読切小説
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マッドティーパーティー狂想曲
俺は彼女に勧められて、カップを口に運ぶ。
ふんわりと紅茶の香りが届き、それは花がほころぶように、俺の鼻腔を満たす。口をつければ、まるでよく熟れた果実のような重厚なコクを感じる。それでいて口に残らず、香りだけが誘うように頭に残る。
胃に落ちると、ジンワリと体に行き渡り、まるで陽だまりの花畑に包まれたような心持ち。
どこか懐かしく、俺は思わず安堵のため息を漏らす。

「気に入ってくれたようで何よりです」
目の前の女性は柔らかく微笑んでいた。
「こんなに美味しい紅茶は初めてだ」
俺の素直な感想に、彼女は笑みを深めて頷く。
「そうだろう。取って置きの茶葉を、さらに特別な方法で入れているからね。その方法を知りたいかい?」
そう言って彼女は、手元のミルクポットを自分のカップに注ぐ。
やけにトロミのある白いミルクが茶褐色の液体に落ちる。カップの底にたどり着いた重みのある白は、花開くように茶褐色へ混ざっていく。
それを見つめる彼女の瞳には、どこか怪しい光が宿っている。穏やかなティータイムであるはずなのに、俺は、どこかいけないものを見ている気分になる。
彼女はその形の良い鼻にミルクポットの香りを吸い込み、薄い笑みの中、その唇を舐める。ティースプーンがかき混ぜる音。ピンクの唇が白磁のカップに口づける情景を、俺は呆けたように見ていた。

「うん。やはり、いいね。君の味がする」
彼女は俺を、恍惚とした目で見てきた。
その視線の前に、俺はまぎれもない情欲がうごめくのを感じる。
それだけの仕草に反応するとは、溜まっているのだろうか?
彼女のたおやかな指がカップから離れ、クッキーに伸びる。愛しそうにつまむその仕草は、官能的で、俺は澱のような欲望が下半身に溜まっていくのを感じる。

俺は思わず頭を振った。
どうしたのだ、俺は。
確かに彼女は魅力的な女性だ。男であれば10人中15人は振り向くような色気がある。彼女の豊かな胸は燕尾服のジャケットを押し上げ、ぴっちりと止められたボタンで、彼女の腰の細さが浮き出ている。
彼女は、女性としての魅力を抑え込むために男性的な服装をしているのかもしれない。だが、それはかえってーーそれでも抑えきれない女性の芳香を際立たせている。ボタンの一つでも外せば、魅惑が溢れ出し、俺の理性を粉微塵にするーーそんなことまで思ってしまう。

もしも、それが。
もしもそれが現実に起こり得たならば、俺は体面も体裁もなく、ただの雄の野獣となって彼女を組み伏せ、その柔らかな肢体を舐め、嬲り、弄び、本能のままに彼女の秘裂に押し入り、欲望の限りを放つかもしれない。
その時、彼女はその澄ました顔にどのような表情を浮かべるのだろう。
すました切れ長の瞳は快楽に、それとも屈辱に歪むのだろうか。
漏れだす喘ぎには官能が、それとも罵倒が混じるのか。
いやいや、ただじぃっと、目も唇も閉ざし、嵐が過ぎ去るのを待つ、少女のような顔を見せてくれるのだろうか(それも捨てがたい)。

整った顔が、切れ長の瞳が。果実のようにみずみずしい唇を、白磁の器よりも白い肌を。
俺が、俺は、俺のモノにして。
完膚なきまでに汚してーー。

俺は視線を感じた。
彼女は舐めるような視線で俺を見ていた。
「どうか、しましたか?」
まさか、俺の頭の中をのぞいていたわけではないだろう。
俺は努めて平静を装う。

しかし。
俺は、
そんなことは望んでいない。

「いいよ。君、とてもいい。あれほど楽しんだというのに、まだまだ元気だと見える」彼女は一口紅茶をすすり、
「ッ!?」股間に感じた刺激に身をすくめる。
これは、足の感触だ。テーブルの下、向かいの席から足が伸びている。足は俺の股間をまさぐるように動く。
いつの間にかはち切れんくらいに硬くなっていた俺自身は、彼女の足の刺激で、今にも爆発してしまいそうだ。
「何を……」
俺の呻きに、足の感触は消えた。

「どうかしたかい?」
彼女は何事もなかったかのような顔をしている。
「今、足で……」
彼女は白々しく小首を傾げ、嘲るような瞳の形をとる。
「まさか、君は私が君のペニスを、足でなぶったとでもいうつもりではないだろうね。それはひどい侮辱だ。出会ってまだ一日も経っていないというのに、私はそんな見境のない行為はしない。
そうだな、するとしたら、そうやって搾り取ったザーメンを、こうして紅茶に入れるくらいさ」
彼女は再びミルクポットから、やはりやけにトロミのある白濁した液体を、紅茶に注ぐ。

