読切小説
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その像は石か、愛欲か
 戦場。
 そこは戦場だった。倒れ伏す戦友、潰走する戦友、魔物に押し倒される戦友……そして魔物に変ずる戦友。

 地獄。いや、生き地獄か。誰も死ぬことは許されないのだから。

 平凡な石工だった私が徴兵され、何故こんな戦いに送り込まれたのかは分からない。だが戦友たちがどうなろうと、私にはどうでもよかった。

 私の視線を釘付けにして離さないのは、その地獄に降り立った一人の妖魔。

 白い肌。
 白い髪。
 白い翼。
 それと相反するかのように、赤く、妖しく煌めく瞳。

 優雅な肢体もある。柔らかそうな肌もある。全てを跪かせるような妖しい笑顔も。
 だが私はこんな女性が……こんな生き物がいるなどと信じられなかった。

 私は思った。「あれ」は闇なのだと。
 深い闇を切り抜いて、美女の姿に彫刻したものだ。闇だからこそ全てを、人の心さえも吸い込んでしまうのだ。


 あのとき私は逃げてきた騎兵に蹴られ失神し、戦友に引きずられて戦場から逃げ延びた。いや、逃げ延びてしまったと言うべきか。
 戦場から帰還し、石工に戻った私を待っていたのは甘い苦痛の日々だった。目を閉じれば瞼の裏に、あの赤い瞳が浮かび上がってくる。誘うような妖しい笑みと共に。眠りについたときも毎晩彼女が夢に現れ、私を闇に引き込もうとする。だがどれだけそれに従おうとしても、どれだけ彼女の手を取ろうとしても、所詮は幻。夜明けとともにかき消される空しい夢でしかなかった。

 あの戦場で何らかの魔物の餌食になっていればそれで諦めがついたかもしれない。だが逃げ延びてしまったはあのお方のことしか考えられなくなっていた。
 しかし私に何ができる? 私は石工だ。ただの石工。

 あのお方に近づくことは不可能だ。

 ならば……






 気づいたときには、私は鑿を取っていた……


















………








……























「……これで七十七体、か」

 掘り終わった頭像を眺め、私は嘆息した。ここ数年は「あのお方」の石像ばかりを彫り続け、違うモチーフを彫ったことがない。家の中には今まで彫った石像が散乱しており、みんな私に笑みを向けているが、どれ一つとして満足のいく物はない。
 今しがた出来上がった頭像に顔を近づけ、そっと口づけをする。彼女はそれを笑顔で受け入れてくれるが、所詮ただの冷たい石でしかなかった。頭像や胸像だけでなく、全身を彫ったものも多数ある。静かに佇む姿、座して体を見せつけ誘うような姿、背の翼を広げて今まさに飛び立とうとしている姿……全てに心血を注いで彫ってきたが、脳裏に焼き付いた「あのお方」の姿は表せていない。豊かな体つきも整った顔立ちも、人間にはない角や翼も申し分無く作れているとは思う。
 だがそこには闇が、心を引きずり込む魔性が宿っていないのだ。どの石像の視線も私をかき立てることはない、ただ冷たい石の眼でしかなかった。

「だが……次こそは……」

 鑿を砥石にかけながら、私は次に彫る石に思いを馳せていた。私の技が十分な物であれば石の問題かもしれないと思っていた矢先、ある女商人が私に話を持ちかけてきたのだ。
 魔界の奥地で発掘された石があるのだが、目立つから教団のいる町には売れない。よかったら買ってくれないか……と。
 私は「あのお方」の姿を彫ることに生涯を捧げると誓い、教団の手の届かない山奥へ居を構えている。商人にしてみれば安心して売れる相手なのだろう。魔界とはつまり「あのお方」が生まれた場所でもある。そこで生まれたという石に私は希望を見出し、商談は成立した。

