連載小説
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Uif:沈黙騎士の雄弁な日記【I like】
秘:モルティエ日記

【6:02】クルトが新人騎士たちを起こす怒鳴り声を聞いて、起床。
    小鳥のさえずりが清々しい。ちょっと首を外して顔を洗い、歯をみがく。
    ついでに簡単なお化粧。早く割っちゃった鏡を買い替えなきゃ。
    お金早くたまらないかな〜

【6:45】朝食にポッキーを二箱ほど。味はスタンダードにチョコをセレクト。
    「か〜っ……ぬぇむぃ〜〜…」インザーギ、今頃起きたの?
    クルトに怒られても知らないよ?
    
【7:02】「全員武器を持て!出撃だ!飯を食ってる暇ないぞ!」
    騎士団長から出撃命令が出る。山賊退治みたい。
    「マジで!?まだ飯食ってねーーっ!!」インザーギの悲鳴が轟く。インガオホー。

【9:06】楽しい山賊退治開始。

【9:34】「助けて〜!」新人騎士たちが叫んでいる。あの子たちまだ修行不足かな。

【9:51】クルトと一緒に新人騎士を救出。山賊の仕掛けた罠にかかったみたい。
    頭の方も修行不足かもね。

【11:03】今日も気持ち良い晴天だ。草木の精霊も喜んでいる。
     帰り道はのんびりと歩きながら帰るのもいいんじゃないかな。

【11:46】隊列の後方でボーリューがくすくす笑っている。

【12:03】山賊退治終了。帰還。

【12:15】お昼ご飯。動いた後はやっぱりポッキーに限る。
     女の子らしく味はストロベリーに決定♪

【13:11】みんなで訓練。何でも今日は近衛騎士さんたちも見に来るらしい。

【14:27】王国近衛騎士登場。

【14:28】「優雅さの欠片もない訓練だな。泥臭い奴らだ。」近衛騎士が言う。
     口よりももっと手を動かした方がいいと思うんだけどな。
    「奴ら、剣の訓練しないでダンスの訓練ばっかやってんじゃねーの?」
     インザーギ、たぶんそれ当たってると思うよ。

【15:40】訓練が終わった後、私たち四人は隊長が溜めた書類を片付ける。
     私以外の三人は思わずげんなりしているようだ。

【15:41】「……モルティエ、終わったなら手伝ってくれ。」
     一段落終わったところで、なんとなくクルトを視姦してみる。
     ポッキーくれるなら手伝ってあげてもいい。

【15:42】「新しい仕事が入ったよー。」さよなら治安報告書、こんにちは装備管理表。
     ボーリューの口から魂が出かかってる。

【17:00】定期的な騎士団会議開始。
    「え〜っと、最近魔物の動きが活発化しているようです。」
     仕方ないよね。たまに魔界に行かないとポッキー買えないし。
    「最近は騎士がスライムにすら負けることもあるらしいぞ。」
     スライム舐めると痛い目に合うよ?だって物理攻撃効かないんだもん。

【18:58】会議終了。『腹減った』終わった直後にほぼ全員でハモったのはおもしろかった。

【19:31】夕飯は落ち着いた気分で抹茶ポッキー。
    「おまえ…そのお菓子好きだな。」と、クルト。うん、大好き。

【20:30】四人で頑張って仕上げた書類を騎士団長の部屋まで持っていく。
     するとそこには、お偉方から押し付けられた新しい書類の山を前に
    頭を抱えている騎士団長がいた。気付かれないうちに書類を置いて帰る。

