連載小説
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『"シー・パイレーツ"で自家製海賊シーフードピザを食す』
「キャーッ!」
「ふふふ……貴女も淫らで美しく、可愛い魔物にしてアゲル……♪」
「やーめーてーっ!誰か!誰か〜っ!」

「「「「「待ていっ!」」」」」
「!?っ、何者っ!」

「聖戦士!」
「戦士!」
「聖戦士」
「戦士!」
「戦士!」
「五人揃って――」

「「「「「五戦士団!」」」」」

「さぁ、早く逃げなさいっ!」
「観念しろ!魔物!」
「正義の剣が、貴様を討つ!」

「……違う」

「え」
「違う、違う。貴方、貴方達、何?」
「「「「「五戦士団!」」」」」
「それはいいから。貴方は?」
「聖戦士!」
「貴方は?」
「聖戦士!」
「五人揃って――」

「「「「「五戦士団!」」」」」

「待ちなさいって!おかしいでしょ!何で聖戦士が二人もいるのよ!パーティバランス悪すぎるわよ!」

「戦士!」
「戦士……ん、戦士ね。貴方は?」
「戦士!」
「貴方は?」
「戦士!」
「五人揃って――」

「「「「「五戦士団!」」」」」

「違う、違う違う――!」

「――ちっがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁう!」

――――――

「……これは酷い」
……以上、麻婆ラーメンなる亜種を作ってみた私の脳内に浮かんだ映像でした。混ざらない……調和を描けない。それぞれがそれぞれ自己主張し合っているだけだ。
液体スープがラーメンの特徴だし、炒めてもいない麺ではただ乗っけるだけじゃ麻婆の餡に絡むわけでもないし、そもそも山椒の風味がここではマイナスに働いているし……まだ一工夫必要か。
にしてもジパング人は凄いわねぇ、とは思う。何しろ、大陸では組み合わせようと思わない代物を組み合わせたりするもの。そばめしパンに関しては他の島に先駆者の位置は取られたみたいだけどね。炭水化物の三乗。カロリーがさぞ凄い事になっているでしょうね……。
あ、それと規律風姫のお姉さんから手紙がなんでか知らないけど置いてあるわ。どれどれ……。

『貴女が手を下した"ブーモー"という料理店、店員の一部が貴女に対して痛い目に遭わせたいとの事で私の元に出向いたので、躾がなっていないと【教育的指導】致しました。貴女の指導力の甘さがあるのではないですか?一度何をどのように指導したか教えていただきたいのですが』

「……」
あ、オワタ。手紙がここにある時点で分かっていたけど、既に背中には姉の気配があるわ。何でこの日この時間に家にいるのよ。連日吸血鬼伯の令嬢のために作法を教えてたんじゃないの?行く前に大量に欲しいと言われたアンデッドハイイロナゲキダケを割と多めに売ったから当分帰ってこないと踏んでいたんだけどっ!
「……はぁ」
しゃあない。お叱り一つくらいは覚悟しましょうか……そう、私は試作品等で汚れた調理場を掃除し、既に入り口に立ってその様子を視線鋭く眺めている姉に見せつけるように綺麗にしていったのだった……。

――――――

「……お叱り一つじゃ済まなかった件について」
雷三発食らったわ……。『教育が中途半端すぎる』ってあーた、御姉様が期待する教育係としての徹底ぶりは御姉様しか出来ませんてっつか寧ろやってたまるか!あの店の荒削りな味は評価しているのよ私は。定食屋で最高級ランクの肉を用いたフルコースでも出させるつもりなの?それは最早定食屋とは言えない。断じて言えない!
……まぁ、オーク連中がしでかしたことを考えれば『半端』という主張も分からんでもない。あの手の輩は私以上に御姉様は嫌うしね……そりゃ性格改変レベルで躾たくなるのも無理ないか。完全に、懲罰をけしかける相手を間違えたわね、いや、間違えてはいないけど自分を省みるべきだったわね、あの阿呆共……。

さて。そんな御姉様が立ち寄る度に胃薬を持参する領からお誘いが来ているけど、時間は間に合うかしら。腹時計は狂うから普通のジョン式腕時計を眺めてみると……おう、中々いい時間。一町探索出来るわね。
よし、ならば指定魔法陣起動して――!

「――せいりんでいっ!」

レッツゴー!