…………それの方がひどい。
だが、彼女がそうして作ったミルクティーを、暗い情熱を込めた瞳で俺を見ながら口に運んでいるのを見ていると、本当に、そのミルクポットに入っているものは俺のザーメンで、彼女はそうした嗜好を持っているのだと思えてくる。
だが、そんなことはありえない。
俺がここに来たのはついさっき。そしてそのような変態的嗜好に協力した覚えはまるでない。
そのような記憶は、まるでない。

そうして記憶をたどっていた俺は、
「どうして俺はここにいる……」
覚えていて当然であることが、頭にないことに気がついた。
俺は確かーー。

「おや? 忘れてしまったのかい。それはひどいな。私をここに招待してくれたのは君じゃないか。今日のお茶会の場所を探していた私は、突然飛び出して来た君に捕まり、抵抗むなしく茂みに連れ込まれ、有無を言わせず、その欲望の限りを吐き出されたのさ」
「え」そんな馬鹿なことはありえない。

しかし。
その熱がまだ残っている。
ーー気がした。

彼女はウットリとした表情で、その豊かな胸元から下腹部に、その白い指をーーまるで滴り落ちるミルクのようにーー這わせていく。俺から視線は外さない。
その様は、本当に俺が彼女の肢体を思う存分に楽しんでいた様を思い起こさせて、
ゴクリ。俺の喉が鳴る。

だが、
「そんな……馬鹿な……」
俺はそれを覚えていない。それでは、先ほどの俺の想像は、想像ではなく、俺の記憶だったとでも言うのか……。俺は、彼女を……。
クツクツ、という笑い声が聞こえた。
彼女が笑っていた。

「おいおい。そんな顔をしないでくれ。とても美味しそうだよ君ィ。…………嘘だよ。嘘さ。真っ赤な、いや、この場合は真っ白な嘘と言っておこうか。真っ黒、ムラサキ、ピンク、好きな色を選ぶとイイ。お前にレインボー、ってところかな。
安心するといい。君はそんなことはしていない。そんな度胸はない。それは君が一番知っているだろう?」
彼女の様子には嘲るような様子はなく、むしろ残念そうにも思える。
確かに、俺にはそんな度胸はない。いや、いくら彼女が魅力的な女性だとはいえ、そんなことをすることは度胸とは言わない。倫理を破ることは度胸ではない。
だが彼女にとっては「襲われない」ということの方が倫理に反しているのかもしれない。こうして同じテーブルについて、二人っきりのティーパーティーをしている。その時点で、彼女は襲われてしかるべき、と考えているのかもしれない。

俺は再び頭をふる。
なんてことを考えているのだ、俺は。
なぜ、そのような常識に反したことを考えてしまうのだ。
ぐるぐる、ぐるぐると。
同じ道を繰り返しているような気もする。
ーー奇妙な状況だ。ティーパーティーなどというものは、そもそも俺という人間からは縁遠いものではなかったか……。

紅茶を嗜んだこともなく、カフェインを摂取するといえば、もっぱら自販機の缶コーヒー。
それがどうしたことか……今目の前に広がっているのは、どこかの王宮のティーパーティーのような有様。
立派で真っ白なテーブル、触れたことなどあるはずがない見事な白磁の食器類。色とりどりの菓子類は、ほんらい俺なんかが食べられるはずのない高級品だ。
そんな菓子を気の向くままにつまみ、そんな白磁のカップに口をつけ、俺のように味のわからないものにも有無を言わせず(暴力的と言ってもいい)、美味しいと感嘆させる紅茶を飲んでいる。
おまけに目の前の美女だ。
口をきくのもはばかられるような女性。
……だが、俺は普通に談笑している。

奇妙だ。
彼女は誰だ。ここはどこだ。
俺は、俺のことは覚えている。
俺はしがない会社員だった。何気なくペットショップに入って、そこでーー。

ピチャリ。
隠微な響きが俺に届いた。
俺は……それから目が離せない。
彼女は帽子についていたキノコを一つむしり取ると、愛おしそうに舌を這わせていた。
毒々しいまでに鮮やかに赤いキノコ。
その先を紅茶にひたし、それをぬめる舌でねぶっている。
キノコの根元から、その竿を伝ってーー彼女の真っ赤な舌がーーキノコのカサの、俺のカリの裏側に舌を這わせて、チロチロと炎で炙るような、なまめかしい動き。
その視線は俺に向けられて、薄く開いた唇の隙間から、強引にキノコが侵入し、彼女の手によって注挿が繰り返される。
彼女の白い頬は薔薇色に上気して、濡れた吐息が、まるで耳元で奏でられているように感じる。
絡みつく彼女の視線の先に、先ほどの情景が思い出されてくる。

