読切小説
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『愛に溶けるまで』
「はぁ、はぁ……」
 息を荒くし、壁に手をつきながら、私はのろのろと廊下を進む。
 まだ時刻は昼前であり、窓の外には明るい日差しが降り注いでいる。窓から差し込む日差しと陰が交互に繰り返す廊下はひっそりと静まり返っており、私以外の人の気配はしない。
 それも当然だろう。今の時間なら、この宿舎で暮らす候補生は皆、講義や実習に出かけているはず。騎士候補生としてこの学院に通うものに、授業を怠け寄宿舎に残るような者はいない。
「そんなの、私くらいか……」
 切れ切れの息と共に自嘲気味に呟く。けれど、人気のない廊下は今の私にとっては幸いだった。
 なぜなら、全身をローブに包んだ今の私の格好は、誰かに見つかれば不審者として報告されてもおかしくないからだ。
「うう……」
 目指す場所はここから目と鼻の先ほどの距離にも関わらず、私の歩みは遅々として進まない。きょろきょろと辺りを窺い、人の姿がないかを確かめながらなので仕方がないのだが、気を張り詰め、神経をすり減らすその行程に嫌気が差しつつあるのも確かだった。
 踏み出した足元から、ぬちゃ、という音が響き、思わず視線を落とす。
廊下の床板には、私の足跡が染みになって残り、持ち上げた靴底からはねばねばした液のようなものが糸を引いていた。
「くっう、ぅ……」
 その拍子に襲い掛かってきた感覚に、思わず声を漏らしそうになるのを堪え、私は再び歩き出す。雨など降っていないのに濡れた足跡を残していくのは正直気になったが、今の私にはこれをごまかしたり、後始末をしていくだけの余裕はなかった。
「あ、あと少し……」
 前方に目をやればドアに、「エレイン=バートレット」と自身の名が書かれたプレートが掛かっているのが見えた。ようやく、目的の場所である自室へと戻ってこれたようだ。
 辺りを見回し、誰からも見られていないことを確かめると、私はドアを開け、自室へと滑り込んだ。そのまま後ろ手に扉を閉めると、鍵を掛ける。
がちゃり、と金属音が響くのを聞き、ようやく人心地つくことができた。
「はぁ……っ」
 安堵に胸を撫で下ろし、呼吸を整えて、大きく息を吐き出す。
 昼だというのにカーテンを閉め切った部屋の中は薄暗く、物音一つしない。わずかに差し込む光によって、壁際の机や戸棚、壁に掛けられた一振りの剣が、ぼんやりとその輪郭を浮かび上がらせている。
 不意に、くちゅ、と水気を帯びた音が響く。
「ん……ふ……っ」
 身体が震え、思わず声を漏らしてしまう。
視線を落とせば、太ももを伝い垂れた雫が床に染みを作っていた。ただの水滴ではなく、汗などでもない。それは水とは違ってもっと粘り気を持ち、そしてほんのりと桜の色に染まっていた。
 肌を撫でる粘液が滴り落ちるたび、背にぞくぞくとしたものが走る。
「くぅ……」
 私は唇を噛み、複雑な思いで足元を睨みつけた。見つめる間にも、ローブの裾からはとめどなく雫が垂れ落ちて靴を汚し、床板の染みを広げていった。
 後から後から垂れていく桃色の粘液は、足元に水溜りを作るほどになっている。液はその表面を不自然に波立たせ、意思を持つように蠢き、足首に絡み付いて、這い上がってこようとしていた。
 その度に触れられた肌だけでなく、身体の奥底にまで何かが染み込んでいくような、奇妙な感覚が私を襲う。
「ふあ……、や、あ……んっ」
 耐え切れず、声を漏らした私はぶるぶると身体を震わせ、ローブを脱ぎ捨てる。肌が外気に晒され、ひやりとした感触が伝わった。粘液の水気を吸い、びしょびしょに濡れたローブが、べちゃりと音を立てて床に落ちる。
 壁際におかれた鏡に目を向ければ、今まで布に覆い隠されていた自分の姿がさらけ出されているのが見れた。
 そこに映る異様な姿に、私は呻くように言う。
「いやぁ……こんなの……」
 鏡の中の少女は顔を真っ赤に染め、開かれた口からは荒い呼吸が繰り返されている。長い金の髪は乱れ、前髪が汗で額に張り付いていた。
 身に付けていた騎士候補生の制服はところどころが溶け落ちたようにボロボロで、かろうじて襟飾りと胸元のリボン、肩の袖が形をとどめているくらいだった。胸から股間にかけての布地はほとんど残っておらず、胴の部分はほとんど肌が露になっている。
 そして、私の胸の双丘や股間には、桃色の不定形生物――スライムがまとわりついている。スライムが付着しているのは胴体だけではない。腕や足も粘液に覆われ、さらには頭にも帽子のようにスライムが載り、長い髪を伝って雫を垂らしていた。
「ん……うぅ……っ」
 濡れた布とスライムが肌に張り付く感触に、私は首を振る。乱れた髪から粘液が飛沫となって飛び、鏡に跳ねた。
自分自身の姿が、垂れた粘液に汚れた鏡面で歪む。
 それを見つめ、今にも泣き出しそうな顔をして、鏡の中の私の口が動く。
「うぅ……また、増えてる……」
 はじめはほんの小さなものだった薄桃色の不定形物体は、日に日にその大きさを増し、今では私の身体を包み込むほどになっていた。こうしている間にも不気味に蠢き、まとわりつくスライムはこのまま私を取り込み、全身を覆いつくさんとするほどだ。
 ねちゃねちゃと粘つき、液体を滴らせるスライムのせいで既に、服を着替えることもできなくなったしまった。部屋を出るときはローブで誤魔化しているが、これ以上になったら流石に隠しきれないだろう。
「ふぁ……やっ、あ……」
 加えて、最初は張り付いているだけだった粘液が、今では自身の意思を持っているかのように絶えず蠢き、流動している。
いや、こっそりと本で調べた結果を信じるなら、間違いなく、この粘液は独自の意思――というよりは、本能だろうが――を持っているのだろう。
「あっ、やっ、ぁ……なん、で……、こんな……んくっ!」
 さらに厄介なことは、変化が起きているのがスライムだけではないことだった。
 肌の上を生温かな粘液が這いずることに、最初は嫌悪しか感じなかったはずなのに、いつしかそれが快感へと変わりはじめ、心のどこかが望んでいることに、私は気付いてしまったのだ。
「んっ、それに、この、感じ……っ、ぁ、どんどん、強く……あっ、ん……っ!」
 体を包むスライムが動き、揺れるたびに肌に走る刺激に、反射的に声を上げてしまう。日増しに刺激が強く、感じる鮮明になるたび、私の中で快感を望む心も強くなっていくようだった。