――――――

潮風に青い空。燦々と照りつける太陽は刃のように鋭い光を私たちに投げ掛ける。どんな色黒の魔物ですらさらにその色を濃くしてしまいそうなその光を浴びる場所は砂浜……じゃなくてカリバルナ王宮のテラス。前王、つまりこの国が反魔物国家だった時代に建てられたそれだけど、意外と美術の質は悪くなかった、ってのが前に来たときの感想ね。教会美術、とでも言うのかしら?それはそれで乙なものだと思うわ。
で、我が愛しの妹君が設定した座標はそのテラスに直接出られる部屋の片隅……と言うか客間。見つからないのは有り難いけど出られない、寧ろ出にくいのよね。
ロメリア名義で招待されたとはいえ、食べるときはナーラでありたいわけで、けどこの城にいるときはロメリアであるべきなのよね、間違いなく……。
で、テラスから軽く街の風景を眺めると、外に映るのはいろいろな形の屋根から、様々な香りの煙が放たれる繁華街。放射状に広がる区画整理?何それ美味しいのと言わんばかりの店舗の並び。間違いない、地元民でも迷うパターンだ。念のためこの城の裏口前にポイントを置いておきますか。移送方陣を使わなきゃ帰れないなんて事態は姉としては避けたいけれども、いざのいざなら仕方ない。

と言うわけで、私はさらっと手紙を書いてテーブルに文鎮と共に置くと、そのままドアを開いてシャバドゥビタッチヘンシーンっと。今回は気配減少系の魔法も使ってみたわ。フェアリーやピクシー、インプが悪戯用に使う魔法の強化版ね。
存在を認識できない、所謂認識阻害系のそれだけど、中級のリリムが使うとあら不思議、目の前に私が立っても相手は認識できなくなります!ヴァンパイアが使う透明化の魔法とは違って、相手の目には見えているのよ。でもそれが誰か認識されず、気にも留められることはないわ……一部上位の魔物以外は。多分宵乃宮の御奉行さんは確実に気付くんじゃないかしら。
私を呼び出した妹は王女としての仕事をやっているのだろうし……私は旅のグルメAとして、街を探索してみますかね。こらそこ、王宮裏からひっそり出て認識阻害魔法を一部解く旅のグルメAがあるかとか言わない。