「ふふ。逞しい」
「や、やめろ」
「おや、そんなことを言いつつも、君のここは、私に食べてもらいたくてしょうがないようだ」
「ッ、……ぐぅ」
「初めてだったかい? それは重畳。その反応はとても可愛らしい。私も濡れてきてしまう」

ーー蘇る感触。

俺の股に、彼女が顔を埋めている。俺は彼女にすっぽりと咥え込まれて、彼女の舌が絡みついてくる。
俺の肉は、今、彼女がそのキノコにしているように、彼女に弄ばれ、その喉の奥に白濁を吐き出した。彼女の口端から、俺の精液が銀の雫となって形のいい顎に滴る。その中にはきっと、彼女の理性がまざって、こぼれたに違いない。
「ダメだ。我慢できない。下の口にも飲ませてくれないか? 我慢ができない。欲しい、欲しい」
彼女はうわ言のように繰り返し、ズボンをおろし、サテンのようにきめ細やかで、磨き上げられた大理石のような足を大きく開き、グロテスクなまでに猛る俺の肉棒を、その足の間でヒクつく肉壷にーー。

「美味しい……」
彼女の甘えた声が、耳元から聞こえた。
ハッとした俺は彼女をみる。彼女は向かいの席にいて、隣には誰もいない。
切ない開放感が、下半身に残っている。
この椅子から一歩たりとも動いていないというのに、奇妙な虚脱感がある。
俺はたまらなくなって、紅茶を口に運ぶ。花の香り、果実のコク、誘うような後味……。
乾いた土壌に水が染み込んでいくように、俺の体の隅々まで紅茶が行き渡っていく。花畑に包まれる陶酔感。
ジワジワと下半身に落ちていく、欲望……。

今の光景はなんだ。
違う。違う違う違う。
そんなこと、俺はしていない。ーー覚えていない。
まるで白昼夢に出会ったような、俺自身が影絵の住人になってしまったかのような。
現実と乖離して、地に足がついていない気がする。
椅子に座り、地面に足をついている感触はある。だが、椅子を引いて実際に目をやれば、俺の足はない、それどころか地面すらなくーー、もしもここが絵本の世界で、ページをめくれば彼女も俺も、その世界ごと消えてしまっても不思議ではないーーそんな幻想を思い浮かべてしまう。

ふと。
彼女はまるで夢みる少女のように俺を見ていた。
彼女の唇を割って、蛇のように舌がくねる。
「……少女、そう、少女だ」彼女は思い出したように手を打つ。
肘をつき、形のいい顎を手の甲に乗せる。その視線が俺を這いまわる。
「まったくーー私というものがありながら、あんな年端もいかない少女に手を出すとは、いい度胸をしている。それとも、いい性癖、いい衝動、をしている、と言ったほうがいいかい。
私のような成熟した女性ではなく、あのような、花開くのを夢みる少女。そのつぼみをこじ開けることこそ、君は嗜好しているのかな?
いやいや、私は軽蔑しているわけではない。君がそんな嗜好をもっているのならば、私もそういった姿をとるのもやぶさかではない、と言っているまでだ。君の元いた世界では否定され、忌避されたかもしれない。だが、ここは違う。少女嗜好を恥じる必要はない、むしろ誇るといい、この世界では、淫らなことは何にもまさる。おめでとう、世界はようやく君を見つけた!
一つの価値観にしがみついている必要はない。それは浮き沈みする茶葉のように流動する。君は君の思うことを嗜好すればいい。なに、君が少年を愛でるというのなら、その望みさえ叶えてあげよう」

彼女の歌声が、俺に絡みついていくる。
聞いてはいけない。彼女の言葉を聞いていると、頭がおかしくなりそうだ。
俺にはそんな趣味はない。
むしろ、今の君の方が俺の趣味にはあっている。
そのさくらんぼのような唇を押し開いて、ヒルのような舌と舌を絡ませ合いたい。紅茶の香りのする唾液を、思う存分飲み干したい。そして、南国のたわわな果実のような胸を、果汁を絞るように揉みしだき吸い付き、俺の唾液でその美しい肌を磨き、蜜を滴らせる肉壷に欲望の限りを押しこみたい。

「おいおい。そんな目でみられたら、濡れてしまう」
彼女は愉しそうに俺を見ていた。
「君の情欲は、とてもいい。それを紅茶のように飲めたら、それを蜜のように、この体に塗り込められたら、どれほど心地がいいだろう」
彼女はそう言いつつ、自らの胸を揉みしだき始めた。俺はそれを食い入るように見つめる。
燕尾服の上から、彼女の細い指が、その豊かな胸に食い込み、まるで果実を食い荒らすイモムシのようだ。彼女の吐息には淫靡な色がこもっている。
思わず手を伸ばしそうになる俺を、彼女の声が押しとどめた。

