読切小説
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Sleeping sheep ? 〜 眠れる羊を起こすな 〜
半年前、俺は羊を拾ってきた
羊といってもただの羊ではない
ワーシープだ
なぜか大きめのみかん箱に入って
その箱の側面には「拾ってください」の文字があった
怪しいことこの上ない
見れば眠そうな目を擦りながら羊は俺を見上げている
「・・・  (にへら)」
柔らかな微笑が疲れた心に癒しをくれた
…そうだ
ワーシープの毛皮は高く売れる
才能もないが金のために冒険者なんて危ない仕事をしていた俺は
これはちょうどいい機会だ
そう思った
だからそいつを連れて帰り、飼育することにした
それが…なんでこんなことに?




「おらぁ!素振り100回だっつってんだろぉがぁ!まだ92回だぞ?あぁん?何サボろうとしてやがんだぁ!?」

背後からミノタウロスのようなドスの利いた声が飛んでくる

「は、はい!先生!」

――ブォン…ブォン…

俺は自分の身体に合ってない重い大剣を言われるままに振り続けた

「99…よし!100っ!お疲れぇ!1分休憩してよし!」
「えぇ〜!?1分だけぇ!?」
「あぁん?休憩もいらねぇってか?ほほぉ…。よし!次は袈裟掛けに100回だ!構えっ!
「ひぃぃ!!」

俺は睨まれ、言われるままに剣を構えた

――ホロ

あれ?おかしいな?…どうして目から水がこぼれるんだろう?
もふもふワーシープと夢の酪農生活を始めたはずなのになぁ?
あれ?どうして俺は大剣なんか握って、手に血豆を作りながら素振りしてるんだ?

「おい!涙なんか流してもノルマは減らねぇぞ?あぁん?いいから振れぇっ!
「は、はいぃ!!」

俺は涙を流し、手の平の血豆が潰れる痛みに耐えながら大剣を振った
なんで…なんでこんなことに…
なんで?なんでワーシープがあんな…

「あんなに怖いんだよぉぉぉ!!!」
「誰が怖いだとぉ!?!?オラァ!下段100も追加だぁ!」
「ひぃぃ!!」









? sleeping sheep ?  〜 眠れる羊を起こすな 〜  ?









「あぁ…痛い、痛いよう…」

俺は火傷した様に痛む両掌を水の入った桶に浸けながら涙を流した

何度も言うが、どうしてこんなことになったのだろう?

事の始まりは羊を拾ってしばらくした春
彼女の毛皮を刈り取った時だった
初めてだったので、知り合いの農家の親父に手伝ってもらいながらの作業だった

「いいか?ルート。羊の毛を刈るときは愛しい女のまんこに触れるようにだな…」

親父はセクハラ紛いの発言を連発しながら毛を刈って見せてくれていた気がする
しかし、その手ほどきは見事なもので、俺も剃り跡一つ残さず綺麗に彼女の毛を刈れた
そして、市場に行って毛皮を売り
その驚きの額に目を丸くしたのは懐かしい思い出だ
しかし
大金を懐に入れ、冒険者時代の貯金で建てた小屋に戻った時から悲劇は始まった



「ただいまぁ」

俺が小屋に入るなり、かわいい羊は俺の傍に駆け寄り、眠そうな顔に笑みを浮かべ
いつものように すりすり と俺にその柔らかな肌を擦りつける
…はずだった

しかし、現実は違った

「よぉ。どうだ?オレの毛はいくらで売れた?大層な金になったか?」

そこに在ったのは
木製の簡素な椅子に
まるで玉座に鎮座する魔王のように腰掛け
葉巻でも咥えながら部下の失態を含みのある笑顔で迎えるファミリーの首領
の様な風情を漂わせる豊満な身体つきをした変わり果てた羊の姿だった