 その石が届くのは今日。楽しみで楽しみで、鑿を研ぐ手にも力がこもる。リズミカルな摩擦音が工房内に響き、もの言わぬ石像たちだけがそれを聞いていた。

 ふいに、戸を叩く音がする。風の音ではない、明らかに人の拳が腐りかけた木戸を叩いていた。

「……どちら様ですか?」

 逸る心を抑えつつ、手を止めて返事をする。万一に備え、壁に立てかけてある手斧を手に取った。

「駒井やでー。例のブツを納品に来たんやけど?」

 それを聞いてすぐさまドアの閂を開ける。錆び付いた金属の引っかかりがもどかしく、ガチャガチャと音を立てながらやっとの思いでドアを開けた。外から山の空気が室内に吹き込み、淀んでいた空間が清められて行く。日の光りを妙に懐かしく思うのと同時に、その光溢れる世界がすでに私の居場所でないことを感じた。魔に見入られた私にとっては。
 その日差しの中に立っているのは一人の女商人の駒井。東の国の服を着た女の子だ。そしてその背後に置かれた巨大な物こそ、俺が待ち望んでいた石なのだろう。

「やあやあ、お待たせして……うわぁっ!?」

 彼女が驚愕の叫びを上げたのと同時に、右手に手斧を握ったままだと気づいた。

「すまないね。万が一教団が来たときのために……」
「い、いや、それよりもあれ……!」

 駒井の指差す先にあるのは見慣れた私の工房……いや、正確には今まで彫ってきた「あのお方」の像だろう。沢山ありすぎて驚いたようだ。

「練習に彫ったんだ。なかなか満足できなくてさ」
「……ほうかい」

 何か恐ろしい物を見たような顔つきで、駒井は眼をそらす。いったいどうしたのだろうか。まあ同じモチーフの石像がこれだけあれば不気味に思うのも無理ないか。
 そんなことより、今は目当ての品物の方だ。布にくるまれて荷車に積まれたその石は二メートルほどの背丈である。だが不自然な点が一つあった。昨日は雨が降って地面がぬかるんでいるはずなのに、車輪の跡が無いのだ。いや、それ以前にこの石を運んできたであろう人足がいない。

「一人で運んできたのか?」
「細かいことはええやん」

 ニヤリと笑う駒井。どうせ分かっているだろう、とでも言いたげだ。実際に彼女が人間ではないことを、私は薄々勘づいていた。この女商人の中にも魔性を感じるのだ。「あのお方」のそれとは比べ物にならないが、男を狂わせるあの魔性を。
 だが彼女の言う通り、私にとってそんなことはどうでもよかった。歩み寄って布の端を掴み、思い切り引っ張る。分厚い布はするすると地面に落ちて行き、中身が露になった。

 その瞬間、私は背筋がゾクリとするのを感じた。美しい純白の、それでいて不思議な艶かしさを醸し出す石……大きさは十分だし、触れた感触は削りやすそうだ。石には鑿を入れる目というのがあるが、この石ならどのようにも彫れるだろう。だがそれ以上に、この魔界の石には「あのお方」と同じ香りが宿っていた。ともすれば神聖にも見える白にも関わらず、僅かながらあの闇が確かに宿っている。この魔性を引き出すことができれば、私は限りなく「あのお方」に近い物を生み出せるだろう。

「……気に入ってくれた?」
「申し分ない。これなら……きっと……」

 ああ、早く彫りたい。この素晴らしい石に鑿を入れ、「あのお方」の姿を削り出したい。
 こみ上げてくる興奮を抑えながら早足で工房に戻り、卓上の金貨袋を引っ掴んで駒井に差し出した。

「代金だ。どうもありがとう」
「ほい、まいどありー」

 彼女はお腹をポンと叩いて袋を受け取り、中身を確認する。

「もしこの石で満足のいく物が彫れたら、他の石像は全部持って行っていいよ」
「え、ほんまかいな? 確かに高く売れるやろけど……」

 完璧な「あのお方」を作り出すことができればもう煩わしい物は必要ない。鑿を握ってボロボロになった私の手も報われるというものだ。僕にとっては納得のいかない作品でも、他の人たちが見て傑作だというなら売ってしまおう。
 駒井は立ち並ぶ石像たちを眺めながら、指を折って値踏みをしている。