「ああ、私を、あの少女のように、私もあの少女のように、陵辱してくれ」
「何を言っているんだ」
「ふ、うふふふふ。ひどいな。あんな無体なことをしたというのに、覚えていないというのかい? それは罪悪感のせいかな。それとも理性、倫理。私への弁明かな」
愉しそうに、喘ぎとともに、彼女は言う。
「君の飲んでいる紅茶は、そのポットの中に入っているものだ」
彼女は俺の前のティーポットを指差した。
よくよく見れば、彼女の帽子のマークが入っている。
「私が飲んでいるのは、あのポットの紅茶だ」
彼女の指をさした方を見れば、そこには巨大なティーポットが鎮座していた。なぜあんなものが目に入らなかったのか……。それこそ、年端もいかない少女であれば、スッポリと入ってしまえるような……大きさ。
俺の背中がぞわりとした。まるで鉛でできた蛇が這い上ったようだ。

「あぁ……、あぁ……」彼女の喘ぎは、もはや呻きにも似ている。「あれは、君とあの少女の欲望が詰まったティーポットだ。私はそうして作られた紅茶を堪能させてもらっている。これはなんと甘美で、苦い、罪の味だろうか」
巨大なティーポットの先から、茶褐色の液体が一雫、静かに落ちた。
それは幽かな芳香となって、俺の鼻に届く。
これは確かに、俺とあの少女の匂いだ。

俺は…………
眠っていながらも官能を感じ、新たな快楽を求めてくる、少女の生白い尻が淫らだった。

その尻を両手で強く掴み、真っ赤な情欲を、彼女の胎内深くに突き入れる。少女の股からは、鮮血と二人の精液が混じった、生暖かい汁がこぼれている。彼女の幼い体躯にとってみれば、俺の肉棒は杭のようなものだ。
根元まで押し込んで、何度も前後を繰り返す。ボロ切れのように破られた少女の寝間着が、激しく揺すぶられている。
二人であの巨大なティーポットの中に入って、彼女は俺に細い背中を見せて、その上半身は外に投げ出されている。俺は彼女の両手を引いて、後ろから、か細い首筋に歯を立てる。
乱暴に扱われても、彼女はその全てを快楽として受容しているようだった。

あどけない顔は快楽の渦にしかめられ、母を呼ぶはずの唇からは官能の呻きと、男を求めるわななきが溢れている。俺は後ろから、平坦に近い彼女の胸に指を這わせ、蕾のような乳首をもてあそぶ。
精液を彼女のナカに吐き出すたび、彼女の膣はそれ自体が意思を持っているように波打ち、締め付け、俺のイチモツからさらに搾り取ろうとしてくる。果てることのない快楽と、肉欲に、背徳感が背中を押している。俺が何度も何度も幼い肢体を貪るたび、彼女の股からあふれ出した罪がポットの中の茶褐色の液体に交じりーー。

「嘘だ。嘘だ。嘘だ」
俺はだだをこねる子供のように、両手を顔に当てて頭を振った。
「嘘さ」
弾かれたように顔をあげた俺に、彼女は相変わらず優雅に微笑み、紅茶を口に運んでいた。先ほどまでの痴態が、まるで嘘だったかのように、非の打ち所のない淑女がいる。
いや、事実、先ほどの嬌態は俺の妄想だったのかも知れない。

ここは、夢と現実がゆらいでいるようだ。
彼女の帽子のキノコが、ぼやけてみえる。

「本当さ。もしくは嘘。本当の本当。嘘の嘘。嘘と言っていたことが嘘かも知れないし、嘘と言っていなかったことが本当の嘘かも知れない。君が思う嘘が嘘で、私が思う嘘が本当さ。そうだったら、君と私が同じように本当だと思ったことは嘘なのだろう。いやいや、逆が真で、裏が真かもしれない。成り立っている? 成り立っていない? そんなことは実際問題どうでもいいことだ。
客観的にみた本当? 客観にまったく主体がないと言えるのかい? 主体と観察は、きっと画面の向こうからのオナニーに似ている」

まくし立てられた彼女の言葉は全くわからなかったが、
「真実を知りたければ、そのポットのフタを開けるといい」その言葉に俺は夢遊病者のような足取りで、ポットに向かった。
そのポットにはヘッドキャップをかぶった可愛らしいネズミのマークが付いていた。どことなく、あの少女の雰囲気に似ている。
俺は乾いた唇を舐める。
それは緊張か、それとも期待か。

このポットのフタを開けて、そこに少女がいたら、俺はどうするのだろう。
罪悪感と絶望に打ちひしがれて、膝を折ってしまうのか。
それとも再び少女を陵辱するのか。その勢いであの燕尾服の女性にも襲い掛かり……、
俺は邪悪な妄想を振り払うために、一思いにフタを開けた。そこにはーー

