読切小説
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涙をくれよ
「オークだ!オークが来たぞ!」
 村の入り口の櫓の上にいた村人がそう叫ぶと、村中が色めき立った。
 村の北、村に入るための唯一の道を、悠然と歩いてくる六つの影があった。
 その内の五つは、むっちりとした肉体を惜しげもなく晒し、手には巨大な石槌。頭の上には豚の耳が乗っており、尻にはくるりと可愛らしい豚の尻尾が見え隠れしていた。オークである。
 そして、彼女達を両脇に従えるもう一つの影は。
「あああ!ベイブだ!オーク使いのベイブだ!」
 村人は更に絶望の叫びを上げた。
 村人達は一斉に逃げ惑う。しかし、この村は三方を海に囲まれており、逃げ出すこともままならない。
 彼らは漁業で生計を立てており、船はあるにはあるのだが、一度に数人が乗れる程度の小さな漁船ばかり。
 財産どころか、村人全員を乗せることすら出来ない。
 何とか貴重品を詰め込もうとする者。財産を投げ打って、とにかく家族全員を乗せようとする者。ただ逃げ惑うばかりで何も出来ない者。
 彼らがここまで狼狽するのには理由がある。
 オーク使いのベイブ。彼は、五人のオークを引き連れ、大陸中を駆け回る稀代の大悪党なのである。
「欲しい物は奪って手に入れろ」を信条とし、強大な魔力でもって、敵を一切寄せ付けない。
 家来のオークは、彼に絶対の信頼を寄せており、彼が死ねと言えば迷わず死ぬほどの忠誠心を持っている。
 村人が慌てふためいている間に、ベイブとその一行は村の入り口の門の前にたどり着いた。
 漆黒のローブに隠されたベイブの瞳がギラリと光る。
「な、何でこんな、何もない村にベイブが……」
「村の者共よ!よぉく聞け!」
 村人の声は、ベイブの声に遮られた。
 割と細身の彼であるが、声は良く通る。
「今すぐに村長を呼べ!直接話をしたい!」
 それを聞いた村人達は、しばらくおろおろとしているだけだったが、家来の オーク達が石槌を構えたのを見ると、一目散に村長を呼びに駆けた。
 彼らが村長を呼んでいる間、ベイブは腰に手を当て仁王立ちをしていた。
 子分のオーク達は、石槌を掲げて格好良い(と本人達は思っている)ポーズを決めている。
「こ、こんな辺鄙な村に、な、何の御用で……」
 杖をつきながら、腰が曲がった老人が彼らの前にやって来た。
 頭は禿げ上がり、白い顎鬚が伸びている。典型的な仙人みたいな老人である。
「おお、お前が村長か!」
 ベイブは張りのある大声で言った。
「え、ええ、わしが村長です……」
「メロウの涙」
 ベイブの一声に、村長は狼狽した。
「な、何故それを……っ!」
「やっぱりなぁ!メロウの涙、桃色に輝く大粒の最高級ダイヤ!握りこぶしぐらいある超巨大ダイヤ!売るもよし、眺めてうっとりするもよし!俺らの業界じゃあ、最近その噂で持ち切りだったんだぜぇ!?」
 そう言うと、彼は右手をまっすぐ天に掲げた。
 そして、勢い良く前方へ振り下ろす。
「お前ら、かかれぇ!」
 村人が耳を押さえるほどの大声を聞き、四人のオークは全速力で駆け出した。
 ベイブの側に寄り添っていた一人は、その場に残っている。
「さぁて、シルク。今日はお前の番だ。全力で愛してやるからな」
 そう言って、側に残ったオーク、シルクを見つめるベイブ。彼女は頬を桃色に染め、うっとりと彼の瞳を見ていた。

 村長が、村人にメロウの涙の存在をひた隠しにし、かといって売り捌かなかったのには理由がある。