「あ、あれ?…あはは。俺ったら帰る家を間違えたか?」

俺は慌てて扉を閉め小屋の外を見渡した
酪農地が広がるのどかな風景が広がっていた
少なくともウォール街のマフィアのドンが居る様な場所には見えない

「あれ?おかしいな…。ここで間違いないはずなんだけど…」

俺は首をかしげた



「ただいまぁ〜」

俺が部屋に入るなり、かわいい羊は……

「よぉ。どうだった?家は間違ってなかったか?」

まるで今から笑顔で出来の悪い部下の脳天をトカレフで撃ち抜こうとするボス
の様な風情を漂わせ
肉付きのいい太ももを組んでこちらを見下すように見ていた

「あ、あれ?…あはは。おかしいなぁ…。すみません。この辺に僕の羊はいませんでしたか?もふもふしてふわふわしたのなんですけど?」

自分でもおかしな質問だった
しかし、そうとしか言えなかった
だってお前…
確かに似てるよ?ふわふわのウェ〜ビ〜な真珠色の髪に巻角
それに少し日に焼けた麦わら色の肌に大きなおっぱい
それに俺がいっぱいご飯を上げたせいでほんの少〜しぽっちゃりした肉付きのいい身体
でもお前…
これは別人でしょ?
だってさ
確かにうちの羊はちょっと釣り目気味だったけど三角の目なんかしてなかったもん
あんな瞳孔開いて今にも襲いかかってきそうな瞳じゃなかったもん
それにあの口、見てみろよ?
確かに笑ってるぜ?でもお前…
あれ、笑ってるっつうより嘲笑ってるって言った方がしっくりくるぜ?
しかもお前…
なんか刈り取ったはずの毛皮がまた生えてるぜ?
と思ったらなんか黒いオーラだったぜ?
アレぜってぇあれだよ
触れたら魂とか吸い取られるぜ?
なんか全体的にワイルドだろぉ?
ん?ああ。そうか
俺こんな魔物知ってる
冒険者だったしな
あれだよ
ワー は ワー でもあれだよ
ワーウルフだ
そうか
この人はうちの羊によく似たワーウルフだ
ん?
オオカミが羊の居た小屋に1匹?
そして羊が…
なっ!!

「俺の羊をどこにやった!!!お前が食ったのか!!!!」

俺は頭に上った血液の激流に呑まれるまま怒りを露わにした
瞬間

――ズビシっ!

「あうっ…ぁぅ…ぁぅ…」←エコー

俺は左の頬に恐ろしい衝撃を受け、小屋の壁に頭から突っ込んだ

「知らねぇな…。ここには最初からオレ一人しかいなかったぜ?ところでよぉ、ご主人サマぁ?オレは久しぶりに毛皮の呪いからも解放されて気分がいいんだ。どぉだ?オレとイッパツ。キメちまわねぇか?

「き、ききき、キメるって何をですかぁっ!?酒?薬!?鉛玉!?!?(裏返り声)」

自分でも驚きの情けなボイスだった
で、でもお前、リアルにこんな怖い人から言われたらこんなんなるぜ?
なんか頭から血が垂れてる気がするけど
そんな事よりも一瞬でも早く逃げ出したい

「んなもん交尾に決まってんだろ?セックスだセックス」
「あ、あはははは。わ、分かりました。えっと、どんな男娼がいいですか?すぐに街に行って呼んできます」

もちろんそのまま逃げる気だった

「あぁん?何ワケ分かんねぇこと言ってんだぁ?馬鹿か?オレはおめぇとヤりてぇんだよ」
「え?」

おめぇとやりてぇ?
ああ
そうか
おめぇを殺りてぇ   か

……え?

「いやだぁぁぁぁぁぁ!まだ死にたくないぃぃ!!お、俺には夢があるんだぁぁ!」
「あぁん?夢だぁ?」
「そ、そうだ!えっと…えぇ〜っと…そ、そうだ!俺は冒険者として立派になりたいんだ!強い冒険者になりたいんだ!」

もちろん口から出まかせだった
しかし

「チッ…。なんだよ…。そういう事かよ…」
「え?」
「そういう事なら早く言いやがれよ。全く。ご主人サマ…夢を捨ててまでオレを拾ってくれたのかよ…

羊、かつてそう呼ばれていたはずの何かが聞き取れない声で何か言った気がした

「分かったよ。オレがご主人サマの夢、叶えてやるよ!」
「え?」




そして、それから地獄の日々が始まった
彼女は俺の金(主に彼女の毛皮の売り上げ金)を持ってどこかへ行くと
大きく重い大剣と、仕立てのいい防具、そして訓練用の器具をいくつか仕入れてきた
もちろん全ては俺をシゴき上げるための道具だった
ある時は口の中がカラカラになり唇がくっついて開かなくなるまで走らされ
ある時は二度と起き上がれなくなるんじゃないかというほどに腹筋背筋腕立てをやらされ
またある時は手の平が血まみれになるまで重い大剣を振らされた

最早あの春までの短くも暖かかった羊との幸せな日々は帰ってこなかった…


…そうして半年が過ぎた




「…1999…2000!…ふぅ…。先生っ!午前の基礎メニュー終わりました!」

俺はかつて一日がかりでもできなかったようなトレーニングを半日でこなせるほどになっていた

「よっし!じゃあ今日はあの山の向こうまでランニングだぁ!」
「はい!」
「いい返事だ。おらぁ!行くぞぉ!」
「はい!」

先生はいつも俺と一緒に走ってくれる
だから俺も頑張れる!
初めの頃はあれほど怖かった先生の言葉が
今は全て俺のための言葉なんだって理解できる
それに…





――ミノタウロスが現れた

「ん?なんだぁ?お前らアタシの目の前に現れるとはいい度胸じゃねぇか!アタシが“褐色の弾丸”と呼ばれ恐れられているのを知っての…」
「邪魔だぁ!」
「え?…わきゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」

