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二人の歌姫、沈むのはいずれか…

次の話に入る前に、またちょっと小難しい話をしようか。
なに、つまらなかったら話の間は寝てても構わない。
前座の様なものだと思ってしばらく付き合ってほしい。


飛ばす人は、前回と同じく一段と広く開いた改行を目印にするといい。



今回は、僕たち図鑑世界の『国』というものについて話していこうと思う。
そんなに難しい専門用語とかは使わないから安心して聴いてほしい。

とある戦略シュミレーションゲームでは、大まかな時代の区分を
太古→古代→中世→ルネサンス→啓蒙→産業革命→近代→現代としていて、

太古…世界四大文明とかの頃
古代…ギリシャやローマが繁栄していた時代
中世…王様や騎士が出現した時代
ルネサンス…火薬が発明された時代
啓蒙…フランス革命がおこった時代
産業革命…文字通り産業革命期
近代…二つの世界大戦があった時代
現代…今まさにこの時代

みたいな感じに時代が流れていくんだ。
この中で図鑑世界はまだ火薬が発明されてないから大体中世が近いかもね。
でも生活水準でいけばどれかと言うとルネサンスあたりになるかもしれない。
あと、神話系の魔物が出るのはだいたい古代の時代位だから、
これらの時代の特徴がいっしょくたに混ざったようなものなんだろうね。
主にヨーロッパ文明が元になってるから逆にジパングの方々には
何がなんやらさっぱりわからないかもしれないけど、ジパングに例えるなら…

時代の基礎は鎌倉時代、でも文明度は戦国時代並みで、
たまに奈良時代や平安時代の妖怪が出てくる、そんな世界。

……うん、なんか余計分かりにくくなったね、ごめん。
こーゆーのって作者によってはとことん検証するのが楽しいんだけど、
細かいの苦手〜って言う人も結構多いんじゃないかな。
でも今回の話は、こういった時代背景やら何やらが複雑に絡むから
ちょーっとおろそかにはできないんだよね。

おっと話がずれた、本題に戻るとしよう。
図鑑世界の国には大抵「王様」がいて、お城を中心に一定の領土を持ってることが多いよね。
こういった剣と魔法のファンタジー世界で王様とお城と領地がどれだけしっかり決められてるかは
ゲームの内容にもよるけど、冒険型RPGなんかは大抵主人公たちをお手伝いしてくれる拠点くらいの
役割しか持たないからポツンポツンと置かれてるだけってことが多い。
逆に人間同士のいざこざが話のメインになると、領土やお城の位置なんかも
より深い設定が加えられることがほとんどになるはずだ。
図鑑世界がどっちに近いのかはわからないけど、少なくともこの僕がいる世界は後者に近い。
そして今回の話もまた王様や領土が複雑に決められた地方での出来事になるわけだ。


例えばここに一つの地方があったとしよう。大きさはだいたいヨーロッパの国一つ分くらい。
その地方は古くからいろんな国があってとにかく戦争が絶えなかったんだけど、
ある時一人の偉大な王様が天下統一に成功したんだ。
さて、王様は一人で天下を統一したわけじゃない。支えてくれる仲間が大勢いたんだ。
じゃあその仲間たちにご褒美をあげなきゃならないわけだけど、何をあげようか?
中にはお金だけもらって満足する人もいるかもしれないけど、大抵はそんなものじゃ
満足してくれないよね。そこで、仲間たちには土地をあげてそこでとれるお金や作物を
自分の物にできる権利をあげることにしよう。一緒に戦って絆を深めた仲間たちだ。
友情も深まるし、任せた土地は仲間がしっかり守ってくれる、まさに一石二鳥だね。
これがいわゆる歴史で習う『封建制度』っていうものだね。
でも残念ながらこの関係は長くは続かないんだ。なぜなら、王様やその仲間たちの
次の世代の人達がお互いに仲がいいとは限らないし、親から受け継いだ財産や土地を
もっと大きくしたいと企む人も出てくるだろうね。こうした小さなひずみが何十年も重なると、
たちまち国の政治は底なしの泥沼と化して、みーんな自分のことしか考えない人たちが
平民をこき使って無駄な争いを繰り返して…最後は国自体がやせ細っちゃうんだよね。
あとは分裂してまた戦国時代に逆戻りか別の国に攻められて終わり。
悲しいことに人間の歴史はいまだにこのジレンマから抜け出せていないんだ。

ところがどっこい、人間と魔物が一緒に暮らしてる「親魔物国」ではそういったことがあまりないよね。
いや、あまりないどころかそんな話聞いたことない。一体何が違うんだろう?
確かに魔物同士は絶対に争わないし、日々エッチなことばっかり考えてて
悪いことを考える暇がない人たちばかりだからそりゃまあ納得できることは多いさ。