 今となっては寂れた漁村であるが、かつてこの村の側にある山は、ダイヤが取れることで有名であった。
 ダイヤ鉱脈が枯れるまでは、この村は栄えていたのである。
 村長はその時代の最後の生き残りで、当時は大陸で一位二位を争うほどの腕を持つダイヤ加工職人であった。
 彼の加工したダイヤは芸術品であった。見た者の心を奪い、感動させた。
 そして、彼の最高傑作がメロウの涙なのである。
 素材も職人も最高級。その値段は、人生を七回遊んで暮らせるほどの金額であると言われている。
 これだけは、彼は決して売ろうとしなかった。存在すらも他人に漏らさなかった。
 村長にとっては、青春の思い出であり、生きる糧なのである。

「メロウ、どこ?」
「どこどこ?」
「そんちょーの家にはなかったぞ?」
「でも村人はみんな知らなそうだぞ?」
 残りのオークである、ローズ、チャーミー、イベリコ、メイシャンの四人は、口々にそう言いながら石槌をぶんぶん振り回していた。
 村長の家の壁にぼこぼこと穴があき、棚や机はばらばらに砕け、今にも崩れ落ちそうである。
「はっはっは!何だ、まだ見つからないのかぁ!?」
 オーク大暴れのせいで蝶番が外れかけていた扉を蹴り飛ばし、ベイブが入ってきた。
 彼はシルクをだっこしていた。
「ご主人様ぁ……あたまがふっとーしそうだよぉ……」
 シルクは腰をがっちりと抱かれ、自分の腕を彼の首に回しながら喘いだ。
 彼女の穴と彼の肉棒はつながりあっており、接合部からは粘液と粘膜が奏でる卑猥な音が響いている。いわゆる駅弁スタイルである。
 袖から覗くベイブの腕はとても細いが、むっちりとしたシルクを楽々持ち上げている。
 彼の肌は浅黒い。典型的なインキュバスの特徴である。
 彼は性欲旺盛なオーク五人をまとめて抱けるほどの強大な精力と、インキュバス特有の筋力で、その細い体からは考えられないほどの力を発揮するのである。
「あー、シルクいーなー」
「いーないーなぁ」
「私もご主人様とふっとーしたいなぁ」
 シルクのとろけきった顔を見て、残りのオークはうらやましそうに声を上げた。
「おう、夜になったらみんな一緒にヤってやるよ。それよりお前ら、地下は調べたのか?」
 シルクの肩越しに地面を覗きながら彼は言った。
「地下、ですか?」
「この家、地下があるんですかぁ?」
 オーク達は首を傾げた。
「ああ、みんなの足音の響きがおかしい。こりゃあ、足元に空洞が……んん!?」
「ちゅっ、ちゅるっ……えへっ、ご主人様の唇吸っちゃったぁ……」
 ベイブの言葉は、シルクの口付けで遮られた。
「あー!ずるい!」
「私もちゅーしたいー!」
「だぁかぁら!夜になったらちゃんとしてあげるから。早く地下を調べろよ」
 ベイブがそう指示すると、シルク以外の四人は円形に並び、次々に地面を石槌で叩きつけた。
「おぉう、お前ら頑張れよぅ」
 円陣から少し離れた場所に、彼はぺたりと腰を下ろした。
 小屋は薄い木の板を組み合わせただけの貧相なもので、床はなく、地面がむき出しだった。
「よくもまぁ、こんな寒そうな小屋に住んでられるな、あのじじい……」
 彼はぐるりと見回してつぶやきつつ、シルクの肉付きのいい尻を両手で握った。
「ひゃうんっ!」
 何度も絶頂を迎え、全身が性感帯となっている彼女は、上半身を仰け反らせて叫んだ。
「シルク、お前いい、いいよ。顔も穴もゆるくてだらしなくて……」
「あうぅぅ、ごめんなさいぃ……あうんっ……ゆるゆるで、がばがばでぇ……あふぅん!」
 首を振るシルク。
「いや、すごくいい。何というか、ゆったりしてて。甘えたくなる」