「……ふむ。ほな、そのときまた引き取りに来るで」
「そうしてくれ」

 彼女を尻目に、私は彫る目安となる印を石に書き始める。出来上がりがすでに見えるかのようだ。楽しくて仕方がない。

「……あんたの業の結末も見に、な。」

 心躍る私の耳に、駒井の小さな声が聞こえた。
















………








……
















 ……果たして何時間鑿を振るい続けただろうか。少なくとも一昼夜は経っているはずだ。腹が減ったら工房に貯めた食料を食いあさりながら、無我夢中で鑿を振るい続けてきた。腕が痺れ、痛みが満ちてきたにも関わらず、私の高揚感は収まらない。鑿を入れて形を作るたび、石が私を励ましているように思えたのだ。私の手によって石が「あのお方」の形を為していくことに例えようも無い興奮を覚え、床に入ることすら煩わしい。
 だが楽しさともどかしさが同居するその時間も、ついに終わりを告げようとしていた。最後の鑿を入れた瞬間、窓から差し込む夕日が目に染みる。その光りに照らされ、白い悪魔の裸像が美しく佇んでいた。

 透き通るような純白の肌に、曲線美を持つ狂おしい肢体。そこに刻み込まれた妖しい文様と、石本来の波状の模様。彫るのに苦労した流れるような長髪。禍々しい角、翼、尾。
 そしてその瞳に宿った力。男を、私を狂わせて心を閉じ込める、深い闇。その魔性。
 疲れきった私には自分から命が抜け出し、この石像に移ったように感じた。今にもそのすらりとした腕で髪をかき上げ、豊かな胸を揺らし、翼を広げて羽ばたきそうに見える。私はついにこの手で作り出したのだ、「あのお方」を……!

「ああ……ああ!」

 私は鑿を置き、彼女の前に跪いた。自らが下僕であると証明するかのように。
 石像はそんな私をじっと見つめ、笑みを浮かべている。その吸い込まれそうな魔性の微笑みこそ、私の欲しかったもの。「あのお方」の微笑みが私のものになったのだ。衝動を抑えきれず、その腰に抱きついて体をすり寄せる。石とは思えないほど滑らかな感触を味わった瞬間、強烈な快楽と共に股間が熱くなる。魔性に侵された体が高揚感に耐えられず、迸りを出してしまったのだ。下着を濡らしていく不快感を覚えながらも、尚も彼女の存在にいきり立つ。
 そんな情けない私さえも、彼女の闇は優しく包んでくれている。日が沈んでいくにも関わらず、その姿ははっきりと見えた。妖しく、艶やかに。

 その豊満な石の胸に顔を埋め、私は彼女の名を叫んだ。

「デルエラ様……!」

 すべすべとした肌触が俺を受け入れてくれるように感じる。石でありながらも温かみさえあった。私の疲れを癒してくれるかのように、夕日の中で静かに佇んでいた。
 ゆっくりと日が沈んで行き、辺りが暗くなる。胸の谷間から顔を上げ、私は蠱惑的な唇に口づけした。石の唇を味わいながら部屋が闇に包まれていくのを感じた。このまま眠りにつけたらどれだけ幸せだろう。

 そのとき、私は何か違和感を感じた。石の唇の感触が、柔らかく吸い付くような感触に変わっていったのだ。

「……!?」

 不意に、何かぬめりを帯びたものが私の口に入り込んだ。艶かしく私の口を舐め回し、唾液を搦めとっていく。平べったく、滑らかに動き回るそれ……間違いない、舌だ。

「ん……!」

 思わず唇を離そうとするが、いきなり何かで後頭部を押さえつけられる。いや、抱きしめられた。優しく頭を撫でられ、口の中を貪られる。何が起きているのか分からないまま体が熱くなってきた。先ほど射精してしまった漢根が再び怒張していく。そのまま激しく舌を絡め合う情熱的なキスを続けた。気持ちいい……気持ちいい……!

