連載小説
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(35)ドリアード
とある闘技場のリングに、幾人もの客の姿があった。
石材のリングを囲み、声を上げている。
リングの上には、斧を手にしたミノタウロスと弓を構える男、そして観衆の目も気にせず抱き合うドリアードと男の四人がいた。
ドリアードの足下には大きな植木鉢があり、そこからドリアードは生えていた。
「へ!見せつけてくれるねえ・・・」
緊張のためかいくらかぎこちない男と、にこにことほほえむドリアードに向けて、ミノタウロスは言った。
「とっとと片づけて、控え室に引き上げるぞ」
「こんなんでご褒美がもらえるなんて、ちょっと申し訳ないけどねえ」
弓を手にいた男の言葉に、ミノタウロスは唇を舐めた。
そう、この闘技場は、武術に心得のある魔物と人間の夫婦が、絆を確かめ、深め合うための場だった。
勝てばご褒美、負けても反省会という、楽しい楽しい闘技場。
「ふふふ」
ミノタウロスと弓の男の夫婦をみながら、ドリアードは抱き寄せた配偶者の頭をなでた。
「始めっ!」
審判が声を上げると同時に、ミノタウロスがリングを蹴る。
斧を振りあげつつ、距離を詰める。彼女の巨体から放たれる重圧感は、見る者を思わず飛び退かせるほどの重みを備えていた。
だが、多少避けられたところで問題はない。むしろ、避けさせる方が彼女の狙いなのだから。
ミノタウロスの背後、先ほどと変わらぬ位置に立つ男は、弓に矢をつがえ引き絞っていた。
妻の背中の右か左。彼女の突貫を思わず避けた対戦者を、射るためだ。
鏃に塗ったホーネットの麻痺毒が効いて、片方がダウン。これがこの二人のこれまでの勝利のパターンだった。
だが、ドリアードは男を抱き寄せたまま、薄く微笑んでいるばかりだ。
ミノタウロスが見る見るうちに距離を詰め、ついに振り上げていた斧を振りおろす。
ドリアードと男に斧が迫る。だが、刃がドリアードにぶつかる遙か手前で、何かが斧とドリアードの額の間に飛び込んだ。
木の枝だ。
指ほどもない太さの木の枝が、ドリアードがしなだれかかるようにしている樹木から延びていた。
すると、細い木の枝にぽつぽつと小さな芽が生じ、そこから枝が新たに生える。細い、風が吹けば折れてしまいそうな弱々しい枝は、見る見るうちに太さを増し、新たな芽をその表面に生じさせた。
芽吹き、延び、互いに絡み合って一体となりながら成長する。
そして、斧が翳された枝に届く頃には、既にそこには横倒しになった樹木のごとき幹があった。
鋼の刃が樹皮を突き破り、幾重にも折り重なって構成された幹を割っていく。普段ならば、ちょっとした木材も真っ二つにするミノタウロスの一撃だったが、切断されながらも枝を伸ばし、太く、堅くなっていく木材の前には、刃を止めざるを得なかった。
「く・・・!?」
ついに斧の刃が幹に食い込んだままビクとも動かなくなる。
引き抜こうにも、割られたばかりの断面から新たな木の芽が生じ、傷口を塞いでいく。
「離れろ!」
弓をつがえた男の声に、ミノタウロスは斧を捨てて飛び退いた。
すると、横倒しになった樹木の向こうで、ドリアードが一瞬ほほえみ、その姿を枝葉の向こうに隠した。
いや、隠れてしまったのだ。際限なく芽吹き、成長し続けるドリアードの樹木が、彼女の女体と夫の体を飲み込んだのだ。
枝が蔓のように延び、二人の姿はおろか、自身が植えてある植木鉢さえも包み込み、さらに成長していく。
ミノタウロスは無論、弓を構えていた男さえもが、巨大化していく樹木を見上げていた。
そして、幾重にも折り重なった枝と蔓の塊から極太の幹が二本生じ、石のリングを広がった枝でとらえ、立ち上がった。
遅れて蔓が互いに絡み合いながら二本の幹を構成し、塊の左右に垂れ下がる。
数秒後、そこには樹木でできた巨人が立っていた。
「・・・・・・・・・!」
巨人が蔓の塊を掲げて、声なき叫びを上げた。
威嚇するようなその様子に、男は思わず引き絞っていた矢を、巨人に向けて放った。
矢がまっすぐに飛び、巨人の喉のあたりに突き刺さる。しかし、ホーネットの麻痺毒といえども、樹木の塊に効果はないらしく、巨人は平然と立っていた。
「う、う・・・うぉぉぉおおお!」
夫の攻撃が効かなかったことに、ミノタウロスが声を上げて突進した。
夫の次の一撃の時間を稼ぐための、捨て身の一撃だ。