 そう言うと、ベイブは彼女を抱き寄せ、思い切り抱きしめた。
「シルク、好きだ。大好きだ」
 耳元で彼が囁くと、シルクの目から涙があふれた。
「ひぐっ、私もぉ……ご主人様のこと、だぁいすきですぅ……」
 彼女も彼を強く抱きしめ返した。
「シルク、動くぞ」
 彼は彼女を腕に抱きながら、優しく、ゆっくりと彼女の背中を地面に預けるように倒した。
 そのまま正常位になると、彼は彼女の背中に両腕を回しながら腰を前後に動かした。
「あっあっ!ご主人、さまぁ!そんなにっ、はげしくしないでっくださいぃ……あんっ!あうぅぅん!」
「そうは言ってるが、お前の膣内はきゅんきゅん俺のを締めてくるぞ!正直、滅茶苦茶気持ちいい……」
 彼は彼女を抱く腕の力を更に強くした。
「ほんとう、ですかぁ?あふっ、わたしの、なかぁ……ひきゅん!そんなに、いいんですかぁ?」
「ああっ!すごい!さっきのまったりとは、また違った感触で、全然飽きない。うっ、マジで、いつまでもお前の膣内にいたい……」
 ドン、ドドン、ドンと、石槌が不規則に地面を揺らす。
「駄目ですよぉ、ご主人様」
「そうですよ、明日の昼は私の番なんですからね」
「二人で勝手にメイクラブしないでくださいよね」
「ご主人様は、みんなのご主人様なんですから」
 残りのオーク達が、口々に不満を漏らした。
 ドン、ドドン、ドン。
「まだ穴あけられないのか」
 ベイブは唇を突き出しながらつぶやいた。
「すいませぇん、何かこの地面超絶硬いんですけど」
「これ、絶対石で囲われてますって」
「石対石じゃあ全然駄目ですよぉ」
 彼女達は泣き言を漏らし始めた。
 ドン、ドドン、ドン。
「あのなぁ。何でお前らばらばらに叩いてるんだ。一斉に四人で叩けばそんなの一発だろ」
 振り下ろす手がぴたりと止まった。
「なるほど、さすがご主人様、頭いー!」
 言うや否や、四人の石槌は天高く掲げられ、同時に振り下ろされた。
 大きな音を立て、円陣の中央に、人が通れるくらいの大きな穴が開いた。
「やったー!大成功!」
「メロウ、メロウ!」
 彼女達は好き勝手にわめきながら、穴の中へ降りていった。

 ベイブ一味がメロウの涙を盗み出してから数時間後、村の唯一の宿屋から、一人の男が出てきた。
 まだ眠いのか、その足取りはのんびりとしており、首が据わらずにかくんかくんと揺れている。
「ふあぁ……村長さん、どうしたんですか」
 村のただならぬ空気を敏感に察知し、近くで座り込んでいた村長に声をかけた。
「お、おお、旅のお方……遅いお目覚めで……ええと、お名前は……」
 村長の顔色は、誰が見ても明らかなほど青ざめていた。
「パタスです。村長さん、顔色悪いですよ。風邪でもひいたんですか」
 旅人は眠い目をこすりながら尋ねた。
「た、確か、あなたは冒険者だとお伺いしたのですが……」
「ええ、そうですけど」
 旅人がそう答えると、村長は早口で今までの経緯をまくし立てた。
「……なるほど。それで、私にそのメロウの涙を取り返してもらいたいわけですね」
「は、はい、あれはわしの大事な宝物なんです。ですから、どうか、どうか取り返してもらいたい」
「うーん。そんなお宝、あなた一人で抱えてたんでしょ?村人にも知らせないで。それはいただけないなぁ。そこまですごい宝石なら、みんなにも感動を共有させてあげないと」
「そ、それは確かにそうですが……わしはあれを盗まれるのが怖くて怖くて……」
「そうですか。でしたら、メロウの涙を取り返したら、私をこの村に住まわせてください。この村が気に入った!そして、メロウの涙を村の宝にしてください。私が守ってさしあげましょう。どんな不逞の輩でも、私が倒して見せますよ」