――ミノタウロスを倒した
――ルートは5627の経験値を得た
――ルートはレベル72に上がった


「脇の締めが甘ぇぞ!そんなパンチじゃあドラゴンは倒せねぇぞ!?」
「はい!すみません!」

今の俺はミノタウロス程度なら武器がなくても一撃で倒せるほど強くなった
でも、まだまだ先生には敵わない
組手でも一度もまともにパンチを入れられたことがない
先生はすごい!
俺も早く先生ぐらい…ん?


あれ?
おかしいなぁ
先生、あれ
ワーシープじゃなかったっけ?
あれ?最初は俺の羊で…あれ?
……いや
先生は先生だ
俺の大好きな先生だ!

そう
俺は先生と一緒に修行するうちに、どうしようもなく先生に魅かれていった




「おらぁ!どうしたぁ!?もうそれで終わりかぁ?」
「まだまだぁ!」

――ぶぉん!

俺の大剣の攻撃は先生にかすりもしない
全て紙一重で避けられ

――ズビシっ!

「ぐっ…」
「オラァ!5発目だ!どうだ?もう終わりにするかぁ?」

横腹に入った拳はアバラを抜けて内臓に響いた
でも、俺はまだ立ち上がる

「よし!いい根性だ!もっと本気でぶつかってきやがれぇ!」
「はいっ!」
「オレの動きをよく見ろ!お前なら当てられる!」
「はいっ!」

そうだ
先生の動きをよく見ろ
今まで何回、何十回、何百回と見てきた動きだ
初撃の上段からの斬り下しを先生は右に躱す
そしてそこから左のジャブ
俺はそれを大剣で防ぎ
ここだ
俺は大剣で先生の視界を塞ぎながら足払いを掛ける

「甘ぇ!」

しかし躱される
まだだ、ここまでは予想通り
ステップで飛びのいた先生の横腹に大剣を薙ぎ
これも躱される
しかし、
その大剣の反動を利用して回し蹴りを入れる!

「ぐっ!」

先生が避けきれずに腕でガードした

「やった…。当たった?」
「……ふ。流石だぜ、ご主人サマ。オレに一撃入れるとは……強くなったな」

――ぽふ

先生が頭を撫でてくれた
汗ばんだ俺の髪を先生の優しい手が撫でてくれる

――じん

心がざわめいた
目に力を入れる
たまらなく嬉しかった
やっと、褒めてもらえた

「せんせぇぇぇ!」
「わっ!?ちょっと、どうしたんだ!?」

俺は大剣を捨てて先生に抱き着いた
先生と俺の汗ばんだ身体が密着した
先生から甘い匂いがした

――くら

軽くめまいがする

「なんだ?たった一回褒めてやっただけだってのに、そんなに嬉しかったのか?」
「はい…はいっ!」
「まったく…仕方のねぇやつだ…」

そう言って、先生も俺に腕を回してくれた

「良くここまで頑張ったな。今日のオレはドラゴンレベルの動きで組手してやってたんだぞ?」
「え!?」

この驚きは先生がさらっと「ドラゴンレベル」の動きができた事に対する驚きではない
もう今更先生の事で驚きはしない
俺が驚いたのは
俺自身がその動きについて行けるまでに成長したという喜びに対してだった

「もうひと頑張りだな。そしたら、一緒に旅に出よう」
「……」

一瞬、言葉に詰まった
嬉しかった
先生に認められたんだ
俺は…

「はいっ!お願いします!」

返事を返した


あれ?俺、なんでまた冒険者に戻ろうとしてるんだ?
おかしいな…冒険者に疲れて酪農を始めた気が…

しかし
目の前で先生の力強い瞳が揺れる
黒スパッツとピチピチウェアからはち切れそうな先生の身体が俺に押しつけれれる
ニヘ…

ごほん

そうだな
せっかく修行して強くなったんだ
先生と2人で広い世界に出て腕を試すのは当たり前の事だ
先生と二人ならなんだって出来るぜ!