「くぅ……、こ、こんなの……あ、やぁん!」
 拭い取ろうとしても、既に両手も粘液に包まれており、触れた肌にスライムを塗りつけ、かき混ぜ、にちゅりと淫らな水音を立てることしかできない。そしてそれがさらに強烈な刺激を生み出し、私を悶えさせてしまう。
 そうでなくても、段々スライムがもたらす快感は強くなってきている。
 肌にスライムを触れさせているだけで自分から何もしなくとも、時折、声を抑えるのも難しいほどの快感が襲ってくる。
 先ほど部屋の外に水を飲みに行くほんのわずかの距離でも、動けなくなるほどの刺激に何度も口を塞ぎ、嬌声を噛み殺さなくてはならなかった。
「――ん、ふぁ……っ! や、ぁ……あ……」
 股間、そして乳房を包む粘液が蠢き、私の身体を震えさせる。身体の中を稲妻が突き抜けるような衝撃に、見開いた私の目から、涙が零れた。
「はぁ……ぁ……ふぁ……、だ、だめ……ぇ」
 がくがくと足が震え、力が抜ける。倒れてしまいそうになるのを必死で堪えながら、私はよろよろと、おぼつかない足取りでベッドへと進んだ。足を踏み出すたび、既に完全に足首を包んだスライムがべちゃりと音を立て、飛沫が跳ねる。胸を包んだスライムが揺れ、太ももの間で粘液が擦れ、肌に垂れ落ちる。それすらも今の私には身を震わせる刺激となってしまう。
「んっく、う、あっ……」
 シーツが汚れるのも構わず、私はベッドに倒れこむ。ごろりと転がって仰向けになると、スライムは波打ちながら私の身体を覆っていった。首筋から頬へと這い上がった粘液が、愛しげに顔を撫でる。かと思えば、くすぐるように肌の上を滑り、這いずって、肉を揉み解していく。
 スライムが私を撫でるたび、肌がとろけ、艶やかになっていくような気がする。それが、私にはむずがゆいような、心地よいような、奇妙な感触となって与えられていった。
「ふ……ぁん……」
 ねばつき、蠢くスライムに私が反応するたび、それを面白がり、悦ぶかのように粘液の動きも激しくなっていく。全身をスライムの海に包まれ、波に揺られながら、私はただ声を上げ、身を悶えさせることしかできなかった。
「うぅ……んっ、もう、や、やだぁ……ああっ!」
 身も心もとろけてしまうような快感と、スライムにいいように弄ばれる屈辱に、涙が滲んでくる。
 そんな中、首筋や頬にまとわり付いたスライムの一部が、ぶちゅぶちゅと音を立てて盛り上がった。ぎょっとして動きを止め、凝視する私の目の前で、蛇のように鎌首をもたげたスライムが揺れた。
「な、にを……」
 ゆらゆらと不吉な動きを見せるスライムに、本能的な恐怖を覚え、同時にこの後自分が何をされるのかを察した私は、ふるふると首を振り、懇願した。
「やっぁ、やめ、……、あっ、ん、やめて……んんぅっ!」
 だが、その願いも空しく、スライムの触手は過たず私の口をめがけてするりと伸びる。反射的に口を硬く閉じるが、スライムは構わず、べちゃりと口元に貼り付いた。生温かいものに口を塞がれる感触に、思わず涙が零れる。
 貼り付いたスライムはしばし私の口元を覆ったまま動きを止めていたが、やがてぐねぐねと蠕動し始めた。
「ん、ぐ……っ」
 スライムが私の中に入り込もうとしているのだと気付き、私はあらん限りの力で歯を食いしばり、唇を引き結ぶ。
「ん、うぅ、ううう……んん……」
 一方のスライムも、私の中になんとか潜り込もうしてくる。粘液が唇をこじ開け、わずかな隙間から少しずつ染み込んでこようとする。舌先に奇妙な味を感じ、思わず吐き出したくなったが、必死に堪え、私はさらに強く歯を食いしばった。
 抵抗を続ける私に業を煮やしたのか、スライムはさらに激しく蠢き、さらには鼻から下、顔の下半分を完全に覆いつくした。
 それでもなお、私は口を開けようとはしなかった。息が苦しく、目の前がちかちかとしてきたが、半ば意地になって抵抗を続ける。
 が、不意にスライムの侵入が止まった。
 音もなく波が引くように、首元にまでスライムが退いていく。
「……?」
 諦めたのか、といぶかしむと同時に、安堵に胸を撫で下ろす。念のため、口は閉じたまま鼻から胸いっぱいに空気を吸い込み、ゆっくりと吐き出す。
 その時だった。突然、全身にまとわりついていたスライムが、今までにない強さで私の身体を愛撫し始めたのだ。
「ひあっ!? あ、あぁっ!」
 油断しきっていた私にとっては完全な不意打ちに、悲鳴とともに身体が跳ね上がる。特に胸、臍、股間を同時に責められ、意識が飛んでしまいそうなほどの刺激が叩き込まれた。スライムにつままれた乳首がつねられ、臍の上を撫でられ、割れ目をこじ開け、膣内に潜り込んだ粘液が襞の上を舐めていく。
 言葉に出来ない快感が私を襲い、耐え切れず力が緩んだ瞬間、まとわりついていたスライムたちが、濁流のように開いた口に流れ込んできた。
「むぐうっ! ん、んぐうぅっ!」
 拒むことも出来ず、勢いよく押し寄せるスライムが口内を満たす。粘液が舌と絡まり合い、頬裏を擦り、喉の奥へ奥へと流れ落ちていく。
 全身にまとわりつくスライムが、ついに身体の中にまで入り込んできた。そう理解した私は激しい嫌悪感と嘔吐感に襲われ、涙を浮かべる。
 しかしそんな感覚も、ほんのわずかな間だけで、次第に薄れ始めた。
「うぅ、ぐ……っ、うぷぅ……んっ、ん……うぅ!」
 舌の上を粘液が撫でるたび、濃厚な甘さが脳髄を痺れさせ、嫌悪感を薄れさせていく。
 いつしかお腹のあたりはじわりと熱を持ち出し始め、心地よい温かさが身体に広がっていった。喉を流れ、胃の中に辿り着いたスライムが、私の中に染み込んでいる。目で見ることは出来なくても、私にはそれがわかった。
「んぶ、うぐ……ごぷ……んうぅ……っ!」
 口から流れ込み、体内を犯すスライムと、いまだ全身を包み、胸や秘所を愛撫するスライム。それらが絶え間なく送り込む快感が、理性を失わせ、思考を止め、私の心を酔わせていく。
「んふぅ……っ、んっ、んく、んく……ぷ、ちゅ……」
 とめどなくスライムを流し込まれ、いつしか私は自分から求めるように、口内を犯す粘液を飲み下していた。スライムに包まれた手は、無意識のうちに胸と股間に伸び、ぬちゃぬちゃといやらしい音を響かせながら、自身を慰めている。
「んぅ……、んっ、あ……あっ、も、もっとぉ……」
