連載小説
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後編・その3
久々の神との交信の後もアンジェリカは祈り続けた。そしていつもと同じ時間に同居人が戻ってきた。シスターらに連れられた審問官は相変わらず反抗的な態度を取っており、まだまだ抗うことができるように見えた。しかし、神からの警告を受けてみると、限界に達しつつある兆候が見えるように思われた。主の警告に感謝しつつ、アンジェリカは今晩にでも決意を実行に移すべきだと結論付けた。
 床に就く時間となり、二人は眠る準備を始めた。ここ最近はアンジェリカがしばらくの間審問官を膝枕にするのが通例となっている。後はこのままアンジェリカが審問官を労いそのまま眠るのであるが、今日は様子が違った。まどろみ始めている審問官の上半身を抱き上げると、優しくキスをした。既に意識が沈みつつあった審問官の反応は決定的に遅れ、自分が何をされたか理解した時には重大な既成事実が出来上がっていた。
「アンジェリカ様!お戯れが過ぎます。」
「いいえ、ヒメネス。私は本気です。」
「天界の住人たるあなたと私ではつりあいません。」
「あなたも私も主の僕です。立場の違いはありません。」
「しかし、うむ……。」
審問官がさらに抗弁しようと口を開きかけたところに、アンジェリカはさらに唇を重ねた。審問官はなんとか抜け出そうとしたが、天使の腕力には逆らうことができなかった。最初の探るようなキスとは異なり、今度のキスは明確に相手に決意・好意・快楽を伝えるものだった。審問官が大人しくなるとアンジェリカはようやく唇を離した。
「私はあなたを愛しています。今からそれを証明します。」
そう宣言すると、アンジェリカは審問官の下半身の衣類をはぎ取りにかかった。審問官は抵抗するが、相手に苦痛を与えるわけにもいかず、自分のズボンと下着を死守するには不十分だった。短いが苛烈な格闘をへて、ついに審問官の下半身が無防備になった。そして、アンジェリカは何のためらいもなく口での奉仕を始めた。アンジェリカの奉仕は技術で魔物の特別教育よりはるかに劣っているが、精神的な近さもあり審問官の理性を急速に切り崩していた。そのため審問官は決意に満ちながら不慣れな様子のアンジェリカを愛おしいと思うようになり、気がつけば彼女の頭を撫でていた。
「ふふ、ヒメネスから触れてくるのは初めてですね。」
「も、申し訳ありません。」
「あ、やめないでください。もっと撫でてください。」
「はい。」
頭を撫でられるとアンジェリカは満足した様子で奉仕を再開した。しばらくして、
「アンジェリカ様。」
その一言でアンジェリカは審問官が限界に達しつつあることを察し、さらに快楽を与えようとした。そして、口の中に肉欲の証たる粘液が放たれた。彼女はそれを吐き出さずそのまま飲み込んだ。以前であれば考えられないことであったが、今はそちらのほうが好ましいように感じた。
「たくさん出しましたね。」
「申し訳ありません。」
「良いのです。あなたは私に応えてくれたのですから。」
そう言いつつ、アンジェリカは四つん這いのまま審問官の上半身に移動した。
「ヒメネス、私の愛は伝わりましたか?」
「はい。」
「あなたは私をどう思っていますか?」
「私は……。」
審問官は口を開き、そして答えに詰まった。もう答えは決まっている。しかし、口に出せば取り返しのつかないことになることも感じていた。彼女か、これまでの全てか。
「ヒメネス?」
彼は口に出すことにした。
「アンジェリカ様、いや、アンジェリカ。私もあなたを愛しています。」
「!」
アンジェリカは彼の選択を理解した。
「うれしいです、ヒメネス。さあ、もっと愛し合いましょう。」

二人は一糸まとわぬ姿になった。
「その、あのシスターより小さいのですが、その……。」
慎ましい胸に気後れしているアンジェリカに審問官は優しく触れることにした。
「ぅん、ヒメネス、こちらも……触ってください。」
彼女は審問官の左手を自分の秘所に導いた。上下からの快楽にアンジェリカは悩ましげな吐息をもらし続けた。
「そろそろ、致しましょう。」
アンジェリカはすでにドロドロになったことを見せ、いつでも受け入れられることを示した。審問官は彼女の秘所に男性器をあてがうと、ゆっくりと沈みこませた。破瓜の痛みに耐えつつ、彼女はついに全て受け入れた。審問官はしばらく動かず、アンジェリカの頭を撫でた。
「すみません、ヒメネス。」
「お気になさらず。時間はありますし、お望みでしたらもっと撫でますよ。」
「いえ、もうかなり痛みは引きました。動いてください。」
「痛ければ言ってください。」
そう言い審問官はゆっくり動きだした。いい具合になってきたのか、アンジェリカの口からあえぎ声が漏れ出す。天使として様々な鍛錬を積んできたが、自分の内側から生じる快楽に抗う術は習得してこなかった。はしたないと思いはしたが、相手がヒメネスであればそれでも良いと思うようになった。そうなると理性がさらに溶けだした。残った理性もヒメネスに向けられているものばかりとなった。余計な物が消えていくに従い、快楽はより一層増幅されていった。快楽の拡大生産は最終段階に達し、二人は絶頂を迎えた。

翌日
 朝食の後、いつもの通りシスターが入ってきた。
「さて、特別教育の時間よ。」
審問官は連れ去られ、アンジェリカとシスターが残った。
「今夜はご馳走にするわよ。ジパングでおめでたい時に食べるオセキハンというのを出すわ。」
「何を言っているのかしら。」
「判っているくせに。」
「ふん、無意味なことを言う暇があるのなら善行を積みなさい。」
「カリカリしていると胸が育たないわよ。」
「ヒメネスは優しく触ってくれたわ。」
「……。」
「……。」
「今夜は楽しみにすることね。」
からかうつもりが華麗なカウンターを決められ、シスターはさっさと引き下がることにした。

元レスカティエ教国異端審問所会議室
 この部屋もついに設計当初の役割を終えようとしていた。この日、会議室に集まったシスターたちと白い淫魔は最後まで抵抗した二人が事実上無力化されたと結論付けた。審問官とアンジェリカが重大な決断をしたあの日以降も特別教育はしばらく続いたが、二人は夜に愛し合うことで結束を強め、昼を耐え抜いた。しかし、体を重ねる回数が増すに従い反抗的な態度は魔物への敵意というよりも二人の邪魔への反発に変わりつつあった。まだ建前としての主神は残っているが、それも消えるだろうというのが大方の見方であった。
「とりあえず、明日から二人を異端審問所の敷地内の宿舎に移して様子見しましょう。」
「そうね。無いとは思うけど、万一に備えて私とバフォメットちゃんも待機するわ。」
「感謝します。お話はこれくらいでしょうか。」
「ええ。それにしても、わたしもあの娘みたいに旦那様に愛されたいわ。」
「羨ましいわ。羨ましいのであの二人にはフランツェスカちゃんの触手コースで。」
「宗教裁判じゃないですよ。」
「……。」
「……。」
「……。」
何も起こらなかった。
15/07/20 20:48更新 / 重航空巡洋艦
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■作者メッセージ
重航空巡洋艦です。

宗教裁判・再審は今回をもって完結です。
最後までお付き合いして頂きありがとうございました。
次回作は帆船にのった海洋冒険を構想中です。

それでは次回作でまたお会いしましょう。

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