「…だって」
「だ、って?」
「口下手なりに書いてくれたんだ…嬉しくない訳ないだろう…?」
「…それなら、良かった。」
「うん…」
「あぁ…」


結果は上々、と言って良いようだ。

「あ。」
「うん?」
「その…私の手はこれだろう?」
「あぁ、それがどうしたんだ?」
「書くときに、だな。」
「…あ、あぁ。」
「一緒に…書いてくれると、嬉しいなぁ…なんて…はは…」
「…」

いや、上々ではあったが…どうにも返って来るものの大きい結果になったらしかった。
まぁ気分は上々どころではない良い心地なのだ、これくらいは甘んじて受けるとしよう。




16/06/13 00:50更新 / GARU

■作者メッセージ
どうもこうもありません、あらすじが全てです。

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