 旅人は自分の胸をどんと叩き、まかせなさい!と言った。
「しかし、この村はご覧の通りの寂しいものです。頼んだはいいが、報酬なんてとてもとても……」
 村長は額の汗を手でぬぐいながら言った。
「村長さん、この村の名物か何かはありませんか?」
「は、はあ。昔はダイヤがたくさん採れたんですけどね……今は魚介類しか……」
「気に入った!じゃあ、無事取り返してきたら、私を村の住人として受け入れる。プラス、海の幸をたらふくご馳走してくれる。それで手を打ちますよ!どうです?」
 旅人の提案を、村長は受け入れた。村人も、旅人をたいそう気に入っていたので、快く受け入れてくれることになった。

 夜。
 かつてダイヤが掘られていた鉱脈跡。松明の炎に照らされ、六体の影が蠢いていた。
「ご主人様のぉ……もう十回は出してるのにぃ……まだかたいですよぉ……」
「ぐっ、だって、しょうがねぇだろぅ……お前らの膣内、うぅっ、よすぎだからよぉ……」
 ご主人様と呼ばれたベイブは、地面に仰向けに寝かせられ、その上でチャーミーが腰をくねらせ踊っていた。
 彼女が腰をひねり、上下させるたびに、粘液が滴り粘り糸を引き、淫靡な音を鳴らす。
 彼はすでに十数回も、彼女達下僕のオークの膣内に精液を放っていた。
 一回射精するごとに、彼の肉棒を犯すオークがローテーションで入れ替わる。
 他のオークは、膣から彼に放たれた精液をこぼしながら、一心不乱に彼の体に奉仕していた。
「ご主人様ぁ、ふぁむ……じゅるっ……私の舌、おいしいですかぁ?」
イベリコは彼の口内を蹂躙し、唾液を貪る。
「れろぉ……ちゅぷっ、ご主人様の乳首、こりこりしてて、とってもかたいですよぉ」
 ローズは彼の乳首をなめ、もう片方を指でしごく。
「ちゅっ……ちゅっ……あはっ、キスするたびにびくって震えて、可愛いですね」
 メイシャンは、それ以外の部分を唇と手で愛撫していた。
「あはぁ……あふぅん、またぁ、またいくぅ……」
 シルクは、昼から何度も彼にイかされ、すでに体力は限界に近づいていた。今は一人離れた場所に倒れこみ、自分の股間に指を這わせ慰めている。
「ああ、チャーミーのすげぇいい、もう、出る……」
「はぁい、ご主人様。いっぱいいっぱい中出ししてくださいねぇ。全部受け止めますからぁ」
 そう言うと、彼女は腰の動きを速めた。
「じゅるぅ、ちゅぅ……やばい、もう、駄目、だっ」
 びゅるぅ、びゅるるるるる……
「きゃふぅ!で、でてますぅ……せーえき、いっぱいぃ……」
 チャーミーは体を仰け反らせ、子宮口で勢い良く出る精液を受け止めた。
彼女が腰を上げると、ぬぽっと音がして、張りをなくした陰茎が力なくしおれた。
「はぁ!はぁ!はぁ!」
 ベイブは大きく喘ぎ、胸を上下させる。
「もう、やばい……さすがに体力がもたない……」
 ついに彼は弱音を吐いた。
「ええー、ご主人様ぁ、私だけ一回少ないですよぉ?」
 これに不平を漏らしたのがローズである。
「平等に愛してくれるって言ってたじゃないですかぁ……差別するなんてぇ、ひどすぎますぅ……ぐすっ」
 そう言われて、ベイブは困った顔をして彼女の頭を撫でた。
「そうだったな……すまん。ちょっと待ってろ」
 彼はそう言うと、のっそりと立ち上がり、しゃがみこんでいる彼女の顔の前にペニスを垂らした。
「さすがにもう一発ヤるのは無理だから。最後は口に出してあげるよ」
 ローズの顔が輝いた。
「ああ、ありがとうございますぅ!」