――――――

まず巡るのは市場街。流石に海賊都市と言うべきか、海に関係する食品が多い事多い事。あと店で言えば塗装関係の店も多いわね。錆・黴対策はどの海の街も大変ねぇ。
「――だから何でデビルフィッシュを取り扱、ひぃ!」
「嬢ちゃん怯えんな別に嬢ちゃんの足を取って食いやしねぇよ!」
おや、大陸では珍しいわね、デビルフィッシュを普通に取り扱うなんて。あのスキュラはジパング経由かしら?まぁ確実にこの地域の魔物じゃないことは確かね。にしてもデビルフィッシュか……適度に茹でて酢の物にしたり、バルサミコ酢であっさり頂くのも美味しいのよねぇ。
「にゃっ!」
「こぉらエンリコ!毎度毎度普通に買わんか!」
「スゲェ、あの猫、魚を口にくわえながらその額と同じ硬貨を店主の額に乗せたぞ……!」
……何やってんだろうあのネコマタ。お魚くわえたどら猫プレイ?しかし全く以て器用だわ。器用すぎるわ。知らない人が見たらそりゃ最後の人と同じ感想を抱くわよね。当人はあれかしら、日常にちょっとした彩りかしら。アクシデントが斬新すぎるわよ。
「……と、お、こんなものも扱ってるんだ」
これは……クレイジーチャンパーね。旧魔王時代では"荒ぶる海の処刑人"と呼ばれて幾多の人間達や魔物達をその腹に収めてきた中くらいの大きさの魚だけど、骨を炒めて砕くと海鮮料理人御用達の美味しいスパイスになるのよね。身そのものも、即死クラスの毒がある内臓さえ除けば美味しかったって話。
御母様の手によって変わった今のそれは凶暴(性的に)なのは変わりなく、骨のスパイスも(性的な物にも効果有りになった以外は)変わってないけど、変わった物もある。まさか内臓の毒が食べたらイチコロ(魔物は性的な意味で、人間は腹痛的な意味で)で、精錬すれば強力な媚薬兼精力剤になるとか……お陰で臓器抜きのクレイジーチャンパーの方が安くなったっていう話も聞くし……誰からって?勿論前魔王時代から生きている友人だけど。
「……安いよー……」
しかも何の偶然か、その友人が青空市場で露天開いているし。背負った十字架っぽい何かに襤褸フードは流石に怪しすぎるでしょ……。服のバリエ増やしなさいよ、全く。せめて十字架っぽい何かは外さないと変人にしか見られないわよ?いや、見られなくても変人か。
さっき述べた外観特徴で分かったわよね、その友人の種族はリッチ。嘗ては、それこそ前魔王時代は『魔蠅の化身』とか言われていた悪名高い魔物だったらしいんだけど、今となってはその有り余る魔力と知識を食の発展と魔改造に費やしている、私とどっこいの変わり者よ。
「久し振りね、サフィ」
私の気さくな挨拶に対して、彼女――サフィ=S=ドゥライアはひらひらと手を振ると、早速懐から何かを取り出して私に手渡す。今回は……えっと……粉入りの瓶?何の薬かしら。
「……虜の果実の、味覚成分だけ再現してみたものよ……隠し味に使えるわ」
「へぇ、前に言っていたもの、完成したんだ」
「未完成。現状の目標は虜の実の魅了効果・簡易な中毒性を魔力ゼロで再現することだから。出来たら次は調整……」
……最終的に麻薬でも作る気だろうかサフィ……。と、軽く粉を指に乗せ、一舐め。……おお!この味は間違いなく虜の実だ。魔力不使用の料理にも使えそうね。何をどう研究したらこんな再現が出来るのかしら。氷結粉砕でもした?
「……最初は実の組成から、次に味覚に反応する物質の研究……そしてそれを疑似再現する合成甘味料を組み合わせて……」
私の分からない手段で私が出来ない手段を用いて、私が発想もしなかったものを完成させていく。アプローチこそ違うけど、彼女もまた食を好んでいるのだ。一部の人間や魔物の間では食への冒涜だの何だの言われているけれども、それは彼女の体質だしね。
そもそも二つ名の理由もかなりの大食い且つ雑食だったかららしいし……当時だからカニバリズムもやっていたみたいだけど。
「……本当にこの研究、人間牧場やっていた頃より、楽しい……」
しかし人間牧場て。お、恐ろしいことをさらっと言うわね……。そうよね、前魔王時代で安定した食糧供給やろうとすると必要になるわよね……。
私の知る前魔王時代の知識は書物と、このリッチ(元男、今の名前は自分で改名したらしい)からの伝聞が殆どだ。今の常識からしたら信じられない状況が前魔王時代では罷り通っていたそうだし……そもそも魔物は人間を食的な意味で食らっていたから致し方ないと言えば致し方ないか。
「……ふふ、仄かな魅了効果を持つこの粉を私の開発した旨味調味料よろしくスイーツに振りかければ……ふふ……」
「サフィ、麻薬扱いされかねないから程々にしなさいよ……あ、これ頂くわね、はい代金」
まいど、と手を振る彼女を背に、私は購入した旨味調味料と比較的辛めの麦酒をバッグの中に放り込んだ。流石にこれから食べに行くのにビール飲み歩きは避けなければ。で、散策を再び開始した私が、ふと左に気になる看板を見つけると……。
「……これは驚いたわ」
まさかのシュリンプ専門店があるとは。カリバルナ周辺の海域のみならず、各地のシュリンプを取り扱っているっていう、何とも珍しいお店だわ。
「お客さん、癖が強いのがお好みで?ならフリスアリス寮から北へ一週間、セルキー達が好んで食べているこちら"ブラックトーピード"なんて如何かな?水の深いところで素早く泳ぎ回っているこいつは、燻すことで最高の珍味になるよ?是非お試しあれ?」
語尾が気になるけれども気にしない気にしない。たぶんどこか頼りなさげな店長の口癖でしょう。後ろで帳簿を付けている人が溜息ついているのも多分いつものこと。
こっちには兜が妙ちくりんに派手なシュリンプがあるけど……うっわ安い。これは安いけど何か以前ハンスが持ってきた胡麻菓子(生地に胡麻を付けて焼いた酒饅頭)と同じ気配がするわ……図体の割に多分食べられる所が少なかったりするのよね。名前もクレセントメアショー……うん、保留。
こっちの腕ほどもある巨大なシュリンプは……え、これジパング産なんだ!ロブスターかと思ったら……世界って広い。って事はこの巨大シュリンプ、デルフィニウムで扱っていたりしないかしら。……扱うかしら。
他にも色とりどりなシュリンプがびっしりびっしりと店に並んでいる。新種多すぎる。いや、単に私の知識不足か。ともあれ、これだけ多種多様のシュリンプがあるんだ。お勧めの店は特上のエビを用意してくれていることでしょうね……♪
後は……オリーブね。そう言えば以前テキーラを献上したファラオが、かつて存命(眠りに着く前)していたときに美容にこれのオイルを使っていたって言ってたわねぇ……後で美容健康好きの魔物に訊いてみようかしら。
「……うーん……」
しかし、オリーブオイル一つとっても様々だし、しかも色々なフレーバーがあるものねぇ。オリーブオイルに鷹の爪、バジル、ガーリック……刺激的なのがお好きなのかしら。単品だと刺激が少ないのは何となく分かるわ。
さて、と市場を一通り回った私は、そのまま別の地区へと移ろうとしたとき……。