「…なぁ、ご主人サマ?」
「なんですか?先生」

先生は優しい瞳で俺を見つめてきた

「えっと…よ…。その…。ご褒美、やんねぇと…な」
「え?」

顔を赤くして少しもじもじしながら

「もぉ、鈍い奴だなぁ…」

――ガバッ

「ぅわっ!?」

先生が草場の上に寝転がる
抱き合ったままの俺も当然一緒に引っ張られて
俺が先生を押し倒すような体勢になった

「え?先生…これって…」
「ご主人サマの汗の匂い…。もう、我慢できねぇんだよ…」

そう言って
先生は目を閉じると
再びカッと目を見開いた
そこには六芒星の魔法陣が浮かび上がっていて
それが先生と俺の居るあたりの空中に投影される
そして、その魔法陣は大きく広がると

――ボワン…

あたりに結界が張られた

「これで誰にも見られねぇからよ…。ご主人サマ…」

綺麗な瞳を閉じて
ぷるぷるの唇を俺に
かわいい
こんな先生
反則だ

「先生…」

――ちゅ

やわらかい
ふわふわで
あたたかい
あまい
まだ羊だったころの先生の毛皮よりも柔らかい
それに

――とく とく

先生の鼓動を感じる

「はぁ……ご主人サマぁ…」

離れた唇に少しの寂しさを感じていると
先生が涙ぐんだ瞳で俺を見上げてくる

「せんせ…」
「……オレのことは…」
「ん?」
「ううん…。ご主人サマ。オレに……名前を付けて…。そして、オレを本当にご主人サマのモノにして…」

――ドフッ!

胸の奥に強烈なパンチを受けたような衝撃だった
俺が理性的な紳士じゃなかったら先生を押し倒してるところだ
あ。もう押し倒してた…
葛藤

「ご主人サマ…」

誘惑

「…えっと…じゃ、じゃあ。“パイン”…」
「パイン…。うん。パイン。嬉しい…嬉しいよ。ご主人サマぁっ!」

可愛い先生
ギュって自分の胸に手を当てて
新しい名前を自分になじませるみたいに
そして
嬉しそうに涙の溜まった瞳で笑って
俺にぎゅうって抱き着いて

「ご主人サマぁ〜」
「パイン…。かわいい…」

すりすり
パインが俺に柔らかな身体を摺り寄せてくる
懐かしい感覚
パインの甘い香りが広がる

「パイン…」
「ご主人サマ…」

二人
どちらからともなく
再び唇を

「ん…」

今度は長く
パインの舌が入ってくる
甘い蜜がたっぷりと絡みついて

――くら

頭がぐらついて
かわいい
好きだ

俺は我慢が出来なくなってくる

――ちゅ

長いキスの後

――くす

パインのダークグリーンの瞳が不敵に笑って

「ねぇ、ご主人サマぁ」

パインは四つん這いになって
ふわふわのしっぽの生えた大きなお尻をこちらに向けてきた
黒く薄手のスパッツの下のはち切れそうなお肉が俺を誘惑する

「オレを…オレの事…食べてくれよ…」

言葉
視線
肉体

パインが俺を誘惑する

「ねぇ〜え」

パインがお尻を落として
ほっぺを真っ赤にしながら
むっちりとした太ももを開いて見せた
ぴったりとパインの肌に密着したスパッツ
待て、落ち着け
冷静に考えろ
こんなおいしい状況……あってもいいのか?…

――脳内会議開始!

アリ

――脳内会議終了!(その間僅か0.1秒)