 やがて唇が離れたとき、僕の目の前で彼女は笑っていた。うっすらと開いた唇からは唾液が糸を引き、甘い吐息が漏れてる。暗闇であるにも関わらず彼女の姿はくっきりと見えた。その石の体は柔らかな光を纏い、白く、美しく肢体を晒していたのだ。
 私をじっと見つめながら、彼女はその髪をかき上げた。白い宝石を糸にしたような髪がふわりと宙になびき、重力に引かれて元通りになる。確かにそれは私が彫った魔界石の石像……だが胸元を申し訳程度に隠すような服を着た姿だったのに、今目の前にいる石像は全裸の姿だった。豊かな乳房が小さく揺れ、少し下に目をやるとつるりとした割れ目が見えた。
 胸の高鳴りが最高潮に達する。人の情欲を引き出す魔性が、今目の前でうねっているのだ。

「フフフ……」

 脳を蕩けさせるような声で彼女は笑う。その掌が、優しく私の手をとった。官能的な美しい手に導かれ、私の手は彼女の左乳房へ触れる。

 柔らかい。
 温かい。

 確かに私が石を削って作った物だというのに、それには温かみがあった。そして命の鼓動も。

「わたしは、アナタの望むモノ」

 静かな声で、彼女は言葉を紡いだ。それが耳に入るたび、体中がぞわぞわした快感に打ち震える。

 そして悟った。私は本当に、「あのお方」を……レスカティエを堕落させたリリム、魔界第四王女デルエラ様をこの手で作ってしまったのだと。
 そうでなくては白い石でできた体が、ここまで柔らかく甘美な肌触りになるだろうか。鼓動が聞こえるだろうか。そしてその瞳に、これほどまでの魔性と闇が宿るだろうか。

「アナタがくれた、このステキなカラダ……」

 白い乳房を手で持ち上げ、私のデルエラ様は妖しく微笑んだ。その体の感触を楽しみ、酔いしれるかのように。

「全部、アナタのために使うわ……」

 彼女は私の手を引き、ベッドへと導く。最近ろくに寝ていなかった私はされるがままに寝かされ、バネの弱くなったベッドに体重を委ねる。デルエラ様は私を優しく見下ろし、その上に覆い被さってきた。目の前で白い乳房が柔らかく揺れ、体に心地よい重みを感じる。本物同然の感触になっても肌には石の波模様が残っており、それがまた美しい。
 ふいに、甘い匂いが鼻をくすぐった。同時に何か温かい水滴が私の顔に垂れてくる。とろりとしたその液体はとても良い香りを放ち、疲労していた私の食欲を刺激した。

「わたしのチカラ……飲んで……」

 口元に近づけられる真っ白な乳房。甘露がその先端から滴っていることに気づき、私は夢中でそこに吸い付いた。その瞬間まったりとした甘みが口の中に広がり、嚥下すると全身に力が満ちてきた。ツンとした乳首を舌先で転がしながら夢中でしゃぶり、味わっていく。

「んっ……♥ そう……飲んで……吸って……♥」

 デルエラ様はうっとりとした声を上げながら、私の頭を優しくなでてくださった。石の体でも性感はあるのか、乳首を口で刺激されて感じているらしい。そのことに激しく興奮して強く吸い付くと、より多くの母乳が溢れてきた。いや、母乳というよりむしろクリームのように濃厚な物がでてきた。そしてとても温かく、疲れた体に染み渡っていく。