 はじめて上げる懇願の声に、私を包むスライムが嬉しそうに震える。ごほうびとでも言うかのように蠢くスライムが激しく私を愛撫し、口からだけでなく、あそこやお尻からも私の中へと潜り込み、全身を内と外から侵す。
「んんうぅっ!」
 それすらも今の私には快感となり、心と身体を蕩けさせていく。
 快楽に溺れ、何も考えられなくなり、スライムに塗れたまま、私は自慰を続けていた。
 指が秘所をかきまぜ、粘液を溢れさせる。胸がスライムと私の手に弄ばれ、乳房が形を変える。喉を流れ落ちる桃色の甘い液を飲み込むたび、瞳からは歓喜の涙が零れた。
 いつの間にか、全身にまとわりつくスライムが、自身の一部のように思えていた。そして身体の内と外に粘液が触れるたびに生まれる刺激は、私を溶かし、身も心もスライムに変えてしまうようにも感じられた。
「んぅ……んぷ……あぁんっ! ふぁ、ちゅぷ、んっ……、あぁっ!」
 必死になって粘液に塗れた手を動かし、自身を慰め、その度に涙を零す私。その全てを包み込むようなスライムの海。快感の中に沈み、自分というものが溶け消えていくような錯覚の中で、最後に残った私の意識は、ぼんやりと全ての始まりを思い返していた。



 それは、今から一週間ほど前に遡る。

「え? 魔物が出た?」
 教室に息せき切って駆け込んできたクラスメイトの少女の言葉を、私はきょとんとして繰り返す。それに、彼女は荒い呼吸を整えながら、興奮気味に頷いた。
「そう! で、調査団を送るんだって。それ関係で今日の講義は中止になるらしいよ!」
 彼女の話によると、どうやらこの近くで魔物を見た、との報告があったらしい。流石に本当かどうかも分からない話に騎士団を動かすことはできないようで、その真偽を確かめるために私たち騎士候補生を調査に出すようなのだ。
「なるほど……道理でやけにさっきから先生方が慌ただしいわけね」
「あ、噂をすればなんとやら。来たみたいよ」
 そういって自分の席に戻っていく彼女。視線を前方に向ければ、ちょうど教壇のところに私たちのクラスの教師と、見慣れない男性がやってくるのが見えた。
「諸君、静粛に!」
 騎士服をまとった男性の言葉に、ざわめいていた室内が静まり返る。
「既に聞き知っているものもいるかと思うが、つい先ほど、魔物らしきものの目撃報告が入った。我々神殿騎士団としてはかのような邪悪な存在を放置しておくことはできないが、神殿の守りのためには噂程度の事案に大人数を避くわけにはいかない」
「……騎士団も人手不足か」
 ぼそり、とつぶやいたのは隣の席の青年、アスト。
 ちら、と視線を送ると、それに気づいたのか、彼もこちらに顔を向け、小さく微笑んだ。
「っ!」
 思わず顔が熱くなるのを感じ、ばっと視線をそらす。どうやら周囲に気付かれずには済んだようで、私は安堵に胸をなでおろした。
 再び壇上の騎士の話に耳を傾ける。
「そこで、諸君には目撃証言のあった付近の調査へ参加をお願いしたい。実戦とはまた異なる任務であるが、将来騎士団への入団を目指す諸君らにとっては、有意義な経験となるはずだ」
 騎士の男の語る内容を、神妙な顔で聞いていく候補生たち。
 調査、との名目ではあるが、どうやら私たちの仕事は騎士団の任務というよりは手伝いといった程度らしい。そもそも目撃報告自体、本当に魔物だったかどうか怪しいものだ。私たちに過度の緊張を与えないためか、おそらく獣か何かの見間違いだろうな、と騎士は説明し、仮に魔物だったとしても危険度はそれほど高くないだろう、と言葉を加える。
 そんなこともあり、当初は硬かった候補生たちの顔にも安堵と余裕が広がっていく。私たちにとっては街の外での初の実戦とはいえ、私たちの受け止め方も、課外授業の延長、といったものとなっていた。むしろ、血気盛んな男子の幾人かには、多少の物足りなさも見える。
「では、各自準備を整え、先ほど説明した場所に集合するように」
 その後いくつかの補足説明を終えた騎士が立ち去ると、候補生たちは準備のためにあちこちへと散っていった。
 私も装備を整えようと立ち上がると、隣から声がかかる。
「エレイン。一緒に組まないか?」
「えっ? ええ、いいけど……」
 予想してなかったアストの言葉に一瞬驚いたものの、私は反射的に承諾の頷きを返していた。
「よし、じゃあ準備終わったら、昇降口で待っててくれよ」
「う、うん」
 答えた私に笑顔を浮かべ、軽く手を振って去っていく青年。その後姿を見送りながら、私はやけにうるさく感じる鼓動を治めようと、無意識に胸に手を当てていた。

「……く、ぅ……」
 大木の幹に背を預け、うずくまった私は息を漏らす。その間にももぞもぞと服の中で動き回るモノの異様な感触に、背が震え、体が跳ねそうになってしまう。
「く……」
 唇を噛みしめ、ともすれば漏れ出てしまいそうになる声を押し殺す。そんな私をあざ笑うかのように、肌の上を這いまわるモノが蠢き、絶え間なく刺激を与え続けてくる。にじむ汗が服を貼りつかせ、スカートの布地には粘液が染み込み、痕を作っている。
 半ば無意識にスカートの中に潜り込ませた手が、私に取り付いた薄桃色をしたモノ――スライムに触れた。ぐちゅ、という粘着質な音とともに、指先に粘液がまとわりつく。
「ひっ」
不気味な感触に、慌てて手を引き抜く。指先を濡らすスライムは糸を引き、雫を垂らしながらも意思を持っているかのように蠢いている。
 それを見つめる私の口からは、困惑といらだち、そしてかすかな恐怖を混ぜた声が漏れた。
「なんなの、これ……」
 こんなものがいるなんて、全く想像もしていなかった。私もアストも、他の候補生たちも簡単な実習だと思い、高を括っていた。
 けれど、まさかこんな得体のしれないモノがいるなんて。
 アストと共に魔物の調査をしていた私が見つけたモノ。
 それが今服の中に潜り込み、私の体にへばりついていた。
 油断は、確かにあっただろう。何せ最初に見たそれは、不思議な色をした小さな水たまりでしかなかったのだから。
 だが、不思議に思った私が近づいた途端、それは想像以上に素早く地面を滑り、私の足にまとわりつき、這いあがってきた。慌てて引きはがそうとするのもあざ笑うかのように、スライムは服の中へと侵入すると、体に貼りついてしまった。
 さらには、うまく言葉にできないが、先ほどからスライムが体の上をうごめくたび、何かが私を侵しているような、そんな感覚がある。
「ふぅ……、う、ぅ……」
「エレイン……」