誰もいなかった。

「あっははははは! 面白い顔をしている」
けたたましい笑い声に、俺は憤りながら彼女を振り向いた。
そして絶句する。
「君もそう思うだろう? なぁ、と言っても眠っていて見られないか、もったいない」
燕尾服の女性の隣に、あの少女がいた。

少女はすやすやとあどけない寝顔を見せている。
ふくふくとした頬は官能の世界とは無縁にみえる。それでも、ティーポットに淫らな汁を滴らせていたあの少女に違いない。それは俺の妄想か……彼女の夢なのだろう。
可愛らしい少女の寝顔に、あの光景を透かしてみてしまう俺はどうかしている。俺はおかしくなっているようだ。だから、彼女の頭にはネズミを思わせる大きな耳があるのだ。ネズミの尾が椅子から垂れているのだ。

そんな人間はいない。

彼女のボロ切れのようだった服は、傷も、シミ一つもなく、王女の寝間着のように、見るからに高級そうで、高貴だ。まるで蜜を編んだかのような、甘く、柔らかな色合いをしている。手触りも良さそうなそれを、
俺はよく、あんなものを破れたな、と思う。

違う! 違う違う違う。俺は彼女を犯してなんかいない。服も破ってなんかいない。それは彼女をみれば明らかではないか。あのようなことをされて、無事に済む少女なんているわけがない。
そんな、あどけない、幸福しか知らないような顔をしていられるわけがない。
「なんなんだよ……いったい」
俺はもうわけがわからなくなって、うずくまってしまう。
俺は悪い夢を見ているに違いない。
いくら官能的でも、自分の立っている場所が分からなければ、楽しめない。

すると、カードをきる音が聞こえてきた。
燕尾服の女性がトランプをきっていた。
見事な手さばき。流麗に動く細い指にカードが舞い、まるでお互いにワルツを踊っているようだ。見惚れずにはいられない動きは、一流のマジシャンにだって出来はしないだろう。

「さて、7並べでもしないかい?」
俺は思わずズッコケそうになる。ここでポーカーと言われれば(まだババ抜きでも許せるかも知れない)サマになったのに、彼女はそんなことを持ちかけてきた。
切られたトランプは宙を舞い、俺と彼女と少女に三等分される。その動きはまるで妖精が舞っているようでもあった。トランプをわけるだけの動作だが、宙を自在に駆けていくその様子には、そう表現したところで問題ないだろう。

毒々しいまでに色とりどりの木々の背景に、トランプが舞う。巨大なキノコは腰でもかけられそうだ。いいや、あのキノコが先ほどまで自分が腰掛けていた椅子に違いない。
なぜ、そんなありえない情景を疑問に思わなかった?
お化けの手のひらのような形の木の葉の隙間に、派手な色合いの猫耳と、美女のいやらしいニタニタ笑いがーー。

「7を持っているのは誰だい?」
答える前に、俺の手札から7が抜き出て、踊るように並んでいく。
事実、並んでいた。
俺の手を離れたカードは、人よりも大きくなり、踊るように整列していく。
あっけに取られながらも、頭と体がバラバラになっているように、俺はゲームを進めた。
眠ったままの少女もそうしている。
これでは、俺たちが遊んでいるのか、トランプに遊ばれているのか、わかったものではない。
俺は思わず苦笑してしまう。

「その通りだ」
「その通りだニャン」
「へ?」
俺は間抜けな顔をしていたに違いない。
いつしか俺はトランプに、トランプからはみ出した少女達に囲まれていた。
俺は、遊んでいるつもりで遊ばれていた。
次々に彼女達の手が伸びてくる。
年齢も様々な女の手が、俺の体をまさぐる。

「や、やめろ」
「あら、可愛い」
「うん、可愛い」
「へぇ、美味しそう」
「はい、いただきます」
俺は服を剥ぎ取られ、怒張したペニスを剥き出しにされる。

「立派」「たくましい」「早くゥ」「リップサービス」
俺は後ろから羽交い締めにされ、二人から乳首を舐められ、ペニスをほお張られた。
彼女達は7のハート、ダイヤ、スペード、クローバーのトランプから飛び出していた。
年齢は様々でも、顔は驚くほどよく似ている。姉妹というよりは、一人の人物のそれぞれの年代を、それぞれトランプで切り取ったようだ。
彼女達は俺の目の前で次々と服を脱いでいく。
そして女同士で互いの体を触り出す。口々に舌をかわし、口々に舌を這わせ、口々に股を開き。まるで鏡とセックスをしているようで、倒錯的な印象を受ける。