だが、彼女の体が巨人の足にぶつかる直前、両足を構成する極太の幹から枝が生じ、ミノタウロスの体を受け止めた。
「は、放せ・・・!」
ミノタウロスが声を上げるが、枝と蔓はしゅるしゅると彼女の体にまとわりつき、彼女を拘束していった。
そして、ミノタウロスの動きを完全に封じたところで、巨人が弓を手にした男の方を見た。
「・・・・・・降参だ・・・」
引き絞ろうとしていた弓をゆるめ、矢ごとリングの上に置き、彼は小さく両手を掲げた。



石のリングの上で、樹木の巨人が跡形もなく枯れた後、その中心核にいたドリアードと彼女の夫は、控え室に移動した。
試合後の火照った体を休ませるため、控え室にはしばらく滞在が認められている。
しかしバカ正直に、火照りを冷まして帰る者など、この時代、この闘技場にはいなかった。
「ん・・・んむ・・・んぁ・・・」
男の体を抱き寄せ、貪るように彼の唇を吸いながら、ドリアードが声を漏らす。
男も負けじと舌を絡め、唇を吸うが、ドリアードの勢いに押されていた。
無理もない。枝葉を大量に生じさせ、自身を包み込んで武装するあの大技は膨大な魔力を消費するのだ。そして消費した魔力は精で補われるため、彼女の肉体は夫を求めて燃え上がるのだ。
「ん・・・んぁ・・・む・・・」
ちゅぷ、ちゅぱと、濡れた音を立てながらドリアードは男の唇を吸いたて、舌に付いたわずかな唾液を飲んだ。
彼女の喉を、夫の甘い唾液が流れ落ちていくが、それだけでは足りない。
彼女とともに植木鉢から生える樹木が、いくつか芽を出し、しゅるしゅると枝を伸ばした。
柔らかな若葉となめらかな樹皮に覆われた枝は、男の体をそっと抱き上げ、浮かべた。
「あ・・・」
唇が自然と離れ、男の口から声が漏れる。
「うふふ・・・こんなにして・・・」
枝葉によって、男の体が宙に持ち上げられたことで、ドリアードの目の前に彼の股間が晒される。
彼のそこは、ドリアードが無意識の内に放っていた甘い香りによるものか、それとも期待によるものか固く、大きく屹立していた。
「れろ・・・」
ドリアードは舌を出し、男を見上げながら屹立を舐め上げた。
唾液に濡れた肉は、膨れた裏筋をなぞり上げ、その艶めかしい姿とともに男を快感と興奮で震わせた。
「んろ・・・れろ・・・んむ・・・」
二度、三度、とほのかな塩味のする肉棒を舐めると、彼女はついに肉棒を口に含んだ。
「ああ、柔らかい・・・!」
男の口から、絞り出すような声が漏れた。
清らかな顔立ちをしたドリアードが、艶めかしく自身の肉棒を舐め上げ、口に咥えているのだ。
夫婦となってからそれなりに経つが、彼女の清楚な外見と娼婦のごとき二人きりの時の振る舞いの段差は、未だに男の心を揺るがし、興奮させていた。
「ん・・・ん・・・ん・・・」
肉棒を咥えたまま舌を絡め、軽く頭を前後に揺する。
屹立を舌が緩く閉め上げ、唇が竿を擦る感触は、男に耐えがたい快感をもたらした。
だが、身悶えしようにも彼の四肢は柔らかな枝葉に包み込まれており、甘い快感から気を散らす方法はなかった。
やがて、男の胸の奥で心臓が脈打ち、それに併せて肉棒が小さく震え出す。
「ん?んぁ・・・ぷはっ」
射精の予兆に、ドリアードは口を開いて、肉棒を解放した。唾液にまみれた屹立が、控え室の照明を照り返しながらぴくぴくと震える。
「あぁ・・・」
「ふふ、ごめんなさいね・・・でも、ご褒美はここにほしいの・・・」
そういいながら、ドリアードは植木鉢に植えられた自身の足を開き、両足の付け根に指を差し入れ、軽くかき回した。
すると、そこから濡れた音が響き、甘い香りが室内に立ちこめた。
「あぁ・・・」
立ち上る甘い香りに、男がうっとりと声を漏らし、肉棒がひときわ大きく震える。
しかしその先端から白濁は噴き出ず、むしろ精液を放つ場所を要求しているように見えた。
「ふふ、我慢できないのね・・・私もよ・・・」
足を開いたまま女陰をかき回し、彼女は屹立に向けてそう語りかけた。
すると、男を包む枝葉が動き、少しだけ彼の位置を下げた。
ちょうど唇を重ねていたときと同じくらい、男とドリアードの高さが同じぐらいになる位置にだ。
二人は向かい合ったまま、熱のこもった瞳で互いの体をじっくりと見た。
両足を植木鉢の土に埋め、節くれ立った樹木に寄り添うようにしてた津ドリアード。彼女の柔らかな肉体は、興奮によって肌が微かに赤みを帯び、柔らかな乳房の先端では乳頭が突出していた。