 早速彼女は逸物を口に含もうとすると、ベイブはそれを手で制した。
「待て」
 彼女の顔がぴたりと止まった。
 舐めしゃぶろうと、口を開け舌をだらしなく垂らした状態で静止している。
「体力が回復するまで待てよぉ……」
 彼は自分のペニスを軽くしごきながら言った。
 舌の先からよだれを垂らしながら、懸命にこらえるローズ。
 荒く熱い息が、亀頭にかかり、彼はうめき声を上げた。
「待て、待てよ。もうちょっとで、硬くなるから……」
 まだ勃起とは程遠いペニスをしごきながら、待てと連呼する。
「待て……待て……もう少しだから……もう少し……よし」
 そう言うや否や、ローズはようやくそそり立った彼の逸物を、舌を絡めながら口に含んだ。
「あむぅ……いっふぁい、らひへくらはいねぇ……」
 もごもごと口内の肉を蠢かせる。じゅぽじゅぽと卑猥な音をさせながら、一心不乱に顔を前後させる。
「すまん、気持ちよすぎて、うぅ、もう出そうだ」
 その言葉を聞くと、彼女はうんうんと言いながら頷いて答えた。
「いふでも、どうぞぉ」
「うっ、うぐっ、出る、出るぅ!」
 ベイブはローズの後頭部を両手でつかんで、思いっきり精液を放出した。
「うむぅ、ごくっごくっごくっ……」
 口いっぱいに放たれた精液を、彼女は何の苦もなく飲み干していく。
「あ、あぁ、あぁぁ……吸われてる……」
 ベイブはたまらず感嘆の声を上げた。
 尿道に残った精液も全て吸われると、彼は崩れ落ちるようにその場で眠ってしまった。

「ご主人様、ご主人様ぁ……」
 朝。ベイブは肩を揺り動かされ起こされた。
「うぅん……何だぁ?……おお、メイシャン、どうした」
 まだ半分夢の中にいるような間抜けな声を上げるベイブ。
「外にぃ、お客さんがいるんですけどぉ……」
 メイシャンは洞窟の出口の方を指差しながら言った。
「はぁ?客だぁ?」
 ベイブは思わず首を傾げた。
 彼ら一行は定住をしない。彼らはお宝を求めていつも大陸中を歩き回っており、見付けた洞窟や空いている小屋を仮の住まいとするからである。
今住んでいる枯れた鉱脈も、メロウの涙を奪うまでの仮の宿であった。
ここにいることを知っている者は、彼と家来のオーク五人以外誰もいないのである。
 彼は起き上がり、近くにあった漆黒のローブを羽織って出口に向かった。
 出口から顔を出すと、数メートル先に、鎧を着て、片手剣を装備した若い男が立っていた。
「誰だお前?」
 先に声を上げたのはベイブの方だった。
「メロウの涙を取り返しに来た」
 鎧姿の男はぽつりとそれだけを言った。
「おい、質問の答えになってねぇじゃねぇか。俺はなぁ、『誰だお前は』と聞いたんだ。ちゃんと質問に答えろよ」
 ベイブは両掌を相手に見せるように突き出し、詠唱の構えをとる。
「名前か?パタスだ。村長の依頼でメロウの涙を返してもらいに来た」
 パタスは、剣を持った右手を弓のように引き、左手を前方に突き出す構えをした。
「ご主人様ぁ、私達が倒してあげますよ」
 ベイブを守るように、石槌を装備した五人のオークが男二人の間に割って入った。
「ふっふっふ。冒険者さぁん、一対五ですよぉ?ぼっこぼこにしちゃいますよぉ?」
「ぼっこぼこしたら、ぐっちゃぐちゃに犯してあげますからねぇ?」
 石槌を構え、じりじりと彼女達はパタスの方へ歩き出した。
 そして、彼女達の間合いに彼を捉え、今まさに飛び掛らんとした所で。
「やめんかぁ!」
 ベイブが叫んだ。
 オーク達の動きがぴたりと止まる。
 彼女達が振り返ると、ベイブは額の汗をぬぐいながらつぶやいた。