ぐるぐる。グルグル。
彼女たちが俺の周りで、痴態とともに回っている。

彼女達はお互いに淫らに体を温めると、トランプから尻だけを突き出して秘裂を押しひらく。鮮やかに赤い、四つの肉華が咲いている。どの花も、俺に摘まれることを期待して、かすかに震えている。
俺の肉棒は彼女たちの口に精を吐き出したというのに、その光景をみて、熱いくらいにいきり立っている。

ああ、視線を感じる。
濡れそぼった視線だ。

トランプの中に上半身を埋めている、この女たちの視線ではない。
燕尾服の女性、眠ったままの少女、そして猫耳を生やした派手な女性。
だが構うものか。
俺はこの肉どもを貪りたい。
躊躇なく肉棒を突き入れ、それぞれの破瓜の感触、それぞれの肉を味わう。
狂ったように、俺は年齢別の彼女たちに押し入る。彼女たちの体で、俺は時間旅行をしている。
彼女たちの絶頂も、締め付けられる感触も違う。成長別に穴の大きさ、締り具合、その吸い付く手際。俺は何度も彼女たちの肉を堪能するーー。

草むらに押し倒された俺に、肉惑的な美女がのしかかっている。
何が起こった?
俺は今までトランプから出てきた女たちと交わっていたはずだ。
それはあのティーパーティーの席での話だ。

ここはどこだ?

今にもその重みで落ちてきそうなピンク色の空。
海原のような色の草。
波打つような、暴力的な快楽が俺の腰にのしかかっている。
目があった彼女は、嗜虐的な笑みの奥にハートが浮かぶ瞳をしている。
俺の肉棒はボリュームのある尻に飲み込まれ、腹も、これまたむっちりとした太ももに挟み込まれている。身じろぎをすれば、彼女の体に飲み込まれた肉棒に、燃えるような快楽が溢れ出す。

彼女はどう猛に歯を見せると、その圧倒的な肉体で腰を振る。
褐色の肌には玉のような汗が浮かび、ちぎれてしまうのではないかと思うほどに胸が弾んでいる。ピンク色の頭頂がツンと突き立ち、吸い付きたくて仕方がない。
螺旋を描く腰の動きは、俺に果てのない快感を叩き込み、その渦の中心に俺の欲望を引きずり込む。たまらずに彼女の腰に手を当てるが、彼女の力の勝てるはずはない。

彼女は竜だった。きっと、竜を人に化けさせたのならこんな感じだろう。
俺は、竜に襲われていた。
大きな紫黒の羽、同じ色の角、腕、足、爪。尾の他に、先に大きな口のついた触手のようなものが伸びている。
だが、不思議と怖くない。
あの茶会の席で、あの夢と現実が混じり合った、奇妙な体験をしたからだろうか。
ここも夢の続きか?
だが、ただ気持がいい。

「ぐぅッ!?」
刺すような刺激に俺は呻き声をあげた。
彼女の触手の一本が、俺の肛門を舐めていた。そしてわけ入ってこようと、舌を蠢かせている。
「だ、ダメだ。そこは……汚、い」
「生娘のような反応をするなよ」彼女はどう猛に笑っている。そうして、膣の締め付けが強くなる。「今、別の女のことを考えていただろう? ダメだ。今だけは私だけを見ろ」
彼女は俺にしなだれかかり唇を奪った。彼女の凶悪な胸が俺の胸との間で押しつぶされている。彼女の首元から伸びている舌と、もう一本の触手の舌が、俺の乳首を舐めている。
口の中では巨大な蛇のような彼女の舌が暴れている。
彼女は腰を振り続け、震えるままに、響くままに、彼女と俺は溶け合っているように思う。

唇を離しても、挑発的な瞳をしたまま、彼女は俺の頬に舌を這わせる。
ぬめりのある体温が、肌に染み込んでくる。俺は締め付けられるがままに彼女の中に、何度目になるかわからない白濁を注ぎ込む。
彼女はビクビクと首を仰け反らせて感じ入っている。
その剥き出しの喉に、俺は歯を立てる。

「ギィ……ッ」
虫のなくような呻き、彼女は目を白黒とさせていた。
獲物に反撃されて驚いたのだろう。
普段の俺だったらーー彼女という肉食獣に貪られるだけのーー哀れな子羊に過ぎなかった。
しかしどうしたことか、俺の性欲はとどまることを知らず、彼女を逆に貪ってしまえ、と頭の中に声が響いている。
この褐色の竜だけではなく、あの紅茶の味を口に感じる。