【21:05】帰宅する前に、たまたま自主トレしていたクルトに出会う。
    他の騎士たちはこの時間になるともうくたくたになって寝ちゃうんだけど、
    クルトだけはこうやって毎日律儀に一人で訓練してるみたい。
    毎朝一人早く起きて水がいっぱいに入ったバケツを両手に持って訓練場の周りを十周、
    余った時間に訓練用のとっても重たい鋼の斧で素振り、そして時間になったら
    お寝坊さんの新人騎士たちを叩き起こす。仕事が終わった後もひたすら
    筋トレと技磨きに余念がない。ここまでやれば他の人より強くなって当然。
    むしろ、どうしてここまで一生懸命になれるのだろうか…。
    頑張ってるクルトに、とりあえずポッキーを差し入れしてみた。
    クルトはそれを無言で受け取って、訓練の手を休めた。
    一本口に含みながら、石垣に腰掛ける。
    「栄養補給できて有難いが、喉がぱさぱさするな。」
    そういうと思って水筒も用意してある。
    私の飲みかけだけど、クルトはそんなことお構いなしに水筒の水をがぶ飲みした。
    「…どうした?一人だけで訓練しているのがそんなに珍しいのか?」
    クルトの問いに、私は即座に頷く。するとクルトは私の目を見るなり
    「お前はすごいよ。俺が見てないところで自主トレしているのかは知らんが、
    俺に勝るとも劣らない剣の腕だ。今度その技を享受してほしいところだな。」
    ん〜、私はこれといって特に何もしてないんだけどな。
    まあそこは人間じゃないからということで。
    しばらくの沈黙。二人でポッキーを食べながら石垣に腰掛けて、
    空に浮かぶ三日月を見上げる。
    あらあらいつの間にかいい雰囲気になってきた気がする。
    それにクルトっていつもは怖いけど
    よくみるとちょっとかわいい顔してるし、根はやさしい人なんだってことも分かる。
    ………
    ……
    …
    「俺には好きな人がいる。」突然クルトが口を開いた。
    もしかして、気が付かれないように体を寄せていた私へのけん制なんだろうか?
    クルトの好きな人…?それってどんな人なんだろうか?
    「この国の第三王女…クリスティーネ様、いるだろう。俺が幼いころ、
    お城を脱走したクリスティーネさまと一日中遊びまわったことがあるんだ。
    夕方には姫様は城の者に連れて行かれてしまったが、俺はその時……
    クリスティーネさまと約束した。いつか本物の騎士になって、クリスティーネ様を守ると。
    もう十年も前の話だ、姫様がまだその時のことを覚えているかはわからない。
    だが、俺は十年前からずっと、今もまだ…約束を果たすための力を得ようとしている。
    どうだ…バカバカしいだろう?いつも偉そうにしているこの俺が…ふっふっふ……」
    そうか、クルトはお姫様を守る騎士を夢見て今まで頑張ってたんだ。意外だな。
    でも…悪くないと思う。たとえお姫様がおぼえてなくっても、きっとクルトなら
    お姫様に気に入ってもらえると思う。だってそうでしょ、
    クルトみたいな強い男の子に十年も想っていましたなんて言われたら、
    大抵の女の子だったら嬉しすぎてイっちゃうもの。思わず妬いちゃうな。
    自嘲気味に笑うクルトに、私はただいつもの笑顔を返すことしかできない。
    私が凄いだなんてとんでもない。クルトはもっとすごい。
    私なんて足もとに及ばないくらい。
    それだけにちょっともったいない気もした。どうしてここまで頑張ってるのに、
    クルトの夢はなかなか現実にならないんだろう。努力が必ず報われるとは限らないけど、
    人間がいつの間にか決めた目に見えないものすごく高い壁に阻まれて、
    必死に乗り越えようとあがくクルトの姿が、私にはとても眩しく思えた。
    クルトはポッキーを全部食べて、また立ち上がって素振りを続ける。
    もし私が今ここでクルトの背中に抱き着いて、この淡い思いをぶつければ
    素振りする手を止めてくれるだろうか?ううん、たぶん止めない。
    クルトが秘める思いはそんな程度で止まるものじゃない。
    だから私は…音も立てずに帰り道を進む。

【22:22】帰宅。お風呂に入って、今日の日記を書こう。
     きっと明日も楽しい一日になりそう。
13/05/29 16:04更新 / バーソロミュ
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■作者メッセージ
"What is drama but life with the dull bits cut out."
-Ai=San

ドラマとは退屈な部分をカットした人生である

―アイ=サン

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