「いただきまぁ〜〜っす!!」
「ひゃぁん♪」

パインがかわいい声を上げる
俺はパインを再び押し倒して
その黒スパッツの中心のむっちりとしたふくらみにかぶりついていた

「ん…ご主人サマ、はげし…んっ!」
「パイン〜。パインのここ、甘い匂いがするよ」
「あ、汗臭く…ねぇか?」
「そんなことない。とってもいい匂いだよ」

体臭を気にするパイン
まるで女の子みたいだ
あ、女の子だった
普段の凛々しくて厳しいパインとは結びつかない
とっても女の子でかわいいパイン

――ピリ

スパッツの膨らみを隠す薄い布を破く

「や…」

ほっぺをリンゴみたいにしてパインが手で顔を覆った
かわいい

黒い生地の中から、真っ白な肌
そして、真っ赤に充血したもう一つの唇
よだれを垂らして
すごくえっちだ

「あ、あんまり見るなよぉ…」
「やだ」

俺は意地悪に笑った
パインは自分で誘ったくせに、とっても恥ずかしそうにしてる
そんな仕草、言葉が全部可愛い

「あむ…」
「んひゃ」

パインのそこはとっても柔らかくて
舐めると融けていきそうだった
でも

――ぴちゃぴちゃ

「ん、ふぅぅ!…やぁ…ご主人サマぁ…」

パインが喜ぶ声が聞こえる
だから
俺はパインの弱いところを舐め続ける

「あぁん…きもちぃ…」

あんなに強いパインが俺にこれ以上ない弱みを見せてる
弱くて儚い声

「ご主人サマぁ…」

切ない声

――じゅじゅじゅ

「んひぃぃぃ!」

ビクって
パインが跳ねて
俺はそれも構わずパインを攻める

「あふぅ…やっ…ご主人サマぁ〜〜」

パインの声が切羽詰ったものになってくる
俺は内心ほくそ笑んで

――カリ

「んやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

――プシャ
――ビクンビクン

顔に飛沫が掛かった
くらくらするほど甘い匂い
俺はパインの身体から身を離すと
ぐったりとしたパインの上にまたがった

「あひぃ〜。ご主人サマぁ〜」
「パイン。かわいい」

普段はあんなに強気なパインが
まるでほんの弱い少女のように
熱病に犯されてしまった子供のように
汗ばんで息の上がった身体
それを見下ろして
俺の中でむくむくとイケナイ感情が芽生える

「パイン。お前のせいだぞ?」
「ふぇ?」

不思議そうに顔を向けるパイン
そこに

――ズル

俺はズボンをずらした

「っ……」

パインが息をのむ

「こんなになちゃったじゃないか…」
「ご、ごめんなさい…。今、今鎮めるから…」

弱弱しく震える声
でも、その瞳はギラギラと輝いて
真っ白な細い指で俺を掴んで
パインがすごくエッチな顔で

「あむぅ…」
「ん…」

熱い
パインのよだれでぬめる口の中

――じゅじゅ

「んくっ…」

危うく飛びそうになる
まだ軽く吸われただけだっていうのに
たまらなく気持ちいい

「ん…むぅ…じゅじゅ…ちゅぱ…」

パインの口の中が俺を飲み込む様に蠢いて

「ん…んんっ」

俺はいつの間にか、パインの頭を両手で掴んで腰を動かしていた

「んっ…んふぅっ!」

少し苦しそうなパインの声が漏れる
でもその瞳は俺を見上げて
くそ
俺が追い詰められていくのを観察しているみたいに

「パイン…パインんっ!」
「んむぅぅっ!――」

――ビュクン
――どぷっ

俺は我慢できずに吐き出した

「じゅじゅじゅっ!こく…んく…」

パインはそれを飲み干していく
そして、飲み込むごとに身体が軽く跳ねる

「ぷはぁ…」

パインが口を離すと
俺はぐったりと仰向けに倒れた
やっぱり敵わない…

「ご主人サマの…じゅる…濃くておいしい…」

パインが口の周りについた精液もおいしそうに舐めとった
ああ
やっぱりこの人は魔物だ

「なぁ…ご主人サマ。いいのかぁ?そんなところで伸びてて…」

パインが挑発的に見下ろしてくる
でも、俺は全身から力が抜けてしまったみたいだ

「ふふ。じゃあ、遠慮なく、いただくぜ?」

パインの笑み
肉食獣の目
きっと食われる羊は俺だ

――じゅぷ

「んあっ!…」

パインのよだれと精液でどろどろの俺がパインに飲み込まれていく

「んはぁ〜」

パインは心底気持ちよさそうに俺を下の口で銜え込んだ
そして

――ぶ

そんな感覚がして

「んっ…」

一瞬、パインが顔を歪めた

「パイン…」
「ああ〜…ご主人サマに…初めてを貰ってもらえた…」

満たされた様な
陶酔した様な言葉
それは俺に言ったわけではなく
パインはつぶやいた

――くちゅ

パインの柔らかなお尻が俺の身体まで下りてきて
俺の全部がパインに飲み込まれた

「うごく…ね?」

とろんとした目で
パインが言ってくる
俺は黙ってうなずいた

――じゅじゅ

「んはぁっ♪」

パインの腰が浮き
それと同時にきゅっきゅとパインの膣内が締まる

――じゅむ
――ぬっぷ

パインがゆっくりと
そして少しずつ早く
腰を上下させるごとに

「んあっ…いい…ご主人サマ…んあぁ!」

声が大きくなっていく

――きゅむ
――にゅぷ

「んうっ…」

パインが俺を締め付けて
俺は絞り出されていくような感覚に陥る
いや、実際に絞り出されようとしている

――じゅぶじゅぶ

「あぁん!…ひゃはぁぁ!」

――ペチンペチン

パインのお尻のお肉が俺に打ち付けられて音を立てる
一心不乱に腰を振るパイン
すごくえっちで
でも
そんなパインを見ている余裕もなくなってくる
お腹の奥から
そこへ向かって俺の全てが集まっていく

「あぁっ!パイン…俺…もう…」
「んっ…んんっ………あはぁ…いいよ…だしてぇぇ!…」

――パチン

一気に奥まで突き刺さり、
そこから

――じゅじゅじゅじゅ〜

先っちょまで絞り上げられて

――ぎゅぬっ!