俺は彼女を逆に組み伏せる。足を大きく開かせそれを掴み、腰を浮かせると、根元まで一気に腰を打ち付ける。その衝撃で、彼女の胸がばるんと揺れる。
「ダメだ、こんな……。あっ、ぁっあ」
リズミカルに腰を振るたびに、彼女の圧倒的な胸が、下から上へとカタチを変えながら弾む。巨大に踊る褐色のスライムの谷間に、俺は顔を埋める。圧倒的な質量のそれは、左右から俺を押しつぶそうと叩きついてくる。
右手で右乳を鷲掴み、左乳の乳頭を甘噛みしてやる。

「ぅ、あぁあ〜〜〜〜」
あられもなく叫ぶ女の奥深くに、俺の欲望がぶちまけられた。ヒクヒクとひきつけを起こしたような女の首筋を噛む。津波のような快楽が、彼女の体の中で暴れまわっているようだ。
果てているくせに、彼女の肉は貪欲に俺の肉棒を締め付け、もっと、もっと、とねだってくる。
彼女の顔を見れば、みっともなくヨダレを垂らし、目尻には涙が浮かんでいた。
「ひどい……」
「イヤか?」
俺の問いかけに彼女は可愛らしく首を振り、言葉の代わりに、俺の唇を奪う。
彼女の膣はキュウキュウ締まり、彼女の腕と足は、万力のように俺を抱きしめる。

気がつけば、俺は再びあのティーパーティーの席に座っていた。
椅子の感触が柔らかい。
見れば、バニー姿の女性が椅子になっていた。
そのケツアナには人参が根元まで埋まり、絶え間ない振動音を伝えてきていた。
彼女の前の穴からは泉のように愛液が溢れ出し、まるで水溜りのような有様になっている。彼女の汗ばんだ肌から、ズボンにじっとりとした感触が伝わってくる。
あまりの光景に、俺は慌てて腰を浮かせる。
「ダメェ、どいちゃ……やぁ……」
悩ましげな懇願が椅子から届く。

「おやおや、君は彼女のおねだりを無下にシリぞけるのかな?」
「シリだけに〜、シリだけに〜」
ジャブジャブと音のする方を向けば、あの燕尾服の女性が、別の女性の股に、その手首まで埋めて中をかき混ぜていた。彼女の溢れてやまない愛液が、淫らで激しい音を立てている。
手淫されている女性の腕は、ボリュームのある薄桃色の羽毛に覆われている。足の先は鳥の爪。

彼女は人間ではない。

机の上では卵の殻の中に座った、黄褐色で半透明の幼女がこちらをみている。彼女に絡みついた半透明の白濁が、艶かしく絡みついている。
「それは君のザーメンさ。そろそろ継ぎ足してあげたらどうかね」
「ず〜る〜い〜。ひゃぁ、ぅん。ごめんなさ〜い。もう彼を掴んで逃げようとしないから、この罰をもっとください。このご褒美をもっとください」
ジャブジャブという水音がいっそう激しくなる。
「まったく、自由落下セックスなど、なんと羨ましいことをするのだろうか」
俺は、もしかすると、彼女たちともシたということなのだろうか……。

椅子の股を覗き込めば、白くトロミのあるものが混じっている。それをすくい取って椅子の口に持っていけば、丹念に、音を立てて舐め取られた。

彼女ももちろん人間ではない。
そういうのならば、俺はこのお茶会の席に着いてからというもの、俺は人間というものに会っていない。
「何なんだ、ここは」「ナニ? ナニは私のオマンコに突っ込んで」
「どうして、こうなった?」「ナニして、肛門に? ステキ……」
壊れた翻訳機のような言葉が椅子からは帰ってくる。

とても気持ちのいい思いはした。
だが、頭の中はもうすでにぐるぐると回って、目眩がして、俺はどうしてここにいるのか、どうしてここにやってきたのか、俺は、俺は、一体、仕事にも行かずに、なぜここでパーティーに加わっているのか。
今は何時だ。
今は何月何日、何年……。

わからない。

ただただ肉棒を差し入れる女の艶かしい吐息と、包み込まれる安堵感、欲望の開放感、求め続けても果てのない快楽が、俺を構成しているすべてであるかのように、

ああ、また。

俺はウサギの姿をした女のシリアナの奥深くに精を吐き出している。
ウットリとした幼女にザーメンを振りかけている。
落下していく浮遊感に、腰が浮き、鳥の姿をした女の中に白濁を放出している。
めまぐるしく変わるピンク色の空。毒々しい色をした大小様々なキノコの数々。
大、大、小。キノコ、キノコ、キノコ。

チラリと見えたペットショップでの真っ白い姿。
赤い目。
あれは、白兎だ。
俺が寂しくて、買ってきたはずの白兎は、突然風呂場へと飛び込んで、その排水溝の穴に吸い込まれるように……。

ありえない、ありえない。

そんな非現実的なことが起こるはずがない。
だから俺は白兎を追いかけて排水溝に吸い込まれて、追いかけて彼女をやっとのことで捕まえて、情欲に目を潤ませる彼女に逆に捕まえられて、草食獣であるはずの彼女に食べられて……。彼女の柔らかな肉体を覚えている。
このお茶会に引きずり込まれて……。
求められるがままに、求めるがままに彼女たちと体を重ねて……。

中には金髪の少女がいたと思う。
その時俺は思ったものだ。
ああ、アリスだ。彼女はアリスだ。俺はアリスだ。
きっと俺は彼女のように白兎を追いかけて、不思議の国に迷い込んだ。
この国から出るにはどうしたらいい?