 苦しげな私の呼吸に、先ほどから心配そうにこちらを伺っていたアストが顔をのぞき込む。彼は眉をしかめ、堪りかねたように口を開いた。
「やっぱり報告して、ちゃんとした治療を受けた方がいいんじゃないのか?」
 不安と焦りを浮かべるアストに、私は何とか言葉を返す。
「だい……じょうぶ、だから……。アスト、そんなに心配、しないで……」
「けど」
 なおも言いつのろうとする彼に、私は首を振る。これ以上、彼の辛そうな顔を見るのは嫌だった。だが、私が無理をしているのは丸わかりだったのだろう。こちらを見つめる彼の顔が、泣きそうにくしゃりと歪んだ。
「本当に……大丈夫、だから」
 ぎこちなく笑顔を作り、彼の手を握る。優しく、でもしっかりと握り返してくれたアストに嬉しさを感じながら、私はゆっくりと瞳を閉じた。
「エレイン!」
 必死になって私を呼ぶアストの声も、どこか遠くに感じながら、私の意識はゆっくりと暗闇の中に落ちていった。



 かすかな呻きが、唇から洩れる。
「うぅ、ん」
 鉛のような重さを瞼に感じつつ、私は瞳を開ける。
 その視界いっぱいに広がるのは、漆黒の闇だった。
 ぼんやりと真っ暗な虚空を眺め、そのうちに暗闇にも目が慣れてくると、見知った天井がうっすらと浮かび上がってきた。それで、ここが宿舎の自分の部屋だとわかる。
 視線をずらすと、窓の外にも夜の帳が下りていた。
 どうやら、いつの間にか眠ってしまっていたみたいだ。
 夜も更けたのか、あたりは静まり返り、隣室や廊下からの物音もない。
「ん……」
 ごろんと寝返りを打つと、にちゃりという音が響いた。
 それと同時に生暖かく、粘ついた感触がいまさらながらに肌を通じて伝わってくる。
 一瞬驚き、戸惑ったものの、すぐに自分の体のことを思い出し、私は短くつぶやいた。
「光よ」
 唇が動き、灯りの魔法が紡がれる。ちなみに宿舎内で許可なく魔法を使うことは禁じられているが、これくらいならみんなやっていることだ。明かりを灯すだけのこの魔法は魔力もほとんど使わないし、ばれることもないだろう。
 寝起きの、まだ幾分ぼんやりした頭で魔法が使えるかは不安だったが、幸い上手くいったようだった。音もなく生み出された小さな光球がふわりと浮かび上がり、淡い光で室内を照らす。
「うん、しょ……」
 明かりに目を細め、私はゆっくりと体を起こす。ベッドについた手がべちゃりと音を立て、粘液を跳ねさせた。
「うえ……変な味がする……」
 口の中に感じた違和感に眉をしかめ、私は舌を垂らす。涎に混じった薄桃色の液体が垂れるのを拭うと、その拍子に、同じく薄桃色の雫が前髪からぽたりと落ちた。
「ぅ、ん……っ」
 後から後から髪を伝って流れ落ちる粘液が、肌をくすぐる。そのこそばゆいような感触にかすかな快感を覚えながら、私は自分の姿を見下ろした。
「うわぁ」
 思わず、声が出てしまう。
 眠りに落ちる前と比べて、私を包むスライムはその体積をさらに増していた。その量はもはや私の体だけではなく、ベッドの上を覆い尽くすほどだ。
 今の私はその真ん中で全身に薄桃色の粘液をまとわりつかせ、膝から下は粘液の塊に飲み込まれてしまっていた。両腕は手袋のようにスライムが包み込み、胸や股間も下着代わりに粘液が覆っている。まるで、スライムの塊に私が溶け込んでしまっているかのようにも見える。
 私が自身を見つめる間も、体を包む粘液はうねうねと蠢き、その度にぞくぞくと快感が走る。今の私は胸や秘所、お尻だけでなく、スライムの触れるありとあらゆる場所から敏感に刺激を受け取り、快楽へと変えて受け取っていた。
 ただ座っているだけでも、体の奥底から、じわじわと熱が生まれていく。
 先ほどまでなら嫌悪していたはずのその感覚も、今の私には待ち焦がれ、待ち望むものとなっていた。高まる興奮に吐き出す息にも熱がこもり、呼吸は荒くなっていく。
「んぅ……ふ、ぁ……ん、いい……」
 快感を堪えきれず、体が震える。私が声を漏らすと、スライムは嬉しそうに肌の上を這いまわった。それは次第により官能的な動きへと変わり、性感帯と化した全身にさらなる刺激を与え、私を蕩かしていく。
「あっ、それ、いい……きもち、いぃ……」
 スライムは私を優しく包みながらも、私の望みを読み取るかのように的確に愛撫を加える。自分の肉欲を満たしてくれる存在に再び溺れはじめた私は、いつしか自ら身を委ねていた。
 快楽の中に理性は既に溶け、獣の本能が体を支配していく。今まで無意識に抑圧してきた淫らな本性が、スライムの愛撫によって解放され、悦びとともに私を動かしていく。そんな私の変化を受け、スライムの動きもますます激しさを増していった。
「あっ、ん! ふぁ、ぅ、いっ、いいよぉ! やっ、あ、もっと、もっとしてぇっ!」
 乱暴に胸が揉みしだかれ、肌の上を粘液が流れ落ちる。閉じた太ももに構わず、股間を覆うスライムが割れ目の中へと這入りこんでいく。
「ふあぁっ! な、なか、はいって……、はいって、きちゃってるぅ……っ!」
 秘所へと染み込み、割れ目の中を犯していく粘液。襞に触れる生温かな感触が、私の背を震わせ、体の中と外でスライムが蠢くたびに強烈な刺激が脳髄へと叩き込まれる。
「あ、んんっ! それ、ぇ……いい、ぐちゅぐちゅって、されるの、すごい……っ! きもち、いいっ……いいよぉっ!」
 強烈過ぎる快感に堪え切れず、私はひときわ大きな嬌声を上げる。
 涙を零し、悦びの声を漏らしながら、私は胸と股間にそれぞれ手を伸ばした。
「んく……っ、う……んんっ!」
 スライムの愛撫に合わせ、粘液に塗れた私の手が乳首を弄り、膣の中をかき回す。いやらしい音が響くたびに滲む愛液と粘液が混ざり、むせ返るほどの淫臭が部屋に満ちる。
「あっ……あ、あ……、だ、だめ……だめぇ……っ」
 絶え間なく押し寄せる快感が私を翻弄し、強烈な刺激が思考を白く染める。快感が稲妻となって背を貫き、体が跳ねる。快楽が襲うたび、私とスライムの感覚は溶け合い、一つになっていくようだった。
「い……やぁ……いや……あっ、わたし……おかしく……ひぁあんっ!」
 心と体、その両方が変わっていくことに本能的な恐怖を感じ、私はいやいやと首を振る。
 しかし、既に快感に溺れてしまった私の体は欲望のままに自身を弄り、慰める手を止めようとはしなかった。全身にまとわりつくスライムも激しく波打ち、蠢き、秘所から胎内に入り込んでくる。意思を持つ粘液は、好き勝手に私の体を弄び、犯していく。