「っ!」

パインの中が俺を絡め取る様に締め付け
そして

「あぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「んひゃぁぁぁ!!」

パインの高い声と
俺の断末魔が重なる

あ、死んだかも…



それが、俺の最後の感覚だった…












まぁ、生きてるんだけどね



俺は一瞬なのか、何十秒なのか
気を失っていた
俺の上にはパインの柔らかな身体が力なくのしかかっていた

「パイン…」
「ごひゅじんしゃまぁ〜」

とろけた声
俺はそれが愛おしくて抱きしめた
細くて柔らかいパインの身体

――ドクンドクン

脈打つように熱くて

――とく…とく…

それがゆっくりと収まってくる

「ふみゅ〜…」

ふわふわの髪の毛を俺の胸に擦りつけるように
パインが頭をすりすりと
俺はそれを抱きしめて
頬をパインの髪の毛に埋もれさせた
パインの少し汗ばみながらもふわふわ感を失わない髪からはミルクのような甘い匂いがした
愛おしい
ずっとこうしていたい
パインを俺のモノにしたい
ううん
パインは俺のモノになってくれるといった
俺の中でパインの存在が変わっていく
俺の羊でも
俺の先生でもない
俺のパインに
変わっていく
と…

――ざわ…

「え?」

それは突然だった
触れ合った肌の間に
身体をくすぐるような感覚が芽生える
俺は慌てて身体を見た
しかし異変が起きていたのは俺の身体ではなかった

――さぁ…
――ふぁさ

パインの身体から、真珠色の体毛が見る見る間に生え始めて
拾った頃の様な
いや、それ以上の範囲を覆っていく

「なんだ?これ…」

俺が驚いていると

「あぁ…ごしゅじんさまぁ…ごめん…おれぇ…」

パインから弱弱しい声が聞こえた

「パイン…これ…」
「もう…おれぇ…いっしょに…ぼうけん、いけない…ごめんな……あいしてる…」

なんだって?
それはどういう事だ!?

「パイン!それ、どういう事だよ!」

俺がパインの肩を掴んでパインと向き合う
しかし、パインは力なく細い目を開けて

「ごめんな…ごしゅじん…さま……」

そのまま
パインはゆっくりと目を閉じた…











俺はベッドで眠るパインを見ながら
簡素な椅子の上で項垂れていた

どういう事だ?
もう一緒に冒険に行けないなんて…
そんな…
俺に
いっしょに旅に出ようって
言ってくれたじゃないか…
なのに何で…

俺は切迫した思いで
パインの細い手を握り続けた
しかし
パインの安らかに眠った瞳は開かれることはなかった











パインがその瞳を開いたのは、その3日後の事だった
しかし
その時にはパインの全ては変わっていた
いや
戻ってしまっていた
俺が拾ってきたばかりの
あの頃の羊に…

「ふめぇ〜?わぁ〜ごしゅじんサマぁ〜」

すりすりと
こすり付けられるふわふわの毛皮
眠そうにとろんとした瞳が俺を見上げて
全ての人間を癒してしまいそうな微笑が俺を見ている
でも
俺の心は暗く陥る一方だった

俺は
俺が恋したのは
あの
俺を厳しくも、思い続けてくれていた
あのパインだったのに…

「ふえぇ?どぉ〜したのぉ〜?ごしゅじんサマぁ〜?いたいのぉ〜?」

心配そうに俺を覗きこんでくる羊
無邪気な微笑が陰って
ああ
俺は
こんな子供のようになってしまったパインを悲しませてしまうのか…

「ううん。大丈夫だよ」

俺は羊を抱きしめた

――ふわり

甘い香りがして
徐々に眠気が襲ってくる

「ふめぇ〜。うふふ。ごしゅじんサマ、あったか〜」

無邪気な言葉
俺は彼女の背後で
涙を見せないようにしながら
彼女と一緒に眠りに落ちた








「えへぇ〜ごしゅじんサマぁ〜♪」

俺の前で無邪気な羊が笑う
俺も微笑み返して
でも、ちくりと心が痛んで
戻ってきたはずの平和な日常だった
俺は畑を耕し
すぐそばの木陰で羊がふわふわと昼寝をして
農作業が終わると
羊が俺にじゃれ付いてきて
この上なく平和で
幸せなはずの日常