でもたぶん一番の違いは……『寿命』かな。

有名な人の言葉に「人間五十年」ってあるけど、まさにその通りだね。
現代と違って平均寿命が三十台そこそこの世界だと、人間の一生で活躍できる時間は
極端に限られてしまうんだ。しかし魔物たちの寿命は種族によって結構幅があるけど
短くても200か300年は生きるよね。単純計算で四から六倍にもなるわけだ。
たぶんこの事が僕たち人間という種族のふるまいを決めてるんだと思う。
僕のご先祖様の国は200年もたたないうちに一度滅んで、一度立ち直ったんだけど
今度は50年もしないうちにまた滅んじゃった。これを聞いていかにもバカな人間らしい結末だって
皆は呆れるかもしれないけど……実際問題、人間の王様の一代の平均はたったの20年足らず。
まとめ役がずっと生きてる魔物たちに比べるとそもそも前提が異なるわけだね。
人間にとっての理想の世界は…皮肉にも魔物との共生なしでは得られないんだよね。
そんなわけで皆さんはぜひ魔物のお嫁さんを見つけて理想の生活を目指してほしいところだ。


はいはい、じゃあここらで今回の物語のあらすじを説明しよう。
 
 
 
 
 
 
 
 

二人の歌姫、沈むのはいずれか… 
 
 
 
昔々、大きな半島に一つの国がありました。

今まで大きな戦もなく、大きな災害も起らず、平和が続いていましたが
あるときこの国を治めていた王様が突然病気で亡くなってしまいます。
その後を継いだのがまだ二十にもなっていない若い王子様でした。
新しく即位した王様は優しくて真面目で平和を愛するとてもいい王様で、
国民や貴族たちはみなすぐに新しい王様を讃えはじめたのでした。

即位して二年がたって、二十歳になり成人した王様は
そろそろお妃様を迎えなければなりません。
そこで王様は全国に「国一番の歌姫を王妃として迎える」と御触れを出しました。
こうして全国から大勢の歌姫が続々と集まり、王様の前で審査が行われます。
どの歌姫も美女揃いでしたが、王様は意外と歌に厳しかったので、
100人以上いた歌姫候補のうち最後まで残ったのは二人だけでした。
一方の歌姫は紅いドレスがよく似合う華やかで絢爛たる美人。
もう一方の歌姫は蒼いドレスがよく似合う清楚で清廉たる美人。
性格も歌も踊り方も趣味も何もかもが正反対の二人は出会った瞬間から
お互いをライバル視し始めます。勝負に勝った方がお妃様となって、
夢のような生活ができるのですから、負けるわけにはいきません。
二人の歌の腕前は互角、王様もどちらを選ぶか大いに悩んでしまいます。
しかしこの勝負を決したのは歌姫二人の父親の力関係でした……
紅の歌姫の父親はお金と権力を駆使して蒼の歌姫を排除するためさまざまな陰謀を展開、
蒼の歌姫側の味方たちを買収したり倒したりを繰り返し、とうとう蒼の歌姫の一族を
謀反の罪にでっち上げてしまうのです。何とか処刑から逃げた蒼の歌姫でしたが、
とうとう故郷の海にまで追手に追い詰められてしまい、
思い余った歌姫は海に飛び込んでしまいました。
こうなってしまえばもう紅の歌姫の邪魔をする者は誰もいません。
紅の歌姫は晴れて新しい王様のお妃様になったのでした。

初めは仲の良かった二人でしたが、王様が蒼の歌姫の事件を知ってしまうと
大さまと王妃の仲は悪くなり、王様は徐々にだれも信用できなくなってしまいました。
真面目で優しかった王様は一変、部下を次々に処刑したり戦いに明け暮れたりするなど
もはや暴君と呼ばれるまでになってしまったのです。
やがて、王様を見限った部下たちが船で移動中の王様を事故に見せかけて海に沈めてしまい、
残された王妃も革命を起こした人々によって処刑されてしまいました。

果たしてこれは…海に沈んだ蒼の歌姫の呪いだったのでしょうか?
大事な歌も、自分の世界までも奪われ、理不尽にその生涯を奪われた蒼の歌姫…
勝利に驕り、自分の思うままに生きて、人々の反感を買った紅の歌姫…

これは国ととも沈んだ人々の物語。







………なんだろうね、この後味が悪い終わり方。
完全にバッドエンドだよね、これ。それも全滅エンドだ。
ちょっと子供お断りのきつい内容かな。

なんでここまで救いようのない内容になってるのかというと、
この物語に出てきた国を倒した革命で出来た国が自分たちの正当性を主張するために
わざわざこういう悲劇的な内容にしているんだよね。
確かに王妃選びに端を発した事件であっという間に国を滅亡に導いたんだから、
そんなダメな王様は排除されてしかるべきだって思うんじゃないかな。
もっとも、そのあとの政府も結構やばかったんだけど、まあそれは置いといて。
一説には、王様はもともと腹黒い性格の人で、初めのうちは優秀なふりをしていたけど
ドロドロした国の政権争いに嫌気がさしてわざと国を混乱させたって言う話もあるくらい。

で、肝心の魔物娘はどこに行ったんだろう。

たぶん勘のいい読者の方たちならこの時点である程度落ちは見えているかもしれないけど、
果たして予想が当たっているかどうか、考えてみると面白いかもしれない。

それと、この話をどうやってハッピーエンドに持っていくのだろう?
紹介するからにはちゃんと大団円で終わるようになってるとはいえ、
ちょっと不安なんじゃないかな?
中々重い展開が続くかもしれないけど、最後はすっきりした終わり方になることは保証するよ。

じゃあ、読んでいこうか。
はじまり、はじまり………
13/05/30 23:46更新 / バーソロミュ
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■作者メッセージ

どうみても、まんまSHです。本当にありがとうございました。

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