 それが私の興奮を際限なく高め、変質を加速させていった。
 肌の艶は増し、感覚は敏感になっていく。羞恥や嫌悪はもはや欠片もなく、もっと快感を味わいたいという欲望が肥大化していく。
「あっ、あ……、も、もう……だめ……だめぇ……っ」
 肌と膣、体の内外から送り込まれる快感に翻弄され、私は震えながら声を漏らす。強烈極まりない刺激の前に、意識を保つのもやっとだった。それでも、秘所を激しくかき回す私の手は止まることはなく、肌や胸を揉みしだく粘液もその勢いを衰えさせることはなかった。
 どこまでも高まっていくかのような快楽。
 だが、直後、私は耐え切れず、あっけなく限界を超えた。
「あ、あああぁぁぁぁぁぁ……っ!」
 ひときわ大きな声を上げ、私は背をのけぞらせる。脳裏が白一色に塗りつぶされ、その中で光が明滅するたびに、びくん、びくんと体が跳ねるのがわかった。愛液が膣内を犯していた粘液と混ざり、噴き出す。
 それを感じ、私は悦びに打ち震え、大粒の涙を零した。
「ふぁ……、あ、ん……」
 絶頂を迎え、その波が次第に引いていくのを感じながら、私はゆっくりとベッドに倒れ込む。
 べちょり、と音を立てて横になった私を、スライムが優しく包み込んでくれた。ごろりと転がり、仰向けになった私が手をかざすと、粘液が腕を伝い、指と絡み合った。
「……なんだろう、不思議な感じがする」
 部屋を照らす魔力光に輝く薄桃色の粘液を見つめ、私はぽつりと呟いた。
なんだか、今まで以上にスライムとの一体感を感じる。全身にスライムを纏わりつかせたこの姿が、自然なものであるように感じ、まるで私とスライムが一心同体であるかのようにも思えた。
「それも、いいかな……」
 そう呟き、肌の上を撫でるスライムの感触を心地よく感じながら、私の瞳はゆっくりと閉じる。そのまま、私は全身を包むスライムを感じつつ、快楽の余韻に浸るのだった。



 ふと、私の耳に、小さな音が響いた。
「ん……」
 ぼんやりとしていた意識が現実へと引き戻され、私は重い瞼を上げる。
 顔を向ければ、こん、こんと規則正しく響くその音は、窓の方から聞こえてくるようだ。
 それに混じって、よく聞き知った声が名前を呼んだ。
「エレイン? 起きてるのか?」
「アスト?」
 私はゆっくりと身を起こし、口を開く。その問いかけに、潜めた声が返ってくる。
「ああ」
「ちょっと待ってね」
 呟くとともに、私を包むスライムの一部が蠢き、ベッドから垂れ落ちる、音もなく床を滑る粘液は壁から窓枠へと這い上がると、器用に鍵を回した。
「いいよ、入って」
「悪い」
 私の許可に、アストは辺りを窺い、それから室内へと身を滑り込ませる。既に照明の魔法は効果を失っており、部屋の中は再び暗闇に閉ざされていた。ベッドに座る私からは、窓辺に立つ彼の輪郭だけが、うっすらと浮かび上がっているのが見える。
「あー、えっと、迷惑だった? けど、やっぱり気になったから……」
 夜遅くに女の子の部屋に押し掛けたせいか、アストの言葉も微妙に歯切れが悪い。
「平気、気にしてないよ」
 別にこの部屋に入るのが初めてではないのに、どこか気まずげな彼の様子に、私はこっそりと笑みを漏らした。
「わざわざ来てくれたってことは、心配、してくれたんでしょう?」
「ん……、まあ……」
 私の言葉に、アストは照れ臭そうに頬をかく。
 そんな様子がどうにも可愛らしくて、私は思わず笑ってしまった。
「わ、笑うなよぉ」
「ふふ、ごめんね」
 それでも堪え切れず、くすくすと声を上げて笑う私に、暗闇の中のアストが顔をしかめるのが分かる。見なくても、彼の憮然とした表情がまざまざと思い浮かび、私は小さく体を揺らした。
「む……」
 見舞いに来た相手に笑われ、アストは拗ねたような空気を纏ったまま、部屋の中に立ち尽くしている。やがて、はあ、と溜息を吐き出し、わざとらしく疲れたように言った。
「ったく、思ったより元気そうだな。こんなことなら来るんじゃなかった」
「ごめんごめん。心配してくれたのは、嬉しかったよ。ありがとう」
 ひとしきり笑い、目元の涙を指で拭って、言う。
 それに彼は誤魔化すように、ふんと鼻を鳴らした。
 次いで、アストは疑問交じりの言葉を発する。
「しかし、なんだ、この匂い?」
「え?」
「いや、最初から気になってはいたんだが……」
「そう? わからないけど」
 突然の言葉に小首を傾げ、私は視線を向ける。
 それにアストは鼻をひくつかせ、匂いを嗅いで言う。
「分からないって……そんなことないだろ。すごいぞ、これ。何ていうか、こう、甘ったるい蜜みたいなのが……。エレイン、大丈夫なのか?」
「大丈夫よ、アスト」
 不安げに尋ねる彼に、私は答える。
 本当に、私には特に異常は感じられないのだ。
 別に、何か香を炊いたり、匂いのきつい食べ物を食べたりした記憶はない。 あの日以降、自分の姿を隠すために窓は閉め切ってはいたが、悪臭が発生していたりはしていないはずだ。鼻が利かなくなるほど体調が悪いわけでもないし。
「それなら、いいけど……」
 声の調子から、それを感じたのだろう。まだわずかに疑念は残っているよう だが、アストの体から緊張が抜けたのが分かった。
「そういえば、部屋暗いままだな。灯り、つけていいか?」
「あ、うん。いいよ」
 言われて、室内がずっと暗闇に包まれていることに気付く。
「私が魔法使ってもいいけど」
「無理するなよ。いくら灯りの魔法が初歩っていっても、精神力は使うんだからな」
 もう一度魔法を使おうと口を開きかけた私を、アストが止める。
「ん、わかった。ランプなら、机の上にあるから」
「ん……、ああ、これか。……よし、と」
 手探りでランプを探し当てたアストが、火を灯す。
 しゅぼっ、とかすかな音がするとともに、オレンジ色の光が部屋の中を照らし出した。ゆらゆらと揺れる彼の影が、背後の壁に浮かび上がる。
 ランプを机の上に戻し、アストがこちらに振り向く。
 その動きが、凍てついたかのように止まった。
「なっ……」
「どうしたの?」
 私の問いかけにも、アストは目を見開き、唇を震わせるだけだった。何かを言おうとしているのだろうが、まるで言葉にならない。顔色ははっきり分かるほどに蒼白で、頬がひきつっている。
 やがてのろのろと持ち上がった指先が私を指し、ようやく彼の口からかすれた声が響く。
「エレイン……、お、お前……、それ……」
「私?」