「……これは!」

それを発見したのは、先程とは別の海産物の販売所だった。どちらかというとハイランクの"私のプチ贅沢"に使えるような代物が一杯並んでいる。中には魔王城での食事に時折出てくるような代物まで。そう言えばあの娘何回かこっちに海産物送っているって聴いたわね。そっかこれかー成る程ね。
「ビリオンニードルにレギオナ、あ、これはガンフィッシュね……流石にご禁制の物は扱ってないわね。安心」
なんて呟きつつ視線を奥に移すと――明らかに別格のオーラを纏う"シュリンプ"の姿があった。

「――」

よし、購入。スイートシュリンプというらしい……期待ね。後で家で茹でて食べてみよう。
さって、じゃあレストランが建ち並ぶ一角は後で向かうとして、賭博場があるギャンブルタウンへと行ってみましょうか。
賭博?やらないわよ。見るだけね。どんな町並みかも見てみたいし……。

――――――

「これは凄いねぇ。骨も筋繊維も傷つけずに綺麗に極まっていたよ。しかも二人とも。一体どんな芸当を使ったんだい?」
……見ていた結果がこれだよ!(泣)
今私が居るのは治安維持部隊が居る詰め所で、理由が今し方ふてくされている二人組だ。「再現してもいいなら再現しますが」
「「すんじゃねぇよこのクソアマいやスンマセンでした止めて下さいお願いします」」
「冗談よ。流石に場所は弁えるわ(口を縫い付けてやろうかとは思ったけどそれも自重しよう)」
あろう事か私の財布に手を出したのでそのまま手首を掴んで体を軽く捻り上げたわけです。近くの人に「警察か保安官呼んで!」と叫んでそのまま引き渡し、私もまた治安維持担当者に着いていったわけで。
因みに掴んだときに軽く電撃魔法行使しました。防犯には効果抜群なのよね、これ。普段は使わないけど、ついやっちゃったんDA☆何せ明確に手癖が悪そうなワーキャットとラージマウスの二人組だったもの。
「というわけで、私はこの二人に財布を盗まれそうになったので、防衛手段を行使したのですよ」
私の言葉に治安維持担当の眼鏡の人は笑顔を深めながら調書をとっていく。……何だろう、妙な寒気がする。というか、二人が顔面蒼白なんだけど……?
「有り難う御座いました。では、この二人はこちらで預かりますので、お財布の中身を確認いただけたら、お帰り頂いて結構ですよ」
やけにあっさりだなぁ、とは思う。……笑顔の裏にある殺気が二人に向けられているのに関係があるのかしら。むしろ其れしか関係はなさそうだけど……何したのよこいつら……。
財布を確認。よし、欠けている物は無し。というわけで、ここにいる義理も理由も存在しないことだし、素直に町に戻るとしますか。
「確認いたしました。大丈夫ですので、失礼します」
縋るように私を見る二人の視線を黙殺し、私は担当の方に頭を下げ、そのまま詰め所を出たのだった。時間を見れば丁度ギャンブルタウンを出る時間になっていた。回れなかったのは残念だ。本当に。一回でもやったらルミルさんへのいい思い出話にもなったかもしれないなぁ……。

『……さぁて、毎度毎度何回目の詰め所連行をやらかしてくれちゃっているんですか貴女達は。あれですか?捕らえてくれる殿方募集中とかそんな笑えない冗談でもまた話すつもりですか?そもそも前に斡旋した職場はどうしたんですか?まさかそうそうにほっぽりだして逃げたとかあぁ図星ですか言っておきますが逃げられませんよ何しろ逃亡防止の結界がもう張られていますからねぇさぁ覚悟しなさいなさぁさぁさぁさぁさぁ』