「あァン……もっと飲んで……わたしのチカラ……♥」

 私を抱きしめて授乳を続けてくださるデルエラ様。自分はもはや彼女の下僕であり、赤子なのだと自覚し、その悦びを噛み締めた。同時に今頂いている物は生物の母乳ではなく、彼女の濃厚な魔力そのものだと気づく。なぜなら体中に染み渡ったそれは、私の体を内側から刺激し、激しく疼かせているのだ。
 乳首が口から離され、もう片方の乳房が押し付けられる。そちらにもしゃぶりつき、滲み出る魔力の結晶を飲み干していく。その体に抱きつくようにしてデルエラ様の恵みを味わった。そして体に蓄積される疼きが、快楽に変わっていく……

「う……ッ!」

 体を震わせながら、私はまたもズボンの中に迸らせてしまった。授乳の興奮に耐えきれず、男根に触れられてもいないのに果ててしまったのだ。デルエラ様は一瞬不思議そうな顔をしたが、にっこりと笑い体を起こす。

「ああ……」

 乳房が離れて残惜しさがこみ上げる。だがそんな気持ちもすぐになくなった。彼女が私の服に御手をかけたのだ。
 美しい指先が私の体を這い回り、埃まみれ服を丁寧に脱がせてくださった。肌を優しく撫で、デルエラ様は精液で汚れたズボンも何の躊躇いもなく手を触れる。

「……ステキなニオイよ……♥」
「ああ……デルエラ、様ぁ……!」

 なすがままに服を脱がされ、白濁を垂れ流しながらもまだ勃起している男根。デルエラ様は気持ち良さそうにその臭いを嗅ぎ、吹きかけられる息が私を刺激した。
 デルエラ様の御手が男根の先端を撫でていく。精液を拭き取るように。ぴくぴく震える肉棒を楽しげに見つめながら、彼女は手についた白濁を美味しそうに舐めてくださった。

「フフ……♥」

 デルエラ様は腰をまたぐような体勢になり、私を見下ろす。魔性を宿した瞳が煌煌と輝いていた。そして私の下半身に温かい液が滴っている。先ほどの乳液ではない、それは彼女の股から出ていたのだ。
 彫った記憶の無い女の器官がそこにあり、デルエラ様はその割れ目を指で広げた。愛液が糸を引きながら垂れてくる。彼女の肌は石の白色そのままなのに、そこの中身は生々しく艶かしいピンク色だった。

「ココに、出して」
「……!」

 ゆっくりと、デルエラ様は腰を降ろしてくる。鈴口が女性器に触れ、ぬめりが亀頭を覆う。

「ん……ぁん……フフフ……♥」

 彼女は喘ぎ声を漏らしながら、疼きそそり立つ男根をそこへ飲み込んでくださった。淫魔の闇の源泉とも言える、その膣内に……!

「う……ああああああ!」

 私は叫んでしまった。まるで異次元の快楽だったのだ。とても熱い膣内はぬめったひだが男根に絡み付き、しきりに射精を促してくる。膣全体が吸い付くような感触であり、彼女がただ腰を沈めるだけで強い快楽が伝わってくるのだ。
 ああ、これが魔界の快感。あれほどまでに欲していた、デルエラ様に与えられる愉悦なのか。私が作った石像であってもこの快楽だけは本物に違いない。あるいは彼女に取り憑かれた私だからそのように感じるだけかもしれないが、私を満足させてあまりある快楽だった。

 耐えられるわけがない。

「デルエラ様……私は……ああっ!」
「あんっ……♥」

 今まで生きてきた中で、一番気持ちよい射精だった。ただ挿入しただけで一気に溢れ出し、温かな膣内を満たしていく。デルエラ様は早すぎる迸りを楽しげに受け入れてくれた。ただ中に出しているのではない。貪られ、吸い上げられているのだ。今までの努力が報われるのを感じながら、私は魔物と交わる快感に浸った。
 だが当然、それで終わるはずもなく……

「……フフフ。ナカに出されちゃった……♥」

 デルエラ様は繋がりから垂れてくる白濁を指先ですくい、ぺろりと味見をする。心無しか彼女の体が一段と熱くなったように思えた。そして膣内では私の哀れな男根が、優しいぬめりに抱きしめられて再び怒張していた。