なのに

どうして俺の心は痛むのだろう
優しくて無邪気な羊と
時間を気にすることもないゆっくりとした酪農生活
なのに
どうして
俺の心はこんなにも焦っているのだろう


『おらぁ!どうしたぁ?腕が落ちてきてるぞ!気合を入れろ!』
『はい!』

『よっし!よく頑張った。明日は海に行って20キロの重りを背負っての遠泳だぞ。ゆっくりと休め』
『はいっ!』

『ほら、疲れただろう。オレンジを絞ったジュースだ。身体が癒えるぞ』
『ありがとうございます』


もう一度
あの心に響いてくるあの言葉が
聞きたかった








そんな生活が続き、冬も終わりを迎えようとしていたある日の事だった

「おうおう。よくやってるようだな」

やって来たのは隣の農家の親父だった

「あ、お久しぶりです」
「なんだ?ルート。ずいぶんと逞しくなってやがるじゃねぇか?」
「え?」

言われて気が付いた
確かに俺の身体は、春から秋の、先生のもう特訓のおかげで一回りも二回りも逞しくなっていた

「ああ。いろいろとありまして」

俺は苦笑で答える
羊は日向で呑気に眠っていた

「はは〜ん。なるほどな」
「え?」

俺の目線に気付いたのか、親父は含みのある言葉を浮かべた

「毛皮の無くなった羊はずいぶんと激しかったみてぇだな?」

ニヤニヤと親父は笑う

「え?なんでそれを?」

俺ははっとして聞き返した

「ん?ああ。お前、もしかして知らなかったのか!?」
「え!?」
「羊ってのはなぁ、元は魔物らしい凶暴な奴らなんだ」
「えぇっ!?」

俺は驚いた
今呑気に寝返りを打った羊が…
でもあの先生は…
魔物らしいっていうのとはまたちょっと違う気も…

「やつらの毛皮はな、眠りの魔力が掛かっててよ、それで奴ら、毛皮が生えてる間はずっと寝ぼけたまんまなんだ。だからよ、毛皮を刈っちまったら、奴らは眠りから覚めて、本性を露わにしやがるのさ」
「な、なんだって!?…」
「はっは。その調子だと、ずいぶんと搾り取られて腰を振りまくったみたいだな?一日何発ヤッた?あぁん?」

親父は露骨にいやらしい顔をして聞いてきた

「…いや、そういう事はほとんど…」
「あぁん?嘘つくんじゃねぇよ。はは。まぁ、言いたくねぇのも分かるけどよ。あ、そうだ、おめぇんとこの羊の毛皮、ずいぶんと強力な眠りの魔力が掛かってるって評判だったぜ?きっと今年はずいぶんな高値が付く。そん時はよ、ちぃっと一杯、おごってくれよ?じゃあな」

そう言って親父は去って行った

「………」

俺はぽかんとして、羊を見た
そうか
あの時先生が目覚めたのは毛皮を刈ったから…
あ、そういえば
初めて先生に会った時も…

『オレは久しぶりに毛皮の呪いからも解放されて気分がいいんだ』

そう言っていた
そうか
先生ほどの力のある魔物だ
きっと、毛皮の眠りの魔力も相当なものなのだろう
それこそ、性格が変わってしまうぐらいに眠く…
ああ、そうか
じゃあ
先生は
パインは
別にいなくなってしまったわけじゃなかったんだ…
冬が近づいて
毛皮が生えてしまったから…
いや…
あの生え方はいくらなんでもおかしい気もするが…
それに、「毛皮の呪い」って…
パインは…いったい何者なのだろう…

その日
俺は安堵感と引き換えに
難解な謎を抱えてしまった













そして、待ちに待った春が来た

俺は市場からの帰り
金貨で重くなった懐を覗きこみ、ほくそ笑んだ
パインの毛皮はずいぶんな人気だった
なんでも、去年の毛皮は2年も眠ることができなかった重い不眠症の偉い人を一発で眠らせてしまったとかで一気に有名になり
俺が市に毛皮を持っていくや否や、様々な毛皮商人や、中には魔導師や、サバトの魔女にまで取り囲まれてしまった
セリは今季最大の盛り上がりとなり、ついにはサバトからバフォメットまでが現れ

「くっく!その毛皮、童が貰っていくのじゃ!」

ピンクの髪をしたバフォメットは見たことのない量の金貨をポンと置くと
シンと静まり返った競売場を毛皮を抱えて去って…
行こうとしたところで毛皮の魔力に負けて眠ってしまった
複数の魔女たちに運ばれる中、ピンクのバフォメットは幸せそうな寝息を立てていた