 いまいち要領を得ないアストの言葉を聞きながら、私は改めて自身の姿を見下ろした。
 身を起こしたベッドの上は粘液であふれ、その真ん中に私がちょこんと座っている。元から身に着けていた衣服は粘液の侵食せいか、見る影もないほどボロボロで、かろうじて残った布地にも粘液が染み込み、すっかり色が変わっている。服としての用をなさなくなった布の替わりに、ほとんど露わになった肢体を、薄桃色のスライムが包み込んでいる。
「どこか、変かな……」
 自分の体をしげしげと眺め、私は首をかしげる。ランプの灯りに照らされた表面は、てらてらと星々のように煌めく。
 体の調子を確かめるようにあちこちをまさぐる。腕を持ち上げると粘液が垂れ、スライムが蠢く。胸や股間を包む粘液が肌を刺激するたび、無意識のうちに私の体が震えた。
「ま、まさか、あの時のか」
 ほぼ裸身を晒す私に頬を赤く染め、わずかに視線を逸らしながら、アストは唇を噛みしめる。
「こんなにまで……。く、もっと早く、何とかしていれば……」
「アスト? ……どうしたの?」
 尋ねたものの、彼の呟きの意味は、なんとなく分かった。おそらく、私がこんなになるまで何も手を打たなかったことを悔いているのだろう。
 もっとも。私には、彼が何故そこまで自分を責めるのか、理解できなかったけれど。
「どうしたの、って……」
 はっと顔を上げた彼が、何を言っているんだ、と言わんばかりに私を見つめる。
 そんなアストを、私はきょとんとして見つめ返した。
 静寂の中、二人の視線が絡み合う。
「あ……」
 やがて、私の心の中に何かが生まれた。それがなんであるかを理解するよりも早く、それは心の奥底から浮かび上がり、むくむくと大きくなっていく。心の水面が波立ち、ざわめく。
 かすかに開いた口から漏れる吐息は、いつの間にか熱を帯びていた。
 もう何度となく見た彼の顔が、体が、私を惹きつける。
 何故、今まで気づかなかったのだろう。こんなにも、彼は魅力的だということに。
 いや、気づいてはいたし、私自身も薄々、恋心も持っていることは自覚していた。けれど、こんなにまで、彼のことが欲しいと思っていたなんて、気が付かなかった。
 彼の側にいたい。彼と語り合い、口づけをし、交わりたい。この身に纏うスライムの中に彼を包み込み、肌を触れ合わせたい。彼を求め、彼に求められ、一つに溶け合いたい。
 そんな欲望が、知らず私の息を荒くさせ、肌を熱く火照らせる。
 涙に潤んだ視界の中で、彼の姿が揺らいだ。
 切なげな声で、私は彼を呼ぶ。
「アスト……」
「お、お前……まさ、か」
 名を呼ばれ、はっと我に返ったアストは、何かに気付いたのか。
 こちらに向けられた彼の瞳に、怯えにも似た色が浮かぶ。一瞬の躊躇いの後、彼はわずかに首を振りながら、声を漏らした。
「もう……心、まで……魔、魔物に……」
 そう言う彼の顔は先ほど以上に青ざめ、声には絶望が滲む。
「何、言っているの?」
 どうしてそんなに悲しげな顔をするのか、私には分からない。私の心が魔物になったなんて、そんなの、当たり前のことなのに。
 そんなことを思いながら、私はゆっくりと立ち上がった。ベッドに広がっていた粘液が集まり、私の足を腰まで包む。股間に貼りついたスライムが秘所から割れ目の中へと侵入してくる。膣内で粘液が動くたび、私の背には刺激が走った。
 もう、わざわざ足を動かす必要もなかった。私の行きたいところが分かっているかのように、スライムが動き出す。いや、実際に私の思考を読み取り、従っているのだ。なぜなら、今の私とこのスライムは文字通り繋がっており、一心同体といってもいいのだから。
 間断なく与えられる刺激に、私ははぁはぁと呼吸を荒くする。その下半身を呑みこんだまま、スライムは這いずり、ベッドからずり落ちた。
 べちょ、という音が響き、彼の肩が小さく跳ねた。
 それに構わず、スライムはずるり、ずるりと音を立てて彼に近づく。
「!」
 粘液にまたがった私が彼の目の前まで近づくと、アストは半ば反射的に、身を引こうとした。
「な……!?」
 しかしアストの望みは果たされることなく、無情にも彼の足はその場から動くことはなかった。
 はっとして足元に目を落とした彼は、直後小さな悲鳴を上げる。
「ひ……!」
 つられて私も目を向けると、既に彼の足は、既に踝の辺りまでスライムに呑み込まれ、床に縫い付けられていた。必死になって足を引きはがそうとするものの、蠢きながら纏わりつくスライムはしっかりと彼の足を包み込み、動きを封じている。
 意図したものではなかったのだが、スライムが気を利かしてくれたのだろう。
「ねえ、どうして逃げようとするの? アスト。大丈夫だよ?」
 怯えたような彼の様子に、疑問と、ほんの少しの悲しさを感じた。
 どうして私のことをこんなに怖がっているのかはわからないが、安心させてあげようと、私は両腕を広げる。彼を抱きしめ、迎え入れようとする私の意思を受け、腕を包むスライムも蠢き、糸を引いて雫を滴らせながら、彼を包み込もうと大きく広がった。
「や、やめ……エレイン、正気に……」
 私の行動を理解したアストは、口をわななかせ、身をよじった。彼が何を言っているのかは分からなかったが、私はその震える体に、優しく腕を巻き付ける。粘液と服越しにでも女の私とは違う、大きくてしっかりした身体の感触が伝わる。一瞬、びくりと大きく体が大きく跳ねたが、私がその背をなでると、彼の体からも次第に力が抜けていった。
「怖くないよ、大丈夫。アスト、私は私だよ」
「エレイン……」
「私は、アストのことが大好きな、エレインのままだよ」
 そう耳元で囁くと、おずおずとではあるが、彼の腕が背中に回された。
 身にまとうスライムと、私の肌に彼の手が触れる。それだけで、今の私には体を震わせる快感が走った。すこしの間があったものの、アストも私を抱きしめ返してくれる。
 粘液に包まれた私の胸が、彼に押し当てられる。
「……っ!」
 自分の手で触れるのとは全く違う、強烈な快感。ほんの少し乳房が擦れただけで、息が止まるかと思うほどの刺激が私の中を荒れ狂った。
「わ、悪い!」
 腕の中で跳ねた私に、驚きと罪悪感が混じった声をアストが上げる。
 身を離そうとする彼を、しかし私はさらに強く抱き留める。彼の腕が私の纏うスライムにめり込み、粘液が彼の布地に染み込む。私と彼の間のスライムは二人の体によって潰れ、飛沫を散らした。それすらも、今の私には心地よく感じられた。