「やめろ。そいつはお前達では倒せない……だから、おとなしく、下がるんだ」
 そう言われると、彼女達はどうしようもない。渋々言われた通りに洞窟の中まで戻って行った。
 彼女達が飛び掛ろうとしたとき、パタスの体から強烈な殺気と魔力が迸るのを感じた。
――俺が止めなかったら、あいつらは今頃死んでいた……
 ベイブは恐れおののいた。オーク達にとってご主人様のいない生活がありえないように、彼にとってもまた、彼女達がいない生活はありえないのである。自分の命を失うよりも、彼女達の命を失うほうが怖い。
 彼はもう一度、両掌を相手の方へ突き出した。
「マロヤカ!」
 ベイブは唐突に魔法を詠唱した。突き出した両掌から圧縮された空気が飛び出す。
「コクトウマミ!」
 パタスが唱えると、圧縮空気が突き出された左手に吸収され、威力を失った。
「何だ、大陸中で恐れられているオーク使いのベイブ、その程度なのか」
 左手を突き出しながら、パタスはゆっくりと歩いてきた。
「遠距離は駄目か……ならこうだ!」
 ベイブはそう言うと、腰を落とし、右半身を後ろに下げた。肉弾戦に持ち込む作戦にでたようだ。
「魔術師が近距離戦とは……追い詰められておかしくなったのか!?」
 パタスは右手の剣を掲げると、一気にベイブに突っ込んだ。そのまま彼の頭に刃を叩き込もうとする。
「破ッ!」
 気合を込めた声を発すると、ベイブはその刃を左腕で受け止めた。
 電気が弾ける様な音を立て、腕の寸前で刃は微動だにしなくなった。
「マロヤカ!」
 一瞬の隙を突き、圧縮空気をパタスの腹に叩き込む。さすがにこれは耐え切れず、パタスは後方へ吹き飛ばされた。
「もいっぱぁつ!」
 飛ばされたパタスを追いかけるようにベイブは前方へ跳び、間髪入れずに左こぶしでパタスの右頬を殴る。
 きりもみ回転をして、パタスは地面に叩きつけられた。
「きゃー!ご主人様つよーい!」
「すてきー!」
 洞窟内から顔を覗かせていた子分達が、歓声を上げた。
「ぐぅ……さすが恐れられているだけはある。すごい魔力だ……」
 剣を支えにして立ち上がりながら、パタスはうめき声を上げた。
「おらぁ!さっきの威勢はどうしたぁ!?」
 しゃがみこんでいたパタスの腹を思い切り蹴り上げる。仰け反り倒れるパタス。
「ごふっ。ははは、お前強いよ。強いよお前。ははは」
 大の字に寝転がり、パタスは笑い声を上げた。
「何笑ってやがる、気持ちわりぃ。さっさと死にやがれっ!」
 ベイブが右腕を掲げると、肘から先が青白く輝き始めた。魔力を込めた手刀。彼の必殺技の一つである。
 魔力の輝きは炎のように右腕にまとわりつき、周りの空気が蜃気楼のように揺らめく。
「これで、終わりだ!」
 パタスの首目掛けて振り下ろされた手刀は、狙った場所にたどり着くことなく、空中で止められた。
「何!?」
 ベイブは驚いた。彼の必殺の手刀は何を持ってしても止めることはできないはずだからだ。
 彼の青白く輝いた魔力に触れた物は、たとえ鉄だろうと溶かしてしまう。
しかし、彼の右腕は、パタスの左手で受け止められ、まとわりついていた魔力の輝きは跡形もなく消えていた。
「なん……だと……」
「お前なぁ、学習しろよ。さっきお前の遠距離魔法を打ち消したばかりじゃないか」
 言われて思い出した。確かに、彼は自分のマロヤカを左手で難なく受け止めていた。
「くそう、確かに、あの時……あれ?力が……」
 ベイブは違和感を覚えた。手刀の魔力だけでなく、全身の魔力が吸い取られている。力が入らなくなっている。