おかげで思わぬ大金が手に入ったが、ずいぶんと帰りが遅れてしまった
と、言うのも、市の帰りに大金を手にしたことを知った男たちが10人余りで俺を取り囲んできたのだ
まぁ、パインに鍛え上げられた今の俺にとっては相手にもならなかったが



「ただいまぁ」

俺が小屋に帰るなり、かわいい羊は……

「よぉ、久しぶりだな?ご主人サマぁ?」

バーボンを片手に、今まさに組織の裏切者を始末するマフィアのボス
の様な風情を醸し出しながら俺を見つめてきた

「……」

俺は膝が震えるのを感じた
だって…
だって…

「ん?どうしたぁ?ご主人サマぁ?オレが怖くてブルっちまったか?」

羊、かつてそう呼ばれていた誰かは、不敵な笑みで俺を見下ろした
俺は、膝だけではなく、心までが震えだして
そして、

「おかえり!パイン!!」

愛しい羊に飛びついた

「馬鹿野郎。泣く奴があるかよ」

そう言って、パインは俺を抱きしめてくれた
俺は
まるで眠りの魔力にかかってしまったように
ひどく落ち着いた
安らかな心地で
彼女の胸に顔を埋めた



「ただいま…ご主人サマ…」








それからしばらくが経った

「おらぁ!オレがいねぇ間に鈍っちまったのかぁ!?もっと腕あげろぉ!」
「はい!」

パインの元気な声が聞こえる
俺はそれに応えるべく、重しを付けてさらに重くなった大剣を振った

「おらぁ!ラスト100!気合入れろ!」
「はい!」

しかし、パインに話した
俺は、もう冒険者に戻る気はないって
パインは驚いていた
でも
その後に言った俺の言葉を聞いて
心底嬉しそうにしてくれた

「どうしたぁ!?そんなんじゃ俺は護れねぇぞ!?あぁん?」
「はい!」

そう
俺が今自分を鍛えているのは
冒険者になるためじゃない
彼女を
愛しいパインを
この手で守るために
彼女より強くなるために
俺は修行を続ける
もう秋に差し掛かろうとしている
もうすぐパインがまた冬眠に入ってしまう
パインに会えなくなるのは少しさみしい
でも、冬眠中の可愛いパインを
守り抜くためにも、俺は力を付けるんだ
どんな奴が来ても彼女を護れる
例えドラゴンが相手でも勝って見せる
それが、俺の身体の原動力だった

「ほら!もっと頑張れ!…アナタ…」
「うん。わかった!」

パインが
俺の新しい呼び名に照れる
そんな仕草がかわいい
俺の腕に一層の力が入る
そうだ
頑張ろう
そうすれば
来年
パインが目覚めた頃
きっとパインが俺の事を新しい呼び名で呼んでくれる
きっと顔を真っ赤にしながら言ってくれるんだ

『頑張ってね。パパ』

って





.                  Sleeping sheep fin?

12/07/28 17:29更新 / ひつじ

■作者メッセージ
前王の時代が終わった
オレは自分の新しい姿に戸惑いを覚える暇もなく、眠りについた
長い長い眠り
起きているのか眠っているのかもわからない
さまざまな人間がオレを拾ってはオレを目覚めさせる
でも
どいつもこいつも目覚めたオレを見て逃げ出すばかり
人間とは馬鹿な奴らだ
恐れるなら何故オレを拾うのだろうか?
オレは目覚めた僅かな時間を利用して旅をした
さまざまな土地を回った
途中、オレと似た姿の奴らが幸せそうに人間と過ごしている姿を何度となく見た
また眠りにつく
そしてまた一人に
そうするうちに
夢を見るようになった
目覚めた時にはオレを抱きしめ、オレをあの羊たちのように守ってくれる奴がいる
そんな淡い夢を
叶えてくれる人間はだれ一人いない
みな
オレの目覚めを恐れて逃げていく
オレはいつしか
夢の中にこそ居場所を見出すようになった
顔もない男の胸に抱かれて
護られながら、何よりも安らかな眠りにつく
そんな夢のような世界

そして
オレはいつしか夢を見なくなった
いや
夢は夢じゃなくなった
叶えてくれた
アナタが
オレは愛しい我が子を抱きながら逞しい彼の背中に護られる
彼は畑を耕し
オレは不器用なサンドイッチを差し出して彼と一緒に頬張る
泣き出した小さな声は
オレのおっぱいを吸い終わる頃には
安らかな寝息に変わり
オレと、そしてオレ達を護るように横になった彼と
3人で日向に眠る
安らかな眠りがオレを幸せにしてくれる
もう
夢に逃げなくてもいい
アナタが隣にいてくれるから

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