「さあ……踊りましょう……朝までね♥」

 ゆっくりと、デルエラ様が腰を上下させる。柔らかく絡み付くような感触が男根を刺激する。そして次第に動きが速くなり、さらに左右へ捻るようにして、デルエラ様は腰を踊らせた。
 だが何よりも心を打たれたのはデルエラ様のお姿だった。石の体を艶やかにくねらせ、荒く息を吐きながら私を見下ろしてくる。その目に宿る快楽の色は、彼女が私の男根を楽しんでくださっている証だ。恋い焦がれてやまなかった女性が私に発情し、熱い吐息と愛液を垂れ流して腰を振っている。それがどんな物理的な刺激よりも、私の心を高ぶらせた。

「ンッ……♥ フフ……イイわぁ……♥」

 ひたすら貪られる悦びを味わっていた私だが、その快楽をデルエラ様にお返ししなくてはという使命感が湧き上がってきた。この奇跡に対する感謝のために。そしてこのお方が、私の最高傑作が乱れているところをもっと見るために。

「ああぁんっ……♥」

 下から思い切り突き上げると、デルエラ様は白い体を大きく仰け反らせた。膣の締め付けもぎゅっと強くなり、またもや果ててしまいそうになるのをこらえる。
 さらに何度も突き上げると、彼女もそれに合わせるように腰を使ってくださった。柔らかなひだと男根の摩擦が絶妙になる。

「んっはぁ……♥ イイ、アナタのおちんちん、おちんちんステキよぉ……♥」

 結合部からは卑猥な水音、口からは蕩けそうな喘ぎ声。この方は耳までも犯してくださる。腰のぶつかり合う音が響き、デルエラ様の尊い愛液が飛沫となって飛び散る。
 彼女は翼をはためかせ、尾をくねらせながら腰を降っていた。白い御手で豊満な乳房を揉みしだき、乳首からあの乳液を垂れ流す。その倒錯的で淫らな痴態を満喫しながら、私はいよいよ達しそうになってきた。

「デルエラ様……私は貴女様に、全てを……!」
「そう、よ……あふ、アァ……♥ 出して……アナタの作ったこのカラダに、もっと、もっと……♥」

 交わした言葉が引き金となり、私はついに放出した。玉袋が空になるのではと思うほどに、勢い良く、たっぷりと。そして気持ちよく。

「デルエラ様、デルエラ様ぁぁ!」
「っはァン……出てる、アツいのが、キモチイイのが、いっぱい、いっぱぁい……ふああぁぁ♥」

 デルエラ様のお体が大きく震え、狭まった膣がさらなる射精を促す。淫魔の本当の口腔である膣内に精を放たれ、その快感で絶頂なさったのだ。私の精で、デルエラ様が……!

「はぁっ♥ あはぁん♥」

 膣で強く男根を抱きしめたまま、彼女は私にしなだれかかってくる。胸の双峰が私の胸板にぐにゃりとひしゃげ、甘い感触を覚えた。そのまま私たちの唇が触れ合い、舌が絡み合う。それが彼女と貪り合う大事な儀式に感じられた。
 そしてその儀式はまだ終わっていない。いただいた乳液の力か、私の男根は萎えることを知らなかった。そしてデルエラ様の方も私と抱き合ったまま、男根を咥え込んで腰のみを揺り動かしていた。

「んっ……もっと、もっと……朝まで、ずっと♥」

 息のかかる距離で、私の作ったデルエラ様は淫らに囁く。二人の宴はまだまだ終わらない。互いに少しずつ腰を動かし、今度は緩やかに絶頂へと導いていく。

 ああ、幸せだ。男としての幸せ、そして彼女という最高傑作を生み出した幸せ。両方を満喫する。








 夜が更けて行く中、私はデルエラ様の中に精を捧げていった。
 何度も、何度も。

 そしてデルエラ様も、私の上で何度も絶頂してくださった。

 時々甘美な乳液を賜りながら、私は彼女との愛欲の宴にのめり込んで行った。見守っているのは今まで作った石像たちだけ。まるで世界から切り取られたかのように、ただただ二人だけの宴に没頭していった。