「だ、大丈夫……なのか?」
「うん、平気。どころか、とってもいい気持ちなの……」
 身をよじり、くねらせながら、私は彼に体を擦り付ける。スライムもそれに合わせ、蠢き、快感を増幅させてくれる。
「はぁ……ん……」
 今まで出したことのないような官能的な声が漏れる。自身の声に、はっきりと興奮していることを理解して、それがさらに快感を高めていく。私の思考を読み取り、スライムもまた、もぞもぞと動いている。胸や股間を中心に、全身を包み、揉みほぐすような動きは、私の味わう刺激をさらに大きなものへと変えていった。
 と、ごくり、とつばを飲み込む音が聞こえた。
「はぁ、はぁ……アスト?」
「あ、いや……」
 私が顔を上げると、アストはさっと目を逸らした。だがその顔は耳まで真っ赤に染まっており、口から漏れる吐息も荒い。押し付けた胸板からは早鐘のような鼓動が伝わり、彼もまた興奮しているのがありありと示されている。
「私に、どきどきした?」
「なっ! ち、ちがっ」
 慌てて否定の言葉を叫ぶも、私が上目遣いで見つめると、彼はますます顔を赤くした。
 その瞳の奥に隠しきれない情欲が揺らめきだしたのを見つけ、私はそっと彼に頬を擦り付ける。
「嬉しい」
 私が呟くと、反射的に顔を離そうとしていた彼の動きが止まる。
 横目で見れば、アストの表情にはまだ、どこか戸惑いと、遠慮があった。おずおずと開かれた口からは、照れた声が漏れる。
「え、エレイン……」
 おっかなびっくり、といった風なのは、私を大切に思ってくれているからなのだろう。大事に思われていることが分かって嬉しくはあったが、けれどそこに物足りなさとじれったさも私は感じていた。
 もっと、求めてくれてもいいのに。
 私はこんなにもアストが欲しいのに。
 胸の奥からあふれるその欲望が、私を自然と動かしていく。
「んんうっ……!?」
 アストの驚きの声が耳に届いたときには、既に私は腕を回し、こちらを覗きこむ彼の頭を抱き寄せると、唇を押し付けていた。
「……ちゅ……」
 眼を見開くアストに微笑みかけ、くすりと吐息を漏らし、さらに唇を触れ合わせる。唾液に濡れた肌が柔らかく唇を押し返すのを感じながら、私はその形をなぞるように舌を這わせた。
「ふぅ……んっ、じゅぷ……ぴちゅ……んぅ……」
 肌同士が擦れあうたびに、私の中に快感が流れ込む。ぞくぞくと高まる興奮に後押しされるように、私を包むスライムも艶めかしく蠢き、彼にも巻き付いて、抱き合う二人をさらに密着させていく。
「あ、ぁ……」
 耳に届く彼の声も、いつしかとろりと溶けたような響きを混じらせ、私をくすぐると息は荒く、熱を帯びだしていた。私が身体を押し当て、唇をついばむと、彼もまた、応えてくれる。
「もっとしても、いいよ……ほら」
 それに心から幸せを感じながらも、際限なく湧き起こる欲望のまま、私は彼の手を取って自分の胸へと導く。
 胸を包むスライムの中に埋没した彼の手が、私の乳房に触れた。
「いい、のか?」
「うん……」
 ためらいがちな言葉に頷き返す。
 それに、彼がごくりとつばを飲み込み、ほんのわずか、力が指先にこめられ、私の胸の形を変えた。
「……ふぁっ……!」
 それだけで、悦びが稲妻のように私を貫き、体が跳ねてしまう。
「っ!? ごめん」
 びくりと震えた彼の手に自分も手を重ね、大丈夫、と私は囁いた。
 彼と視線を交わすと、そのまま私の体を覆う粘液は彼の手を導くように、動き始める。
「あっ、ん……いい、よ……、それ、きもち、いい……」
 彼の手が胸を撫で、スライムが乳房を揺らす。粘液が絡みつく乳首を彼の指がつまみ、弾き、その腹で転がす。
「いい、きもちいいよぅ……もっと、もっとして……いっぱい、してぇ……」
 優しく弄ばれながら、絶え間なく与えられる快楽の刺激に、私は吐息と声を漏らした。興奮に熱くなった頬を擦り付けながら、もっともっととねだる。
「はぁ……はぁ……」
 痴態を晒す私に、アストの荒い呼吸が聞こえる。
 彼もまた、肉欲に溺れはじめていることに小さな満足を感じながら、私は彼の耳に息を吹きかける。
「アストのここも……、こんなになってるね」
 私は囁くと同時に、先ほどからずっと肌に押し当てられていた、彼の股間のものに手を伸ばす。ズボンの布地を持ち上げ、硬く大きくなったものをそっと撫で上げると、彼が小さく呻いた。
「ぅく……っ」
「苦しいの……? がまん、しないで?」
 私の言葉と共に、体を包むスライムが蠢き、彼の衣服を脱がしていく。
「私でこんなに大きくしてくれたんだね……嬉しい」
 剥ぎ取られた下から現れた、そそり立つ肉棒をうっとりと見つめながら、私は静かに彼へと体重を預け、押し倒していく。マットのように床を覆うスライムの海に、アストが仰向けになると、薄桃色の粘液が、音もなく漣だった。
その彼に跨り、私は微笑みを浮かべる。
「いれる、ね」
「ああ……」
 浮かせていた腰を、ゆっくりと沈めていく。
 にちゅり、と音を立てて、亀頭の先端が粘液の中に埋まっていった。
「く……ぅ……」
「んっ……あぁ、アストのが、触れてる……」
 スライムの感覚も、今の私には自分のもののように伝わるために、これだけでも既に強烈過ぎる刺激となって私に伝わる。この上、膣内にまで挿入したらどうなってしまうのか、期待と不安をないまぜにしたまま、私はさらに深く、腰を落とす。
 雫を滴らせながら、肉棒をスライムが包んでいく。粘液をかき分け、ひくひくと震える割れ目と彼の肉棒の先端がぶつかり、その感触が伝わった刹那、股間に貼りついたスライムごと、彼の肉棒が私を貫いた。
「ふぁぁぁぁっ!!」
 体の奥底に響く衝撃に、堪え切れず、私はひときわ大きな嬌声を上げる。
 ずぷずぷとその根元までが私の膣内へ呑みこまれ、スライムと愛液を纏った肉棒が膣壁を擦る。それだけで気を失いそうになるほどの快感が私を包み、瞳からは涙が零れた。
「うぅっ、ぐ……なか、きつ……」
 アストもまた、強烈な刺激を味わっているのか、食いしばった歯の隙間から、呻きが漏れる。私の足をつかむ手にも力がこめられ、指先が肌に食い込むが、それすらも私には悦びを増大させるものになっていた。
 やがて、彼の肉棒の先端と子宮の口が触れるのを感じる。
「あぁ……、いちばん……おく、まで……きたぁ……」