ドリアードの伸ばした枝に全身を絡めとられた男。細身ではあるものの、確かに男を感じさせる体つきをした彼の股間では、唾液に濡れた肉棒がひくつき、まっすぐにドリアードの女陰を指していた。
二人の視線が互いの体を這い回り、触れることなく愛撫する。
見られている。その認識だけで、二人の興奮は燃え上がった。
「来て・・・」
ドリアードがそう漏らすと同時に、枝が動いて男の体を近づけた。
彼女は接近する彼に腕を伸ばし、抱き寄せる。
同時に、そそり立つ屹立が、広げられた女陰へと導かれ、ゆっくりと沈み込んでいった。
「ん・・・」
胎内を押し広げる肉の感触に、ドリアードは声を漏らした。
木の枝をそういう形にしたり、蔓を巻いて似せようとしても、絶対に再現できない熱と弾力。
その二つは、彼女の膣内を心地よく炙り、彼女の膣壁の締め付けを程良く受け止めてくれた。
一方男もまた、肉棒を包み込む快感に体を震わせていた。
柔らかな蔦を巻き付けたり、自身の手では得られることのない、ぬめりと温もりと柔らかさ。
興奮に濡れた女陰は、男に心地よい温もりを与えながら、肉棒をきつく、しかしけっして苦痛にならぬ程度に締め付けていた。
ドリアードの呼吸にあわせて、彼女の女陰が小さく動き、男は彼女のもたらす快感に屹立の脈動を大きくした。
「んぁ・・・あぁ・・・」
ドリアードは、男を抱き寄せたまま小さくのけぞり、乳房を彼の胸板に押し当てた。
柔らかな二つの肉の球体は、男の胸板の上で押しつぶされ、柔らかさとひんやりした感触を与えた。
やがて、二人はそれでも物足りなくなり、自然と互いの唇を重ね合わせた。
ドリアードの唇が、腰をとろかすような快感に弛緩した男の口に吸い付く。
男の舌がドリアードの口に押し入り、口蓋をそっと舐め上げる。
上と下の敏感な粘膜を、互いに刺激しあいながら、二人は徐々に燃え上がっていった。
男の鼓動が早くなり、ドリアードの女陰の蠢きがなめらかになっていく。
そして、ドリアードの足が男の足に絡み付き、彼女の爪が思わず男の背中に突き立つ。
ドリアードの決して逃さないという無意識の現れに、男の興奮は頂点に達した。
彼の中で燃え上がっていた興奮が、炎のごとき熱を帯びた精液の形で、肉棒から噴出する。
どろどろとした、下手すれば摘めるほどの固さを備えた精液が、ドリアードの胎内を蹂躙する。
「・・・!」
男と唇を重ねたまま、眉間に皺を寄せ、苦悶めいた表情で彼女は男の射精を受け止めた。
胎の奥を熱する粘液は、彼女の身を焼くようだった。仮にこの精液が胎内ではなく、彼女の体に浴びせられていたら、ドリアードは燃え上がっていたかもしれない。
やがて、熱く力強い男の射精は次第に勢いを緩め、ついに止まった。
唇を重ねたまま、鼻で二人は荒く呼吸を重ね、絶頂の余韻に身を浸す。
そして、体の火照りが程良く収まったところで、ドリアードは唇を離した。
「気持ち・・・よかったわ・・・」
熱の残る口調で、彼女はそういうとにっこりとほほえみ、枝を操って男を離した。
膣壁が男の肉棒をにゅるにゅると擦りながら引き抜かれ、男は小さく身を震わせた。
だが、枝は男の体を解放するわけでもなく、彼女の背後へと男を運んだ。
「今度は、後ろからお願い・・・」
すらりとした背中の下、丸みを帯びた臀部を突き出すように上半身を屈めながら、ドリアードは肩越しに男に求めた。
すると、彼女の両足の付け根に刻まれた亀裂から、白濁した粘液がどろりと溢れだした。
淫猥なその様に、男は肉棒が固さを取り戻すのを感じていた。
12/09/12 17:02更新 / 十二屋月蝕
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■作者メッセージ
図鑑世界における闘技場は単純な格闘や戦闘を見せるための場ではなく、強い男を求める魔物の婚活会場だとか、夫婦の絆を深めるためのレクリエーション会場になってると思うんですよ。
ドラゴンとかリザードマンは、強い男を求めて闘技場へ。
リザードマンカップルも、出会ったあの日のことを思い出しつつ闘技場へ。
場合によっては今回の話のように、夫婦二組でのタッグ戦もありではないのでしょうか。

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