「……南無」
自業自得とはいえ、どんな目に遭うだろうかと簡易に想像できた私は、彼女達の冥福を簡単に祈ったのだった……。

―――――――

さて、と。
この町――カリバルナに来た理由。それはこの国の女王をやっている妹から二つの店を紹介されたから。
一つ。店の名前は『ステーキ・パイレーツ』。名前の通り、ステーキ専門店でボリューム満点なメニューが多く、それでいて安い値段で食べられるお店で有名らしい。中でも岩塩とブラックペッパーで味付けされたTボーンステーキは一番人気で、これを食べるためだけに王宮から通うこともあるとか。あと昼は家族連れが楽しく語らいあい、夜は海賊や荒くれた男がビール片手に仕事を語らいあう空間となるらしい。
もう一つは『シー・パイレーツ』。魚介類を使ったメニューが多く、こちらも安い値段で食べられるお店で有名。店内はダイニングカフェのような落ち着いた雰囲気で、昼でも夜でも様々な客で賑わっている。見たところコチラの方が比較的カップルを見かけるかしらね。ステーキ専門店よりも何処かおしゃれで、店内にはピアノが置かれていて、ディナーの時には音楽家さんが様々な音楽を奏でたりするらしいわ。DJ……は多分合わないでしょうけど。で、オススメはピッツァ。さっき市場で見た海産系の具をふんだんに使ったそれを食べに、やっぱり王宮から通うことがあるとか。どちらも王家御用達とは……っつかそれで敷居高くならないってのが凄いわね。寧ろ、
「お姫様を一目見るチャンス!」
「野郎共、突貫じゃああああ!!」
ってな具合で一部それ目当てに店に入る客も居るのよね。目の前に。暑苦しい。
さて、どちらにしようかしら……今日の気分は……ん〜、独自で肉を育てているというのも魅力的ではあるんだけど……流石にあれだけ市場で海産物を見れば、ねぇ。
「海産ね」
というわけで『シー・パイレーツ』に決定。『ステーキ・パイレーツ』はまた別の日に行ってみるとするわ。
時間はランチオープン時刻をほんの少し過ぎたところ。既に客が数人入っているこの店の、年季をどこか感じさせる木の扉を押して、私は店の中に足を踏み入れたのだった。

「Bienvenidas!ようこそ『シー・パイレーツ』へ!お客様は何名様でしょうか?」

ドアを開けると、そこには程よく小麦色に焼けた肌が素敵ないかにも陽気そうな男性がメニューを片手に私に頭を下げてきた。何名様、と尋ねるのは後で合流する客への対策かしら。まぁ私はそんなのは……この店の味次第ね。市場最年少で彼が総料理長になったホテルも、もう何年首位を守り抜いていることやら。暇を見つけて誘ってあげたいわ。無論、この店の味が美味しかったらだけどね。
「一名よ。葉巻は吸わないわ」
「畏まりました。では、カウンター席にご案内いたします!」
案内されたカウンター席、それは調理場が直に見えるという何とも私得な位置だった。ピッツァを焼くという竈の中は赤々とした光を放っている。恐らく石が熱を持って光を放っているのかしら。イグニス辺りを使っているかと思ったら、その形跡も見られない、まさに「人の手で起こされた火」で焼いている。それだけで私は驚きと喜びを覚えたわ。職人魂、といったら語弊があるかもしれないけれど、そうした「こだわり」が感じられるもの。
因みに料理人は割と美形が多いわね。面食いのサキュバスは釜の中の様子が自分のアソコのように思えてくるんじゃないかしら。知らぬ間に手を伸ばすようなことも……やりかねない。
「ふぅ……」
船内をイメージしているのか、天井にも壁にもわりと濃い色の木が使われている。腐食を防止するための加工が施されているらしいその壁には幾つものランプを模した魔力灯が付けられ、薄暗さと明るさの中間くらいのムーディーな明かりを辺りに投げかけている。
「ご注文は何になさいますか?」
ウェイターの少年が、適度に周りを見渡しつつメニューを流し読みしていた私に声を掛けてくる。私は迷うことなく、こうウェイターに告げるのだった。
「自家製海賊シーフードピザをサイズLクリスピーで一枚と、海賊ティラミス、あと白ワインをボトルで一つ戴くわね」
「畏まりました。それではごゆっくり、お寛ぎ下さい」
……何か周りがざわめいているけど、何でかしら。女性が食べるにはカロリー過剰とか?妹は「大きいけれどローカロリーよ!」って太鼓判押していた気がするけど。何てウェイターの背中を見ながら考えていると……調理場では、いかにも線の細いイケメンシェフが、生地をこねて伸ばし始めていた。Lサイズというだけあって、握りこぶし二つでは収まらないくらい大きな生地の塊になっている。それを大きな箆棒を使って円に、円に伸ばしていくんだけど……ちょっと、え、こんなに手際よく伸ばせるものなんだ!均等に伸ばすのってわりかし苦労するものなんだけど!やっぱり本職は違うわね。私も最初の方は、どうしても円に伸ばせなくて奇形の四角形にしちゃって、身体に動きや力加減を叩き込んだりしたっけ。今では一応円には伸ばせるけど、ここまで手際よく行なえるものではないわ……え、あれ。
「……え!?」
生地を、手のひらに乗せた?え、ちょっと待って。わりとさっきの段階で薄く延びてたわよね?これ以上何するの?え、もうケチャップとか色々塗る段階なんじゃない?それをわざわざ持ち上げるって一体、どういう……。
未知の展開に驚いている私を他所に、そのシェフは、生地を乗せた腕を一気に振り上げて――!!