 膣内に根元まで収められた彼のものを感じながら、だらしなく頬を緩め、涎を零して呟く。さらに大きさと硬さを増す彼のペニスは、スライムで満たされた膣に触れ、絶え間なく快感を送り込んでくる。
「う……く……」
 私が震えると共に痙攣する膣壁が、彼にもまた強烈な刺激を与える。声を漏らしながら震える彼のものが、さらなる刺激を生み出し、私はすぐにでも絶頂してしまいそうなほどの快楽を味わわされた。
「でも……もっと、きもちよく、なりたい……んんっ!」
 魔物としての本能の命ずるまま、私はより大きな快楽を求め、ゆっくりと腰を浮かせ始める。膣内から彼の肉棒が引き抜かれる感触に息を吐き出し、一度止めると、勢いをつけて腰を落とす。
「くぅうん!」
 骨盤に響く衝撃に、粘液が跳ねる。じんじんと痺れるような感覚を味わいながら、止まることなく膣と肉棒を擦らせる。スライムは私とアストの腰を包むように集まり、集約された感覚がより強烈な快感を生み出していった。
「んっ、ふ、やっ、あっ……あぅ……んんっ!」
 アストの上に跨り、飛び跳ねるように腰を動かす私。床板が軋み、汗と粘液の飛沫が飛び散って、強烈な淫臭が部屋を満たす。
「はぁっ、あっ、あっ、エレイン、エレイン……!」
 快感に明滅する視界の中では、汗を浮かべ、目を固く瞑ったアストが、熱病に浮かされたように私の名を呼び、快楽を貪っている。
 その顔をうっとりと見つめ、私も快楽を味わうことだけを考え、獣欲に身を任せた。
 彼の肉棒が突き入れられるたび、身体が溶け、身を包むスライムと混じり合っていくような錯覚に陥る。まとわりつくスライムは私の望みを読み取り、胸や肌を激しく愛撫して快感を増大させていった。
 脳が焼き切れてしまいそうなほどの快楽の奔流が、私の中で荒れ狂う。時間の感覚も失い、快感に翻弄され、溺れながら、私たちはただひたすら腰を動かし、刺激を生み出し続けた。
 そんな中、不意にアストの呼吸が乱れる。私の太ももをつかむ手に力が込められ、びちゃりとスライムが潰れる。
「んっ、ぁ……アスト……?」
 私が目を向けると、彼は砕かんばかりに歯を食いしばった隙間から、苦しげな声を上げた。
「あぁ……っ、く、ぐ……ううぅっ!」
 直後、私を突き上げるリズムが乱れ、力を振り絞るかのような荒々しい一突きが打ち込まれると同時に、彼のペニスから爆発するような勢いで熱いものが噴き出した。
「や、あ、あつい……んっ、く……あぁぁぁぁぁぁん!」
 彼の精液が流し込まれ、全身に広がっていく快感に、私も耐え切れず絶頂を迎えた。体が反り返り、大きく開かれた口から、悦びの叫びを上げる。
その間にも絶えず噴き出す彼の精が膣内を満たし、私はまるで体の中からどろどろに溶かされていくような気がした。
「うぁ、あ……ぁ……」
 びくびくと震えながら精を吐き出す彼から、一滴も残さずに吸い出そうと私の膣とスライムが蠢く。快感に打ち震え、この魔物の体の素晴らしさを噛みしめながら、私は瞳を閉じて全身に広がっていく精の感触を味わう。身体を包むスライムと同じように蕩け、快楽の中に溶けて流れ落ちるような感覚が、至福のものとなって私を満たした。
 刹那にも、永遠にも感じられた時間が過ぎ、ようやく彼はすべての精液を出し尽くしたようだった。あまりの量に、受け止めきれない精液が結合部からあふれ出る。
「ふぁ、あぁ……でちゃう……アストの……こぼれちゃう……」
 漏れ出た白濁液が、股間を覆うスライムの中に白い玉となって浮かぶ。子どものようにそれを名残惜しく感じた私は、ふと閃いて精液を漂わせるスライムを操った。
 先端に白い雫を浮かべた粘液の触手を鼻先へと伸ばし、そっと口をつける。
 粘液と共にゆっくりと口の中に流れ込んできた彼の精を、私は貴重なお酒を味わうかのように、舌の上で転がし、喉の奥へと流し込んでいった。
「ん……、んく……っ、ぷは……」
 秘所で感じるのとはまた別の、しかし至福の味を感じながら、私は跨ったままのアストに目を向ける。
「アスト」
「はぁ……、はぁ……」
 切れ切れの呼吸の向こうから、彼の瞳が私に向けられる。快楽の残滓に火照った頬と、汗と涙の痕が私の心をくすぐるのを感じ、愛しさで胸をいっぱいにしながら、顔を近づけ、そっと彼と唇を合わせる。
「だいすき……ずっと、いっしょにいようね……」
 彼に覆いかぶさるようにして抱き付き、体をスライムの中に包み込みながら、私は囁く。かすかに彼の頭が動き、頷いてくれたのに安堵しながら、私はゆっくりと瞳を閉じていった。



 それから私たちは目覚めては交わり、眠ることを夜通し繰り返した。
 何度も彼と交わり、過ごすうちに、いつしか夜明けも近づいてきていたようだった。窓の外が白みはじめ、部屋の中を満たしていた闇も、次第にその濃さを薄れさせていた。
 淫らな匂いが充満した室内で、私はアストと共にスライムの海に漂っていた。
「気持ちよかったね……」
 寄り添う彼の寝顔を眺めながら、上下する彼の胸を見つめる。
伸ばした手を胸板に添えると、規則正しい心臓の鼓動が伝わってくる。そのリズムに身を任せ、幸せを感じていると、どこかで奇妙な感覚が生じた。
「ん……?」
 疑問に思い、意識を向けると同時に、こぽり、とほんのかすかな音が響く。
「ぅく……っ」
 瞬間、私は股間に感じた心地よい刺激に体を震わせた。それに合わせ、ぷつり、と何かが千切れるような感覚が走る。
「ああ……そうだよね。みんなも、幸せにして、あげなくちゃ……」
 本能的に、それが私のスライムの一部が分かれ、新たな仲間を作りにいったのだと理解した私は、静かに息を吐き出す。何度も何度も注いでもらった精のおかげで、スライムの分体を作れるくらい、成長できたのだろう。
「そういえば、この子たちもわたしと、アストの子どもって言えるのかな……」
 そんなことを考えながら、私は一人、くすくすと笑う。
 その間にも二度、三度と私のあそこからスライムが溢れ、窓やドアの隙間から這い出て、いまだ宿舎を包む闇の中へと消えていった。
「ふふ……みんな、いってらっしゃい……。頑張って、みんなを気持ちよくしてあげてね……」
 送り出した我が子たちの気配が遠のき、消えていくのを感じ、目が覚めた時に友人たちが私たちと同じく幸せになっていることを夢見ながら、アストと共に意識を眠りの中に沈めていくのだった。
14/01/14 22:35更新 / ストレンジ

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