「出ちゃうのかニャン? 出しちゃうのかニャン? そんニャ勿体無いこと、損ニャ。お前に出来るのかニャ〜ン」
嘲るような、甘ったるい声が耳元にかかる。
あたりを見回せば、俺は森の中にいた。
ウサギの椅子も、鳥女も、卵スライムも、燕尾服の女性もいない。
俺はただ、迷い子のように森の中に突っ立っていた。

気がつけば、知らない場所にいる。
本当に頭がおかしくなりそうだ。
いや、俺はもうとっくにおかしくなっている。それは認めよう。なぜなら彼女たちの体に触れたくて、彼女たちの体の中に入りたくて、彼女たちと交わることに一切の疑問も持たず、そこに一切の躊躇も理性も後悔も反省も、倫理などは鼻紙で、
ああ、セックスしたい。

俺は猛烈に頭を振る。

ダメだ。何を考えようとしても、何を考えても、ナニで考えて、ナニを考えて、オナニーをすればもったいなくて……。
「あ、ははは」
俺の口から渇いた笑いが漏れる。
「難しいことは考えなくていいニャーン」
ニャーンニャーンニャ〜ンニャ〜ンニャ〜ン。
頭の中で柱時計が時刻を告げるように、脳みそがネコソギ揺すられるようで。
吐き気はしなくて、ただ、下半身だけが熱くて……。

「気持ちイイことだけが大事なのじゃないのか、ニャ〜ン」
ニャ〜ンニャ〜ンニャーンニャ〜ンニャーン。
耳鳴りのように、体が震える。
俺はどこでものを考えているのだ。
考えているのは俺なのか、それとも……。

「さぁ、新しい紅茶を淹れよう」
やはり俺はティーパーティーの席に座っていて、あたりを見回せば、今まで俺が交わってきた魔物娘たちが好色な瞳で、俺が紅茶を飲むのを待っていて。
全てが微睡みのように、ティーポットの下に沈んでいる。沈んでいく。ーー沈む。
音もなく、ただ淫らな水音だけが聞こえる。
俺は順番に、彼女たちのカップに精を注いでいく。
これはきっと変態的な行為だったに違いない。
これはきっと間違った行為だったに違いない。
だが、彼女たちは期待と劣情で俺を見つめている。

ああ、悪い夢だ。
おかしくて涙が出る。
可笑しくて、おかしくて、犯したくて、俺は燕尾服の女性を押し倒す。
俺たちの痴態を肴に彼女たちはティーパーティーを進める。
次の順番は私なのだと、ウットリと舌なめずりをする。
俺はここにいたい、この狂ったお茶会を、果てることなく続けたい。

自分のものだとは思えないほどに怒張した、グロテスクな代物を、俺は彼女の股に容赦なく押し込む。
彼女は顔をトロけさせながら俺を受け入れる。
弾む乳房、クネる腰。上気した肌に濡れた吐息。情欲に爛れた瞳はそのまま溶け落ちてしまいそう。よだれは雫となって、溢れている。
彼女の中を、白濁の欲望で満たす。
満たす、満たす、満たす。

虚ろになった頭で、考える。

このお茶会は、狂ってる。
だがそれはどうでもいいことだ。
大事なことは淫らで気持がいいこと。
何かが頭からスポンと抜けて、何かが腹にストンとハマった。

ドロリと笑った俺に、どこかで甘ったるい、猫の鳴き声がーー





「ニャーン、そこのペットショップの白兎さん、招待状を、運んでみないかニャ?」

どこかのペットショップの窓、美女のニタニタ笑いが貼りついている。
彼女は不思議の国の住人を誘う仲間(ホワイトラビット)を増やしていく。
きっと、今日も、今もどこかで、白兎の瞳には、淫らで不思議に誘うきざはしが
ーー宿る。
17/06/01 13:08更新 / ルピナス

■作者メッセージ
私が飼いたくない動物はウサギです。
ヘビやトカゲよりも飼いたくない。
何故? あの無表情から繰り出される凶悪なパンチ、体当たり、噛みつき、叫び声、それに何より……いや、これはやめておこう。(可愛いことは可愛いのだが……。
しかし、もし不思議の国に誘ってくれるというのであれば、やぶさかではない。

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