――その光景が、私に電流を走らす……っ!!

「――!!!」
ちゅ、え、き、生地を中に投げて、そ、そのまま同じ腕でキャッチ、した……!?シェフの腕の上でどんなもんだいとばかりにさらに大きくなっていく生地に笑顔を見せて再びシェフは放り投げ、またキャッチ!どんどん、それこそ成長期のホルスタウロスの乳の如くどんどんその大きさを増していく生地!これは調理?いえ、技術が作り出す芸術よ!
三回、四回と数をこなし、再び調理台に置かれた生地は、私が両腕で抱えることが出来ないほどにその直径を大きくしていた。しかも綺麗な円。まるで満月のようだ。
そこにケチャップを……塗らない?その代わりにホワイトソースを塗り、具をバランスよく散らしていく。他のシェフ達が用意している具が、バランスよく、彩りよく配置されていく。貝、エビ、ブロッコリー、イカ、定番のアンチョビは無いみたいだけど、様々な種類の貝や野菜が織り成す色が、白いホワイトソースのキャンバスに描かれる様は壮観だった。
そして、その絵の中でも一際目立つもの、それは――。
「……スイート、シュリンプ……」
目にするだけで分かる。ごくり、と無意識に唾液を飲み込んでしまう。それだけ圧倒的だ。適度に茹でられた、赤々とした身体を惜しげもなく晒す巨大シュリンプという光景に、私は食欲を隠すことなんて出来やしなかった。いや、あれを見てなお平常心を保てる人がいたら見てみたいわ!
全てを配置し終えたら、その生地の上にチーズをバランスよく降り、そして釜へ。じゅん、と下から音がしたのは多分錯覚ではない筈……これは、濡れるッ!興奮して渇いた喉を、届いたワインで潤す私。でも、既に精神は渇望モードもいいところだった。欲しい。本当に欲しい。今すぐに食べたい。焼きあがったらすぐに口に入れたい。そう思えるほどに、暴走モードも生易しく感じられるほどの精神の猛りが私の中で暴れ狂っていた。
そして数分後――無事焼き上がり、幾分か小さくなった身体をシェフはカッターで12等分し……両腕で辛うじて囲えるだけの大きさを誇る皿の上に乗せ、ウェイターに渡す。その間、一ミリも無駄な動作は無かった。華麗すぎる。この人ら、敵の“調理”も上手いんじゃなかろうか、とか思わせるくらいに統率が取れている……これは美しいとしか言いようが無いわ……。

「お待たせいたしました。『自家製海賊シーフードピザ』でございます。お熱いのでお気をつけて」

目の前に置かれた、両腕で作る輪ほどの大きさもあるピザ……白を基調とした珍しいそれは、『海賊』という二つ名にしてはどこか優しさすら感じられる外観をしていた。刺激というよりも、何処か休息といった雰囲気が、ホワイトソースの優しく甘い香りからも伝わってくる……。
そんな中でも、赤々としたシュリンプの存在は、内に秘めたる闘志の証明であるかのように爛々と輝いている。さながら洞窟に眠るルビーのよう。この輝きに憧れ、人達は船を走らせ、島々を巡るのでしょう。
……さて、そんな空想は兎も角として……私は、その“女性が一人で食べるにはいささか大きいと思われるサイズの”ピザを前に、両手を合わせた。食に、感謝を。

「――戴きます」

カッターで切られた生地部分を一つ、手でつまむ。未だ冷めない熱が私の手を焼いていく錯覚があるけれど、これくらいのこと、気にする道理も無い。
ずしり、ときじに乗る具材が私に重みを伝えてくる。たっぷりと、味わってね、そう私に囁いているかのようだ。私はそれを落とさないようにピザの両端をほんのり丸めつつ、うゆっくりと口に運んでいく。湯気が放つ、海鮮と乳製品の織り成す魅惑のハーモニーに、無意識のうちに涎を嚥下しながら――熱を失わないうちに、私はそれを口に運び、咀嚼、身体に収めた。