 だが、所詮時間の流れは止まらない。




「ああ、出ます……出します!」
「はぁぁん♥ イイ……お腹のナカ、アツいわぁ……♥」

 何回、否、何十回目になるか分からない射精を終えたとき、家の窓から光が差し込んだ。月明かりではない、太陽が昇ってしまったのだ。

「……時間よ」

 デルエラ様は厳かに告げると、不安になる私の上で体を起こす。それでも膣内にしっかりと男根を挿入しており、私から離れることはなかった。
 本来なら陽光を受けて輝くはずなのに、彼女の白い肌はどこか色あせていった。私を見下ろして手を握ってくださったが、その手の感触が急速に硬くなっていく。男根を包み込んでいた温かい女性器も次第に冷たくなり、肉棒を受け入れているだけの硬い洞穴となる。元の石に戻っているのだ。

「ああ……!」

 終わってしまう。絶望感に染まる私に、デルエラ様は優しく微笑み……

 その表情のまま、石像へ戻った。

 放心した私はそのまま石像と見つめ合う。魔性は確かに宿っているが、太陽の光りを受けた彼女は微動だにしない。石の女性器は男根に何の快楽も与えてくれなかった。
 だがそれも束の間のこと。

「あ……!」


 ぽたり、ぽたりと、熱い雫が胸に滴り落ちる。石像の乳房から、あの乳液が滴っているのだ。甘い香りを放ちながら、それは私の皮膚に染み込んでいく。
 次の瞬間には体の異変を知った。その乳液の垂れ堕ちた皮膚が白く変色しはじめたのだ。彼女の体を構成する石と同じ色、そして硬さ。戸惑う私に対し、彼女は微笑みながら乳液を垂らすのみ。やがて体中に広がっていく白色は私の四肢を、顔の器官を、そして男根までを硬く変異させた。

 乳液の雨が止んだとき、ようやく理解できた。我々の愛欲は終わってなどいなかった。デルエラ様は私を、ご自分と同じ石像に変えてくださったのだ。

 石の男根は彼女の石の膣内で、ひんやりとした不思議な快楽を与えられていた。同じ存在となり、一つに繋がっている気持ちよさだ。





 ――このまま、夜を待ちましょう――






 デルエラ様の声が聞こえる。次の夜が来ればまた、互いに腰を降り貪り合えるのだ。共に石像になるこの時間は単なる眠りであり、次の愛欲の宴をより楽しむための安らぎなのだ。


 石化したはずの私の目から涙がこぼれた。
 彼女を、デルエラ様をこの手で作り出し……自分のものにできた達成感に。
 そして、彼女のものになれた愉悦に。










〜end
13/04/14 10:29更新 / 空き缶号

■作者メッセージ
 いやあ、ホンマたまげたわ。いくら高純度の魔界白玉石やからって、人間がそれを彫刻しただけでガーゴイルにはならへんよ、普通は。高位の魔物が手ぇ加えれば別やろけど、今回はあの男が一人で石像を作っただけや。デルエラ様のな。

 こりゃ人間の業も馬鹿にできへんね。デルエラ様を思う業の深さに石の魔力が反応したんか、でなきゃ万魔殿辺りから何かが業に釣られてやってきたんやろ。人間じゃ一流の魔法使いでも難しいっちゅうのに、大したもんやであの石工。

 ああ、あいつが試作した石像な。約束通りうちがいただいて売ってきたで。デルエラ様ご本人からもお許しをいただいたさかいな。いい儲けになったで、うしし。

 ……まあ胸像と頭像以外は夜のうちに、自分で飛んで行ってしもうたけどね。





―――――

普段爽快感のあるエロ物語を書いている(つもり)の私でもドロッとしたのを書きたいときはある。
でもってガーゴイルの設定を読んでいると何かムラッときたので書いた。
反省する予定はない。

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