「すまんなぁ。動けないように、お前の魔力をがっつり吸い取らせてもらった。しばらく立てないと思うぞ」
 そう言い残すと、パタスはベイブの体を跳ね除けて、洞窟の入り口へ歩いていった。
「うぅぅぅー!ご主人様の敵ー!」
「お前なんか、お前なんかー!」
 入り口の前で、オーク達が立ちはだかった。
 パタスは無言で左手をかざす。
「うっ」
「うぅ……」
 それだけで、彼女達はじりじりと後ずさった。
 彼の左手からは、鈍感な彼女達でも分かるくらいの強烈な威圧感を感じた。
 怖い、恐ろしい。
「やめろお前らぁ!通してやれ……」
 うつ伏せに寝転がっていたベイブは、何とかそれだけを叫んだ。
 冷や汗をかいていた彼女達は、心配そうに彼を一瞥すると、素直にパタスの両側に退いた。
 彼女達が戦意を失ったことを確認すると、パタスは左手を下ろし、洞窟の奥へ歩いていった。
 しばらくすると、彼は左手にメロウの涙を持って洞窟から出てきた。
「くそぅ……勝手に持って行け!この野郎……」
 ベイブは呻いた。
「ああ、勝手に持って行かせてもらう」
 パタスは手に宝石を持ったまま、彼のそばにしゃがみこんだ。
「何の用だ……さっさと村に戻れよ……」
「お前に言っておきたいことがある」
 ベイブは目を開き、重い頭を何とかパタスの方へ向けた。
「何だよ、言いたいことって……」
「私は冒険者ギルドの中では弱い方だ。だから、これ以上暴れると、お前は確実にギルドの仲間に殺される。だから、さっさと足を洗った方がいい。今までお前が殺されなかったのは、お前らが盗賊としては珍しく、一人も殺してこなかったからだ。お前は優しい。こんな仕事は向いていない。虚勢を張るのはもう疲れただろう。これ以上悪いことを続けて、彼女達を危険に晒すのはやめた方がいい。まあ、ただの老婆心だ。今後どうするかは、お前らが決めるといい」
 長々と独り言のようにしゃべると、パタスは立ち上がり、山を降って行った。
「ご主人様ぁぁぁぁぁ!」
 パタスの姿が見えなくなると、洞窟から五人のオークがベイブのもとへ駆け寄ってきた。
「大丈夫ですかぁ?」
「うわぁん!しっかりしてくださいよぉー!」
「今、魔力を送ってあげますからね!」
「ほら、仰向けになってくださいぃ」
 そう言って、彼女達は順番に彼に口付けをして、魔力を少しずつ注入した。

「新聞でーす」
 村の一角、ぼろい看板に「秘宝館」と書かれた小屋。
 新聞を受け取ったパタスは、早速一面から読み始める。
「ベイブ質屋大躍進」
 一面の見出しにはこう書かれていた。
 見知った名前を発見したので、詳細を読み進める。
「皆さんは、最近売り上げを伸ばしている『ベイブ質屋』をご存知だろうか。ベイブといえば、かつて大陸中で恐れられていた大盗賊であるが、何と彼は盗賊業から足を洗い、その目利きの能力を生かして質屋を始めたのである。いきなり足を洗ったと言われても、信用できるわけがないとお思いであろう。しかし、目利きの腕は確かで接客も誠実。依頼があれば大陸のどこに住んでいようがすぐに駆けつけてくれる。おまけにアシスタントのオークちゃんがみんな可愛い。不要な物があったり、お金に困っている時は、一度彼らに依頼してみるのもいいだろう……」
11/06/26 04:16更新 / 川村人志

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バトル描写が難しい

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