「……♪」

クリーミィ。グラタンを思わせるようなクリーミィなホワイトソースが普通とはまた違った味わいを出しているわね。ケチャップの甘さとはまた違った、舌先にふんわり触れるような甘みに、幽かに混じるサワークリームの酸味……そしてお好みでかけるレモンの風味が爽やかさを演出するわ……。もしかしたらここにパイナップルも具として入れても合うかも。
ピザカッターで切断された、薄手のクリスピーな生地。そこからさながら打ち寄せる波の水しぶきを思わせるかのように溢れ迫る具達。あっさりとした甘さの白ワインを口にしつつ、もう一口。
……うん、うん♪エビの味噌をほんのり混ぜたホワイトソースとマヨネーズが、舌先で私を食欲の海へと誘っていく。弾力のある小柄な帆立もまた、甘味と旨味が濃縮されて口の中に何とも言えない爽快感が広がっていくわ……。ある蛸よりも烏賊を使ったのは正解ね。何気に筋も綺麗に切られていて、噛み切りやすくなった身が甘味を舌の中に運んでいくわ。
ケチャップソースの刺激を減らす代わりにチーズは塩濃い味が魅力のゴーダチーズが散りばめられて、拡散しがちな味をぎゅっと纏めている。所々ごろりと入ったトマトブロックの酸味といい、海にとってもどれだけ太陽が憧れるに足る存在なのかが伺えるわね。
「……」
さて。ここまでで、私はまだエビを口にしてはいない。ピザという円盤の上にあって、なおも存在を主張して止まないエビ、しかもこれは、地方特産である甘味の高いスイートシュリンプだ。茹でられ色鮮やかな赤に染まりつつも、弾力が目に見えるシュリンプ……これを口に入れて歯で弾いたらどんな味が溢れ出すんだろう。まさかシュガーシュリンプよろしく甘さが広がるだけじゃないわよね……?
期待に、胸が高鳴る。食欲が、味覚欲が抑えられない。貪り食べたい気持ちは次に次に次に次へと我先に群がっていく。それを上手くいなしつつ、薄い生地の上に乗る、目で見るだけで重みが感じられるスイートシュリンプに、クリームに半身浴するそれに……歯を下ろした。

私の思考に、空白の時間が出来たのはその時だった。

歯の先端で弾ける、赤いスイートシュリンプ。その瞬間、まるで今まで表皮が抑えてきたかのように内側から身が膨張し、切れ目から弾き飛ばすように切断した。
口内に広がる、クリームの甘酸っぱい風味、そしてそれに彩られた、適度に茹でられたシュリンプの引き締まった身と濃縮された旨味が、私の背筋をゾクゾクとさせる。その身の味というのが、さながら千変万化の甘味万華鏡。しかもその全てがお互いを押し退けることなく綺麗に伝え合って……♪
まさに生地の上の芸術。クリームドレスを身に纏い、味蕾に住まう小人に笑顔でダンスを申し込むように手を差し伸べる、あるいは味覚の先にいる私に対して花束を笑顔と共に腕を伸ばして捧げてくる海老の精達……♪

「……ふぅ♪」

アンチョビが入っていないのは正解ね。あれはクセが強すぎるから、海賊とは名ばかりの満帆の緩やかな旅路を思わせるそれに、突如巻き起こる騒動は必要ないもの。
普段だったらトウガラシ入りオリーブオイルを万遍なくかけていたところだけど、今日に限ってはそれは無し。理由は簡単。もう少し、荒々しい海賊達の描く緩やかな一時を味わっていたいから……。

「……♪」

一人でLサイズピザを完食した私は、丁寧にマイハンケチで口を拭うと、ベルを鳴らしてデザートを届けるよう依頼した……周りが何かざわめいているわね。そんなに食べたかしら私。まぁ普通の女性はピザを一人で一枚食べないから仕方ないか。
ふぅ……ピザの脂っこさが白ワインによって洗い流されていくわ……。これもいいワインなのかしら。名前を押さえてカーマに聞いてみよう。ついでに仕入先も。まぁまさかカーマの所から卸しているとかそんな偶然はないとは思うけれど……。

「お待たせしました。デザートの海賊ティラミスで御座います」

ドン、と出された、一般的なそれよりも一回りか二周りほど大きな、濃い黒と白の地層にブラウンの粉が大人のトリコロールを形成している。周りがなんかさらにざわめいている。ちょっと気になったのでウィンドウィスパーを使ってざわめきを聞いてみることにした。
『お、おい……声かけてみるか?』
『すげぇ、普通は頼まねぇよあの高カロリーコンボ……猛者だ、猛者が居るぞ……』
『……別腹って凄い』
『姫様は国王様と一緒でこの量なのに……』
……流石に一人でピザ一枚はマズかったかしら。反省しなきゃね、仕方ないね……食べるのは止めないけど。
というわけで……実食。
「……」
ふわり、と金属がクリームとスポンジのパンダな地層を削り取り、その身の上に小さな山を作る。あぁ、それはずっしりしているとは言うわね。スプーンの触れた感触がまさにそれだったもの。
はてさて……お味は……。私は適度に冷えたスプーンを手に、先端で微かに震える"それ"を……すくい上げて、口の中へと収めたのであった。

「――♪」

うん、甘みの中にほろ苦さが入っていて、まさに『大人のスイーツ』。苦みの強さが少し大きいのは多分これが男性向けである一面があるからだろう。
甘みの方は、いかにも「甘……ッ」って感じの甘みじゃなくて、苦みとまるで体を重ね合い股を湿らすような優しく染み渡る甘さだ。大きさに似合わず、実はこれかなり繊細な代物じゃないかしら。
勿論男らしくガッツガッツ食べても……!あぁ!成る程!これは上手い!原理は分からないけれどガツガツと口に入れるとクリーム部分の甘みがぬっとりと濃厚な物になっているわ!こんな二つの顔を一つの菓子に持たせるなんて……この料理人、デキる!
おおっと、でも私は繊細な方が好きだから、ちょっと味の境界を探りつつ……あぁ、美味しい……美味しい。これはワインよりも、程良い刺激のスパークリングの入った陶酔ジュースが良いかもしれないわね……この甘みの中に心を溶かしていく、其れはとっても魅力だと思うわ……。

「――ふう、御馳走様でした」

そして完食した私は、いつものように合掌、一礼するのだった。
この店を紹介してくれた妹、アミナに感謝ね。今度まといの野菜とクラウディレタス、それにこの地方の海産物をふんだんに使った料理を振る舞おうかしら。
勿論、美味しいお酒と一緒にね♪

――――――

魔王城の部屋に戻ってきた私は……机の上に手紙が置かれているのに気付いた。ついでに手紙の上には文鎮代わりに紙袋が置かれていた。取っ手のないタイプだ。
えーと何々……御母様とのジパング旅行ついでの土産か。あぁ、数日前にやってた"品評会"に行った後色々巡ったのね。あまりの不意打ちのイベントに参加し損ねたわ……不覚よ。
って、自分で言っておいて何だけど、色々って言うかこれ見覚えある狐印あるし宵乃宮よね?御母様あの後あの街に行ってたの?知らなかったわ……
で、宵の宮の土産か……何があるのかしら。流石に神社か何かの印があるから食べ物系ではないだろうし……。明らかにそんなサイズの物じゃないし……。



紙袋を開くと、そこには明らかに狐の尾か何かで創られたとおぼしき、もふもふしい物体が見えた。


(illustrations by jackry様)

「……」
何だろう、この愛くるしい外見を持つ物体は。あれか、一部狐達の間で伝わる厄除けと幸運のお守り、狐玉とやらか。あ、説明書きの文面がある。しかも親切にも大陸文字でも書かれている。
「えぇと何々……【『厄離玉』……狐の尾で編み上げた狐玉人形に丹念に厄除けの力を注ぎ込みました。恋愛成就、無病息災のお守りにどうぞ】……って明らかに魔力が注がれているわね、これ」
幸い、魔力の方向性がかなり定められて居るけど、よくもまぁここまで定められたものだ。あの領は殆ど妖狐だったでしょうに。ここまでなるのに相当訓練したのね、と一人ホロリ。
有り難く、バッグのストラップにさせて貰うわね♪

……ふと思った。
これ、人間が持ったらマズいんじゃないのかなー。人形ってゴーストとか狐火とか憑きやすい筈よね。

……まさかこの恋愛成就って、そういうことなのかしら。

fin.
13/09/24 23:23更新 / 初ヶ瀬マキナ
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■作者メッセージ
シャークドンさん、jackryさん、有難う御座いました!

参考ピザ:エビーラ、シーフードピザ。
エビーラは本当に美味しいからお勧め。
ティラミスはカフェモカの風味が甘みにアクセントを与えるのよね。

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